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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第1章 異世界は光の向こう側
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■■■ Step007 夕食前のマッドな打ち合わせ

ギルドでの確認が終わって、討伐依頼の準備に入ります。

了がどういう準備をするか、楽しみにしてください。


次回は2026年3月21日(土)15:00 にStep008を投稿予定です。

リアの後ろ姿は見えなくなった頃、タニアは私を促し歩き始めた。

記憶の通りであれば、タニアの屋敷に向かっているはずだ。

2人並んでゆっくりと歩いていると、おもむろにタニアが声をかけてくる。


「さて、リョウはどうする?」

「どうするも何も、サイクロプス討伐に参加するんだろう?だとすると、私も荷物がこれだけでは心もとないので一旦戻りたいのだが...」

「まぁ、そうだろうな。では、リョウも我が家に泊まると良い」


なんでそうなるねん!?


「え?いや...さすがにそれはまずくないか?」


口には出さないが、初対面の女性の家に泊まるのはいかがなものか?


「なぜだ?まずいという意味では、リョウが出発に間に合わないというのが一番まずいと思うのだが?我が家には客間がいくつもあるので、泊まってもらう事には全く問題はないぞ?」


なるほど。ちょっと考えてみて、日本のような考え方ではないと思わされた。

この世界の人たちは、あくまでも「最適解」を求めて、そこを目指すのだろう。

それに、女性宅には間違いはないが、おそらくご両親もいるだろうし、泊まり込みのメイドさんとかもいるし、リアも居る。


と、思考している間に屋敷に到着したようだ。

さっきと同じ裏口から屋敷に入る。


そういや、このお屋敷もかなり大きいから、部屋は沢山あるだろしな。

ただ、問題があるんだよな。


「あぁ~...まぁ、そうだな。間に合わないと困るか...だが、私も色々と準備はしたい。こちらに来るのは夕方でも良いか?」

「それは構わないが、あまり遅いと対応に困るのでな。夕食に間に合うぐらいには来てもらいたいな」


では18時ぐらいで...と言おうとしたが、この世界には「時計」が無い事に気が付く。

一瞬どうするか考えてから、懐に手を入れてある物を取り出す。「懐中時計」だ。

この懐中時計は私の開発したもので、頑丈で簡単には止まらない。誤差もほぼ無い超優れものなのだ。


時計が示す現在時刻は「13時17分」。今朝は9時から実験を開始していたので、4時間ちょっとはずっと実験やら探検やらで動いている事になるな。


いや、それはともかくだ。

私は手に取った懐中時計をタニアに見せる。


「これは私の世界で使われる『時計』というものだ。私たちはこれで『時間』というものを確認している」

「時間を...確認?」


時間という概念はあるようだが、24時間制のような規格はないようだな。

きっと、日の出前とか、朝昼晩、夕方、夜中とか、そういう区分けだろう。


「そうだ。雑に言うと、1日を24に区切って『時』と呼ぶ。短い棒がそれを示す。これは一周で12を区切るので、二周で1日だ。さらに時を60に区切って『分』、長い棒がそれだ。チコチコ動くのは『秒』...まあ今はいい」


「なるほど...時間が分かるのか...なかなか便利だな。そして興味深い...」


雑と言いながら結構詳細に説明してしまったが、タニアは理解が早くて助かる。


「詳しい説明はまたゆっくりとしてやろう。ともかく、これを渡しておく。この短い棒が真下に来るぐらいに、こちらに来るようにしようと思っている。おそらくだが、その時間がこちらの世界の夕食前に十分間に合うと思うのだが...」

「分かった。何事も試して体験しなければ分からないし、この『時計』というものについてはリョウの言う通りにするしかないので任せよう」

「すまないな。私もこの世界については何も知らないので、そう言ってもらえると助かる」

「なに、お互い様だ」


そんな話をしている内に、タニアの屋敷に到着した。

すぐに納屋に入ってみると、まだちゃんと転移ゲートは開いており、向こう側に私の研究部屋が見えている。


「この納屋は私の研究施設の一部でな、私以外は誰も入ってこない。なので、この納屋に出入りするにはリョウが私の助手であるというのが一番都合が良いのだ」


なるほど。そういう意味もあるのか。


「で。こちらに来た後はどうしたら良い?」

「先ほど教えてもらった時間に私もここに来るようにしよう。もし、私が居ない場合は、すまないがここで待っておいて欲しい」

「承知した。では、また後で」

「待っているぞ」


その声を聴きながら、私は自分の世界に戻った。



さて、戻ってきてまず行ったのが現在時刻の確認だ。

相対性理論とか、そういうものが適用されるような現象ではなく、全く違う世界に飛び込んで帰ってきたのだ。

日本には「浦島太郎」のような昔話もあるので、実はそこが非常に気にはなっていたのだ。

タニアに渡した懐中時計と同じものを持ち歩いていた。その時間を研究所の原子時計と突き合わせると全く同じ時間を示していた。


次に日付の確認をすると、異世界に飛び込んだ日付のままになっている。

と、いう事は、異世界の時間経過とこの世界の時間経過は全く同じという事が判明した。一安心。

これで、タニアとの約束の時間に違わずに行けるという事になる。私が遅刻しなければだが。


次に確認したのが実験機器の確認。


一度戻ってきた際に簡単に確認したが、その時の状態のままである事が確認できた。

機器は正常に稼働しており、今もなおタニアの納屋に転移ゲートが出現したままだ。


転移ゲートが発現する条件、その発現場所への特定条件、タニアの世界以外への転移ゲートが発現するのかの検証。

次に今の機器に何か問題が発生した場合、再度構築できるように状況の記録をする事。

そして、私が向こうの世界に行った後に機器が停止してしまっても大丈夫なように、あちらの世界からも転移ゲートを開けるようにする事。


やらなければならない事が次々と頭に浮かんでくる。しかし、18時までにそれらを対応する事は無理な話だ。


まずは現状維持の為の措置を考えよう。


自家発電装置をスタンバイモードで起動させておき、万が一停電しても大丈夫なようにしておく。

無停電電源も十分電力を確保している。

これで、現状維持については問題ないだろう。


今回の討伐については、行きと帰りでそれぞれ1日、現地の調査と討伐の対応でおそらく3日から7日程度。まぁ10日間ぐらいだろう。

自家発電装置は継続稼働時間は約1か月。十分だろう。


とにかく、今から出来る事は限られているので、効率よく進めよう。


コボルドとサイクロプスの討伐。

う~ん...わくわくするな!!



さて、約束の18時にあと15分といった所か。

準備が出来たので、転移ゲートをくぐると、そこにはすでにタニアが待っていた。


「やぁ、言われていた時間よりも早かったな」


言外に「早く来たかったのだろう?」と言っているようだな。

だが、タニアがこう言う事を予想していた私は、全く悪びれずに言い返す。


「やぁ、私は約束と時間は守る主義なのでな」


わずかな沈黙の後、私とタニアは同時に声に出して笑う。

こういうやりとりは楽しいものだな。これだけでタニアとは上手くやっていけそうな気がする。


「では、我が家に改めて案内しよう。わが友よ」


タニアはそう言って納屋の出入り口を示す。


「あぁ、よろしく。わが友よ」


最初に友誼を交わしたように、我々は握手をしたのだった。


「そっちの世界では夕食はまだなんだろ?」

「あぁ、こちらに来る為の準備で忙しかったのでな」


あれから研究所内を駆け回り、必要と思われるものをかき集め、スーツケースに詰め込んだのだ。

さらに、今回は遠距離移動もあるという事なので、自分の移動手段も用意したのだ。

ただ、問題はこのゲートを通れるのか?というものだが、実際に試してみた結果、全く問題はなかった。

これで私の移動や攻撃力に関しては問題がなくなった。


と、そんな事を考えていたが、タニアは当然知ることはない。


「ちょうど良い。夕食までにはまだ少し時間がかかるが美味しいものを用意するように言ってあるので楽しみにしてくれ」


嬉しい事を言ってくれる。

個人的にはあの紅茶がお気に入りなのだがな。


「あと、今日はリョウとミームともう1人客が来ているのでな、にぎやかな食事になるだろう」


もう1人の客か...それはちょっとだけ困ったな。


「あぁ~...それは大変ありがたい話なのだがな...」

「なんだ?何か食べれないものでもあるのか?」

「いや、そうではなく、私はこちらのテーブルマナーなどは全く分からないのだ」

「あぁ...なるほど、それはちょっと迂闊だったな」


まぁ貴族であれば必ずマナーは躾けられるであろう。そして、タニアにとってもそれは日常の一部なのだ。気が付かなくて当然である。

私も普通一般にはテーブルマナーは身に付けてはいるが、それがこちらの世界で通用するかは全くの不明なのだ。


「普通には行儀よくは出来ると思うが、こちらでは何が普通なのか分からなくてな...」

「確かにな。しかし、私たちはそれほどマナーにはうるさくない」

「それなら助かる...かな。どうしてもダメそうなものはちゃんと言ってくれ。で、今後の事をちょっと考えていたのだが...」


と、私の事をこちらの世界での『身分設定』を説明したのだ。


具体的には、

一つ、遠い東の国の者である

一つ、貴族ではあるが、若いうちに家を飛び出した

一つ、魔法については、道中で魔法使いに師事し、覚えた後は独学で研鑽している

一つ、この国には今日訪れて、タニアとは屋敷の裏口の所でたまたま硬貨を落とした所から出会った

一つ、たまたま魔法の話になり、お互いに研鑽しあえそうなので、友誼を交わした


「なるほどな。よく考えたものだ」

「違和感はないか?」

「大丈夫だ。そもそも遠い東の国っていうのは誰も知らない場所だからな。丁度いい」


日本ではありきたりの言い訳だが、ここでも問題ないようだ。良かった。


「まぁ、それはともかくだ。今回のサイクロプス討伐の件で私が開発した色々な武器を試してみたくてな。色々用意したんだ」


と言いながら、一旦ゲートをくぐり自分の世界に戻り、そして、それをゲートを通してこちらに持ってきたのだ。


「これはなんだ?」


持ち込んだものを見て、タニアは非常に驚いた顔になった。

前輪二輪、後方に大型トランクを左右に設置された、白とライトブルーの一般のバイクよりも前後に長い車体。


「これはバイクというものだ」

「...まさか魔工なのか?」


タニアの知識ではそれしか無いものな。しかし...


「違う。これは科学の産物だ」

「見たところ...乗り物に見えるのだが?」


よく分かったな。

そういう思考結果で乗り物と判断したのか、とても気になるが、今は後回しだな。


「その通り、乗り物だ」

「変わった乗り物だが...馬に引かせるにはかなり小さいぞ?」


なるほど。人間が乗るとは思えたが、自走するとは思わなかったようだ。


「これは馬に引かせなくても動く乗り物だ。で、逆に馬の代わりをさせようと思ってな。そうすれば歩くよりも時間短縮にもなる」

「これが...馬の代わりになるのか?」


馬と言う生き物と比べたら小さいから半信半疑なんだろうな。


「実は...本当に代わりになるかは分からなくてな。ちょっと試してみたいと思ったのだが?」

「ふむ...しかし、我が家には馬車はないのだ。馬は2頭いるのだがな...私とリアのものだが」


この規模の屋敷なら、馬車ぐらいはあるかと思っていたのだが、当てが外れたな。


「そうなのか?えっと...依頼を受けたのは私を含めて4人だよな。なら、このバイクに誰かを1人乗せて2人乗りで行こうか。そうすれば格段に速く目的地に到着できるぞ」

「良いのか!?」


と急に近づいてくる。

キャラが変わってるぞ!?


「うぉ!!っと...ちょっと近いぞ!」

「なんだ?恥ずかしいのか?」


と言いつつタニアも若干赤い。

私の指摘で気が付いたようだ。


「普通の男性は女性に迫られるとそうなるんだよ」

「そうなのか?覚えておこう。それよりも、これに乗るのは難しいのか?」


タニアはどうしてもバイクに乗りたいらしい。

別に構わない。のだが、問題は...


「後ろに乗るだけなら難しくはないが...」

「よし!わかった!リョウのバイクとやらには私が乗せてもらおう。で、私の馬にはミームが乗れば良い」

「ミームは馬に乗れるのか?」

「リアと依頼を受けて遠くに行く時は、今までもよく私の馬を貸していたぞ?」

「あ、そうなのね」

「そうとなれば厩に話をしておかねばな。ちょっとついてこい」


言うが早いか納屋を飛び出し、私を連れて厩に直行した。

それほど大きくもない建物に、2頭の馬が繋がれていた。

どちらも綺麗で艶のある毛並みをしており、大きな黒い目が、暗くなり始めた夕日に照らされて優しそうに輝いていた。


「キナーフは居るか!?」


かなりの大声でタニアは誰かを呼んだ。

すぐには返事はなかったが、さすがにあの大声は聞こえたのだろう。奥の方から「ハイハイ...ちょっとお待ちを...」という声がかすかに聞こえてくる。

ゆっくりした足音がこっちに向かってくるのを聞きながら待っていると、60歳過ぎと思われる小太りの老人が現れた。

おそらくこの人がキナーフさんだろう。


「タニアお嬢様、この老いぼれに何か御用ですかな?」

「あぁ、急で申し訳ないが、明日の討伐依頼にイスリーとマールスを連れて行く事にした」


「イスリー」と「マールス」というのは馬の名前だろう。


「さようでございますか」

「で、この子たちの体調とかで問題があるかどうかを聞きに来たのだ」

「そういう事ですか。大丈夫ですよ。リアお嬢様たちはこの子たちには道中で無茶な事はさせておられないようで、逆にちょっと太って帰ってきたぐらいですよ」


忠誠心もユーモアもある老人だな。


「そうか。では明日はちょっと運動もさせた方が良いという事だな」

「『ちょっと』よりも普通に運動させていただきたいぐらいですね。もっとも無茶はいけませんぞ?」


なぜかタニアの意地悪笑いに似た顔をしたキナーフ老人。見るとタニアも同じ顔をしていた。どっちがどっちに似たのだろうか...。


「わかった。では、明日早朝には出るつもりなので、そのように頼む」

「わかりました。が...差し出がましいようで申し訳ございませんが...そちらの方は?」


タニアの斜め後ろで大人しく立っていただけなのだが、やはり気になるのだろう。私を見ながら問いかけてきた。


「あぁ。これは私の友人のリョウ・カダヤだ。明日の討伐依頼を手伝ってくれるという事でな、今夜は我が家に泊まってもらう事にしたのだ」

「あぁ~っと...タニアお嬢様のご友人様で...?」


見るからに胡散臭そうな顔をするキナーフ老人。うん、なんとなくその気持ちが分かる。私もそう思うからな。


「不思議そうな顔をするな...そういう顔になるのも分からなくもないが...」


分かってたのね...。

そりゃまぁ、そうか。

しかし、さすが貴族の娘なんだな。


「ほほ...ご自覚はお有りのようですな」


と、とても柔らかい笑顔を見せる。その表情はとても主従関係だけのものでは無さそうだ。

反対にタニアは夕日を浴びて赤い所にさらに赤を帯びていた。


「...まぁそういう事でしたら、屋敷の者たちにも話をして...あ、お昼前のお客様はひょっとして...」

「あ...あぁ、そうだ。その時の客がリョウだ」

「そうだったのですね...委細承知いたしました。では、明日の朝までにはこの子たちの準備を済ませておきます」

「あぁ、よろしく頼む」


タニアがその場を離れるので、私はキナーフに黙礼をしてタニアについていく。

この世界の貴族は、本当は使用人に黙礼などはしないのだと思うが、どうしても日本人として挨拶をする習慣が抜けない。

まぁ、異国の者だから仕方ないとでも思ってもらおう。


「さて、夕食の時間が迫っているから食堂に行くとしようか。我が家の腹ぺこ小娘達がテーブルで暴れているかもしれないからな」

「腹ぺこ小娘達って...リアとミームの事か?」

「そうだ。今日は本当に賑やかな食事になりそうだ」


と、タニアは嬉しそうに微笑む。こういう顔を見ると19歳という年相応の顔に見えるな。うむ。普通に可愛い。

そう言って歩き出すタニアの背を追うと、屋敷の奥から湯気の匂いと食器の触れ合う音が流れてきた。


お腹が鳴らないように気を付けなければな...。

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