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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第6章 やるならちゃんとやりましょう
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■■■ Step055 王家とのマッドな会話と姫の機嫌

事前にニアラブ様から聞いていたので驚きはないが、なんでもまた女性なんだ?

タニアが女性だから、そこを気にしての事だとは思うが...。


ともかく、簡易的な応接室があるので、そこにカリナを案内し、護衛としてカラーにも参加してもらう。

キャリー達はまだ食事中なので、お茶を用意してもらうだけにした。


ソファーに腰掛けた所で、タニアがカリナに話し始めた。


「お爺様推薦の人物か。知っているとは思うが私がタニアだ。そしてこちらが私の副官、リョウ・カダヤだ」

「承知しております」

「お爺様からは何と言われているんだ?」

「タニア様の力になれ...とだけ」


簡単だな。

いや、お爺様の事だ。そんなはずはない。


それに、この女性は隠密部隊、諜報関係の人物だ。情報を制限する癖でもあるんだろう。


「分かった。リョウ、どうする?」

「どうするって...タニアが考えるべきなんじゃないか?彼女はタニアの部下になるんだぞ?」

「それは分かっているが、急には決められないからな。だがリョウは既に何かを考えているんだろう?意見を聞きたい」


なんか最近先読みされてるなぁ~...まぁ、タニアには先読みされても仕方ないか。

人員確保の件は以前も話をしていたが、本当の所は黒梟からの人員だからな。正直困っているんだろう。


一応考えてはいるが、本人が目の前だしな。


「あ~、なるほど。だが、私も急には決められないな。とりあえずエルセリアに戻ってから、みんなと一緒に考えたらどうだ?」

「確かにそうだな。そうしよう」


おっと、目の前に本人が居るんだから、今の内に色々聞いておこう。


「カリナさんでしたっけ?得意な事は何?」

「私の事はカリナとお呼び下さい。得意なのは諜報と暗殺です」


やっぱりそうなのね。

てか、そんな人材を送ってこないで欲しいんですが、お爺様...。


「なるほど。だが、それらはエルセリアでは今の所必要ないしなぁ~...」


タニアは即決するが、私の意見はちょっと違うな。


「いや、そうでもないぞ?」

「なんだと?諜報はともかく、暗殺が必要だと言うのか?」

「何も出来る事が暗殺だけって事はないだろう。例えば無傷で捕らえるとかは出来そう?」

「相手にもよりますが...」

「場所や相手の人数によるとは思うが、山賊の小屋に捕らえられたタニアを助け出すとかは?」

「問題ありません」


自信ありそうだな。だが、実際に問題ないのだろう。


「魔法は?」

「身体強化魔法がいくつか...」

「具体的には?」

「視力増強、嗅覚増強、聴覚増強です」

「得意な武器は?」

「弓と短槍です」


総じて遠距離支援だな。短槍は最悪投げ槍にも出来る。


「それだとナイフも大丈夫だろ?あと吹き矢もかな?」

「...どちらも苦手ではありません...」


苦手ではないと来たか。ま、手の内を全部バラす事は避けたいところだろうからな。

個人的な感想だが、まだまだ手の内を隠していると見た。


魔法は脚力増強か幻惑魔法ぐらいは持っていそうだ。

武器も投擲武器は基本全て大丈夫だろう。


というか投擲武器ばかりだしな。


聞かれた事に関しては明確に答えてくる。

根掘り葉掘り聞くのも良いが、隠密部隊所属だからな。まぁ、良いだろう。


「なるほど。あと、2つ程教えて欲しいんだけど...」

「何でしょうか?」

「計算って得意?」


先程まで身構えていたが、急にキョトンという表情になった。まさか「計算が得意か?」と聞かれると思わなかったんだろう。


「計算...ですか?それはどういう計算でしょうか?」

「ごめんごめん。砦の会計関係者が少なくてね。取り急ぎ急務なのは会計出来る人なんだよ」

「そういう事ですか。計算は得意ではありませんが、苦手でもありません」


この世界では四則計算が出来れば十分な世界らしいからな。


「ありがとう。最初は会計関係の事をしてもらう可能性が高いので、覚えておいて欲しい。あと、もう一つの質問なんだけど...」

「はい」

「新しい事を覚えるのって、得意?」

「はい?」


うん。こんな質問だと分からないよね~。



「新しい事...とは?」

「その前に、ニアラブ様から私について何か言われていると思うんだけど。あ~、言いにくかったら別に良いけど、ニアラブ様からは君は私の監視を兼ねているとはっきり聞いているから、気を使わなくても良いよ。逆にあとでニアラブ様に問い詰めるから」


半分脅迫するような事を言ったが、そもそも「監視前提での人材派遣」なので、これぐらいは許してもらおう。


「そ...それは勘弁下さい。えっと、副官殿は海千山千の怪物なので、心して挑むようにとは言われています...」


怪物なんかい!!


「それは...あ~、一応自己弁護するけど、怪物ではないから安心してくれ」

「...はい...」


あ、全く安心してないな...。まぁ、さっき脅しちゃったから仕方ないか。


「それ以外では私の技術について、確認してくるようにと言われていると思うんだけど?」

「...はい。おっしゃる通りです...」


あ、諦めたか。いや、さっきの脅しが効いているだけか。

まぁ良い。逆に都合が良いと思う事にしよう。


「じゃあ、私が技術を盗まれる事を前提で、君に色々と教えていくんだけど、そういう意味で『新しい事』を覚える気はあるかい?」

「はい...って、どういう事ですか!?技術を盗ませる前提!?盗んじゃって良いんですか!?」

「そうだよ。だけど、はっきり言う。『盗めるものなら盗んでみろ。使うだけなら盗む事にはならない』よ」

「使うだけなら盗む事にはならない...?」


お、良いね。すぐに本質に到達する賢い娘は...。


「そうだ。君には私の使い魔の使い方を教える。けど、君は使い魔を自分のものに出来ないし、使い魔を作る事は出来ない」

「使い魔を作る?」

「ま、詳しい事はエルセリアに戻ってからだが、それは覚えておいて欲しいし、ニアラブ様に伝えてくれても問題ない。で、どうする?覚える気はあるかい?」


改めて聞いてみる。

諜報専門の人であれば、ドローンの使い方を覚えればかなり有効活用が出来るんじゃないかと思うんだよな。


あと、会話の内容から分かる事とかあるだろうし。


「あります。是非!」


良かった。


「分かった。すぐには教える事は出来ないけど、楽しみにしておいてくれ」

「わかりました」

「なんだ。エルセリアに戻るまでもなく、ほぼほぼ決まってしまったではないか」


タニアがにやにやしながらツッコんできた。

なんか嵌められた気もしないでもないが、まぁ良いだろう。勝手に話を進めたのは私だしな。


「そんな事はないぞ?我々にはカリナのような人材は居なかったから、その能力を十分に発揮できる仕事をしてもらうのが一番じゃないか」

「その割には、会計の事も気にしていたな」


タニアにツッコまれるが気にしない。大阪人は小さいツッコミは気にしないのだ。


「まぁ、今一番の問題は会計だからな。ニアラブ様の推薦で黒梟所属であれば、国家を裏切ると言う考えは薄いからな。そもそも忠誠心はお金では買えない」

「なるほど。確かに忠誠心はお金では買えないな」


そう言えば、気になる事があったんだった。


「そうだ。カリナ、ミフルという女性について何か知っていないか?」

「ミフルですか?エバンの庶子でテキナの副官であった...」


ミフルがエバンの庶子である事は知れ渡っているのか?まぁ、諜報機関の人間だから知っているっていう可能性もあるが...。


「そうだ」

「彼女はかなり有用な人物で、一時的に黒梟にも所属していました。剣の達人で恐ろしく頭の切れる、恐るべき先輩です」


黒梟にも所属していたのか。これは色々厄介だな。


「剣の達人って、どれぐらいの強さだ?」

「その前にお伺いしますが、以前戦った事があるのですか?」


やっぱりそこが気になるか。


「エバンの暴動を止めた時と、その翌々日に砦に侵入された時だな」

「その時、どう思われましたか?」

「剣技は激しいのに、攻め方はとても冷静だな。状況判断も早い。目的は達せなくても、最低限の仕事はこなしていく、とても厄介な奴だ」

「...なるほど、変わっておられないようですね。はっきり申し上げてミフルの剣技は上級士官の剣技に匹敵します。ですが、一番恐ろしいのはその頭脳ですね」

「やっぱりか...その思考は簡単にして本質を突いてくる。個人的には剣技よりもそっちが厄介だと思ったよ」

「今の話だと、副官殿は十分ミフルを理解していると判断しますが?」


そう言ってもらえると助かるが、全く嬉しくない。


「そう言っていただけるとありがたいが、1人の考えだけで決定するのは危険だからな。出来るだけ色んな意見を聞きたいんだよ」

「さようでございますか。ニアラブ様のおっしゃる通り、変わった方ですね」

「褒められたと思っておくよ。そうだ、ミフルに弱点ってあるかい?」


そこが一番知りたい所なんだよね。


「う~ん...エバン様とテキナ様を心酔している事ぐらいじゃないですかね。ただ、弱点と言いましたが、下手な事を言うと逆上されて、手に負えなくなりますが...」

「それ、弱点じゃないよね...」

「そうですね...変な事を申し上げました」

「いや、大丈夫だ。知っていれば何かと対応できるかも知れないからな」


意味も分からず逆上されて混乱するよりも、すぐに判断が出来る方が良い。


「本当に変わった方ですね」

「それも認識しているし、私もニアラブ様を変わった方だと思っているから」


それを聞くと、とても困った顔をした。そう言えばさっきクウィル様に言われていたな。出来るだけ他人を巻き込むなと...。

早速やってしまったが、仕方ない。どうせ、我が陣営に入るのだ。今の内に意識を変えてもらう方が良いだろう。うん、そういう事にしておこう。


「...顔合わせは終わったかと思いますので、失礼させていただいてもよろしいでしょうか」


これ以上は巻き込まれたくないと思ったのか、急に真顔で切り上げようとしてきた。

こちらも特に問題はないし、エルセリアに戻ってからでも十分なのだ。


「いいよ。あと、エルセリアに行く際には一緒に来てもらうけど良いかい?」

「構いませんが...聞けば馬では追いつけない速度だと聞いていますが?」


電龍と夜霧の事だな。

そこは既に確認済みという事だな。


「大丈夫だ。夜霧っていう馬車みたいなものに乗ってもらうから」

「えっと...人が多くてもう乗れないって聞いていますが...」


それも確認済みか。流石だな。


「野宿は平気?」

「それは大丈夫ですが?」

「じゃあ、申し訳ないけど、床に寝袋で寝てもらう。寝心地は多少我慢してもらう事になるけど、野宿にはならないから安心してくれ」

「は...はぁ...わかりました。ともかく、旅の準備だけはしておきます」

「うん。それはお願い」

「では失礼いたします」


寝袋っていうのが分からない雰囲気だが、なんとなく察したんだろう。

全てを納得している様子ではないが、カリナは部屋を辞していった。


ともかく、1人確保だな。

隣に座るタニアを見ると、何でもないかのような仕草でお茶に口を付けていた。


しかし、またやってしまったな。


「タニア、こっちで勝手に色々としゃべっちゃったけど、構わなかったか?」

「構わない。実際、会計の手が薄いのは事実だからな。だが、彼女が隠密なのも事実だ。リョウの話は理に適っている」

「ま、どっちにしてもエルセリアに戻ってからだ」

「ただ、気になったのは、使い魔を使わせる。みたいな事を言っていたが、あの空飛ぶ使い魔を使わせるのか?」


やはりタニアはそこを気にしているか。ま、普通ならそれはそうなんだけどね。


「そうだよ。彼女が諜報専門だというなら、彼女が使うのが一番だと思うんだよ」

「それはそうだが...」

「さっきも言ったが、使い方を覚えた所で、アレを創り出すのは無理だ。そもそも使う事は出来ても持ち出す事は出来ない。全く問題ない」

「だが、得た情報は利用出来るぞ?」

「そうだ。だから今後、彼女を見ていく必要はある。が、国家を裏切る事がなければ放置で良いと思う。それに、使い魔の情報は私も把握する事になる。問題ない」

「それ...完全にリョウの手駒になるって事だな」


額に手をやって考え込んでいるが、口調は楽しそうだな。


「あ、いや...本人の意向とあるし、ともかく皆と話をしてからだ」

「そういう事にしておこう」


タニアが悪い顔で笑っている。

この顔は出会った当初に見た記憶があるな。なんとなく懐かしい。


さて、悪代官に笑われた悪徳商人はどうしようかな。


とりあえず、晩餐会で目立たなくなる方法をタニアから聞いておこうか。



翌朝、着替えをして身支度を整えたらタニアが部屋にやって来た。

一緒に朝食を食べようという事らしい。


昨日、「女性の部屋に行くのがちょっと...」って言ったので、タニアが積極的に来る感じになったようだ。

なんか色々申し訳ないな。


だが、タニアが傍に居てくれる事で、かなり安心するのは何故だろうな。

私は悪の科学者であって心理学者ではないから、そこら辺を考えても答えは出ないし、考えるのは諦めよう。


朝食は流石に誰も訪問は無かったので、全員で席について朝食を頂いた。

正直、背後に控えてもらっているのはねぇ...逆に気になって仕方がないんだよ。

カラーは食事が出来ないからな。それは仕方がない。諦めた。


食後の紅茶を楽しんでいると、またしてもドアを叩く音がする。

ここは王城なので、普通に拒否できるはずもなく、「どうぞ」と言う他ない。


「失礼します」


と入って来たのはカリナだ。昨日と変わらず黒ずくめの服装だ。

まぁ、黒梟って組織だからね。そりゃ黒いだろう。


「タニア様もこちらだったのですね。丁度良かったです。今日の就任式の事で打合せを行いたいとの事なので、部屋を移動していただけますでしょうか?」

「構わないが、どこに行くのだ?」

「陛下の応接間に」


いきなり本丸か?いや、タニアは王家の人間...っていうかお姫様だから、別に問題はないのか。


「分かった。行くのは私とリョウだけで良いな?」

「問題ございません」

「分かった。では行こうか、副官殿」

「承知しました」


お互いの顔を見やり、ニヤリと笑う。

さて、どういう話し合いになるか...。



「よく来たなタニア。そしてリョウ」


部屋にはルイクス国王陛下、イブウェル大将軍、ニアラブ前国王、そして知らない身なりがとても良いおじさんが1人。

ここは国王の応接室との事だが、簡易な謁見の間のようだ。


部屋の奥の一段高い所に陛下が座っており、そこから離れた机に、国王に向かって右に前国王、大将軍、おじさんの順に座り、向かって左にタニア、私の順で座った。


ちなみに、さきの一言は国王が発した言葉だ。


「お招きいただき、感謝いたします」


事前にタニアと話をしていたのだが、出来るだけ応答は私でする事にしたのだ。

正直、腹の探り合いはタニアには無理だ。


それに、この場に私を呼んでいるという事は、私との会話を所望していると判断するからだ。


「王城に呼び寄せたのは事実じゃが、お前たちはどうして予定と言うものを無視するんじゃ?おかげでこちらの予定がかなり狂ったぞ」


早速ニアラブ様がいちゃもんを付けてきたな。

まぁ、これぐらいは想定内だ。っていうか昨日その話をしている。


そういう意味では、昨日の内に色々と話をしてくれているニアラブ様に感謝だな。


「大変申し訳ございません。私がかなり慌ててしまいましたもので。タニアは私に巻き込まれたに過ぎません」

「全てお前の責任と言う事で良いか?」

「ですが、陛下の予定も聞かされておりませんでしたので、ともかく急いだ次第です。どうぞご容赦を」


下手に全てを私の責任にされてはたまらんからな。ここはシレっと言い訳をしておこう。私の失態っぽくした上で責任逃れをするのが大変だがな。


「ふん。こちらに来る予定を告げるようにと伝えたはずぞ?」


と、こちらは大将軍。私もかなり嫌われたものだな。

もっとも、タニアに矛先が向くよりもよっぽど良い。


「エルセリアの状況を説明しなければならないと思いましたので。であれば早急にお耳にいれようと馳せ参じた次第です」

「こちらの意向を無視してか?」

「クラスタンプの動きについて、後回しで良いとおっしゃるのですか?で、あればこの場では就任式の予定だけ話をさせていただき、後日改めて...」

「よい。時間の無駄じゃ。早速報告をしてもらおう」


壇上から陛下の声がかかる。


さて、軽い茶番は終わったので、本題に入ろうか。



クラスタンプを撃退した所までは、先遣隊や本体からの報告で知っているはずなので、そこは説明を軽くして、現在の状況を説明する。

とは言え、クラスタンプの内情は分からないのだが。


私が分かるのは人の動き、軍隊の動きだ。


まず、クラスタンプ軍が全滅した事については、テキナがクラスタンプの首都に入った後に、馬車を主体とした一団が首都から出てきて、追撃戦の惨状を確認した様子。すぐに首都に伝わったらしい事。

もっとも、この確認と情報伝達にクラスタンプは5日程かけている。


おそらく2,000の軍隊が誰一人として帰る事は無かったという報告は、衝撃だった事だろう。


結果、追撃する為に用意していた5,000の兵士は解散させられた。


その代わり、偵察部隊と思われる30人規模の兵士がエルセリアに向かってきた。

領内を蹂躙されるのは困るので、こちらはコープル村に入る前に、100騎の騎馬隊で各個撃破させていた。


それがタニアと私が首都に向かうまでの状況だ。


今はパストングがエリーに相談しながら指示を出しているはずだ。



リアは「冒険者関係の仕事が良い」と以前言っていたので、連絡役みたいな事をしてもらっている。

以前クラスタンプ軍から聞いた話にあった「もう一つの魔石」の行方を探してもらっている。


エリーの判断で、エバンの領地管理下に、そんな物騒なものは置かないだろうと言う事で、エルセリアよりも西にあるだろうと見当をつけている。

が、西部もかなり広いし、ベールナル大森林もある。


正直難航している状態だ。



対クラスタンプについては、今はこちらが有利に動いてはいるが、何かあった場合は圧倒的に兵力が足らない。

クラスタンプの大侵攻があればたちまち不利になるからな。


南側の注意は欠かせない。



と、ここまでの事を簡単に説明する。


国王を始め、大将軍、前国王は難しい顔をしている。

まぁ、その理由は分かる。


「リョウよ...その情報は本当なのだろうな?」


大将軍が鋭い目で睨みながら聞いてきた。


国の機関を大きく凌駕する情報収集能力。それを私一人で行っているんだからな。そりゃ頭を抱えるだろう。

だが、私は思わずとは言えタニアを領主に推薦したんだ。その責任は果たすつもりだ。


「疑う気持ちは理解しております。ですが、これだけは事実です。私はタニアを裏切らない」

「タニアがそれほど大切か」

「全てにおいて優先されるべき存在の内の一人です」


国王が眉を動かし、大将軍が口を堅く結ぶ。前国王は...無表情だ。

おじさんは目と口を大きく開けて固まっている。


タニアは...真っ赤になって俯いているぞ?


う~ん...国王たちの表情は分からなくもないが、タニアは分からない。

変な事は言ってないつもりだし、ここはタニアが大事だと言わなきゃならない所で、そもそも事実を言っているだけなんだが...?。


「その反面、タニアの為なら国を裏切るのだろう?」


かなりの時間が経過して、やっと大将軍が口を開く。

いや、それほど衝撃的な事は言っていないのですが?


「国がタニアを裏切るなら、それはあるでしょう。ですが、それはありえないと思っております。結果、私は国を裏切る事はありません」


その気持ちはあの時から一切変わらない。


タニアが顔を赤くしてチラチラとこちらを見ているが、今は気にしている場合ではない。

だから、なぜそんな反応なんだよ!!

別段、愛の告白をした訳ではないぞ?「優先されるべき存在」だぞ?分かっているのか?


「分かった。おぬしの事だ、嘘はあるまい。で、今後の対応はどう考えておりのだ?」


大将軍が折れてくれた。もっとも、本当に私が国を裏切るとは思っていない...はず...と思う...。


「ともかく、大軍で来られてはこちらの負けです。なので、出来るだけ事前に対処するように考えています」

「その対応方法とは?」

「まだ考えておりません。そもそも、タニアが領主になってから日もありません。正直、そこまでは無理でございます」

「確かにそうであったな」


大将軍が腕を組んで考え込む。

事態は急激に動いてはいるけど、正直対応が追い付いていない。


幸いな事...というのも問題だが、クラスタンプ軍を徹底的に叩きのめした事で、クラスタンプ軍が動けなくなった。

そこに時間的な余裕が生まれたというだけだ。


「あの電龍とかいうものを大量に用意する事は出来ぬのか?あれが1つあれば騎馬100騎にも相当するだろうよ」

「用意できません。あれは私のみが乗れるものです」

「聞けば、かのゴーレムも乗りこなしたと聞くぞ?」

「カラーは神が創造せし神秘なるゴーレムです。特別なのですよ」

「...ふむ...」


大将軍がさらに考え込む。


私個人の武器としては、拳銃やアサルトライフル、手榴弾などがあるが、それらはジョーチェ軍の目の前では使用していない。

アサルトライフルと電撃投網銃『轟雷』は、コボルド討伐の報告書に載ったので知っているだろうが、思い出せていないようだな。


まぁそれだけ電龍の活躍が大きいという事だろう。


「タニアの為と言うのであれば、おぬしの武器をもう少し融通するのが簡単じゃろう?」


ニアラブ様が聞いてきた。

が、これに関しての返答は変わらない。


「私の道具や武器は、私の目の届く範囲でしか使いません。転じてそれは『タニアの為』という証明でもあります」

「それは『タニアのみの為』という事で理解して良いのか?」

「はい」


そこで大将軍が思い切り睨んできた。

政を蔑ろにしていると思っているんだろうが、そもそも政には興味はないし、そこにタニアはいないんだよな。


「良い。ともかくタニアを絶対に裏切らないという事であれば、これ以上問うても無駄であろう。リョウよ、他に報告する事はないのか?」


ニアラブ様が仲裁してくれた。

こういう所はとても助かるんだよな、ニアラブ様は。厄介だけど。


「報告という程の事ではございませんが、現在エルセリアでは人材不足になっております。何人か引き抜きをさせて頂けますれば...」

「人材?どういう人材か?」


急に真顔になって聞いてくる大将軍。

この人も別に悪い人ではないんだけど、圧がすごいんだよ。圧が...。


「具体的には管理者ですね。特に会計関係の管理者がおりません」

「会計か...わかった。こちらでも確認してみよう。それで良いか?」

「有難き幸せ」

「ふん。調子が良いの」

「全てはタニアの為ですので...」


またしても一触即発の雰囲気になる。

だから、そんなに圧をかけないでよ...。


「止めんか、お前たち。では、次はタニアの就任式についてじゃが、夕刻に謁見の間にて執り行う。リョウも参加せよ。その代わり大人しくしておくんじゃぞ」

「承知いたしました」


そこに疲れた声でニアラブ様が仲裁に入ってくれた。

すみませんね。ですが、いちいち突っかかってくる大将軍が悪いんですよ?


「ではザクリー、大まかな流れを説明してやってくれ」

「承知いたしました、ニアラブ様」


と、ここでおじさんが初めて声を出す。

バリトンの落ち着いた声だ。


「タニア様はご存じでしょうが、リョウ君は初めましてだね。私はザクリー。陛下の下で執務長官を仰せつかっている者だ。よろしく頼むよ」


なんと、執務長官でありましたか...。単なるおじさんじゃなかったのね。

っていうか、国王がいる部屋に単なるおじさんは居ないか。


「今日の昼食が終わったらタニア様にはご準備に入っていただきます。お部屋でお待ちいただければ良いので...よろしいですか?」

「問題ない」


まだ顔は赤いが、ちょっと落ち着いたかな?


「リョウ君は以前着ていた、あの白い服で良いのですが、持ってきていますか?」

「はい。問題ありません」


死神博士の衣装は夜霧に積んである。


「よろしい。リョウ君も部屋でお待ちいただければ良いですよ。時間になりましたら迎えの者が行きますので」

「分かりました。では部屋で待たせていただきます」

「就任式は難しい事はありません。タニア様も特に問題はないと思われますが、念のためご準備中に女官長から簡単にご説明させていただきますね」

「分かった」


就任式の説明は簡単で良いな。

さっきまでの不穏な空気は綺麗さっぱりなくなったぞ。大将軍も大人しく茶を啜っている。


「就任式が終わりましたら、タニア様はお色直しをしていただき、夕食会に備えていただきます」

「お色直しか...はぁ...面倒だが仕方ないな」

「リョウ君は自由にしていただいて良いですよ。居場所が分かれば呼びに行きますので」

「白い服は着ていた方が良いですか?」

「そうですね。お願いします」

「分かりました」


国王が臨席する夕食会と言う事は、色んな貴族が出席するんだろう。

が、全く興味がない。食事に専念させてもらえそうだ。


「夕食会ではリョウ君はタニア様の副官として、隣に座ってもらいますからね」


え?えぇぇえええ!!それ、めっちゃ目立つやん!!


「ちょ...ちょっと待ってください。それ、目立つじゃないんですか?」

「そうですね。目立ちますね。タニア様の隣ですから」


ザクリーさんがシレっと返答する。いやいや、もう少し考えてから返答してくれよ!


「ちょっとニアラブ様。私に目立つなって言ってたじゃないですか!そもそもダメじゃないですか?」

「何を言っておる。目立つのはタニアであって、おぬしではない」

「おぅ...」


確かに正論だが...。


「リョウは私の隣は嫌なのか?」


隣のタニアが私の肩に手を置いて、不安そうな顔で見てくる。いや待て落ち着け!!


「そんな事はないぞ?ただ、目立つなと言われたのに、目立つところに座らせられたら意味がないだろうと言っているだけだ」

「では、リョウに視線が行かないように、私が目立ってやる。それで良いだろう?」


いやいや、タニアが目立つ事で私の存在が浮き彫りになるんですけど?「隣の男は誰だ!?」ってなるんですけど?


見るとニアラブ様が悪い顔をしている。

これは...嫌がらせって事か!!


「ですので、タニア様のエスコートはリョウ君にお願いするよ」

「なぜ私?」

「嫌なのかリョウ?」

「待て、落ち着けタニア。確か未婚の女性は基本的に親族がエスコートするって聞いた事があるぞ?」


嘘だけど、こう言わないと後が怖いからな。


「そうなのか?そういう話は聞いた事がないが?」

「そうですね。本当であればマーク様がエスコートする事になるんですが、タスバーク様もマーク様も別の用事で首都にはおられません。ガーランド様も演習で郊外に出向いておられます。クウィル様は...どちらかと言うとエスコートされる側ですからね。残るは大将軍とニアラブ様ですが、流石にそれは...」


親族ではないが、タニアの副官という立場という事で、私に白羽の矢が立ったそうだ。


「だったら、就任式を一時的に延期するという方法もあるのでは?」

「当然それも考えたが、事前情報からおぬしたちを首都に長く留めるのは良くないと考えたのじゃ。先ほど改めてエルセリアの情勢を聞いた後では猶更じゃな。じゃからちゃんと予定を聞かせろと...と、もう言うまい。ともかく、これは決定事項じゃ。諦めよ」

「...承知しました...」


あかん。どうにかして通信方法を考えよう。

水晶球に擬態させた電話でも作ろうかな...。


「そう言えばリョウ君はこちらの作法はご存じですか?」

「事前にタニアから聞いております。多少の間違いはあるかも知れませんが、そこは目を瞑っていただければ...」

「悪目立ちしないのであれば良いですよ。悪目立ちしなければ」


このザクリーという人もやりにくいな...さすが執務長官と言った所か?


「...善処します...」

「まぁ、今から学習するのは時間がありませんからね。ですが、エルセリア領主の副官であれば、こういう機会は増えます。しっかりと覚えてください」

「...分かり...ました...」


追撃が厳しい...。立場上仕方ないとは言え、辛い。


「夕食会の後は舞踏会になります。参加は自由ですが、女性から誘われたら断ってはいけませんよ?彼女たちの顔に泥を塗る行為になりますから」


と、爆弾をシレっと放り込むザクリーさん。参加は自由って事は「逃げろ」って言ってくれているのね。了解。


「じゃあ、退室します」

「...まぁ良いでしょう。タニア様はどうされますか?」

「私も退室する。私がいると、それこそ舞踏会が混乱するだろうからな」

「ご配慮痛み入ります。では、そのようにお願いしますね」

「分かった」

「では、説明も終わりましたし、これで終わりにしましょうか」


え?終わるの?困るんだけど?


「一つ良いでしょうか?」

「何でしょう?」

「その...エスコートってどうすれば良いんだ?作法など全く知らないんだ。タニアに恥をかかせたくはないからな。教えて欲しい」


ほう...。


国王と大将軍から感嘆の声が漏れた。が、そこ感心する所じゃないだろ?と言うか誰か言ってくれると思っていたんだが、誰も言ってくれないし...。


と、タニアを見れば目を丸くしてこっちを見ている。そして顔は真っ赤だ。

表情的には「あ、それ忘れてた」って感じだな。

出来ればタニアが「リョウはエスコートなんてした事ないぞ?」ぐらい言って欲しかったんだが、まあそれは良いか。


「それは...そうですね。では昼食の後に教える事が出来る者を送ります。そこで覚えてください。大丈夫です。エスコートそのものは難しい事はありませんから」

「助かります。では昼食後にお待ちしておきます」


こうして、重くも軽い就任式の打合せが終わった。



やっぱり王家に関わるのはしんどいし面倒だし、嫌だぁ~...。


タニアは別ね。



あ、リアも。

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