↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/45

第17話「本当は、二人で出かけたかった。」

八月十六日。

外は立っているだけで汗が出るくらい暑かった。

せっかく六人で集まることになったものの、こんな日に外を歩き回る気にはならない。


「暑いし、室内で遊べるところにしようぜ。」


俺の一言で、その日はカラオケへ行くことになった。

案内されたのは、六人で使うには少し広めの部屋だった。


扉に近いソファに田中、俺、凛。

向かい側に小川、詩織、美奈が座った。


俺の隣に凛がいた。

それだけで、今日は当たりの日だった。


最初の一時間は、田中と美奈が中心になって歌っていた。

小川は詩織と選曲画面を眺め、凛は美奈と話している。


凛ちゃんが隣にいるのに、全然俺と喋ってくれない。

近くに座れただけで嬉しかったはずなのに、だんだん物足りなくなってきた。

田中が歌っている途中、詩織がふと思い出したように美奈へ聞いた。


「美奈、彼氏、お盆だし休みじゃないの?」


「休みだよ。」


「私たちと一緒にいて平気?」


凛も不思議そうに尋ねた。


「平気平気。」


俺はテーブルに身を乗り出して美奈に大きい声で聞いた。


「え?美奈って彼氏いんの?」


その瞬間、隣で歌っていた田中が盛大に音を外した。


「田中、今のやば。」


「お前が急にでかい声出すからだろ。」


田中に睨まれたが、俺は美奈へ視線を戻した。


「いるよ?夏休み前に付き合った。」


「初耳なんだけど。」


「夏樹には言ってないよ。」


「なんで?どんなやつ?写真見せてよ。」


「ほら、そういうところ。」


美奈は呆れながらも、スマホに入っていた写真を見せてくれた。


写っていたのは、俺たちより少し年上に見える男だった。

髪も服もきっちり整えていて、いかにも女に慣れていそうだった。


「三つ上の社会人。合コンで知り合ったの。」


「合コンかよ。うわ、女遊びしてそう。」


「そういうこと言うから、言わなかったの。」


田中が歌い終わり、マイクをテーブルへ置いた。


「でも、今日休みなのに、会わなくていいの?」


「うーん。なんか、全然連絡よこさないんだよね。」


「ほら。」


俺が言うと、美奈が嫌そうに顔をしかめた。


「うざい。そんなんじゃないって。仕事が忙しいみたい。」


「仕事が忙しいとか、絶対嘘じゃん。」


「夏樹、うるさい。」


「だって、休みなのに連絡もしないんだろ?それ彼女いる意味あんの?」


隣から冷たい視線を感じた。


「佐藤くんのそういうところ、軽蔑します。」


「反省します。」


「早。」


向かいに座っていた小川が、ぼそっと言った。

凛に軽蔑されるくらいなら、知らない男の心配なんてしなければよかった。


しばらくして飲み物がなくなり、俺と田中はドリンクバーへ向かった。

二人でグラスに飲み物を入れていると、少し遅れて美奈も部屋から出てきた。


「なに。二人で私の彼氏の悪口大会?」


「夏樹と一緒にすんなよ。」


田中は美奈の持っていたグラスを受け取ると、代わりに飲み物を入れ始めた。


「太田って、我慢して平気なふりするタイプ?」


「なにそれ。」


「いや。寂しいなら、寂しいって言えばいいのにと思って。」


美奈は少し驚いたように田中を見たあと、ふっと笑った。


「田中って、彼女できたら彼女に甘そうだね。」


「そうか?」


「絶対甘いよ。」


俺は隣から田中の顔を覗き込んだ。


「田中、いつも俺には厳しいのに。」


「お前に甘くする理由がない。」


「友達じゃん。」


「お前がデリカシーないから、毎回注意してやってんだろ。」


「俺のお母さん?」


「違う。」


飲み物を持って部屋へ戻ると、小川と詩織と凛が、一つのスマホを覗き込んでいた。

凛が俺のいない間に小川の隣へ移動している。

たったそれだけなのに、少し気に入らなかった。


「どーしたの?」


「この辺で今日、花火大会があるらしい。」


小川がスマホの画面を見せてきた。


会場はここから電車で二駅。

花火が始まるまで、あと二時間ほどだった。


「めっちゃいいじゃん。行こうぜ。」


「今からですか?」


凛が俺を見上げた。


「今からだからいいんじゃん。せっかく六人いるんだし。」


「意味が分かりません。」


そう言いながらも、凛は反対しなかった。


カラオケでしばらく歌ってから、カラオケを出て電車に乗り、花火大会の会場へ向かった。


急に決めたので、当然、誰も浴衣なんて着ていない。

それでも会場へ近づくにつれて人が増え、屋台の明かりや祭り囃子で、十分それらしい雰囲気になっていた。


小川と詩織が並んで先を歩き、その後ろを田中と美奈が歩いていた。


凛は人混みに慣れていないのか、少し遅れていた。

俺も足を緩め、凛の隣を歩いた。


「凛ちゃん、ちゃんとついてきてる?」


「ついてきています。」


「小さいから見失いそう。」


「余計なお世話です。」


「でも、今も一回見失った。」


「佐藤くんが前しか見ていないからでしょう。」


凛の言うとおりだった。

少し目を離すと、凛の黒い髪が人の波に隠れてしまう。

前から来た集団を避けたとき、凛の姿が一瞬見えなくなった。

俺は慌てて手を伸ばし、凛の手をつかんだ。


「ちょっと、佐藤くん。」


「はぐれるから。」


「いきなりつかまないでください。」


「凛ちゃん小さいし、普通に見失う。」


「失礼ですね。離してください。」


「やだ。またはぐれるもん。」


返事を待たず、そのまま手をつないで歩き出した。

凛は不満そうに俺を見たが、手を振りほどかなかった。

人の流れが落ち着いたところで周囲を見回したが、四人の姿はなかった。

スマホを確認すると、小川から『先に場所探す』と連絡が来ていた。


「みんなとはぐれちゃったな。」


「佐藤くんが勝手に先へ進むからです。」


「凛ちゃんを見失ったからだろ。」


「それでも、急に手を引かないでください。」


怒っているような口調だったが、凛の手はまだ俺の手の中にあった。

みんなとはぐれたのに、困ったより先に、少し嬉しいと思ってしまった。


「俺さ。」


「なんですか。」


「本当は今日、二人で出かけたかった。」


凛が足を止めた。


「六人で集まろうと言ったのは、佐藤くんですよね。」


「うん。そのときは、六人で会えれば楽しいと思ってた。」


「今は違うんですか?」


「凛ちゃんが隣にいたら、もっと喋りたくなった。」


「カラオケでも十分喋りました。」


「でも、二人で喋りたくなった。」


凛が黙った。


その向こうで、最初の花火が夜空に上がった。

大きな音が響き、周りから歓声が上がる。


挿絵(By みてみん)


「欲張りですね。」


花火を見上げながら、凛が言った。


「うん。自分でもびっくりしてる。」


最初は、凛と会えればそれでよかった。


次は隣に座りたくなって、隣に座れたら俺だけを見てほしくなった。

二人きりになれたら、今度はこの時間がもっと続けばいいと思った。


俺は自分で思っていたより、ずっと欲張りだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。