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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第8章 マッドは厄介事の代名詞
97/103

■■■ Step074 カタランスの暗部、恥部、そして嫌な奴

昼食は楽しい雰囲気のまま終了した。


いや、ブルフもアラノスも色々と物知りであったので、カタランスの状況についても町長の説明よりも分かりやすかった。

思えば、町長の話は自分の周りの話だけだったからな。今思えばこちらの状況把握には少々しんどい説明だったか...。


食事は終わったが、もう少し話をしようと言うことで、駐屯所に戻って来た。


広い敷地にいくつかの建物が建ち、厩舎も備えている。


このカタランスの騎士団は総勢327人だそうで、先ほどの騎士駐屯所には184人が詰めているそうだ。


国外から船でやって来る者たちも多いし、何よりも貿易港であるのでトラブルも多いのだそうだ。


港の方にも駐屯所はあるが、そちらは10人入るのがやっとの、小さな施設だそうだ。

日本で言うところの「派出所」のようなものなんだろうな。


なんで港の駐屯所が小さいのか?と聞けば、町長が派遣した役員と警護の者たちが幅を利かせているのだそう。本当にやりたい放題だったんだな。


街中にはいくつか駐屯所があるそうで、街にあるたった1つの門にも駐屯所があり、そこが2番目に大きいそうだ。

町長の屋敷の隣にも15人程度が駐屯する施設があるらしい。そこは問答無用で閉鎖だな。


「それぞれの駐屯所には小隊長がおり、彼らがその場所の責任者となっています」

「なるほどね。ちなみに、町長屋敷の隣の駐屯所にも小隊長がいるのかい?」

「いえ...あそこはちょっと特別でして...」


特別?どういう事だ?


「なにかあるのかい?」

「...全て町長の子飼いの騎士でして、町長の命令しか聞きません」


どういう事だ?そもそも騎士は国に、ひいては国王に属するものだぞ?


「なんじゃそりゃ?そんな事ってあるのかい?」

「通常ありません。が、エバン様が失脚されて、急に8人の騎士が引き抜かれてしまいました。町長の身の安全を護るためという名目で」

「ブルフは許可をしたのか?」

「いいえ。しかし、エバン様の失脚に対する緊急事態だと言う事で...」


その顔は苦渋に染まり、どうしても抵抗できなかった悔しさがにじみ出ていた。

これは想像だが、おそらく町長は金で騎士を引き抜いたのだろう。

本来、騎士としてはあるまじき行為だ。しかし、金に目がくらむ事は誰にでもある。人である以上、それは避け難い事だが、ブルフとしてはやるせないだろう。


唇をきつく噛むブルフを見ていたタニアが、ポツリと言った。


「苦労したんだな...」


そう言ったタニアの表情は、少し微笑んでいた。まるで息子を褒める母親のような表情だ。

どう見てもブルフの方が年上なのだが、この際そんな事は些細な事だ。


「いえ、タニア様の苦労に比べれば大した事はございません」

「確かに私も苦労はしたが、人それぞれに苦労はあるんだ。そこに大きさなどはない。ブルフはしっかりと騎士の本分を守ったのだ」

「...ありがとうございます...」


深く頭を下げたブルフの表情は見えないが、深く感謝していると感じられた。

ふむ。タニアは良い上司だな。


「で、今その駐屯所に詰めている者は何人いるんだ?」

「最初は8人でしたが、その後、町長に近い騎士が5人加わり、現在は13人です」

「全て正規の騎士なのか?」

「はい」


あらまぁ...13人という数字は騎士全体から見ると少ないと思うが、問題は「町長の子飼いの騎士が存在する」という事実の方だ。


「では、その者たちはエルセリアに送ってくれ。パストングに言って教育し直す」

「リョウが教育し直すのではないのか?」


とタニアが私を指さして言う。人を指でさしちゃいけません!

てか、なんで騎士でもない私が騎士を教育し直すんだよ。


「私は騎士ではないからな。これはパストングにお願いしよう。お願いした結果、私にお鉢が回ってくるなら、その時考えるさ」

「ちなみに、副官殿が教育をされる場合、どのような事をするのですか?」


ブルフが興味深げに聞いてくる。教育?そんなもん出来ないぞ?出来るとすれば...教育じゃなくて修行だな。だとしたら...。


「ん?座禅と掃除かな~」


日本の修行と言えば、真っ先に思い付くのはコレだろう!


「...は?...掃除は分かりますが...座禅?...とは?」

「座って心を落ち着けて無になるのだ」

「無?...全く分かりません...」


大丈夫だ。私も「無」というものは実は良く分からない。

ただ、日本の「禅」というものにハマったシャルが、私に強制的に座禅を組ませていた。あれは辛かったな...。最終的には「無」に達したような気がするが、ひょっとしたら単に気を失っていただけかも知れない...。


「ブルフには必要のない修行だよ。ま、興味があれば教えてあげるよ」

「分かりましたが...そのような事で教育になるのですか?」

「実際には教育ではないよ。あくまでも修行だ」

「はぁ...」


何度も言うが、私は騎士ではないので教育は無理だ。出来るのは修行だけ。


「まあ、その13人の件はひとまずそれで良いとして、今後の計画の件もあるからな。私は時々来るようにするので、その時はよろしく頼む」

「心得ました」



騎士の配置について、もう少し話をした後、騎士駐屯所に電龍を置き、歩いてタニアとカラーを連れて近くの服飾店に入った。


この服飾店は元々アスナルの店舗だったそうだ。

アスナルが町長になったので、アスナルの右腕だった者が引き継いだんだそう。


「いらっしゃいませ」


いかにも商人という雰囲気の中年太りの男性が声を掛けてくる。

私たちがカタランスに入り、領主が視察に来ているという事は街中に知れ渡っているはずだ。

特にカラーの鎧姿は目立つからな。私たちが領主一行である事は分かっているはずだ。


ブルフには特に言ってはいないが、おそらく騎士が遠巻きに警護している。千里眼によって配置は把握しているのだ。


「いや、ちょっとこの鎧娘に服を買ってやろうと思ってな」


一応事前にカラーにはそういう話をするという事を伝えてある。

もっとも、最近はアドリブも出来るようになっているので、おそらく問題はないと思うがな。ま、念のためという奴だ。


「そうなのですね。分かりました。いやすごく珍しい青色の髪ですな。まるで青光石を溶かしたかのような輝き。おぉ!そう言えば店の奥に確か...」


と、大げさな台詞を残し、おそらく店主であろう男は店の奥へ姿を消した。

青光石って何?なんとなくサファイアの事を言っているような気がするが...後でタニアに確認してみよう。


それにしても、なんだろうな...この違和感...。「これはこれは領主様ではないですか!」とか言われると思っていたのに、とんだ肩透かしだ。


「ご主人様...この鎧、脱がなきゃダメですか?」


最近、カラーの言動も怪しい。ボケているつもりなのだろうか?


「いや、まだ良いよ。とりあえず、さっきの人物が戻ってから、もう少し話をしてからだな。そもそもカラーに似合うものを持ってくる可能性は低そうなんだよな...」

「そうなのか?」


会話を聞いていたタニアが横から疑問を口にする。


「う~ん...この店はどちらかというと男性向けの服が多いようなんだよな。店の奥に入っていった様子もなんかわざとらしかったし...」

「確かに胡散臭さはあったな」


タニアも冒険者としてあちこちを歩いたからだろう。違和感は感じているようだ。


「そうなのですか?」


逆に、神々の時代から、つい最近まで眠っていたゴーレム娘は、そういう事には疎いらしい。


「え~っと、演技をしているような感じだった、と言えば分かるかい?」

「なるほど。嘘っぽい雰囲気はありました」


なんだ、嘘っぽいというのは感じていたのか...。


「そういう事だ」


と話をしている間に、先ほどの人物が戻って来る。

その手には、真っ赤なドレスらしき衣装があった。が...何かがおかしい...。


「このようなものはいかがでしょうか?」


と、私の前で広げる。


シースルーのドレスだった...。


極々個人的な意見だが、普通に職人技の一品だとは思う。

アメリカのセレブだったら、下に黒のタンクトップとキュロットスカートを履いて、その上に着たりするならアリだろう。

が、この異世界で、おそらくだが、このシースルーの赤のドレスだけを持ってくるという事は、これだけを着せてみろと言っているのだ。


...ドレスの向こうにおっさんの顔がうっすらと見える。てか、そんなものは見たくなかったぞ...。


「この店は品性というものは無いのか?」


私の声のトーンがかなり下がっているのを感じる。

どうやら、ここは敵地のようだ。気を引き締めなければならないな。


「いえいえ。そのような事はございませんぞ?しっかりと下着を身に付けておれば大事な処は見えませんからな。事実、よく売れておりますぞ?」


言っている事は正しい。が、領主の、それも女性の領主の目の前で広げてよい品物ではない。結論、やっている事は正しくないのだ。


「という事は、この街の裕福な男性は全員品が無いのだな」


さすがにタニアも眉間にしわを寄せてドレスを睨みつけながら断言する。

カラーは相変わらずの無表情だ。なんとなくだが、不機嫌に見える。


「ご領主様もそのような事をおっしゃらずに、いかがですか?副官殿が喜ばれるのではないですかな?」


ゲスの極みだな。今すぐここから出たいと思うが、それをすると連中が「勝った」事になってしまう。それは今後の事を考えるとよろしくない。


「お前...自分が何をしているのか、分かっているのか?」

「もちろんでございます。お美しいご領主様もそうですが、特にそちらの鎧娘は目立ちますからな。副官殿は趣味がよいと思いますぞ?」


どうやら、町長の屋敷での一件を知っており、私たちに嫌がらせをしているようだ。

大丈夫か?この街...怒る前に気力が萎えてしまったぞ...。


ふと、手元のタブレットを見ると、店の外にいた騎士たちが移動をしている。どういう事だ?あまり良くない事が起こっている気がする。

念のためカラーに目配せをすると、カラーは小さく頷き、タニアのすぐ横へ移動した。


「なるほど...この街の大半の男性は品が無いという事だな...」


ブルフは品があるからな。彼を巻き込むのは可哀そうだろう。


「あなた方が町長にされた事の方が品がありませんよ」


やっぱり町長から事前に連絡が来ていたようだな。

だとすると、さっき店の奥へ引っ込んだ際、誰かに連絡した可能性もあるな。騎士が移動したのは、仕込みの結果なのだろう。


問題は誰の仕込みなのか...だが、おそらく町長だろうな。店に入ってからの準備では時間的に難しい。逆に、町長の屋敷を出てからすぐの仕込みなら、昼食の時間もあったので十分だろう。


「なるほど...しかし、お前がエルセリア領主にこんな事をして、意味があるのか?」

「意味などございませんよ?そもそも商品を提示しただけですからな」


なかなか考えているな。ひょっとしたら、今までも同じような事をしていたのかも知れない。

ま、別にどうでもいいがな。


「なるほど...商品を見せただけなら問題にならない...と、本気で思ったらしいが...お前、タニアが王家に連なる姫だってこと、忘れてないか?」

「もちろん。承知しておりますとも」


ふ~ん...悪知恵の方はかなり優秀のようだな。どうせ、このような事は有耶無耶に出来る自信があるんだろう。が、私を相手にそれはない。


不敵に笑った私を見て、タニアとカラーが一歩下がる。

なんでだよ...二人に何かする訳ではないのは分かっているだろ?


あ...黒いオーラが出ていたのか。だが、二人とも止めに入らないという事は、別に良いって事だな。


「では、この出来事は全て国に報告をしておきますね」

「か...構いませんとも。何も証拠はありませんし、そもそも王家の方々も姫の戯言など聞かないでしょう。もう一度言いますが、私は商品を見せただけです」


私の黒いオーラを見て恐怖を感じているようだが、商人の根性で踏みとどまっているようだ。単純な商人の能力だけ見れば優秀なんだろうがな...。

タニアの事や私の事をどう思おうが、それは個人の自由だし、そこは制限出来ない。が、目の前で罵るのはマナー違反だし、普通に喧嘩を売ってきていると判断する。


つまり、遠慮するつもりはない。


「タニアがどれだけ優秀か、知らないようですね。ま、それはともかく、この会話は記録を取っていますよ?」

「は?記録?」


この世界では会話を記録する魔工はないらしい。あるのは写真のような機能を持つ魔工があるだけ。その魔工も作れるのはタニアだけらしく、この世界での「記録」は、ほぼ書類のみになるのだ。


そこで、ボイスレコーダーに録音された今までの会話を聞かせた。


「あ...し...しかし...会話だけではどういう商品か分からないでしょう?それに、このようなもの、王家の方々が信じるとは限りません!!」


あからさまに驚いていたが、まだ抵抗している。抵抗せざるを得ないという所だろうが、無意味だな。


「そう言うと思ったので、こういうのも用意しております。なお、王家の方々は『このようなもの』を理解されています」


と、今度はカメラで録画していた映像の一場面を見せた。

ちなみに、私とタニア、カラーが、それぞれ別の角度から録画しているのだ。言い逃れは難しいだろう。


「あ...あの...えっとぉ~...」

「実に下らない商品を見せてもらった。馬鹿馬鹿しいのでこれで失礼する」


あわあわと言葉にならない言葉を口にする男性を放置し、タニアとカラーを促して店の外に出る。なんなんだこの街の商人は...本当に下らないな。



なんとも言えない気分で服飾店を出た。かなりメンタルをやられたのでもう帰る事にしよう。タニアもかなり疲れた顔をしている。カラーも珍しく表情が暗い。まぁ、そうだよな...。


「ご主人様、どうしてアレを買ってくれなかったんですか?」


そっちか!!


「うぇっ!?欲しかったのかぁ!?」

「はい。アレを着て、ご主人様に迫ったら面白そうです」

「ダ...ダメだ!!」


と、大きな声を出したのはタニアだ。


「そうですか...残念です...」


そう言ったカラーの口元には、悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。


あら~...また遊ばれたのかも知れない...が、おかげで気持ちが少し上向きになったよ。ありがとう。



そんな会話を楽しみつつ、駐屯所に戻ろうと歩いていた所、9人の冒険者と思われる連中に囲まれてしまった。


どいつもこいつも品のない顔をしている。

あ、アカン...さっきの服飾店の男性のおかげで、どいつもこいつも品性がない男に見えてしまうぞ?


と、意味のない自己嫌悪を覚えていたら、大柄な中年男性が目の前に進み出てきた。


「あんたが領主かい。なんか、昔は名の知れた冒険者だったって?」


前言撤回。こいつ、品が無かったわ。

前に出ようとしたタニアを押し留め、私が前に出る。


「誰だ?お前は」

「俺様か?俺様は上級冒険者の『魔狼殺し』のペレン様よ」


魔狼殺しだと?

無意識に自分の片眉が跳ね上がるのを感じる。


だが、ロボの生息地はかなり奥地になるので、港町の『魔狼殺し』は問題ないか。


「こんな可愛いお姉ちゃんが領主なんて、王様も何考えているんだよ。どう見ても我が町長の方が適任なんじゃねぇか!?」


そういや、この国に不敬罪っていうのがあるんだろうか?まぁ、あったとしても今この場で厳しく対処するのが正しい対処方法だろう。


せっかく収めた黒いオーラが全身から吹き上がる。それを見てもタニアもカラーも止めない。どうやら好きにして良いようだ。

ちなみに、私の黒いオーラは、タニアの紫紺のオーラと同じく一般人にも見えるらしい。遠巻きに見ていた見物人があからさまに距離を取る。

だが、ペレンだけは平然としたものだ。意外と根性があるのかも知れない。あるいは、単に何も考えていないだけか。


「で?お前はどうしたいんだ?」


私が一歩前に出て、ペレンという男に話しかける。

話しかけたタイミングで、私は拳銃を抜いておいた。一応、星砕丸を腰に佩いてはいるが、こいつを殺すつもりはない。生きてさえいれば、それでいい。拳銃なら、狙いさえ間違えなければ死にはしないだろう。刀だったら良くて出血多量、普通に惨殺してしまうからな。


「ん~...そうだなぁ~...領主の力量を見せて欲しいなぁ~」


それを聞いた改めてタニアが前に出ようとしたが、カラーがそれを止める。ありがとう、カラー。


「お前の言う力量ってのは、単純にお前を倒せば良いって事か?」

「それで良いぜぇ~」


めっちゃ簡単だな。逆にありがたい。


「領主の下っ端の俺が相手でも問題はないよな?」

「は?お前みたいな細い奴が俺様の相手?見た感じ領主と変わらんだろうし、その腰の獲物がただの棒でないならな。ま、誰でもいいぜぇ~」

「ご主人様、ここは私が...」


タニアを止めてくれたのに、カラーが名乗り出てきた。珍しく、その目は鋭い。どうやら怒っているらしい。


カラーが神の力以外では、絶対に負傷する事はないので、安全と言えば安全なのだが、その防御力の代償として攻撃する事が出来ない。

ただし、「拘束される」とか「性的な被害を受ける」などの場合は「抵抗する」事は可能であり、それは「攻撃」にはならないとの事。


タニアなら攻撃できる。だが、タニアの火炎魔法は威力が強すぎる。薪に火を付けるつもりでも塹壕を掘ってしまうほどだ。簡単に街中では使わせられない。


「いや、色々面倒な事が絡んでいるので、ここは私が対応するんだ。まぁ大丈夫だから」

「分かりました。ご武運を」

「ありがとう」


素直にカラーが引き下がってくれた。見ればタニアを守るように立ってくれている。助かる。


「なんだぁ~?今生の別れが終わったか?」

「今生の別れではないが、終わったぞ。で、どうすれば良いんだ?」

「男同士であれば、これで十分だろう?」


と、腰に差したバスタードソードを抜き放つ。こんな街中で抜くのは御法度なんだがな...。ま、勝負は「指相撲」でと言われるよりマシか。


一応周りを確認してみるが、やっぱり近くに騎士がいない。後で騎士駐屯所で理由を聞かないとダメだな。

はぁ~...想定していたが、実際に目の前で発生すると面倒だなぁ~...。


「分かった。で、どうすれば俺の勝ちなんだ?」

「当然!俺様を戦闘不能にすれば...だ!!」


と、いきなり大上段から切り込んできた。上級冒険者なだけあって、かなり鋭い一撃だ。

だが、それも想定内だ。三才歩で軽く奴の攻撃を左に躱し、がら空きになった脇腹に中段蹴りを入れる。


「ぐはぁ~!!」


地面に転がる上級冒険者。しかし...本当に上級冒険者なのか?正直弱いぞ?


「貴様!なかなかやるじゃないか!だが、俺様はまだまだ動けるぞ!!」


すぐに起き上がり、バスタードソードを上段に構える。が、隙だらけだぞ?

しかし、なるほど。要は動けなくすればいいのか。拳銃を構え、奴の左足の甲を狙い、引き金を引く。


バン!という破裂音と同時に、奴の左足の甲が血に染まる。


皮のブーツを履いているので、それほどの傷にはならないだろう。

ほどほどに指の方を狙ったので、せいぜい骨で弾丸が止まるか、骨と骨の間を通るだけ。太い血管はないので出血多量になる事はないはず。ま、1か月ぐらい歩けなくなるだろうが、死にはしない。最悪、足の指がなくなって歩きづらくなるだけだ。その場合は冒険者廃業だな。


「ぐあぁぁぁぁぁあああぁぁあ!!!」


左足を押さえ、転げ回る上級冒険者...あ...名前忘れた...。

転げまわっている上級冒険者に、私たちを囲んでいた他の冒険者が集まっていく。

なるほど、仲間の心配は出来るんだな。そこだけは感心...っていうか、当たり前に出来るのか。


「どうやら戦闘不能になったようだな。じゃあ」


誰も話を聞いていないようで、反応してくれない。ま、その方が助かるというものだが。

私はタニアとカラーを促し、一旦騎士駐屯所に向かう事にしたのだった。



「あれ?タニア様、副官殿、カラーさん、何か忘れ物ですか?」


駐屯所に入った所でアラノスに出会う。


「いや、服飾店に入って出てきたら町長の手の者と思われる冒険者に絡まれちゃってね...そっちで何かなかったかい?」

「あ~...そういや、港の方でちょっと大がかりな喧嘩があって...そっちに騎士が回されたって聞いています」

「やっぱりかぁ~...」


ほぼ想定していた通りだな。

古今東西、囮は普通に実行されるんだな。ここは異世界だけど、人の考えはいずこも同じという事だ。


「やっぱり?」

「いや、アラノスは気にしなくていい。じゃあ、ブルフもここにはいないって事だな」

「はい。大きな騒動だったので、現場に向かわれました」


私たちから騎士を遠ざける為に、何をしたんだか...。


「分かった。じゃあ、ブルフにはよろしく伝えておいてくれ」

「もう戻られるのですか?」


アラノスが驚く。まぁ、さっき駐屯所に入った所だからな。


「あぁ、カタランスはかなり本格的に掃除をしなきゃならないようだからな。戻って準備をするよ」

「分かりました。私は必要な確認を終え、ブルフ様の書類が整い次第、エルセリアへ戻ります」


アラノスは頼もしいな。こういう男はモテるからな。一応注意しておいてやろう。


「よろしく頼む。浮気するなよ?マリアが悲しむからな」

「そ...そんな事はしませんよ!!」


アラノスが顔を真っ赤にして抗議してきた。

ま、砦内での二人を見る限り、浮気は無さそうだしな。


あ、もう一つの予定を思い出した。


「そうだ。衝撃的な事ばかりで忘れてた。ちょっと見ておきたい所があるんだ。タニアを置いていくので、頼めるかな?」

「私は構いませんが...」

「いや、ちょっと待て!なぜ私を置いていくのだ?!」


タニアが抗議してきた。が、これは個人的な確認なんだよな。


「ちょっと危険な場所だから」

「それはどこだ?」

「貧民街」

「貧民街?なぜ、そんな所に行くのだ?」


行先が貧民街とは思っていなかったんだろう。そりゃ、疑問にだろうな。


「ちょっと気になる事があってね...確かめなければならないんだよ」

「...なるほど...だが、私を置いていく理由は?ちょっと危険なだけではないのだろう?」


と私を睨んでくるタニア。その目は中途半端な言い訳は許さないと言っている。


「まず、これは調査なんだ。はっきりとしていない事にタニアを連れて行けない」

「他には?」

「...もし、私の思っていた事が現実なら、タニアは冷静に対応出来ない」

「それ程...酷い事があるのか?」


私の予想が正しければね。


「可能性が高い。そして、これはエバンから私に、託された事でもある」

「エバンから...私が聞いていない事か?」

「そうだ」


はっきりと言い切り、タニアの目を見る。タニアも私の目を見ている。アラノスがオロオロとしているのが気配で分かるが、お前は関係ないんだから落ち着け!気が散るわい!!


しばらく二人で見つめ合い...じゃないな、睨み合いをしていたが、タニアが視線を外し、軽くため息をつく。


「...分かった...私はこの駐屯所で大人しくしていよう。とは言え、カラーは連れて行くんだろう?」

「あ~...そうだな...元々調査だけのつもりだったから、1人で行こうと思っていたけど、さっきの事もあるしな。カラーは連れて行くよ」

「それでよし。カラー、すまんが悪ガキの面倒を頼めるか?」

「普通に手に余りますが頼まれましょう」


なんでやねん...。



そういう訳で、私とカラー、そして護衛にとアラノスが騎士を2名付けてくれた。

こういう所に気が回るので、アラノス君は管理職に向いているんだよな。正直、こういう人材は助かる。


「副官殿はエバン様から、何を言われたのでしょう?」

「ん?言われたのは『カタランスの貧民街が変だ』とだけ」

「それだけですか?」


本当は「アスナルが貧民街でカタランスと共謀して不当な行為をしている」と言われたんだよね。ただ内容については教えてくれなかった。


「エバンは結局は『自分の目で見て確認しろ』って言ってたんでな。今見ておくんだよ」

「律儀ですね...」

「...そうかもな...」


本当は、もっと深刻な話があったんだが、今はいい。

ともかく、4人で貧民街、分かりやすく言うとスラム街に入って行ったのだ。


「しかし、いつ来てもここは嫌な空気がしますね」

「ちなみに、何日ぶりにここに来たのかな?」


貧民街も巡回していると思うから、空いていても30日とかかな~。


「え~っと...一年ぶりですかね...」

「...なるほど...」


思った以上に巡回してないな。大丈夫か?


「ただ、路上に座り込んでいる者が以前よりも多いですね」

「そうなのかい?」

「はい。以前は...その、客引きの女ばかりでした...」


それは昼間もなのか?大丈夫か?


「ふむ...で、今は男女関係なく路上に人が居ると...」


ふと思い立ち、カラーと騎士たちに手振りで待っているように指示をして、建物の壁に背中を預けて座り込んでいる男性に近づく。


「よう兄ちゃん。今日は天気がいいな」

「ん~...あぁ~、天気はいいなぁ~」


なんか、反応が悪いな。


「最近、良い事あったかい?」

「良い事~...あぁあるぞ~」

「ほう、どんな事だ?」

「こないだ、町長さんの使いって人から気持ちよくなる粉をもらったんだよ~」


は?気持ちよくなる粉?普通にヤバイんじゃないか?


「ほう、どんな粉だ?」

「あ~、まだあるな。これだよ」


と、ズボンのポケットから小さな革袋を取り出した。袋の口の部分が白い粉で汚れている。


「ほうほう、すまんが、これをちょ~っとだけ貰ってもいいか?」

「あ~いいよ~。気分がいいんでな~」


と、袋ごと渡してくれた。なかなか気前がいいな。助かったよ。


「ありがとう。とても助かったよ。ちなみに、この粉って、ここではよく配られているのかい?」

「ん~...いやぁ~...その粉をくれたのは、もう10日前ぐらいじゃなかったかなぁ~...」

「その前からも来てたのかい?」

「なんか噂はあったかなぁ~...あれって去年の春ぐらいからかなぁ~...いや?夏かなぁ~」


どっちにしても一年前ぐらいからか...。


「ふ~ん...他に...そうだな、逆に悪い事ってあったかい?」

「なんだぁ~、あんた...騎士の使いかい?」

「違うよ。俺は『悪の科学者』だ」

「なんだそりゃ?まぁいいか...悪い事ねぇ~...そういや、女が少なくなったな」


は?どういう事だよ?


「女が少ない?」

「そうなんだよ...特に若い娘がなぁ~...なんでだろうなぁ~...あと、夜の女もいなくなったぜ~」

「確かに...悪い事だな...」


貧民街で女がいなくなる...人さらいじゃないかよ!!


「だろ~...そこに騎士がいるから、言っといてくれよな~」

「分かった。ありがとう。これはお礼だ」


と、銅貨を数枚握らせる。


「お!気が利くねぇ~。今日は本当にいい日だぜ」

「じゃあな」

「おう」


騎士たちの元に戻る。


「何かあったんですか?」

「あったというか、色々分かった。ちょっと聞くが、貧民街から女性がいなくなっているって聞いているか?」

「はい。そのような話は聞いていますが、町長から特に問題は無いから調査不要という話が来てまして...」


おいおい...これも町長絡みかよ...。


「はぁ~...こりゃ完全にダメだな...」

「えっと...何がでしょうか?」

「いや、町長を挿げ替えなきゃダメって事さ」

「そうなのですか!?」


ともかく、駐屯所に戻ろう。と言おうとした時、貧民街の奥の方で爆発音が響き、黒い煙が立ち上る。

同時に、今度は割と近い所から女性の「助けて!!」という悲鳴が上がる。


なんで同時に!えぇい!


「悲鳴の方は私とカラーが向かう。君たちはあの黒い煙に向かってくれ!あの煙だと騎士の後援がすぐ来るだろう」

「わかりました!」


瞬間的に判断して騎士に指示を出す。

騎士たちが走り出したのを見送りつつ、タブレットを操作してスパイ衛星「千里眼」からの情報を得る。

どうやら、現場は2区画向こうの裏路地のようだ。


「行くぞ!」

「合点承知の助」


なんでそんなの知ってんだよ!!

内心で文句を言いつつ、カラーを伴って走り出す。


「女性1人に男かな?3人だ」

「女性は私がすぐに保護します」

「頼む」


私は走りながら拳銃を抜く。3人相手なら15発もあれば十分だろう。


女性が逃げる方向に回り込むように動く。

ともかく、女性の保護が優先だ。


なんとか回り込む事に成功し、私は女性と追手の間に入る。追手が5m程手前で立ち止まる。カラーは女性を保護したようだ。

拳銃で追手を狙いつつ、チラリと女性を確認する。カラーの背後に隠れるようにしているな。


うん?見た事がある顔だぞ?特にその細い目と左目の下の泣きぼくろ...。


「カラー!逃げろ!!」


思わずとっさに叫ぶ。と同時に2人が反応する。


女性がカラーを捕まえようと右手を伸ばす。同時に懐に隠し持っていたナイフを左手で取り出そうとしていた。


しかし、カラーはすばやく屈みこみ、前方に身を投げ出すように転がる。

素早く体勢を立て直し、私の背後に背中合わせに立つ。


「ご主人様、彼女は?」


前方の追手を警戒しつつ、背後の女性を改めて確認する。


ショートにした黒髪、糸目に左目の泣きぼくろ。

今も全く油断のない構え。

そして、夜襲の際に盗られた私のナイフ。


エバンの暴動当日に初めて対峙して、まんまと逃げられた。

その翌日、エルセリア砦前で待ち伏せされて殺されそうになり、ナイフを盗られた。

その後、エバンの息子のテキナと一緒にクラスタンプに逃亡したので、もう会う事はないと思っていた強敵。


エバンの隠し子にして、テキナの右腕で愛人のミフル。


もう会いたくなかったんやけど...勘弁して~な...いや、マジで...。

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