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『支える王が亡くなったので、新たに仕える主を探すた めに禁術で異世界転移したのに、また禁術を極め始めてしまいました』  作者: 九賀 りんたろう


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調子にのって、でかめの魔法を使ったら豚に追いかけられました!!

 

まぶしい光と、空間がぐにゃりと歪む激しい浮遊感。

 

次の瞬間、肌を刺すような冷たい風と、青々とした草木の匂いが鼻腔をくすぐった。

 

「うっ……眩しい……」

 

私は目を開け、ゆっくりと身体を起こした。

 

見渡す限り、見たこともない巨木が立ち並ぶ深い森の中。

 

「成功……したのか?」

 

立ち上がろうとして、私は自分の違和感に固まった。

 

視界が低い。服がやけにダボダボに感じる。

 

(……待て、この感触、この視界の高さ……私は強く覚えている! レオンと初めて出会った、あの13歳のときと同じだ!)

 

水たまりを探すまでもなく、自分の幼くなった手と縮んだ背丈で直感した。

 

『マナチェンジソウル』と『オトロ・ムンド・ヴォヤージュ』の重畳発動。魔力を生命力へ還元し過ぎたせいで、肉体から魔力が減り年齢が下がったってところだろうな。

 

「まぁいい、でも試してみたいこともある」

 

私は手を天にかざし、声を張り上げた。

 

「風魔法――『タイフーーン』!」

 

直後、風が激しく回転を始め、勢いよく上空へ巻き上がっていく。周囲の木々や土煙が巨大な竜巻に吸い込まれていった。

「よし、解除! ……ふぅ、肉体は13歳。でも、中身と魔力は43年鍛え上げたそのま……」

 

――トン。

 

身体から一気に力が抜け、私の意識は真っ暗になった。

 

タッタッタッタッ――!

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」

 

荒い息遣いと、地面を激しく蹴る足音で目が覚めた。

 

ぼんやりと意識を持ち上げ、重い瞼を開ける。

 

(……走ってるのか? なんで地面がこんな間近にあるんだ……?)

 

視界に映るのは、飛ぶように後ろへ流れていく土と草木。

 

どうやら自分は、誰かの肩に米俵のように担ぎ上げられて運ばれているらしい。

 

(なぜ走ってる……?)

 

疑問を抱いた直後、背後から地鳴りのような足音と、不快な鼻鳴らしの音が響いてきた。

 

顔だけを少し動かして後ろを覗き込むと――そこには、家一軒ぶんほどもある巨大なぶたが、目を血走らせて猛追してきていた。

 

「えっ……えぇ!?」

 

思わず声を上げると、私を担いで走っていた人物がハッと息を呑んだ。

 

「おおーっ、起きたか! 話は後だ、今はとにかく逃げるぞ!!」

 

担ぎ主の声は、どこか威勢が良い。だが、どれだけ脚力に自信があろうと、私をを担いだまま巨体魔獣から逃げ切れるはずもない。走る速度はどんどん落ちていく。

 

「ヤバくないかおい、追いつかれるぞ!」

 

「はぁ、はぁ……分かってる! だが脚が限界なんだよ!」

 

「なら私を置いて逃げろ! お前一人なら少しは早く走れるだろ!」

 

もう誰も巻き込みたくないし、一人で静かに旅をしたい私としては不本意だった。だが、担ぎ主はフンと鼻を鳴らして叫び返してきた。

 

「馬鹿かお前! 子供が、倒れてて見捨てて帰ったりしたら、俺の師匠が絶対に許さねぇよ!」

 

「……不器用だけど、いい人ですね!!」

 

「あぁ!? うるせぇよ、黙って担がれてろ!」

 

粗野だが一本筋の通った言葉に、私は苦笑した。

 

(倒れて寝ていたおかげで、魔力はとりあえず最低限まで回復したな。『タイフーン』みたいな大魔法はまた倒れるから使えないが……今の身体と魔力量なら、アレくらいなら使える)

 

「……おい、ちょっと速くなるぞ。絶対に転ぶなよ」

 

「あ?」

 

私は担がれた姿勢のまま、担ぎ主の背中と自分の足元へ向けて、極小の風の術式を展開させた。


  

「風魔法――『ウィンドブースト』!」


 

瞬間、二人の背後から暴風のような推進力が炸裂した。

 

「えっ!? ……え、えええーーーっ!?」

 

叫び声すら置き去りにする超加速。

 

足が勝手に目にも留まらぬ速さで回転し、木々の間を飛ぶような速度で駆け抜けていく。

 

ほんの数秒前まで死体蹴り寸前だった巨大な豚は、気付けば地平線の彼方へ置き去りになり、姿すら見えなくなっていた――

 

「はぁ……はぁ……はぁ……! 止まった、助かった……ありがとな!」

 

私を地面に下ろした少年は、膝に手をついて肩で激しく息をついている。

 

「いや、こちらも助けてもらってありがとうございました」

 

頭を下げつつ、私は周囲の景色にそっと視線を走らせた。

 

(門の造りも、使われている石材も、私の知っているクロス王国のものとは完全に違う……『オトロ・ムンド・ヴォヤージュ』による次元転移は、間違いなく成功したみたいだな)

 

心の内で小さく確信を得ていると、少年が息を整えながら不思議そうに首を傾げてきた。

 

「それにしても、お前なんであんな場所に倒れてたんだ?」

 

「あんな場所?」

 

「知らねぇのかよ。あそこは凶暴な『フィエラポーク』の群れの住みかだぞ!」

 

(フィエラポーク……やっぱり転移成功だな。前の世界にはそんな名前の魔獣はいなかった)

 

「そうだったのか……全然知らなかったよ」

 

「知らないって……まぁ、無事だったなら良かったよ。俺はアルト。この先の街『ルークス』で冒険者をやってるんだ」

 

腰に剣を差し、皮で作られた赤い服を着た青い髪の少年――アルトはそう言って、照れくさそうに鼻の下を指で擦った。

 

「私はラント。助けてくれて感謝するよ、アルト」

私が丁寧に礼を言うと、アルトは驚いたように目を丸くした。

 

「なんだか、すごく丁寧な喋り方だな? もしかして、貴族か?」

 

「ああ、違う違う! 私はラント。た……旅人だよ」

 

「そうなのか。その年で旅人って、変わってんな」

 

「で、ちょっと聞きたいんだけど……冒険者ってなんだ?」

 

(私がいたクロス王国には『冒険者』なんて職業は存在しなかった。この世界の仕組みを知る必要があるな)

 

「えぇ!? お前、旅人なのに冒険者を知らないでよく生きてこれたな!?」

 

アルトがあまりの衝撃に声を裏返すと、私は苦笑いを浮かべた。

 

「あはは……」

 

「まぁいい。冒険者ってのは、ギルドって場所で街や村、個人からの困りごとの依頼を受けて、その報酬で生計を立てる職業のことだよ」

 

(ほう……依頼を受ければお金がもらえるのか。あてもなくこの世界に来た私にとって、お金を稼ぐ手段としてはベストだな)

 

「でも、それなら王国騎士団がいるだろ?」

 

「王国騎士団は知ってんだな。やっぱお前、実はどこかの貴族か? 王国騎士団ってのは王様や国を守るための組織だぞ。街や村のちょっとした困りごとを助けてくれるわけねぇだろ」

 

「それは……どの国でも一緒なのか?」

 

「俺が見てきた国は全部そうだったな」

 

(王国騎士団が王のためだけの組織……国民の生活を守るために騎士を動かしていたクロス王国とは、まったく構造が違うみたいだな)

 

「そうなのか……。じゃあ、冒険者にはどうやってなるんだ?」

 

「おい待て待て! お前、そもそも何歳だ?」

 

「4……あ、違う。13歳くらいだ」

 

「13歳が簡単になれるわけねぇだろ! ……まぁ、何かずば抜けた魔法とか剣術の才能があれば特別に許可されることもあるけどな」

 

(魔法……! この世界にも魔法が存在するのか。だが、私の知識や魔法がこの世界でどれくらい通用するのだろうか、まぁ魔法には少し自信がある!!)

 

「魔法なら使えるぞ」

 

「まぁ、13歳くらいなら基礎的な魔法くらい使えて当然だけど……お前は何属性が使えるんだ?」

 

「火いや、風魔法と、闇魔法が使える」

 

「ん?……『闇魔法』ってなんだ?」

 

(――しまった!)

 

私は心の中で冷や汗をかいた。闇魔法は、かつて洞窟で読み込んだ禁術を自分なりに改良して作り上げたオリジナルの技術だ。この世界に存在するはずがない。

 

(冷や汗をだらりと流しながら、必死に頭を回転させる)

 

「あ……いや! 闇魔法っていうのは……えっと、影の中に物を隠したり、光を遮って陰を作ったりする……すごく地味で珍しい属性の魔法のことだよ! 遠い故郷の地方でそう呼ばれてただけなんだ!」

 

アルトは不審そうに片眉を上げた。

 

「へぇ……影を操る魔法か? 聞いたこともねぇな。属性としては風の変種か何かか?」

 

「そ、そう! たぶんそんな感じ! 風で光を屈折させたり影を作ったりするから、地元じゃ勝手に『闇魔法』なんて大層な名前で呼んでただけなんだよ。あはは……」

 

(危ない危ない……! 禁術を元にした独自の魔法だなんて言ったら、どんなトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃない。とりあえず誤魔化せたかな……?)

 

アルトは「ふーん」と納得したのか微妙な表情を浮かべたが、ポンと手を叩いた。

 

「まあいいや! とにかく風魔法が使えて、そんな変わった手品みたいな真似ができるなら、もしかしたらギルドの『適性審査』を特別に受けさせてもらえるかもしれないぞ! 13歳でも実力があることを証明できれば、特例で仮登録させてもらえる制度があるんだ。よし、案ずるより産みが易しだ! ルークスの街に入ろうぜ!」

 

アルトは胸を張り、大股で街の大きなアーチ門へと歩き出した。私も胸を撫で下ろし、その背中を追う。

 

巨大な石造りの門をくぐると、そこには活気あふれる賑やかな街並みが広がっていた。行き交う人々、見たこともない果物が並ぶ露店、立ち上る香ばしい肉の香り――。

 

(クロス王国とは文化も建物も全然違う……本当に、別の世界に来たんだな)

 

「おいラント、置いてくぞ! まずは冒険者ギルドへ直行だ!」

 

「あ、待ってくれアルト!」

 

アルトを追いかけて奥へ進んでいくと、次第に体格がガッチリとした武具を背負う者や、動きやすさを重視した軽装や露出の多い服を着た女性など、荒々しくも独特な雰囲気を纏う人々が多くなってきた。

そんな中、アルトが大きな建物を見上げて足を止めた。

 

「ここがルークスの冒険者ギルドだ!」

 

アルトが誇らしげに指差した先には、街の中でも一際目立つ重厚な3階建ての建物が構えていた。

1階部分は分厚い石造りで、少々の衝撃や攻撃ではびくともしない頑丈な造りになっている。2階より上は深い焦げ茶色の丸太が組み上げられた「木骨造り」の重厚な様式で、壁面の中央には、交差した二本の大剣と盾が刻まれた冒険者ギルドの巨大な紋章が掲げられていた。

 

「いや、でかくねぇかここ!!」

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次回もお楽しみにお待ちください


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