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ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


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第26話「好きな子にあげる日なら、俺もあげる側じゃん。」

一月三日。

凛と初詣に行った。


参拝の列は鳥居の外まで続いていたけれど、隣に凛がいるだけで、待ち時間もそれほど退屈ではなかった。


「凛ちゃん、何お願いするの?」


「まだお参りしてないよ。」


「俺は決まってる。」


「就活?」


「凛ちゃんと今年もいっぱい会えますように。」


凛は俺を見上げた。


「それは二人で予定を合わせればいいと思う。」


「神様にも手伝ってもらおうよ。」


「神様も忙しいんじゃない?」


新年から、もっともだった。


順番が来て、二人で並んで手を合わせた。

今年も、その先も一緒にいられますように。

ついでに、就職もちゃんと決まりますように。


参拝を終えたあと、凛に何を願ったのか聞いた。


「今年も、みんな元気で過ごせますように。」


「俺は?」


「みんなに入ってるよ。」


「特別枠ないの?」


「……来年も、夏樹くんと二人でお参りに来られますようにって。」


俺は足を止めた。


「それ、先に言って。」


「立ち止まると後ろの人の邪魔になるよ。」


袖を引かれ、慌てて歩き出した。

今年も凛には勝てそうになかった。


一月は試験とレポートで過ぎていき、春休みに入ると、説明会の案内が増え始めた。



二月十四日。

就活講座のために大学へ行った俺は、帰る頃には紙袋を二つ持っていた。


「佐藤くん、これも。彼女いるの知ってるから、気にしないで。」


「ありがと。」


講座で一緒だった子から小さな箱を受け取ると、隣の田中が紙袋をのぞいた。


「また増えたのか。」


前日はバイト先でも、サークルの知り合いからも、もらっていた。

毎年のことではあったけれど、今年は彼女がいると、会う人のほとんどに話していた。


指輪だってつけていた。


「『義理だから』とか『いつもありがと』って。」


「全部が全部、そうとも限らないだろ。」


「彼女いるって言ってるよ。」


「それで諦める人ばかりじゃないってこと。」


俺は紙袋を見下ろした。

受け取るときには礼を言ったけれど、その先を期待されても困った。


「小川は?」


「詩織からもらう。」


「まだもらってないのに、落ち着いてんな。」


「会う約束してるから。」


俺も凛と約束していた。

でも、チョコをもらえるとは言われていなかった。


「凛ちゃん、用意してるかな。」


「お前、それだけもらってまだ気になるのか。」


「これは凛ちゃんのじゃないじゃん。」


田中は何か言いかけて、やめた。




待ち合わせ場所に来た凛は、俺の顔より先に紙袋を見た。


「……すごいね。」


「チョコ。」


「それは分かるよ。」


凛は袋からのぞいたリボンに視線を落とした。


「みんな、彼女がいることは知ってるんだよね。」


「知ってる。凛ちゃんの話、してるし。」


「それでも、こんなにもらうんだ。」


「義理だって。」


「全部?」


さっき田中にも似たことを言われた。

俺が黙ると、凛は小さく息をついた。


「夏樹くんは、誰にでも話しかけるからね。」


「……嫌だった?」


「少し複雑ではあるよ。」


予想していなかった答えに、俺は凛を見た。


「凛ちゃんも、そういうの気にするんだ。」


「気にしない人だと思ってた?」


「俺のこと信用してるから、平気なのかと。」


「信用してるのと、何も感じないのは別だよ。」


俺は紙袋を持ち直した。

凛が誰かからプレゼントをもらったら、自分なら間違いなく気にした。


「そっか。ごめん。」


「謝ってほしいわけじゃないけど。」


凛はそう言ってから、俺のもう一つの手元を見た。


「そっちもチョコ?」


「これは違う。凛ちゃんの。」


「……私?」


駅近くのカフェに入り、注文を済ませてから、その袋を渡した。


中には小さな花束と、チョコレートの箱。

凛が前に、ショーケースの前で足を止めていた店のものだった。


「夏樹くんも用意してたの?」


「うん。海外だと、男からもプレゼントするんだって。」


「よく知ってたね。」


「凛ちゃんに何あげようか調べてたら、出てきた。」


凛は箱の店名を見て、目を丸くした。


「ここ、覚えてたんだ。」


「食べてみたいって言ってたじゃん。」


「でも、並んだでしょ?」


「ちょっとだけ。」


本当は、ちょっとではなかった。

けれど、それを言うと気を遣われそうだった。


「好きな子にあげる日なら、俺もあげる側じゃん。」


凛は花束と箱を見ていた。

それから、さっきよりずっと柔らかい顔で笑った。


挿絵(By みてみん)


「……ありがとう。嬉しい。」


並んだ時間のことは、それだけでどうでもよくなった。


凛も鞄から小さな包みを取り出した。


「私からも。」


「あるの?」


「今日会う約束をしたの、そのためでもあるよ。」


俺は両手で受け取った。


「開けていい?」


凛がうなずいたので、リボンをほどいた。

中には、四角く切られたチョコレートの焼き菓子が並んでいた。


「ブラウニー。口に合うか分からないけど。」


「作ってくれたの?」


「うん。」


「俺のために?」


「ほかに誰に渡すの。」


嬉しくて、箱と凛を何度も見た。


さっきまで、もらえるかどうか気にしていたくせに、今度はもらったあとに何を言えばいいのか分からなくなった。


「……すごい嬉しい。」


ようやくそれだけ言うと、凛が少し視線を落とした。


「そんなに喜ぶとは思わなかった。」


「喜ぶでしょ。」


「たくさんもらってたから。」


「凛ちゃんからは、これが初めてじゃん。」


凛が顔を上げた。


「来年も欲しい。」


「まだ食べてないよ。」


「再来年も。」


「まず今年のを食べてからにして。」


俺は笑って、箱を閉じた。

家でちゃんと味わって食べようと思った。


帰り際、次に会う日を決めようと、二人で予定を確認した。


「この日は?」


「説明会があるよ。次の土曜は?」


「俺、その日講座入れた。」


すぐに決まると思っていた予定が、なかなか合わなかった。

来年のチョコをねだるより先に、来週会える日を探さなければならなかった。


それでも、向かいで手帳をめくる凛の横には、俺が贈った花束があった。



帰宅して食べたブラウニーは、甘くて、少しだけほろ苦かった。

一つ食べるたび、箱の中が寂しくなった。


『おいしい。もう一個食べたいけど、減るのが嫌だ』


凛からの返事は、すぐに来た。


『食べて。なくなったら、また作るから』


俺はそのメッセージを読み返してから、安心して二つ目に手を伸ばした。



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