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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第7章 領地運営は苦し楽し
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■■■ Step063 妖艶とカレーとヴァンパイアと領主とお粥の話

翌朝、目が覚めるとタニアがすでに来ていた。

流石にベッドに一緒に寝ている事はない。そういう意味では安定の安心安全なタニアだ。


だが、ベッドの脇に座り込んで腕を枕に眠っていた...。


「うおぅ!!」


首を動かして横をみたら、目の前にタニアのおでこがあったので思わず驚いてしまった。

いや、普通に驚くよな?


「あ...おはよう、リョウ」


私の声に反応しタニアが目覚める。

ここに来て思わず寝てしまっただけらしいので、眠りも浅かったようだな。


「お...おはよう...っていうか、いつからそこに?」

「ん?当然、目が覚めてからだが?」


大きく伸びをしながら返事をする。

しなやかな身体が伸びていくのは見惚れるほど綺麗だが、うら若い女性が薄着で男の部屋でする事ではないぞ。


タニアから目を逸らし、軽くため息をつきながら聞いてみた。


「目が覚めてって...何時...か把握してる?」

「リョウに貰った懐中時計で見た時は確か5時18分だったかな?」

「夜が明けたぐらいじゃないか!」

「いつもそれぐらいだぞ?」


ちなみに今は5時57分。私はいつもこの時間に目が覚めるのだ。

もう気温が上がってきているこの季節、私もTシャツとスウェット姿なので人の事は言えないが、先ほども言ったがタニアはもう少し薄着だ。結果として...。


「ん?...きゃあああぁぁぁああ!!着替えてくるぅぅぅ!!」


両手で胸を隠すように押さえて部屋を出ていく。

う~ん...タニアの姿と悲鳴のおかげで一気に目が覚めた。


「良かったですね。私はタニア様のお着換えのお手伝いをしに戻ります。セミア、レミ、リョウ様をお願いね」

「はい。分かりました」

「分かりました」


キャリーが黒いオーラを纏いつつ、笑顔で部屋を出ていくのを笑顔で見送るセミアとレミ。

君たちも部屋にいたのね...。


「ではリョウ様、お着換えしましょうか?」

「しましょうか?」


天真爛漫な笑顔を振りまく可愛い侍女姉妹。

てか、今までも着替えを手伝ってもらった事はないんだけどな。


「私の着替えって簡単なのは知っているだろう?手伝いは不要だよ」


少し悲しそうな顔をする二人を横目に見つつ、手早く着替える。

女の子の前で着替えるのは少々恥ずかしいが、最低限パンツさえ脱がなきゃ問題あるまい。


パーカーにスラックス、靴下を履けば準備完了だ。



さて、こっちの準備は完了したが、どうしたものかな。

ひょっとしてタニアが来るのを待ってないとダメか?


ん~...執務室に行っちゃう可能性もあるし、ここはタニアの部屋の前で待ってみよう。


二人に一言告げてから部屋を出た。



「あ...!待っててくれたのか...すまない」


タニアの自室で少し待っていたら、割と早くタニアが出てきた。


「いや、問題ない。私の着替えはすぐだからな。タニアのその服は...」

「あぁ...リョウが選んでくれた服があったからな。それにしてみた」

「お...おう...あれだな、タニアは何でも似合うな」

「そうか?じゃあ、カラーが着ているような奴...」


金色のレオタード鎧!?


「ダメダメダメダメ!あれはダメ!!」

「あ、いや...流石に冗談だ。アレは恥ずかしすぎるからな...」

「...でしょうね...」


あ~...そういやあの恰好で砦の中をウロウロされるのも問題だな。今更だけど。

簡単に寸法を採らせてもらって...あ、BWHがあるからユリに頼もう...。ネット注文しておこう。


「ともかく、ここに居ても進まないから、まずは食堂に行こうか...あ、ユリも食べないとダメだな。先にそっちに行くか?」

「そうだな。リアやミームも先に食堂だろうし、ユリを呼びに行こう」



ユリも連れて食堂に行くと、何やら騒がしい。


「どうしたんだ?」

「あ、リョウ!昨日のカレーっていう料理!どうやって作るのかって料理長が聞きたがっているの!」


と、リアが私をみて状況を説明してくれる。

てか、料理長が?


「なんで料理長が?」

「昨日、ここで食べてたら料理長がやってきて味見したの。で、すっごく絶賛したんだけど、誰も作り方が分からないし、材料も見当が付かないしって...」

「それは分かったけど、ここに料理長がいないのに、なんでこんなにざわついているんだ?」

「料理長がすごく悩んでて、昨日は結局眠れてないんだって。料理はちゃんと作ってくれたんだけど、なんか...可哀そうな感じで」

「マジか...」


いや、カレーが美味しいのは否定はしない。

だが、そこまでのものなのか?


「タニア、ユリ、ちょっと調理場に行って来るよ。先に食べておいてくれ」

「わかった...が、1人で大丈夫なのか?」

「料理長とちょっと話をしてくるだけだ。そもそも材料がなければ作れないからな。材料の確認をしてくるよ」

「あ~...確かにそうね。じゃあ頑張ってきてね~」


タニアとユリが納得してくれたので、傍にいたキャリーに頼んで料理長の所に案内してもらった。


広い調理場の奥の方に壮年の男性料理人が腕組みをして考え込んでいる。

それを若い料理人が遠くから心配そうに眺めているな...。


予想が違わなければ、奥の男性が料理長だと思うのだが...。


そう思ってキャリーに表情だけで「彼か?」と聞くと、「はい、そうです」と表情で返事された。

目と目で通じ合うのは有り難い。



「あ~...あなたがここの料理長ですか?」

「ん?あぁそうだ...って、あなたは副官殿ですな!?」


と、急に肩を掴まれてしまった。

いや、すげ~握力だな。私の肩が潰されそうだ。


「ちょっと!痛いですから放してください!!」

「あっと...申し訳ありません...」

「まぁ、それは良いですけど...で、どうしたんですか?」


一応知ってはいるが、こういう事は本人に言わせるのが一番早い。確認の為にもな。


「昨日ここでカレーというものを味見しました。その料理に衝撃を受けたのです。ぜひ作り方を教えていただきたい!!」


あ~...やっぱりそういう事なのね。


「えっと、料理長。あれは材料がかなり特殊なものです。材料がなければそもそも作る事が出来ません。なので、この国でその材料が手に入るか、先に確認したいのですが良いですか?」

「はい!それはもちろんです!!」


問題は香辛料なんだよな。基本の香辛料は4つ。

まずターメリック。日本ではウコンとも呼ばれる根菜だ。中国では漢方薬としても有名だな。

そしてクミン。ある植物の種だが、ここの気候では育たないんじゃないかな。基本南方の植物と聞いた事がある。輸入品として流れていれば良いのだが。

あとはコリアンダー。これはパクチーの種らしい。これはありそう。

最後にチリペッパー。ぶっちゃけ唐辛子だ。


他にも香辛料はあるが、まずはこの4つがあるかどうかだ。


料理長に「これは私が作った魔工です」と説明してタブレットを見せ、材料の画像を見せる。


色々確認したら、全部手に入るようだ。

ただし、揃えるのに多少時間がかかる。特にクミンは取り寄せになるんだそう。


じゃあ、材料が揃えば作り方を教えるよと約束したらとても喜ばれてしまった。気持ちは分からなくはない。

実際私も興味がでて、材料から作ってしまった口だからな。


あとは...お米だな。


これは一定量を東の方から輸入しているそうだ。

こっちのお米は食べた事が無いので興味があるな。


その事を料理長に伝えたら、材料集めと一緒に用意すると請け負ってくれた。


まぁ、カレーぐらいは流通しても問題ないか。

それ以前に、この世界には無いのかな?いずれ旅行して確認してみたい所だ。


これで料理長の問題は完了だな。

改めて食堂に行く。


「これでいつでもカレーが食べれるって事ですか?」


キャリーが嬉しそうに聞いてくる。


「どうだろうな?私も作り方は知ってるから基本的なものは作れるよ、けど、材料の分量を変える事で色んな味になるから、本当に美味しいカレーになるには時間がかかるかもな。あと、入れる具材によっても変わるから、研究のし甲斐のある料理になるんじゃないか?」

「え?それって...すぐには美味しいものは食べれないって事ですか?」


悲しい顔をするキャリー。いや、そこまで悲しまなくてもいいだろう?


「こっちの材料がどういうものか分からないからな。まずは実験だ。さぁ、朝食を食べるよ」

「は~い」


タニアとユリの間に座り、食事が出てくるのを待つ。向かい側にはリアが勢いよく食べている。

てか、なんで間の席が空いてるんだ?


「リョウ。料理長はどうだった?」

「大阪から材料を持ってくるのは色々問題がありそうなので、こっちに材料があるか確認した。料理長によると材料はあるらしいので、材料が揃ったら一度作ってみようって話になった」

「時間がかかりそうだな」

「あぁ。だが、この世界だけで料理が作れるようになるのが目的だから、時間がかかってでもちゃんと作れるようにしよう」


日本から持ち込むのは流石に危険な気がするからな。


「なるほど。ここにちゃんと根付かせる為にも必要な事だな。すまないが料理長の件は頼む」


タニアは「こっちの世界の材料だけで作れる事」の意味が分かっているのか、すぐに納得してくれた。


「任せろ。私もこっちの材料に興味があるからな」

「さすが、『悪の科学者』」

「この場合、『悪』は関係ないだろう?」

「さぁ?」


と、ここまで話をした所で料理が目の前に置かれた。


まずは腹ごしらえだな。


食べ始めた所でミームもやってきた。

早く食べないと喰う分がなくなるな...。



「ところでユリ、起きない娘の様子はどうだい?」

「変わらずね。そのヴァンパイアってまだ消滅しないの?若いから体力はあるんだろうけど、それでも筋力は落ちていくから社会復帰が大変になるもの...」

「あ~リハビリが必要になるか...こればっかりは...」


救出前にどれだけ眠っていたのか、全く見当がつかないので、どれ程の症状になるか分からない。

助けた時はほぼ仮死状態だったし、ヴァンパイアの魔力で生きながらえていた可能性も否定出来ないからな。


そもそもヴァンパイアの被害者って最終的には眷属になるんだけど、どれぐらいの期間で眷属になるんだろうな。

とは言え、こんな危険な問題は検証してっていうのは無理だ。永遠の謎って話だ。


「私もこっちの世界に付きっ切りって訳には行かないから、誰かサポートする人が必要ね」

「う~ん...そこはセミアとレミに担当してもらおうかな。年齢も近い...のはレミだけだが、大丈夫だろう」


起きない娘はおそらく15歳前後。レミは16歳でセミアは19歳でタニアと同い年なんだよな...。


「そうね~...あの娘達なら大丈夫なんじゃない?前向きだし親切だし優しいし...」

「職業的には看護師向きだな。そうだな、二人にはそういう勉強もしてもらった方が良いかもな」


そういや、看護の能力があったからクラスタンプ軍も傷病者の看護に二人を充ててたんだったよな。


「手に職を付けさせるって事?」

「そうだ。いつまでも私の近くに仕えなきゃならないって事はない。自分の人生は自分で歩くもんだからな」

「...そうかもね...」


ユリが意味深な顔で、一言言ったがどういう意味だろうな?問いただす雰囲気でもないので、ここは「そうかもな」と言ってやり過ごしておこう。



「あ、そうだ」


急に思いついた事があり、早速タニアに相談だな。


「タニア、領主に就任して挨拶に行ったのはトモニアだけだよな?」

「そうだな。まぁ、トモニアも首都への行きがけに寄っただけだが」

「領地としては他にも街や村が入るんだろう?そこにも挨拶というか、顔見せに行く必要があるんじゃないか?」

「エルセリア領主の領地はコープル、カタランスだな。だが、領主として対応が必要な街もある。オクル、マートーン...一応ハブにも行かなければいけないな」


結構行かなきゃならない場所があるな。一気に行くよりも分けていくのが良いかもな。長くエルセリアを離れる訳にも行かないだろうしな。


「コープルはまだ復興で忙しいだろうから、先にカタランスに行かないか?例の商人にも会っておきたいし...あ、料理長の材料もついでに話をする事も出来るな」

「本当に...よくそんなにポンポンと思いつくな...」

「タニアちゃん、了くんの頭の中は全て最適化された情報で埋め尽くされているから仕方ないのよ~」

「最適化された情報って...一度頭をかち割って中身を見てみたいな」

「私もいつも思っているよ~」

「頭をかち割られるのは勘弁だが、どういう風に整理しているかは説明出来るぞ」


恐ろしい二人に挟まれて食事する身にもなってくれ...。

それよりも、私の考え出した整理術を説明したいぞ。


「要らぬ」

「要らない」

「そうか。残念だ...」


そんな会話をしながら食事を進める。

目の前でミームがいつものように爆食している。

筋肉を維持する為にも肉類を沢山食べているが、よくあれだけの量が入るよな。


「ん?どうした、リョウ。ちゃんと食べないと大きくなれないぞ?」

「私はもう十分大きいぞ」


日本の平均身長よりも高いし、欧州の平均身長よりもちょっと高いかもぐらいだからな。


「ドラゴニュートはもっと大きいぞ?」


ちなみにミームは私に迫る高身長だ。目測ではカラーも同じぐらいの身長になるな。


「種族が違うぞ!?てか、ドラゴニュートを見た事があるのか?」

「あぁ、山で迷っていた時に遭遇してな。麓まで送ってもらった。リョウが手を上に伸ばしたぐらいの大きさだったな」


私が180cmだから、約230cmぐらいか?


「それは大きいな。で、どんな感じなんだ?」

「見た目は人型のトカゲだがな」

「ドラゴニュートなんだから、それはそうだろう」

「ねぇねぇ。ドラゴニュートってなに?」

「知らないのか?」


黙って聞いていたリアが興味深そうに聞いてきた。

ドラゴニュートは本来、かなり珍しい種族だ。異世界物ではポンポン出てくるので、今の一般的な感覚がおかしいと思うんだが、まぁそれはそれだな。


「聞いた事もないわ」


あまり本も読まなさそうだしな。


「私も実際に見た事は無いが文献で知っているぞ。ドラゴンの末裔で、高度な知能を持った存在らしい。だからリザードマンとは全く違う」

「リザードマンは魔物枠だものね」


ミームが軽く補足してくれた。


「私も文献で知っているだけで、実際に見た事はないな。しかし、流石ミームだな。世界のあちこちを歩いただけはある」

「そういう意味では私も文献だけね~。もちろんリョウも文献だけよね」


タニアも文献だけか。まぁユリは別として。


「そうだな。そう言えば、エルフとかドワーフとかも居るんだろう?」


タニアから聞いた神話では、エルフもドワーフも居るって言ってたしな。


「首都に数人ドワーフがいるな。エルフは街中にはいないから、会うのはかなり難しいと思うぞ」

「私もエルフには会った事がないな。ドワーフはあるけどな」


なるほど。首都にはドワーフがいるのか。タニアは首都で会った事があるんだろう。

ミームはおそらく旅の途中で会ったとかだろう。


「獣人もいるんだよな」

「居るぞ。だが会うのはエルフ以上に難しいはずだ。彼らは人間と敵対している訳ではないが、仲が良くないからな」

「ざんねん~...」


タニアの説明にユリが残念がる。ユリは単純にモフりたいだけだな。


さて、まだ爆食しているミームを置いて、タニアの執務室に行こう。



食堂は1階なので、2階でユリと別れて4階の執務室に入る。


結構大きい砦なので、移動が大変だが運動と思えば大した事はない。


「さて、さっき食堂で話をしていたが、カタランスに行こうと思うが...どう思う?」

「それは良いと思いますが、いきなり行くんですか?先ぶれを出すのが良いのではないですか?」


あ~首都ではそれで大変だったな。


「先ぶれな...出しておこう...」


タニアもそれは流石に覚えているようだ。


「それは良いが、いつ行く?って、いくつかの街を周る予定だからしっかり考えないとダメだな」

「流石に急には決められないか...」

「ま、エルセリア内なら何とかなるけど、流石に他の街とかにはな」

「分かった...そっちはちゃんと予定を組んでからにしよう」


ま、当たり前だな。

しかし、各街に行くのは必要な事だからな。ちゃんと予定を組もう。


「さて、他の街に行く予定は一旦後回しにして...」


と、続きの話をしようとした時、スマートフォンが鳴る。発信者を見るとユリだ。


『もしもし、どうした?』

『了くん、女の子が目ぇ覚ましたわ。今、カラーさんが事情聴取をしてくれてる』

『本当か!...良かったぁ...』

『本当やね。私も肩の荷が下りたわ。首筋の噛み傷は消えてるし、牙も生えてへん。眷属化はしてへんから、問題あらへんわ』

『あ、鏡に写った?』

『そっちも大丈夫。流石にニンニクや十字架は持ってへんから、そこまではチェックしてへんけどね』


十字架はキリスト教の関連で神聖性を示すものだろうし、ニンニクは...きっと本当に関係ないと思う。

白木の杭はヴァンパイアを消滅させるものではなく、縫い付けて動けなくするだけって聞いた事があるな。

あとは、銀製の武器だけど...試した事はないな。だが、一番有効のような気がする。一応準備しておくか。

あ、日光があったけど...テクスは昼間の森の中で普通に動いていたな...灰になる事はないようだな。弱っていた可能性はあるが、今となってはな...。


ホーリーライトを組み込める弾丸でも作ろうか...。


『いや、十分や。他に何か必要なもんは?』

『お粥やね』

『材料は夜霧にある...あ~...家に戻ってもえぇけど、どうする?』

『ちょっと着替えとかしたいから、一旦家に戻るわ』

『分かった。あとでキャリーを送るから、私の部屋から家に戻ってくれ』

『うん。ありがとうね~』

『いや。こっちの方こそ助かったよ。ホンマ、ありがとうな』

『三倍返しでねぇ~。じゃあ』


三倍返し?って通話が切れた。


ともかく、起きない娘が目を覚ましたか。なかなか良いタイミングだな。


それにしても、テクスの奴は案外簡単に消滅したな。いや、呪縛する力が無くなる程衰えたのかもな。消滅にはまだ時間がかかるって言ってたしな。

まぁ、残った部位が頭部と胸部のみになるぐらいに炭化するほど燃やされて、魔力を吸収する機能が付いた聖剣に心臓を貫かれて、地下50mに埋められてしっかりと地ならしもしたからな。普通に衰えるか。


「どうしたのだ?ユリからの電話だったようだが?」

「あぁ。起きない娘が起きたようだ。テクスの呪縛が消滅したって事だろうな」

「思ったよりも早かったな」


タニアもそう思ったのか。


「そうだな。だが、ヴァンパイアがテクスだけって事はないはずだ。滅多にないとは思うが準備をする必要があるかもな」


100年もののヴァンパイアでもあれ程強力な奴だからな。1,000年物とかになると絶対手に負えないだろう。


「ともかく、ユリが一度向こうに戻りたいと言っているので、迎えに行ってくれないか?キャリー」

「分かりました。一旦こちらにお連れすれば良いですか?」

「あぁ。ゲート前の扉には鍵を付けているからな。開錠方法も教えなきゃだから頼む」

「承知いたしました」


キャリーが部屋から出たのを見送り、タニアが話の続きをする。


「じゃあ聖水を用意しようか?首都に問い合わせすれば手に入ると思うぞ」


確かにアンデッドには聖水が一番だよな。


在庫を持っておけばいざと言う時は冒険者でも対応できるだろうし。


「それは頼む。あと、銀を用意してくれ。武器を作りたい」

「銀?それは何故だ?」

「アンデッドに対して銀の武器が有効だという情報が文献にあってだな。ちょっと試しに作っておこうという話だ」


正直、本当か嘘か分からないしな。

やはり一番手軽そうなのは弾丸だな。鋳造すれば良いし、そもそも量が少なくて済む。


「銀はそれほど用意...いや、私の魔工の材料にも銀があったな。それを提供しよう」

「すまん、助かる。が、それほど沢山でなくて良い」

「そうなのか。まぁ、アンデッド対応はともかく、クラスタンプ対策はどうするんだ?」

「それは監視しかない。千里眼と物見の塔で今は十分だ」

「兵力は?圧倒的に足らないぞ?あと、毎回コープル村を避難させるのは無理だ」

「う~ん...カリナを派遣するのは...いや、止めておこう。あの国に女一人を派遣するのは危ないからな」

「私が行こうか?」


と、ミームが名乗り出てくれるが、ミームは主力だからな。砦から抜けられると正直痛い。


「ミームにはタニアの護衛をしてて欲しいな」

「それは構わないが、身体が訛ってくるからな。適度に身体を動かしたいんだが...」


訓練か...。


「じゃあ、パストングが戻って来たら、兵士の訓練に混ぜて貰ったらどうだ?」

「その手があったか。よし、頼んでみるよ」


ミームは剣士としてはかなり上位になると思うので、兵士の力を底上げしてくれるかも知れないな。

あと、私も訓練したいしな。日本刀の型訓練もしたい。


あ~...クウィル様のレイピアも作らなきゃだな。


「ユリ様をお連れしました」

「戻ったよ~」


このタイミングでキャリーがユリを連れて執務室に入って来た。

ユリの表情はかなりさっぱりしているな。


人の命がかかっていたからな。無事に意識が戻ったので安心したんだろう。


「お疲れ、ユリ。今回は本当にありがとうな」

「ううん、私もお役に立てて良かったよ~」

「私からも礼を言う。有難う、ユリ」


タニアが席を立って軽く頭を下げる。


それを見てユリが胸の前で両手を振る。その顔はちょっと慌ててるな。まぁ、我々日本人は頭を下げられるとやってしまうな。


「いやいやいやいや!タニアちゃんも領主大変よね?了くんが言いだしたらしいから、しっかりこき使ってやってね」

「あぁ。しっかりと働いてもらうつもりだ」

「...お~い...」


ホント、最近みんな遠慮が無くなってきたな。


「私も手伝える所は手伝うからね。今はエルゼ...目が覚めた娘の名前ね。彼女の面倒を見なきゃだしね」

「そっちはすまないがよろしく頼む。私は全然分からないからな」

「じゃあ、ちょっと家に戻るわ。お粥を作ったら戻って来るから」

「お粥?...ともかく分かった」

「任されたわ。了くん、お願い」

「はいはい...ユリには勝てんわ...」


ユリとキャリーを伴って私の部屋に移動する。


「この部屋にゲートがある。自由に出入り出来ないように指紋認証で施錠してあるから、ユリは自由に出入り出来るよ」

「出入りできるのは誰なの?」

「大阪組はユリ、輝、葵。こっちはタニア、リア、ミーム、カラー、パストング...だな」

「私はダメなんですか?」

「あ~...キャリーは問題ないか。じゃあ登録しておこう」

「よろしくお願いしますね」


キャリーは「セミアとレミが心配なので」と言って部屋を出て行った。

すっかり二人のお姉ちゃんだな。もっともキャリーとレミと、ついでにタニアは同い年ですがね。


『じゃあ、戻るわ』

『あぁ。出入りは自由やからいつでも来てくれ』

『うん!了くんに会いに行くわ。それに、ゲートのある部屋は了くんの寝室に繋がっているんやろ?』

『え...あぁそうやけど...』

『うふふ...じゃあ身支度してお粥作ったらまた来るわ~』


そう言ってゲートを通って大阪に帰って行った。


う~ん...外堀を埋められていく感覚があるが、どうしたもんだろうな...。ま、タニアの件が解決するまでは先延ばしだな。

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