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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第7章 領地運営は苦し楽し
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■■■ Step064 突撃するマッドな副官

ユリがお粥を作ってきたので、先に部屋に行ってもらった。

一緒に行っても、女の子が食事をしている所を見ているだけになっちゃうからな。


ある程度自分の部屋で時間を潰して...と思って、自室で軽くクウィル様のレイピアの取っ手部分をちょっとモデリングしていた。

レイピアには指を引っかける輪があるんだけど、その輪と擦れていたようで、人差し指は痛々しい状態になってたんだよね。あと護拳も合って無かったようで、手の甲も擦り傷が出来ていた。

なので、出来るだけ握りやすいものを作ってあげよう。


ある程度時間が経過したのでエルゼ...だっけ?のいる部屋に行ってみよう。



部屋の中にはユリは当然として、タニアとカラーとキャリー、セミアとレミも居た。


「あれ?ミームはどうしたんだ?あとリアもいないな」

「二人は冒険者ギルドに行ってもらった。ちょっとしたお使いを頼んだんだ」

「お使い?」


一人でもいいんじゃね?と思ったが、あの二人はコンビだからな。

あと、元々冒険者だからな。息抜きに良いのかもな。


「現在と過去に渡っての人探しの依頼が来てなかったか...の確認をしてもらいに、冒険者ギルドに行ってもらったんだ」


タニアが簡単に説明してくれた。


「なるほど...ギルドの依頼にそういうのもあるか」

「人探しは領主の仕事ではないからな。先日見たエバンの資料の中にも、それらしいのは無かったはずだ」

「さすがタニアだな。とりあえず、リアとミームの帰りを待とうか。で、どこまで話を聞いているんだ?」

「名前とどこの出身か...だけだな」

「そうか...」


エルゼをみると、筋力はかなり落ちているので、まだ起き上がる事が出来ない。それ以上に腕も上げられなくなっている。

かなり長い間寝た切り状態だったようだな。


出身はクラスタンプ領ブルラトの住人であった事が判明。首都セルドイに行くよりも遠い場所だ。歩くと片道6日ぐらいだろうか?

ブルラトはベールナル大森林を挟んでトモニアの反対側の都市だ。あの廃墟からもかなり遠いのだが、ヴァンパイアの移動能力はかなり高いって事なのかも知れないな。


廃墟にはテクスの他に、眷属らしい存在...狼男なども居なかった。居たのは知能の欠片もないスケルトンと死霊だけ。

テクスは本当に単独で活動していたのかもしれない。まぁ、ヴァンパイア貴族のピン芸人状態だったんだろう。笑いは取れないけどな。



みんなが集まる前にカラーの方でも事情聴取をしてたらしいのだが、本人の意識が朦朧としていたそうで、名前を聞くのがやっとだったそうだ。

ベッドの上に体を起こして、ユリにお粥を食べさせてもらった後、意識がしっかりしてきたので、情報収集の続きをさせてもらう事にした。


このメンバーで柔らかい物言いが出来るのがユリとセミアで、ユリは翻訳機を使うからな。ここはセミアに聞き役を任せる事にした。

「お兄様の為に頑張ります!」と言ってくれ、実際にかなり頑張ってくれており、今もエルゼに寄り添って丁寧に話をしてくれている。


「ある夜、自分の部屋に戻ったら...あいつが...部屋に居て...連れ去られたんです...」

「お家の部屋に戻ったら、部屋の中にヴァンパイアが居たのね...」

「はい。テクスが...ニヤニヤと笑いながら自分の事をヴァンパイアだと、貴族だと...脅して...もう...家に...帰れないって...」


エルゼの話を聞いていると、だんだん腹が立ってきた。

それが分かったのか、タニアとユリとカラーが私を睨んでくる。慌てて心を落ち着かせる。

気配を下手に外に出すと、また怒られてしまうからな。


「それは...とても怖かったよね...私たちも奴隷に落とされた時は本当に怖くて、一日ずっと泣いていたなぁ...」

「奴隷...だったんだね...私もテクスの奴隷のようだったわ...」

「そうなんだ...でも、もう大丈夫だよ。ここの人たちはとても優しいの。特にリョウお兄様は優しくて優しくて...優しいの!!」

「あ...そう...あ、あなたがリョウ...お兄様?」


おっと。この部屋に男は私だけだから、そう思うよな。


「あぁ。初めましてだな。私がリョウ・カダヤ。聞いたかもしれないが、ここはジョーチェ法皇国だ。そして、そちらのエルセリア領主タニア・ソフリートの副官をしている。肩書は凄いけど、中身は『近所のお兄ちゃん』みたいなものだから、気にしなくてもいいよ」


出来るだけ優しく、怖がらせないように、葵を褒める時のように、ニカッと笑って軽く手を振る。

私の肩書については、いずれ知ってしまうからな。こういうのは早めに言ってしまうのが一番だ。


「領主様の副官様?え?そう言えば...ここは?」


あ、やっと思考回路が回って来た感じか?


素早くセミアに目くばせをする。セミアも意図を汲んだようだ。

すぐにエルゼの手を取り、意識をセミアに向けさせる。


そして満面の笑みを浮かべて、ゆっくりと話しかけた。


「大丈夫。さっきも言ったけど、リョウお兄様はとっても優しいの。安全なの。温かいの。絶対に助けてくれるの。だから安心して?」

「そう...なの?」

「うん。私たち姉妹...私とレミを助けてくれて、他の友達も解放してくれたの。私たちを大事にしてくれるの」


セミアの勢いに負けた感じでエルゼが目を大きくしてセミアを見ている。

セミアが狙った訳ではないだろうが、エルゼの優しさに満ちた声と言葉で、エルゼの意識が全てセミアに向かった事で、強張っていた表情がみるみる柔らかくなっていったように思う。


「私たちだけじゃないの。ここに居る人が全員、リョウお兄様に守られているの。だから大丈夫なの」


セミアはどこまで見ているんだろうな。

その気持ちはとても有難いし、全員を守ろうとしているのは本当だが、実際にはそんな事が出来ている訳ではない。


実際...私は...姉を守れなかったのだからな...。


「嘘じゃないわ。だって、誰も私の言っている事を止めないの。嘘だと言わないの。嫌な顔をしている人は...お兄様だけね」


と、セミアがチラリと私を見て少し頬を染めてクスリと笑う。そして、チロっと舌先を出す。う~ん...キャリーを真似しているようだな。

ふと視線を感じて見回してみる。なんで全員が私を見てるんだよ!!


「...奴隷なのに、助けてくれた人を『お兄様』と呼んでいるの?」


怪訝な顔でセミアに質問するエルゼ。確かにそこは気になるだろうけど、気にしないで欲しかった...。


「最初はね『ご主人様』って呼びたかったの。でも『お兄様』って呼んでくれって言われて、『お兄様』って呼んでいたら...もう『お兄様』って呼ぶのが嬉しくって!」

「嬉しい?」

「そうなの!!『お兄様』って呼べるの、私たちだけなのよ!?凄いでしょ?嬉しくなるの!」


あ~...葵と対抗馬が生まれたな...。

うぇ...ユリが私をジト目で見ている...これは今夜にも葵から抗議の電話が来そうだな...。


「あ~...うん...分かった。凄いからちょっと落ち着いて?」


気が付けば、セミアがエルゼの手を握って迫っている。


「え?あ...ごめんなさい...驚かせちゃったよね...」

「大丈夫よ。驚いたのは本当だけど、それだけだから安心して」

「うん。ごめんね?」

「うん。許してあげる」


なんか...良く分からないが上手い事進んでいるな。これはセミアマジックだな。


ふと周りを見てみる。

タニアは、ニヤリと悪い顔で笑っている。なんで悪い顔なんだ?

ユリは、うんうんと頷いている。何に納得しているか分からない。

キャリーは目をキラキラさせている。何を期待しているんだ?

レミは目をウルウルさせている。良く分からないが感動しているようだ。

カラーは...うっすら笑っている。なんとなくだが娘の成長を喜ぶ母親のようにも見える。


ん?一番まともそうなのはカラーなのか?


と、観察している間も会話は進んでいる。


「あのね、タニア様とご主人様がヴァンパイアを倒して、エルゼを助け出したんだけど、身体が元に戻ったらお家に帰してあげるって言ってるの」

「お家に?」

「うん。エルゼは筋力?が無くなっているから、動くのが難しいんだって。だから、まずはここで動けるように頑張ってね」

「...どうして筋力?が無くなったの?」

「えっと...それは...」


流石にその説明は難しいか。


「あ~、それは私の方から説明するよ。人間って普通に生活をする事で筋力...体を動かす力の事なんだけど、それが鍛えられるようになってるんだ。普通に生活している分には、夜に寝るぐらいじゃ無くなったりしないんだけど、君の場合はかなり長い間寝たきりになってたみたいでね。長く寝てた分、身体を動かさなかったので筋力が落ちちゃったんだ」

「ずっと寝てたから...起きれなくなるぐらいに、動けなくなったんですね」

「理解が早いね。そういう事だよ」


エルゼは頭の回転が速いのかも知れないな。


「じゃあ、ここでしばらくお世話になるって事ですよね?」

「そうだね。で、君のお世話をセミアとレミにお任せしようと思っているんだ。身体が動くように訓練する...リハビリって言うんだけど、その補助もしてもらうようにするから、安心してくれて良いよ」

「ありがとうございます...でも...私...何もお返しできません...」


ベッドの上で俯くエルゼ。ヴァンパイアに誘拐され、家族から引き離され、たった一人になった少女。

助けられた弱み...とでもいうのか、付け入れられると思っているのかも知れない。正直な話、少女一人では何もできないだろう。

う~ん...お返しなんて要らないんだけどな...。そう言ったとしても納得してくれそうもない。少なくとも今の時点では。


あ、そうだ。「コレ」は使い古された提案だけど、この世界では新しいかもしれないぞ?


「じゃあ、まずはセミアとレミの友達になってあげてくれないか?」

「友達...ですか?」


エルゼが首を傾げている。言葉は耳から入ったが、ちゃんと処理されていないようだな。


「うん。二人は友達と呼べる友達がいないからね。友達になってくれたら二人とも嬉しいと思うんだが?」

「嬉しいです!!」

「嬉しいです!!」


セミアとレミは目をキラキラさせて喜んでいる。

二人を引き取ってから一か月以上経過した。その間二人をしっかりと見てきたつもりだ。だから、本当に喜んでいるかどうかは分かるようになっている。いや、本当に嬉しそうだな。


「本当に...それで良いのですか?」


エルゼは目をウルウルさせている。いや、そんな顔をしないで欲しいな。そういうのはマジで弱いんだよ。

とりあえず笑ってくれないかな...。


「もちろん!それに、君は今から二人にお世話になるんだ。絶対友達になっちゃうから、もうなっちゃおうか」

「...他にお返し出来るものは...」


う~ん...私じゃ信用無しみたいだな。やっぱ男だと難しいかもな。


「ん~...タニア、他になにかあるか?」

「いや?ないぞ?しいて言えばせっかく助けたんだ。元気になってくれるのが一番嬉しいな」


タニア、直球過ぎるぞ?


「そうよね~。どれぐらいで筋力を回復するか、目の前で確認出来るのって貴重だしね~」

「...ユリ...」


本人を目の前にそれを言うか...っていうか、本人には何を言っているか分からないか。

しかし、私は言っている意味がしっかりと分かっているので、ジト目でユリを見る。


それを察したのか、ユリが慌てる。


「あはは...冗談よ。ホント、私の最初の患者さんだからね。絶対元気になって欲しいの~」


頭を掻きつつ、貼り付けた笑いで弁解する。まぁ、さっきのは冗談って分かるから良いんだけどな。


「でも、皆さん...テクスを倒すのって大変だったんですよね?」

「まぁ大変だったかな...燃やすのに」


とにかく燃やそうと思って、その場で思いついた魔法「スーパーノヴァ」が無かったら難しかっただろう。

ちなみに、魔法のイメージは「核融合」だ。


「そうだな。ひたすら燃やしてたな。私は見ているだけだったが...」

「見てただけ?」


タニアの言葉にエルゼの目が点になる。


「結局リョウが一人で全部やったのだ。テクスは丸焦げになった。最後は頭と胸だけになってたな」

「ヴァンパイアを...燃やして...頭と胸だけ...」


まぁ、その驚きは分かるよ。普通、ヴァンパイアは燃やしただけでは倒せないからな。


「で、即席で聖剣を作って、テクスの心臓に突き刺して、そのまま地面に埋めたぞ」

「聖剣を作る?」


あ~...ここは説明しといた方が良いかも?


「ホーリーライトの魔法を剣に与えただけだよ。あとは復活できないように魔力を吸う機能を付けてテクスの魔力を吸いつつホーリーライトが切れない様にしただけ」

「しただけって...」


手持ちの部品で急遽作った聖剣だけど、結構上手くいったよな。


「やっぱりヴァンパイアは魔力で活動しているみたいだな。魔力を吸ってしまえばそれだけで弱体化出来そうだ」

「発想は良いが、『ヴァンパイアだけ』と特定しないと我々の魔力も吸われてしまうぞ?」


私の発想にすぐにタニアが反応する。このやり取りは何気に心地いい。


「あ、それは大丈夫。テクスの時もそうだけど、本体から直接吸い取るから」

「ん?それって、接触しないと効果が無いって事だよな?どうやってヴァンパイアに接触するんだ?それこそ、テクスの時みたいに燃やして動けなくしてからか?」

「あ~...考えてなかった...」

「あの...ヴァンパイアって、とても強力な魔物...なんですよね?」


私とタニアの戯言を華麗にスルーしてエルゼが恐る恐る聞いてきた。

出来ればそこをスルーして欲しかったんだけどな。


そんなエルゼの質問に律儀に答えるタニア。


「そうだ。小さな国家が傾くぐらいだからな」

「そんな魔物を燃やしてって...」

「まぁ、燃やしすぎて森が火事になりそうだったけどな」

「森が火事って...」


消火しながら燃やすのって、初めての体験だったな。


「だが、最悪燃やせば良いと分かっただけでも収穫だな。ヴァンパイアはさっきも言ったが強力な魔物だからな」

「でも、森を火事にするぐらいの炎なんですよね...」

「お!良い所を突いてくるな。そうなのだ。そこが一番の悩みだな」


タニアは楽しそうだ。


しかし、これだけ打ち解けてくれれば問題はあるまい。

少なくとも、一番知りたかった「名前」と「住んでいた場所」は分かった。


エルゼの事をセミアとレミに任せ、一旦執務室に戻る事にした。



「さて、エルゼの件はパストングに連絡しないとな。私の方から連絡しておこうか?」

「そうだな。領主はタニアだから、タニアから連絡するのが筋だろうな」

「よし。今から連絡しよう」


と、タニアがスマートフォンを取り出し、パストングに連絡する。


パストングはすぐにスマートフォンに応じたようで、タニアが会話を始めた。

どうやら、まだオクルに滞在してて、今からマートーンに向かおうとしていた所らしい。


当然、オクルでは該当者は無かったそうだ。ただ、行方不明者は100年前から時々発生していたらしく、行方不明者は全員10代前半の少女だったそうだ。

全部が全部テクスが犯人ではないんだろうが、それでも半分はテクスが犯人だろう。


こちらからの状況説明をして、オクルの状況の説明を確認。検討の結果、パストングはエルセリアに戻って来る事になったそうだ。


パストングが居ないと、なんとなく心配だもんなぁ~...エルセリアの治安が...。

いや、副官のエリーズの能力が低い訳ではないが、なんとなく安心感が...。


「パストングが戻って来るのは良いとして、今後どうするかの話だが...」


電話を切ったタニアが考え込むが、ぶっちゃけ悩む事はない。


「残っている問題は、まずエルゼの件と、タニアの各街への顔見せ、そのついでにカレーの材料の確認、クラスタンプの対応だな」

「あとはエルセリアの統治に関する問題だが、それは終わりなき問題だな」


私の提示した問題点の後、タニアが追加で一番大きな問題点を言ったが、確かに終わりなき問題だな。


「それ以上に、リョウの仕事が多いんじゃないのか?」

「私か?一番近い仕事はクウィル様のレイピア作成かな?どれ以外は...ないんじゃないか?」

「マリアの引っ越しを手伝うとかあるだろう?あとカリナの教育とか?」

「タニアちゃん、カリナさんっていう方はひょっとして女性なの?」


すかさずユリが割って入る。なんで女性の名前が出た瞬間に反応するんだ?


「ユリはカリナを知らないか...ほら、そこに立っているのがカリナだ。彼女は黒梟の一員だ」


執務室の部屋の端に立っているカリナを示した。カリナも軽く会釈する。


「黒梟?」

「この国の諜報部門だ」

「諜報部門?そんな部署の人がなんで?」

「お爺様...前国王がリョウを監視する為に送って来たんだ」

「あ~...なるほど」


なんなんだよ、なるほどって...。


「なるほどって...それで終わり?」

「了くんの事だから、いつも通りにしたんやろ?やったら仕方ないんとちゃう?」

「仕方ないって、まぁ良いけど」


簡単にユリが納得したので、ユリに再確認してみたが、仕方ないと言われてしまった。

自覚はしっかりあるから何も言えない。


なんだろう...タニアの為に行動しているのに、後ろめたい気持ちになるのは何故なんだ?


ともかく、早くパストングに戻ってきてもらって、この痛みを分かち合おう。



なんだかんだで昼食も済み、砦内にお風呂を作る為に街の大工を訪ねる。

今日の従者はカラーとカリナだ。


カラーはエルゼの見守りをしていたのだが、全てセミアとレミに委任したので今はフリーだ。

カリナはエルセリアの街を見る為だな。


ちなみに、ユリは大阪に戻っている。なんでも、リハビリの方法を簡単にまとめておいてくれるそうだ。


大工はエリーズの紹介だ。なんでも、砦の修復を何度か担当してくれていたそうだ。



いつものように電龍に乗ると、後ろにカラー、側車にカリナが座る。


動き出すとカリナが目を輝かせて喜んだ。


「これが電龍ですか!いや、凄いですね!!」


何が凄いのか私としては分からないが、黒梟に所属していれば電龍の話ぐらいは聞いていたのだろう。

いや、その前に一緒に首都から戻って来た際に、電龍は見ていただろう?


そう聞くと、「直接乗ったのは初めてですから!!」との事だ。キャンピングカーの夜霧も凄かったらしいが、タニアの手前押さえていたようだ。


「はいはい、はしゃがないで。今後も機会があれば乗ってもらう事になると思うからね」

「え?そうなんですか?」


カリナが驚いている。カラーも驚いたのか腰に回している腕がきゅっと閉まる。


「事前に会計関係の仕事をしてもらうかもって言っていたけど、そっちは当てが出来たんだ。だから、カリナには本来の諜報関係の仕事をしてもらおうかなって」

「それは良いのですが、今回は諜報に関係ないのでは?」

「直接は関係ないけど、砦に出入りする人間を見ておいてもらうのは必要だと思ってね。違うかい?」

「...違いません...」


う~ん。潜入捜査とかがメインだったのかな?こういう広範囲な事には慣れていないのかも知れない。まぁ、追々慣れてくれれば問題ない。


「ともかく、頑張って貰ったらニアラブ様と直接会話できるようにするから」

「え...えぇ~?それって...リョウ様の情報が筒抜けに...」

「そもそも時間差で筒抜けになるんだから、情報が早いか遅いかだけの問題だよ。だったら早い方が良いし、首都側も場合によっては迅速な行動が出来るだろう?」

「それはそうですが...」

「もっとも、良い働きをしてくれればだけどね」


と、「ちゃんと働けよ」と言外に含める。


「はい。直接連絡はともかく、仕事はきっちりしますので」

「よろしく」


そんな会話をしている間に目的地に到着。



ここは商業地域の門近くの一角。

広い土地に資材が整然と並んでいる。うん、整理整頓が出来ているようだな。


入口近くに電龍を停車させ、二人を伴って事務所らしき建物に入る。


部屋に入ると、ちょうど奥から二人こちらに向かって歩いて来ていた。


一人は背の高い、事務職のような男性。もう一人は...ドワーフ?


事務職の男性はどうみても人間だ。年齢は40代半ばという感じだが、ドワーフと思われる男性はどう見てもドワーフ。イメージ通りだ。

120cm程の身長。ビヤ樽と形容される胴体。カラーの腰回りよりも太そうな二の腕。がっしりとした足。強い髭。団子鼻。そして、つぶらな瞳。

服装はいかにも大工と言った感じで、麻布のシャツとズボン、皮のブーツを履いている。


エルセリアにも居たんじゃん!ドワーフ!


と、内心では喜んでいたのだが、ちゃんと表情には出さずにいたら、事務職の男性が話しかけてきた。

こちらは生地の良さそうな白いシャツにベスト、スラックスに黒の革靴を履いている。


「これはこれは、タニア様の右腕、『突撃』の副官殿ではないですか。本日はどのような事で?」


突撃の副官...ってなんだ?


何も言えず、立ち尽くしていると「突撃の副官」と言った背の高い男性が大笑いをする。


「はぁ~っはっはっはぁ~!いや、申し訳ないです!噂の副官殿が来られたので、はしゃいでしまいました。本当に申し訳ありません。ご容赦ください」


これは...私の苦手とする人種だな...会話で色々と煙に巻くタイプだ。用心しよう。

一瞬、カリナに目くばせする。すると、心得たとばかりに頷いてくれた。何が通じたか分からないが、伝わったと思う事にしよう。


「いや、謝罪は結構ですが、まず伺いたいのは『突撃の』とは何の事ですか?」


自覚はあるけど、まずは情報収集だ。


「あ、そこからですか?クラスタンプ軍に突撃しまくって、それだけで撃退したと聞き及んでおりますが?」


なんだ?良く分からないが言い方に棘があるな。

まぁ、そんなのは全く気にならない。


「突撃しまくった事に関しては事実だから否定はしないけど、撃退したのは我が軍隊だ。そこは間違えないで欲しい」

「副官殿は勝利に貢献はしていないと?」

「貢献していないとは言っていない。撃退したのは我が軍だと言っている。兵士はその命を懸けて戦ったのだ。負傷者も出た。それこそ事実だろう?」


名誉の傷とか言われる事があるが、そもそもこういう戦闘は無い方が良い。しかし、負傷を厭わず戦ってくれた兵士の事は忘れて欲しくない。


「...おっしゃる通りですな。失礼致しました。ご容赦いただければ幸いです」


と、ここで態度を改めて頭を下げてきた。

良く分からないが試されていたんだろうな。


「別にその事で怒ってはいない。ただ、我が軍の功績を忘れないで欲しいだけだ。そもそも『突撃しかしていない副官』というのは事実だ」

「委細承知致しました。私からはそのように話を皆にするように致しましょう」


なんとなく「突撃しかしていない副官」というのを触れて回るのだろう。が、その方がありがたい。目立ちたくないからな!


「頼む。私の事はどうでも良いが、我が軍の働きを忘れないで頂ければ十分だ」

「承りました。して、本日のご用向きは?...と、大変申し訳ございません。私はこのスクーニャ建築工房の店主、ロダン・スクーニャです」


なるほど。エリーズから店主は変わった人と聞いていたが、確かに変わっているな。「変わった人」と書いて「変人」とは、友人の自己紹介だったか。奴は元気かな?


「ちゃんとした自己紹介はまだだったな。リョウ・カダヤだ。こっちはカラー、そしてカリナだ」

「よろしく」

「よろしく」


こちらの紹介は終わったので、ドワーフを見る。


「お?儂か?儂はアレだ。大工だ」


...終わり!?


「あ、彼はダム。我がスクーニャ建築工房の頭領の一人です」


と、ロダンが補足してくれた。

癖の強いドワーフだな。まぁ良いけど。


「で、今回は依頼をしに来たんだ。砦の一部屋を改造して欲しいんだ」

「改造...とは?」

「風呂を作って欲しいんだ」

「風呂?」

「お湯を張った湯舟と、洗い場。排水の仕組みを考えて欲しい。お湯の施設はこっちで作るので」

「風呂?なんじゃそりゃ?ていうか、面白そうな話じゃな!いいぞ!やってやるぞ!今から行くぞ!」

「待ちなさいダム!まだちゃんと話をしていませんよ!」

「なんでじゃ?どうせ受けるのじゃろ?だったら早い方が良い。ほれ、行くぞ!」

「だから待ちなさいって...あ、もう少しお待ちください。ダムを落ち着かせたら応接間に案内しますので...」


と、そこから時間にして10分程、ロダンとダムが言い争いを展開した。


大丈夫か?この店...。

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