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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第7章 領地運営は苦し楽し
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■■■ Step065 復旧とは日常が当たり前に進む事なんじゃないかと思うが...

やっと応接間に通されて、風呂について説明する事になった。

事前に図面を印刷して持って行ったので、話はスムーズに...行かなかった...。


「なんじゃこれ!?薄いのう!羊皮紙ではないじゃないか!薄いのにしっかりしておる!これはなんじゃ!」


ダムがA4コピー用紙を見て興奮している。それよりも図面を見て欲しいんだけどな。


「いやはや...これは凄いですねぇ~...この描かれたものは見て分かるようになっている...しかも、これは手書きではないですよね?何なんですか、これ...」


あ~こっちも図面を見てくれていない。いや、見ているようだが、そっちじゃないんだよな。

ともかく、ロダンは印刷されたCADの図面を感心しながら眺めている。図面でなく、その精度を...。


「本当に凄いです...薄いです...綺麗...」


あちゃ~...身内にも居たか...。

カリナにも一緒に見てもらおうと思って、図面のコピー用紙を渡しておいたのだが、CADの図面を眺めている。どこの何が綺麗なのかはさっぱりだ。


カラーだけは何も言わずにコピー用紙を眺めている。

まぁ、事前に見せたというのもあるし、大阪にも行った事があるからな。これぐらいでは驚かないのだろう。


「進みませんね」


カラーがちらりとロダン、ダム、カリナを眺めやり、続いて私に目を移して私に問いかける。


「...だな...」


それしか言えん...。


「どうします?」

「どうにもならんだろう?」

「ですね」


と、軽くカラーと会話をし、出された紅茶を啜る。

うん。美味いな。


「ところで、これはどうやって書かれているのですか?」


ロダンがまだ興奮しているのか、仕事にならない話をしてくる。


「それは後にして、先に仕事の話をしたいのだが?」


流石にこれ以上脱線するようだったら他所に行こう。


「おっと!申し訳ありません!いや、このような素晴らしいものを見せられてしまって、興奮してしまいました」

「それは良いけど、まずはダムを正常にしてくれないか?」


気が付けばコピー用紙を眺めたまま固まっている。ロダンがダムをちょんちょんと突くが反応しない。


屍?


「あ~...ちょっと難しそうですので、私が話をお伺いして、後でダムに説明をいたします。それでも良いですか?」


確かに、アレは当分復旧しないと思うな...。ま、店主が話を聞いてくれるなら良いか。

そうなると、ダムはなぜやって来たんだ?


「ちゃんと仕事をしてくれるならそれでも。おい、カリナ。お前も現実に戻ってこい」

「...はっ!申し訳ありません!!」


なんでこんなハプニングだらけなんだ?



そんな事を思いつつ、ロダンに図面で説明をする。

場所はL字になっている砦の1階の最奥。24畳程度の広さの部屋の内6畳程度を脱衣所にして、残りを浴場に改造。


床は石材で足が滑らないように適度に凸凹を付けてもらい、壁の石材はツルツルにして貼り付けてもらう。

天井はタイルと接着剤を用意して、それを貼り付けてもらう。


湯舟は4畳ほどの広さにしてもらい、複数人は入れるようにしてもらう。

主要メンバーだけでもタニア、リア、ミーム、カラー、シャイン、キャリー、セミア、レミ、エルゼ、カリナ。追加でマリアも入る。

その内、ユリや輝、葵も混ざるかもしれないし、他にもタニアの屋敷から来た侍女も10名ほど居るのだ。全員が一度に入る事はないだろうが、6人ぐらいは入る可能性があるからな。


流石にシャワーは無理なので、身体洗い用のお湯を別に貯めておき、それを使ってもらうようにしよう。

あ、手桶も複数必要だな。


石鹸とシャンプーは一旦あっちから持ってこよう。

男共は...要らないな。


あとは換気をさせないとダメなので、通気口を用意してもらう。

換気扇はこっちで用意しなきゃだが、それぐらいは問題ない。


ともかく、大掛かりな部分を作ってくれれば良いのだ。最後の仕上げはこっちでやる。というのが、今回のプランなのだ。


このお風呂が問題なく出来たなら、士官用、一般兵士用と作ってもらう予定なのだ。

ちなみに、士官用や一般兵士用の風呂は見られても問題ないので、壁をぶち抜いて天然の風で換気しようと考えている。


一番の問題は、井戸水を吸い上げるポンプの魔工と、お湯を沸かす魔工が完成していない事だ。


まぁ、お風呂はすぐには完成しない。材料集めから始めるので、ざっくりと40日ぐらいかかる予定だ。

その間にタニアと一緒に開発しようという算段なのだ。



「それにしても、すごいですな。このような施設は画期的ですぞ」


やっと図面そのものを見てくれたロダンが興奮している。

いや、ちょっと落ち着こうか?


「お風呂はこの国には無いからな。今から作ってもらうお風呂は女子風呂になるので使ってもらえないが、士官用が出来たら一度入ってもらっても良いかもな」

「一度作れば我々でも似たようなものは作れそうですが?これ、売っても?」


鼻息荒く身を乗り出して来た。さすが商売人だな。


「売ってもらうのは好きにしてくれれば良いが、排水の問題と給湯...お湯を用意する方法、そして湿気に対する問題を解決しないとダメだからな」

「あ~...そうですね...一番の問題はお湯の問題ですな...」


落ち着いてきた為か、やっと色々と思考出来るようになったようだ。

ともかく、問題解決が出来るなら好きにしてもらって良い。


「そうだ。まぁ、お湯を沸かすだけなら竃を作ればいいので簡単だが、大量の水を用意するのが一番大変だな。井戸が近くにあっても水を汲むのが結構しんどいと思うんだよな~...」

「おっしゃる通りですな。副官殿はその問題を解決されたと?」

「まだ解決はしてない。が、方法は考えている。実質問題はないはずだ。専門家もいるしな。それよりももっと大きな問題があって、それが湿気と排水の問題と、このような大掛かりな部屋を一人で作れないって事だ」


日本だったら上下水道がしっかりしているので、管をきちんと設置すればいいだけだが、ここは道路でさえ舗装されていないからな。


「そうなんですね...ともかく、依頼は承りました。後日砦に下見に伺いたいのですが、よろしいですか?」

「それは構わない。来る場合は事前に連絡をくれ」

「承知しました」



さて、お風呂の算段はついた。もっとも、すぐには完成しないが、それは仕方がない事。今は完成を楽しみにしてもらおう。

それと、リハビリ用の道具も作ってもらう事にしているので、その図面も渡してある。


それもかなり感動されてしまい、売っても良いかと聞かれた。

住民が必要とするなら、全く問題ないので勝手に売ってくれと言っておいた。この世界には著作権はないみたいだからな。

そもそも管理なんて出来ないし、する気もない。


ロダンがいちいち私に確認するのは、私が権力者だからだ。領主の副官という肩書だから仕方ないが、あまり気持ちのいいものではないな。権力は責任の塊だから自分から持ちたいと思った事はない。それをタニアに押し付けてしまったからな。私も責任を果たさないとな。


ロダンにリハビリ道具が出来たら砦に持ってきて欲しいと伝え、金額も確認してから砦に戻る。


さて、タニアの執務室でポンプと湯沸かし器の魔工について話をしよう。



執務室に入ると、いつものようにタニアが執務机で仕事をしていた。

傍にはキャリーが控えており、私を見て軽く手を振ってくれた。


「ただいま、タニア。風呂の工事を頼んできたよ」

「すまないな。人数も増えてきたから大きい風呂は必要になったからな」

「工事はともかく、ポンプと湯沸かしは私たちで作らなきゃだから、ちょっと話をしようと思ってな」

「そうだったな。丁度区切りが付いた所だ。ところでポンプってなんだ?」


そういや説明はしてなかったか?


「水を吸い上げる機能を持ったものだ。もしくは、吐き出す機能のものもポンプと言うな」

「水を出し入れするものをポンプと言うって事か」

「そういう事だ。だが、今回は井戸から水を汲み上げるものが欲しいので、こういうものを作りたいんだ」


と、これまたコピー用紙に図面を印刷したものをタニアに見せる。タニアは数日大阪に居たからな。これぐらいでは全然驚かない。


「なるほど。桶が沢山付いた紐を回転させて水を汲むのか」

「これなら壊れてもすぐに修理出来る。専門知識も要らないぞ」

「ふむ。で、紐を回転させる所だけを魔工で作るという事だな」

「そうだ。回転させるだけなので、井戸からの水を汲み上げる以外にも使い道が出来るかも知れないしな」

「他の使い道?」

「究極的には電龍のように自走するものを作る事が出来るかも知れない」

「本当か!?」


身を乗り出して迫って来た。ある程度慣れたがぶつかりそうな勢いで迫るのは勘弁してほしい。


「あくまでも『究極的』な話だ。そこに行くにはかなり大変だと思うぞ?」

「いや!難しいのは分かっている!だが、可能性はあるんだろう!?」

「可能性はある。ともかく、まずは回転する機能を持つ魔工を考えよう」

「その前に質問なんだが...」

「なんだ?」


なんだ?タニアが言いにくそうにしている。珍しいな。


「大阪の技術で作るのはダメなのか?」


あ~...向こうの技術を知っているから、便利な方...という事ではないな。私に気を使ってくれているのだろう。

私としても日本の技術を持ってくるのが一番簡単ではあるが、それでは意味がないからな。


「ダメだな。そもそもあっちの技術はこっちで使うには私が絶対必要だ。そんなもの意味がない。この世界で私が居なくても大丈夫な技術が必要なんだ」

「それは...リョウは...この世界を...離れるのか?」


執務机から急いで私の横に座り、縋りついて来る。

う~ん...また怖がらせてしまったか...そういうつもりではなかったんだがな。


向こうではキャリーがこっちを睨んでいる。いや、そんなに睨まなくてもえぇやんか...。


「そうじゃない。技術はあちこちに普及するもんなんだ。私が居ないとダメな技術だと普及しないだろ?最初の開発をすれば、あとは技術を伝えれば世界に普及するものが良いんだ。それはタニアも分かるだろ?」

「確かにそうだな...私たちはいずれ年老いていくんだからな...長く発展させるなら、大阪の技術はダメだな。よし、分かった」



さて、まずは軸を回さないといけないのだが、水で回すか、風で回すかで議論になった。


水の場合、確実に軸を回す事が出来る。それもかなりしっかりと力強く。しかし、その分術式が複雑になり、扱う魔力も大きくなる。

では、風の場合はどうかと言うと、水とは逆で確実に回す事は出来るが力強くはならない。オランダの風車や風力発電は力を強くする為に巨大化させているのだ。今回は大きくてもスーツケース程度の大きさにしたいので、巨大化させるのは問題外。利点は術式が簡単で魔力は少なくても良い。


あと、水で回す場合は水が零れないようにする必要があるし、持ち運びするにも水の分重くなるので、デメリットが大きいという事で、まずは風で作る事にした。


ここまで話を進めた所で夕方になったので、夕食にしようと思っていた所にルーヴから電話が入った。


「リョウ様!すっごいドキドキしますね!この電話ってすごいです!」


えらいテンションが高いな。

まぁ、初めての電話って物凄くドキドキするのは非常に分かるが、良く知っている女の子がテンション高めで電話してくるのは受ける方は非常に恥ずかしい。


「あ~...ルーヴさんや、どうしたのかのぉ~?」

「なんでそんなにワクワクしない返答なんですか?ルーヴからの連絡ですよ?喜ばないんですか?」


とたんに不機嫌な声になる。そんなつもりはなかったんだが、始めちゃった事を止めるのはちょっと面白くない。


「あ~...喜んではおるかのぉ~...うん...喜んでおるぞ?」

「なんで疑問形なんですか?会話、終わりますよ?」

「良いけど、そっちが困らないの?」


ルーヴから電話してきたんだから、あっちが困るハズ。


「アラノスとマリアの件ですので、こちらは困りません。じゃあ、さような...」

「ごめんなさい!!ルーヴからの電話ってめっちゃ嬉しい!!最高!!」

「...明日も電話して良いですか?」

「はい!お待ちしております!!」

「よろしい。では、まずは連絡事項をお伝えしますね」


という話で無事にアラノスがエルセリアへの転勤が確定したとの事。

そして、引っ越しの準備が明後日に完了になるとの事だ。


「じゃあ、明後日に首都に行けば良いという事なんだな?」

「正確には明後日に『王城に』来て欲しいという事になります」

「ん?なんで王城?」

「リョウ様はアラノスの家、ご存じなのですか?」

「...ごめんなさい」

「じゃあお待ちしていますね?」

「はい...」


今日の仕事を終えた。



「じゃあ、行こうか!!」


翌日、タニアが電龍の後ろに乗って嬉しそうに宣言する。

当然私は運転手だ。


「やたらと嬉しそうだな...」

「ん?旧友と会うのは嬉しいものだぞ?」

「それは分かるんだが...」


ちょっとテンション高めのタニアをちょっと振り返って見て、そして側車に座っているカラーを見る。

カラーは...何も反応してくれなかった...。


「リョウ、お姉様をよろしくね」

「今は急ぎの用事もないからな。ゆっくり帰ってくればいいぞ」

「リョウ様、お気をつけてくださいね。色々と...」

「お兄様、行ってらっしゃいませ!」

「行ってらっしゃいませ!!」

「あの...お気をつけて...」

「きぃつけや~」


さて、どれが誰の台詞かは想像に任せるとして、ルーヴからの電話の翌日に電龍で夜霧を引っ張って首都まで行く事になった。


まだパストングは戻ってきていないが、昼前にはエルセリアに到着するだろう。

私たちとは入れ替わりだな。


今回首都への移動には、私とタニア、カラー、カリナで行く事になる。

カラーはタニアの護衛...というか鉄壁の盾で、カリナは攻撃の要とニアラブ様へ報告を兼ねている。


アラノスとマリアの荷物を回収し、戻ってくるだけのミッションだ。


いつものように砦を出発し、途中でロダンの店に寄って3日ほど留守にすると伝える。


「どこまで行くんですか?」

「ちょっと首都まで」

「ちょっと?」


物凄く不思議そうな顔をする。その理由が分からん。


「あぁ。すぐ戻って来るからよろしく」

「あのぉ~...首都まで行って帰って来るんですよね?片道3日はかかるはずなんですが?」

「ん?明日の朝には首都に着いて、その日の内に首都を出れば、明後日には戻って来れるっていう予定だぞ」


かなりギリギリなんだが、電龍だったら大丈夫だと思う。


「え?片道二日?その日の内に首都を出る?何しに首都まで?」

「人材確保」

「人材?」

「人材」


本当に人材が足らないんだよな。


「領主と副官が迎えに行くんですか?」

「領主の友人だからね」

「は~...なるほど...」


納得したような、納得していないような感じだな。

おそらくだが、往復で3日という所に納得がいってないんだろう。ま、分からなくも無いけどな。


「ともかく、お風呂の事はよろしく。今は材料を揃えているんだろ?」

「はい。床の石材を集めて加工している所ですね」

「ある程度材料が揃ったら、工事を始めるんだろう?」

「そうですね。あと5日は材料集めと加工を進めます。なので、戻られるのが遅れても大丈夫ですよ」


床の石材は滑らないように凸凹を付けてくれているんだが、凸凹で怪我をしないようにする施工に苦労しているようだ。だが、大事な作業なので頑張ってもらおう。


「分かった。まぁ、まだまだやらなきゃならない事があるから、出来るだけ早く戻って来るつもりだけどな」

「はぁ~...分かりました。なんにしてもお気をつけてくださいね」

「ありがとう。じゃあ、あとはよろしく」


さぁ、改めて出発だ。



いつものようにトモニアの石橋を渡り、山脈沿いに走る。


道中タニアと色々と会話をしたが、いつも通りの会話だ。

私の養分はどこまで溜まったんだろう?ぶっちゃけ分からないな。


そういや、出発する前にセミアとレミが「養分補給」と言って私に抱き着いていたな。

今はエルゼの事があり、一緒に来ることは出来ないが、精神状態はかなり安定しているようで、私に依存する状態が解消しつつある。

何となくだな、依存解消と養分補給は違う気がするな...実験しようにも基準が分からないし、セミアとレミが過呼吸とかになるのも嫌だからな。実験は封印だ。


う~ん...しかし、「お兄様」としては妹が兄離れをしているのをリアルに感じて、ちょっと寂しい所はあるけど、成長している事も感じられて微笑ましい。


ともかく、依存が解消しつつあるが解消された訳ではないので、急いで戻らなければならない。

なので、三日で帰ろうって話になっている。



「試作品のポンプはまだまだ改良の余地があるが、今の形状ではこれ以上の改良は無理なんじゃないのか?」

「そうだなぁ~...並行していくつかのパターンを作って比較してみようか?」

「その方が良いかも知れないな」


タニアと一緒にポンプ...というかモーターだな。風力モーターの開発を進めている。

魔法で動くモーターなので、私としてもとても楽しい。


今は3Dプリンタで形状を作って、それでテストを繰り返している。

最終的には木製で作る予定だ。この世界で軽い素材で発展させる為には木製にするしかないからな。プラスチックなんぞは存在しないからな。


「それにしても『ギア』というものも面白いな。これで力を伝えて、それも強さも変えられるとは...いやはや、科学は凄いんだな」


力の弱い風の魔法で得た回転を、力強くする方法としてギア...歯車の機構を説明したのだが、その時のタニアは物凄く驚いていたな。

だが、歯車ではないが、この世界には既に滑車があるので、それほど驚くものでもないんだが...まぁ良いか。


「まぁ、こういう機構はいずれこの世界でも発見されて、活用されていくと思うし、正直難しいものではないからな」

「私もいずれ発見されるだろうとは思うが、実際に見ると凄いとしか言えないな」

「ギアの代わりに滑車というものもあるからな。理屈は一緒だから難しい事は無いが、ギアとは違った利点と弱点があるから、これも色々実験してみようか」

「実験は楽しいから良いのだが、完成が遅くならないか心配だな」

「あ~...科学者あるあるだな」

「...やっぱりあるんだ...」


そんな会話をしていると、いつもの場所に到着した。


そう、ロボとの会合の場所だ。


「またここで一泊するのか?」

「あぁ。ある意味安全だろ?」

「否定はしないが...リョウたちが変わっているのか、リョウだけが変わっているのか...どっちだ?」

「...さぁね」


さて、今日のメニューはチキン南蛮。材料は以前話に聞いた『デルエル』だ。

料理長にお願いして、少し分けてもらったのだ。


カラーは食事をしないので、私とタニア、カリナの分を作る。

ちなみに、私はご飯でタニアとカリナはパンを食べる。


「それにしても、変わった料理ですね。どういう意味ですか?」

「ざっくり言うと『海外の鶏料理』だな」

「ホントにざっくりだな」

「見た目は変わってますが、非常に美味しいです。リョウ様はすごいですね...」

「ん?カリナは料理は苦手なのか?」


料理を食べながら落ち込むカリナを見て、思わず声を掛けてしまう。


「あ、いえ。料理は得意ですよ。ただ、男性にここまでの料理を見せられるとちょっと...」


あ~...うん...ど~しようかな...。


「私の事、ニアラブ様から何て聞いてるんだっけ」

「...気を付けろ...と」

「それだけ!?」

「後は...喰われるなと...」

「喰わないよ!?」

「いえ...ある意味では半分ぐらいは喰われてしまっている自覚が...」

「だから喰ってないよね?って半分って何?」


隣でクスクス笑いながら話を聞いていたタニアが横から口を挟んできた。


「お爺様はリョウが人たらしだから気を付けろと言ったんだろう。リョウも分かってるんだろ?」

「そりゃまぁ分かってはいるが、勘違いされるだろ?」

「誰に?」

「カラーに」

「いえ、私も分かっておりますが?」

「だろうな」

「でしょうね」

「...私が悪ぅございました...」

「分かれば良い」


楽しい食事時間だな。


「来客です」


アリスが告げる。

ここは周りには木がまばらに生えている草原のど真ん中。人影なんてない場所だから、そもそも来客なんてあるはずもない。

が、私たちはこの来客は想定済みだ。


「分かった。ありがとう」


事前に用意していた生肉の塊と椅子を手に持ち、夜霧を出る。

振り向くと、タニアとカラーもついて来るようだ。


カリナを見ると首をブンブン振っている。まぁ、それが普通の反応だな。



夜霧から出ると、すでに夜霧は狼...魔狼に囲まれていた。いや、いつ見てもすげーな...。


「先日ぶりだな。しかし、お前も律儀だな。毎回来なくても良いんだぞ?」


いつものように私の前10mほどの距離に座る、この魔狼のボスであろう大きな体躯の『ロボ』。


「今回はちょっと急いで準備したから多くは無いが、食べやすい肉を持ってきている。チビどもに食わせてやってくれ」


近づいても大丈夫だとは思うが、ロボとの距離は礼儀でもある...と、そんな気がするからな。

手に持っていた肉をロボの横3mぐらいの所に放り投げる。


それを一瞥したロボは後ろを振り返る。すると、子犬...じゃない、子狼がわらわらとやってきて肉に食らいつく。

うんうん。可愛い可愛い。


「なぁ、子犬に近づいても良いか?」


タニアは私の横に来て聞いてくる。

いや、子犬じゃなくて子狼な。


「ダメ。ロボに噛まれたい?」

「いやだ」

「だったら止めておきな。私たちはこの距離までしか信用されていないんだ。これ以上は近づいたらダメだ」

「...そうだな。じゃあ、夜霧の中からディスプレイで見るとしよう。近づけないなら大きくして見るしかない」


そう言って夜霧に戻って行った。

カラーは、私の護衛のつもりだろう。少し下がって立っている。


手に持っていたパイプ椅子の1つをカラーに渡し、もう一つを開いて自分で座る。

それを見ていたカラーも、見よう見まねで椅子を開き、座る。


別にロボとしゃべる必要はない。そもそもコミュニケーションが取れないのだ。

ただ、すぐに夜霧に戻るのもなんか味気ない。

そこで、しばらく一緒に外に居ようと思ったのだ。


それにしても、ロボも律儀に私の前にずっと座って無くても良いんだけどな。


まぁ、今はロボよりも隣の子狼がじゃれながら肉を食っているのを見るのが楽しいが。

ロボも子狼を見ている。

可愛いと思っているんだろうか?う~ん...どういう感情で見ているんだろうな。イカン...気になるな...。


そうこうしていると肉が無くなった。子どもは食欲旺盛だな。ミームは...まぁ、それは個性か。


子狼を見ていたら、一匹がテテテとやってきて、足元に座り込み見上げてくる。

う~ん...この状況は完全に犬だな。「もうちょっと肉くれ」って言っているのだろうか?

手を伸ばして撫でてやりたいが、それはロボとの契約違反な気がするのでぐっと我慢する。


すると、群れから一匹、ロボ程ではないが大きな白い狼...え...ひょっとして『ブランカ』か?


白い狼はロボに寄り添い、鼻先をひと舐めしてから私に近づいてきた。

カラーが動こうとしたが、私が静止させる。


白い狼が5mの距離まで近づき、一度立ち止まる。

私が小さく頷くと、同じように頷き、すぐそばまで近寄る。いや、ロボよりも小さいが、普通にでかい。

私の足元の子狼を鼻先でつつき、群れに促すと子狼は私に「ガウ」と一吠えして群れに走って戻って行った。

白い狼も群れに戻る...事なく、ロボの隣に寝そべった。


え~...マジで『ブランカ』じゃねぇか...。


ちなみに、『ロボ』はスペイン語で『狼』、『ブランカ』は『白い』と言う意味らしい。


「なぁ、その白い狼はお前の奥さんなのか?」


その一言に反応したのか、ロボも白い狼もこちらを見る。

その表情は...「何をいまさら」だ。


「あ~...どうやら奥さんで間違いないな。じゃあ、奥さんの事『ブランカ』って呼んでも良いか?あ、これは完全に私の都合なんだ」


その一言に狼夫婦は顔を見合わせて、同時にこちらを見る。「好きにすれば」って所だな。


「じゃあ、奥さんは『ブランカ』って呼ばせてもらうよ。よろしくな」


その声に『ブランカ』が「ウォウ」と反応する。どうやら了承されたらしい。


「あ、ひょっとしてさっきの子狼はお前たちの子どもか?」


その声に反応したのか分からないが、子狼がテテテと走ってきて、ブランカにじゃれつく。

どうやら、子どもは1匹だけみたいだな。


「そうか。お前たちも色々と大変だったんだな」

「ご主人様、どういう事ですか?」

「ん?実際に見た訳ではないが、普通の狼は一度に5匹ぐらいの子どもを産む。厳しい野生の掟の中、生き残るのは2匹程度だったりするんだが、この30頭以上の集団だと、子どもは20匹以上居るんじゃないかと思うんだが、13匹しかいない。少なくともここ最近は厳しい生存競争があったんだろうなって思ったんだよ」

「なるほど...野生の掟は厳しいのですね」


神に作られたゴーレムだから、そういう事は元々知らないのだろう。うんうんと頷いている。なんかリアに似てきたな。


「まぁ、ともかくだ。ロボ、私はお前たちを保護する事は出来ない。だが、お前たちを狩る事もない。我々人間に敵対しない限りはな」

「ご主人様は、この狼たちが人間に害をなさないと思っているのですか?普通、そういう事はありませんよ。おそらく、このロボという首領がいる間は大丈夫だと思いますが...」


ここでカラーから疑問が飛ぶ。まぁ、その意見は当然だな。


「そうだな。その意見は正しい」

「ではなぜ?」

「カラーも思った通り、このロボが率いる集団は人間には害をなさないだろう。もし、ロボが人間に害を加えた場合は、人間が先にロボ側が害を与えた時だと思う」

「そうですね。私もそう思います」

「その場合、人間に理由を聞く事になるだろうが、それは意味をなさないだろうな」

「どういう事ですか?」

「理由は簡単だ。人間は嘘を言うからな。嘘でなくても自分の価値観で発言する。狼に襲われただけだと」

「まぁ...そう言うでしょうね...」

「で、あれば私も自分の価値観で発言する。ロボは人間に対して無用な接触はしない。今のこの接触はただ単に利害が一致しただけの話だ。我々は安全に夜を過ごす事が出来る。彼らは食料にありつける。ただそれだけの接触だ」

「利害が一致しているだけなんですね」

「そういう事」


しかし、なんだろうな。こいつとは良く分からない何かを感じる。


おそらく、こいつもそれを感じるから、俺のこんな茶番に付き合ってくれているんだろう。


今も10mの距離を置いて座り、私を見つめている。私は猫派なのだが、魔狼派になりそうだな。


「よし!決めた」


膝を叩き、立ち上がる。


ロボの横に寝そべっていたブランカが顔を上げ、こちらを見る。不思議そうな顔をして見ているな。

ロボは微動だにせず、こちらを見ている。だが、その表情は「どうした?」と言っているようだ。


「ロボが認識するかどうかは知らないが、私はロボに対して宣言しよう。もし、ロボが窮地に陥っている事をした場合、私はロボの為に動く」

「ご主人様!?」


隣でカラーが驚く。が、気にしない。


「ロボの敵が我が国王だとしても引く事はない。私はロボに対して敬意をもって対応する。狼王ロボ。誰も承認されない狼の王よ、我、加田屋了は宣言するぞ。お前を異種族の王として承認する。我はただの人間だが、お前たちが人間に害さないかぎり、私はお前たちを擁護しよう」


その言葉を分かったのか、ロボは居住まいを正し、深くお辞儀をする。

それを見ていた全ての狼が一様に同じ行動を取る。ブランカもだ。


そして、天空に眼差しを向けて、歌うような朗々とした遠吠えをする。全ての狼が、だ。


その光景をカラーが驚いた顔で見ていた。そりゃ驚くだろうな。私も驚いた。


ロボが立ち上がり、10mの距離を詰めてきた。

私も無意識に5歩ほどロボに向かう。


ある距離でお互いが同時に歩みを止める。手を伸ばせば触れる距離で。


「悪いが、エルセリアとここは離れすぎているからな。絶対にお前たちを助ける事が出来るとは言えない。だけど、最善は尽くす事だけは約束する」


そう言って、右拳を突き出す。手のひらを出したら「お手」になりそうだし、そうなると私が主人みたいになっちゃうからな。それは嫌だ。ロボとは対等な関係の方が面白いからな。


と、思っていたらロボは意外な行動に出た。



私の拳を口に含んだのだ。



いや、もちろん甘噛みだから怪我もしていない。

私としてはそう来るとは思っていなかったので、硬直しただけなのだが、それはそれで良かったようだ。下手に動くと大怪我するだろうからな。


カラーは...いや、カラーもそう来るとは思っていなかったようだな。椅子から腰を上げた状態で固まっていた。


ロボは噛んだ後、拳をひと舐めして、その場に座り込む。改めてでっかいな。座った状態で私と同じ高さがある。襲われたら絶対に助からないな。


「お前...結構無茶な事するな...が、まぁおかげでお前に対して遠慮は要らないって事だけは分かった。今後もよろしくな」


濡れた拳を勢いよく振って、ロボの「よだれ」を振り払うと、ロボは軽く一睨みする。「お前が反応に難しい事をするからじゃね~か!!」と怒っているようだ。


「あ~...なんかすまん...お前たちは自由にしてくれていれば良い。ともかく、俺たちはもう休むよ。おやすみ」


そう言って、椅子を畳んで夜霧に戻る。

カラーも同じように椅子を畳んで私の後から夜霧に戻るが、その際、ロボを一睨みする。おそらく、「次は無い」とでも言っているのだろうか。カラーは攻撃出来ないんだけどな...いや、普通に気持ちは有難い。


「リョウ!!大丈夫なのか!?傷は!?手はあるのか!?」


タニアがパニックを起こしていた...。


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