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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第6章 やるならちゃんとやりましょう
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■■■ Step057 マッドな人材は街中に

ここ数日のパターンだが、私の部屋でタニアが一緒に朝食を食べている。

一応国王や法皇からは「一緒に食べよう」と誘いがかかっているらしいのだが、ここで食べているんだそう。


大丈夫なのか?


ちょっとこれは色々と問題が出そうな気がするので、クウィルお兄様の用事が済んだらとっととエルセリアに戻ろう。


皆には「用事が済んだので、エルセリアに帰りたい」とだけ言ったのだが、特に反対意見もなく帰る準備を始める。


とは言え、勝手に帰る訳には行かないので、ルーヴにお願いをして国王に連絡をしてもらうようにした。

ルーヴは「もう少しゆっくりして行けば良いのに...」と拗ねていたが、いつでも連絡が取れるようにするから、と言ったら機嫌が治った。


さて、朝食も終わり、少しまったりと過ごしていたら扉を叩く音がした。


「待ちきれずにすぐに来てしまいました」


と、クウィル様。


個人的には早々に帰りたいので渡りに船だ。とは言わない。


「いえ、こちらもそろそろかな?と思っておりましたので。では、夜霧まで行きましょうか」

「夜霧?あぁ、あの巨大な馬車ですね。一度見てみたかったのですよ」

「では参りましょうか」

「はい」


夜霧に行くと言う事で、カラーを始め全員がついて来た。



「近くで見ると大きいですね。城の馬車も大きいですが倍以上大きいです」


夜霧を見上げて驚いている。


「この中で数日は生活出来るようになっていますので、色んなものが入っているんですよ。ちょっと中を見てみますか?」

「良いのですか?」

「構いませんよ。そこのルーヴもニアラブ様も入った事がありますし」

「お爺様も入られたのですが?聞いてないです」

「あ~...あの日は出発直前でしたので、あまり中を見ていただいてないですからね。ではこちらにどうぞ」


と、夜霧の中に案内する。


この夜霧は日本仕様なので、玄関で靴を脱いでもらい、スリッパを履いてもらう。

まぁ、裸足でも良いんだけど、怪我されても困るしな。


「変わった内装ですね。それにとても明るいです。灯りは...あの天井の白い箱のようなものですね」

「やはり最初に灯りに目が行くのですね。その通りです」

「やはり...とは?」

「ほとんどの方が灯りの事を最初に口にされるのですよ」

「そうなのですね。では、あちらの黒い窓のようなものは?」

「あれはディスプレイというものです。そうですね...『アリス』、先日の子狼の動画を映して見てくれ」

「承知しました」


するとディスプレイに先日の子狼が映し出される。

提供した肉をハムハムする光景は、何度見てもほっこりさせてくれるな。


「...可愛い...」


男性女性関係なく、これはそういう反応するだろうな。


「と、こういう風に過去の記録したものを映し出したりするものです」

「これは...素晴らしいですね。これは流通させないのですか?」


なんでも流通に絡めてくるな。

まぁ、国力を上げようと思えばこういうセンセーショナルなものを流通させるのが一番ではあるが...残念ながら、それを支える基盤がない。


「流通させません。そもそも私以外使えませんので、流通させる意味がありません」

「...そうですね...確かにこれを流通させても使えないでしょうね...」

「ご理解いただきありがとうございます」

「他に何かあるのですか?」

「それは私がご説明いたします」


と、タニアが説明を買って出てくれた。それは色々助かるな。

しかし、説明を買って出てくれた割には、私を少し睨んでいるぞ?なぜだ?


「タニア?貴女が説明ですか?」

「大丈夫です。では、私たちの部屋に案内しますね」

「部屋があるのですか?」

「はい。こちらです」


さて、夜霧の中の案内はタニアに任せれば問題ない。


私は星砕丸を準備しなきゃだな。



「これは...すごいですね...私もこれで生活をしてみたいです...」


少し興奮しているのが、少し顔が赤い。

中世的な顔立ちが、神秘的な雰囲気を醸し出しているので、少しグッとくる。

...何が?とは言わないが...。


「機会があれば、一度ここで過ごしてみますか?クウィル様を連れて郊外に行くのは無理でしょうが、この場での宿泊であれば問題ないでしょう」

「本当ですか?それは嬉しいです」

「あ~...ただ、国王陛下には許可を取ってくださいね?」

「もちろん!」


にこやかな笑顔のクウィル様の背後に立つタニアが睨んでいる。

いや、そんなに睨まなくても良いだろ?


背中に冷や汗をかきつつ、そもそもの目的を伝える。


「では、私の刀を見ていただきます。では外に行きましょうか」

「はい。よろしくお願いしますね」


皆で外に出た。


ちなみに、アリスに命令して動画を撮ってもらっている。

クウィル様の身体の動きをチェックする為だ。


バランスを確認するのに、各種サイズも確認する事も出来るしな。


「これが私の武器、『打刀』と呼ばれる種類のもので、銘は『星砕丸』と言います。私の国で『星を砕くもの』という意味です」

「星を砕くですか...それは恐ろしいですね」


と言いつつ、目がキラキラしているな。


「まずは私が一通り説明をします。私は達人とかではありません。まぁまぁ使えるかな?ぐらいの腕前だという事は覚えておいてください」

「はい、先生」


先生って...。クウィル様は結構おちゃめなんだな。


「まず、この刀は片刃です。反っているこちら側に刃が付いています。そして、このように腰に佩きます」

「刃が上を向く様にするんですね」

「そうです。刀を抜く時はこのように左手の親指で『鯉口こいくち』を切ります」

「鯉口ですか」

「はい。この鞘の刀の入り口を鯉口と言います。ここはしっかりと刀の、このはばきというのですが、これが鯉口にしっかりと嵌るようになっています」


刀を少し抜いた状態で鯉口と鎺を見せる。

西洋の剣は簡単に抜けないようにロックをする機構が付いている。


そういや、昔の仕込み刀もロックをする機構が付いていたとか聞いたな。


「なるほど。レイピアとは全く違いますね」

「そうですね。レイピアは構造的に鞘で剣を引っかける機構だったりしますね」

「簡単に抜けたりはしないのですか?」

「かなりしっかりと嵌るようになっているので、大丈夫です。あとはきちんと管理をしておけば問題ありません」


そう言って、鯉口を戻した。


「なるほど。自らの武器ですから管理は当たり前ですからね」

「さて、もう一度やりますが、このように構え、左手で鯉口を切ります。ここでは親指を気を付けてくださいね。意識が中途半端だと親指を切ってしまいますからね」

「刃が上を向いているからですね」

「そうです。右手で柄を握って前に引き抜き、左手で鞘を引いていきます」


ゆっくりと抜刀をして見せる。


「意外と刃が長いのですね」

「星砕丸の刃渡りは2尺4寸...と言っても分からないですね。ロングソードよりも少し短い感じでしょうかね」

「そうなのですか?見た目は長いですね」

「それは細くて少し反っているからでしょう。しかし、こうして見るとレイピアの方が長い事が分かりますか?」


正眼の構えよりも腕を前に突き出し、腕と刀を水平にしてみせる。


「確かに...」

「で、抜ききったら、右手をこのように返し、両手で持ちます」


今度は正眼の構え...いわゆる中段の構えをして見せる。


「両手剣なのですか?」

「そうですね。片手でも扱えますが、それなりの重さがあります。このまま腕を振り上げ、まっすぐに振り下ろすのが一般的な型になります」

「それはロングソードの型と一緒ですね」

「はい。ただ、刀は片刃ですので、すぐに引き戻したり、手首を返しての下からの斬撃にしたりするので、少し面倒な所があるかと思います」

「なるほど。ロングソードにしろ、ショートソードにしろ、両刃ですからね。しかし、その刀は物凄く切れそうですが?」

「あ~...切れ味ですか...何か切ってしまっても良いものがあればお見せ出来るのですが...」


と回りを見てみる。


いくつかの樹木があるだけで、良さそうなものはない。


「流石にここには切っても良さそうなものは無いな。ですがお兄様、報告書で読んだかも知れませんが、リョウはサイクロプスの太い脚を切断しましたよ。その刀で」

「そうでしたね!あれを読んだ時は背筋が寒くなりましたよ」

「あと、刀の特徴として、特殊な加工をしていますので、折れにくく曲がりにくい事があります」

「そんなに細いのにですか?」

「はい。もちろん、絶対に曲がらない、折れないって事ではありませんが、思った以上に折れにくく曲がりにくいですね」

「そんな特徴があるのですね...」

「では、少しだけ型をしてみます。振る時の参考にしてください」


そう言って、一度納刀し、抜刀からの袈裟切り、逆袈裟、突き、横なぎをして、納刀する。


「こんな感じで刀を扱う事になりますが、クウィル様であれば難しくはないかと思います。抜刀は少し練習が必要になりますので、今回は刀だけお渡ししますね。では、持ってみて下さい」

「はい、少し預かりますね」


危なくないように、横並びになって、柄を握らせた。

少し恐る恐るという感じで刀を受け取ったが、レイピアに慣れている為か、扱いはしっかりしたものだ。


「両手持ちの武器の経験はありますか?」

「ロングソードを一時期持っていました」

「では、大丈夫ですね。両手で持ってくださいね」

「はい」


両手でしっかりと握ったのを確認したので、離れる。

少し振ってもらわないと感覚は掴めないだろうからな。


「これは...思ったより重いですね。レイピアやロングソードに比べると軽いですが、見た目よりも重いです」

「それは使っている鉄の種類の問題ですね。それよりも少し振ってもらえますか?釣り合いを確認して欲しいのですが」

「あ、そうですね」


柄をしっかりと握り、軽く振りかぶってまっすぐ振り下ろす。


ヒュン...


風切り音が鳴り、空気を切る。


うん。いつ聞いても良い風切り音だな。


「凄く...振りやすい...凄い釣り合い...凄い...」


凄いとしか言ってないな。


「リョウ...これ...これ欲しい...」

「いや、これはダメですよ?」


これは私専用の武器なんですから!!


「じゃあ、同じ物が欲しい」

「いやいや、これを持ったとしても、この刀の使い方を教えれる人がいませんよ?」

「リョウはダメなの?教える事は出来ないの?」


えらい食いつくな~...余ほど先ほどの一振りが良かったんだろう。


「私はこれを習熟者ではありません。まだ研鑽途中なので教える事は出来ません」

「そうですか...残念です」


と、星砕丸を返してくれた。

たぶん持ってたら持って帰りそうになるんだろうな。


受け取ってすぐに鞘に戻す。危ないからね。


「ともかく、それを振ってみてどうでした?つり合いが取れていたように思いましたが?」

「うん...これは凄いね。振った瞬間に手が自然にきゅっと柄を絞ったんだ...そうしたら手のひらに吸いついて、刀?がちゃんと止まったんだ...思った通りに」

「それは...凄いですね」


素人ではなかったからだろうが、自然体で使えたようだな。


「うん...凄い...ねぇ、レイピアも欲しいけど、本当にこれも欲しい。ダメ?」

「あ~...ちゃんとした使い方を教えてさしあげる事が出来ないので、止めた方が良いです。ですが、教える事が出来そうになりましたら、作って差し上げますよ」

「本当だね?嘘じゃないよね?ちゃんと作れるよね?いつまでに教える事が出来そう?」

「ちょっと...ちょっとお待ちくださいって」

「あ...ごめんなさい」


私に迫っていた事に気が付いて、慌てて離れる。


「いや、大丈夫ですよ。それほど星砕丸を気に入ってくれたという事ですよね。その事はとても嬉しいですから」

「うん。本当にすごいと思った。私の感覚とリョウの感覚はかなり近いみたいね」

「そうかも知れませんね」


うん。身長は私の方が高いし、体格も私の方がしっかりしている。が、クウィル様はそういう事を言っている訳ではない。

武器に対するバランスの取り方が似ているという事だ。


「さっきので私のレイピアを作れそうですか?」

「大丈夫です。ちなみに、レイピアの長さは星砕丸よりも長い方がいいですか?」

「そうですね...拳二つ分ぐらい...いえ、一つ半ぐらいかしら?」

「わかりました」


さて、ちょっとした事だったはずなのに、大事になっちゃった気がするな。

でもこれでクウィルお兄様とは仲良く出来そうだ。



城内に戻り、私の部屋に戻る。


あ、クウィルお兄様には例の乳酸菌飲料を渡しておいた。

かなり喜んで戻られたが、タニアにはずっと睨まれてしまった。


普通に仲良くしたいだけなんだけど、男の娘であるクウィルお兄様だけに、勘違いされていそうで嫌だな。


それはともかく、昼過ぎには首都を離れようと思っているのだが、許可はまだ来ていないようだ。

まぁ、もう一晩ぐらいは大丈夫だけど、あまり長くエルセリアを離れていたくはないんだよな。


そう言えば、まだ城下町に行った事が無かったな。

ちょっと行ってみたいぞ。


「そろそろお昼だけど、ちょっとだけ城下町に行ってみたいんだけど行けないかな?」

「ん?いや、それは大丈夫なんじゃないかな?」

「それに、お昼を外で食べるという事も出来ますよ?」


タニアが少し考えて、キャリーが目を輝かせる。

外での食事か...それは楽しそうだ。


「良いのか?」

「良いと思いますよ?」


ルーヴに確認したが問題はないらしい。


「じゃあ、行こう!」


早速着替えてお出かけだ!!



皆で城を出てまずは商業区域に向かう。


「面白いものが無いか見てみよう」と言うのが主な趣旨だが、単純に「異世界の城下町をこの目で見てみたい」というだけだ。

はっきり言って、単なる「お上りさん」だ。


私は騎士ではないが、タニアの護衛も兼ねているので星砕丸を佩き、拳銃を下げた他、いくつか隠し武器を装備しておいた。

キャリーも護衛を兼ねているので、スカートの中にグラディウスを仕込んでいるようだ。

武装はしていないがタニアは魔法使いで、カラーは絶対防御だ。


戦闘枠ではないのはルーヴとセミアとレミ。


本来守られるべきタニアが戦闘職という、色んな意味でもバランスが悪いパーティだな。もっとも、何もないのが一番だ。



全員、目立たないようにと市井の衣装に着替えたので、街中を歩いても違和感がないようになった。ハズだ。

「ハズ」というのは、このメンバーは美人が多い事が原因。


タニアとカラーは「かなりの美女」で、ルーヴとキャリーは「なかなかの美女」だ。

セミアとレミは美女ではないが「可愛い美少女」になる。


私としては「おい!ねぇちゃん!そんな奴を放っておいて、俺たちと遊ぼうや!」っていうイベントが発生しないか心配だ。

対処は問題ないが目立ってしまうからな。


と、そんな事を考えていたら、人通りの多い所にやって来た。


「ここは色んなお店が並んでいます。食事出来るお店もありますので、ちょっと早いですが食事にしませんか?」

「そうだな。私としては、リョウに名物の鳥料理を食べさせてやりたいのだが、あるか?」

「ございますよ。もうちょっと歩きますが、そこでよろしいですか?」

「いいだろう」


ルーヴが食事の提案してくれたので、タニアがそれを了承した。

私とセミアとレミは、この国の名物なんかは知らないのでお任せだ。



お昼にはちょっと早い時間なので、席は空いているな。


早速席について注文する。


「ここの鳥料理は普通の家でも出てくる料理ですが、そこはちゃんとお店の料理にしていますので、美味しいんですよ」

「ルーヴもここに来るのかい?」

「お休みの時に来たりしますね。実家の味に近いので」

「へ~...じゃあ、お母さんが作ってくれてたとか?」

「いいえ?私、これでも男爵家の娘なので、料理は料理人が作ってましたよ?」

「あ...そうなんだ」

「リョウ様の所はどうだったんですか?」


キャリーが聞いてきた。う~ん、我が家は一般家庭だからな。


「私の所は、母親が基本作っていたけど、父親も料理をしてたよ」

「えぇ!!そうなんですか!?」

「私の所は普通の家だからね」

「信じられないんですけど...」

「ちなみに、リョウも料理をするぞ」


何度も私の料理を食べているタニアが自慢げに言う。

なぜ君が自慢するんだ?


「えぇ~~~~!」

「そんなに驚く事じゃないだろ?」


そんな話をしていたら料理が運ばれてきた。


話を中断して、食事に集中する。

確かにこれは美味しいな。


この鳥は...おそらく鶏ではないな。

この世界特有の鳥だろう。まさか、七面鳥とかではないよな?結構肉厚で、肉そのものはさっぱりしているぞ?


「ルーヴ、この鳥ってどんな鳥だ?」

「鳥ですか?えっと『デルエル』って名前の鳥で、大きくて食べやすいので農家では必ず飼育されてますよ」

「え?鳥だから飛べるんじゃ?」

「いいえ。全く飛べませんね。とても太っているので、飛べないんですよ」

「...ちなみに、『デルエル』って野生のもいるの?」

「いませんよ?野生だと生きていけませんよ、こんな鳥。っていうか、リョウ様は知らなかったんですか?」

「あ~...リョウは東の方の出身だからな。知らなかったんだろう」


タニアがフォローしてくれた。

危なかった。自分で設定していたんだけど、忘れてたよ。


「そう言えばそうでしたね。すみません、忘れてました」


あれ?説明したっけな?まぁ、王家に近い侍女らしいから、誰かに聞いたんだろう。


...ニアラブ様かな?


ともかく、機会があれば生きている「デルエル」は見てみよう。



美味しくお食事を頂いたので、散策を続ける事になった。


食事をするお店を探している人が結構いるようで、通りには人で溢れていた。

とは言え、梅田程ではないな。江坂ぐらいなので、誰かとぶつかるような事はない。


のハズなのだが、ぶつかった。


「ようよう!ねーちゃん!一緒に飯でも食わない?美味い物を食わせてやるぜ?」


と、目の前には5人の男性...いわゆるDQNが立っている。

さっきの台詞はDQNその1だ。


え~...フラグを立てた記憶は...あるんですが、わざわざ回収しなくても良いんじゃないかな...。

マジでリアルでそんな事ある?漫画じゃないんだけど?



「おい!聞いてるのか?おっと、そこの兄ちゃんは金をやるから寂しく一人で食っとけよ」


DQNその2が私に声を掛けてきた。


ちなみにこの5人は冒険者なのか、それぞれが剣を佩いている。

全員がロングソードか...魔法使いは居ないようだ。


この世界では魔法使いはレアではないが、多くは無いようだからな。

魔法使いはそのままエリートというような話をタニアから聞いた記憶もあるな。


今日のタニアは魔法使いの杖を持っていない。普通の町娘のような衣装...だが、美人過ぎるんだよな...。


そうそう、カラーも同じように町娘ルックだ。

まぁ、服の下はレオタードのような鎧を身に着けてはいるようだが。


そういう意味では、明らかに武装しているのは私だけだ。

ここは私が対応するべきだろうな。


「金は要らない。既に食事は終わっている。お前たちに用事はない」


DQNと彼女たちの間に立つ。

う~ん...私は身長はあるものの、体格は大きいわけではないからな。威圧感が少ないんだよな。


「はぁ?正義の騎士のつもりか?痛い目に遭いたくなかったら、これで消えろ」


と言ってDQNその3が地面に複数枚銅貨を投げる。

おいおい、銅貨は日本円換算で約10円。銅貨数枚だと日本円で100円にならないじゃないか...それじゃ一食分にもならんだろうが...。


「私が正義の騎士という事は、お前たちは暗黒騎士って事だよな?邪魔だ。とっとと失せろ」


一応私も殺気をそれなりに出す事は出来る。なので大阪でもDQNをそれだけで撃退した事があるので、早速試してみる。

まぁ、ロングソードを持った冒険者相手には無理だとは思っているが、丁度良いので実験だ。


身長は私の方が若干高いので少し見下ろし気味にし、思考をマイナスに一気に持っていく。

相手全体を怒りの対象として視界に入れ、目力を強める。


大阪で言う所の「いてまうぞ!ゴラア!!」だ。


すると、途端に怯んだぞ?おい、大丈夫か冒険者達...これだとロボにも圧倒されるんじゃね?


「あ~いや...俺たち暗黒って事はないんだが...その、失礼しました...」


DQNその4が言うと、全員回れ右して人込みに埋もれて行った...。


え?イベント終了?


「リョウ...穏便に解決してくれたのは助かるが、派手な殺気は止めてくれな」


と、タニアが私の肩に手を置きつつ苦言を言って来る。

え?なんで?


「え?そんなに派手だったか?」

「私が『紫紺の魔女』と呼ばれている所以は知っているだろう?」

「それは...まぁ...」

「リョウは『暗黒剣士』と呼ばれるかも知れないぞ?」

「暗黒!?」


どういう事?


「リョウ様...気が付いておられなかったのですね...真っ黒な気配がリョウ様から吹き出ていましたよ?」

「え?本当!?」


黒?黒なの?

青とか、赤とかでなく?黒?


「はい。ご主人様の魔力が感情に合わせて漏れ出ていたようです」

「待って!私はそんなに真っ黒な感情で睨んでなかったハズだけど!?」

「でも事実、真っ黒だったぞ?」

「そ...そんな...」


私は気のいいお兄さんのつもりなのに...。


しかし、これはちょっと調べておいた方が良いな。

なんとなくイメージだけの話だけど、気分の在り様でそういう「オーラ」の色が変わると思っていたのだが...自分が実験台になるのは久しぶりだな。


いやいや、その前に私がオーラを放ってた?そういう事ってある?


ん~...まぁ、それは今は良い。


さて、気を取り直して散策を続けよう。

と思って周りを見ると、人々が遠巻きに見ている。


あ~...これはやらかした感じ?


大人しく王城に戻ろうかと思ったら、拍手が聞こえてきた。


聞くと、あのDQNは迷惑な奴で、住民は少々困っていたらしい。

それを撃退したので、喜んでもらえたようだ。


それなら良いか。



「誰かと思えば、タニアじゃないですか!お久しぶり!!」


遠巻きの住人の中から一人の女性が近寄って来る。

この国の姫を平気で呼び捨てにするって事は、かなり親しい間柄の女性なのかな?


「マリアじゃないか!久しぶりだな!」


ともかく...誰?



道の真ん中で井戸端会議をする訳にもいかず、一旦路地裏とは言わないが、横道の人通りが少ない所に移動する。


「さっき食事が済んだ所だったからな。すぐにお店に入るのはちょっとお腹に良くないので、ここで話をさせてもらうが、マリアはこんな所で何をしているんだ?」

「普通に買い物に来ていただけですよ。今は収入がないので、手頃な物を買って、家で料理して食べようとしていた所なんだけど...」

「そこで私を見つけて声を掛けたって所か」

「ま、そういう事ね」


美人さんではあるけど、このメンバーに入るとちょっと...いや、それは失礼だな。


このままタニアと会話をしてもらっても良いんだけど、我々が取り残されそうな気がしたので、まずは紹介してもらおう。


「ちょっと良いですか?」

「はい?なんでしょうか?」


なんか軽いな、この女性。


「タニアの知り合いって事は分かるんですが、タニアとはどういう関係ですか?」

「まさかタニアの過去の女...とか思っています?」

「おい!」


タニアが大いに慌てる。

おっと、こういうタニアは新鮮だな。


「あはは、ゴメンねタニア。このお兄さん、ちょっと面白そうだったから」


何がどう面白いと思ったのか、ちょっと聞きたいが、今はどうでも良い。


「で、結局君はタニアのなんなのさ?」

「あはは!『なんなのさ』って良いね。私はタニアと一緒に魔術学校で学んだ同級生のマリア・フルベルっていう者よ。よろしくね」

「同級生?魔術学校卒業って事は魔術師って頃で良いのかな?」

「そうね。魔術師って事は間違いないけど、魔術そのものはタニアの同級生としては最下位だった、いわゆる負け組って奴ね」


と、言葉とは裏腹にかなり明るく自己紹介してくれた。


「でも、卒業できたんですよね?」

「そうね。卒業はなんとか出来たわよ?」

「そういう意味では、マリアは一般的な魔法使いのレベルには達しているのは間違いないぞ」


タニアがちゃんとフォローする。

そういう所は本当にお姫様っぽくないよな。


「うん。聞く限りの話では、私もその判断だけど?」

「流石リョウだな。判断基準が広くて説明が簡単でいつも助かるよ」

「そんな事は無いんだが...ともかく、タニアの知り合いって事は良く分かったよ」

「ふむ...。で、マリアは今仕事をして無さそうな雰囲気だったが?」

「あ、わかっちゃう?そうなのよ。今、仕事が無くって困っているのよね~」


と、流石に困ったような顔をしている。


「ちなみに、どんな仕事を探しているんだ?」

「今は、簡単な経理の仕事かしらね。ほら、私って魔術師だけど、成績はダメダメだったじゃない?だから、得意な事で生計を立てないとなって思って」


え?経理?会計関係って事か?

これは、棚ぼたか?


「何?会計関係の仕事がしたいのか?」


タニアも食い気味に聞いている。ちらっとタニアと目がある。気持ちは一緒のようだ。「確保!」と言っているな。


「え?何?その食い気味な反応...って、えっと、そうね。タニアは知ってると思うけど、私って商家の娘じゃない。結局数字がお友達というか、何と言うか...」


商家の娘というのは中々美味しい話だな。

ともかく、ここはタニアに会話を任せよう。


「マリアはその会計の仕事は首都でなければならないとかはあるのか?」

「え?例えばどこ?」

「エルセリア」

「エルセリア?ちょっと遠いわね...」

「遠いと問題があるのか?」

「えっと、彼氏がいるんだけど、彼氏と離れるのはちょっと嫌...」


リア充かい!?


「その彼氏はどういう仕事をしている?」

「アラノスは...って、アラノスは彼氏の事ね。で、アラノスは騎士で部隊長をしているの。だから、首都からは離れられないというか、こないだのエルセリアの暴動の件で遠征したぐらい...って、そうそう!エルセリアの暴動、凄かったみたいね!!」


話がポンポン飛ぶなぁ...まるで昔の輝のような話の展開だな。


「エルセリアは確かに大変だったぞ。領主が主犯だったからな」

「そうそう!で、新しい領主がタニアって...あれ?タニア?タニアが領主なの?」

「お前...相変わらずだな。ちゃんと頭で整理出来ているか?」

「今出来た」

「はぁ~...そんなんだから魔術が出来ても状況把握が最悪っていう評価を受けるんだぞ?あと、数字の把握が的確で、補給とかは完璧だったが、それは騎士の領分だからな?分かっていたか?」

「分かっているわよぅ...時々アラノスが私に相談するぐらいだもん」


あ、これはアラノスも一緒に引っ張るのが良いかも?


「マリアさん...でしたっけ?」

「はい。あ、ナンパは受け付けてませんよ?」


リア充で彼氏持ちをナンパしてどうするよ。


「さっきまで思い切り彼氏の話をしているんだから、ナンパなんてしませんよ。ちなみに、そのアラノスさんがエルセリアに赴任する事になれば、エルセリアに一緒に来る事になりますか?」

「そうですね。その場合はそうなると...あ!ダメですよ?アラノスはそういう趣味はありませんから」

「こっちもないです!!」


思わず条件反射でツッコんでしまった。大阪人の血が恨めしい。


「本当か?」

「なんでタニアが懐疑的なんだよ!!」

「だって、クウィルお兄様にやけに親切だったじゃないか...」

「さっきも説明したが、タニアの親族だから出来るだけ仲良くしたいって思ってるからだ!!」

「その割にはお爺様とは喧嘩ばかりしてるぞ」

「ニアラブ様はあれで良いの!」


タニアとこういう言い合いをするのは初めてのような気がするが、こういう街中では勘弁してくれ...。

見ろよ...遠巻きに人々が指さしながら会話をしているぞ?


「えっと...今更なんだけど、そちらの方は?」

「あぁ、紹介するのを忘れてたな。彼はリョウ・カダヤ。私の副官だ」

「え?えぇ~!!あの有名な『突撃野郎』!?」

「なんですか?その『突撃野郎』って」


いつの間にそんな二つ名が付いていたんだ?


「アラノスが言ってました。突撃だけでクラスタンプ軍を壊滅させたって」


アラノス君は先遣隊に参加していたのか?


「待って。それは無い。突撃したのは本当だけど、壊滅させたのはジョーチェ軍の先遣隊だからね?」

「アラノスはそんな事言ってませんでしたよ?」

「いやいやいやいや、そもそも突撃だけで壊滅は無理だからね?分かるでしょ?」

「でも、アラノスが言うには、突撃する度に敵が混乱して、指揮系統が混乱し、最終的には最高指揮官を葬った。結果、烏合の衆になった敵軍を我々が蹴散らしただけ。なので、単なる突撃だけで壊滅させたというのは事実だって...」


え~...状況判断としては間違ってはいない...と思われる。私でもそう思う。


「だろう?リョウは本当に凄いんだ。お前の彼氏はちゃんと考える事が出来る、優秀な奴だな」

「でしょう?でもアラノスってちょっと引っ込み思案というか、自分の意見を言うのが苦手って言うか...戦場ではあまり活躍できないのよ。部隊長に進めたのもここ数年は基本的には戦闘ってないでしょ?事務仕事で昇進したのよね...」


カップルが揃って内勤向けか。これ、マジで引っ張れないか?


タニアと顔を合わせて、同時に頷く。


「マリア、彼氏の部署を教えてくれ。あと、引っ越しの準備をしておいてくれ」

「引っ越し?どうして?」

「知っての通り、私は今エルセリアの領主になった。今、人材を集めているんだ。今の話を聞いて、お前の彼氏をエルセリアに招聘する事に決めた。お前もエルセリアに来い。私がお前たちを雇う事にした」

「え?雇う?本当?え?招聘?どういう事?」

「落ち着け...ルーヴ、すまんが城に戻ったら調整頼んで良いか?」

「具体的な事はニアラブ様にお願いする事になりますが、ご意向は承知しました」

「助かる」


ニアラブ様に丸投げするのか?この侍女優秀過ぎないか?てか、ニアラブ様の弱みを握ってる?


「え?じゃあ、本当にエルセリアで仕事するって事で決まり?」

「あぁ決まりだ」


本当はまだ決まって無いけど、ニアラブ様が動けば確実だな。


「やった!ねぇねぇ、やっぱり会計をするの?」

「そうだ。今、会計担当がいないのが問題でな」

「よかったぁ~...魔法使いとしてだったらどうしようかと思ったぁ~...」


なぜだ?貴女、魔法使いでしょ?


「なぁタニア、この人、本当に魔術学校を卒業したのか?」

「それは間違いない。成績は最低評価だったのは本当だが、それは総合的な判断での話だ。決して無能とかではない事は私が保証する」


本当か?会計に関しては大丈夫そうな気がするが、魔法使いとしてはやや不安だな。もっとも、そっちの仕事を頼むつもりはないのだが。

だが、エルセリアに来てくれれば何かと使えそうな気がする。


ここはタニアに丸投げするか。


「ともかく、マリアさんはタニアに任せるけど良いよね?」

「そうだな。ちょっと落ち着きがないとか、早とちりがあるとかはあるけど、それと仕事の出来は違うと思うし、そもそも実際に仕事をしてもらってないからな。まずは実際に働いてもらってから判断するさ」

「そうよね?そうだよね?実際に働いてないのに、判断されるのは問題だよね?」

「私もそう思うが、マリアも問題あるぞ?もう少し落ち着いて話をしないと、計算を間違えるかも?って思われるからな」

「だって...興味がある事は聞かないとダメじゃない」

「だから、それがダメなんだって...」


少々?結構?不安...いやいや、実際に働いてから判断するか。

貴重な会計担当だからな。これは逃せないな。


あと、彼氏も軍事関係の管理者向けに良いかも知れない。

こっとはパストングに丸投げだな。


「じゃあ、アラノスには今日話をしておいても良いわね?」

「いいぞ。とは言え、すぐに異動になるかは彼氏次第だがな」

「大丈夫だと思うわよ?そんなに忙しくはないみたいだし」


なんか良く分からないが、どこにでも曲者が居るって事だけは良く分かった。

あとはどれだけ仕事が出来るかだが、数字に強いだけでも助かる。


あ~...最悪、表計算ソフトを教えても良いかもな...問題はこっちの言語だが、なんとかなりそうな気がする。


PCも教えれば簡単な操作は覚えてくれそうだし、いっそエリーと組ませれば面白いかも知れない。まぁ、まずはどれぐらい出来るか見てからだな。


「あ、買い物の続きがあったんだ。じゃあ、もう行くね?」

「あぁ、私たちは今日にもエルセリアに戻るから、次はエルセリアでな」

「分かったわ。じゃあね~...」



なんか、うやむやの内に人材が増えた。


レベルアップしたような気がするな。

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