■■■ Step072 100年前の面倒事と、これからのマッドな面倒事
ギルド長、ムロウはこちらに向かって「申し訳ない」という顔をしている。
日本人のように、右手を立ててのジェスチャーはないが...雰囲気で分かる。
恐らくだが、ギルドの受付でヴァンパイアを倒したという話が、町長の所まで行ったか、もしくは騎士の方に行ったか...なんとなく騎士の方だろうな。
そう考える理由は単純で、町長の息子が剣を佩いているからだ。
で、彼の言う「来てもらう」という行先は、町長の家ではなく騎士の詰め所かなんかだろう。もしくは体育館裏?
普通に考えて私たちが、この若造について行く理由がない。
聴取の理由が「ヴァンパイア討伐が嘘」という事を確認する為ならなおさら。
そもそもヴァンパイア...テクスが具体的にどうやって少女の調達を...街に要求をしていたかは知らないが、くじ引きは町長の屋敷で行われると言っていたからな。町長が生贄に関して無関係ではないはずだ。町長の息子で見た感じでは私とあまり変わらないようなので、事情はしっかりと把握しているはず。
さらに言えば、今後ヴァンパイアからの要求が無くなれば、ヴァンパイアが討伐された事が確定。
さらにさらに、今回の犠牲者のエルゼはギルド長の娘であり、先ほどエルゼの様子を色々説明した際に、エルゼの特徴も確認できたので、本人に間違いはない。そもそも、エルゼ自身がこの街の出身者だと言っていたので、間違うはずもないのだが...。
「ここで聞けば良いだろう?そもそも俺たちは何もしていないぞ」
「なにを!?イガヤ様にたて突く気か!?」
取り巻きの騎士の一人が叫ぶ。面倒だなぁ~...。
「俺たちは冒険者だ。別にこの街でなければ生きていけないという事はない。そもそも、何を聞きたいんだ?」
「ヴァンパイアを倒したという嘘を暴くだけだ!!」
貴族の若造が叫ぶ。こいつ、頭悪そうだな...。
「ほう...お前たちが言う『ヴァンパイアを倒した事が嘘』じゃなかった場合、その『ヴァンパイアを倒した冒険者ご一行様』に、お前たちは立ち向かう事になるんだが...」
「ひぃぃぃぃぃいいいいぃぃ!!!」
正直イラついたので、黒いオーラを発生させる。今日はカラーも何も言わない。
結果、カラーとカリナ、ギルド長以外の貴族と騎士たちが震えあがる。
「ほら...だから言わんこっちゃないでしょう?この人たちはね、本当にヴァンパイアを倒したんです。エルゼの事も確認出来ました。これ以上、何があるんですか?」
そう言いながらギルド長がこちらに歩いてきた。その手には金貨が入っていると思われる袋と、手紙と思われる羊皮紙の巻物が...2つ?
シュンという音は出なかったが、黒いオーラが霧散した。
「これが例の手紙です。そして、これはギルド上層部宛のものです。今回の件についての説明になっています。あとこれがヴァンパイア討伐の報酬です。どうぞ収めてください」
わざわざギルド上層部宛の手紙も書いたのか。しかし、これを貴族の前で渡したら何か言われないか?
と思って貴族を見たが、まだ震えている。じゃあ、放置で。
「わかった。全て私が取り扱う。悪いようにはしないので安心してくれ。そして早まらない事だ。あんたにはエルゼに会えるようにしたいからな」
「ありがとうございます」
「おい!こっちを無視するな!!」
いち早く復帰した騎士の一人がまた叫ぶ。ホントにうるさいな。
「無視してないぞ?相手にしてないだけだ。それに、町長の息子なのは分かったが、肝心の町長はどうしたんだ?」
「父上はお忙しいからな。私が対処する事にしたのだ」
あ、貴族の若造も復帰したか。
「で、町長には何も相談せず、独断でここまで来たと?」
「独断ではない!ヴァンパイアの問題は町全体の問題だ!」
町全体の問題であればこそ、町長の判断が必須だろうが!
「町全体の問題という、その意見は同意するが...であればこそ、町長本人が動くべき問題だろう?」
「だから、父上はお忙しいのだ!」
お~い...ちょっとは考えろよ~...リアなら絶対にちゃんと考えてくれるぞ?
「だからと言って、その息子が取り扱うべきものではない。はっきり言うが、町長の息子だからと言って、息子に町長の権限がある訳ではない」
「なん...だと?」
え?知らなかったの?あなた、単に息子ってだけでしょ?
「ともかく、この件についてお前に従う理由はない。そもそも何故騎士が付いてきている?職権乱用では?」
「何を言っている!この方はこの街の町長、ベステクス・コルウェッド男爵様のご子息なのだぞ!」
あ、町長さんは男爵なのね。っていうか、クラスタンプの貴族は総じて無能なのか?いや、無能なのはこの若造か?
てか、さっきも言ったよね?息子に町長の権限はないんだって!!
「なるほど。男爵家の跡取り息子って事だけで、あんた達はくっついているだけなのか。で、そのご子息は何かしたのか?」
「何か...とは...?」
「何か功績でも立てたのか?剣を佩いていると言う事は、何か武功を立てたのか?ヴァンパイア討伐とまではなくとも、この街を守ったとか、そういう皆から称えられるような功績はないのか?」
「功績...」
「男爵位は世襲制なのか?聞いた話、男爵位は入れ替わりが多いと聞くぞ?今のお父様は実力で男爵位を得たのか知らないが、少なくとも町長には実力でなったのではないのか?お前にその実力はあるのか?実力がなければ、町長はおろか、男爵位も取り上げられるのではないのか?そして、そういう者に付いて回るような者は騎士として認められるのか?お前たちは、この街で何を成したのだ?言ってみろ」
私が言った事に誰も反応しない。いや、出来ないんだろうな。若造も何か言おうとしては、言えなくなって、口をパクパクするのを繰り返している。
「リョウ殿、お疲れ様でした。エルゼの事で何かありましたら、教えて頂けますと助かります」
ギルド長が「これで終わり」とばかりに挨拶をしてくれた。
なるほど、ギルド長は有能らしい。
「あぁ分かったよ。さすがに頻繁にはここへ来られないが...そうだな、100日以内には連絡するよ。それで良いか?」
「はい。助かります」
「あと、何かあれば連絡を寄こしてくれ。エルゼの為になる事は何でもするからな」
「...ありがたい...その時は...」
ギルド長と固く握手をして、部屋を出る。当然、ギルド長は何も言わない。用事は全て終わったからな。
敢えて言わなかったが、ギルド長と息子とエルゼに関連する事だけだ。今の奥さんに関しては知らん!
部屋を出た後、軽く振り返ると奴等はまだ固まっていた...。
え?そんなに衝撃的だったのか?てか、全く功績なしなの!?
ギルドの外に出て、少し歩いた所で背後から多数の足音が近づいてきた。やっと復活したらしい。
騎士7名と若造で私たちを囲む。囲むのは良いが、10mぐらい離れている。遠いぞ!?
「お前たち!大人しくしろ!」
若造が騎士の囲いのさらに外から声を掛けてくる。だから、遠いって!!
まぁ良いか。とりあえず返事はしてあげよう。
「見ての通り、大人しくしてますが?」
だって、歩いていただけだからな。
カラーを見ると、盾を背負ったまま私の背後に付いた。なるほど、背後は安全って言いたいのね、了解。
そして、カリナは腰に下げていたショートソードに手をかける。この距離だと弓矢は扱いづらいもんね。
で、私は...右腰に下げたホルスターから拳銃を抜く。この人数だからな。使い慣れた拳銃の方が良いだろう。
弾丸は15発。十分だろう。
「抵抗するな!」
「今現在は何も抵抗してないぞ?」
立ち止まっているだけだからな。
「よし!ついて来い!!」
「やだ」
若造...町長の息子が叫んだが、冷静に、大人しく、明確に断った。もう帰る時間なんだよ。
「抵抗するなと言ったぞ!?」
「ついて来いと言う事について、抵抗する。そもそも罪状は?」
「我々に抵抗したからだ!!」
は?馬鹿か?
いや、待て...。
「何が目的だ?」
「は?」
「私たちを捕まえる目的は?」
「目的?」
そんな会話をしていると、どんどん人が集まって来る。
個人的にはヴァンパイアを倒した事は、ここでは言いたくない。パニックになるだろうからな。
「目的があって捕まえようとしているんだろう?目的は何?」
「えっと...我々に抵抗したから?」
「なんで疑問形なんだよ!!」
なんなんだよ!このツッコミどころ満載な会話は!!
「いや!問題ないぞ!お前たち、武器を持っているからな!!」
「俺たちは冒険者だ。さっきまで冒険者ギルドにいたんだ。当然、武器ぐらい持っているぞ」
お願いだから、ちゃんと考えてから発言してくれ!!
「武器で対抗しようとしているではないか!!」
「正当な理由もないのに捕まえると言うんだ。そりゃ抵抗するだろう?」
「抵抗するな!!」
ダメだ...話にならねぇ...。キレる前に疲れ果ててしまったぞ?
どうしようか、これ...捕まっても良いかも知れないと思い始めている自分がいる。しかし、カラーとカリナがいるからな。それはダメだろう。この世界では女性が捕まったら何されるか分からないからな。例え騎士が相手でもな。
騎士たちを見ると、非常に困った顔になっている。
あ、思いついた。
「そう言えば町長のご子息様は剣を下げていらっしゃるのですよね?」
急に猫なで声...と言えばいいのか分からないが、悪徳代官とつるむ越後屋...というのだろうか?そんな感じで話をしてみた。
「お?おう...貴族の嗜みだからな」
「相当な腕前とお見受け致しますが?」
全くの嘘だ。正直、私の方がマシな気がする。
隣でカリナが頭を抱えている。その様子は「面倒事が増えた気がする」だろうな。大丈夫だ、その感想は正しい。
「もちろんだ!私は山から迷い出たサイクロプスの足を一刀両断した事もあるんだぞ」
ん~...どこかで聞いたな、その話...って、私がコボルド討伐の際にサイクロプスを切った話を更に盛っただけじゃねぇか。
だが、それならば都合が良い。
「なるほど!それはすごいですね。サイクロプスは二階建ての家を超える大きさで、その足はテーブルの如き太さです。それを一刀両断とは!!」
「そうだろう!」
胸を張って応える若造。色んな意味ですげ~...。
「では、この私の星砕丸と一緒ですね。私もトモニア近くの洞窟で、サイクロプス2匹を相手して、1匹の足を一刀両断したんですよ?」
「...は?」
「知りませんか?「悪の科学者」のリョウとは私の事ですが?」
そう言って冒険者カードを懐から取り出して見せる。遠いから読めないと思うが、パフォーマンスは大事だ。
なぜ、こんな事を言いだしたのか、なのだが、タニアが領主となった後、リアとミームが何度もエルセリアの冒険者ギルドに通っているのだが、ギルドに行くと例のコボルド討伐の話をしてくれと頼まれる事が何度もあったそう。
で、実際に一緒に討伐依頼をこなしたリアとミームは、ちゃんと事実に基づいて話をしたんだそう。その場にいないので信じるしかないのだが、正直どこまで話を盛っているか心配だ...。特にリアは怪しい。トモニア村での武勇伝を語るのを見ているので、基本大盛にして話をしているハズだ。
そして、その話は冒険者ギルドの各支部にも届いているらしく、たまに他所から冒険者がリアとミームに、直接その冒険譚を聞きに来るのだそうだ。
あれから50日だからな...この街の冒険者経由で、その噂が流れているはずだ。
そして案の定、騎士をはじめ、バカ様...違った、若様もその話を知っているようだ。
「その...お前がリョウだという証拠は?」
「まず、この冒険者カードですよ?いや、それよりも、お手合わせしていただけませんか?いやあ、若様と手合わせできるなんて光栄だなぁ~」
左手に持った冒険者カードを若様の近くの騎士に投げ渡す。その騎士は慌てて受け取り、急いで記載された内容を読もうとしているが、慌てているのでなかなか読めないでいる。それは放置して、右手に持った拳銃をホルスターに収め、星砕丸をことさらゆっくりと抜刀しようとする。
周りの騎士も抜刀して取り囲んでいるんだから、問題なかろう。
「...リョウだ...50匹切りの...」
やっと冒険者カードを読んだ騎士が大きくもない声で私がリョウであると認めた...が、え?「50匹切り」?
それを聞いた若様が慌てる。
「いや!待て!分かった!問題ない!」
ここは「50匹」は無視して話を続ける。
「何が問題ないんですか?」
「リョウがこの街にいる事は問題ない!」
「問題ないんですね?良かった。じゃあ、改めて手合わせお願いしますよ。いやあ、嬉しいなぁ~」
「いや!大丈夫だ!問題ない!もう良いだろう!さらばだ!!」
若様は意味不明な言葉を叫び、踵を返して走り出した。騎士たちも慌てて若様を追って走り出す。
私の冒険者カードを持った騎士は、手に持ったカードをどうするか悩んで立ちすくんでいる。投げ捨てずにいるので、まともな騎士なのかもな。
「すまないが、それを投げ返してくれないか?」
近づくのは嫌なのかも知れないと思い、そう言ったのだが、律儀にも近づいて手渡してくれた。
「貴方がリョウだったのか。こんな形で会いたくなかったな。いや、大変申し訳なかった」
深くお辞儀をする騎士。7人の騎士の中では年長者になるだろうか。見た感じ30歳前後。うん、さっきの若様と同年代だな。
「一応聞いても良いか?どうしてこうなった?」
「う...イガヤ様が詰め所に居られた時に、ヴァンパイアが討伐されたと聞いて、真偽を確かめるとおっしゃってギルドに向かったのだが...どうしてこうなったかは分からない」
近くの存在の君が分からないなら、私も分からないわよ。
「ギルドに向かっている間に若様の頭の中で話が変わったのかな...とりあえず分かった」
真偽を確かめるという目的が、嘘を暴くに変わったのだろう。納得は出来ないが...。
「これは憶測なのだが...イガヤ様の仲の良かった少女がヴァンパイアに貢がされたのだ。そんな事もあって、いずれ自分でヴァンパイアを討伐すると言っておられたのだが...それが暴走したのかも...」
「なるほど...ある意味では若様もヴァンパイアの犠牲者って事か...」
過去100年の負債はかなり大きいな。そりゃそうだ。人一人の存在は親兄弟友人知人と関係が広がるんだ。
「当時10歳であられたイガヤ様は、ヴァンパイアを討伐して見せると、剣の修行をされていたのですが...その...最近は...」
町長の息子というアドバンテージに酔っていた訳だな。少女を失ったのは15年以上前の事になるのか?忘れた訳ではないが、心の中心でもなくなったのかもな。ま、他人事だ。これ以上は言うまい。
「分かった。ともかく、私たちはこれでここを発つ。これ以上騒がないようにしてくれると助かる」
「本当にすまなかった。気を付けて帰ってくれ」
私たちに一礼し、ゆっくりと去っていく。
まぁ、身なりも上質なものだったので、おそらく隊長格なんだろうな。いや、まともな騎士がいてくれて良かったよ。
ブルラトの門を抜け、大森林に向かって歩く。
一応、城壁からの攻撃があると面倒だという事で、街からかなり離れてから森林に向かうようにした。
電龍には既に指示を出しており、合流地点で待っている。
「それにしても、最後の最後で...疲れましたね...」
「そうだな...ホントに疲れた」
カリナが隣でぼやく。私もそれに素直に同意した。
正直、あそこまでツッコミどころが満載だと、ツッコむのも疲れる。
「燃やしたらダメなんですか?」
と、街を指さすカラーさん。
「ダメ!」
「ダメです!」
即刻私とカリナで却下する。
「そうなんですね...人間社会は面倒です...」
時たまカラーが恐ろしい事を言う。まぁ、気持ちは分からなくはないが、アレは特別だと思うぞ。
「カラーが攻撃できないっていうのが、ここに来て有難いな」
「同意します」
カラーにはまだまだ人間社会での勉強が必要と発覚したので、とっととエルセリアに帰るとしよう。
その日のうちに無事にエルセリアに戻った。そして、いつものタニアの執務室。
部屋の中にはタニア、リア、ミーム、パストング、カリナ、カラー、キャリー、ユリ、輝、葵だ。
輝も葵もクラブに所属していないので、学校が終わったらすぐにこっちに来たらしい。
ともかく、エルゼの故郷の話を掻い摘んで説明する。
「なるほど...テクスはとんでもない奴だったな...」
100年前からのテクスの所業を聞いて、タニアが本気で怒った。マジで紫紺の魔女と呼ばれるその姿を見た時は恐いと思った。
だが、同じ部屋にいた者たちも紫紺のオーラは出ていなかったが、同様の雰囲気を身に纏っていたので、その影響は私一人で受ける事になった...。いや、確かにこの雰囲気を受けるのは辛いな...黒いオーラを出すのは気を付けよう。
「それにしてもヴァンパイアがまだ2体いるなんて...お姉様、どうしましょう?」
「一番の問題はそれだが、テクスの件を含め、世間的には表立ってないな...どういう事だ?」
タニアは険しい顔になり、リアも心配そうにタニアに相談する。ミームは一連のヴァンパイア事件の疑問を口にした。
「まず、テクスの100年前の事件ですが、ニアラブ様に相談しました。調査をしてくれるそうです」
と、カリナが早速動いてくれた。なんだかんだ言いながら仕事をしてくれるのは有難い。
「それはえぇけど、ヴァンパイアって珍しいんとちゃうの?そんなにポコポコ出てくるんは変なんとちゃう?」
ユリが首を傾げながら疑問を口にする。確かにそうだよなぁ~...。
「私もあまりヴァンパイアについては知らないし、この国ではそういう事件は先日のテクス以外は知らないな...」
この中では物知りのタニアも知らないか...。
「私も国内を色々周りましたが、ヴァンパイアの話は聞いた事がありません。今回の件をニアラブ様に話したら、かなり驚かれていましたので、国としてもヴァンパイアの事件は珍しい。もしくは、今まで無かったのかも知れません」
「ニアラブ様の事だから、調査漏れはないと思うから、まずはニアラブ様からの報告を待とう」
このメンバーの中では一番の知者であるタニア、黒梟という諜報部員だったカリナが言うんだから、やはりヴァンパイアは相当に珍しい存在なのだろう。
ともかく、ニアラブ様からの調査結果を待つしかないな。
「そうだな。じゃあ、私はリアと一緒にギルドに行って、過去にヴァンパイア関係の依頼が無かったか確認してみよう」
とミームが提案してくれた。
「そうね。アタシも書類確認すれば早く終わるかもだし」
リアが頼もしい事を言ってくれた。
「よろしく頼む」
「はい、お姉様」
ミームとリアは冒険者ギルドから調査するらしい。
国外の情報は冒険者ギルドが一番持っているかもな。魔物関係に限るだろうが...。
「じゃあ、私はもう一度トモニア、マートーン、オクルに行って、詳しく話を聞いてみましょう。前回はエルゼについての調査でしたので...」
「パストング、助かる」
うんうん。皆が率先して動いてくれるのは助かるな。
「それはえぇけど、もしヴァンパイアが出たらどうするん?」
またしてもユリが疑問を口にする。まぁ、確かにそれが一番の問題ではあるな。
それを受けて、輝が天井を見ながら返事をする。
「ニンニクとか?十字架とか?」
「ニンニク?十字架?ニンニクは分かるが、それがヴァンパイアに有効なのか?そもそも十字架とは?」
タニアの疑問は当然...なのか?ともかく、こっちではニンニクも十字架もヴァンパイアに効くとは伝わってないようだ。
てか、十字架は宗教絡みだからな...そもそもこの世界での確認は出来ないか。
「あ~...私たちの世界では有効だと言われているものだな。まぁ、本当に効くかは分からないんだが...」
「副官殿の世界にもヴァンパイアが?」
「いや、いないよ。ヴァンパイアはお話の中の魔物なんでね」
パストングの質問に軽く返事をする。
そういや、この部屋のメンバーにはちゃんと私たちが異世界から来た事を伝えていたな。
「その割にはテクスへの対応はしっかりしていましたが?」
「不思議な事に、私の知っているヴァンパイアの弱点が合致しただけだよ。そういう意味では、以前タニアにも言ったが銀の武器も有効なはずだが...立証出来てないんだよな...もっとも、そういう場面は勘弁して欲しいとは思っているけど...」
「そう言えばそんな事を言っていたな。銀はいくつか渡したが、何か作ったのか?」
「銀の銃弾を作った。この拳銃用で弾丸は15発分だ」
懐からマガジンを取り出し、タニアに見せる。
弾丸の先端部分が、タニアから貰った銀で出来ているのだ。
「こんなものが...って、あれか、コボルド討伐の時の奴と一緒か?」
「あれはアサルトライフルで、もう少し大きい弾丸だ。で、これはこの拳銃の弾丸だ」
と、セーフティーをかけたまま拳銃を抜く。
「それは...カラーを拾った時の奴だな」
「拾っていただきありがとうございます」
私の拳銃を見たタニアが思い出し、カラーを見る。
そのタイミングで、カラーが綺麗なカーテシーをする。
どこで覚えた?そのカーテシー...。
っていうか、拾った訳じゃなかろう?
「コラコラ!猫を拾ったみたいに言わない!」
「猫は可愛いぞ?カラーは綺麗だぞ?」
「ありがとう、タニア」
カラーが満面の笑み...にはなっていないが、今までにない笑顔でタニアに御礼を言っている。しかし、カラーだけにじゃれ合っているのか、本当に喜んでいるのかちょっと分からんな。なんとなく、本当に喜んでいるように思うが...。
「話が噛み合わないからストップ!」
「ストップってなんだ?」
「あ~...えっと、『ストップ』は『止まれ』です」
この世界の言語には当然の如く日本語の「外来語」は無い。なので外来語は禁止にしていたんだが、ユリたちと違い私は自分の口で異世界語を操っているので、思わずルールを破ってしまった...。
「まぁ『ストップ』はともかく、リョウの拳銃用に15個の銀の弾丸?が出来たって事だな。そして、実際にヴァンパイアを倒した訳ではないので立証出来ないって事か」
「こっちの文献はあくまでも物語だからな。だが、妙に合っている所もあるのでバカには出来ない。ニンニクは生ものだし、臭いがきついので持ち歩けないが、十字架はなんとでもなるな」
「そうなのか?」
「あぁ、十字架はこっちで用意するよ」
ネットで買えば問題ないしな。
「あの~...僕のなんとなぁ~くの記憶なんだけど、十字架も銀製品じゃないとダメだったんじゃない?」
輝が自信なさげに手を上げて発言する。ちなみに、ここは教室じゃないから手を上げなくても良いんだけどな。
「あ~...そんな気もするわねぇ~」
「え?あれって、メッキでも良かったのでは?」
ユリが眉間に指を押し当てながら記憶を探り、葵がさらに発言する。
銀メッキかぁ~...書物では「銀製品」とあるので、メッキはダメな気がするぞ?
「そこまでは分かりません...でも、シルバークレイでの製法がありますから、作るだけなら簡単なはずでは?」
と葵が意見を言ってくれた。
確かに、シルバークレイなら簡単に十字架は作れるし、銀製になるよな。
「あ...じゃあ任せても良い?」
「はい、お兄様!お任せください!」
葵が請け負ってくれるらしい。こういう手先の器用さんが必要なものは葵は得意だからな。任せても安心だ。
「あ!私もやりたいわぁ~!」
「僕も僕も!!」
ユリも輝もやりたいらしい。まぁ、粘土細工だからな。小学校低学年になった気になって図画工作出来るだろう。
「じゃあ、3人に任せる」
「やったぁ!!じゃあ、材料は了くんが購入してね」
シルバークレイはなかなか高価だからな。それは私で購入するのは問題ない。
「分かった」
「他にも作っても良いですか?」
葵が上目遣いで聞いてくる。まぁ、一括で大量にシルバークレイを購入する予定だし、別に問題ないだろう。
「良いけど、程ほどにな」
「は~い!!」
シルバークレイはそこそこの値段がするが、ネットで完成した十字架を買うよりも安いだろう。
それよりもシルバークレイの製法を調べておこうか。こっちの方が安い可能性があるし、エルセリアの工芸品に出来るかも知れないしな。
さて、元々の目的だったエルゼの故郷の視察は、まさかの親がギルド長という事での速攻で確認完了となった。父親からの手紙を預かる事で、エルゼへのいざと言う時の対応は問題がなくなったと言って良いだろう。
ただ、その事で判明した、ヴァンパイア2体の事だが、さっきの会話でざっくりだが対応の準備は進めていく事が出来たと見て良いだろう。
しかし、何なんだろうなぁ~...問題の解決に向けて動いているのだが、どんどん問題が増えていく感じがあるんだよな...。
ロボの事は何も解決してないし、タニアの不調も、今は安定していると見れるが解決した訳ではないと思われる。それはセミアとレミがちょっとしたきっかけで奴隷だった時の苦悩を思い出してしまう、という現実を見て、やはりそういう心の傷というかトラウマは、簡単には消えはしないという事の再確認をしたからなのだが...。
まぁ、心の傷が治らないというのは、私も一緒なのだがな...。
「そう言えば、明日はカタランスへの挨拶と視察だな。準備は出来ているのか?」
と、タニアから逆に聞かれてしまった。
「そういうタニアはどうなんだ?」
「もちろん。準備は出来ているぞ」
「よし。日帰りの視察だが、初めての土地だからな。個人的には楽しみだ」
「港町だから、料理も楽しめると思うわよ」
「そうなのか?なおさら楽しみになったな」
あちこちを周って来たであろうミームが嬉しい情報を教えてくれた。
「そう言えば、リョウの家では魚が良く出てきたな」
「私たちの民族は魚料理が好きなのよねぇ~。特に了くんは焼き魚が好物よ」
我が家で焼き魚がそこそこ出たおかげで、タニアは箸の使い方を覚えたんだよな。
ちなみに私はサンマとホッケと鮭の焼き魚が好物であるので、ユリは当然知っている。あ、輝も葵も知ってるな。
「だったらベラクス焼き料理を試してみたら?美味しいぞ?」
「分かった。ベラクスだな。何とかして食べてみるよ」
あちこちを旅してきたミームの情報なら信用できるだろう。そもそもミームは食通だからな。
「明日のカタランス行きは、リョウとタニア様とカラーだけで行くのよね?」
今まで黙って聞いていたキャリーが口を挟む。
「そうだ。日帰りだから夜霧は持って行かない。であれば3人で行くしかない」
運転手と後部座席と側車だからな。
どうしようかなぁ~...バギータイプの自動車でも持ち込もうかなぁ~...。そっちの方が夜霧を牽引しやすいだろうし、電龍は...カラーかカリナに任せるのも良いかも知れない。
ま、それは後でちゃんと考えよう。
「一応、カタランスを取り仕切っている町長からは『お待ちしております』って返事が来ております」
とパストングが教えてくれる。
そういや、カタランスへの連絡はパストングにお願いしていたな。ちゃんと返事があったのは私は知らなかったので良かったよ。っていうか、当然返事はあるか。
「カタランスでの目的は、タニアが領主になった事の挨拶と、現地の視察だ」
「視察って...何をするのですか?」
葵が首を傾げながら聞いてくる。秀才だけど中身は中学一年生だからな。色々分からない事はある。
「カタランスは元々エバンの先祖が統治していた領地だ。37年前にエバンの父親が辺境伯になり、同時にエルセリア領主となった為、そこから根城をエルセリアに移したが、今でもエバンの息のかかった商人や騎士が潜伏...というか、普通に生活をしているんだ。要は、新しい主人はタニアだと宣言しに行くんだよ」
「それって...危なくないの?」
輝が恐る恐る聞いてくる。
「危ないな」
「ちょっ!!」
ユリが思わず立ち上がる。輝と葵もユリを挟んでしがみついている。
気持ちは有り難いが、危険なのは私じゃなくてタニアなんだよな。
「10日以上前にカタランスに先触れを出している。あちらもその気があれば相応の準備をしていると思う」
「そんな所にお姉様を連れて行くの!?」
リアが初めて危険だと言う事を知ったのだろう。私に抗議をしてきた。
「行かなければな。私はエルセリア領主なのだ」
厳かにタニアが宣言する。そうだ。これはタニアの問題なのだ。
しかし、私が何もしていない訳ではない。
「大丈夫だ。こちらも事前に準備をしている」
「準備?」
「私たちは電龍での移動なのですぐだが、それ以外の人員は一緒に行動出来ない。であれば、先に向かわせておくだけだ」
「すでに私の指示で、カタランスには30名の騎士が昨日入っています。現地で合流し副官殿の指揮下に入ります」
「30名の指揮官は?」
キャリーがパストングに聞く。キャリーは侍女だが戦闘もこなすので、こういう事は気になるのだろう。
「アラノスです」
「なぜアラノス?」
と、これはミーム。
「彼は管理業務が得意です。カタランスの状況を把握するには彼が一番適任でしょう。軍事行動に関しては副官殿がいれば問題ないかと」
「なるほどね。まぁ分かったよ」
「そう言えば、どうしてカリナは行かないの?」
「私は...」
「カリナには別の仕事を頼んでいるんだ。だから同行しない。タニアの安全はカラーが護る。今回は私も油断せずに完全武装で挑む」
リアの質問に私が答える。カリナには説明が難しいだろうしな。
「ちなみに、私にも色々と用意してくれたようだしな」
「出来るだけ安全にと思って用意した。鎖帷子と胸当て、簡易の兜、腰甲、手甲、足甲を用意した。いざと言う時は風の魔法を展開して弓矢を防ぐようにもなっている特別製だ」
今回はタニアが視察するという事になっているからな。タニアが行かないのはダメなのだ。なので、出来るだけタニアの安全を確保する。
「了くんは?」
「タニアほどの防具は着けないが、元々死神博士衣装は耐熱、対炎、耐衝撃仕様だから問題ない」
「そうやったわね...」
ユリは私の心配をしてくれたが、今回に限っては最重要安全確保者はタニアだ。
「ちなみに、僕の白衣とかも同じ仕様になってるんよ」
「輝ちゃんも了くんのお手伝いしてたもんねぇ...」
輝は私の実験を手伝ってくれるからな。安全には当然気を使っている。ユリもそれは知っているからな。
「で、カラーは人間では傷一つ付ける事が出来ない」
「なるほどねぇ~、基本的には問題ないわねぇ~」
「ともかく、今回の目的は視察だ。この準備が無駄になる事を祈っているよ」
さて、明日も休む事は出来ないな。夜霧のお風呂に入ってゆっくり休むとしよう。
だが、今回はこれだけエサは撒いたんだ...出来れば釣れてくれよ...。




