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新解釈・アリとキリギリス短編小説集〜余命三ヶ月の働きアリ、キリギリスと出会う〜  作者: 地野千塩


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14/20

アリもキリギリスもお休み中

 冬の風が刺してくる。とても生きられない。やっぱり夏の間に遊んでいた罰だろうか。


「誰か、助けてくれ……」


 俺はキリギリス。冬の寒さに飢え死にしそう。雪が降ってきた。視界が真っ白だ。


「働きアリくん、俺が悪かった。どうか助けてくれ」

「嫌だね。なんで自業自得のキリギリスを助けなきゃいかんの? 自己責任でしょ」


 正論すぎて何の言葉も出てこない。


「福祉に頼れよ。なんか病院行けば診断名とかつくでしょ。全く、こっちに近寄ってくんなよ」


 しっしと追い払われた。まるで今の俺、臭いものになったみたい。


「そうか、福祉か……」


 他に頼れる場所も思いつかず、役所の福祉課という場所へ行ってみた。俺と似たようなキリギリス族も並んでいたが、車椅子や老人、いかに病気といった顔色のものも多く、キリギリス族は肩身が狭い。


 とはいえ、所持金もなく、精神障害の診断書があったため話はスムーズだった。生活保護も出て、しばらく福祉作業所に通うことになった。これどうにか寒い冬を越せそう。


「良かったですね。キリギリスさん。福祉につながればハッピーエンドかもしれません」


 役所の人にもそう言われていたし、心底ホッとした。しかしそれは束の間だった。


 福祉作業所に行っても仕事が全くない。福祉の職員には「タイムカード押したら座っているだけで良いよ」と言われたが、本当に見事に何も仕事がない。生活訓練のようなものもお遊びで、他のキリギリス族も退屈そうだった。


「ハッピーエンドじゃないのか、コレ……?」


 疑問に思い始めた時、SNSで生活保護叩きを見てしまった。生活保護受給者は全員、怠け者のキリギリス。そんな言葉。単なる言葉なのに、ぐっさりと胸を貫いてしまう。


「や、やばい。なんか仕事しなきゃ」


 焦っていた。慌てていた。とりあえず面接や履歴書も必要がないスキマバイトをいくつも掛け持ちし働き始めた。飲食店や工場、それに福祉施設の清掃などスキマバイトといっても体力仕事。毎日帰ってくる時間にはへとへとの屍状態だ。


「でも俺はずっと怠けていたし……」


 こうして無理してスキマバイトを続けていたが、収入があったため生活保護費が減らされるという。ケースワーカーにもスキマバイトはなんのスキルもつかず、本来は副業目的のアプリだから命綱にするな、もっと将来的に意味のあることをした方がいいと言われた。


「意味わからんよ……」


 そんなことを言われても、焦っていた俺はケースワーカーが言っている意味がわからない。それに働くほどに損する生活保護ってなんだろう。相変わらず作業所でも何にもなく、福祉への不信感もつのる。もしかしたら、俺は優しく丁寧に社会から隔離されているのだろうか。


 気づくともう春だ。桜の花は満開なのに、全部灰色に見えてまう。いつから俺の視界はモノクロ映画になったのだろうか。


「春は美しく〜♪ 優しく花が咲く〜♪」


 ちょうどその時だ。どこかから歌が聞こえてきた。優しいギターの音色は胸にすっと落ちた。それに声も透き通って綺麗。


 歌っているのは働きアリだった。おかしい。働きアリは

 年中勤勉に働いているのに、桜の木の下で音楽を奏でているなんて。そう、まるでキリギリス族みたい。好奇心が抑えきれず、俺はそのアリに話しかけてしまった。運良く他に誰もいない。


「俺は働きアリじゃないぞ。働かないアリだ」

「え、君は働かないアリなのか?

「あぁ。悪いかね? アリ族も多様性がある方が集団的に強いってことで俺みたいな奴もいるものだ」


 このアリ、妙なタイプだ。口調もキザっぽいし、ハードボイルド映画に出てきそうな雰囲気。確かに一般的なアリとは違う。


「へぇ。俺はキリギリス族だけど、なぜかスキマバイトしてる」

「やめとけ。スキマバイトが本業がある人が副業目的でさらっとやるもんだ。実際、どれも低賃金の肉体労働かサービス業ばかりだろ? そんなの不安定な立場でやったら病む」


 アリは断言した。さっきまでキザぽい口調だったのに。


「俺の親友も低賃金の肉体労働者だった。元々過労状態だったのに、フォークリフトの事故に巻き込まれて死んだ。なお、会社は責任を取らず、今も遺族と裁判中だ」


 声が出ない。そんな現実があるとは、想像もついていなかった。思えば焦りのあまり、近視眼的になっていたかも。今はゆっくりと空を見上げると、ちゃんと青い空やピンク色の桜の花びらが見えた。


「君も俺の親友と似たような顔をしてるぞ」


 そんなことを言われたら、反論もできない。


「明日もここに来てアリ君の音楽を聴きにきていいか?」

「あぁ。俺もしばらく休んでるよ。今は休む時さ。うん」


 毎日、アリの音楽を聴くに行くようになった。スキマバイトも辞めてしまった。福祉作業所も。もっとも福祉作業所は事業者が補助金を不正に得ていたことが発覚し、辞めざるおえなかっただけだが。


「アリくん、福祉作業所も辞めてきた」

「そうか、そうか。ま、とりあえずは良いんじゃないかね?」


 相変わらずアリの口調はキザっぽい。


「今は休む時さ」


 でもその声は優しく、視界が滲んできた。桜の花びらの色も空の色もよく見えない。


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