■■■ Step061 日常に戻れないと思ったけど日常ってなんだろうね
ヴァンパイアに囚われていた少女を助ける為に、自分の部屋に戻ってユリに連絡する。
数回のコールでユリが出てくれた。
『あら~了くんからの電話は珍しいわね~』
やけに嬉しそうだな。
『あぁ、ちょっとユリにお願いがあってな』
『お願い?もっと珍しいわねぇ~』
『女の子に点滴を打ってもらいたい』
『...どういう事?』
とたんに声が低くなる。
緊急事態だというのが分かったらしい。
『こっちの世界でヴァンパイアを倒したんやが、犠牲者がおってな。その娘の命がヤバそうなんや』
『分かった。準備するから私の部屋まで迎えに来て』
そう言いながら既に動き始めている物音がする。
『荷物持ちにもう一人連れて行く』
『男性?女性?』
なんでそれを聞くかな?
あぁ、ユリの部屋に入るからな。気になるか。
『カラーだよ』
『りょ。待ってる』
『すぐ行く』
流石ユリ。人命に関しては行動が素早い。
私もユリを迎えに行こう。
カラーと一緒にゲートを通り、地下の研究室に出る。
そこから二階のユリの部屋に直行した。
ユリの部屋の前に来たのでドアを叩き、入室許可を求める。
「どうぞ~」
「入るぞ、ユリ」
ユリの部屋には何度も入っているが、相変わらず入る時は緊張するな。
「早かったわね~。カラーさんも久しぶり」
10日前に日帰りで大阪に行った際にカラーに会っているからな。
ちなみに、その時はタニア、リア、ミーム、カラー、セミア、レミの6人を連れて行ったのだ。
それはともかく、ユリがスーツケースに色んなものを詰め込んでいる。ただし、服とかではない。医療機器を入れているのだ。
大学院での専攻が医療系ロボティクスだからな。
「あぁ、ゲートの近くにおったからな」
「そうなんや~。で、その女の子はどんな状態?」
質問しながら手際よく準備をしている。器用だな。
「脈はある。呼吸も安定している。実はまだヴァンパイアは消滅していないらしくて、影響が切れてへんらしい。やから目ぇ覚まさへんとちゃうんかな」
「ぱっと見は意識不明になっているだけって事やね」
「そういう事や」
「瞳孔は?」
「すまん。そこまで見てへんわ...」
「分かったわ。とにかく行きましょうか」
準備が終わったようだな。
スーツケースが2つほど用意出来ていた。
一つは私が持ち、もう一つをカラーに委ねる。
準備が出来たので、急いで異世界に戻る。
『あれ?ここはどこ?』
部屋に入るなり、きょろきょろと部屋を見回す。
あ、そう言えばユリが一度通った時は、タニアの納屋だったな。
『ここは異世界の私の部屋や。色々あってゲートの場所を変えたんや』
『ゲートの場所も変えれんの?なんかすごない?』
『実際すごいで~。二つのゲートを使ったらワープみたいな事も出来るからな』
『マジで!?あ、それはそうと、この部屋はタニアちゃんも一緒なの?』
『そんな訳ないやろ!!』
と、コントをしている場合じゃないな。
ユリを伴って部屋を出る。
『ここはどこなん?タニアちゃんのお屋敷って感じやないやん』
『前にも言ったけど、ここはエルセリアの砦や。今はこの砦が拠点やな』
『あ、そうやったわね。ほんまに異世界やねぇ~』
数人の兵士がすれ違う。
私の事は知っているが、ユリの事は知らないので、みんな怪訝な顔をするが仕方がない。
階段を下りて2階に到着。少し歩くと目的の部屋だ。
部屋に入ると、カリナが部屋にいた。
え?なんで?
「カリナ、キャリーとセミアとレミはどこに行った?」
「ちょっと仕事に行きました。私はその間、様子を見て欲しいと頼まれまして」
「そうか。ありがとう」
「そちらの方は?」
「あぁ、彼女はユリ。私の幼馴染だ」
「ユリ様ですね。どうぞよろしくお願いいたします」
「あ、すまない。この国の言葉は分からないんだ」
「そうなんですね?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
ユリに向き直り、簡単に紹介する。
『ユリ。この人はカリナ。今日からこの砦で働く事になった...私の部下になるのかな?よろしくだってさ』
『了くんの部下なの?それは大変ね。こちらこそよろしくね』
大変ってどういう事だよ。いや、それは後で良い。
「ユリがよろしくって」
「はい。お願いします」
簡単にお互いの挨拶が済んだので、ユリを眠り姫ならぬ、起きない娘に引き合わせる。
『この娘ね』
『そうなんや...ちょっと診察してみてくれへんか?』
『分かったわ。一応、部屋から出てくれる?』
『おっと。そうやな。じゃあ、ドアの前にいるから、終わったら呼んでくれ』
『分かったわよ~』
踵を返してドアに向かいながら一応カリナに声を掛ける。
「カリナ。今からユリがこの娘を診察するけど、医者のようなものだから、気にしないでくれ」
「分かりましたが、リョウ様は?」
「ん?一旦部屋を出るんだけど?」
「なぜ?」
なぜ?え?どういう意味?
「え?この娘の肌を見ないようにだけど?」
「こんな小娘の?いや、リョウ様の周りにはもっと凄い身体つきの女性ばかりなので見慣れてるはずでは?」
「見慣れてね~よ!ともかく、ユリの邪魔をしないようにな!!」
全く...なんて事を言うんだよ...。てか、周りはそう見てるって事だよな...。
一旦部屋を出て、ドアの向こうの壁に寄りかかる。
律儀にカラーも一緒に出てきてくれた。
「ここで待たれるのですか?」
「うん。ユリはこっちの世界の言葉が分からないからな。近くに居てやらないと困るだろ?」
「確かに、そうですね」
さて、少し思考するか。
ヴァンパイアは数日は消滅しないとカラーが言っていた。
娘の事を考えれば、消滅するまで燃やせば良かったんだが、あの時は奴に地獄を見せてやりたかったからな...。
てか、なんでヴァンパイアになった?まぁそれは日記を見れば分るか...?てか、それは後回しだな。
それにしても、もうちょっと考えて行動しなければならないな。
数日点滴をしないとダメだろう。ユリには砦内で自由に行動できるようにしなければならないな。
タニアに渡していた瞬時翻訳機『刹那』の異世界から日本語への翻訳バージョンを作る必要があるな。あとで、作っておくか。
それと日本語から異世界への翻訳アプリを...いや、ユリのスマホではパワー不足だから、ガジェットを渡すのが良さそうだな。
あとは、オクルとマートーンを周っているパストングの報告を待つだけだな。
眷属化していないから、割と最近連れ去られたんじゃないかと思う。この娘はトモニアの住人ではなかったから、オクルかマートーンの娘だと思うんだよな。
それ以外だと、国外になるから困るんだが...まぁ、今は悩んでも仕方ない。
最大の問題は、彼女が家に戻れるかどうかだな。
私の読んだファンタジー小説では、ヴァンパイアに連れ去られた者は、その時点で死んだものと扱われる。まず確実に血を吸われ、眷属になるか、失血して死ぬからだ。
ヴァンパイアはとても強力な魔物で、普通100年程度しか生きていない若い個体ですら、上級冒険者複数人に聖水、聖剣が必要になるはずだ。
一応弁解しておくが、テクスを倒した私が強かった...という訳ではない。普通にテクスが弱かっただけだ。
ともかくだ。眷属化していない状態で発見、保護されたとしても、本当に大丈夫なのか?突然眷属化して血を吸われたりしないのか?という疑問には誰も答えられない。眷属化するとヴァンパイア程ではないが、かなりの腕力を持ってしまう。簡単に人の腕を引きちぎってしまうだろう。
家族だったとしても、そのような危険がある者を受け入れるのは...無理だろう。
つまり、生きてはいても、家に、村に、街に、戻る事は出来ない。
首の傷は消えるだろうが、生まれ育った土地では「ヴァンパイアに連れ去られた者」としてあっという間に知れ渡る。
家を追い出された年端もいかない娘が、よその土地で一人で生きていく事は不可能だ。方法はあるが、普通にお勧めできないしな。
なので、この娘を受け入れてもらえる所を考えてやらなきゃならないが...タニアに相談しなきゃだが、今のタニアの状態だと難しいな...落ち着いてからにしよう。
「ご主人様...今、何を考えておられますか?」
カラーが声をかけてきた。
「あ~...あの娘が目を覚ました後の事を、ちょっとな」
「もうそんな事を考えておられたのですか?」
「先の事を考えておかないと、その時に慌ててしまうだろ?」
「確かにそうですね。で、何か思いつかれましたか?かなり難しい顔をしておられましたが...」
あ~...だから声を掛けてきたのかな。
「まぁね。一度ヴァンパイアに連れ去られた人間は、元の場所には戻れないんじゃないかと思ってね」
そう言って、考えていた事を説明した。
「結局ここで引き取らなきゃならないんだろうな...って思ってるんだが、私の一存では決められないからな。タニアに相談したいんだが、ちょっと今は難しそうでな...」
「タニア様のご様子がおかしかった件ですか?」
「そうなんだよな...きっと領主に急になったから、色々と無理がかかってしまっているんだと思うんだよ。ちょっと休ませてやりたいんだよな...」
「でしたら、ご主人様と二人一緒に休んでください」
「え?俺と一緒に?」
しまった...また素の「俺」が出てしまった...。逆にカラーが普通になってきたのかもな。
「なぜ一緒に?私は疲れてないぞ?」
「見ていましたら、タニアはご主人様との話で過激に反応をされています。ここはご主人様がタニアの調整をされるのが絶対条件です」
「絶対条件!?」
「そうです。絶対です。これがなければタニアは復旧しません」
「復旧って...いやいや、そもそも根拠は?」
「もちろん、女の勘よね?カラー」
突然横から声がかかり驚いた。
振り向くと、セミアとレミを従えたキャリーが腕組みして立っていた。
その顔は...真剣だ。
「リョウ様、タニア様を少し休ませたいと考えていらっしゃるんですよね?」
「あぁ...そうだが、どこから話を聞いていたんだ?」
「『ヴァンパイアに連れ去られた人間は、元の場所には戻れない』...ぐらいから?」
話半分ぐらいは聞いていた感じか。
まぁ廊下で会話しているんだから、聞かれても咎める事は出来ないし、そもそも咎めるつもりもないけどな。
問題は、キャリーが気配を消せるのは知っているが、セミアとレミも気配を殺せるって事だ。これは厄介かもな...。お願いだからキャリー2号とかにならないで欲しい。
「...で、『女の勘』って...あと、カラーは女性型だけどゴーレムだぞ?」
「あら?リョウ様はカラーを女性として扱っているのに、そこだけゴーレム扱いなんですか?カラーが悲しみますよ?」
「うぇ!?」
流石キャリー...痛い所を突いてくるな。
それを受けて、カラーも悲しい顔をして私の肩を掴んできた。
「ご主人様...私...悲しいです...」
目をウルウル...そういや涙腺があるのか?いや、それどころではないな。
ともかく、悲しげな顔で見上げてくるカラーにドキリとしつつ、それ以上に真に迫ったその演技に感心しつつ、どうして良いか分からなくなる。
「ちょ...ちょっと待て!急にそんな対応をするな!」
「そうですか?残念です。でも、ご主人様の面白い姿がまた見れましたので、良しとします」
なんでやねん...。
「ご主人様、以前も言いましたが私も感情の起伏は薄いですが、ちゃんと感情もありますし、精神的には女性のそれになっております。そもそもイスフォーン様に直接創られたのですから、女としても最高級品なのは間違いありません」
言ってる内容は真面目なんだろうけど、聞く人が聞いたら危険だぞ?
「ともかく、カラーも女の勘で判断しているという事です。当然、私もカラーの女の勘に同意します」
ここまでの事を黙って見ていたキャリーが改めて「女の勘」と言って来る。
そういう勘は私は実装していないので、対応に困るんだがな...。
「根拠は?そして私に何を期待している?てか、何をすれば良いんだ?」
「根拠はありません、勘ですので。期待はしてますよ?何とは言えませんが、勘ですので。何をすれば良いかは分かりません、勘ですので」
「カラーは?」
「キャリーと同じですね。でも、タニアを助けられるのはご主人様だけです。やはり勘ですが間違いありません。後でリアやミームにも聞いてみて下さい。きっと同じ事を言いますよ?」
「え~...それ本当?」
私の疑問にキャリーがどや顔でさらに畳みかけてきた。
「事情を説明した上でルーヴに聞いてもらってもいいですよ?ついでにクウィル様も付けましょうか?」
マジっすか...。てか、クウィルお兄様って...確かに男の娘だけど...いや、深く考えるのは止めよう。
「納得できないならシャーリー様も巻き込んで...」
タニアのお母様を巻き込むの?これに?アタシ、死刑になるじゃん!!
「それは止めて~!!!!」
廊下に私の絶叫が響き渡ってしまった...。
『なんなんよ~...めっちゃうるさかったんやけど?』
処置が済んだユリの第一声がそれだった。
『すまねぇ...』
『何か大変そうやけど、先にこっちの話をするわね』
そう言って説明してくれた。
まず、医学的に診て意識を失っている事は間違いがない。ただし、原因が不明。ヴァンパイアの被害者は分かっているけど、そんな事例は現代日本にはないからな。
で、身体はかなり衰弱している。なので、すぐに点滴を打ったとの事。対応が明日だと危なかったそうだ。
点滴は今、8時間での交換するペースにしているそうだ。大人になっていないので、ペースを落としているとの事。
点滴の確認は2時間毎。点滴の交換作業はユリがするしかないので、そこは便宜を図って欲しいとの事だ。
『分かった。とりあえず、ユリに翻訳機を渡すから、あとで研究所に戻ろうか』
『それはえぇけど、さっきの絶叫はなんやったん?』
やっぱり気になるか...。
さっきの『女の勘』の話もある。
とりあえず、嘘偽りなく全てユリに説明したんだが...。
『了くん...ホントに分かってないのね...』
『え?』
ユリが座り込んで頭を抱えている。
一応書いておくが、ユリは裾の長いスカートを履いているので、基本見えません。
『説明は後ね。ともかく、タニアちゃんのメンテナンスが先ね』
しばらく座り込んでいたけど、すっくと立ちあがり、前髪で目を隠しながらまるで独り言のように宣われる。
『メンテナンスって...』
『これだけははっきり言うね。了くんは今からタニアちゃんが安定するまで、ずっと一緒に行動する事。ベッド以外で...』
丸縁の伊達眼鏡を反射させ、私を指さしながら宣言する。
って、人を指さしちゃいけません!
いや、その前に!
『ベッド以外って...いや、それは当たり前やけど!?』
『まず、私にこの世界で会話出来るようにして。とにかく、私の環境を整えて』
『あ~...はい...』
ユリの圧力に何も言えず、みんなに簡単に説明して、研究室に移動する。ユリはもちろんだが、カラーももれなく一緒だ。
瞬時翻訳機『刹那』は設定を変えるだけで良いのですぐに用意できた。
ユリからの言葉を翻訳する口語翻訳機『明暗』をサクッと作り、ユリに渡す。
「流石了くんやね。ものの一時間でこんなもん作れるんやからね」
「褒めてもなんもでぇへんで」
「知ってる」
「ひでぇ...」
最近ユリからの扱いが雑になってきているな~...。
「ともかく、これで異世界で意思疎通は出来るんよね。じゃあ、戻ろうか?」
「え?なんで?」
「あの娘の状況確認もあるし、打合せもあるんやから、とっとと行くわよ」
「私の意志は?てか打合せ?」
「自覚のない罪人の意志は知りません」
「罪人!?」
「ほら!私の戯言は気にせぇへんの!行くわよ!!」
「マジひでぇ!!」
ユリに手を引かれ、ゲートに向かう。
ふとみると、前を歩くユリの耳が真っ赤だった。まあ、手をつないだのはいつ以来だろうなぁ~...全然覚えてないや。
改めて起きない娘の部屋に入る。
そこにはキャリー、カラー、セミア、レミ、カリナが居た。
タニア、リア、ミームは居ない。ひょっとしてお風呂かもな。っていうか、タニアについての打合せだから、この三人が居たらダメか。
「皆さん、改めまして。私は了くんの一番の女のユリです」
口語翻訳機『明暗』を使って、異世界の言語でユリがしゃべる。
ちゃんとユリの声で異世界言語が出力されているので良かった。
てか、研究室で確認しとけばよかったな。
いや、「一番の女」!?
『おい!!一番の女って何!?』
思わず日本語でツッコむ。
『何よ?本当の事やん?』
『何をもっての一番なんよ!!』
『一番了くんの事を知っているって事やん!』
『言い方!!』
「あの~...」
キャリーが私たちの口喧嘩を止めてくれた。
「あ...すまん...」
「ユリ様がリョウ様の一番の女っていうのは全然良いので、話を続けてくださいね」
「良いのかよ...」
「ここまでの事を見せられていたら反論する意味がないです。無駄です。話を続けてくださいね」
無駄って...
「タニアちゃ...タニアさんの事、了くんから聞きました。早急な対応が必要です」
「ユリ様もそう思いますか?」
「ユリで良いですよ、キャリーさん。具体的に何をするとかはないのですが、タニアさんと了くんが二人きりの時間をたっぷりしっかり作る事が大事です」
「やっぱりそうですよね」
「何がやっぱりか全く分からないんだが...」
いや、本当に対処方法の理由が全く分からない。
「要は、タニアちゃんの中の了くん要素が不足しているんです」
「あ、なるほど~」
「何がなるほどなのかな?」
え?何?「了くん要素」って何?
「姉様、了くん要素って何?」
黙って聞いてたレミがセミアに小声で聞いている。
うん。それ、私も知りたい内容なんだよ。
「お兄様の匂いが感じられなくなったんじゃない?」
「え!?それは大変!!」
「だよね」
セミアが悩む事もなく答え、レミも悩む事もなく驚く。
なんでやねん!余計に分からんわ!
「なんで大変なんだよ」
「了くんに関わった女の子は、多かれ少なかれ了くん要素が必要なの。特にタニアちゃんは了くん要素が足りなくなった際の対処方法が確立されてないみたいだから、早めの対処が必要です」
一気にまくしたてるユリ。てか、対処方法って何だよ...。ツッコむ気力もなくなった。
「ユリさん、『タニアさん』からあっという間に『タニアちゃん』になってますね」
「あぁ!しまった!!」
キャリーのツッコミに、頭を抱えるユリ。
大阪にいた間はずっと「タニアちゃん」だったからな。
「いえ、もう『タニアちゃん』で良いです。それよりも、二人が一緒にいるだけだと、なんとなく今と変わらない気がしますが、もう少し具体的な提案はありますか?」
「それが問題なのよね...タニアちゃんの隣にずっと了くんがいるのが自然な状態...私はこの世界の事は全く分からないのよね...」
「今はタニアの隣にご主人様がずっといる状態ではないですね。少なくとも砦にいる間は無理なのでは?」
キャリー、ユリ、カラーがそれぞれに現状整理をしている。
もう私は蚊帳の外だな。
「あ~...確かに...砦の中ではそれぞれ領主と副官の仕事をしてますもんね。そこに接点はあまりないわよね...」
そうだな~...顔を合わせるのはタニアの執務室だけになっているからな。
「...普通、副官って上司の傍にいるもんじゃないのかしら?」
「そこは、ほら...リョウ様ですから」
「ご主人様は勝手に動き回りますから...」
「あ~...そうよね...」
ユリの素朴な疑問にキャリーとカラーが明確な解答を示す。
「勝手に動いて悪かったな。仕方ないだろう?タニアと一緒に動いていたら、エルセリアの安定化が後手後手に回るんだから...」
なんやかんやでイジられる存在になったんだろうな、私。
嬉しい反面、大阪弁で「なんでやねん!」と少し怒って言いたくなる。いやいや、ここは大阪じゃないからな。少し拗ねてみよう。
「悪いとは言ってません。はっきり言ってとても助かっていますし、タニア様も感謝されています。ただ、その結果タニア様との接触が少なくなったという事です」
「『あっちを立てれば、こっちが立たず』って奴ね」
「あ~...そうですね」
「しかし、現状は今の体勢を変える事は難しいぞ?私ではタニアの仕事が出来ないし、タニアに私の仕事は出来ない」
ともかく、私としてもタニアには安定してもらいたいのは事実だ。
「でも、一緒に動く時はありますよね...例えばエルセリアの外での仕事とか?」
「確かにそうですね。先日も首都に行く時は一緒でしたし」
「今、エルセリア内は安定してきていますよね?」
キャリー、カラー、カリナが発言する。
エルセリアはあの暴動以降、大きな問題は発生していない。
領主が代わったが、その影響は出ていないように感じるな。
「確かにエルセリアは安定してきているな。でも、それはパストングの手腕のおかげでもあるけどな」
パストングは地味に軍務だけではなく色々出来るからな。
「ホントですよね~。仕事が出来る男性って感じですものね」
「お~...キャリーさんはパストングさんを狙っているですか?」
キャリーの言葉にカリナがチャチャを入れる。いつの間に仲良くなったんだ?
「私?確かにパストングさんが良い人だって知っているけど、刺激が少ないのよね~...正直、面白味がないと思うのよ~」
「あ、私はパストングさんを見てないですが、キャリーさんの言いたい事、分かります」
「カリナさん、分かりますよね?」
と、キャリーとカリナが私をチラチラ見ながら会話と言う名の井戸端会議を始める。こういう所は女子だよな。
「そこ!こそこそと話をしない!!」
「こそこそしてません。堂々と『こそこそ』しているだけです」
「なんだよそれ...」
その後、もう少し会話をしたのだが、これと言う対応策が出てこなかった。
まぁ、そんなのは簡単には出てこないしな。
「そろそろ夕飯の時間だから、約束通りカレーを作ろうか」
「カレー?ここで作るの?どうやって?」
ユリがすぐに反応する。さすが、家事の達人。
「あぁ、キャンピングカーがあって、そこの台所で作るんだ。タニア、リア、ミーム、キャリー、セミア、レミ、カリナ、そしてユリと私の9人分。圧力鍋が2つあるからとりあえずカレーとご飯は間に合うと思う」
「それ、ギリギリね」
「一応8合炊きが2つあるから、大丈夫だろう。ユリ、ちょっと手伝ってよ」
「いいわよ~」
そんな感じで、見学したいと言うキャリー、カラー、セミア、レミを連れて夜霧に入る。
もちろん、その前に起きない娘の状態確認は完了している。
「これって、地下室で作ってたキャンピングカーよね?」
「そうだよ。一応、指紋認証登録しているから、ユリも輝も葵も出入り自由だ」
米を8合計って洗い、圧力鍋に入れる。まだ炊かない。
ユリにジャガイモ、ニンジンを切ってもらう。ジャガイモは皮を剝かないといけないから少々時間がかかる。切ったら水に少し晒さないとな。
私は玉ねぎをみじん切りにして、バターを溶かしたフライパンで炒める。
ある程度、茶色になった所で牛肉を入れて炒める。
その間、ユリはジャガイモ、ニンジンの用意が出来たので、圧力鍋に根菜を入れ、水を適量入れて焚き始める。
玉ねぎと牛肉が炒め終わったので、お米を入れた圧力鍋に水を入れて、塩を少しだけ入れて炊き始める。
どちらの圧力鍋も、ここから約15分、圧力がかかってからは5分弱火にしてから火を落とす。圧力が抜けるまでは約7分ぐらい。圧力鍋は調理が早い。
先に圧力が抜けたカレー用の鍋に炒めた玉ねぎと牛肉を入れ、カレールーを入れる。一応甘口だ。
焦げないようにゆっくりカレーを回しつつ、ルーを溶かしていく。
カレーが出来た頃にはご飯の圧力も抜けて、食べる準備が出来た。
さて、これを食堂に持っていこうと思った所、リアが夜霧に飛び込んできた。
「リョウ!大変!!」
「なんだ?何かあったのか?」
「お姉様が...いない!!」
...は?




