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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第6章 やるならちゃんとやりましょう
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■■■ Step058 お見合いなんて聞いてない

マリアに会った事で大きな目的を達成したので、ちょっと遠回りして王城に戻る事にした。

まぁ、商業地域をくるっと回ったので、ちょっとは買い物をしただけなのだが。


主に回ったのは雑貨や衣服店だな。

セミアとレミの服をメインに、ルーヴにネックレスを、キャリーに髪飾りを買ってあげた。


タニアにも買ってやろうと思ったのだが、既に衣装を沢山買ってもらったからと断られてしまった。

そう言えば、時々大阪で買った服を着ていたりするな。あっちの服の方が良かったかな?


「流石は首都の城下町。売り物の種類は多いわよね」


と、キャリーが髪飾りを触りながら嬉しそうに言う。


「そうだな。首都の特産品はドワーフの工芸品と、陶器だな。首都の北にあるテブ村は陶芸の里で、そこから陶芸が入って来るんだ」

「へぇ~...陶芸ねぇ~...」


タニアの説明に少し興味が出た。

そういや、テブ村には行った事がないな。時間があれば行ってみたいが...エルセリアが落ち着いてからだな。


「そして、エルセリアの場合は特産が無いんだ。トモニアからは穀物、カタランスからは海の幸が入って来るから食べ物は豊富なんだがな」

「特産品がないのか?」

「あぁ、知っての通り、エルセリアは元々クラスタンプの最前線だったんだ。当時は砦の中には小さな商業施設や民家しかなく、基本的には軍事拠点だったようだ」

「言われてみると確かにそうか。じゃあ、何か特産品でも考えるか?」


簡単に作れて、需要の高い物を考えれば問題ないだろう。

と、考えていたら、タニアが慌てる。


「待て!そんな簡単に特産品は作れないぞ?」

「それは知ってる。けど、何もしないよりも何かした方がいいだろう?失敗はするだろうけど、それは出来ない事が分かるだけだからな」

「本当にお前は...まぁ分かった。それはエルセリアに戻ってから考えよう」


そんな会話をしながら王城に戻ったのだが...特産品か...何が良いかな?


で、王城に戻るとエルセリアに戻る許可が出ていた。

しかし、明日の朝にしてくれとの事。


なんでも、タニアのご両親...ジョーチェ法皇国の法皇と長男が「タニアと夕食をしたい!!」と駄々をこねたそうで...。


流石に家族水入らずの場面に乱入する気はサラサラないので、一気にテンションの落ちたタニアを何とか宥めて家族の夕食に送り込んだ。

タニアは恨めしそうな顔をして、とぼとぼと家族の元に行った。なんでそんなに嫌がるんだよ。


タスバーク法皇陛下、マークお兄様、私はちゃんと仕事をしましたよ。

シャーリー様も喜んでくださいね。


ま、家族には会える時に会っておくのが良いんだぜ?私の場合は両親が遠い外国で仕事中なのでなかなか会えないけどね。いや、それ以前に私が異世界に居る方が問題か。



夕刻になり、我々はいつも通り部屋で夕食をし、いつものように夜霧に設置してあるお風呂に入る。


女性陣が風呂に入り、そろそろ私も入ろうかと思った矢先に、夜霧のインターフォンが鳴る。誰だ?

画面を見ると、そこにはクウィルお兄様のお姿が...。


「私もそのお風呂に入ってみたいのだが...良いだろうか?」


最近特に接触が多いですね。いや、別に構いませんが...。

聞けば、ルーヴが自慢げに話をしたらしい...。まぁ良いけど。


「えっと...入り方は説明するので、お一人でも良いですか?」

「え?一人で...リョウは一緒に入ってくれないのですか?」


なんでやねん!!


「いや...王族の方と一緒には...流石に...」

「そうですよね...ごめんなさい。説明をお願いしても良いですか?」

「はい...」


てな感じで飛び入りがあった。


一通り説明して、最悪キャリーに手助けしてもらおうと思ったが、どうやら1人で大丈夫だったようだ。


やはり、王家の人々は物覚えは良いようだな。


クウィルお兄様は髪も伸ばしているので、ドライヤーを渡したらめっちゃ喜ばれた。

切実に「欲しい」と言われたけど、夜霧の中でしか使えないと説明したら悲しんでた。


なんでもかんでもは無理だからな~...でも、魔工でこういうのは作れないのかな?

今度、タニアに聞いてみよう。


何も「電化製品」でなければならないって事はないしな。


ん?こういうのを特産品にする事は出来る?

いや、それは一度作ってからだな。



...それにしても、お風呂に入りたいっていう王族、これ以上増えないよな...

その場合は王城内にお風呂を作ってもらおう。それが一番だな。その場合はちゃんと手伝うけどね。


お風呂を作る理由は簡単。

清潔にする事で、変な病気になったりする事が減るからな。


ともかく、クウィルお兄様とは風呂上りに少しお茶をして会話を楽しみ、城に戻ってちゃんと一人でベッドに入って休んだのだった。



翌朝、起きたら既に早速タニアが部屋にやって来ていた。


「リョウ...もう準備は出来ている。帰ろう」


第一声がそれだった。

良く見ると、かなり元気がない。なんか疲れているようだ。


「どうした?そんなに急がなくても良いんじゃないのか?」

「ダメだ。早く帰ろう」


理由を言わない。そしてかなり落ち込んでいる。う~ん...これはあまり良くないな。ともかく、昨日の家族の夕食会で何かあったと見た。


「あ~分かった。ちょっと準備があるから、まずは朝食を食べて、昼前には帰るようにしよう」

「...分かった...朝食を食べたら準備して夜霧で待ってる...」


結局朝食も元気がなく、食べたらすぐに部屋を出て行った。おそらく準備をしに自分の部屋に戻ったのだろう。


ともかく、今の状況ではタニアに確認する事も出来ないな。ならば裏技使うか...。



「なぜ儂に会いに来た?」


ニアラブ様がとても不機嫌だ。

まぁ、いきなり私が面会を求めたからだろう。私に会いたくはないというのは分からなくはないが、今はタニアが優先だ。


「タニアの様子がおかしい。昨日の家族での夕食会で何かあった?」

「...やっぱりか...」


やっぱり!?


「で、何があったんですか?」

「お見合いの話があったのじゃよ」

「お見合い?今?この時に?」


流石にタイミングが悪いんじゃね?


「この後は本格的に忙しゅうなって、数年は首都に戻れんかも知れん。じゃから今の内にという事じゃわ」

「一応確認ですけど、お爺様の差し金ではないんですよね?」

「当たり前じゃ!そもそも時期じゃないし、それならまずはおぬしに一報を入れとるわ」


その判断基準は有り難い。


「一報をいただくのは有り難いですが、なぜ私に一報を?」

「一報入れとかんと、この結果じゃろ?面倒じゃわい!」

「あ...ですよね~...」


やっぱり私は面倒な奴らしい。ま、自覚はあるけどね。


「で、タニアはともかくそんな気はないし、時間もない。男に興味はないと言い切りおったわ」

「でしょうね~...」

「そしたら、マークが『リョウは許さんからな!』と言ったら、食事もそこそこに出て行きよったわ」

「あらま~...見事な三段落ちですね」


私の名前がシレっと出たけど、ここは介入したら負けだからな。

私もここはシレっと流そう。


「ともかく、タニアの不機嫌の理由が分かったであろう。もう行け。カリナには昨日の内に伝えておるから、夜霧?だったか...の前におると思うぞ」

「助かります。あと、これも既に聞いておられると思いますが...」

「あのマリアというタニアの友人と、その彼氏じゃろ。分かっておるわい。じゃが手続きが色々あるからのう...10日後ぐらいにエルセリアに到着ぐらいで思っておけ」


流石お爺様。前国王の肩書は伊達ではないな。


「何から何までありがとうございます。これはお礼です」

「ん?それは...!」

「私の秘蔵の酒、『黒騎士』というものです。ちょっと癖がありますが、お爺様は問題ないでしょう。そのままでも良いですが、お湯で割って飲むのが一番です」

「なに?酒をお湯で割るのか?そんな呑み方があるとはな...。まあよい。次はいつ来るのじゃ?」


この人、私を酒の配達人ぐらいにしか思ってないんじゃないか?


「何を言ってるんですか?そんな予定はありませんよ。それよりも、次の領主を早く用意してください」

「分かっておるわい!そもそも、すぐに領主の後任なんぞ決まらんわい!2、3年はかかると思っておけ」

「そんなにですか?」

「たわけ!領主がほいほい代わったら、領民が不安になるじゃろうが!!」

「あ~...確かにそうですよね...」

「分かったらはよ行け!仕事の邪魔だ!!」

「はい、分かりました。色々ご教授いただき有難うございました」


ともかく、理由は分かったし情報も得た。

出ていけと言われたから、気兼ねなく出ていけるぞ!


さて、エルセリアに帰るか!!



一旦部屋に戻り、荷物を持って皆と部屋を出る前に、ルーヴに渡すものがあった事を思い出す。


「ルーヴ、ちょっと良いかい?」

「なんでしょうか?また何か頂けるのでしょうか?」


察しが良いな。


「実はそうなんだ。これを君に渡しておこうと思ってな」


と懐から例のスマートフォンを渡す。

この世界にはコンセントはないからな。なので、小型の魔力電力変換バッテリーを搭載したモデルだ。なので分厚い。

重量は300g程。普通に重いのだが、この世界では比べる物が無いからな。


「これは...なんでしょうか?」

「これは『スマートフォン』という魔工だ。離れていても私と連絡が取れるようになっている。ちょっと試してみようか?」


と、その場で簡単に使い方を教えた。


「これで、リョウ様といつでも会話が出来るんですね!?」

「そうだね。だけど、私も何かの用事をしていたり、手元にスマートフォンが無かったら会話は出来ないよ。でも、連絡があったと分かれば折り返し連絡するから」

「分かりました!!」


現代人にとっては重たいと感じるスマートフォンを胸に抱いて嬉しそうにしている。うんうん、新しい物や知らなかった物って嬉しいよね。


「あと、この件はニアラブ様に話をしても良いけど、使えるのはルーヴだけだから、ニアラブ様に渡しても意味が無いからね」

「はい!大丈夫です!絶対!に誰にも渡しません!」


おおう...「絶対」って所にすごく力が入っていたな。まぁいいか。


他にもちょっとした機器を王城のあちこちに設置しておいた。

何も問題なければ良いが、緊急事態があったら困るからな。言わば保険だ。


「リョウ様、次はいつ頃来られますか?」


ルーヴに聞かれたが、今からエルセリアに戻る所だからな...次回の事など考えられないな。


「う~ん...エルセリアでの統治が本格的に始まったら、簡単にはこっちに来れないと思うしね~...ともかく、現状では分からないよ」

「そうですか...」


なぜか残念そうだな。まぁ、普段のルーヴがどんな感じか分からないが、きっと退屈しているんだろう。


「逆にルーヴがエルセリアに来てくれたら歓迎するよ?機会があれば来てくれよ」

「そうですね!一度行かせていただきます!」


と、急に元気になった。現金なものだ。


「その時は迎えに行くから、それこそスマートフォンで連絡してくれ」

「はい!!」


やけに嬉しそうだな。

視線を感じて振り返ると、キャリーが困った顔をしている。

ルーヴが来たら困るのか?

それとなく、聞いておこう。



夜霧に戻ると、カリナが待っていた。


「おはようございます。私の準備は出来ておりますので、いつでもどうぞ」

「おはようカリナ。タニアを見なかったかい?」

「いえ、私は見ていないのですが...」

「そうか...じゃあ、もう夜霧に乗っているのかな?」


夜霧に入ると、リビングにはタニアの姿がない。

やっぱり拗ねているんだろうな。と思い、キャリーに女子部屋を見てもらうと、ベッドに座っていたとの事。


ちょっと疲れているから、と言うのでそっとしておこう。


そもそも私は女子の気持ちには疎いからな。下手に話をして地雷を踏むのは避けたい。

昔、輝や葵の地雷を踏みまくったからな。だが、何が地雷だったのかは今でも分からない。


「キャリー、済まないがカリナに夜霧の事を説明してやってくれ。そろそろ出発するぞ」

「はい、分かりました」


後の事はキャリーに任せておけばいいだろう。


カラーを伴って夜霧を出ると、そこにはルーヴの他にクウィルお兄様が居た。


「もう出発されるのですね。次はいつ頃来られますか?」


クウィルお兄様にも次回の事を聞かれた。皆、次来る事を気にしているなぁ~...。

少し嬉しいけど、本当に予定がないんだよな。


「次の予定は、今はちょっと分からないですね。エルセリアがある程度落ち着かないと、ちょっと難しいかと思います」

「そうですか。私の武器の作成もありますから、簡単には来れないでしょうね」


あ~、そっちを気にされているのか。


「そちらは、恐らくですがそれほどお待たせしないかもですね。私一人であればすぐに来れますので、その際はルーヴ経由でご連絡差し上げます」

「本当ですか?って、ルーヴ経由?どういう事ですか?」


あ、しまった...ニアラブ様だけにと思ったが、まぁどうせバレるか。


クウィル様に簡単にスマートフォンを渡した事を伝えた。


「なぜルーヴなのですか?」


ちょっと怒っている雰囲気があるな。

きっと王家を無視しているとでも思っているのだろう。


だが、ここは素直に伝えた方が良いだろうな。


「王家の方々を無視している訳ではないのですが、正直あまり信用をしていないというのも事実です。人として信用出来ないという訳ではないですよ?王家という組織というか、権力者に対して信用していない。と言う意味です」

「王家に連なる私を前にして...本当にリョウらしいですね。承知しました。ルーヴをリョウへの窓口として王家で話をしておきましょう」


少し怒っていたようだが、結局は少し困った顔で納得されたようだ。


「お手数をおかけいたします」

「良いですよ。よく考えれば、リョウへの窓口がある事に意味があるので、逆に助かります」

「ありがとうございます」


よし。これでルーヴが怒られる事が無くなったな。

思わず口がすべってしまったが、結果としては良かったな。


「では、これで失礼させていただきます」

「はい。ご機嫌よう」


クウィルお兄様がにっこりと笑って送り出してくれた。


さぁ、出発だ!



私が電龍に乗り、カラーが私の後ろに乗る。


「前方からの攻撃はご主人様が対応出来るでしょうが、背後からは難しいでしょうからね。背後はお任せください」


後ろから射られる事は無いと思うが、まぁ確かに念の為だな。

で、後ろに乗るのは良いのだが、なぜそんなにくっつくのだ?くっつく必要性はないと思うんだが?


「え?タニアもくっついていましたよね?」


タニア基準なんかい!くっつく必要はないと言っておいたが「出来るだけ背後を広く防御する為です」と言われてしまった...。有難い...有難いが...いや、諦めるか。


王城を出て、門に向かう。


あまり速度を出せないので注目を集める。結果人が多くなって更に速度が落ちる。

パレード状態になっちゃったな。なんか久しぶりだ。


門近くまで来た時に、「もう帰るのですか?」と声を掛けられた。


そちらを見ると、マリアだ。


「あぁ、もう用事が終わったからな。あまりエルセリアを空けておけないし、もう戻るよ」

「そうなんだ。あれ?タニアは?」

「後ろの馬車みたいな箱の中だよ」

「じゃあ、お話は出来ないですね」


少し残念そうだが仕方ない。

エルセリアに来た時に大いに話をしてもらおう。

旧友というのは、いつの時代でも良いものだと思うからな。


「そうだな。マリアは買い物かい?」

「ううん。なんかすごい人だかりになってたから、見てたの。そしたら貴方だったからね。ちょっと声を掛けてみたって感じ」

「そうなんだ。あ、丁度良かった。君の彼氏だけど、エルセリアに異動になるようにしてもらったから、また彼氏に聞いておいてね」

「え?早!そうなの?助かるけど、どうしよう?」

「どうしよう...とは?」

「結構荷物があるから、引っ越しをどうしようって思ってて...」


あ~...確かに引っ越しとなると荷物を動かさなきゃだもんな。


「あ~...じゃあ、迎えに来るよ」

「はい?」

「この夜霧に荷物を積めば良い。結構な荷物だろうけど、コレには十分に乗るだろう?家具はこっちで用意しておくから」

「え?ホントに?助かる!!っと、そうね...服と雑貨と本がちょっとだけ...家具なんかは持って行かないし、十分乗るハズよ。けど、どうやって連絡すれば...」

「あ~それは任せて」


ルーヴ経由で情報を取得すれば迎えに行くのは問題ないだろう。

その際、タニアを連れて来れば、気分転換にもなるだろうし。


「え?いいの?でも、どうやって?」

「それは気にしなくても良いよ。こっちから連絡すると思うから」

「貴方が連絡をしてくれるの?」

「いいや?お城から連絡があると思うよ。その場合は君の彼氏が窓口になってもらう事になるからよろしく」

「え~っと...まぁ...はい...」


良く分からないが、聞いても分からないと思ったのだろう。引き際が良くて助かる。


「じゃあ、もう行くけど良いかい?」

「えっと...うん良いよ。じゃあ連絡待ってる」

「うん。じゃあ、よろしくね」


タニアを交えずに決めてしまったが、大丈夫だろう。

そもそもマリアを引き込む事は知っているんだ。


改めて電龍を進めて、首都の門を通った。



さて、しばらく走り、昼過ぎにはロボとの会合地点に差し掛かった。


今日はロボに用事は無いが、昼食をしなけりゃならないので、ここでお昼にしよう。

毎回バーベキューは流石に大変なので、今日は簡単にクリームシチューとパンにしようか。



電龍を止め、夜霧に入るとタニアがリビングで座っていた。

見た感じ、ずいぶんと落ち着いているようだ。


「タニア、お疲れ様。今から昼食を作るから、もう少し待ってくれ」

「分かった。待ってる」


う~ん...まだちょっと機嫌良くなさそうだな。


こういう時は、何かイベントがあると助かるんだけどな...。


と思っていたらスマートフォンが鳴る。

確認するとリアからだった。


「リョウ!今どこ?もう首都から出た?」


なにやら慌てているな。

リアの大きい声が聞こえたのだろう、タニアが鋭い目つきでこちらを見る。

意図が分かったので、頷いてからスピーカーモードに変えた。


「もう首都は出たよ。今は...ベールナル山脈の近くだけど?」

「トモニアにはいつ頃着く?」


トモニア?夜までには着くけど、どうしたんだろう?


「急げば今日の夕方には到着するけど?」

「急いで来て。待ってるから」


どういう事だ?


「待ってる?リアはトモニアにいるのか?」

「そうよ。私とミーム、パストングもいるわ」


エルセリアの主要メンバーがトモニアに揃う事になるぞ?


「ちょっと待て。そもそも何があった?」

「もう一つの魔石の場所が分かったの。魔石はベールナル大森林の中の廃墟に投げ込まれたみたい。それでアンデッドが活性化しちゃってるのよ!」


それは大変だ!!


「わかった。出来るだけ急ぐけど、そっちは動かず待っててくれ。アンデッドってヤバイだろうから」

「うん、わかった。大人しく待ってるわ」


通話を切って、タニアを見る。


「聞いた通りだ。急ぐが食事はしないとダメだからな。ちょっと待っててくれ」

「分かった。しかし、アンデッドか...厄介だな」


お?タニアがいつもの雰囲気に戻った。


「何か対策はあるのか?」

「基本は燃やすだな。あとは聖水とか神官の祈りとかだが...」

「リアは神官ではない...よな?」


聖職者ではあるそうなのだが、戦闘職で拳闘士...ようは武闘家と聞いているからな。


「そうだ。戦闘職の聖職者だから、神聖魔法は使えない。聖水は高価だからな。それに首都でなければ手に入らないぞ」

「そうか...仕方ないな。ともかく、現場を確認してからだ。おっと、食事を作らなきゃだな」


いつものように圧力鍋に材料を放り込んでホワイトシチューを作り始めたのだ。



料理が出来たので全員で食べる。

ちょっとテーブルが足りないので、私とカリナは立って食べている。行儀悪いが許してもらおう。


「それにしても、その圧力鍋?ですか?それ、凄いですね。あっという間に料理が出来ましたね。しかも、根菜が柔らかいです」


カリナが少し興奮気味に感想を言っている。

諜報専門の仕事だが、料理に興味を持つ普通の女性なんだなと感心する。いや、その感想は失礼か?


「これは使い方は難しくはないんだけど、作るのは難しいからな。みんなに分ける事が出来れば良いんだけど...」


まてよ?鍛造で作れなくないか?いや、かなりの圧力がかかるから、下手な鍛造では作れないか...うん、この世界で作るのは今は無理だな。


「本当に作るのは難しいから、諦めてくれ」

「そうですか...残念です...」


カリナが本当に残念そうだな...う~ん...もうちょっと考えようか。


「それにしても、このシチューは本当に美味しいですね。毎日でも食べたいです」

「うん。本当に美味しいです。毎日はダメでも、時々食べたいです」


カリナの意見にレミが反応する。


そうだな。まだ食が細いセミアとレミには時々食べさせてあげても良いかもな?


「そうだな。時々は食べようか。私も料理は嫌いじゃないしな」

「それは私も食べて良いんだろうな?」


タニアが目を細くして睨んでくる。その口元はうっすらと笑っているので、ちょっと遊んでいるんだろう。


「え?タニアも欲しいのか?タニアにはもっと美味しい物を用意しようと思っていたんだけど...」

「え?なに?もっと美味しい物?」

「例えば『カレー』と...」

「それでいい!それがいい!それで頼む!!」


めっちゃ食い気味に返事が来た。

やはりカレーは最凶だな。いや、最強だな。


「わかったよ。トモニアの件が終わったら、カレーを作るからそれで良いか?」

「約束だぞ?いいか?絶対だからな!?」

「わかったから。今はこれを食べてくれ。今日中にトモニアに行きたいからな。晩飯はトモニアになるから、そのつもりで」

「「「は~い」」」


返事が良くて安心した。


ともかく、いつもよりも慌ただしく昼食を済ませて、トモニアに急いだ。



夕方、日が暮れる前にトモニアに到着する。

リアに確認すると村長の家にいるとの事なので直行した。


「数日ぶりですね、タニア様、副官殿。来ていただきありがとうございます」


トモニアの村長、サラさんが出迎えてくれた。


「確かに数日ぶりですね。リアからは詳しい事は聞いていないので、まずは説明をしていただけると助かります」


部屋に案内されると、そこにはリアとミーム、パストングが席に座っていた。

他には、この村の有力者が数人だな。


こちらはタニアと私、アドバイザーとしてカリナ、護衛としてカラーを伴っている。

他のメンバーは夜霧で留守番だ。


空いている席は丁度3つだ。タニア、私、カリナが座り、カラーは私の背後に控える。


「で、そもそもどうしてアンデッドの話になったのか、最初から教えてくれると助かるのですが?」


本来はタニアが話を進めるんだろうが、ここは私が仕切った方が良いだろう。


「まず最初はおよそ5日前になるんです」


村長の話では、5日ぐらい前に狩人がベールナル大森林に入った際に、ちょっと奥の方まで入ったんだそう。

その時に廃墟に近づいたらしいんだが、急に空気が冷たくなり、気分も悪くなったそうで、その日は一人という事もあり、早々に村に戻ったんだそうだ。


翌日、複数人で廃墟に向かって行ったのだが、そこで廃墟の周りをうろつくスケルトンを見たらしい。

個体数はざっと20。


それで慌てて村長に報告となったらしい。


スケルトンはそれ程恐ろしい魔物ではない。

個体数20ぐらいなら、トモニアに駐留している騎士でも十分応戦できる。


そこで、さらに翌日、騎士隊から安全をみて10名を送り出し、討伐させる事にした。


冒険者を募っても良かったのだが、この時はまだエルセリアが混乱していた時だったというのもある。

が、さらに言うなら騎士でも十分に対応出来ると判断したからだ。練習にもなるという考えもあった。


実際、スケルトンは全く問題なく討伐出来た。

多少は怪我をしたそうだが、特に問題はないそうだ。


その際、念のため廃墟も確認しに行ったのだが、窓からと中を覗くと、そこには大量の死霊が蠢いていたんだそう。

そして、その奥には魔石を胸骨に張り付けた、異質な気配を漂わせる禍々しいスケルトンがいたのを確認した。


慌てて戻って来た騎士たちはすぐに村長に報告し、すぐにエルセリアに早馬を飛ばしたんだそう。


早馬は夕方にはエルセリアに到着。

パストングを始め、主要メンバーで話をしたが、まずは確認をしようという事になり、リア、ミーム、パストングと騎士15名で翌日の夕方にトモニアに入ったとの事。


その日は事情聴取をして一泊し、翌朝総勢20名で廃墟に行くと、廃墟の周りをスケルトンが30体徘徊していたそうで、まずは全て討伐。

すると、廃墟の扉が開き、死霊と共に魔石スケルトンが飛び出して来たので、慌てて戻って来たとの事だ。


それが今日の話で、そろそろ私たちが戻ってきているんじゃないかという話になり、連絡をしたんだとか。



状況は分かった。

が、急な展開だな。


まさかもう一つの魔石がこんな所にあったとは...そりゃ見つからないはずだ。


それにしてもアンデッドか...非常に面倒だな。


「パストング、これ、どうしたら良いと思う?」

「物量で一気に攻めるのが良いかと」


聖職者や聖水がないからな。それしかないか。


「騎士を何人投入するんだ?」

「30名もいれば...」

「何人死ぬ?」

「...5人は...」


言いにくそうだが、現実的な数字だな。あくまでも数字としては。実際にそういう場面は嫌なのでどうにか出来ないかなぁ~...。


「まぁ、確かにそれぐらいだよな...なぁ、あの廃墟って必要なのか?」

「いいえ...もう住む者もいませんので」

「村としても要らないですね」


村に駐留している騎士の一人が返答し、サラさんも同意してくれた。


「じゃあ、壊してしまおう。正確には燃やすんだけど」

「燃やす?」

「そう。燃やしたら色々浄化できそうだろ?」

「それはそうですが...」


簡単に燃やせないんですけど?とパストングの顔に書いてあるが、私なら問題はない。

燃やすだけなら簡単だ。


「ともかく、今日はもう休もう。廃墟からここまでスケルトンが来る可能性はあるか?」

「ん~っと、結構離れているからそれはないと思うわよ。来るとしてもスケルトンがもっと増えないと...」


とミームが考えながら教えてくれた。


「やっぱりそうか。まぁ千里眼に監視はさせておくからそこは問題ないよ」

「さすがリョウ。頼りになるわね」

「そうでもないよ。色々と失敗するからね」


完璧な作戦なんてこの世にはないからな。だが、しっかりと準備しておけば色々と対応は出来る。


「そうなの?今のところ失敗してないと思うけど?」

「まぁ、個人的に思う事はあるという事だよ。ともかく、今日は休もうか。明日午前中に現場を見てみて、場合によってはその場で燃やしてしまおう」

「はぁ...分かりました」


なんか疲れているのか?パストングは気のない返事をして席を立ちあがった。



翌朝、電龍に夜霧を牽かせて現場までやって来た。


メンバーは私とタニア、リア、ミーム、パストング、カラーの6人だ。

カリナを連れて行くかは悩んだが、完全な戦闘職ではないからキャリーと一緒にお留守番をしてもらう事にした。


「本当にこの人数で対応するんですか?」

「なんだ?パストングは怖いのか?」

「怖いですよ!スケルトンに死霊ですよ?生きてないですからね?」


お化けが苦手...というか、この世界風に言うとアンデッドが苦手なんだろう。

大きいからだを小さくしている。


死霊はいわゆるゴーストだな。スケルトンは骸骨だし...普通に考えると確かに怖いか...。

もっとも、ホラー映画を普通に鑑賞できるので、私は全く怖くないが。


「分かった分かった!まさか本当に怖いとは思ってなかったよ。言ってくれれば別の人にしたのに...」

「部下の前でそんな事は言えませんよ...」

「確かにそうだな...」


さて、目の前には約30体のスケルトンが徘徊している。

まずは実験だな。


手に持っていたアサルトライフル『飛燕』を構える。

まずは手近な個体に狙いを定める。


タアアァァァァーン...


胸骨を砕いてみた。

が、胸骨が砕けただけで、まだまだ元気だな。いや、アンデッドだから、そもそも元気はないか。


じゃあ、今度は仙骨を狙ってみよう。


タアアァァァァーン...


流石に仙骨が砕け散ると、上半身と下半身が泣き別れになり、動かなくなった。


なるほど、やっぱり腰が弱点だな。


「副官殿、それは...」

「これは私の遠距離武器だ。離れてても倒せるから便利だろう?」


そんな話をしていると、わらわらとスケルトンがこちらに向かってきた。


「みんな、戦闘準備。出来るだけ私が数を減らすけど、いざと言う時は頼む」

「分かった」

「は~い」

「任せな」

「え~...仕方ないですね...」


さて、ともかく出来るだけ数を減らそうか。



結局の所、全部アサルトライフルで倒してしまった。


一撃で倒せるし、近づけば狙いやすい。

フルオートでなぎ倒す事も出来たので、正直大変では無かった。


弾倉も1回交換するだけで終了したしな。



それにしても、本当に空気が冷たいな。

夏の暑いときは良いかも知れないな。避暑地として。

もっとも、問題解決した後も涼しいかは分からないけどな。おそらくアンデッドの気配が空気を涼しくさせているんだろうからな。


と、いい加減な事を考えたのが悪かったのか、まだ遠くにある廃墟の扉が開き、死霊と魔石スケルトンが溢れ出して来た。


真っ直ぐこっちに向かってくる。


え~...どうしようか?と思って思わずパストングを見る。


あ...戦力マイナス1確定。

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