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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第7章 領地運営は苦し楽し
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■■■ Step067 帰って来たマッドサイエンティスト

昼食は楽しく食べる事が出来た。


特にタニアは王妃、皇妃、大将軍婦人と楽しく話をして、機嫌も良い。

まぁ、皇妃はそもそも母親だからな。楽しくないはずは無い。


私と言えば、特に気にする事もなく、食事に集中する事が出来た。


被害者...というのはどうかと思うが、マリアとアラノスはチラチラと王妃、皇妃、大将軍婦人を見て、行儀よく食事をしていた。

あれでは味は分かんないでしょうな...。ま、気持ちは分からなくもないがな。



昼食を食べ、少しゆっくりしてから王城を出ようといつもの広場に駐車している電龍と夜霧に移動する。

元々の予定としては、昼過ぎに出るつもりだったから、予定通りと言えば予定通りだ。


「では、また会えるのを楽しみにしていますね」


と、わざわざ見送りに来たのはクウィルお兄様だ。


「はい。レイピアを作るのは時間がかかりますので、もう少し先になるかと思いますが...」

「そうですね。ですが、レイピアに限らず王城に来て下さると嬉しいです。リョウとの話は楽しいですからね」

「ありがとうございます」


と会話をしている横ではタニアがふくれっ面をしている。なんでだ?


「タニアも、もっと来てください。お母様もシャーリー叔母様もヨルージュ様も、あなたが来てくれると嬉しいと言ってますので」

「お兄様は嬉しくないのですか?」

「もちろん嬉しいですよ?...あぁ~...私がリョウを占有しているのが気に入らないのですか?」


と言うと、ジト目でタニアを見る。この人、こんな顔もするんだ...。


「そ!...そんな事は...」


それを見てタニアが狼狽する。というか恥ずかしがっているな。


「ふふふ...知っての通り、私は男子です。そもそも男子に対してそういう興味はありません。そこは心配しなくて良いですよ。ただ、私はリョウのように話の出来る男子がいませんから、嬉しいだけです」

「あ...ごめんなさい...クウィルお兄様...」

「ふふっ、大丈夫ですよ。そういう反応をするタニアがとても可愛く見えて...そうですね、小さい時に戻ったような感じがします。やはり貴女は私たちの妹ですね」


タニアの手を優しく取って、タニアに向き合う。中性的な顔立ちだが、その表情からは妹を見守る兄としての優しさが良く分かる。


「...もう...お兄様...」


タニアが少し膨れながら照れている。器用なものだ。


「リョウ様、また何かあれば連絡させていただきますね。これで」


と、ルーヴが手に持ったスマートフォンを見せながら私に話しかける。


現状、王城でスマートフォンを持っているのはルーヴだけだ。

何かあれば本当にすぐに連絡をしてくれるだろう。


「も...もう一度確認させてもらいますけど...別に何もなくても連絡して良いんですよね?」


と、今度は少しはにかみながら聞いてくる。

普通に連絡してくれて問題ないんだけどな...って、この世界に携帯電話はそもそもないか。


「あぁ。別に連絡したい時に連絡をしてくればいいぞ。ただ、こっちも何をしているか分からないから、その時に連絡が取れるか分からないけどな」

「はい。それは承知しています」

「あと、キャリーも同じ物を持っているからな。そっちに連絡してくれても問題ないぞ」

「それは嫌です!」


力いっぱい否定された。


「なんでだよ!」

「キャリーに連絡しちゃったら、リョウ様に連絡する機会が無くなっちゃうじゃないですか!」


どういう理屈だよ。意味が分からないぞ。


「いや...急ぎの用事で私に繋がらない場合は...だ。私に連絡したいなら、別にキャリーに連絡した後でも構わないぞ?」

「本当ですね?言いましたね?聞きましたからね?逃げないでくださいね?」


と詰め寄って来る。待て待て待て待て!!


「なんで、そんなに念を押すんだよ!!」


ともかく、そんな感じで会話をしてから私たちは王城を出て、ほどなく首都の門を出たのだった。


今回はあっという間の首都だったな。



帰りの道中は私の後ろにカラーが乗り、側車にはカリナが座る事になった。

タニアは夜霧の中でマリアと楽しそうにおしゃべりをしている。


二人は数年会っていなかったようなので、話す事は沢山あるだろう。


「で、カリナはニアラブ様に報告をしたんだろう?どういう感じだったんだ?」


改めてカリナにニアラブ様への報告内容を聞く。どういう反応をしたか知っておきたいからな。


「はい。まずお風呂の件ですが、大変興味を持たれていました。城にも作って欲しいともおっしゃっていましたから、そのうち要請されるんじゃないでしょうか?」

「あ~...城には人が沢山いるからな...運用も困らないだろう。ともかく魔力モーターが出来てからだな。魔力モーターの話はした?」

「はい。まだ完成もしていないので、要請されても無理ですと...あと、完成してもすぐには対応出来ない事も伝えています」


魔力モーターの開発状況も把握していたか。もっとも執務室でいつも話を聞いていたはずだから知ってて当然か。


「ありがとう。まずはエルセリアが先だからな。ちゃんと安定して使える事を確認してからでないと、安心して提供出来ないしな」

「...ニアラブ様がかなり残念そうでした...」

「そう言われてもなぁ~...あ、ニアラブ様にはエルセリア視察のついでにお風呂を体験してもらうとか...ダメかな?」

「前国王様を呼びつけるのですか!?」


あ...そういやあの人前国王だった...。が、別に呼びつけるって言う事じゃないぞ?


「人聞きの悪い!あくまでも『どうですか?』と聞くだけ!!」

「はぁ...分かりました。今度来た時にでもお伝えします」

「いや、それは私の方からしておくから大丈夫だよ。流石にそれは荷が重いだろ?」

「ありがとうございます」


カリナからしたら「呼びつける」っていう認識になるだろうしな。


「あとは、テクスの事だけど...どうだった?」

「非常に驚いていらっしゃいました。調べてルーヴ経由で分かった事を教えるとおっしゃってました」

「それは助かる。あと、似たような事がありえそうかもって話は?」

「それについては『調べようがない』との事でした。が、今の貴族の情報から洗える事があるかも知れないとおっしゃってましたが...どういう事でしょうか?」

「あ~...ヴァンパイアになる方法があるらしいんだけど、それは特殊な魔法だったりするから、魔術の本を買い漁っている貴族がいないかだけでも確認するって事なんじゃないかな?他にも噂とかもあるからね。そういう所から精査するんだと思うよ」

「なるほど...」


どこかのファンタジー小説では、そんな感じの記載があった気がするんだよな。もっとも、明確な書き方になってないので、読者に考えさせる内容にはなっていたが。

死霊術に関する本とかには記載はあるんだろうな...あの燃やしちゃった廃墟に何か残ってたのかも知れないが、残ってたら残ってたで問題出そうだったしな。

あ、テクスの手記らしきものがあったな...戻ったらアレを読んでみようか。


「で、ロボの事は?」

「それなのですが...かなり詳しく状況を聞かれまして...」


でしょうね。


「それは分かるし、別に聞かれても問題ないけど」

「ともかく、状況説明をした所『報告はそれだけか?』と聞かれ『そうです』とお答えしたら、すぐに部屋から出ていかれまして...」

「早速対応しに行ったんだな」


対応が早いな...しかし、どういう対応をするのかが気になるんだが...。


「だと思います。ですが、正直そこまで慌てる話ではないと...」


だよね~...そんなにしょっちゅう魔狼狩りがされているのか?それとも、何か気になる事でもあるのだろうか?

あ、一応確認しなきゃならない事があったな...。


「ロボの相手が貴族だろうが、国王だろうが、ロボを護る。って言った?」

「...恐れ多いことながら...それが一番大事な事だと思いましたので...」


お~...なかなか鋭いな。


「ありがとう。恐らくニアラブ様は私と王家との間に溝が出来るのを嫌ったんだろうね。まぁ、ロボを護る事が出来れば王家と対立するつもりはないし、そもそも王家とはちゃんと話し合いが出来ると思っているからね」

「そうなんですね?」

「そうだよ。そもそも兵士を無力化する方法はいくらでもある。あの時は『壊滅させる』って言ったけど、それは最悪の場合だね。基本は話し合いのつもりだから」


ちょっと頭に血が上っちゃってただけだよ...もっとも、現場ではどうなるかちょっと自信ないけどね...。


「...それを聞いて安心しましたが、出来ればもっと早く言って欲しかったです...」

「それは申し訳なかったな...後でルーヴ経由で連絡しておくよ」


と、ニアラブ様への報告内容を聞き、もうちょっと冷静に行動しなきゃなと反省する。


「ところで、私の仕事内容について、そろそろ教えて頂けますでしょうか?」


カリナが少し不安そうに聞いてくる。

まぁ、最初は会計をしてもらうって話をしていたもんな。


「以前、ちょっと話をしたかもだが、会計の話は流れた。今日迎えに来たマリアが会計をしてくれるって話だから、そこは安心してくれ」

「やっぱりそうなんですね...よかった...」


めちゃめちゃほっとした顔をしている。やっぱり、会計は苦手なのかもな。


「で、本来の諜報の仕事をしてもらおうと思ってて、これも以前話した『新しい事』を覚える事になるんだけど、そっちは大丈夫かい?」

「『新しい事』が分からないのでなんとも...」


そういや、ちゃんと説明してなかったもんな。


「あ、そうか。まぁエルセリアに戻ってから詳しい説明をするんだけど、たぶん楽しい事だと思うし、そもそも危険はないから安心してくれ」

「は...はぁ~...」

「ご主人様、諜報活動には移動手段が必要ですが、カリナに電龍を渡すのですか?」


と、後ろに座るカラーが話しかけてきた。

ちょっと不機嫌そうだ。なんでだ?


「いや?諜報活動をするのに電龍に乗ったら目立って仕方がないだろう?それはダメなんじゃないのか?」

「そうですね。興味はありますが、目立つのはちょっと...」


と、カリナが少し残念そうに言うと、カラーの安心したような声が後ろから聞こえる。


「そうでしたか...」


この後もカリナの仕事について話をしながら移動を続け、夕刻にはトモニアに到着したのだった。



「最近はよくこちらに来られますね?何かあったのですか?」


トモニアの村長であるサラさんが、少しあきれたような顔でこちらを見ている。確かに領主がこの頻度でトモニアに来る事はめずらしいだろうな。


「いや、首都からの帰りだとどうしてもここに泊まる事になっちゃうんですよ~...。あ、夜霧と宿屋に泊まりますので大丈夫ですよ」

「そんな訳にはいかないでしょう!!領主様ご一行を泊めない村長って言わせたいんですか!?」


怒られてしまった...。


そういう訳で、村長宅で泊まる事になった。

なんかすみません...。



翌朝、サラさんの手料理で朝食を食べ、丁寧にお礼と挨拶をしてトモニアを後にした。


「次に来る時はちゃんと連絡下さいね」


と釘を刺されてしまった...はい、次から気を付けます...。


「なんかすまんな。サラに色々とお小言を言われたらしいな」

「気にするな。そういうのも副官の仕事さ。タニアは領主なんだから、サラさんも流石に言いにくいだろ?」

「まぁ、確かにそうかも知れんが...」

「それに、事前に把握したいっていうのは分かるだろ?そんなにちょくちょく領主に来られるのは嬉しいだろうけど、食事の用意に困るだろうしな」

「そうだろうが...サラの料理は美味しいんだけどな...」

「確かにそうだな。ま、首都帰りに毎回トモニアに寄らないって方法もあるしな」

「そうだが...それはそれでサラが怒りそうだがな...」

「え~...なんでだよ~...」


そうなのか?そんな話は理不尽だと思うんだけどなぁ~...。


そうそう。タニアはいつも通り私の後ろに乗っている。側車にはカラーが乗っている。


それにしても、必ず後ろに誰かが乗るようになったな。

一番はタニアだな。次いでカラー...あれ?ほぼというか、この二人しか後ろに座ってない気がするな...。

いや、昨日はルーヴが座ったな...。でもそれ以外は後ろに座ってない気がする...。いや、別にそれがどうという事ではないんだが...。


エルセリアまでの道中は、タニアと魔力モーターの事で話を進めた。

基本は歯車機構で作ろうと言う事になった。


理由は、滑車だとベルトがすべって使えない可能性がある。という事だ。

汲み上げるのは水なので、かなりの重量になる。であれば、しっかりと力を伝えられる歯車が一番だと判断したのだ。

もっとも、歯車は作るのが難しいので、そこをどうするかは考えなければならないが、鋳造すれば良いだろうという話になり、まずはサンプルを作る事に決めたのだ。


百聞は一見に如かずって言うものな。リアの言葉だと「見れば分かる」だったか。



エルセリアには昼過ぎに到着した。

予定通り三日で戻って来たな。そもそも首都には何度も行っているから、行き来もほぼ作業になってきた。


今度は一人で行ってみたいものだ。私一人だったら最速で行けるはず。ちょっとタイムトライアルをするのも良いかもな。

電龍単体だったら河も渡れるし、一度やってみようかな...。


「おかえりなさいませ!お兄様!!」

「おかえりなさいませ!お兄様!!」


砦に戻ると元気な声が迎えてくれた。

セミアとレミの事は心配していたのだが、私たちへの依存もかなり解消されたようだ。

以前は一日も会わない状態だと過呼吸になってたからな。大した進歩だ。


「あら~...第一声と取られてしまったわね。お帰りなさいませ、リョウ様。首都はどうでしたか?」


そう言ってセミアとレミの後からやって来たのはキャリーだ。


「ただいま。セミアとレミは元気にしてたか?」

「はい!」

「はい!」


よしよし。


「リョウ様、私も元気でしたよ!?」


ここにも元気娘がいたな。

だがしかし...。


「それは分かっている」

「ちょっと!なぜ私の扱いが軽いんですか!?」

「キャリーから元気を抜いたら何が残るんだ?」

「え?え?え~っと...美女?」


は?


「なんでそうなるんだよ...」

「え?私、美女でしょ?」

「そういうのは自分では言わないんだぞ」

「だって、リョウ様は言ってくれないじゃないですか」

「はいはい。キャリーは美女だよ」

「だからなんで軽いんですか!」


いや、それにしてもキャリーとの会話はスムーズだな。


「お前たち...毎回そんな会話だな」

「あ、タニア様、お帰りなさいませ」

「タニア様、お帰りなさいませ!」

「おかえりなさいませ!」

「うむ、ただいま。砦は問題なかったか?」

「はい!問題ありません!」

「問題ありません!」


まぁ、本当に何かあれば連絡がくるはずだしな。


「タニア様、パストングが戻ってきています。後で執務室に行くように伝えておきますが?」


やっと本来の侍女モードに戻ったキャリーがタニアに報告をする。

そう言えば、私たちの出発と入れ違いでパストングが戻ってきているはずだ。


「そうか。じゃあ頼んだ」

「はい。お任せを」

「あと、リアとミームはどうした?」

「お二人は今日もギルドに顔を出しています。エルゼの捜索依頼が出てないかの確認ですね」

「まだ出てないのか?」

「どうやらそのようで...」


エルゼの捜索依頼が出ていないのは何故なんだろうな。

ギルドは国に縛られていないので、近隣の依頼については共有するようになっているのだが...。


これは一度エルゼの故郷を訪ねる必要もあるか...。敵国のクラスタンプに入る事になるので、カラーとカリナを連れていくしかないな。


「わかった。あ、この二人がマリアとアラノスだ」


私たちの会話を遠巻きに見ていた二人を招きつつ、タニアがキャリーとセミア、レミに紹介する。


「初めまして。マリア・フルベルです」

「初めまして。アラノス・スタミックスです」

「はい。初めまして。私はこの砦でリョウ様付きの侍女のキャリーと申します」

「私はセミアです」

「私はレミです」


簡単に自己紹介が終わったので、キャリーに二人を部屋に案内するようにお願いした。

荷物は後で取りに行ってもらおう。兵士も数人付けて貰えばすぐに終わるはずだしな。


ともかく、この場をキャリーに任せ、タニアの執務室に向かう事にした。



「数日居なかっただけだが、この部屋に戻るとほっとするな」


と、執務机の席に着きながらタニアが一言こぼす。

いやいや、エルセリア領主になって、まだひと月も経っていないんだけどな。


だが、この執務室で顔を合わせた日数が多いのも事実だよな~...。


「ほっとするというより、ここでの出来事が多いっていう所なんだろうな」

「そういや、そうだな...リョウとの関係で言えば、私の屋敷はちょっとしか関連しなかったものな」

「泊まったのは...三日ぐらいか?」

「そうだな。あとはトモニア、王城、大阪...圧倒的にエルセリアが多いな」

「私はそうだが、タニアは屋敷の生活が長かったんじゃないか?」

「屋敷での生活か...確かに長いが、内容はあまりないな...それに比べてリョウと出会ってからの出来事が大きすぎる」

「あ~...やっぱりそうだよね~...」

「リョウはそうではないのか?」

「私か?確かにタニアと出会ってからは、かなり激しい日常になっているが...あの世界の日常も激しかったからな...いや、やっぱりこっちの世界の方が刺激的だな」

「本当か?」

「本当だぞ?そもそも、タニアも大阪に行っただろう?刺激的ではなかったのか?」

「...刺激的だったな...中でもしゃしょうしゃんが...」

「なんで車掌やねん...」


さて、茶番は終わりにして仕事をしようか。


タニアの執務机には不在にしていた間に溜まった羊皮紙がかなりの枚数乗っている。

タニアは軽くため息をついて目を通し始めた。ま、領主になったんだから仕方ないよね。



私はまずは魔力モーターについて考えよう。


風魔法でプロペラを回して重い物...水を汲み上げるので羽の枚数を多めにする。とりあえず8枚羽にする。

そこからギアを組み合わせ、計算上200kgのものを持ち上げられるようにする。


そうだな...風速は6m/sにして、ギアの切り替えで低速、中速、高速の切り替えが出来るようにする。

最初は低速でしっかりと回し、安定してから中速で回せるようにしようかな。高速は...緊急用かな。


今回はギアの製作もこっちで鋳造するけど、最終的にはこの世界でも鋳造出来るようにしてもらう。

この辺の製作はドワーフの職人にしてもらえば技術的な問題はないだろう。


CADでプロペラとギアを設計し、シミュレーションを繰り返して形状を確定させよう。

タニアの部屋にも私のPC...ノートPCだが置いてあるので、同じ部屋で仕事をする事が出来るのだ。



ともかく、この世界でも作成やメンテナンスが出来る三段変速機構を組み込み、ちゃんと稼働させる事が出来るであろう魔力モーターを設計出来た。


モーターとなる部分には風魔法を発生させる魔法陣を置き、その真ん中から回転軸を伸ばす。軸には8枚羽のプロペラと、低速、中速、高速を担う傘歯車を設置する。この中軸は前後に稼働するようになっており、3つの歯車の位置を変更出来るようになっている。

そして、横から伸びる回転軸の動力を受ける軸には傘歯車があり、これも前後に稼働して動力を受けたり外したり出来る。要はクラッチだ。

横軸が外れると回転軸が動かせるようになり、変速できる。という仕組みだ。機構そのものは非常に単純だ。


あと、風魔法で風を起こすのだが、6m/sぐらいに調整する。ここはタニアに頑張ってもらおう。


モーター本体は空気の取り込み口と排気口を設ける。これも機構を簡単にする事もあるが、メンテナンスしやすいようにする為でもある。



さて、モーター本体を作ろうかと思った時、ドアをノックしてパストングが入って来た。


「おかえりになられたのですね、タニア様、副官殿」

「パストングと入れ違いだったそうだな。そちらも大変だっただろう。お疲れ様」


パストングの挨拶にタニアが答える。それに乗っかって私も「お疲れ様」とだけ挨拶をしておいた。


「いえ。私は移動して聞き込みをしていたぐらいですので、それ程難しい事はしておりませんよ。それよりも、急に人が増えましたな」

「あぁ、マリアとアラノスだな。マリアは会計士として働いてもらうが、アラノスはパストングに任せる。構わないか?」

「はい、問題ありません。というか、アラノスは戦闘技能はそこそこなのですが、物品管理等が得意なので逆に助かります」

「そうなのか。じゃあ悪いがアラノスは丸投げさせてもらう。あと、マリアと同居させるのが雇用条件だったので、本邸に部屋を取らせてある。すまないがよろしく頼む」

「承知しました。いや、その方が私も助かります。おそらくアラノスには色々と頼む事も多いでしょうから」


なるほど。アラノスは有名だったみたいだな。これは儲けものだったようだ。


「ところで、お風呂...でしたか?作る事になったそうですね」

「あぁ、本邸の1階の一番奥に女性用を作って、士官兵舎に男性用をまずは作る予定だ。その後、各兵舎にも作ろうと考えている」

「皆様が夜霧で体験されていると思いますが、私もとても興味がありまして...やはりとても良いものなのですよね?」


あ~...そう言えばパストングは未体験だったか。


「じゃあ、パストングが一度体験してみたら良いよ。今からでも体験してみるか?」


と話を振った所、大変喜ばれた。

聞けば女性陣の見た目がかなり見目麗しくなっているので...との事。

まぁ、温かいお湯でリフレッシュするので、普通に健康になっているって事だろう。


ともかく、パストングを連れて夜霧のお風呂を体験させた。


結論としては非常に喜んでくれ、率先してお風呂建築のサポートをしてくれるとの事。

やっぱり体験に勝るものはないね。



執務室に戻るとリアとミームが戻ってきていた。


「おかえり、リョウ。首都は大変だったそうじゃない?」

「ただいま。まぁ今回は行ってすぐに帰って来たからそれほど大変ではないよ」


私を見てすぐにミームが声を掛けてきてくれた。

リアはタニアと話をしていたが、私をみて軽く手を振ってくれた。


部屋を見渡すとキャリーも戻ってきていた。マリアとアラノスの件はある程度落ち着いたのだろう。


「で、エルゼの捜索願ってやっぱり出てないのかい?」


リアとミームが冒険者ギルドに顔を出す用事の中に、エルゼの捜索依頼が出ていないかを確認するというものがある。

今日も冒険者ギルドに出向いていたので、最新の情報は把握しているはずだ。


「そうだね。まだ出てない...っていうか、そもそも出ていない感じなんだよね...」


と、ミームの顔が暗い。ミームもエルゼを可愛がっているからな。

ん?


「そもそも依頼が出ていない?」

「あぁ...エルゼってちょっと訳アリなのかも知れないな」

「そうなのか?っていうか、訳アリってどういう事なんだよ?」


なんとなくだが、状況が見え始めてきたな...。それも良くない方向にだ。


「連れ去られた時点でヴァンパイアが犯人って分かっている可能性があるわね」

「あ~...両親が諦めたってやつか...」


それはかなりの初期段階で想定していた。だが、今はもっと悪い予感だ。


「そう。だから、直接親に聞くのが早いかもね」

「...ミームの予想は?」

「良くて捜索を諦めた...悪くて差し出した...リョウの予想もそんなもんだろう?」

「ありがとう。じゃあ、やっぱり一度確認する必要があるな。現地には私とカラーとカリナで行く事にする」


少数で行くのが良いだろう。本当はカリナだけで良いだろうけど、今回はゲートの裏技を使う必要があるからな。私が行かなきゃならないだろう。


「リョウ、いつ行くんだ?」


黙ってミームとのやり取りを聞いていたタニアが聞いてきた。

その顔は少し心配そうだが、この調査にタニアを連れていくのは難しい。そもそも行先はクラスタンプ領だからだ。

それはタニアも分かっているようで、自分が行くとは言わない。


「その前にエルゼの歩行訓練はどんな感じなんだ?」

「まだまだ時間がかかるかな?そもそも腕を持ち上げるのに苦労しているからな。ユリの話だと、歩くまでには30日ぐらいかかりそうだって言ってた」


と、これはミームだ。

エルゼの情報はかなり把握している感じだな。


「そんなもんだろうな...その30日の間に確認して、エルゼにどう話をするか考えようと思う」

「そうだな。それが良いだろう」


タニアの了承を得たので、もう少し具体的にしておこうか。


「どちらにしてもすぐは無理だし、カリナには色々と確認したい事もある。早くても10日後だろう。だが、まだまだ仕事があるから15日を目途にして計画しようか」

「それが現実的だな。分かった」


よし、どっちにしても日程は計画出来たが、そこまでにする事をスケジュールしなきゃだな。



あ~...今の残ってるタスクも確認しなきゃだな...寝るまでにまとめとこう...。


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