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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第7章 領地運営は苦し楽し
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■■■ Step066 縁で繋がるマッドサイエンティストと迷走

パニックになっていたタニアに右手を見せて、安心させた。

しかし、改めて考えると魔狼に甘噛みされるって、かなり貴重な体験だよな。その後舐められたし...。


ん?最初から舐めてくれても良かったんじゃないのか?ひょっとして、ロボに遊ばれたのか?


う~ん...まぁ良いか。こっちは拳だから、対抗するなら噛むしかないか...。こっちはグーで向こうはパー...いやチョキか?それこそどうでも良いか。


「ご主人様、今後はこのような無茶は控えてくださいね」


背後に「ゴゴゴゴゴゴゴ」という効果音を背負ったカラーが私を睨んでいる。


「あ~いや、すまん...まさか、ロボがあんな行動に出るとは思ってなかったから...」

「それは分かりますが、あれではご主人様を守れません」

「そうだな。いや、本当にごめん。気を付けるよ」

「お願いします。ですが、ロボに関しては普通の魔狼でない事は認識しました。近づくのはロボとブランカ限定でお願いします」

「向こうもロボとブランカ以外は近づかないと思うけど、分かったよ。あと子狼ぐらいまでは良いだろう?」


こちらから近づく気はないが、近づいて来る子狼を避けるのは難しいからな。


「子狼は...まぁ良いです」


いいのかよ。っていうか、良かったわ。


「じゃあ、子狼は近づいてもいいんだな?」


と乱入するタニア嬢。気持ちは分かる。だが...。


「ダメだよ」

「ダメです」

「どうして!?」

「こっちから近づいたらダメだ。あっちから近づくのは良い」


ここは譲れない。下手するとタニアがロボに噛まれる。おそらく甘噛みになるだろうけど、衝撃度が違うからな。


「じゃあ、肉を持っておびき寄せたら...」

「ロボからしたら、肉でおびき寄せて連れ去ろうとしている悪い人間にしか見えないからダメ!」


私もやりそうだが、絶対ダメな方法だぞ!?


「そんな...さっき、リョウの傍に子狼が来たじゃないか。アレはどうしてなんだ?」

「子狼が私とロボは対等な存在と思ったんじゃないのか?そうじゃなければ子狼と言えど近づかないはずだ。タニアは忘れているようだから改めて言うけど、あいつらはあくまでも魔狼なんだ。人間とは相いれない存在っていうのを忘れたらダメだ」


自分で言っていて矛盾していると思うが、本気でロボと私の関係をタニアが持っているとは思えない。

おそらく、ギリギリでカラーぐらいだ。


理由は簡単。カラーは絶対に私の安全を取ろうとしている。それに魔狼達は気が付いている...はずだからだ。


そういう形で直接関わっていない人間は、魔狼とコミュニケーションを取れない。


もっとも、カラーの場合は攻撃できないとしても、魔狼の前に立ちふさがって私の安全を確保しようとする、その雰囲気があるからな。


「でもリョウは...って、いや、リョウだからか...確かにそうかもな」

「なんだ?急に納得して」


突然冷静になったタニアが分からない。

こういう事は今まで無かったぞ?


「リョウは自分の事が分かっていないんだろうが、影響力が強すぎるんだ。私も影響を受けたしな。私が知る限り、私の周りで一番影響を受けたのはリアだろう」

「リア?」


唐突に何を言いだすんだ?


「リョウも知っている通り、リアは頭が悪い訳ではないが考える事が苦手だった。だが、リョウと会話をする事で考える事に興味を持ち、今は自分で色々考えて行動するように変わった」

「そういや、最近はリアとしっかりと話をする事がなくなったなぁ~」


確かにタニアの言う通りだが、私の介入が無くてもちゃんと考えるようにはなると思うぞ?

リアは感受性は高い。今までは感受性のままに反応をしていただけなんだろうが、それだと行き詰まる。行き詰まるとどうするか?考えるようになる。そうすると、今のように考えて行動するようになる。

だから、私との会話はきっかけが早まっただけで、リアは遅かれ早かれ、その才能を開花させる事になっただろうな。


「次はセミアとレミだろうな。元奴隷だったので自主性が無かったが、今はエルゼの為に一生懸命に動いている。おそらくリョウが二人に対して一生懸命だった事が影響したんだろう。ともかく、同じようにロボも影響を受けて、今の関係になったんだろう。だから、あくまでもリョウ限定なんだろうな」

「その考察、面白いな」

「お前の事だぞ!?」

「まぁそうだけど、自分の事をそういう風に見る事はないからな。自分を知るには良い情報だな」

「はぁ...それこそリョウらしいな」

「ともかく、教えてもらって有難うっていう事と、改めてあいつらはあくまでも魔狼だという事を覚えておくようにって事だ」

「分かったよ」


さて、一通り話が終わってカリナを見ると、考え込んでいた。


「カリナ、何を考え込んでいるんだ?」

「え?...ニアラブ様にこの件を報告すべきかどうか...」


え?そのまま報告すればいいんじゃないのか?


「報告したらいいだろ?私は何も困らないぞ?」

「魔狼の為に国に敵対するって言ってましたけど?」

「あくまでもロボ達だけだぞ?」

「国はどうやってロボを特定するんですか?」

「...そもそもの話、ロボは人間を襲わない。だから実際の所、国に敵対する事にはならないぞ?」


なんか話が噛み合わないな...。


「誰が信じるんですか?その話...リョウ様の事だから、ロボが人間に襲われたら絶対に助けるでしょ?」

「助けに行く事が出来る場合、助けに行くぞ」

「相手が近衛兵でもですよね」

「近衛兵でもだ。だが、そもそもの話、相手がどういう人間であれ、いきなり攻撃はしないと思うぞ?まずはロボ達を逃がす。そして、状況というか理由を聞くぞ。あと、そもそもの話だが、ロボが人間に襲われるような事はそうそう起こらないと思うぞ?」


ロボはどう見てもかなり賢い。状況判断は的確だし、群れの統率もしっかりしている。正直カリナの心配事が大げさな気がする。


「そうですけど、正直『魔狼狩り』みたいな事をする貴族がいたりするので、かなり危険な話になる気がしてて...」


なぬ!?魔狼狩り!?


「なんだよ、その魔狼狩りっていうのは」

「貴族の嗜み...みたいなもので、魔狼は適度に強い魔物なので、適度に実績が得られるというものでして...」

「あ~...私の国では鷹狩りとかキツネ狩りとかあったな...」


あれも武士の嗜み...みたいな奴だったよな...。


「鷹ですか?」

「貴族...まぁ武将なんだけど、武将が元々鷹を持っていて、鷹に狩りをさせるというもので、鷹を狩るわけじゃないんだよ」

「そうなんですね...じゃあキツネ狩りも?」

「そっちは普通にキツネを狩るぞ」

「ややこしいですね...ともかく、魔狼狩りというのは一般的な貴族の嗜みなので、かなり影響が出そうです...」

「...魔狼狩りね...子狼が少ないのも関係があるかもしれないな...」


馬で追いかけ回して、逃げ遅れた子どもを襲うとか...それ、狩りのルール違反なんじゃないのか?


「あ~...わ...わかりません...」

「ご主人様...黒いのが漏れてますよ」

「あ、すまない」


また黒いオーラを放っていたようだ。

マインドコントロール、マインドコントロール...。


「黒いの消えました」

「判定ありがとう」

「いえ。ほら、カリナ。もう大丈夫ですよ」


どうやら、私から黒いオーラが出ていたので、カリナが恐れていたようだな。


「はい。有難うございます。ともかく、ニアラブ様にはちゃんと報告するようにします」

「悪いが頼むよ。って言うか、そもそもの話だと、魔狼狩りは貴族の文化の一部って事なんだよな...う~ん...正直色々難しいだろうな...でも、ロボが襲われたら絶対に助けるしなぁ~...」

「ですよね...」


カリナのテンションが下がる。まぁ、分からなくもないが、残念ながらロボと縁が出来てしまったからな。これを無視するのは難しい。


「ま、今はニアラブ様に連絡するだけでも良いさ。ロボの事は別に考えよう」

「ちなみに、ロボだけですよね?他の魔狼もって事にはならないですよね?」

「ロボだけだよ。他の魔狼は知らないからな。そもそもそこまで手広くは出来ないし、魔狼も人間を襲う奴もいるだろう?そういうのは対象外だから」

「良かったぁ~...」


本当に安堵したようだ。てか、私はそんなに非常識ではないつもりなんだが...。


「あのさ~...一応は人間優先なんだけど?」

「でも、少なくともそこら辺の人間よりはロボが特別って事なんですよね?」

「縁のない人間だったらそうだよ」

「...ともかく分かりました。報告はさせていただきますので...」


カリナが頭を抱えながら返答する。君を私の所に送ったニアラブ様を恨んでくれ。私は知らんからな。


「あ、そうだ。話せる範囲で良いんだけど、他に何を報告するつもりなんだ?」

「えっと、他にはお風呂の件と、ヴァンパイアの件ですね。テクスの事は調査もしないとなので」

「テクスの事は確かに詳しく調査が必要だな。そっちはよろしく頼む」

「お任せを」


という話をして、あとはダラダラとお風呂に入ったり、お茶をしたりして過ごした。



翌朝、いつものように外に出ると、いつものように魔狼達が並んでいる。子狼たちも並んでいて微笑ましい。


「じゃあ、またな」

「ウォゥ」


そしていつものように別れた。


せっかくの縁だからな。ロボ達が幸せになってくれれば良いんだけどな。ともかく、また考える事が出来た。



少し急いで首都に入り、王城に入る。


いつもの場所に電龍と夜霧を止めるとルーヴが現れた。


「ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりましたよ?」


見事なカーテシーを決めてきたな。

前回はかなり迷惑をかけたようなので、その事も含め少し意地悪な雰囲気が出ている。


まぁ、私の自業自得なので黙って受け入れるしかないのだが...。


「やぁルーヴ。今回はちゃんと連絡があったから大丈夫だろう?」

「そうですね。なので、今回は誰も慌てていませんよ?」

「良かった」

「あ、1人だけそわそわしている人がおりました」


え?どういう事?


「そわそわ?」

「ちょ...ちょっとルーヴ!!」


離れた場所に佇んでいたクウィルお兄様が小走りにやって来る。

安定の男の娘だ。ちなみに、今日は黄色のドレスだ。


クウィルお兄様の後ろから大柄な男性が歩いて来る。あれは...ガーランドお兄様?


「これはガーランド様、お久しぶりです」

「あぁ久しぶり。相変わらず元気そうだな」


ガーランドお兄様は気さくな方なので、結構話しやすいんだよな。


「はい。タニアのおかげです。クウィル様はお久しぶりという程でもありませんが、それよりも丁度良かったです」

「ちょ...丁度良かった?」

「はい。以前お約束させていただいたレイピアの件です」

「え!?もう出来たとか!?」

「まさか。流石にそれは無理です。ですが、レイピアの握り部分のサンプルが出来ています。ちょっと待ってくださいね」


一旦夜霧に戻り、3Dプリンタで生成した握り部分を持ってきてクウィル様に手渡す。


「本当に握り部分だけなのですね。それでもこの速さで出来るとは...凄いですね」

「いえ。これぐらいは本当にすぐですが、ここから先は時間がかかりますので、ご容赦ください」

「それは承知しているから大丈夫ですよ。では、確認しますね」


そう言って、手渡したレイピアの握り部分を慎重に握ってみる。手首を捻ったり、手首だけで振ってみたりして確認をしている。

それを横からガーランドお兄様が覗き込んでいる。その顔は...真剣そのものだ。


「ほう...凄いですね...今まで指を引っかけていた所と手を防護している所が合っていなかったのですが、これはしっくりしますね...」

「本当ですか?それは良かったですが...あ、ちょっと待ってくださいね」


と、もう一度夜霧に戻り、鉄の細めの棒を持ってくる。


「これはバランスを見る為のものです。これを剣の部分に取り付けて...はい、これで一度振ってもらえますか?私の感覚で星砕丸と同じような釣り合いにしていますが、レイピアと刀では握りが違うので、バランスが変わるはずです。試してみて下さい」

「ありがとう」


そう言うと、剣を立てて構え、まっすぐ突き出すように振る。

そこからいくつかの型を振って、私の顔を見る。その顔は少し曇っている。


「リョウ、実際に振ってみると握りが少しだけ細い気がする。あと、剣の釣り合いも変だ」

「なるほど。ちょっと貸してください」


確認用のレイピアを受け取ると、まず握りの部分にビニールテープを巻いて太くする。そして、取り付けた棒に付けた重りを動かし、重心をもう少し手元に来るように調整して、クウィルお兄様に手渡す。


「これでもう一度お願いします」

「もう良いのですか?本当に凄いですね...では、もう一度確認しますね」


クウィルお兄様はもう一度先ほどと同じ動きをして確認をする。

ん?先ほどよりも動きが良いと言うか、躍動している?


最後の一突きの姿勢で止まり、数秒経つ。


どうしたんだ?


と思っていたら、急に私の手を取り、胸に飛び込まんばかりに正面から近づく。

近い!近い!近い!


「リョウ!凄いですね!先ほどとは全然違います!特にこの握りは手に吸い付きます!剣の部分もとても振りやすくなっています!作るものはこれと同じものになるんですよね!?」

「は...はい...そのつもりですし、実際に出来てからでもある程度は調整出来るので、大丈夫ですよ」

「そうですか!ありがとう!完成がとても楽しみです!」

「そこまで喜んで頂けるとは...恐縮です」

「お兄様!近すぎます!!」

「え?...あぁああ!!ごめんなさいね!!」


と、慌てて離れるクウィルお兄様。


「あ~...お気になさらずに...ともかく、レイピアはこれを元に作りますので、今しばらくお待ちください」

「わかりました。お願いしますね」


手に持っていたレイピアもどきを私に返そうとするクウィルお兄様に、ガーランドお兄様が話しかける。


「クウィル、すまないが、私にもお前のレイピアを握らせてもらえないか?」

「お兄様がですか?これは私の手に合わせているので、お兄様には合わないと思いますが...」


どうみてもガーランドお兄様の手はクウィルお兄様よりも、私よりも大きくてゴツい。


「もちろん承知している。ただ、興味があっての話だ」

「私は構いませんが...」

「私も構いませんよ。ひょっとしたら何かご意見が頂けるかも知れませんし」

「おいおい、そういうつもりはないさ。本当に興味本位なだけだから」

「では、お兄様。これを...」

「ありがとう」


そう言うと、ガーランドお兄様はクウィルお兄様と同じように構え、ゆっくりと型をなぞられた。


その動きは、クウィルお兄様のレイピアの模型が壊れないようにしているかのようだ。


「ふむ。確かに良い感じのレイピアだな。確かにクウィルに合わせているので私には全然合っていない。しかし、なるほど...これがお前に合うという事なのだな」

「はい」

「リョウ。悪いがクウィルのレイピアの事は頼む。私はおおざっぱなのでな、こういう細かな事は苦手なのだ」

「何をおっしゃいますか。ガーランド様はクウィル様の事を考えておいでなのは良く分かりますよ。ともかく、レイピアの事はお任せください」

「あぁ、よろしく頼む」

「よろしくね」

「はい」


ふむ。クウィルお兄様はともかく、ガーランドお兄様とも仲良くなれたのかもな。

と、考えていたらガーランドお兄様がタニアに挨拶をしていた。


「タニアも元気そうだな。ここまで来るのは大変ではないのか?」

「ガーランドお兄様、クウィルお兄様、お二方は私に目もくれず、すぐにリョウに挨拶されましたね?どういうおつもりで?」


背後にゴゴゴゴという擬音が出てそうな雰囲気を纏い、腕を組んでお兄様ズを睨むタニア。

おいおい、怖いんですけど?


「えぇ!?いや...どういうつもりもないのだが...なぁ、クウィル」

「えぇ!?あ、ごめんなさいねタニア。私はリョウのレイピアがどうしても気になって...」


お兄様ズがなぜかタジタジになっている。タニアは実は怖い存在だったのか?


「ふふふっ...冗談ですよ。分かっています。ちょっと意地悪をしたくなってしまいました。申し訳ございません」


突然雰囲気を変えて、可愛く笑うタニア。

それを見て呆気にとられるお兄様ズ。ちなみに私も呆気に取られています...。


「あぁ...いや...そうか...冗談だったのか...正直焦ってしまったぞ?」

「本当です。でも、改めてごめんなさいね。今後は冗談を言われないようにちゃんと先にタニアに挨拶するようにします」

「えぇ!?いや...そんなつもりじゃ...」

「ふふ...それこそ、冗談ですよ」

「あ...」


ふむふむ。王家とは言え従兄妹同士だもんな。仲が良いのは良い事だ。



さて、ガーランドお兄様とクウィルお兄様はお城へと戻って行った。

ん?クウィルお兄様は心なしかスキップしている?


ふう~...これでまずは目的の一つは終わったな。


「タニア様、リョウ様、私はニアラブ様に報告がしたいのですが...」


と、後ろに控えていたカリナが声を掛けてくる。

おっと、そうだったな。


「あぁ分かった。後で迎えに来るから...と、これ持ってて」


と言って、予備のスマートフォンを渡す。


「え?これは?」

「いつ迎えに来るか分からないと困るだろう?こっちから鳴らすから...って、実際にやれば分かるか」


と言って、簡単に使い方を説明する。

今後、諜報活動をするので、どうせ渡すのだ。今は簡単に説明だけして、エルセリアに戻ってから本格的に色々説明しよう。今は私と通話出来るようになれば問題ない。


ともかく、私を呼び出す事と、私からの呼び出しに出る事が出来るようになった。

着信は...緑のマークをスライドさせるだけだから難しくはない。

呼び出しも今は私だけだからな。これも簡単に覚えてくれた。


「えっと...よろしいのですか?」


スマートフォンを握りしめ、上目遣いに見てくる。

まぁ、秘密の道具ではあるけど、エルセリアで働いてもらうんだから必要なんだよな。


「どうせ渡さないとダメだったんだ、問題ない。これと同じ物をニアラブ様に渡すかどうかは、今後のカリナの働き次第だからね」

「しょ...承知しました...」

「そんなに固くならなくても良いよ。仕事はちゃんとするつもりなんだろう?」

「そうですが...私はリョウ様の監視も兼ねているんですよ?」

「見られて困る事はしていないつもりだから、それこそ気にする必要はない。じゃあ、行っておいで」

「はい。失礼します」


そう言うと足早に城に向かって行った。


「さて...ルーヴ。アラノスとマリアの所に行きたいんだが、教えてくれないか?」

「えぇもちろん。では参りましょうか?」



どうしてこうなったのかは分からないが、何故かルーヴが私の後ろに座り、タニアが側車に乗っている。

ルーヴが「今しかないので!」と言って、タニアにお願いしての結果なのだが...なぜ私の後ろに乗りたがる?暑くないのか?そもそも、そのメイド服のスカートの丈では色々と危ないと思うのだが...この世界はオープンなのか?...謎は深まるばかりだ。


ルーヴの案内でとある小さな一軒家に到着した。アラノスとマリアはここを借りていたんだそう。


「マリア~!!来たよ~!!」


ルーヴが電龍から降りると、マリアを呼びながら一軒家に駆け込む。

そして、移動が止まったので夜霧からタニアが降りてきた。


「なあ...ルーヴとマリアって知り合いなのか?」

「あぁ、マリアは私の友人だが、その繋がりでルーヴともキャリーとも知り合いなのだ」

「あ、そうなんだ」


世間は狭いんだな。



「本当に来てくれたのね。そんなに荷物はないから乗せるのは問題ないと思うけど、大丈夫?」


早速マリアが家から出てくる。手には引っ越しの荷物であろう箱を持っている。

...あれ?ルーヴが出てこないぞ?


と、思っていたらマリアがおもむろに夜霧に乗り込もうとする。

夜霧は指紋登録しているので、マリアは扉を開ける事が出来ないぞ?


「待て待て。まずはどれだけ荷物があるか確認させてくれ。その荷物は...とりあえず乗せようか...」

「あ、お願い」


あっさりしてんな~...。


とにかく、箱を夜霧に乗せ、一緒に家に向かう。

当然タニアも一緒だ。


「マリアは相変わらずだな」

「そういうタニアも変わらない...って事はないか。今や領主様だもんね」

「ま、なんとかやってるさ。で、今度からマリアにも手伝ってもらうぞ」

「任せて。お金の計算と帳簿整理は得意だからね」


ふむ。タニアにも気兼ねなく話せる友人がいるという事はなんとなく嬉しいな。

ユリに対してはまだちょっと固い所があるもんな~...。


「で?ルーヴはどうした?」

「奥でアラノスと話をしてるわよ?」

「あの二人も知り合い同士だからな」

「世の中狭いわよね~」


そうなのか!?いや、確かに狭いな!!



まずは荷物を運び込んでから、という事で挨拶もそこそこに荷物を運び込む。


荷物も多くは無く、私とアラノス、カラーも交えて合計6人で荷物を運び込むとあっという間に終わった。

そもそも荷物が多くは無い。多少の衣服、多少の本、多少の食器、多少の小物。それだけだ。


荷物も私のロフトの下に積み上げた。

引っ越し用段ボール12個分...ぐらいかな?積み上げても大した量ではない。が、これを馬車で運んでとなると大変だろうな。


さて、荷物を積み込んだので、少し休憩という事で、今は夜霧の中に入り、紅茶を飲んでいる。もっとも私はコーヒーだが。


「初めまして。あなたが高名なエルセリアの副官殿ですか。会えて光栄です。これよりお世話になります。私はアラノス・スタミックスと申します」

「これは丁寧に。タニアの副官のリョウ・カダヤです。ちなみに、『高名』とは...」

「『突撃の副官』というお名前が...」

「それは勘弁してくれ...」

「え?違うのですか?」

「違わないが...それ、軍の中では普通の話なのか?」

「普通って言うか...常識?」


常識なんかい!?


「あ~...ともかく、エルセリアでは私の下ではなく、パストング大隊長の下に付いてもらう事になるから、よろしく」

「はい。分かりました」

「で、私はどうするの?タニアの下?」

「そうですね~...まずはタニアの下に付いて下さい」

「おい、私は会計なんぞ出来ないぞ?」


そうなのか?いや、単に会計をしている時間はないって事だろう。


「あれ?今金庫を握っているのは誰だっけ?」

「シャインだぞ」

「じゃあ、まずはシャインの話を聞いて...って、そこには私も入ろうか。タニア、一緒に状況確認をしよう」

「そ...そうだな...認識は合わせなきゃだものな」


というと、少しソワソワする。ん~...なんだかタニアらしくないな。


「ん?どうした?」

「いや...数字にはあまり強くなくてな...少し不安なんだ」


まぁ、会計...というかお金の管理はシビアだからな。そりゃ尻込みするだろうな。

私も自治会の会計をした事はあるが、アレは色んな意味でシビアだった...。


「あ~...ともかく、どうするかはまた一緒に考えようか」

「すまん...」


私も一応確認しておきたいしな。戻ったら勉強会だな。



こちらの積み込み作業が終わったので、王城に戻る事にした。

カリナに連絡をして、昼食のお願いをする。そろそろお昼だからな。


お店で食べても良いのだが、タニアを連れて街中をウロウロするのは、あまり良くない気がするしな。

前回はDQNが発生したし...。


で、いつも通りに王城の駐車位置に停めて、ルーヴの案内で食堂に入る。


「あ、来たわね」

「タニアちゃん、久しぶり!」

「お母様!リリャン様、ヨルージュ様、お久しぶりです」


シャーリー様、リリャン様、ヨルージュ様が食堂に居た...。


なぜ?ここ、王族専用の食堂じゃないよな?


ルーヴに促されるまで、少しの間立ち尽くしてしまった。

ちなみに、アラノス君は硬直していた...まぁそれは仕方がない。王妃、皇妃、大将軍妃殿下が目の前に居るんだもんな...。



「で、食べたらもう帰っちゃうのね」


皇妃様がタニアに話しかける。私は耳だけダンボにして食事を続ける。

「耳だけダンボ」って日本全国共通だっけ?


「はい、お母様。ちょっと急いでいるものですから...」

「あ、大丈夫よ。ちゃんと分かっているから。でも、次はゆっくり泊まりに来てね」

「あ~...そうしたいのは山々なんですが...」


と、タニアがチラリと私を見る。ん~...家族団らんについては私は何も言えないんだけどな?正直話を振られても困るので、気付かない振りをして食事を続ける。


それを面白そうな顔で見ていた王妃様がタニアを安心させようと、優しく声を掛ける。


「安心しなさい。タスバーク様とマークは近づけないようにするから」

「そうなんですか!?」

「そうよ~。ほら、今もマークが来てないでしょ?」


なぜか嬉しそうな皇妃様。何があったんだ?


「...そう...ですね...一体お兄様達は?」

「マークはね~...私が昨日、ちょ~っと修行をつけたのよ~」

「え!?お母様がですか!?」


と、タニアが大きな声を出して驚く。


え...お作法の拡大バージョンですか?お作法のレッスンについては、私はかなり気合を入れていたのでなんとか乗り越える事が出来たけど、拡大バージョンは絶対に耐えられない自信がある。それを受けたのか...。


「そうよ。だから今頃ベッドで動けなくなっているわ」


さもありなん。


「タスバーク様は今はお義父様の所ね。なんかお義父様が頭を抱えていたから、難題が発生したんじゃないかしらね」


と、意味深な目で私を見る王妃様。

その顔は理由を知っているんですね。カリナからの報告を受けて、お爺様が動き出したと...思ったよりも早いな。


「だから安心して帰ってきてね。あ、もちろんちゃんと事前に連絡くれなきゃダメよ?」

「はい。ありがとうございます」


ん~...何の話か分からないが、マークお兄様が奥様方の連携で排除されちゃっているようだけど...大丈夫なのだろうか...そもそも理由が分からない。


「あ、リョウは気にしなくて良いからね。これは女子の会話だから」


と、王妃様が今度は普通の笑顔で私に話を振って来た。


「は...はぁ...承知しました。ともかく、気にしない事にしますね」

「うんうん。ただ、城に来る時は前もって連絡頂戴ね」

「はい。それは大丈夫です。緊急事態でなければ遅くとも前々日には連絡するようにします」

「あら。ちゃんと分かっているじゃない。それでお願いね」


どうやら、私は修行は免除されたようだ。助かったぁ~...。



昼食は王妃様、皇妃様、大将軍妃殿下がタニアと会話をしてくれているのを良い事に、食事に専念する。


マリアもアラノスもチラチラとタニア達を見ながら食べている。

まぁ、分かるけどね。ただ、私は慣れちゃったんだよ...。そりゃ、しょっちゅうお爺様...前国王ニアラブ様と言い合いをしていたら、王妃様達ぐらいでは気後れはしなくなるんだよ...。


別の意味で気後れはするんだけどね...。



結局、王城を出発するまでニアラブ様を始め、王様や大将軍に会う事は無かった。


ただ、クウィルお兄様が見送りに来てくれただけだ。



あ~...ロボの件、ガーランドお兄様も巻き込んでしまったかも...。


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