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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第7章 領地運営は苦し楽し
88/103

■■■ Step069 少しずつ確実に進む日常

パジャマパーティーの後、3日が経過した。

あれから輝も葵もよくセミアとレミとエルゼに会いに来てくれるようになった。

もちろん、輝も葵もこっちの言葉が全く理解できないので、いつものように瞬時翻訳機『刹那』と口語翻訳機『明暗』を渡しておいたので、会話には問題はない。


それにしても...この砦、女子率がかなり高いんじゃないのか?


領主のタニアを始め、リア、ミーム、キャリー、シャイン、セミア、レミ、エルゼ、カラー...は女子だな、うん。この時点で9人。

そして、ユリと輝と葵。さらにタニアの屋敷から移動してきた侍女たち5人。これで17人。

さらにマリアとカリナか...5階建てL字型の本邸に19人。女子だけで19人か...野球なら試合が出来るな。審判付きで。


ちなみに、砦本邸に寝泊まりしている男は私とパストング、その副官のエリーズ。あとはタニアの屋敷で働いていた侍従3人、使用人5人。そこに新たにアラノス君が入る。12人だ。少ないな...。女子よりも...。


補足しておくと、パストングは婚約者が居て、そろそろ結婚するらしい。副官のエリーズは既婚者で子どももいる。仕事が忙しく、五日は砦、一日は家へ帰る生活を三年続けているそうだ。頼もしいパパさんである。

タニアの屋敷で働いていた侍女は全員結婚している。相手は侍従3人と使用人2人。この世界は職場結婚が主流だそうだ。


そして、マリアとアラノスは結婚を前提としたカップルなので、同じ部屋にしてある。騎士に関して、女性と同棲というのは普通はありえないんだが、今回のマリアを獲得する条件が、「アラノスと同棲」だからな。

結果、実質浮いている男は、私、使用人3人だけ...すげーな結婚率。


そして、砦の具体的な部屋割りだが、本邸の4階にタニアの執務室とタニアの部屋、リアとミームの部屋、私の執務室兼部屋がある。その他、金庫や書籍部屋など、重要なものが4階に集まっている。

3階にはシャイン、キャリーを始めとした女性陣の部屋。

2階はパストングを始めとする男性陣の部屋。あと、マリアとアラノスの部屋とエルゼの部屋も2階だ。

1階は食堂や倉庫、応接室など、出入りの多いものが配置されている。なお、女性用のお風呂も1階だが、そこはセキュリティーガチガチにしてある。


で、5階なんだが、実はあまり使われていない。というのも、調度品や貴重品が収められていたようなんだが、領主暴動の際に結構持ち逃げされたのだ。まぁ、そんなものは必要ないのでどうでも良いんだがな。


なお、エルゼの部屋が2階なのは、夜霧でお風呂に入りやすくする為だ。

エルゼは本当に軽いので、セミアがおんぶで移動出来る。

やはり生きていると色々と汚れるからな。セミアとレミには、遠慮なく夜霧を使うように言ってある。最初は遠慮気味だったが、快適さには勝てず今では毎日夜霧でお風呂に入ったりトイレを使ったりしているそうだ。


で、夜霧の掃除は侍女たちでやってもらっている。

はっきり言って、トイレとお風呂の稼働率がかなり高いので掃除は必須だ。


ちなみに、侍女たちが掃除をしている理由としては、シャインに頼まれてトイレを女性陣に解放した際に掃除を条件にしたからだ。

で、その流れでお風呂も使ってもらっている。いや、別に良いんだよ?ちゃんとお風呂を使う時は「使用中」の札を立ててくれているからね。

でも、この状態だと移動する時に夜霧を持っていきにくくなるんだよな...。もし、私が夜霧を持っていったら我慢してもらうしかないんだけど...。


う~ん...これはあれだな...水洗トイレも作らなきゃだな...お風呂が出来たら作ろう。問題は排水だが...う~ん...簡単な下水処理を作るか...便利なスライムでもいないかなぁ~...。

いや、アニメやゲームのスライムは最弱だけど、本当のスライムは凶悪だからな。大きさは様々だが、人間ぐらいの大きさのアメーバーが、迫ってきて、取り込まれたら消火液で溶かされていく...というのを想像して欲しい。粘液なので、物理攻撃は基本効かない。燃やすのが一番効果的だが、スライムの居場所は遺跡などの地下施設だからな...そんな所で火を使ったら酸素が無くなって、こっちが危なくなる。

ともかく、タニアとミームに相談だな。



あれから魔力モーターの改善が進み、風力を二段階に変更出来るようにした。そして変速ギアももっと簡単に出来るようにした。

一度成功すれば、あとはそこから改良するだけで済む。やっぱり成功する事は大事なんだな。


そして、ベルトは皮ベルトに変え、汲み上げの桶も木製のものに変えてみた。それでも十分に稼働するようになっていたので、もうこれで完成で良いだろう。


ちなみに湯沸かしの方法だが、こっちも簡単にした。

まず、風呂場の中に設置した第一の桶に水を貯め、そこから第二の桶に水を移す。第二の桶は鉄で出来ていて、下から薪で温めるのだ。

温まった第二の桶のお湯をお風呂に入れ、第一の桶の水で温度を調整するのだ。


この場合、外から薪を燃やさないとダメだけど、第二の桶も大き目にしているので、お湯を沸かした後でもお風呂で十分温まれるはずだ。



お風呂の工事も進んでいて、今は壁をぶち抜き、排水の構造を組み込み中。

排水溝から地面を掘り進み、後で下水処理も出来るように地下に広い空間を作っておいた。

砦から湖までは2kmぐらいあるから、そこまで掘り進めるのは大変だからな。だが、下水処理機能は考えないとダメだな。健康維持には絶対だろう。


ペスト、コレラ、腸チフス、赤痢...ともかく不衛生は良くないからな。先に下水処理施設を作って、そこから下水道を整備しよう。

それまでは、砦の分だけでも処理できるようにしよう。


いきなり全部は無理だからな。出来る所から手を付けていこう。


まずはタニアに話を通さないとな。

何と言っても、タニアがエルセリア領主であり、私の上司なのだ。



「で?5階を何に使うって?」


タニアは執務室の机の上に両手を組み、その上に顎を乗せて私を見ている。その顔は楽しそうだ。

今度は何をするつもりだ?と、その表情は語っている。


では、お答えしましょう。


「色々と情報収集をする為の施設を作ろうと思ってな。カリナの仕事部屋を作りたいんだ」


最終的には、エルセリアの情報を一手に管理する部署にしようと思ってはいるんだけど、それは今は秘密の話だ。


「まぁ、部屋は余っているから別に構わんが、なぜ5階なんだ?」

「秘密情報を取り扱う事になるからな。出来るだけ隔離させやすい場所が良いんだ。5階は最上階だから制限するには丁度いいんだよ」

「なるほど、分かった。5階に関しては全てリョウの管理下に置くものとする。だが、報告はしてくれよ?」

「もちろん。助かるよ」

「いや、元々私の為にしてくれている事だからな。いつもありがとうな」


タニアが少し済まなさそうな顔をしたが、そこは見て見ぬふりだ。そもそも私がタニアを領主にしたんだからな。

しかし、これでタニアの承諾は貰ったから、まずは5階の一部屋を見繕わなきゃだな。


タニアの部屋にいたカリナを連れ出し、一旦自分の部屋に戻る。

いくつかの荷物があるが、一番軽いトランクをカリナに持たせ、それ以外は私が持つ。


私が持ちますと言うカリナを説き伏せて、5階に向かう。


「さて、カリナの仕事の準備をしていくんだけど、まずは訓練からだな」

「訓練...ですか?」

「そうだ。ビシビシ教えるから頑張れよ?」

「は...はい...」


カリナは緊張しているようだな。まぁ、何をさせられるか分かってないから当然と言えば当然か。


5階に上がり、物見の塔に近い方の角部屋に入る。かなり大きな部屋だ。

一応護衛としてカラーも一緒に付いて来てくれている。

まぁ、私の護衛というよりも、女性と二人きりで部屋に籠るのに抵抗があったので、カラーに付いて来てもらったっていうのが真相だ。


「じゃあ、早速訓練をしようか」

「えっと、この部屋でするんですか?」

「そうだよ。まず私がお手本を見せるから良く見ておいてくれ」

「わ...分かりました」


トランクの中から本体が15cmぐらいの大きさのドローンを取り出す。プロペラまで含めると30cm四方の大きさになる、小型ドローンだ。


「これは...なんですか?」

「これは私の使い魔のドローンというものだ。これを貸すから使いこなせるようになってもらう」

「これを!?使い魔をですか!?」


普通の感覚だと、使い魔は貸与出来ない存在だ。日本でファンタジー小説を読み漁った私でも、使い魔の貸与は聞いた事がない。

だが、ドローンは便宜上「使い魔」と言っているが、単純にアイテムだからな。


「そうだ。王城で話をしただろう?使い魔を貸すって。だが、使いこなすには訓練が必要だから、この部屋で訓練をして欲しいんだ」

「なるほど...」

「で、まずは簡単に説明するよ」


と、プロポを取り出して説明を始めようとしたタイミングでカラーが声を掛けてきた。


「ご主人様、私も教えていただいても良いですか?」

「ん?構わないよ。そうだね、カラーにも使えるようになってもらうと良いだろうな。よし、一緒に覚えてくれ」

「承知いたしました」


と言う訳で、ドローンの構造、操作方法、注意事項、実際に操作してどういうものかの説明を二人にした。

ドローンは壊れる事を想定して、10台用意してある。とは言え、そう簡単に壊れる事はない。せいぜいプロペラが破損するぐらいだ。


ドローンの練習をしてもらって分かったのは、カラーが異様に適応するのが早いという事。

カリナの覚えが悪いという事ではない。カリナも想定したよりも早く習得したのだが、カラーはそれを3倍上回っている。どこかの赤い人のようだ。


「これは興味深い。ドローンからの見た景色がここに見えるのですね」

「そうですね。これだけでもかなり有利な情報を得る事が出来ますね。例えば手紙の内容を盗み見るなどが簡単に出来ます...」


カラーとカリナの感想は正しい。そして、「諜報」という事の重要性を熟知しているカリナだからこそ、この事実がどれほど有利な事か分かるだろう。


「そうだ。自分の身を安全な所に置き、情報だけを手に入れるというこの方法...どうだ?出来そうか?」

「...出来ます...が、リョウ様...現場に行かないので安全ではあると思いますが、このドローンって秘密の存在にはならない...ですよね?」


本来、身を隠して情報を得るのが諜報活動だが、これはそのプロペラの音で気づかれてしまう。もしくは、存在そのものが見えてしまう。


「この使い魔はいずれ...いえ、すぐにエルセリアのものとバレてしまいます。使っていると分かりますが、これ、結構音が大きいですので存在そのものはすぐにバレてしまいますよ」

「その判断は正しい。ちなみに、カリナはどういう使い方を想定している?」

「え?それは...建物の中に入って、部屋に潜んで...」


あ~...なるほど。そういう使い方を想定していたのね。


「うん。そういう使い方もあるけど、それってかなり難しいって分かるよね?」

「はい。そもそもこの使い魔には腕が無いので、ドアを開けたり出来ません」

「正解。なので、そんな所には行きません」

「え?」


かなりびっくりしているな。しかし、さっきカリナ自身が言ったように、そういう使い方には向かないのだ。


「この使い魔の目はかなり遠い所も見えるようになっているんだ。例えば...あぁそうそう、物見の塔にも「目」が設置されているんだけど...」

「え?目ですか?」

「うん。カリナも知っての通り、この砦には私たちが知らない、クラスタンプだけが知る抜け道があって、潜入されると困るから「監視カメラ」を設置しているのは知っているよね?」

「はい。ここに来た時にリョウ様から説明を受けました」


砦本邸は全ての廊下を死角なしに監視している。現在、他の宿舎にも設置予定だが、今は手を付けてない...。


「よく覚えていました。で、同じようなものが物見の塔にも付けられていて...これを見て」


と言って、タブレットを見せる。

そこにはクラスタンプ方面を映した映像が表示されていた。まだ倍率が高くしていないので、エルセリア砦の外壁も見え、その向こうのエルセリアの街の外壁も見える。


「これは...クラスタンプの方角のようですね...確かにこれだけでも凄いですが...」


と、反応は薄い。まぁ、夜霧に乗り込んだりしてディスプレイからの映像に見慣れているからな。そんなもんだろう。だが...。


「さすが諜報員。で、これがこうなるとどうだ?」


カメラの倍率を上げ、遥か彼方の国境付近を映し出す。その向こうにはうっすらとクラスタンプ首都タカラスが見える。距離にして約41km。小高い丘の上からだから、なんとか見える位置だな。

そこから倍率を上げていく。


光学補正していないので、陽炎で映像がしっかりしないが、クラスタンプ首都タカラスが画面いっぱいになった。


「え?これって...」


カリナが目を丸くする横で、カラーがドヤ顔をしている。いや、なんでカラーがドヤ顔なんだよ。


「このように、かなり遠くのものでも大きくできる。だから、例えば窓から部屋の中を見るとか可能だ」

「こ...これは...本当に凄いです...」


カリナの目がタブレットに釘付けになっている。まぁそうだろうね。


「先にこれだけは言っておくけど、この情報を悪用する事は許さない。使い魔が得た情報は最終的に私も得る事になる。カリナの動きも当然監視される。ここまでの事を見ると分かるだろうが、今まで以上に監視される事になる。君が私を監視していたように...それでも...やるかい?」


私の質問にカリナが黙り込む。どうやら色々と考え込んでいるようだ。私もカリナの返答を急いだりせず、手近な椅子に座り、カリナを見る。


およそ1分、考えた末にカリナが口を開く。


「リョウ様は...私のような者をどう思っておいでですか?」


その表情は真剣なものだ。カリナとしては色々覚悟しているように見受けられる。絶対王政の組織だからな。仕方ない。

だが、私の答えは簡単だ。


「必要な職業であり、必要な者であり、重用しなければならない者であり、大切にしなければならない者だ」

「汚い職業だとは言わないのですか?」


あ~...そういう考えか。いや、客観視出来ていると判断できるが...。


「なぜ汚い?カリナは自分が汚いと思っているのか?」

「...はい...人の隙間に付けこみ、簡単に人を殺す職業です...」


う~ん...結構トラウマを抱えてそうだな...まぁ。諜報と暗殺を得意としているって言ってたからな。


「...そうだね。命令があれば、そういう事もする組織だったし、必要とあらば私も命令するだろうね。だけど、それによって国は支えられている。国にとって君たちは大切な組織なんだ。だからニアラブ様が管理しているんだろう?」

「はい...そうだと思います...」

「さて、私は君たちのような仕事をする者は、当然それ相応の責任が生じると考えている。君を管理する私にも当然責任がある。だから、己を律する必要がある。ニアラブ様は国王を退いた後も、その責任を果たしておられる。おそらく、秘密にしなければならない事は墓場まで持っていくだろうね。私もその覚悟はある。で、君にその覚悟はあるかい?」


もう一度、今度は違った覚悟で聞いてみる。


「不躾ながら、もう一つ聞いていいですか?」


おっと、質問を無視されてしまったが、別に怒るほどの事ではない。


「どうぞ」

「得られた情報をどうするおつもりですか?」


そっち?まぁ、決まっているけどね。


「セミアやレミやエルゼのような娘を出さないように活用する。それだけだよ」

「タニア様の為ではないのですか?」

「もちろん、タニアの為でもある。ただ情報を管理する以上不幸な者は出したくない。タニアはそう思っているよ。私も同じだし、その為に動く」


実際にタニアと話をしていたんだよね。現状維持も難しい領地運営だが、目標は高く設定しようって話。で、出来るだけ分かりやすいものにしようって事で決定したんだ。


「それは理想論ですよね?」

「当然、理想論だよ」


当然、タニアも分かっている。


「分かっていて、それを実行するのですか?」

「どこまで出来るか分からない。だから実行するんだよ」

「...失礼ながら...リョウ様は、偽善者ですか?」


偽善者か。確かにそういう側面もあるが、根本は違うんだな。


「違う、私は『悪の科学者』だよ」

「科学者?科学者は分からないですが、『悪』なんですよね?さっきまでおっしゃっていた話のどこに『悪』があるのですか?」

「カリナもさっき言ってたじゃないか。この仕事は汚い職業だって。君は『命令』でそれを実行するだけ。ただ悪意はない。あくまでも仕事だ。だが、私は『悪意』をもって君たちに命令をするんだ。十分『悪』だろう?」


タニアには汚い仕事はさせない。私が領主にしてしまったんだから、暗部は全て私で対応するんだ。そして、私の手足としてカリナを使役する。これほどの「悪」はないだろう?


私の言葉にしばらく固まっていたカリナだが、騎士がするように跪き、首を垂れる。


「...承知しました。ぜひリョウ様の手足として私をお使いください」


さっきの質問の答えとして、覚悟が出来たって事なのだろう。カリナのその行動と言葉に覚悟を感じた。心の中では「そこまでする必要ない」と思ったけど、これは通過儀礼であり茶番だな。しかし、意味はある。

椅子に座っていたが立ち上がり、カリナの前に立つ。


「カリナ、お前を我が配下に正式に組み入れる」

「ありがとうございます」


さらに深く首を垂れるカリナ。

数秒後に顔を上げるが、その顔は晴れやかだ。いや、にやついている...。


お前も茶番と思ってたのか?まぁそれで良い。私と同じ感覚のものであるのは、ある意味助かる。


「今から話す事はタニアやリア、ミーム、当然ここにいるカラーも知っている話なんだが...」

「秘密...という事でもないと?」

「一応秘密。だけど、バレた所で大きくは困らないって所だね」


そう言って、私が異世界の人間だという話をした。

ユリも輝も葵も異世界人と話しておいた。


「そうだったんですか...」

「そうだったんだよ」


ざっくりとタニアとの出会いから領主暴動阻止、領主任命式までの所を説明した。カリナは領主任命式からエルセリアに来ているからな。


「ともかく、私が異世界人という話は基本は秘密。まぁいずれ公開するつもりだけど、まだ先の話だ。これは王家を始めニアラブ様も知らない事だから、よろしく」

「と言う事は、これはニアラブ様にも言ってはいけないと言う事ですね?」

「基本は。でも、カリナの判断でニアラブ様に話をしても良いよ」

「いいのですか?」

「ただ、言ったら私にも連絡してくれ」

「...承知しました」

「ありがとう。じゃあ、ドローンの使い方を説明したから後は自分でも出来るだろう。このドローンを手足のように扱えるように、しばらくは練習してもらうよ」

「手足ですか?はい、分かりました。頑張ります」


さて、これでカリナは大丈夫だな。



それから三日後にはカリナはドローンの操縦をマスターしたのだった。


まずは第一段階の目で見ての操作だ。

これが意外と難しい。特に最初はドローンの前後が分からなくなったりして操作間違いを起こしたりする。だが、それについては先頭部に印が付いているので、慣れればすぐに対応できる。

ただ、前後が分かってもやっぱり操作するのは難しい。


ちなみに、私のドローンはモード1の設定になっている。右スティックが上昇下降と左右の移動、左スティックが前進後退と右旋回左旋回だ。


で、ドローンの操縦で何が難しいかと言えば、左右別々の操作をしなければならない事だ。当たり前と言えば当たり前だが、ラジコンカーでさえ普通はかなり訓練しないと難しいのに、ドローンは三次元操作なので普通に大変だ。その訓練だけで数日かかったりする。

が、カリナは一日でそれを習得。かなり本気で取り組んだんだろうな。


次がカメラだけで操作する訓練。これも難しい。

そもそも、これがカメラの映像だと認識し、その時のドローンの位置を把握するのが大変なのだ。特に剣と魔法の世界の住人であるカリナには特に。

まず、これがドローンから見た映像だと理解するのに時間がかかる。いや、説明したし分かっているのだが、それでも慣れないものは慣れないのだ。

だが、これもなんとか一日で習得した。


最後がVRゴーグルを被っての操作。これも大変...だと思ったのだが、案外簡単に出来たそうだ。

本来であれば、VRゴーグルでの操作は一番大変で、VR酔いを引き起こして操作どころではないはずなんだが、カリナはVR酔いをする事もなくドローンを操縦する事が出来たのだ。極稀にそういう人がいるそうだが、カリナがそうだったようだな。

ちなみに私もVR酔いにはならない。今はね。


で、三日後の今日はカリナの卒業試験...いや、卒業されたら困るな。免許取得試験みたいなものだ。その試験の為に私が立ち合い、上達具合を確認し、無事に合格となったのだ。


「私はその日の内にマスターしたのですが?」


と、私に詰め寄って来るのはカラーだ。


聞けば、カリナと一緒にドローン操作を覚える為に一緒に残って訓練したんだそう。そして、あっという間にVRでの操作まで終わったのだそう。

その後はカリナの教官として、色々と教えていたんだって。すげーなカラー...。


今では曲芸飛行も出来るそうで、実際に宙返りをしてくれた。ドローンでの宙返りは難しいんだぞ?



そして、カリナがドローン教習を合格したその日、女子風呂が完成した。


お風呂の完成は夕方だったので、夕食前にお風呂に入ってもらう事にした。


「じゃあ、早速お風呂にしようか」


私がそう言うと、女性陣が飛び上がって喜ぶ。カリナも喜んでいるな。


とりあえず、今日は初日だし、普段は女性陣でお風呂を管理運営してもらうので、女性陣には全員来てもらった。当然エルゼもだ。あと、男湯担当としてパストング、エリーズ、アラノス、その他下級士官10名程来てもらった。

同じ説明を複数回するのはしんどいからな。


エルゼには車いすに乗ってきてもらった。腕の力で移動しないとダメだが、その分腕力も付く。歩けるようになれば必要はないが、今は腕力だけが頼りだからな。


なお、車いすは私が最新式の軽量車いすを用意した。ロダンの所で作ってもらっても良いが、試行錯誤している時間はないからな。


「まず、この魔力モーターを操作して、井戸から水を汲み上げるんだ。どうしても自力でしたいなら使わなくてもいいが、お風呂に入る分自力で汲むのは大変だからな。ちゃんと使ってくれ」

「私とリョウの傑作だからな」


タニアが胸を張って補足してくれた。確かに今回の魔力モーターは傑作だと思うぞ。


「操作方法は簡単だ。まずこの棒を...」


と言いながら実際に操作する。ともかく簡単なので、すぐに覚えてもらった。


「で、井戸から水が汲みあがると、この樋を伝って風呂場の第一の桶に溜まる。ある程度溜まったら第二の桶に水を入れて、まずはお湯を沸かすまでの準備が出来る」

「リョウ、質問なんだけどさ」

「なんだ、ミーム」

「私たちが覗かれる心配はないんだな?」


当然、そういう事は気になるよな。


「無いぞ。まず、この水を取り込む所だけど、ここから覗いても向こうは見えないようにしているからな。あと、スクーニャ建築工房の工事が終わった後、タニアとリアとカラーと一緒に中を確認したが、変な覗き穴とかは無かった。もちろん脱衣所もだ」

「これは念のための確認だから怒らないでくれよ?カメラもないんだな?」


ミームがちょっと申し訳なさそうに聞いてくる。いや?当然の確認だろう?


「別に怒らないよ。当然、カメラもない。ただ、脱衣所の入り口前にはカメラを新たに設置した。人の出入りは確認しておかないと、お風呂で倒れていたら大変だからな」

「そういう事があるのか?」

「ある。お風呂が気持ちよくて長く入ってたりすると逆上せるんだ。そうなると身体が動かせなくなる。下手すれば溺れる」


案外お風呂の事故は多いからな。気を付けなければならない。


「本当か!?」

「本当だ。だから、出来るだけ二人以上でお風呂に入るようにしてくれ。緊急事態の場合、私が押し入るぞ?見られたくはないだろう?」

「あ~...リョウは見られる分には別に構わないが、パストングとかは嫌だな...」

「あ、アタシもパストングは嫌かな~...リョウは良いけど...」


ミームが言えばリアも同調する。パストングが小さくなっているぞ?


「普通に私もダメだろう。そもそもミームとリアだけじゃなく、他にもタニアやセミアとレミ、侍女も入るんだぞ?」

「あ、そうだな。侍女はリョウも困るだろうな」


どういう事だよ?ともかく、ここは深堀りしない方がいいだろう。


「ともかく、逆上せると危ないから気を付けてくれ」


第一の桶に水がある程度溜まると、自動的に第二の桶に水が入るようになっている。

外からそれぞれの桶の水量が分かるように、簡易メーターが壁に取り付けてある。


「先に薪をくべてもらっても良いけど、空焚きは問題があるからな。少なくとも第二の桶に半分ぐらい水が溜まってから火を入れるようにしてくれ」


そう言いながら、第二の桶に水がある程度溜まったので、用意した薪を竈に入れ、着火してお湯を沸かし始める。


「と、あとはお湯が沸いたらお風呂にお湯を入れて、第一の桶から水を入れて温度を調節したらお風呂に入れるぞ」

「調整は難しいのでしょうか?」


と、キャリーから質問が来る。


「う~ん...正直難しいかも知れないね。今はまだ気温が高くなっているので、多少温くても大丈夫じゃないかな?だから、今の季節の内に調整方法を確立したら良いんじゃないかな?」

「そこは実験を繰り返す...って事だな」

「そういう事だ」


タニアらしい返答に、私がそうだって返答する。


「ま、お風呂に関しては女性陣で色々確認してくれ。そしてその結果を男性用のお風呂が出来た時に教えて欲しいんだよ。先に女性用を作ったんだから、そこは協力してくれるととても嬉しいんだけど、良いかな?」

「全く問題ありません。私の方で運用方法についてはまとめておきます。それで良いでしょうか?」


と、これはシャインだ。さすが出来る女だ。


「悪いな。頼める?」

「お任せを。それに、このお風呂と言うのは夜霧で体験させていただいています。正直リョウ様には申し訳なく思っておりました。自分たちで管理出来るのであれば、これ程嬉しい事はございません。運用方法をまとめるぐらい、どうと言う事はございませんので、どうぞご安心を...」

「お...おう...だが、頑張らなくても良いからな?簡単に纏めてくれれば良い。男子は男子で自分たちに合った方法を見つけると思うからな?」


かなり褒められてしまったが、悪い気はしない。ちなみに彼女は22歳でユリよりも一つ年下だ。出来る女は年齢関係ないんだな。


「確かにそうですね。でも、私たちが管理するのにもまとめておく必要はありますから。あまりお気になさらずに...」


と、これはパストング。男性側は男性側で運用方法を決めなければならないだろう。そもそもほぼほぼ兵士が使用するからな。


「と言う事らしい。ま、女性のお風呂に関しては全てシャインに任せるけど、いいよね?」

「問題ございません。仰せのままに」


とか話をしている間に第二の桶に水が溜まり、お湯を沸かせる状態になる。


この段階になるとお風呂側にも人についてもらい、沸いたお湯を見ながら風呂にお湯を入れてもらいつつ、順次お湯を沸かす。正直調整は難しいが、お湯は出来るだけ熱めにしておき、後で水を入れて調整するのが簡単だと思うので、今回はそのようにしてみた。


実質、魔力モーターから水を汲み上げ、お湯を沸かしてお風呂に入れるようになるのに1時間ぐらい要した。


今回は私が外で竈に火を入れて随時お湯を沸かしたが、結構重労働だな。だが、この世界の人間は竈で火を扱うのがお手の物だ。問題ないだろう。

途中で侍女が交代を申し出てくれたぐらいだ。その手際は私とは比べるべくもない。そういう意味では私は竈の扱い最下位だな。年季が違うから仕方がないのだが。



お風呂にはまずはタニア、リア、ミーム、シャイン、キャリー、セミア、レミ、エルゼに入ってもらった。

その間も水を汲み上げ、お湯を沸かしていた。それを3グループに分けて入ってもらった。

今回は私が火の番をしていたが、次回からは女性陣で交代で対応してもらう事になる。


3グループが入浴を終えた時には夕食の時間が始まる時間だった。


「ご主人様、お疲れ様でした。途中で私が対応しても良かったのですが...」


カラーが女湯の作業が全て終わってから声を掛けてきてくれた。

ちなみに、カラーには第3グループに入ってもらい、侍女たちにお風呂の説明をしてもらったのだ。

第2グループはシャインが先生だ。


「いや、次回からは女性陣で運営してもらう事になるからな。初日だけだよ」


正直、竈を使った作業はこの世界の人間の方が良く分かっている。一回見れば問題ないだろう。


「男湯の方はどうされるんですか?」

「あっちは人数が多いからな。今回パストングを始めエリーズたちにも来てもらったんだ。お風呂が完成したら、すぐにでも入りたいだろうからな。あっちはパストングに丸投げするよ」


そういう意味では、パストングたち男性陣もこの世界の住人だから、私以上に竈の扱いは得意だろう。


「正しい判断ですね。では、食事に行きますか?」

「その前に夜霧で汗を流すよ。さすがに疲れたからね」

「背中を流しましょうか?」


カラーの表情はいつも通り無表情だが、その目は悪戯の光に溢れていた。


「流石に遠慮するよ。気持ちはとても嬉しいけどね」

「残念です」


カラーの寝言を背中に聞きながら、私は夜霧に入って行った。



翌日、タニアに断りを入れてカラーと一緒に首都に向かっている。今回は電龍のみでの移動だ。今回はクウィルお兄様のレイピアの確認だ。

魔力モーターについては、機械部分は私の世界の技術ならばなんとでもなる。逆に簡略化するのに手こずったぐらいだ。

おかげで、クウィルお兄様のレイピア作成に時間を割く事が出来た訳だ。


あ、当然ルーヴに連絡して、首都に行く事は伝えている。やっぱり便利だね、スマートフォン。


「行くのは良いが、本当に二人だけで行くのか?しかも日帰りとか正気か?」

「日帰りは『出来たら』の話だ。無理なら王城で一泊するつもりだ。流石にトモニアには泊まれないからな」


サラさんに怒られるのはもう勘弁だ。


「しかし、本当に夜霧を持っていかないのか?」

「あぁ。ちょっとした実験をしたいからな。それに電龍だけなら日帰り出来るはずなんだ」

「分かった。が、あまり無茶をするなよ?」

「大丈夫だ」


そんな会話をタニアとした後、電龍に跨り早々に出発する。前回もそうだったが、今回もタイムトライアルなのだ。


「ご主人様、今回は側車も外しているのですね」


後ろに乗っているカラーが疑問を口にする。

確かにほとんどの場合側車を取り付けているから、電龍だけの姿は珍しいのかもな。


「ちょっと実験したい事があってね。側車があると邪魔なんだよ」

「どのような実験なんですか?」

「ちょっと河を渡ろうかな~って」

「電龍でですか?電龍は船ではないですよね?」


ご意見ごもっとも。


「そうだけど、今回は船にしてみようと思ってね」

「どうやってですか?」

「口で説明するのは難しいから、実際に見てくれよ」


そんな会話をしながらハブとコヨンの中間辺りを目指して、出来るだけ急いで進む。

バイク単体での移動なので、40分ぐらいで着いてしまった。夜霧を牽くのがどれだけ大変か良く分かるな。


目の前には川幅約170mのチェーベン川がある。ここを渡ろうと思っている。

本当はもう少し川幅が狭い所が良いのだが、あまり人に見られたくないからな。


ソナーで川底の状態を確認。両岸がある程度浅い場所を選んだ。一応安全確保はしておきたいからな。


ゆっくり電龍の前輪を河の中に入れる。砂利が沢山あるので簡単には沈まない。これなら大丈夫だろう。もう少し電龍を進める。


「本当にここを渡るのですか?」


私の後ろに座っているカラーが腰に回した腕に力を少し入れつつ不安そうに聞いてきた。


「そうだよ。ちょっと濡れるかもしれないけど、我慢してくれな」

「それは良いのですが...」

「あ、ひょっとしてカラーは水が苦手?」

「いえ、そういう事は無いのですが、単純に泳げません。水浴びとかは問題ないのですが、このような河を渡る事が無かったものですから」


なるほど、そういうものか。そういやタニアとかは泳げるんだろうか?ミームは泳げそうだけどな。


「ともかく大丈夫だよ。だけど、念のためにライフジャケットは着てもらおうかな」


後部トランクを開け、オレンジ色のライフジャケットをカラーに取ってもらう。

そういや、着てもらうつもりで用意していたの忘れてたわ...。


「ライフジャケット?」

「これを着ていれば溺れる事はないよ」

「ご主人様は?」

「私は泳ぐのは得意なんだよ」


実際、吹田市の小学校は水泳に力を入れていて、6年生になったら遠泳もするぐらいだ。

あと、私は右手首のブレスレットには緊急用の風船が入っているので問題ない。


足が濡れるのは嫌なので、早々に準備しよう。

電龍のパネルを操作して、電龍下部に取り付けたゴムボートを展開する。


空気を送り込む毎に膨らみ、電龍が水に浮いた。


「これは!?」

「電龍単体だったら、これで河を渡る事が出来るようになっているんだよ。じゃあ行こうか」


ウォータージェット推進装置を稼働させ軽快に河を渡る。時間は約15分。もうちょっと早く移動出来るが、こういう事は『ご安全に』でいくものだ。


「案外簡単に渡れるものなのですね...」


ライフジャケットを脱ぎつつカラーが嘆息する。やはりちょっと緊張していたようだな。


「まぁ、実際に渡ったのは今回が初めてだけどね」


再度電龍のパネルを操作してゴムボートを収納していく。薄くした形状記憶合金と収納用に組み込んだ可動式の骨によってゴムボートが綺麗に折りたたまれていく。実験に一番時間がかかったんだよなぁ~...この機能。それに毎回切り離すってのは経済的じゃないし、そもそもゴミを出さないようにしないとダメだからな。


「初めてでもあんなに簡単に出来るものなのですか?」

「その分しっかりと実験しているよ」

「そういうものなのですか?」

「少なくとも私は実験をしっかりする方だね。いきなり本番をして、そこで失敗した事で改善するって人もいるけど、それだとちょっと被害が大きいから私はしないね」

「なるほど...面白いですね」

「そうだな。こういう事は十人十色だからな」

「十人十色?」

「十人居れば十通りの考え方があるって事だよ」


話をしている間にゴムボートも収納できた。首都まではもうちょっとだ。えっと...35kmぐらいだから50分ぐらいかな?



道中、何もなく首都に到着。いや、電龍単体だと本当に速いな。

首都到着前にルーヴに連絡を入れておいたので、クウィルお兄様を連れていつもの場所で待ってくれているだろう。

そのまま王城に入る。もう、勝手知ったる王城だな。


予想通り、いつもの場所にはルーヴが待っていてくれた。クウィルお兄様と...ニアラブ様に大将軍もいるぞ?


「お久しぶりです。ニアラブ様、大将軍様」

「久しぶり...というにはまだ早いが、本当にその日の内にエルセリアからここまで来よったか...」

「全く...常識というものを知らんのか」

「叔父様、リョウに常識を説くのは無謀というものです」

「リョウ様はお城では無理無茶無謀の代名詞になっています」


ニアラブ様、大将軍、クウィルお兄様、ルーヴの順に酷い事を言ってきた。

だが、ここで反論しても話が進まないので、強引に進める事にした。


「今日はクウィル様にレイピアをお持ちしただけなのですが、皆様はそれの見学...という事ですか?」

「正確にはお主が作ったレイピアの見学じゃがの」


あ~なるほど。


「では早速お渡ししますね」


そう言って後部トランクに取り付けておいたレイピアを取り出す。真っ黒な鞘に収まったレイピアは少しだけ反りが付いている。


「クウィル様、これをどうぞ」

「これが私のレイピアですか...」

「はい。私の星砕丸の兄弟刀になります。星突丸という銘を付けてありますが、クウィル様が自由に名前を付けていただいて良いですよ」

「星砕丸の時もそうですが、武器に名前を付けるのですね」


そうか、この世界では剣には名前を付けないのか。


「私の国では、大切に扱った物には命が宿ると信じております。だから名前を付けて命を宿すのです」

「そうなのですか?素晴らしい考えですね。でも、私にはそういう名前を付けるのが難しいでしょう。星突丸...でしたか?私もその名前でこのレイピアを呼ぶようにします」

「そう言っていただけると嬉しいです。あと、これも...」

「これは?」

「薄い革で作った手袋です。これを付けられたら手が滑りませんし、怪我をする事もなくなるでしょう」

「まぁ...何から何までありがとう。早速振ってみたいのですが良いですか?」

「もちろん、どうぞ」


クウィルお兄様は手袋をして、星突丸を腰に差し、周りに誰も居ない場所に移動する。


「クウィル様、反っている方を上にして抜いてください」

「分かりました」


一つ深呼吸をして、ゆっくりとレイピアを抜き放つ。わずかに青みがかった、輝く刀身が現れる。


「これは...」


思わず刀身を魅入るクウィルお兄様。この刀身は実は偶然なんだよね...。


「以前クウィル様が私の星砕丸を握られた事もあり、片刃にしています。突く事にも特化してますが、切る事も十分対応出来ます。あと、簡単に曲がりませんし折れないようにしてありますので、クウィル様の文字通り御守り刀にもなります」

「御守り刀?」

「終生、クウィル様の傍に存在し、その身を御守りする事が出来ます。星突丸はそういうレイピアになるように作りました」


それを聞いてどう思ったのか分からない。しばらく黙って刀身を見つめていたが、表情を改め静かに構えられた。

流れるように以前見せてもらった型をなぞらえていく。ただ、以前と違うのは本当に舞を舞っているように見える事だ。人物は同じなのに刀が違うだけでこれほど違うものなのか?


一通り型が終わったのだが、最後の上段からの切り込みのまま立っておられた。どうしたんだ?


クウィルお兄様がゆっくり振り返り、真剣な顔でこう言った。


「これ...どうやって鞘に納めるの?」


あ、普通のレイピアじゃないからな...。


「ちょっと待ってくださいね。説明します」


自分の星砕丸を持ちだし、クウィルお兄様の横に並び、星砕丸を抜く。

大将軍が何か言おうとしたが、ニアラブ様が素早く制してくれた。ありがたい。


「鞘は抜いた時と同じように、反った方を上にします。そして左手で鯉口...鞘の入り口部分をしっかり握ってこのように鞘を立てます」


と、鞘を垂直ではないが、かなり立てて見せる。


「かなり立てるのですね」

「そうですね。そしてレイピアですが、片刃なので反対側は危なくないので、このように鞘を持った手の...親指の付け根あたりに乗せます」

「こうですか?」

「はい。あとはレイピアをゆっくり引いていきます。すると切っ先がストンと鞘の入口に入ります」

「あ、本当だ」

「ここで鞘を縦から横にして、レイピアを納めます」

「これは、片刃だから出来る方法ですね」

「そうですね。両刃だと絶対に怪我をしてしまいますね」

「確かにそうですね」

「ともかく、抜刀と納刀はいままでと違うので練習してもらう必要があります」

「わかりました。頑張りましょう」


そこでニアラブ様が進み出てきた。


「で、リョウのレイピアはどうだったんじゃ?」

「かなり良い感じです。先日確認をした時と全く同じ感覚で振れました」


クウィルお兄様の顔は物凄く晴れやかだ。

その表情を見て、ニアラブ様は満足そうな顔になる。うん、良かった。


それを見ていた大将軍が難しい顔をして、クウィルお兄様に近づいてきた。


「クウィル、すまぬがお前のレイピアを見せてくれぬか?」

「はい。どうぞ叔父様」


大将軍も興味があるのだろう、レイピアを鞘ごと受け取り抜き放つ。

刀身を食い入るように見つめ、今度は軽く振る。二度三度振って、今度は刃筋を見る。


「なるほど、他人用にあしらったものがこれほど扱いにくいとは思わなかった。正しくクウィルの為だけのレイピアだな」


そう言って慣れた手つきで納刀し、クウィルお兄様にレイピアを返した。


「そうなのですね?私の場合はリョウと感覚が同じようなので、リョウの星砕丸もかなり自分に合っていました」

「星砕丸というのは、リョウが今持っている、その剣かね?」

「そうです」


剣ではなく刀なのだが、それは言うまい。


「ふむ。リョウ、良ければお前のその武器を見せてくれないか?」

「構いませんよ」


納刀してあるので、そのまま大将軍に手渡す。

受け取った大将軍はおもむろに抜刀する。


大将軍と呼ばれるだけあって、初めての武器も手慣れたものだな。


「ほう...これは凄い業物だな」

「ありがとうございます」

「確かに、先ほどのレイピアと同じだな。しかし。なぜかこれは私も使いやすいぞ?」


そうなのか?そういう感覚は私には分からない。


「恐らくですが、剣術は素人の私なので、出来るだけ使いやすいようにしたものですから...。レイピアの方は握る所をクウィル様専用にしているので、その分他の皆様には使いにくいものになっていると思われます」


と、思いつく事を並べてみる。実際にそうなのかは正直不明だ。

というのも、実は私もクウィル様のレイピアを試しに振っていたのだが、かなり使いやすかったのだ。手の大きさとか違うんだけどな...何故だろう。


「確かにそうかもな。いや、これは確かにクウィルが欲しいと言うのが分かる。どうだ、私にも一本作ってくれまいか?」


有難いが、責任重大やん!?


「えぇ!?いや、それは流石に遠慮させていただきますよ。クウィル様は握りが合わなくてお怪我をされていたので申し出ましたが、大将軍はそんな事はないですよね?それに今お使いの武器に不満がある訳でもなさそうなのですが?」

「確かに今の武器に不満はないのだが?」


と、渋々認める大将軍。不満が無いならいいじゃないか。


「であればこそです。先ほども言いましたが、大切に扱うものには魂が宿ります。今まで大切にしてきた武器なのですから、まずは最後まで使ってあげるべきだと思いますよ」

「本当に王族に向かっても容赦なく言う奴だな。物言いは気に喰わないが、言っている事は大いに納得できる。そうだな、きちんと使ってやるべきだな。だが、もし武器が壊れたりしたら作ってくれるか?」


なんで食い下がってくるんだ?そもそも大将軍の武器はグレートアックスと聞くぞ?めっちゃ作るの難しそうなんですけど?


「その時は」

「よし!言質を取ったからな!」


と、言うと意気揚々と王城に戻って行った。う~ん...何しに出てきたんだ?大将軍は...てか普通に面倒くさい...。


それを黙って見送ったニアラブ様は、何故か私を睨んでいる。


「お主...本当に恐ろしい奴じゃの...」


何となく言いたい事は分かる。

大将軍は私の事を一番良くないと思っている一人だ。それが機嫌よく帰っていくのは知っている人から見れば驚きだろう。

実際、クウィルお兄様はびっくりして固まっているんだから。


だが、そんな事は気が付かない方が良いだろう。ここはスルーだ。


「は?何を言ってるんですか?実質国王のニアラブ様」

「お前はエルセリアの影の支配者じゃろうに」

「カリナがそう言ってたんですか?」

「儂の感想じゃ」

「その感想は間違ってますよ。タニアはしっかりと領主として動いています」

「ルイクスもしっかり国王をしておるわい」

「...」

「...」

「引き分けですね...」

「ふん!お主にはまだまだ負けんわい」


ニアラブ様も私の意図に気づきつつ合わせてくれる。やりやすいけど、本当にやりにくいな。

ちなみに、クウィルお兄様はびっくり眼で固まっている。そりゃそうだろうな。


「はいはい。二人ともそこら辺で。リョウ様、お昼は召し上がるんですよね?」


タイミングよくルーヴが声を掛けてくれる。


「あぁ、お城の料理は美味しいからな。楽しみにしていたんだよ」

「じゃあ、今日は綺麗な花園でのお食事にご案内しますね?」


花園?お城にそんな場所があるのか?


「その昼食会には私も参加しますよ?」

「儂は参加せんぞ。恐ろしゅうて無理じゃわい」

「お爺様?告げ口しますよ?」

「安心せい。目の前で言ってやったわい」

「...さすがお爺様...御見それしました...」

「クウィルも儂を負かそうとするならば、もっと精進せんとな」


なんだ?そんなに恐ろしい昼食会になるのか?


「え~っと、私も辞退...」

「却下です」

「無理ですね」

「骨は拾ってやるわい」


え~!!なんで!?


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