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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第6章 やるならちゃんとやりましょう
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■■■ Step059 ヴァンパイアなんて聞いてない

死霊の大軍と魔石スケルトンが迫ってきている


魔石スケルトンは物理で殴れるから良いけど、死霊はどうしよう?


あ、そう言えば...。

横目でカラーを見てみる。カラーは何の事か分からず首を傾げている。


ちなみにパストングは逃げる準備万端だ。


ともかく、思いついた魔法をちょっと試してみよう。


「ホーリーライト!」


左手を掲げ、手のひらに聖なる輝きを灯す。


その瞬間、死霊たちは消え失せ、魔石スケルトンもたたらを踏んで停止した。


思った以上に効果があったので、内心ビックリしたが表に出さない。

予定通りというような顔をしておいた。


「え?なんで?リョウって神官だっけ?」


そりゃそんな反応するよな。特にリアは。てか、私も半信半疑ではあったのだが...。

だが、説明している暇はない。魔石スケルトンが迫ってきているからな。


「説明は後だ。ともかく魔石スケルトンを叩くぞ」

「そうこなくっちゃ!」


ミームが十文字槍を携えて進み出る。ちなみに十文字槍は私謹製だ。


「え~...怖いんですけど...仕方ないですね...」


パストングが嫌々ロングソードを構えて進みでる。ミームの後ろに隠れながら...。がんばれ。


「アタシは様子を見ながらミームの支援だね」

「そうだな。とりあえず、ミームの武器の攻撃力を上げておこうか。エンチャントウェポン!」


ミームが接敵する直前に、十文字槍に魔力を付与する事が出来た。


「くらえ!!」


ミームの十文字槍が魔石スケルトンの腰骨を粉砕した。

下半身が崩れ落ち、上半身もその場に転がる。


ただ、上半身だけになっても動きが止まらず、腕の力だけで迫って来る。


「ひぃぃぃいいぃぃぃぃぃ!!」


その異様な光景で、パストングが後退する。

まぁ確かに気持ちの良い光景ではないな。


この場合、やはり魔石を剥がした方が良いだろう。


すかさず拳銃を取り出し、胸骨を砕く。

その瞬間に魔石スケルトンは動きを止めた。


う~ん...討伐完了?



タニアがスケルトンの胸骨に張り付いていた魔石を取り上げる。


「前回のボスコボルドもそうだが、こういうのを胸に張り付けるのが一番効力があるというのだろうか?」


と、自分の胸の所に貼り付けようとしている。

ついさっきまでアンデッドに張り付いてたんだから、止めなさい。


「そうかも知れないな。しかし、魔物を活性化させる為に魔石を放り込んでくるなんて、本当に嫌がらせだな」


クラスタンプのやり方は、ある意味合理的なんだろうけど、気に喰わないな。


「その前に、なんでリョウが神聖魔法が使えたのよ?」

「そうだな。今後の事もあるので先に聞いておこうか」


リアはそれよりも私が神聖魔法が使えた事を気にしている。

タニアも興味深々だな。


「あ~...正直私も使えると思っていなかったんだが、ほら、カラーはイスフォーンのゴーレムで、私はイスフォーンに興味を持たれている状態だと思うんだよ」

「そうですね。だからこそ、イスフォーン様からご主人様に仕えるようにと言われましたし」

「で、その時点で『イスフォーンの加護』とかがあるのかな?神官とは言わなくても関係者?状態なんじゃないかと思って、やってみたら出来ちゃった」


それを聞いたリアが口をあんぐりと開けて呆けている。

タニアもやれやれと言った感じの仕草をしているな。

ミームは額に指を当てて、首を振っている。

カラーは胸を張っているな。別にこれは君の功績ではないんだが?

パストングは...周りをきょろきょろと見ている。話を聞いていないな、これは...。


「リョウにしては行き当たりばったりだな」

「すまない。魔石スケルトンはともかく、死霊は厄介だと思って、出来れば幸運と思ったんだよ...」

「出来ましたら、もっと早く確認してくれたら良かったのに...」


パストングは恨めしそうに私に言ってきた。

いやぁ~...そんな事言われてもな...。


「すまないな。基本的にアンデッドは光に弱いと思っていたから、強い光を出す魔法は用意してたんだけど...まさか聖なる光が本当に出来るとはな」

「...一応言っておくけど、あの光の魔法は高位の神官でないと無理だからね」


リアが少しだけ不機嫌そうに言う。神官ではないが、聖職者だからな。きっと悔しいんだろう。


「そうなのか?」

「もっとついでに言うと、光の魔法の成功する確率は約半分なのよ。全部消し飛ばすなんてお父様でも無理だからね」

「つまり?」

「リョウは光の魔法だけで言えば、法皇を超える能力を持っているという事だな」


タニアがトドメを刺して来た。


え~...これってどういう事だ?

私はそもそも無神論者だ。いや、神の存在は理解している。イスフォーンの存在も信じている。が、信仰している訳ではない。

イスフォーンが一方的に私に興味を持っているだけの状態だ。


と、言う事は、本来神官と言うのは、神に興味を持たれた者という事か?


これはヤバイ情報だ。


「え~...じゃあ、これはここだけの話にしといて」

「そうだな。他言無用という事でよろしく頼む。特にリア。分かっているな?」

「だ...大丈夫よ...」

「ミーム、監視を頼む」

「任せな。もっとも、身近にいる時だけになるけどな」

「それでも十分だ」


なんかとんでもない話になったが、今は良いか。


「で、どうしようか?一応廃墟の中を確認してから燃やそうとは思っているんだけど?」

「そうだな。燃やした後で後悔しない為にも確認は必要だな」

「廃墟の中に入るんですか?」


私とタニアが廃墟探索を主張しているが、明かにパストングは逃げ腰だ。


「入らなきゃ確認出来ないだろう?まぁ見張りは必要だから、パストングが残ってくれるのは別に構わないが?」

「残ります!」

「よし。じゃあ、残りは廃墟探索だな。一旦、夜霧に戻って準備しようか」


一旦、夜霧まで戻り準備を整えた。


部屋の中の捜索にはアサルトライフルは取り回しが良くないので、倉庫に格納し、代わりに拳銃用の弾倉をいくつか懐に入れる。

星砕丸も同様の理由で抜き、変わりに脇差『昴』を持っていこう。


その他、ちょっとした小道具も持っていこう。出来るだけ使い捨てのものが良いな。


ミームも十文字槍からショートソードに持ち替えた。このショートソードも私謹製だ。

何度も言うが、男の子の浪漫で作っちゃったんだよ!!


あとは小道具として、各自にライトを渡しておいた。

向いた方向を照らし出すヘッドライトだ。


「あ、これ貰ったけど部屋に置いてきてしまったわ」

「まぁ、これは在庫はあるから大丈夫だよ。でも、返してね」

「も...もちろん」


リアもミームも慌てて来たからな。忘れてても仕方ない。

タニアはそもそも想定外のイベントだからな。


「私には頂けないのですか?」

「貸しても良いけど、灯りで何かが寄って来ても知らないぞ?」

「じゃあ要りません」


パストングは分かりやすいな。



準備が出来たので、探索に向かおうか。


電龍と夜霧をもう少し移動させて、廃墟の近くで止める。

アリスにも周辺の警戒をさせて、パストングにもお留守番させる。


星蛍ベースを起動し、廃墟に向かわせ先行させる。


この廃墟はちょっとしたお屋敷のようで、3階建てだ。

中央部に大きな扉があり、そこから魔石スケルトンたちが出てきたので開いたままだ。


星蛍が飛び出し、部屋の中を照らし出す。


入った所はちょっとしたロビーになっているようだ。


床はうっすらと埃が積もっており、スケルトンが歩いたであろう場所が良く分かる。


「とりあえず、ここは何も居ないな」

「だけど、死霊は突然現れるから気を付けないとダメよ」

「そうだな。音も立てないから注意が必要...って。言ってるそばから出てきたな」


ミームと会話をしていたら、あちこちの部屋から死霊が出てくる。

なんでこんなに居るんだ?


はっきり言って面倒だ。


「ホーリーライト!」


聖なる光をロビーの真ん中で炸裂させる。

部屋の中が白い光に彩られ、すぐに元の状態になる。


う~ん...死霊が消滅した後は何も残らないな。そういや、経験値ってどうなってるんだろうな?ゴールドも落ちてないし...。


「一応聖職者なので一言言うけど、本当にむちゃくちゃね」


リアがリスのように頬を膨らませている。その姿に毎回可愛いと感じるが、その実機嫌が悪くなっているんだよな...。


「なんか...すまない」

「あ、ごめん。怒ってないから大丈夫よ。ただ、リョウが関わると常識がいっぱい壊れるのよね」

「そういう意味では、私はこっちの常識を知らないからな...」

「ともかく、ここはリョウの能力に頼ろう。危険が無いのが一番だ」


タニアの一言で気を取り直し、1階から順番に探索する。

特にめぼしいものは無くちょいちょい死霊が出てくるぐらいだったので、2階に進む。


2階はいくつかの寝室と書斎と思しき部屋だ。


相変わらず死霊が出るが、ホーリーライトで消え失せる。思った以上に楽な作業だ。


書斎には日記のようなものがあったので回収。後で中身を確認してみよう。


価値がありそうな本も探したが特には無かった。

羊皮紙なので虫食いでボロボロだったというのもある。


3階に行くと、ここは主人の部屋だったようで、部屋の様子が豪奢だったんだろうというのが伺えた。


ここも死霊以外はいないと思っていたのだが、違った。


「お前たち...何をしに来た?」


部屋の中に一人の壮年の男性が立っていた。


貴族と思われる服装。

全く血の気の無い白い肌。

ちらちらと見える乱杭歯。

そして、血の様に赤い瞳。


おいおい...まさかのヴァンパイアか?


ともかく、確認だ。


見るとタニア、リア、ミームは既に戦闘態勢に入っていた。

カラーは動きはないが、そもそも身体能力が高すぎるからな。おそらく戦闘態勢には入っているんだろう。


相手はただ立っているだけだ。

戦意も殺気も感じない。が、ヴァンパイアならそんなものは感じないだろう。なんせ、そもそも死んでいるんだから。


このまま戦闘に入っても良いんだけど、なんとなく負けそうな気がする。このままだと。

理由はない。本当にただなんとなくだ。


左手でみんなを制しておいて、一歩進み出る。


「あ~...我々はこの地域の領主の調査隊だ。最近、ここが騒がしいと聞いたので調査しに来た」


嘘は言っていない。

いつでも拳銃を抜けるようにして、話しかけてみる。


「騒がしい?あぁ、下の階の異様なスケルトンかね。確かにあれは騒がしかったな」


お?良い感じで会話に乗ってくれた。これで情報収集が出来るな。


「あれはあなたの持ち物では無かったのか?」

「あんな武骨なものが?私の持ち物だと?不愉快だな」

「そうか。それは安心した。ここに来るまでに邪魔だったので排除させてもらった」

「ふむ。あれはなかなかの能力を持っていたハズだが?」


能力...なんだろうな?あっという間に倒したので、何の能力を持っていたのか全然分からん。


「それは、変わった石を持っていたから...という事が関係するのか?」

「魔石に気が付いたか?」

「スケルトンには不釣り合いな石だったからな。すぐに気が付いたよ。それよりも、そちらはどなたでしょうか?私はリョウ・カダヤで領主の副官をしている」

「副官がこのような所に赴くのか、面白いな。儂はジョーチェ法皇国コヨンの元領主、テクス・ホルトーアだ。もっとも儂の記録が残っているかは知らんがな」

「ちなみに、領主を止められたのは何年前ですか?」

「さぁ?この姿になってから、時間の流れなぞ感じぬのでな」


と言ってニヤリと笑う。

はっきりと乱杭歯が見えた。


やだもう...マジでヴァンパイアかよ...。

正直、何も用意してないから、下手したら全滅だぞ?


軽く確認すると、タニア、リア、ミームの顔色が悪い。

カラーは...いつも通りだな。もっとも事態は把握しているみたいだが。


とりあえず、もっと考える時間が欲しい。

と思って部屋の中を見回す。そして、見つけちゃった...。


「と言う事は、本当の意味で貴族になられたと?」

「その物言い...おぬしは死霊使いか?」

「まさか。単なる一般人ですよ」

「まあ良いわ。儂が何者かは承知したのであろう?」

「なんとなく...ですがね」


いや、ほぼ確定なんだけどね。


「おぬしは幸運じゃな。そこの女を置いて行け。さすれば逃がしてやろう」


ご所望はタニアか。

まぁ、それは想定内だが、そもそも誰も置いていくつもりはない。


「その前に、そこのベッドに寝かされている少女は...どうしたんだ?」

「どうしたとは?単なる食料だが?」


トモニアでは何も聞いていないが、ひょっとしたら行方不明があったかもな。

生きているかどうかも分からないが、放ってはおけない。


さて、どうすべきか...。


「彼女を置いておけば、それも食料とするって事ですよね?」

「当たり前であろう?だが、それでおぬしは生き残れるぞ?」

「有難迷惑なので、拒否する」


一瞬で脇差に手をかけ、抜き放つ。

その動作に合わせて魔法を展開。


「トルネード!!」


テクスに向かって超強力な竜巻の渦を叩きつける。


「ぬおっ!風魔法に聖なる光を混ぜおったか!!」


そりゃ、単なる竜巻じゃ効かなさそうだもん。

今は聖なる光が唯一の有効打だからな。大いに活用するしかない。


テクスは竜巻を正面から受けてしまい、壁に飛ばされ、そのまま外に放り出された。


「リアとミームは少女を確保!タニアとカラーは階段を下りてくれ。奴を追うぞ!!」


全員に声を掛けて、私は奴が放り出された壁の穴に向かい走る。

ここは3階だが、問題ない。


「衝撃吸収!脚力強化!」


自分とタニア、必要かどうかはわからないがカラーにも身体強化魔法を掛けておく。


そこまでやったら壁の穴が迫っていた。


テクスは丁度地面に降り立った所のようだ。

その手前に降りれば良いだろう。


出来ればタニアとカラーが到着する前に勝負を付けたい。


テクスを睨みつつ、私は3階から飛び降りた。



私が降り立つまで、悠然と構えて待っていたテクスが話しかけてきた。

そりゃまぁヴァンパイアは強力な魔物だからな。


ヴァンパイアもアンデッドなので直射日光には非常に弱いが、活動出来ない程ではない。

ちなみに、今は昼前だ。

太陽が空高く登っているのだが、生憎の曇り空。しかも、ここは森の中なので薄暗い。

多少の動きが制限されるだろうが、おそらく全力に近い力が出せると考えておいた方が良いな。


「人間にしてはなかなかやるな。久しぶりに驚いたよ」

「個人的には、驚かせるよりも笑わせる方が得意なんだけどな」

「笑えぬ言いぐさだな」

「それは残念」


こいつをこの森の中で逃がすとかなり面倒だ。

ここで倒してしまわないと、後で痛い目を見るな。


「ホーリープリズン!」


聖なる光でテクスを囲む。

完全に動けなくするのは無理だと思うが、動きにくくはなればそれで良い。


基本この世界では、魔法を行使する場合、必ず呪文を唱えなければならない。唱えて初めて魔法が発動するのだ。

しかし、私は本来無詠唱で魔法を発動するので、「魔法が発動してから呪文を唱えている」状態なのだ。


なのでテクスは不意を打たれて光の檻に閉じ込められた。

閉じ込められた瞬間の顔は非常に驚いていたな。


おそらく、呪文を聞いてからでも余裕で逃げられると思っていたのだろう。

そうは問屋が卸すもんか!


「スーパーノヴァ!!」


超新星の爆発をイメージして、局所的に超高熱を集約させる。


20m程離れているが、かなりの熱気を感じる。

近くの木々が熱気だけで燃え始める。


すまねぇ。あとでちゃんと消すから勘弁してくれ。


なお、真っ白な炎が大量の空気を取り込んでいる音が激しい為、テクスの悲鳴らしき音はかき消されているな。


これで燃え尽きてくれると、とても助かるんだけどな...。

燃え尽きなくても、かなりのダメージを負わせる事が出来るハズ。



あまり大きく魔力を練れなかったので、そろそろスーパーノヴァの効果が消えそうだ。


比例して、テクスの悲鳴が聞こえてきた。

あ~...やっぱりあれでは消滅してくれなかったか...。


スーパーノヴァの効果が消え、高温に晒された地面がマグマのように赤く滾っている。

その中央部に膝をついていたテクスがゆっくりと立ち上がる。まだ満足に動けないようだな。


「きさま...よくもやってくれたな...」

「そりゃ、動物愛護ならぬ魔物愛護の精神はないからな」

「儂は魔物ではない!貴族だ!!」

「闇の貴族は魔物だよ」


さて、軽口を叩きながら考える。


ちなみに、さっき気が付いたが、赤燕が飛んでいる。

アリスが戦闘記録を録っているんだろう。今後の事もあるから助かる。


で、テクスの状態だが、まず見るからにダメージがある。

アニメとかだと、ヴァンパイアは一瞬で傷が治ったりするが、テクスはまだ肌は炭化しているし、手足やあばらは所々骨が見えている。

目玉も焼け切ったようで、大きな眼窩がぽっかり空いている。パストングには見せれないな。


ちょっとずつ回復はしているようで、今右目が見えてきた。いやん、気持ち悪!!


もう一度スーパーノヴァを食らわせる事も出来るが、もう少し実験させてもらおう。

命がけの実験だがな。


脇差『昴』に聖なる光を付与する。

これで、アンデッドに有効な武器になったはずだ。


テクスは私に魔法を食らわせようとしているのだろう、ぶつぶつと呪文を唱えつつ、発動に必要な動作をしている。

呪文を聞くと、どうやら麻痺の魔法のようだな。


発動されると面倒なので、頭部を包み込むように炎を発動する。


「ぐぁぁああぁぁあ!!!」


唱えていた呪文が中断され、時間的な猶予が出来る。

脚力強化の影響もあり、一瞬で間合いを詰めて袈裟切りを食らわせる。


「がああぁぁ!!」


残心しつつ、距離を取る。

ヴァンパイアはかなり筋力があると聞いたので、殴られないようにする為だ。


切った所を見ると、かなりの深手を負わせたようだ。

聖なる光の影響もあるのだろうか、なかなか修復しない。


と、いう事はだ...魔法に聖なる光を混ぜればかなり有効な攻撃になるんじゃないか?


「リョウ!大丈夫か!?」

「ご主人様!!」


おっと、二人が合流したようだな。


「大丈夫だ。問題ない」

「あ~...そのようだな...」


全くの無傷の私を見て、タニアは反応に困ったようだ。

そうだろうな。普通ヴァンパイアを相手にして、こっちが無傷っていうのはありえない。


「ご主人様...まさか本当に、闇の貴族を相手に無傷なのですか?」

「あぁ、全くの無傷だ」


テクスにはウェアウルフ等の従者がいない。従者が一匹でも居れば大変だったかもしれないが、テクスなら力押しでなんとかなりそうだ。


「ゆるさん!お前の生命力で、我が肉体を修復してやる!!覚悟せよ!!」


ここで逃げ出されると困るので、標的を私にしてくれるのは非常に助かる。

タニアとカラーに私から離れるように言い、私も少しだけ前に進む。


「その状態で反撃出来るのか?私にさえ傷も付けれない闇の貴族って、弱くない?」

「き...きさまぁぁああ!!愚弄する事はゆるさんんん!!」


武器は持っていないので、殴りに来た。かなり速い!

おそらく修復を四肢に集中させたのだろう。


脇差を一旦鞘に納め、抜刀の構えで間合いを計る。

これは脇差だ...打刀よりも間合いが短いので気を付けなければならない。


判断はシビアだ。


テクスが右拳を大きく振り上げようとした瞬間、抜刀、一閃、右に抜けながら残心しつつ、テクスに向き直る。

テクスの左脇が斜めにすっぱりと切られ、殴りかかった右腕の勢いと上半身の自重によってずれていった。残った肉では上半身をつなぎ留められず、ぶちぶちという気持ち悪い音をさせながら、上半身が地面に落ちる。


「なぜだぁあああぁ!!!儂は貴族ぞおおおぉぉ!!!不死なのだぞおおぉぉお!!」


大の字...ではないな。下半身がないし。と言うか、下半身は塵になって消えた。

ともかく、仰向けに転がったテクスが絶叫する。


今更だけど、本当にヴァンパイアか?思った以上に弱いぞ?私が強い訳ではないはずだ。


「テクス。お前、本当にヴァンパイアなのか?ヴァンパイアになってから何年経つんだ?」

「儂は貴族じゃ!国王に弓を引いたとは言え、栄誉あるホルトーア一族であるぞ!!」


知らん。


「ホルトーア一族...今思い出したが、100年ぐらい前にある貴族が魔術の実験と称して、近隣の住民を拉致していたと聞いた。拉致された住民のほとんどは年端も行かぬ少女達だったそうだ。それが国にバレ、死刑になったそうだが...その死体は消えたと...確か、その者の名前がテクス・ホルトーア」


タニアが補足してくれた。


「なるほど。ヴァンパイアになってたかだか100年って事か」


ファンタジー小説の知識だが、ヴァンパイアの100歳は子どもだ。もちろんヴァンパイアなので存在そのものは脅威ではある。が、本来の恐ろしさ、特に不死身かと思われる再生能力が低い。

そりゃ弱いわ。


「どういう事だ?」

「ヴァンパイアは年を重ねる毎に強力になっていくらしい。100年程度では子ども扱いだ」

「きさまぁああ!やはり死霊使いであったか!!」


って言う事はやっぱり100歳は子どもなのね。もっとも、私は死霊使いではない。


「だから違うって。単に物知りってだけだ」

「許すまじ!!覚えておれよ!!」

「残念。お前はここで消滅する。絶対に逃がす事は無い」


ヴァンパイアは生かしておけない...あ、死んでるから生きてないんだが...あ~面倒だな。


「今、この場で消えてもらう。復活も出来ないように入念に対処するから諦めろ」


ヴァンパイアは灰からも復活するそうだからな。

あの漫画を参考に、コイツを封印していこう。


「リョウ!どうなった?」


リアとミームもやって来たな。丁度いい。


「ミーム、そのショートソードを返してくれ」

「これか?まぁ元々お前の武器だから良いけど、この後の私の武器は?」

「もう大丈夫だ。コイツを封印するのに、ショートソードを使いたいだけだから」


そう言いながら、ショートソードを受け取る。

テクスはゆっくりだが、再生をしており、顔はかなり修復出来ていた。

もっとも、下半身はまだまだ時間がかかりそうだ。


「え?これがさっきのヴァンパイア?ボロボロじゃない?」

「そうなのだ...私たちが来た時には、人の形をしていたが、その時点でもボロボロだった...」

「でも、再生してきてるよ?」

「なので、もっかい燃やすから、離れて」


そういうとみんなが急いでテクスから離れる。

よし、十分離れたな。


「な...なに!?またあれを...!?」


テクスの人の顔らしくなってきた顔が恐怖で歪む。


「あ、やっぱりあれは効くんだ。よかった。スーパーノヴァ!」


瞬間、テクスを中心に真っ白な炎が現れ、焼き尽くすが如く轟音を立てる。

その間にショートソードに細工をして準備をする。


具体的には小型の魔力収集装置を取り付けて、刃の部分に魔力が通るようにしているだけだ。作業そのものは難しくはない。


その間もスーパーノヴァは発動し続け、さっきと同じように周りの木々を熱だけで発火させている。

いや、まじゴメン。


ともかく、大火事になる前に、水魔法を発動して消火する。

もうちょっと火力弱めの魔法を考えないとダメだな。


しばらくすると魔法の効果が消え、炭化したテクスだけが残った。

まだチリチリと燃えているようだ。これ、まだ生きているのか?あ、アンデッドだから死んでるんだって...。


手に持ったショートソードに聖なる光を付与し、一時的に聖剣にする。

それをテクスの心臓の位置に突き刺した。


かろうじて残った下あごが動き、何かを言ったようだが、声帯も燃え切ったようで何も聞こえない。


「さて、この剣には聖なる光を付与して疑似的に聖剣にしてある。そして、魔力を集める機構を組み込んでいるので、この光は消える事はない。これでお前は復活する事はないはずだが、念には念を入れて、ここで地中深く封印する。再生する事も出来ず、人目に付かず、暗い地面の中で永遠に過ごせ」


また顎が動いたが何も聞こえない。

聞こえたとしても聞く気はないがな。


土魔法で深く地面に穴をあける。深さにしておよそ50m。

そこにテクスを落とし、穴をふさぐ。

その際、しっかりと地面を固め、身動きできないように、再生も出来ないようにする。


さて、これで大丈夫だろう。

地面を50mも掘るような事はまずない。井戸を掘るにしてもせいぜい20mだ。


それに、ここは大森林の中だ。


「終わったな」


と、タニアが声をかけてきた。

その顔は安堵しているように見える。


「そうだな。まさかの事態だったけど、無事に終わって良かったよ...」


ヴァンパイアは想定外すぎるぞ。私の聖職者属性も想定外だが...。


「問題は...これ、国にどう報告する?」

「あ...報告...これ、報告しないとダメか?」

「トモニアの村長さんや騎士も巻き込んでいるから、報告はしなきゃだろ?

「そうだな...どうしようか...」

「わかった。とりあえず、私が大枠考えるから、それをタニアが書いてくれ」

「そうだな。そうしてくれると助かる」


タニアの秘書も欲しいな...。


事務員レベルだから、シャインが対応してくれると助かりそうなんだが...これも宿題だな。


「ところで、何か忘れてないかい?」

「ん?何をだ?」

「あれも燃やすんだろ?」


と廃墟を指さす。


あ~...そうだった。が、少女を助けたから、もっと詳細に探索しないとダメだな。


「燃やす前にもう一度探索しないとな。誰か残ってたらダメだし...」

「それもそうだな」

「さっきの少女は?」

「パストングに任せてきた」

「じゃあ、先に少女の様子を確認しようか。探索はそれからでも遅くはない」


さて、もう少し頑張るか。

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