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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第8章 マッドは厄介事の代名詞
99/103

■■■ Step076 闇と罪の後始末は、結局マッドな方向へ

エルセリアには夕刻に到着した。


取り急ぎ砦に戻るとカリナとキャリー、セミア、レミが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ!タニア様!お兄様!!カラーお姉様!!」

「お帰りなさいませ!タニア様!お兄様!!カラーお姉様!!」


元気な二人に癒されるな。


「出迎えありがとう。二人とも、今日はどうだった?」

「はい!大丈夫です!それよりも...エルゼが...自分の力だけで立ったんです!!」

「立ったんです!!」

「なに!?それは本当か!?」


既に筋力は付いていたんだ。あとはバランス感覚が戻るだけだったんだが、やっとか!いや、めでたい!!


「はい。今は疲れてベッドで寝ていますけど、『もう少しで歩ける!』と言ってやる気になっています」

「まぁ、こういうのは急いでもダメだからな。ゆっくり着実にしないとな」

「それ、ユリお姉様も言ってました」

「だろうね。で、ユリは?」

「もう戻ったわ。エルゼには『今日の訓練は終わり。ちゃんと休まないと明日は立てなくなるわよ』って言っていたわ」


キャリーが補足してくれる。


「なるほどな。無理な訓練は逆に身体を壊すって事だな」

「そうなのですか?」

「今のエルゼの身体は立ち上がるまでって事なんだろう。それ以上は身体が持たない。だから、無理をせず休ませるって事だ。それに、身体を休ませる事で今の能力が身体に根付く事になる。休む事はちゃんと意味があるんだ」

「あ、『立てなくなる』ってそういう意味だったんですか?」

「たぶんね。詳しくはユリに聞かないと分からないけど、きっとそうだと思うよ」


筋肉痛になったりすると、大変だからな。もっとも、当初は軽い筋肉痛になっていたが...。


「ユリお姉様、すごい!」

「ユリお姉様、すごい!」

「そうだな。今度ユリが来たら聞いてみようか」

「はい!」

「はい!」


ホント、元気が良いな。カタランスのモヤモヤが一瞬で消え失せてしまったな。


「じゃあ、エルゼの所に『おめでとう』って言いに行こうか」

「そうだな。私も褒めてやりたい」


タニアは行く気満々だな。


「タニア様、リョウ様が来たら、エルゼはそれだけで喜ぶと思いますよ」


キャリーが満面の笑顔で伝えてくれる。が、盛り過ぎだろう。


「タニアはともかく、私はそこまでではないだろう?」

「は?それ、本気で言っておられます?」

「え?...キャリーさん、なんか...ピリついてません?」


変わらない満面の笑みだが、背景が真っ黒だ。

あくまでも私のイメージだが...。


「タニア様、リョウ様には再教育が必要です」


そして、満面の笑顔のまま、タニアと相談する。

待って...お願いだから、その笑顔は止めて...。


「そうだな。先日、セミアとレミとエルゼとたっぷりお話をしていたはずなんだが...もう一回たっぷりとお話をしてもらおうか」

「待て。それって再教育になるのか?」


義理の妹たちと会話する...それはどちらかと言えばご褒美なんじゃ?


「なる」

「なります」

「私は嬉しいです!」

「私も嬉しいです!」

「念のため言っておくが、リョウが理解するまで、何度でも再教育する事になるからな」

「だから待て!お話をする事で再教育になるのか?そもそも私は何を理解すれば良いんだ?」


それはご褒美にしかならないんだが!?


「お兄様...お話...嫌なんですか...?」

「嫌ですか...?」


セミアとレミが悲しそうな顔をする。てか、なんでそうなる!?


「いや...そんな事はないぞ?私はとても嬉しいのだが...」

「だが...なんですか?リョウ様。お嫌でなければ何なのですか?」


いや、その会話に意味があるのか!?と言おうとしたが、一瞬で止める。

それはダメな返答だな。えっと、どうしよう?


「待て、キャリー。その聞き方はダメだ。リョウ、セミアとレミとエルゼ、誰が可愛い?」


さすが、タニア!聞き方を変えてくれた...が、それはそれで厳しいんですけど!?


「えっ!か...かわ...」

「えっ!あっ!かっ!」


セミアとレミが顔を真っ赤にして頬に手を当てている。

その目は...期待に満ちているぞ?いや、期待に沿う事になるけど、時間が欲しい!


「ちょっと待て!どうしてそうなる!?」

「いいから答えろ。嘘やごまかしは禁止だぞ?」


タニアの顔がにやけている。いわゆる悪い顔だ。てか、なんか久しぶりに見たな、この顔。


「あ...あのぉ...」

「お...お兄様...」


セミアとレミの顔は真っ赤だ。それも期待に満ちている表情だぞ...。


「はいはい。セミアとレミはちょっとだけ黙ってましょうね~。お兄様の声...聞きたいでしょぉ~?」

「はい!」

「はい!」


外堀埋められちゃったぞ...レミとエルゼに対して「可愛い」って言うのは抵抗が無いんだが、セミアはなぁ~...年齢だけならタニアと同じ19歳なんだぞ!?総合的に考えて言いにくいんだが...だが...ぶっちゃけ精神年齢12歳ぐらいなんだよな~...セミアって...。


「あ~...いや~...私は3人についてはみんな同じように『可愛い』って思っているぞ?そうじゃなきゃ、セミアとレミのお出迎えに癒されたり、エルゼの部屋に『おめでとう』って言いに行こうとは思わないだろう?」

「はい!とっても嬉しいです!」

「とぉ~っても!嬉しいです!!」

「あ、レミ!ずるい!!」


レミが「とぉ~っても!」と強調した事を咎めているようだが、セミアの顔は笑顔だな。


「ふっ...では、エルゼの部屋に行こうか。そして、エルゼにもリョウから『可愛い』と言って貰わなきゃだしな」


しかし、この窮地...ミフルと対峙した時よりも厳しいと思うのだが...。


この後、エルゼの部屋で私以外(タニア、キャリー、セミア、レミ、エルゼ、そしてカラー)が暴走し、夜遅くまで「お話」をした結果、なぜか全員で雑魚寝をするという事態になった。しかも、私はセミアとレミに両腕を掴まれて寝る羽目に...タニアとキャリーとエルゼが睨んでいるが、私は悪くない。

全てを諦めて、戦場で獲得した強制睡眠の技を繰り出し、落ちるように寝た。


翌朝...部屋に入って来たユリの機嫌が一日悪かった事を述べておく...。



「で、この猛々しい雰囲気はいつもの事なのですかな?」


その日の昼前に黒梟の4名が到着した。


部屋の中には当事者になるカリナと、部屋の主であるタニア。いつものメンバーとしてリア、ミーム、キャリー、パストング、マリア。そして、今朝から機嫌の悪いユリ。ユリの両隣には輝と葵が黙って紅茶を啜っている。あ、今日は日曜日か。


「ミルダン小隊長、お久しぶりです。今日はちょっと今朝から色々ありまして...」


カリナが上司にあたるミルダンに、挨拶と説明になってない説明をしている。


「ふむ。ま、私の仕事には関係ないな。では、副官殿、カリナ殿。早速仕事の内容を説明していただけますか?」

「え?ちょっと小隊長?」


上司から「カリナ殿」と呼ばれたカリナがめっちゃ焦っている。

ま、気持ちは分かるが今はそれどころではない。


「あ~...すまないが、ちょっと場所を変えさせてもらうぞ?」


今回の職場はここではないのだ!


「なんだリョウ。逃げるのか?」

「違う!諜報関係の話をしないとダメだからだ!」

「私にも秘密なのか?」

「いや、タニアには話しても問題はないが...一緒に来るか?」


どうせ後で説明はしなければならないからな。


「う~ん...まだ書類の確認があるからな。後で説明してもらおうか」

「分かった。じゃあ黒梟の皆さんはついて来て下さい。仕事場に案内します」


ふぅ~...とりあえず脱出...いや、職場への移動が成功。

朝食後からかなり気まずい雰囲気だったんだよな...っていうか、私は巻き込まれただけだから悪くないはずなんだけどな...ユリは何を怒っているんだ?



カラーとカリナ、そして黒梟の4名を連れて5階に移動する。


砦の本邸は北を上に見立ててL字型に建てられていて、Lの書き出し部の1階には女性用のお風呂が設置されている。反対の書き終わり部の隣に物見の塔が建てられている。

本邸と物見の塔は2階部分が渡り廊下で繋がっており、以前は兵士が監視の為に塔に登っていた。


今は、超望遠レンズ付きの監視カメラを5台設置しており、Mk.1アイボール(肉眼)での監視は少なくなった。


そして、諜報部隊...所属はカリナだけなのだが、部隊の部屋は本邸5階のL字書き終わり部の末端にあるのだ。


「さて、改めてよく来てくれました。私がタニアの副官、リョウ・カダヤです」

「改めまして、黒梟からミルダン・サヴァート、以下3名。ニアラブ様のご命令により、エルセリアに着任致します」


ま、名前は後で確認するとして、業務を進めるか。


「ニアラブ様からは何と聞いてますか?」

「私たちに丁寧な言葉遣いは不要です。ニアラブ様からは『副官の命令に従え』とだけ」


なんでそれだけやねん...。


「いや、状況的な話はなかったの?」

「クラスタンプから3人一組で3組がエルセリアに向かって来ているとだけ」

「あ、その説明はあったのね」

「リョウ様、事前説明は必ずキチンとされますよ」


と、カリナから補足が入った。

その割には「副官の命令に従え」はどういう事だよ。


ま、いいか。


「確かに...諜報部隊だもんな。これは失礼した」

「いえ。それよりも、現状はどういう状況か教えていただければ...」


意外とせっかちだな。だが、仕事が早いのは助かるかな。


「そうだな。カリナ、今の映像を出してくれ」

「はい。千里眼からの映像です」


壁に設置した大型ディスプレイにスパイ衛星「千里眼」からの映像が映る。

瞬間、小さく感嘆の声が黒梟のメンバーから漏れるが、それだけだ。


なんかちょっと寂しい。


「現在、3組とも国境を越えております。今日中にはコープルに到着するかと...」

「なるほど。で、何か対策をされておられますかな?」


カリナの説明にミルダンがすかさず質問を返してくる。


「いや?今のところは何も」

「は?ここまで分かっておきながら、何もしていないのですか!?」

「あぁ。何もしてない。監視だけだな」

「なぜですか?」


ま、その質問は当然だな。が、ちゃんと理由はあるんだよ。


「今回の3組は武装しているが、見た目は冒険者風だ。『クラスタンプから来たが、変わった話を聞いた』とでも言って、先日の先遣隊との戦闘について探るつもりだと思う」

「その理由は?」

「最近まで放置していたんだが、この砦にはクラスタンプ...というか、テキナの諜報員が残っていてね。その諜報員が定期的にこの砦の情報をクラスタンプのテキナに流していたんだ。だからこちらの情勢については、テキナを通してクラスタンプは承知しているんだ。だが、先遣隊が全滅した件については、『どうやって全滅したか』は誰も知らないんだ」


だって誰にも、タニアにさえも説明していないからな。


「誰も知らない?副官殿が全滅させたのですよね?」

「そうだ。そして、『どうやって』についてはタニアも知らない。知っているのは私と同行したカラーだけだ」

「...なるほど...1000人を超える兵士が全滅するような事はかなり異常な出来事。クラスタンプとしては、そこを解明しなければ簡単に攻めて来れないという事ですか...」


私でも、そんな危険な事が残っていれば徹底的に調べるぞ。


「で、コープル村の住人は当時エルセリアで保護している。当然、何も知らない」

「コープル村の住人も、そもそも情報を持っていないので放置...という訳ですか...」

「一応、現地の騎士たちには『クラスタンプから来た人間には注意を払うように』とは伝えてある。それだけで十分だ。そもそもクラスタンプから来た者を、あの村は歓迎しない」

「まぁ、そうでしょうな...一時的に避難させられたのですからな」

「それもある。が、人道的な問題でな。そこはカリナから聞いてくれ。私が話すと怒りが抑えきれなくなるんでな」


セミアとレミ以外の奴隷の女の子たち9名は、クラスタンプ兵が逃げる際に全て殺されていた。

恐らく、私が赤竜の映像を霧に映した為、餌にして引き付ける為に心臓を一突きされたのだ。クラスタンプ兵を追い出すための作戦が、彼女たちの命を奪ったのだ。悔やんでも悔やみきれない...。


火葬に付した後の片づけについては、コープル村の住人にお願いしておいた。

村長からは、村の墓地に丁重に納めたと連絡があったな。


ともかく、クラスタンプの奴等が動くと不幸な事が増える。今後下手に動いてもらわない事が一番良いのだ。


「承知しました。ともかく、クラスタンプの諜報員がそろそろコープルに入るという事ですが...そもそも、この場に居ながらここまで監視出来るのであれば、我々は不要なのではないのですか?」

「監視するだけならそうだろうな。だが、今回は奴等に嘘の情報を握らせて、簡単にエルセリアに攻め込めない様にしたいんだ」

「ほう...面白そうですな」


と、ミルダンの口の端が少し上がる。本当に面白そうだと思ったようだな。


「だろう?具体的にはどういう情報を握らせるかは決まってない。監視範囲が広いとか、諜報員が優秀だとか、恐ろしい武器を持っているだとか、何でもいいから、クラスタンプが躊躇するような情報を提供したいんだよ」

「コープル村で情報収集して、引き返す可能性がありますが?」

「それならそれでいい。何もないのが一番だよ」


ミルダンたちには悪いが、それが一番楽だし、本当にそうなる事を願っているんだよな。

だが、そうはならないだろう。せっかく人を派遣したんだ。クラスタンプとしては、最大限の結果が欲しいだろうな。


「そうなったら我々が来た事が無駄ですな」

「そうでもないだろ?このエルセリアの諜報能力をその目で確認出来るんだ。収穫は大きいと思うがね?」

「敵いませんな...」


ミルダンが苦笑いをする。元々、このエルセリアの諜報能力を確認するつもりもあったのだろう。


「予想では、諜報部隊は今から三日後ぐらいにはエルセリアに入るだろう。それまでに与える情報の整理と、ここの機器の使い方を覚えてもらいたい」

「機器...このごちゃごちゃしているものをですか?三日で可能でしょうか?」

「細かいものは私がするので大丈夫だ。君たちに使い方を覚えて欲しいのは、このドローンの操作方法だ」


と言いながら、コントローラーを操作して、プロペラ部を含め30cm四方の大きさのドローンを部屋の中に浮上させた。


「これが...ドローンですか...」

「そうだ。これには目が付いていて、このようにドローンの目から見たものを見る事が出来るんだ」


と、さっきまで千里眼の映像を映していたディスプレイに、ドローンからの映像を映し出す。


「こ...これは...恐ろしいですな...」


ミルダンが驚愕の表情になっている。

他の隊員も驚いているが、見る限り、単に驚いているだけのようだ。


しかし、さすがミルダン。情報に精通している黒梟の小隊長だな。

この世界では、千里眼も恐ろしいだろうが、ドローンの方がもっと恐ろしいだろう。


昨日のミフルが町長の屋敷で話をしていた内容も、ドローンの機能で聞く事が出来たりする。これほど情報収集に便利な、そして警戒すべきものは無いだろう。


「知っての通り、諜報活動は危険であり、非情なものでもある。このドローンはこちらの身を守る事にもなるが、転じて相手の安全も確保出来る。最終的には倒す相手ではあるかも知れないが、穏便に物事を進める事も出来るはずだ。だから、君たちにはこのドローンを使う事で、少なくともこのエルセリアでは安全に事を進めてくれ。もう一度言うが、今回は相手を無事にクラスタンプに送り返すのが目的だからな」

「敵を無事に送り返す...ですか...面白い...面白いですな!ぜひ、我々にお任せください!」


やる気になってくれたようだ。有難い。


「興味が出たようで良かったよ。じゃあ、早速ドローンの使い方についてだが、カリナ先生に教わってくれ」

「え?私!?」

「カリナ先生!よろしくお願いします!!」

「「「よろしくお願いします!!」」」


案外黒梟のメンバーは楽しい人たちの集まりなのかもしれないな。これはなかなか楽しいかも?


「え?せ...先生!?ちょっ...ミルダン小隊長!キール先輩!私...!」

「先生、時間がありません。早速手取り足取り教えていただければ」

「え?あ~...もう!!」


こうして、カリナを講師にしてのドローンの講習会は始まった。

あ、カラーは校長なんだそう...。どこで覚えた?その「校長」っていう言葉...。



さて、クラスタンプの諜報員たちは暗くなる前にコープルに到着した。

どうやら、道中の戦場跡を調査しながら移動していたようだ。


コープルから国境までの間には、まだあちこちに兵士の骸が転がっている。銃弾に撃ち抜かれた傷は残っているが、この世界には銃そのものがない。傷を見れば何かに貫かれた事は分かっても、何を使ったのかまでは分からないだろう。

ミフルがクラスタンプに戻れば分かってしまうかもだが、まだカタランスだし、七日後...いや、今からだと六日後だな。船で逃亡するという事だから、そこを取り押さえれば良い。


そういや、ミフルの事もあったな。あとでパストングに話をして人員をカタランスに派遣してもらおう。



まだ空気が悪いかも、と思いつつタニアの執務室に戻る。空気が悪くても仕事はしなきゃだからな...。


部屋に入るとタニアとリア、ミーム、パストング、マリアが居たが、他のメンバーはいなかった。ユリがいないのは助かるな...。


「リョウ、戻って来たのか。黒梟の方は良いのか?」

「あぁ、カリナに任せてきた」

「リョウが部屋を出てから思い出したのだが、クラスタンプから諜報員が来てるんだったよな。その対応なんだろう?」


あ~、そう言えばそういう話はしていたな。


「そうだ。3人一組で3組らしいからな。カリナだけでは手に余るので、ニアラブ様が4人派遣してくれたんだ」

「で、カリナに後は任せる感じか?」

「カリナも黒梟だからな。大枠の方針を指示しておけば、後は上手にやってくれるだろう」

「ま、カリナにも色々と覚えてもらわなきゃだものな。悪いがそっちは任せるぞ」

「任せろ」


それを聞いてタニアは微笑み、手元の書類に目を戻す。


「そうだ、パストングにはカタランスの件をまだ話してなかったな」

「一応、私の方からは簡単に話をしておいたぞ?」

「ありがとう。朝はちょっとバタバタしてたからなぁ...」


とタニアがうっすらと笑う。いや嗤うだな...。


「いえ。大丈夫ですよ。もう慣れましたから」


そしてパストングも嗤った...。


「それこそ、すまねぇ...」


後ろめたさを感じつつ、パストングにカタランスの状況を説明する。


「なるほど...非常に困った状況になっていますね」

「あぁ。町長がここまで腐っているとは思わなかった。カリナからニアラブ様に、この事を報告してもらっているので、証拠が揃ったら町長は正式に処分されるんじゃないかな」

「そうですね。六日後ですか...兵を200名ほど前日に行かせましょうか?」


それは良い考えだが、前日はちょっとどうだろうか...。


「いやぁ~...それだと警戒されちゃうから、早めに兵士を送ってくれない?今だと今回の視察での兵士増強だと勘違いしてくれるだろうし」

「なるほど、分かりました。早速手配しましょう。私は行かなくてもいいのですか?」

「パストングはエルセリアを頼む」

「承知しました」


パストングはそう言うと、すぐに部屋を出て行った。

恐らく、明日には200名がカタランスへ向かうだろう。


「ところで、私のアラノスはまだ戻って来ないの?」


と、書類に書き込みをしていたマリアが声を掛けてきた。


「向こうの用事が終わったら戻って来るって言ってたよ?アラノスの事だから、明後日には帰って来るんじゃないか?」


カタランスは約30kmの距離だ。馬なら1日で移動出来るだろう。


「話を聞いてたけど、アラノスには危険は無いのよね?」

「アラノスは騎士なんだから、全く危険が無いわけじゃないぞ?だが、私ほど危険な立場じゃない。表立って動いてくれたのは町長屋敷に行った時ぐらいだからな。基本的には大丈夫だと思うよ」


1人の騎士より、領主や副官の方が危険だろうし、一緒に同席していた騎士には目が行かないだろう。


「それなら良いのよ。もう、出張とかは無いわよね?」

「それは約束できない。今回の件でアラノスは優秀だと感じたからな」

「どういう事よ?」


アラノスを褒められて、少し嬉しそうだけど、大半は困った顔になっているな。


「カタランスから戻って報告を聞いてからの判断だけどな。状況整理ができて、報告もしっかりしているようなら、今後は現地調査を任せる事がちょいちょいあると思う」

「え~!!やだぁ~!!」


盛大に駄々をこねるマリア。アラノスが心配なのか、単に離れるのが嫌なのか、分からないな。だが、恐らく後者だろう。


「気持ちは分かるが、アラノス君は騎士なの。仕事をしてもらわなきゃだからね」

「それ、私も付いて行っていい?」

「ダメ。騎士が恋人付きで行くなんてダメだし、きっとアラノス君もダメって言うよ?」

「ぶぅ~...リョウはタニアやカラーを連れて行っているのに?」


タニアも私もカラーも、それぞれが仕事として動いているんだよ!!


「あのね...タニアは仕事で行くの。カラーは私の護衛だからね」

「じゃあ、仕事なら良いのね?」

「仕事なら良いよ。仕事ならね」

「じゃあ、仕事頂戴!」


そんな簡単に仕事なんてある訳ないだろ!!


「あのねぇ...って、いや...カタランスの帳簿を確認してもらう仕事があるな...」

「本当!?」

「あぁ。町長の件で決着が着いたら、色々と調査しなきゃなんだよ。その時はアラノス君と一緒にカタランスに行ってもらう事になると思うよ」

「聞いたからね?言質取ったからね?」


マリアがすごく嬉しそうな顔をする。

アラノス君、マリアにとっても愛されているなぁ~...とっとと結婚すりゃいいのに。


「そこまで言わなくても大丈夫だよ。必要な事はやらなきゃだからね。その時は頼むよ」

「アラノスと一緒だったら問題ないわ!任せて!」


頼もしい。と思って良いのだろうか?ものすごく私情を含んだ「任せて」に聞こえる。


「ここの会計も頼むよ」

「大丈夫よ。エリーにも手伝ってもらっているから」

「...そうでした...」


会計の仕事は大変だ。

だから、マリアのサポートとしてエリーを付けている。

エルセリア砦管理AI「エリー」は、この本邸に居ればどこからでも会話が可能。


ちなみに、この砦に勤務している者は、人探しとかはエリーに聞いたりしているぐらいに普通に接している。

例えば、「エリー、パストング大隊長はどちらにいらっしゃいますか?」とか。


ただ、マリアの場合は数字の確認もあるので、タニアの執務室に専用の9インチディスプレイと、カメラとマイクを用意した。


PCを扱うのは難しいと判断したので、全て音声で操作し、書類を見てもらう時はカメラにかざしてもらう。訂正箇所の指示などはエリーがディスプレイに表示する、という感じだ。


収支の管理を、1人でこなすのはかなり大変だからな。

それにエリーを相手に不正は出来ない。一石二鳥という奴だ。


ともかく、マリアは最初は戸惑ったものの、あっという間にエリーを使いこなし...たのか、使われているのか、毎日楽しそうにエリーと会話している。


「あ、私にも会話できる箱、ちょうだいね?」

「え?箱?」

「箱」

「え~っと、箱って...これ?」


と、スマートフォンを取り出す。


「それは板。みんなのはもっと箱でしょ?」


あ~...タニア以下、異世界組には魔力電気変換機能が付いた、300gもの重たく厚いスマートフォンを渡しているのだ。

しかし、「箱」とは...まぁ、別に良いか。


「マリアは砦内にいるから、箱は要らないんじゃないか?」

「どうしてよ!?アラノスとおしゃべり出来ないじゃない!」


どこまでもアラノス君なんだな。微笑ましいが、そうも言ってられないぞ。


「いや、アラノス君も持ってないぞ?」

「え?なんでよ!?優秀なんでしょ?」

「『戻って来た時の報告内容で優秀と判断できるかも知れない』って言ったの。まだ優秀とは言ってないよ」


だが、現時点でも優秀だと思っているけどね。


「絶対優秀なんだから!さっさと私たち二人に渡してよ!!」

「アラノス君が優秀だったら渡すけど、マリアが優秀でなければ渡さないよ?」

「私は優秀よ!!」


そうだとは思うけどね。2人に渡すのはちょっと考えてしまうな。


「会計は得意だっていう事でお仕事お願いしているので、今はまだ優秀とは判断出来ないよ」

「なんでよ!」

「好きな事、得意な事は出来て普通だよね。優秀っていうのは、そこからもっと色々出来るというのが優秀なんだよ」

「どうしたら良いのよ!?」

「マリアの場合、数字が得意で会計をしてもらっているので、もっと効率のいいお金の使い方を考え出すとか、お金の出し入れをもっと分かりやすく、正確に出来る仕組みを考えるとか、そういう事で優秀かどうかを判断するよ」

「分かったわ!見てなさい!!エリー!一緒に考えるわよ!!」


お!AIの使い方は合っているぞ。しかし、私が鍛えたAIはちょっと違うんだよな。


「私が考えたらダメでしょう。まずはマリアが1人で考えなさい」


ほらね。エリーからはちゃんと現実的な回答が返って来た。


「え~!!いじわるぅ~!!」


騒がしいと思いつつ、タニアに一声かけて部屋を出て、自分の部屋に戻る。


実は、エリーから監視カメラの管理を外し、新しいAIを構築しようと考えているのだ。

カリナが一時的とは言え、部下を持って諜報活動をしていく事になるので、情報管理用のAIを用意しようと思いついたのだ。ついさっき。


で、部屋に戻って自分のPCを操作する。

ネット販売でタワー型ワークステーションを5台注文する。あと、ラックと周辺機器もだ。あと、防犯カメラと通信機器も購入する。

他の街にも防犯カメラを設置して、簡単に監視出来るようにしようと思うのだ。

本当はここまでする必要は考えていなかったのだが、カタランスの事もある。あ、遠隔操作用のドローンも設置するようにしよう。


あ、ついでにゲーミングチェアも10基購入しよう。

1台は本革製の高級感溢れるものにして、タニアの椅子にしよう。タニアも座り仕事が多いからな。


さて、注文は終わったが、さすがにワークステーション等はすぐに到着しないので、到着までにAIを構築しておく。

情報管理用AIとして稼働させるので、色々と情報のセキュリティーは上げないとダメだな。

今まで、「誰はどこ?」というのを普通に返答してたが、砦の兵士以外にも返答してしまう可能性がある。それこそ、入り込んだスパイにもだ。


なので、一度砦内全員の認証を取る必要があるな。てか、もっと早くにしなきゃだったな...反省...。


そうだ!思い出したぞ!砦内のスパイを対処しなきゃだったんだ。

すぐにパストングに話をしよう。この3人をカタランスに送られると面倒だからな。


すぐに板...じゃない、スマートフォンを取り出し、パストングを呼び出し、私の部屋に来てもらうように要請する。


「分かりました。すぐにお伺いしますね」


コンコン。


は?え?誰?


「はい、どうぞ」

「失礼します」


と、入って来たのはパストング。


「え?なんで?」

「丁度、タニア様の執務室に向かおうとしていたんですよ」

「な...なるほど...」


私の部屋とタニアの執務室は近いからな。


「で、何の話ですか?」

「実は、兵士の中にクラスタンプ...というか、ミフルの手の者がいるんだよ」

「え!?それは本当ですか!?」


非常に驚くパストング。そりゃそうだろうな。


「あぁ、証拠は既に押さえているんだ。裏切り者は3名。キロト・ムクスホ。コバル・ネベプット。リクトル・ダワブ」

「3名も...」

「で、この3名はカタランスには行かせないようにして欲しいんだ」

「な...なるほど...それは問題ありませんが、この3名はどうしますか?」


そうだよな。それが一番の問題だ。


「カタランスの問題ある騎士の話は知っているだろう?彼らと一緒に更生させて欲しいんだ」

「再教育...っていう事ですか?」

「そうだ。彼らは騎士なので、パストングに任せようと思うのだが...」


騎士だからな。こういう事は騎士の中で対処してもらうのが一番だろう。


「無理ですね。騎士団の方ではそのような事は前例がありません。そもそも、今回は彼らの性根の問題なので、普通に騎士剥奪しか無いですよ」

「騎士剥奪か...う~ん...そうすると、性根が曲がったまま放り出すのか...それはそれで問題だなぁ~...」


普通に犯罪者を放り出すだけになってしまうぞ。


「確かにそうですが...そもそもどうすれば良いか分かりませんよ...」

「分かった。じゃあ、私が預かろう」

「え!?副官殿がですか!?」

「性根を叩き直すという事であれば、それは修行が一番だ。その後、騎士としての再教育をしてくれ」


上手くできるかどうかは分からないが、何もしないよりもマシだろう。


「はぁ...では、副官殿の手から戻って来たら、騎士見習いからさせましょう」

「それで良いんじゃ...って、騎士見習いだったら騎士剥奪になってるんじゃ?」

「いえ、騎士の資格を持ったまま、騎士見習いをさせるという話です」

「それはそれで、普通に再教育になるんじゃ?」

「でも、性根を叩き直す事は出来ませんよ?」


そういうものなのか?騎士見習いという事は、騎士の訓練をするって事か...確かに性根を叩き直すという事はなさそうだな。


「それもそうか...ま、私の方での修行で性根を叩き直す事が出来るか分からないが...ま、やるだけやってみよう。ただ、数人人手を貸してくれ」

「何人ぐらい必要ですか?」

「そうだな...5名ほどかな?」


カタランスの裏切り者は13人で、エルセリアの裏切り者は3人。合計16人。4人一組にして、それぞれに担当者を付けて、1人は統括者とすればいいだろう。


「分かりました。それはお任せください」

「あ、条件として、性格が実直で、自分にも他人にも厳しい者を頼むよ」

「あ~...はい。しかし、そうなると結構年上の騎士になりますが?」

「問題ない」

「はぁ~...分かりました」


さて、修行メニューを考えなきゃだが、なんとかなるだろう。

基本は掃除と座禅。あとは肉体労働だな。まだお風呂は完成していないが、入浴はしてもらうようにしよう。あ、お風呂掃除と運営をしてもらうようにしようか。

あとは...考えてもらう時間を設けるか。「騎士とは」「国とは」「平和とは」「戦争とは」ぐらいをテーマにそれぞれでグループディスカッションをしてもらおうか。

別に正解が欲しい訳じゃない。「考える」事をして欲しいだけだ。最初は上辺だけの議論になるだろうが、重ねていくと色々変わって来るだろう。


あとは、監視だな。囚人という訳ではないが、騎士としてあるまじき行動をしたのだから、内外に対して見せつけなければならないな...。

これ見よがしにドローンを付けるか。ま、そこは私の領分だな。ドローンの動作テストも出来るし、特に問題はないだろう。



あれ?私が忙しくなるだけなんじゃね?

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