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ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


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第22話「夏樹くん。 」


付き合い始めて、三日が経った。


とはいっても、何かが劇的に変わったわけじゃなかった。

大学で会えば一緒に昼飯を食うし、講義が終われば連絡する。

今までとほとんど同じだった。


違うのは――。


「凛ちゃん。」


「なんですか。」


「俺ら、付き合ってるんだよな。」


「三日前から何回確認するんですか。」


「だって、まだ信じらんない。」


俺の隣を歩いていた凛が、呆れたようにこっちを見た。


九月も終わりに近づいていたけど、夕方はまだ少し暑かった。

大学を出て、駅へ向かう道。

今日は美奈も詩織ちゃんもいない。


二人きりだった。


「凛ちゃん。」


「なんですか。」


「手、つないでいい?」


凛が俺を見上げた。


「花火大会では勝手につないだのに、今日は聞くんですね。」


「だってあの時は、はぐれそうだったし。」


「今日は?」


「彼女だからつなぎたい。」


「……そうですか。」


凛が手を差し出した。

俺はすぐにその手を握った。


小さい。


花火大会の時も思ったけど、俺の手の中にすっぽり収まる。


「凛ちゃん、手ちっちゃいね。」


「今さらですか。」


「身長百五十だもんな。」


「関係あります?」


「たぶん。」


「適当ですね。」


そんな会話をしながら歩いていたけど。

俺はさっきから、別のことを考えていた。


付き合った。

手もつないだ。

だったら、その次は。


駅が近づいて、人通りが増える前に足を止めた。


「凛ちゃん。」


「はい。」


「キスしていい?」


凛が止まった。

数秒、俺の顔をじっと見る。


「……そういうことは聞くんですね。」


「え?」


「今まで散々、私の都合を無視して距離を詰めてきたのに。」


「いや、だって。」


さすがにそれとこれとは違う。


「身体的接触には相手の同意が必要だろ。」


言ってから、自分でも違和感があった。


「……なんか俺、凛ちゃんみたいなこと言ってる。」


「私も今、思いました。」


凛の口元が少し緩んだ。


「で?」


「何がですか。」


「返事。」


凛は少しだけ視線を逸らした。

それから。


「……いいですよ。」


その瞬間、急に緊張した。

今まで、キスなんて何度もしたことがある。

なのに、凛を前にするとどうすればいいのか分からなくなった。

少しかがんで、ゆっくり顔を近づける。


凛が目を閉じた。


俺も目を閉じて、ほんの一瞬だけ唇を重ねた。


挿絵(By みてみん)


離れる。


「……。」


「……。」


なんだこれ。


心臓、うるさ。


「俺、今までキスでこんな緊張したことないかも。」


「それ、今まで付き合った人たちにかなり失礼ですよ。」


「だって凛ちゃんのほうが好きだし。」


「そういうところですよ。」


凛は呆れたように言った。


でも、少しだけ頬が赤かった。


それを見たら、また嬉しくなった。


「あ、そうだ。」


「なんですか。」


「もう付き合ったんだし、敬語やめない?」


前にも一度、同じことを言った。

あの時は、あっさり断られた。


俺と凛はあまり親しくないから、敬語がちょうどいいって。


凛は少し考えてから、俺を見た。


「前にも言いましたよね。」


「うん。断られた。」


「覚えてるんですね。」


「凛ちゃんに言われたこと、結構覚えてるよ。」


「そう。」


俺は足を止めた。


「……え?」


「何?」


「今、敬語じゃなかった。」


凛が少し笑った。


「付き合ったんだから、もういいかなと思って。」


「マジで?」


「うん。」


たったそれだけなのに、すげえ嬉しい。


「もう一回なんか言って。」


「嫌。」


「なんで?」


「面倒くさいから。」


「すげえ。凛ちゃんが俺にタメ口使ってる。」


「そんなに?」


「だってずっと敬語だったじゃん。」


凛は少し考えるように俺を見た。


「じゃあ。」


「ん?」


「名前も、夏樹くんにするね。」


固まった。


「……もう一回。」


「嫌。」


「お願い。」


「夏樹くん。」


やばい。


「もう一回。」


「調子に乗らないで。」


「一生聞ける。」


「私は一生言わない。」


「じゃあ明日は?」


「言わない。」


「今日だけ!?」


凛は俺の手を握ったまま、少しだけ笑った。


「夏樹くん。」


もう一度呼ばれて、また顔がにやける。


「やば。めっちゃ嬉しい。」


「大げさ。」


「だって、夏樹くんだよ?」


「自分で言ってどうするの。」


呆れたように言いながら、凛は手を離さなかった。

キスしたことも嬉しかった。

付き合えたことなんて、今でも信じられないくらい嬉しい。


でも。


凛の口から初めて聞いた俺の名前は、それとはまた違うくらい嬉しかった。

今までは、ずっと俺からだった。


俺から話しかけて。

俺から誘って。

俺から好きになって。


ずっと俺が凛を追いかけてた。


でも、「夏樹くん」は俺が頼んだんじゃない。


凛が自分から、一歩こっちに来てくれた。


そりゃ、嬉しいに決まってる。


「凛ちゃん。」


「何?」


「俺、今めっちゃ嬉しい。」


「……そう。」


つないだ手を、少しだけ握り返された。

それだけで、また嬉しくなった。




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