■■■ Step054 王家の人々はやっぱり皆がマッドだった件
「で、何しに来たんじゃ?」
テーブルの向こう側に座るお爺様...前国王ニアラブ様が紅茶をすすりながら私に文句を言っている。
その直前にタニアに声を掛けていたが、とてもにこやかだったんだけどな。
「いやいや...そっちが呼んだんでしょう?」
「儂ゃ知らんぞ?」
「そんな訳ないでしょ?」
「うむ、正解じゃ」
「え~っと...最近物忘れが激しいんですか?」
「儂、元国王で、裏の権力者なんじゃが?」
「普通、そんな人が私と普通にお茶飲みながら会話しませんよね?」
「おぬしは暇つぶしに丁度良いのじゃ」
「相変わらずひでぇ...」
なんで初っ端からこんな会話になっているのかと言うと...。
翌日、朝食を済ませて夜霧から出ると、ロボが寄って来た。その距離は相変わらず約10m。
「おはよう。何気に元気そうだな...」
アリスの報告だと、寄って来た妖魔を喰いまくっていたらしい。
なので、この魔狼たちはお腹いっぱいだ。
「私たちはそろそろ出発するよ。機会があれば、また会えるだろうさ」
ロボが軽く頷く。
「よし。じゃあ、またな」
私がそう言うと、魔狼達が一斉に上を向き、一斉に大きく吠えた。
「「「「うぉぉぉぉおおぉぉん!!!」」」」
ビリビリと空気が震え、身構えていなければ驚きの余り、腰を抜かしていただろう。
いやあ...一応想定しておいて良かった...。
魔狼達は吠えた後、ゆっくりと山脈に向かって移動を開始した。
しばらくロボは私を真っ直ぐに見ていたが、ぷいと首をめぐらして、ある方向を見つめる。
ん?何かあるのか?
そう思ってそちらを見てみるが、分からない。方向としてはトモニアの方向だ。
途中に何かあったんだろうか?
首を傾げつつロボを見ると、こちらを見ている。
その目は何か言いたげだ。
そういや、犬と会話が出来るデバイスがあったよな?いや、こっちは狼...いやいや魔狼だから根本的に無理か。
ロボと会話が出来ればとは思ったが、それは無い物ねだりだな。
「あっちに何かあるって事だな。良く分からないが気を付けるようにしておくよ。ありがとう」
そういうと納得したのか、ロボがゆっくりと仲間たちに向かって歩き出す。
本当に、変わった奴だな。
そんな感じでロボたちと別れ、昼過ぎには首都に到着した。
前回と同じように電龍で王城に乗り込み、前回と同じ場所に電龍を止める。
「お久しぶりです、タニア様、リョウ様。皆様方。お待ちしておりました」
夜霧から出るとルーヴが出迎えてくれた。
彼女は前回来た時の部屋付きの侍女だ。結局その部屋に泊まる事なく、エルセリアに戻ったんだが...。
「早速ですがニアラブ様がお待ちです。こちらへどうぞ...」
ちょっと待て!なんでお爺様なんだよ!
「え~っと、それは拒否できないのかな?」
「しても良いですが、その後どうなっても知りませんよ?そもそもニアラブ様の敵になりたいのでしょうか?」
と満面の笑みを浮かべてはっきりと言われた。
はぁ~っと諦めのため息をついて、ルーヴについて行く。
王城は広い。
結構歩かされる事になるので、歩きながらルーヴが話しかけてくる。
「それにしても、戻りの早馬よりも早く到着するのはいかがなものかと思いますよ?」
「そうなの?」
「そうですよ。おかげで城内は慌ただしいんです。奴が来たって...」
「奴って...」
タニア様がお戻りになられた。という事にならないのか?なぜ私?
「それにしても、今回はリア様は来られていないのですね。って、キャリー?」
やけにキャリーがこそこそしているな、と思ったらルーヴを驚かせるつもりだったのか。
そういや、この二人は年齢が同じぐらいだよな?
「は~い、ルーヴ。今頃気が付いたの?遅いわよ」
「はぁ?貴女、いつものように気配を殺してたんでしょ?相変わらず悪戯が過ぎます。リョウ様も困っているのでは?」
「まぁ、困ってはいるけど、問題はないよ。もう慣れたし」
「はぁ~...そんな事をおっしゃるのはタニア様とリョウ様だけですわ。ご一緒なのは、カラーさんと...こちらは?」
「あ~、私の侍女だ。色々あって今回連れてきた、セミアとレミだ」
新たな女の子を連れている為か、ルーヴの視線が痛い...。
そんなに睨まないで欲しいな...そもそも望んで女の子が増えている訳ではないんだよ。
「セミアです。よろしくお願いいたします」
「レミです。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いしますね。それにしても、前回同様リョウ様の周りは女性ばかりですね」
「なんか面目ない...」
だから睨まないでくださいって...。
「そう思うのでしたら、私の相手もお願いしますね?」
「は?」
「はい、こちらの部屋でニアラブ様がお待ちです」
急にドアの前で立ち止まり、ドアを4回叩く。
「ニアラブ様、タニア様、リョウ様達をお連れしました」
「入って良いぞ」
「失礼いたします」
そして、冒頭の会話に戻る訳だ...。
いや、頭が痛ぇ~...。
「まぁ、暇つぶしは良いとして、まず礼を言っておく。よくぞエバンの暴動を止めてくれたな」
「いえ。私はタニアを領主に推した張本人ですので、出来る事をしたまでです。それに、タニアはしっかりと領主としての器を兵士達に見せましたよ」
「その話は先遣隊の隊長やローディスからも聞いた。魔法でルイクスの幻影を見せただと?」
「説得力が違いますでしょう?」
「それはそうじゃが...どうやったのじゃ?」
「濃霧を魔法で発生させて、そこに幻影を映し出しただけです。それほど難しい事はしていませんよ」
簡単に説明したが、実際にそれをするとなると、かなり大変なのは承知している。
が、そこは知らんし、もし実現したいのなら頑張ってもらおう。
「なるほど。理屈は分かった。が実際にそれをするのは大変そうなんじゃが?」
と、今度はタニアの顔を見る。
「はい、そうですね。濃霧を発生させるのはさほど難しくはありませんが、幻影を映し出すのは至難の業でしょう」
「じゃろうのう...リョウよ、その幻影の魔法はどうするのじゃ?」
「それは秘密です」
「どうしてもか?」
「どうしても、です。正直、これは悪用されると厄介ですので」
クラスタンプ軍を追い出した時も使用したからな。
無血占領とかには有効だろうが、そんな事がまかり通ったらパワーバランスが崩れてしまう。
「悪用と言うが、おぬしが悪用するかも知れんではないか」
「それは否定しませんが、現状は私だけです。方法を教えたらもっと沢山の人が悪用しますよ?それでも良いと?」
「ぬぅ~...相変わらず可愛くない奴め...」
「お爺様の言う事を聞いたとしても、私の事を可愛いとは絶対に思わないでしょう?」
「当たり前じゃ!」
ここまでの会話を聞いていた侍女が青い顔をしている。
そりゃまあそうだろう。なんせ前国王に向かって全く敬う事なく、ポンポンと言い返しているんだからな。
逆にルーヴはクスクスと笑っている。
彼女は前回にこんな会話を体験しているからな。
タニアも我関せずと優雅に紅茶を飲んでいるし、セミアは興味深げに会話を聞いている。
レミはカラーと一緒におしゃべりしながらお茶菓子を頬張っている。
こちらのメンバーはマイペースだな。
「そうじゃ、思い出したがタニアは人手が足りておるのか?」
「いえ。今は領主交代直後でなんとかなっていますが、早々に人手不足になる事は分かっています。ですが、なかなか思うような人材が...」
「であろうな。まずは、黒梟から1名そちらに向かわせる。なんでも出来る奴じゃから好きに使え」
「有難いのですが...黒梟からですか?」
「そうじゃ。はっきり言っておくが、リョウの監視も兼ねておる。拒否は出来ぬぞ」
「いや、はっきり言う必要ってあるんですか?」
思わずツッコんでしまった。
「言わぬでも分かっておるじゃろう。であれば、はっきりさせておくのがお互いの為じゃろ?」
「まぁ、私は構いませんが...タニア、どうする?拒否出来ないとか言われているけど」
「リョウが構わないなら良いんじゃないか?そもそもリョウを監視したとして、何も出てこないぞ?」
「確かにな」
いや、色々とヤバいものが出てくるけど、どうせエルセリアでは公になるのだ。問題はない。
「話はまとまったな。後で本人をそちらに向かわせる。後はそっちでやってくれ」
無責任な言い様だが、有用な人材を提供するから、そっちで上手に使えって事だ。
これは有り難く受けるべきだな。
タニアを見ると、タニアも私を見ていた。
表情を見る限り、どうやら同じ考えのようだな。
「そう言えば、わたしの就任式をするとの話ですが、どうするのですか?」
「どうするのか?そんなもんはルイクスに聞け。そもそも、いつ戻ってくるのかなどの連絡も無しに、いきなりやってくるんじゃから何の準備もしておらんわい!」
「そうなのですか?」
タニアが驚いているが、ニアラブ様の言い分は正しい。
そういや、前回の時も慌ててたような?
「そう言えばタニア、早馬の連絡はどういうものだったっけ?」
「ん?就任式をするから連絡を...と...」
「連絡?ってどういう連絡だ?」
「首都にいつ行くのか...だったはずだ...」
「という事は日程を連絡する必要があったって事なんだな?」
「そういう事だ...すまぬ」
連絡があった。さあ行こう!ってなったからな。
という事は、使者はまだエルセリアにいるかも?あとでリアに連絡して、使者に伝えてもらおう。
「いや、私もちゃんと話を確認すれば良かったな。前回と同じようにすれば良いと思ってしまったよ」
「そういう意味では、前回もまず連絡が欲しかったんじゃがのう」
「それは...申し訳ありませんでした」
「まぁ良いわ。今度からは早馬が帰って来るよりも早く本人が来ると思っておくわい」
なんかすみません...。
色々と話を聞くと、本当に私たちが突然現れた事で、城内で準備に追われているらしい。
急遽明日の夕方にタニアの就任式を行い、そのまま夕食会をする流れになったそう。
う~ん...マジで連絡方法を考えた方が良いかも知れない...。
特に今は領主という立場があり、早急に国王の意向と確認しなければならない事態もありうる。
窓口をお爺様に...いや、危険すぎるな。誰か王家に傾倒しない人物っていないもんかねぇ...。
「それから、エバンだがな。潔い最後じゃったわ」
お爺様が少し目を伏せて、静かに教えてくれた。
「そうなんですね」
「国王...ルイクスが謁見の間でエバンの言い分を問うたが、『ない』と一言口にしただけじゃった。毒による自害ではなく斬首を望みおった。最後の言葉を問うたら、『全て任せておるので何もない』と。見事な最後じゃったわい」
「...」
「実は儂はこっそりとエバンと会って話をしたんじゃが、おぬしの事で話が盛り上がってのう」
「それは...全く潤いの無い話題ですね」
とてもじゃないが、その中に入って行く勇気はないし、どういう話かも聞きたくないな。
ま、楽しそうにしていたのなら、それはそれで良いけど...。
「本当じゃ。お互いにおぬしの悪口を言いまくったわ」
やっぱりか!!
「それは...さぞお酒が進んだんじゃないですか?」
「まったくじゃ。おかげでおぬしからせしめた酒が無くなってしもうたわ」
「え?かなりの本数があったはずですが?」
「儂とエバンの二人であれば、一晩で呑みきれるわい」
と胸を張る老人。
それ、自慢になるのか?単なる飲兵衛だろ。
あの時持ってきた...いや、取り上げられた酒瓶は15本程あったはずだ。
雰囲気的に日本酒の一升瓶を数本呑んだ可能性すらあるな...。
「...翌日は大丈夫でしたか?」
「もちろんじゃ」
本当か?
まぁ、確認した所で今更どうこう言う話でもないか。
「教えていただきありがとうございます。あの、そろそろ席を外してもいいですか?」
「あぁ構わんよ。暇つぶしも十分じゃしの」
本当に暇つぶしだったんかい!?
って、そんな事はないか。そもそも本来この人って忙しいはずだからな。
話は終わったという事だろう。
部屋を辞してルーヴの案内で私に割り当てられた部屋に向かう。
カラーとセミア、レミは私の侍女。キャリーは今回はタニアの侍女だ。
なので、私と一緒にカラーとセミアとレミが部屋に入る。
「ですが、この部屋にいる間は私がお世話いたします。よろしいですね」
カラー達を前にルーヴが宣言する。
まぁ、仕事に誇りを持っているんだろうな。
私はそれで構わないんだが、カラーがどう言うか...。
「承知いたしました。王城にいる間は全て貴女にお任せいたします。セミアもレミも良いですね?」
「はい。私は良いのですが、お兄様は...」
と、セミアが私を見る。少し困っているようだな。
まぁそうだよな。カラーよりも私の方が上司?だからな。
「問題はないよ。ここは砦ではないから勝手が分からないだろうし、逆にルーヴに色々教えてもらえば良い」
「分かりました。ルーヴさん、お願いしても良いですか?」
「いいですよ?そう言えばそちらの二人はどういう経緯で?」
あ~...説明しておいた方が良いかもな。
ルーヴに説明しておけば、王家の方にも話が回るかも知れないしな。
「実は、かくかくしかじかで...」
「...なんですか?そのかくかくしかじかって?」
「いや、すまない。一度言ってみたかったんだ...」
その後、ちゃんと説明した。
「そうだったんですね...それはまた...いえ、分かりました。ちゃんと色々と教えて差し上げますので、ご安心を」
「うん。ルーヴの事は信頼しているから、よろしく頼むよ」
一通りの話を聞いたルーヴは非常に困った顔をしていたが、最後は笑顔で請け負ってくれた。
「で、今日は王家から話があったりはしないのかい?」
「ニアラブ様の話から予想出来ていると思いますが、皆様の到着で急に忙しくなっていますので...」
「...重ね重ねすまない...」
「いえ。私に言わせれば、前回の事があるんですから、ある程度想定しておけるハズなんですよね。本当に学習能力がない...あ!すみません!聞かなかった事に!!」
と顔を真っ赤にして慌てている。
その姿は年相応に見えて可愛いな。
「大丈夫だよ。そもそも、私は君の事を言えないんだけど?」
「あ...まぁ確かにそうですね...」
すぐに納得しないで欲しいな。もう少し溜と言うか...。
まぁ良いか。
「だろう?じゃあ、今日はのんびり出来るって事だな」
「そうですね。では、夕食はここに運ばせましょうか?」
「それは助かる。あの子達はまだほら...色々勉強中でもあるから」
「承知いたしました」
それからしばらくゆっくり過ごした。
エルセリアに居た時は、ずっと忙しかったからな。
持ち込んだノートパソコンを操作して、調べものをしたり、ニュースを見たり、ユリ達とチャットをしたりしていた。
セミアとレミは、ルーヴに侍女としての作法を色々教えてもらっている。
カラーも一緒に話を聞いているようだ。
本当は城下町に繰り出したいのだが、タニアに相談もしたいからな。
そういや、タニアは自分の部屋に戻ったんだよな...。
お姫様の部屋か...簡単に行けないんじゃないか?
とか考えていたら、来客だ。
「リョウ。どうして私の部屋に来てくれないんだ?」
タニアだった。
「へ?どうしてって...言われても...」
「ずっと待っていたんだぞ?どうしてなんだ?」
「あ~...いや、申し訳ない。女性の部屋に行くのはちょっと憚れたというか...」
「憚る?いつも普通に来ていたではないか?」
「いや、砦だとちゃんと理由があってだな」
「理由が無ければ来てくれないのか?」
「ふぇ?いや、そんな事はないぞ?ただ、ここは王城で、勝手が分からないってだけだ。それにここではタニアはお姫様だろ?普通、簡単には会えないハズだぞ?」
「そんな事を気にしていたのか?リョウは親友だ。お父様にも伯父様にもそれは伝えてある。問題はない」
「あ~...そうなのね...今度から気を付けるよ」
隣でクスクスと笑いながら話を聞いていたキャリーが、タイミングよくタニアに声を掛ける。
「タニア様。今日のお夕食はどうされる予定ですか?リョウ様はここに食事を運んでお夕食をされる予定ですが」
「なに!?もちろん私もここで食べるぞ。キャリー、そのように取り計らってくれ」
「承知いたしました」
まぁそうだよな。仲間で揃って食べるのが一番だ。
「じゃあ、そこに私も入らせてくださいね?」
え?誰?...って、クウィルお姉様...じゃない、お兄様!!
相変わらず女性のドレスを身に纏っていらっしゃる。いやぁ...男性と知っていなければ普通に女性として見てしまうな。
声変わりもしていないのか、ボーイソプラノだ。
てか、いつの間に部屋に入って来た?
「クウィルお兄様!?どうしてこちらへ?」
振り返りながら驚くタニア。
そうだよね。私も気配を感じていなかったから正直驚いた。
「うん?リョウくんとお話がしたくて来てみたんだけど、お夕食の話をされていたのでご一緒させていただければと...」
しれっととんでもない事を言ってくる。
これ、拒否したら失礼...だよね?
「リョウとお話?え~っと...」
「タニアの副官として活躍したんでしょ?その武勇伝を聞きたくて...」
ん?これってひょっとして情報収集の一環とか?裏でニアラブ様が動いているとか?ありえそうだな。
「え~っと、クウィル様。私はそんな活躍はしていませんよ?タニアは自分の力で領主になったんです」
「お父様やお爺様の話ではそのような事ではありませんでしたよ?ただ、かなり断片的でしたので、これを機会に直接お伺いしたいと思いまして」
う~ん...独自判断7割、明確な指示3割って所か?いや、それとなく誘導されたっていう可能性もあるな。
「一緒に食事は構いませんが、面白い話が聞けるかどうかは保証しませんよ?」
「それは大丈夫。私は君の話が聞きたいだけだから」
夕食会が始まった。
結局私とタニア、クウィルお兄様と食事をする事になった。
キャリーとルーヴ、セミアとレミは侍女として控えている。カラーも食事をしないので控えている。
「そうそう。リョウがくれた、あの飲み物は大事に飲んでいるのよ?」
あ~...あの水で薄める甘い乳酸菌飲料の事だな。
この世界では、あんな甘い飲み物はないからな。
「大事に飲んでいただいてありがとうございます。簡単には取り寄せられませんが、また機会があれば持ってきますよ」
「本当?ありがとう!!」
とても嬉しそうだ。
まぁ、女性は得てして甘いものが大好きだからな。男の娘でもそうなのだろう。
「ところで、どうして今回はリアを連れてこなかったんですか?」
そうだよね。王家としてはタニアにもリアにも会いたいだろう。
が、今回は仕方ないのです。一応言い訳は考えておいた。
「そこのセミアとレミを教育の為に連れてきたんですよ。夜霧の定員は5名なので」
「そうなのですか?あれ?リョウとタニア、キャリーとカラー、セミアとレミで6名ですが?」
「カラーはご存じの通りゴーレムなので、眠らないのですよ。なので夜は入り口付近で待機してもらっています」
「なるほど。でもリョウはカラーを人として扱っていると聞きますが?」
なかなか良く見ているな。流石王家の一員。
「見た目が完全に女性ですからね。ですが、意識も感情も理性もあり、思考出来るのですから人として扱うのは普通ではないでしょうか」
「そういう考え方もありますか。でも、寝る時は人としては扱わないのですね」
「クウィル様、それは私がご主人様にお願いしております。私はゴーレムですので眠りません。ですので、夜の番を請け負わせて頂いているのです」
「カラーが自分で買って出た...という事ですか?」
「はい」
「そうですか。確かに理性もあり、思考も出来るという事なのですね」
そこからしばらくはタニアと会話を楽しまれた。
うんうん。そのまま夕食が終わって欲しいものだ。
と、思っていたが無理だった。
「お父様から聞きましたけど、暴動を幻影で止めたとか?」
「いいえ。暴動を止めたのはタニアです。そこは間違えないで頂きたい」
「ですが、リョウがお父様の幻影を映し出し、お父様の声を皆に聞かせたと...」
「それは本当です。ですが、それはあくまでも陛下のご命令をすべての兵士に聞かせただけに過ぎません」
「と、いうと?」
「これも既に聞いておられると思いますが、タニアがエバンと一騎討をしており、その一騎討にタニアが勝利をしております」
「おい...一騎討だなんて...」
「タニア。あれは領主の座を賭けた一騎討だったんだ。エバンもそれを認めている」
「エバンが!?」
「あぁ、事実だ。エバンは戦いを求めていたんだ。それで暴動を起こしたんだが、止められてしまった。最初は自死を選んでいたが、タニアとの最後の戦いで華々しく散ったと考え直したんだろう。あとは知っての通りだ」
「そうか...私はエバンに認められたんだな」
「あれ?言ってなかったか?」
「聞いてないぞ」
そういえば、あの時はエバンが食事をするかどうかで気を揉んでいたからな。そういう話はしていない。
「すまん。あの時はクラスタンプ軍が迫っていたからな。そこを報告するのを忘れていたようだ」
「いや、良い。私もあの時はエバンが食事をしない事だけを気にしていたからな。お互い様だ」
クウィルお兄様はそこまでの話を少し驚いた顔で聞かれていたが、急ににっこりと笑って恐ろしい事を言われた。
「仲が良いわね、あなた達。リョウ、マークに殺されないようにしなさいよ?」
「あ~...はい...」
マークお兄様はタニアの血のつながった兄だったな。
確か、結構なシスコンだったような認識なんだが、この話からは重度のシスコンと認識を変更した。
「なんにしても、エバンの最後は私も見ておりましたが...見事でした。後の事は問題ない。と言っておりましたのはそういう事だったのでしょうね」
「...エバンが遺した資料を見ておりましたが、エバンは得難い領主であったと私は思います。とても、エバンのようには出来ません...」
「自信がないのですか?」
タニアの自信なさげな声を聴いたクウィルお兄様が、少し心配そうな顔で問いかける。
「正直に申し上げれば...自信は全くありません。ですが、リョウが...仲間が助けてくれます。次の領主が決まるまでにはキチンとした道筋を付ける事が出来るかと思っていますが、エバンのようには出来ないかと...」
「エバンの真似事ではなく、タニアの出来る事をすれば良いのではないですか?エバンは父親を見て領主をしていましたが、タニアは何も見ていないのですから、全く一緒の事をする必要はありません。それこそ、リョウに頼れば良いでしょう。性格はともかく、性質は良いでしょうから」
「リョウの性格に問題があるのですか?」
「王家を蔑ろにしている時点で問題ありでしょう。お爺様がとても困っていましたよ?ついでに言うとお父様もです」
私は現国王、前国王の悩みの種っすか...。
多少の自覚はあるけど、それこそ性格だから仕方がない。
しかし、本人を目の前に言わないで欲しいな。
「...問題ありなのに放置なんですね」
「それ、自分で聞くのですね...だからこそだとは思うのですが...」
と、私のツッコミに対して、クウィルお兄様は深いため息をつきながら非常に困った顔をされた。
う~ん...多少の自覚はあるが、そこまでとは思っていないんだよな。
そもそも、お爺様が悪い。うん、そう考えよう。
「リョウの言動は問題がありますが、それは王家に対してのみです。国営には問題ありません。逆に国営に関しては有益でもあります。だから放置なんです」
「いや、それは...」
「分かっています。タニアの為という事でしょう?ですが、それは国益に準じています。ゆえに不問にしているという事を自覚なさい」
「...承知しました...」
そこまではっきりと言われると反論のしようもないな。
「ごめんなさいね。本当はこういう話をするつもりでは無かったのですが、なんとなく、リョウが物事を軽く考えているように見えましたので...」
「いえ、ご忠告感謝しております。もう少し上手く立ち回るように致します」
苦言を言ってもらっている内が良い関係だからな。
「そうして下さると助かります。特に配下の者に対して配慮してもらうと助かります」
「あ~...こういう場でも配慮が必要でしょうか?」
おもわずルーヴを見る。が、ルーヴはニッコリと笑って返すだけだ。
う~ん...あの笑顔はどう判断したら良いんだろう?なんとなくだが、「私は別枠です」と言っているような気がする...。
「ここにはリョウの見知った顔だけでしょう?であれば大丈夫ですよ。公の場...謁見の場は当然ですが、王家との食事会や晩餐会など、不特定多数の場所では大人しくしていてください。そうですね、明日の晩餐会は見えなくなるぐらい大人しくしていただければ助かります」
「じゃあ、晩餐会は不参加で」
「却下」
「ダメです」
「許しません」
速攻で三つもダメだしを喰らってしまった。
順にタニア、ルーヴ、クウィル様だ。
「じょ...冗談ですよ。本気ではありません」
「嘘だな」
「嘘ですね」
「嘘をおっしゃい」
またダメだしを喰らった。
「私は信用がないのですね」
「これに関しては」
「目が泳いでます」
「顔に書いてます」
ダメだ~!!信用されてない~!!
その後、クラスタンプ軍撃退戦や、コープル村の追いだし作戦、その後の追撃戦を聞かれた。
撃退戦については既に詳細な報告を受けていたのであまり聞かれなかったが、追い出し作戦と追撃戦は私一人での作戦だったので、かなり執拗に聞かれた。
追い出し作戦は暴動阻止の応用、追撃戦は撃退戦の応用とだけしか言わないようにしたが、なかなか納得してはくれなかった。
まぁ確かにそうだろうな。
有難かったのは、話を振られたタニアも「実は私も詳しい事は聞いていないので、お兄様に説明出来ません」と答えてくれたし、同行していたカラーも「私は一緒に居ただけで、何も理解できていないのです」と言ってくれた。
セミアとレミは当事者ではあるが、その事はクウィル様はご存じなかったので、話を振られずに助かった。
あの娘たちも話もクウィル様の話は聞いていたが、黙っていてくれた。
おそらく、キャリーかカラーがフォローしてくれたんだろう。
なんとか、想定外に危険だった夕食会は終わり、クウィルお兄様は満足して部屋を出て行かれた。今はタニアたちと一緒に部屋で寛いでいる。
ルーヴとキャリー、セミアとレミは今夕食を食べている所だ。
お兄様が居なければ、みんなで一緒に食べていたんだが、侍女が主人と一緒に食事をするのは普通はありえないからな。
とりあえず、私とタニアは紅茶を楽しんでいた。
「明日の詳しい事は朝食の後に説明があるって事だけど、タニアは朝食はここで食べるか?」
「そうだな。お父様と食事をすると、色々と質問攻めされそうだから、こっちで食べるよ。キャリー、お願い出来るか?」
「承知しました」
と、そこでドアを叩く音がする。
一瞬、タニアと顔を見合わせたが、ここは王城。不審人物はいないはずだ。
そもそも、一番の不審人物は私だからな。
「どうぞ」
入室許可を出すと、女性の声で「失礼します」と声があり、黒ずくめの女性が入ってくる。
見るからに怪しい服装だが、纏っている雰囲気も怪しい。
「このような時間に失礼致します。私は隠密部隊「黒梟」所属、カリナ・カルートと申します。ニアラブ様のご命令でタニア様の直属となりました。よろしくお願いいたします」
そういや、お爺様が危険人物...もとい、有用な人物を斡旋してくださったんだった。
しかし...なんで女性なの?




