■■■ Step053 懐かしき場所での懐かしき出会い
砦内の強化は進んで行った。
抜け道に関しては出口の所を鍵をかけては入れないようにした。
鍵は特定の人物の指紋でしか開かないようになっているので安全だ。
その他の抜け道に関しては捜索中だ。
あと、コープル村の住民も戻った事で、エルセリアもいつもの平穏の日常を取り戻している。
砦には監視カメラを設置したのだが、魔力電力変換バッテリーは周りの魔力をどんどんと電力に変換していく。
バッテリーなので蓄電するが、電力は消費しなければならない。
そこで、余った電力を使って廊下にLED照明を取り付けた。
実際、かなり悩んだのだが、まだ抜け道が全て分った訳ではないし、防犯上の措置にもなる。
何よりも、タニアやリア、ミームたちを危険に遭わせるつもりはないからな。
なので、ここは信念を曲げてLED照明を設置した。
その結果、なんと抜け道を2つ発見したのだ。
LED照明を取り付けようとした所、偶然にも天井裏に空間を発見する事に成功した。
これで抜け道は8つ。あと2つ。
もっとも、実はそれ以上ある事も考えられるからな。注意は怠らないようにしよう。
さて、砦内は一旦これで良いだろう。
一度に全部出来る訳でもないしな。
実は今一番困っているのは人材だ。
今のメンバーの能力が足りない。という話ではない。
単純に人手が足りないのだ。
特に、会計関係と管理関係、タニアの直接の部下が居ない。
私は「副官」であるが、正直独立性が高く、タニアと一緒に動く事が少ない。
リアとミームがいるが、この二人は枠としては「妹」と「友人」なので、部下ではない。
シャインがいるが、こちらは現在は砦全体の統括をしているので難しい。
パストングは軍関係の最高責任者の立場だ。
エルセリア内で有望そうな人材を探すか?
だが、全くの他人はちょっと難しいだろう。
こういう組織編制の初期段階においては、知り合いを中心にある程度信頼のおける者たちを集めるのが良い。
だが、私はこの世界の人間ではないし、タニアもエルセリアの知人はいないという。
一応聞いたスバンくんは「隣人」であり、「知人」ではないそうだ。がんばれ~、スバンくん。
どうしようかと思っている所に首都から早馬がやって来た。
国王が改めてタニアの就任式を行うので、タニアと私に首都まで来るようにとの事だった。
「丁度いいとは言わないが、大きな問題が片付いた所だし、ちょっと行って来るか」
タニアは乗り気だな。
前回はあまり行きたそうにはしていなかったが、何か吹っ切れたのかも知れないな。
だが、正直私はあまりなぁ~...。
「ダメだぞ?今回もリョウは呼ばれているんだからな」
相当嫌そうな顔をしたんだろうな。
タニアが笑いながら私を注意する。
「はぁ...分ったよ。どうせタニアを電龍と夜霧に乗せて移動するんだ。私が行かなければならんだろうさ」
「じゃあ、今回もちょっとした旅行だね」
と、リアは嬉しそうだな。
しかし、そこにタニアが釘をさす。
「今回は私とリョウ、カラーとセミアとレミで行く。あと私の身の周りの世話でキャリーだな」
「え?私は?」
「留守番だ」
「なんで?」
リアが悲しそうな顔をする。
それを見たセミアとレミがおろおろしだした。ずっと構ってくれるから、リアにも懐いたのだ。
そういう意味では、タニアにもミームにも懐いた。パストングは慣れただけで、懐いた訳ではない。
やはり男性には一歩も二歩も距離を置いているんだ。私以外は。
「今回は呼ばれてないだろ?」
「カラーもセミアもレミも呼ばれてないわよ?」
「今はセミアとレミをリョウから離す事が出来ない。カラーはリョウから離れる事はない。そういう事だ」
「え?アタシもお姉様と離れたくないんだけど?」
「その気持ちは嬉しいが、数日離れてても問題はあるまい?セミアとレミは半日と離れる事が出来ないんだぞ?」
「あ~...そうよね。お姉様、ごめんなさい」
ちょっとしょんぼりしてしまったな。
う~ん。リアは思った事をいうのは個性だし、悪気があっての事じゃないんだよな。
「大丈夫だ。リアは説明をすればちゃんと分かってくれるので何も悪くはないさ。それに、リアが声を出してくれるおかげで、ちゃんと皆で確認出来ている」
それを聞いたリアはびっくりしたような顔で私の顔を見る。
「え?そうなの?我儘を言っても良いの?」
あ~我儘だと思っているのか。まぁそうかも知れないが...。
「確かにさっきのは我儘だったかも知れないけど、単純にリアの希望だったんだろ?希望を言う事は悪い事じゃないよ。ただ、それを無理にでも押し通そうとすると、それは我儘になっちゃう。でも、リアはちゃんと理由が分かれば大丈夫だし、さっきも言ったけど、リアが言ってくれた事で皆が『そういう事だったんだ』って分かるから、逆に助かっていると思うぞ」
「本当?そうなの?ねぇ、お姉様もそう思う?」
「あぁ。そもそも私も出来ればリアと一緒に旅をしたいと思っているが、今回は単純に顔出しをするだけだからな。それに夜霧のベッドは少ない。もし、本格的に旅をするなら、ちゃんとした馬車も必要だろうな」
「そうだな。それが良いんじゃないか?正直、かなり人数も増えてしまったからな」
そうだよな。皆と気楽に旅が出来るように、今はもうちょっと頑張るか。
リアには以前にスマートフォンを渡していたんだが、今回の件でミームとパストング、シャインにもスマートフォンを渡しておいた。
まとめて使い方を説明したのだが、全てをちゃんと把握出来たのはシャインだけだった。
他のメンバーは通話機能までだ。いや、それでも大したものなんだけどな。
ともかく、連絡に関しての問題が無くなったので、気兼ねなく首都まで行く事にしよう。
早馬の翌日の朝、電龍に夜霧を牽かせて移動を始める。
いつものように電龍の運転は私が行い、いつものようにタニアが後ろに座る。
側車にはなぜかキャリーが座っている。
カラーとセミアとレミは夜霧に乗っており、説明を受けているようだ。
まずはトモニアに向けて移動だ。通れる橋はあそこだけだからな。
ついでに暴動時に食料を手配してくれた村長に御礼を言うのと、領主交代の挨拶をしようという事になっている。
夜霧を牽いているのであまり速度は出せないんだが、普通に走れば昼過ぎには到着出来るだろう。
この道は、この世界に来て最初に冒険に向かった道でもある。
競争した場所、休憩した場所、ロケットを打ち上げた場所、そしてコボルド討伐の為に向かったトモニア村。
そのトモニア村に到着し、早速村長の家に向かったのだ。
村の真ん中にある村長の家は、当然ながら以前と同じ佇まいだった。
村長宅の前に電龍と夜霧を止め、中に入って村長に挨拶をした。
「先日、騎士様からはあらかた聞いておりましたが、本当だったんですね」
「そうだ。そして私が新領主のタニア・ソフリートだ。よろしくな」
「はい。改めましてよろしくお願いしますね。あれから洞窟の方は静かですし、サイクロプスも出てきておりませんので、大変助かっております」
本当につい最近の話なんだよな、それって。
「それは良かった。また何かあれば連絡をしてくれ」
「承知いたしました」
「それから、先日は食料を融通してくれて助かった。礼を言う」
「いえいえ。きちんと料金を頂いておりますので、大丈夫ですよ」
そうなのだ。国王から貰った金貨から10枚ほどをトモニアの村長に渡してもらうようにしたのだ。日本円にして約100万円だ。
こういう急な事に関しては、きちんと対価を支払うのが良いと判断したのだが、結果として良かったようだ。
もう少しだけ村長と会話をして、村の食堂で軽く食事をしてから首都に向けて移動を開始した。
トモニア村から北に向かい、チェーベン川にかかる、あの石橋を渡り、カラーと出会った場所に差し掛かる。
「ここで盗賊たちと闘ったんだったな」
「そうだったな。なんか懐かしい気がするな」
さっきのトモニアもそうだったが、一か月も経っていないのに、やけに懐かしい感じがあるな。
ていうか、こっちの世界での出来事ってかなり濃密なんじゃないのか?
タニアに会って、リアに会って、ミームに会って、トモニア村でのコボルド退治とサイクロプス退治。
その次はタニアを連れて大阪に帰って、ユリと輝と葵に会ってもらって、智代おばちゃんが暴走したんだよな。うん。あれはカオスだったな。
で、王様に呼ばれたので首都に行く途中でカラーに会ったのか。
その後、首都でロイヤルファミリーに会ったんだよな。
謁見の間って本当にすごかったのを今でも覚えている。
夕食の前にお爺様に会ったんだけど、これが本当に曲者で...。
でも、お爺様と対峙してなかったら、エバンとの対峙も難しかったかもな。
そういう意味ではお爺様には感謝...あまり出来ないな。
その夕食の最中にエバンの暴動の話があって、その日の内にエルセリアに戻って、翌日暴動を止めたのか...。
いや、すげーな。この流れ。
サイクロプス退治ってかなり大変だったはずなんだけど、それが霞むな。
「そろそろ一泊する場所を決めて、早めに食事の用意をしたいんだが、構わないか?」
「構わないぞ。また狼が集まってきそうではあるがな」
「そうでした...すっかり忘れてたな。どうしよう?」
「集まっても大丈夫なんだろう?あの時も結局は何もなかったしな。ひょっとしたら、同じ狼が集まるかもだぞ?」
「どうだろうな...じゃあ、また同じ場所で一泊するか」
「いいんじゃないか?」
カラーと合流した後、一泊する為に夜霧に一泊したんだが、魔力電力変換バッテリーの機能上、魔力を集めるという弊害で狼...いや魔狼だったな。魔狼が集まっちゃったのだ。
ただ、結果として問題なく、翌朝には魔狼も大人しく解散してくれた。しかもお辞儀をしてくれたというおまけ付き。
と、そんな話をキャリーとセミアとレミにしていたら目的地に到着した。
また魔狼が集まるかどうかの確認もあるので、夜霧の魔力電力変換バッテリーを稼働させておく。
まだまだ明るいので、そんな気配はないのだが。
そして、夜食は夜霧の外でのバーベキューにした。個人的にキャンプらしい事をしてみたかったのだ。
車体の下の倉庫からバーベキューセットを出し、炭を出す。
炭に着火する為に細かい木片を敷き、その上に炭を並べる。
食材は切るだけなので簡単だ。
あとは、焼き肉のソースと、食器とフォークとコップを用意すれば完了だ。
「こんな食事方法があるんですね。びっくりしました」
セミアが肉を頬張りながら嬉しそうにしている。
レミは肉が焼けるのをじっと待っている。しっかり焼けた肉が好きなのかな?
「すごいですよね。それに楽しくてとっても嬉しいです」
嬉しいという感覚はちょっと分からないが、キャリーも食材を切りながら、焼きながら、食べながらで大活躍だ。
「私も色んな食事風景を見てきましたが、こういうのは初めてです」
食事をしないカラーだが、興味があるのかバーベキューの風景を楽しんでいる。
そして、いつものように「これは何ですか?」と聞きまくってくる。
タニアも自分で肉を焼いているようだ。
トングを渡しているので、肉をひっくり返すのは問題ないはずなのだが、手つきが少々おぼつかないように見える。
どうしたんだろうな?
「どうした、タニア。何か困っているのか?」
「あ、リョウ...ちょっと、肉をこんな風に焼くのが初めてで、どれぐらい焼けば良いか分からないんだ」
あ、そういう事ね。
「それは確かに難しいかもな。基本的には両面にちゃんと焼き色が付けば大丈夫だ。ただ、好みによっては少しだけ赤いのが良い人もいるし、レミのようにしっかりと焼きたいという人もいる。そこら辺は好みかな?」
「そうなのか...私はどれぐらい焼けば良いかな?」
「そうだな...ちょっと肉を見せてもらうぞ?」
と言いながら、タニアの手からトングを借り受ける。
タニアの目の前の肉をひっくり返しながら、十分食べれそうなものを三種類取り分けてやる。
「これが普通の焼き加減だ。ま、普通って奴だな。で、これがちょっと赤いけど、火は通っているので大丈夫な奴だ。ほら、こうやって見ると生ではないのが分かるだろう?」
と、言ってタニアに見えやすいようにしてやる。
「なるほど。生という訳ではなく、すこしだけ焼けている状態なのだな」
「そういう事。で、これがしっかり焼いたって奴だな。これ以上は焦げてしまうから、気を付けないとダメだ」
「確かに少し硬そうだな」
「だろう?なので、まずは三種類用意したから、それぞれを食べてみて、自分が一番おいしいと思ったものを食べるようにすれば良いぞ」
「確かにそうだな。ありがとう、リョウ!」
急にこちらに向き直り、嬉しそうな笑顔を振りまいた。
うん。なんか久しぶりだな、タニアのこの笑顔は。
「どういたしまして。あ、それからちゃんと野菜も食べろよ?こういう風に食べると何でも美味しいからな」
「あぁ大丈夫だ。どちらかと言うとリアに言ってやってくれ。今でも時々野菜を残しているらしいからな」
「そうなのか?でも、リアの食べ残しは見た事がないぞ?」
「それは当たり前だ。残ったものは全てミームが食べてしまうからな」
「そっちかい!!」
私とタニアは笑いながら、肉を焼き、野菜を食べ、ワインを飲んだ。
タニアと一緒に食事を心から楽しんだのは、これが最初なのかもな。
さて、そこそこバーベキューを楽しみ、そろそろ片付けようかと思った時、夜霧のスピーカーからアリスが声をかけてきた。
「以前と同じ個体の魔狼が、複数の魔狼を連れてこちらに向かって来ております」
は?同じ個体?あのでっかい魔狼か?
前回は何もなかったが、対応しないとダメだよな。
『アリス、機関銃用意。赤燕スタンバイ』
とっさに日本語でアリスに指示を出す。
夜霧の天井から2つの機関銃が起動し、魔狼が来る方向に銃身を向ける。
赤燕は電源が入ったようで、低い音が聞こえてくる。
よし、準備は出来たようだな。
おっと、その前に聞いておかなきゃならない事があるな。
今度はこちらの言語で問い合わせる。
「アリス、その狼さんたちは、どれぐらいでこっちに到着するんだ?」
「およそ1時間」
あら。意外とゆっくりなんだな。
「分かった。ありがとう。何か変わった事があればすぐに教えてくれ」
「承知しました」
ここまでの会話を聞いたキャリーとセミアとレミは片付けようとしていた動作が止まっている。ま、当然だな。
タニアはまだのんびりとワインを飲んでいるな。魔狼が来ているって聞いているだろうに...。
「どういたしますか?」
カラーが対応を聞いてきた。
う~ん...バーベキューセットは洗って乾かさなきゃならないし、これは外でないと洗えないしな。
それ以外の器やコップは夜霧のシンクで洗う事が出来る。
とりあえず、キャリーに余った肉以外の食材と、食器類を夜霧に入れるように指示。
セミアとレミには夜霧に戻ってキャリーの手伝いをするように指示をした。
タニアにはワインを飲み終わったら夜霧に入るように言っておいた。
ま、こっちは大丈夫だろう。
さて、私とカラーはバーベキューセットを洗おうか。
夜霧の背後に設置した水道から水を出し、ざっと洗う。
乾かす必要があるので、夜霧に立てかける。朝までにほぼ乾くだろう。多少水気が残っていても、倉庫の中は換気しているので問題はない。
炭は炭入れに入れ、水をかける。しっかりと水に浸けたので、蓋をして同じようにここに置いておく。後日しっかりと乾燥させて再利用しよう。
ここまで作業をした時点で遠吠えを聞いた。
どうやら、新たなお客さんが来たようだな。
「って、本当に以前来た奴じゃねぇか...」
待つ事約10分。大きな魔狼が数十頭の魔狼を引き連れて登場した。
いやぁ~壮観だな。
そして先頭を歩くひと際大きな魔狼。
魔狼の見分け方なんか分からないはずなのに、コイツはなぜか分った。前回も来た奴だ。
電龍と夜霧を約30m離れて取り囲んだ魔狼たち。
さっき一声吠えたのは、おそらく挨拶のつもりなんだろう。
で、そのひと際大きな魔狼がゆっくりと近づき、約10m手前で立ち止まり、座り込む。
何も言わない。が、挨拶をしているようにも見える。
「ようこそ。また会ったな。しかし、何しに来たんだ?って言っても答えられないだろうし、こっちが何を言っても分からないだろうな」
言葉が伝わらない事を前提にしながら、目の前に座る魔狼に向かって語り掛ける。
魔狼も大人しく、黙って耳を傾けてくれているようだ。
「ともかく、また会ったんだ。お前たちと親交を深めるつもりはあまりないんだが、これも縁だと思うよ。で、これは今日の食事で余った肉だ。大した量じゃないが、子どもに食わせてやってくれ」
理解したのか、少し大げさに頷く。
こいつ、本当に面白い奴だな。
「お前、俺たちをちゃんと認識してるよな。私もお前をちゃんと認識出来る。お前だけだが、ちゃんと前に来た奴だと分かるよ」
うぉっ
魔狼が小さく吠えた。
どうやら、「俺も分かる」って言っているようだ。あくまでも、私の勝手な主観だがな。
「そうか。悪いが俺たちはこれに戻って休むよ。お前たちは騒がない限り好きにしてくれ」
今度は大きく頷いた。
ちょっと嬉しくなってきたな。
「私は『リョウ』という名前だ。お前には名前は無いだろうけど、今から『ロボ』って呼ばせてもらうよ。お前の名前は『ロボ』にする」
ちょっと...いや、かなり強引だけど、この魔狼に『ロボ』と名前を付けた。
当然、あの動物記の狼王の名前だ。
瞬間、魔狼...ロボの目が光る。
すっと上を向き、大きくない声で「うぅぅぉぉぉー」と吠えた。
そして、また私を見る。
その目には知性があるように見えた。
ま、私がそうであって欲しいの願っているだけなのかもな。
「喜んでくれたようだな。じゃあロボ。おやすみ」
そういって、カラーを伴って夜霧に入る。
ロボは夜霧の扉が閉まるまで、そこに静かに座っていた。
夜霧に戻るとセミアとレミが慌てて近寄って来た。
「お兄様!大丈夫なんですか!?」
「あんな大きな狼が目の前にいるのって怖いです!」
まぁこの二人は当然だな。
「それにしても狼まで従えちゃうんですね」
とはキャリーだ。
「待て。私は狼を従えている訳ではないぞ?」
「でも大人しくしてますよね?」
「大人しくしているけど、それはお互いを尊重しているだけ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。そもそも従えているんだったら、エルセリアまで付いてくるぞ?それでも良いのか?」
「それはダメです!!」
「だろう?だから、従えていると思うな。彼らは彼らの世界で生きているんだ。お互いが敵対しない限りは何もしない」
「でも、さっきお肉をあげてましたよね?」
「可愛い子狼が居るからな。お子様にだけ贈り物をしただけだ。アリス、肉はどうなっている?」
「子狼が食べています。映像を出しますか?」
「出して見てくれ」
するとディスプレイにすぐ外の様子が映し出される。
そこには、子狼が10匹ほどの肉をハムハムしている。
「か...可愛い...」
タニアがディスプレイを見て、頬を赤くして見つめる。
いや、さっきからワインを飲んでいたから、それで赤いのか。
ちなみに、キャリーもセミアもレミも、同じようにディスプレイを見ている。
まぁ、確かに可愛いな。
あ、そう言えば...。
「アリス、ひょっとしてコボルドとかゴブリンとかも集まってきてる感じか?」
「はい。ここから2kmほど離れた所からこちらに近づいてきています。魔狼たちも気が付いてます」
「あ、そうなんだ。魔狼がコボルドとかに向かって行くようなら監視しておいて。問題がない限り報告は要らないから」
どうやら、本当に魔力に集まってくるようだな。
それも、小型の魔物だけのようだ。
いや、魔狼は中型かも知れないな。
ともかく、今回も問題はなさそうなので、一旦放置でいいだろう。
ふとタニアを見ると、目がトロンとしているな。
ひょっとしてワインに酔ったか?あれ?こんなにもアルコールに弱かったっけ?
まぁ、砦の中だと緊張することばかりだからな。
呑んでも酔えなかったのかも知れないな。
「タニア、お風呂の用意が出来ているから、先に入って寝たら?」
「ん?もうそんな時間か?」
「いや?そんな時間ではないけど、明日も早いからな。早めに寝た方がいいかも?」
「あ~...そうだな...じゃあ、先に入らせてもらうよ」
「それが良いな。キャリー、タニアと一緒に入ってあげて。君は今回はタニアの侍女だろう?」
「構いませんが、リョウ様が一緒に入ってあげた方が良いのではありませんか?」
「ななな...何を言ってるんだ?」
「ん~...リョウ、一緒に入りたいのか?」
と服の裾を掴み、脱ごうとし始めたのだ!
をい、ストップ!!
慌ててタニアの手を抑えて阻止する。
酔っている為か、体温が高いぞ?
「いやいやいや!大丈夫!キャリーと一緒に入ってね」
「ん~...わかった」
すこしスローな動作で浴室に入って行ってくれた。
「良かったんですか?今なら問題なく一緒にお風呂に入れますよ?」
「君は何を言ってるんだい?キャリー...そうなると、君も一緒って事になるよ?」
「私は構いませんよ?リョ・ウ・さ・ま」
「...早くタニアを追って。あの調子だと危ないから」
「は~い」
ふぅ~...もう、キャリーは悪戯好きで本当に困る。まぁちょっと懐かしい感覚ではあるんだけどな。
「あの...お兄様...」
と、セミアが顔を真っ赤にして私を見上げる。
あ~...さっきの話は色々とまずかったかも?
「一緒にお風呂...入りたいんですか?だったら、私たちと一緒に入りませんか?」
はい?
「うん。お兄様。一緒」
え?
「良かったですね、ご主人様。文字通り両手に華で...」
いや!いや!いや!いや!
カラーさん、表情が薄いままに寄ってくるのは止めてもらっていいですか?
「ちょっと待て!そもそも私は一人で入りたいんだ!タニアの後は君たちが入ってくれ!!」
かなり焦り気味に言うと、夜霧の前方に設置された端末に向かう。
ここはこれ以上会話をするのは危険だ。
タニアやキャリーは正直私をからかっているのが分かっている。
本気で一緒にとは思っていないだろう。だから適当に、もしくは強引に切り抜ける事が出来る。
だが、セミアとレミは元々奴隷であり、あの日やっとの想いで救出した少女たちだ。
タニアやカラーから色々聞いたが、二人とも常識がかなり抜けているし、そもそも精神的な年齢がかなり低い。
セミアは12歳程度でレミが8歳程度なのだ。
なので、「一緒にお風呂」は半分は本気と思われる。
そして私がそれを明確に拒否すると、また泣かれてしまうかもしれない。
なので、ここは私が我儘を言っているという雰囲気を出すのが逃げの一手に繋がるのだ。
「そうなんですね。じゃあセミアとレミは私と一緒にお風呂に入りましょうか」
「わかりました。カラーお姉様」
「わかりました」
「だったらお風呂の準備をしましょう。部屋に行きましょうか」
二人から「カラーお姉様」と呼ばれるカラー。
本来の年齢はとっくにお姉様を飛び越えている...あ、めっちゃ睨まれた...うんうん、カラーは素敵なお姉様だよね~...あ、笑顔になった。
と...ともかく、危機は脱したようだ。
私が最後にお風呂に入り、簡単に掃除をしてから出てきた。
まだ眠る時間ではないので、お湯を沸かしてホットウィスキーを作ってゆっくり呑む。
本当は熱燗が良いのだが、前回首都に行った際に全部お爺様にとられちゃったのだ。
仕方がないので、買い置きしていたウィスキーを開けているのだ。
「ご主人様、皆寝ました」
「あ、そうなんだ。よかった」
タニアは酔っていたし、キャリーは寝つきはかなり良い。セミアとレミはまだまだお子様だ。
カラーはゴーレムなので寝る事はない。
なので、よく寝る前に会話をしていたりするのだ。
「で、今日は何か面白い事はあったのか?」
「はい。つい先ほど、ご主人様が非常に焦った姿を拝見しました」
「お前...リアと同じ事しなくても良いんだぞ?」
そんな何でもない会話を楽しみつつ、一日を終わる。
以前、ここを通った時は余裕がなかったけど、今は余裕をもって通る事が出来る。
やっぱり平和が一番だな。




