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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第5章 エルセリアの新たな始まりはマッド風味
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■■■ Step049 マッドサイエンティストは新たな仲間を得た

結局一睡もしていないが、眠る気分になれず、そのままエルセリアに戻る事にした。


エルセリアの住人はもう電龍を見慣れたようで、パレード状態にはもうならない。

何気に安心するが、ちょっと寂しいな。


そんな事を考えていると砦に到着していた。

パレード状態にならないので、スムーズに移動出来るようになったな。



「おかえり。作戦は成功したと聞いたが、後始末に時間がかかったそうだな。何かあったのか?」


執務室に入るとタニアが声を掛けてきた。


「あぁ。色々と説明をしなきゃなんだが、パストング達が来てからで良いか?あまり何度も言いたい事じゃないんだ」


私の雰囲気と話し方で、あまり良くない報告だと感じたんだろうか。

タニアは「わかった」とだけ言い、書類に目を通し始めた。


とりあえず、ソファーに深く腰を下ろした。


タイミングよくキャリーが部屋に入ってきて、目の前に紅茶を差し出してくれた。

そう言えば作戦を開始以降、一滴も水分補給をしていなかったな。


飲み口を軽く吹き、一口飲む。

相変わらず美味いな。


「あ、リョウ!帰って来たんだ!」

「おかえり、リョウ。お疲れだったね」

「副官殿、おはようございます」


リア、ミーム、パストングが順番に入って来た。

どうやら全員揃ったようだ。

正直な所、気が重いが報告を始めるか。


「早速だが、昨夜の報告をさせてもらおう」


全員が席に着いたのを確認して、作戦成功の報告を暗い口調で始めた。



報告を終えた部屋の中には重たい空気が立ち込めている。

それぞれが色々と考えているのだろう。


「恐らくですが、その少女たちは奴隷なのでしょう。彼の国の奴隷の扱いはかなり酷いものだと聞いた事があります」

「そうだね。私も数年前にクラスタンプに居たけど、完全に道具扱いだったね。ま、それが嫌でこっちに流れてきたんだけど」

「クラスタンプは弱肉強食感が強い国だ。貧富の差も激しい。生きる為に生まれた子どもを売る事もあるとも聞くな」

「最低の国だな」


パストング、ミーム、タニアの意見を聞いたが実際の所、予想を上回る事は無かった。

国としては良く分からないが、組織としては終わっているな。


「しかし、作戦そのものは成功したようだし、巨大な魔獣の噂があれば、当分は攻めてこないだろう」

「そうね。これで一安心よね」


タニアとリアが明るい感じで話をしているが、部屋の空気は重いままだ。

理由は簡単。


「私」が「俺」になっているからだ。


「残念ながら、その噂は首都には届く事はない」

「どういう事だ?作戦は成功したのだろう?」


そう。作戦は成功した。

このまま放っておいても問題はない。

むしろ、予定通りだ。


だが、予定は変わるものだ。


「作戦は成功した。だが、誰一人首都にたどり着かない」

「副官殿...どういう理由で?」


パストングがやや睨みながら問うてきた。

こういう事には勘の働く奴だな。


「今から俺一人でクラスタンプ軍を追撃するからだ」


全員から驚きの声が聞こえた。



皆が固まっている間に、一口紅茶を含む。

少しは落ち着くが、気持ちは全く落ち着かないな。


「今から電龍で追いかければ、昼過ぎには追いつける。奴等を殲滅する」

「どうした!?リョウ!そんな事を言うとは!?」


タニアがかなり驚いたようだな。

もっとも、その驚きは理解できるがな。


正直、今の自分はいつもの自分ではないと理解は出来ている。が、自分では止める術がない。

いや、止める気もない。が正解か。


「俺は誓いを果たさなければならないんだ。すまないが今回はまかり通る」


皆には申し訳ないと思うが、俺が俺である為の、我儘だ。


「待て。昨夜の話は聞いたし、理解もした。リョウの気持ちも全て分るとは言わないが、私の気持ちもリョウと同じだ。しかし、一人はダメだ」

「なぜだ?」


いや、ちゃんと分かっている。


自惚れもあるだろうが、タニアは俺の事をちゃんと分かってくれている。

そして、俺もタニアの言いたい事は分かっているのだ。


「当然!危険だからだ!」

「本気になった俺が負ける事はない。それに電龍での戦闘は先日の戦いで証明出来ている。問題はない」


いや、問題だらけだ。

負ける事はない?自惚れもいい所だ。


「電龍で突っ込むのか?」

「あぁ。それが確実で安全だ」


実際の所、先日の戦いで分かったのだが、電龍での突撃はエアクッションを展開していてもかなりの殺傷能力がある。

とは言え、あれは騎馬隊の働きもあっての成功だから、俺の言っている事はかなり無謀だ。


「リョウ...あんた、冷静じゃあないわね。そんな状態のリョウを行かせられないよ」


ミームが横から口を挟んでくる。

まぁ、自覚があるし、当然の意見だな。


「確かに冷静ではないな。それは分かっている。だが、俺は彼女たちに誓った」


それが全てだ。


「そんなに急がなくても...ちゃんと準備してからではダメなの?」


タニアと私の会話をオロオロとしながら聞いていたリアが、遠慮がちに聞いてきた。

確かにその選択肢のない訳じゃない。だが...


「それはダメだ。今追わなければ、国境を越えてしまう。そうなれば今度はこちらが侵略者になる。それに、今を逃せば手を下した者が不明になり、クラスタンプを消滅させるしか方法がなくなる。さすがにそれはもっと無謀だからな」

「どういう事?」

「今なら確実に手を下した本人に復讐出来るという事だ」


本当は黙って行きたいぐらいなのだが、流石に仲間に内緒でというのは流儀に反する。


これは俺の我儘だ。

これは俺の自己満足だ。

だが、これは俺の使命だ。


しかし、内容は馬鹿げている。

見ず知らずの少女たちに対して、勝手に誓いを立てただけだ。

果たさなくても、誰も咎めない。


そんな事は分かっている。

頭では。


だが、心が許してくれない。いや、頭の方も心と同調している。

あの時はなんとか消したが、仄暗い、だが力強い復讐の炎が、俺を焚きつける。


誓いを果たせ!と...。



「私もご主人様の考えを支持します。今回は徹底的に追撃する必要があると考えます」


突然、俺の後ろに静かに立っていたカラーが、静かに意見を言う。


「ほう?理由は?」


執務机に座っていたタニアが、軽く驚いた。

まぁ、俺もカラーの発言に驚いたんだけどな。


「まず、コープル村から兵士を追い出しましたが、状況的には新たな兵が派遣される状況でした。であれば、派兵されないようにする必要があります。下手に手を出せば痛い目を見ると認識させる必要があります」

「確かにそうだ。だから、昨夜の作戦を実行したはずだ。その上でどうしても追撃が必要であったとしても、リョウが一人で向かう事ではあるまい。準備を整えて軍で攻めるべきではないか?」

「普通であればそれで良いでしょう。しかし、準備をする時間がありません。準備をしている間に兵士は首都に到着してしまいます」


そうだ。それが一番の問題だ。

次の問題は、こちらの兵士に被害が出るかもしれないという事だ。


これは俺の我儘なのだ。

他の者を巻き込むのはつもりがない。


「では少数精鋭で向かえば良いだろう。電龍と夜霧であれば10人程度移動できるぞ」

「ダメです。それでは電龍の機動力を殺してしまいます。ここは電龍の機動力を生かす作戦が一番です」

「いや、それは分かる。だが、それではリョウが危険だろう」


タニアはあくまでも俺の安全を考えてくれているんだな。

有難いと思うのと同時に、申し訳ないと思う感情が浮かび上がる。


だが、今回はどうしても譲れない。


どうすれば納得してもらえるだろうか...。


そんな事を考えている間にカラーがタニアにどんどんと説明をしていた。


「敵兵は集団としての纏まりはありません。個に対応するにはこちらも個で対応すべきです。そもそもご主人様は個ではありますが戦力は中隊規模です」

「しかし、リョウに何かあったら...」

「何も起こりません。私が必ずお守りいたします」

「何を言っている!?リョウは一人で行くと言ってて、お前はそれを支持すると言ったのだぞ?」

「そうです。ご主人様一人ですが、私はゴーレムですので『一体』です。人ではありませんので」

「それは屁理屈だ。それにリョウはお前を仲間と認めている。私たちもな。だから、リョウが一人と言えば本当に一人なんだ。だが、その気持ちは有難い」

「では、ご主人様。私も連れて行ってください。それがこの場全員の最低限の譲歩です」


えっと...なんでそうなった?


黙って話を聞いていたら、カラーが一緒にってなった。

周りを見ると、それで納得しそうな雰囲気だ。


カラーは絶対に傷つかないしな。一緒に来る分には問題はない。


「わかった。カラーも一緒に来てくれ」


どうやら、これで皆を納得させられたようだ。



「カラーが一緒に行くのは良いけど、どうやってリョウを護るの?」


リアが不思議そうに聞いてきた。

普段から電龍を操縦するのは私だからな。だが、背中が安全なのは有り難い。


「私は攻撃が出来ません。なので、電龍には私が乗ります。ご主人様は私の後ろでお願いします」


まさかの逆?

驚いて体ごと後ろを振り返る。


「待て。あれはかなり難しいんだぞ?」


実際にシミュレーションをしたミームが言うと説得力がある。

タニアもリアもうんうんと頷いているな。


「大丈夫です。覚えました」

「覚えた?」


見ているだけで覚えるというのは、なかなか難しいんだぞ?

基礎知識があれば別だが、この世界の者は基礎知識は皆無だ。


「何度か後ろに座らせていただき、ご主人様の動作を観察させていただきました。少なくとも電龍を動かす事には問題はありません。後でご主人様に確認いただければと思います。それに私が前に座る事で確実にご主人様の盾にもなります」

「確かにそれはそうだが...本当に乗れるのか?」

「もし、カラーが電龍に乗れるんだったら、問題ないんじゃない?逆にカラーだけで追撃出来るかも?」


タニアはまだ渋っているが、リアは賛成のようだな。

もっとも、カラーだけの追撃は却下だがな。


「それは無理です。そもそも私は攻撃が出来ません。私だけで電龍で敵兵にぶつかるのは無理なんです。命令がなければ突っ込む事が出来ません」


あ~...そっちの理由か。

そもそも俺が誓ったんだから、俺が手を下さないと意味がないというのが却下の理由なんだが。


「じゃあダメじゃん!!」

「そんな事はありません。私が電龍に乗ればご主人様の手が空きます。攻撃はご主人様にしていただけますし、それがご主人様の望みでもありましょう」


黙ってカラーの意見を聞いていた俺とカラーの視線が合った。

瞬間、あの時のようにカラーが微笑む。


そうか...カラーも俺と一緒に誓ったのか。彼女たちに...。


「分かった。電龍に乗れるようにちゃんと教える。だから一緒に追撃に参加してくれ、カラー」

「仰せのままに...ご主人様」


鎧姿だが、見事なカーテシーを見せるカラーだった。



結局、カラーが参戦する事で仲間の了承を得た私たちは、軽く食事をして再び出発した。


出発前にシミュレーションをしてもらったのだが、最初は何も教えずにやってもらったら44点だった。

なるほど、見て覚えたというのは間違いないようだな。


次に簡単に説明をしてから再度シミュレーションをしてもらった所、89点という高得点を叩き出した。

実際に乗って慣れてもらう必要はあるが、十分に合格点だ。


「流石に一度では無理でしたか...残念です」


カラーは万全だと思っていたようだが、基礎知識無しで、事前説明無しでの44点は高得点だ。


「いやいや、いきなりの44点は十分な点数だ。それに説明の後に89点とは驚いた」

「私は71点だったのにな」

「アタシ12点...」

「私は41点だったな。説明なしのカラーに負けてしまったか...」


タニア、リア、ミームはかなり悔しそうだな。


「一度私も乗せていただきたいですな」


パストングも興味津々の様子でシミュレーションの様子を見ていた。

しまった...シミュレーションの様子を見せちゃまずかったような気がするが、もう今更だな。


「今回の件が落ち着いたら、パストングにも一度乗ってもらうさ。だが、今はやるべき事がある」


電龍から夜霧も切り離してあるが、側車は取り付けてある。

必要な道具も準備出来ているので、あとは出発するだけだ。


まだ街中は危ないので私が運転し、街を出た後にカラーに運転を変わってもらう予定だ。


「...ちゃんと帰ってきてくれよ。お前の誓いは理解したが、私との約束を反故にする事は許さないからな」


まだ心配そうなタニアが


「大丈夫だ。今のところ、約束を破った事はないだろう?それに今回はカラーが護ってくれるんだ。大丈夫さ」


堅牢不滅型ゴーレムの名前は伊達じゃないからな。


「そうだな。カラー、すまないが、この我儘坊主を頼む」

「承知しましたよ、タニア」


我儘坊主って...いや、いいけどね...。


「夕方までには帰る予定だが、また連絡する。じゃあ、行って来る」


軽く手を上げてから電龍のアクセルを回す。

軽いモーター音が鳴り、静かに電龍が動き出す。


砦の敷地から出るタイミングでミームの大声が追いかけてきた。


「リョウ~!!やるからには徹底的にやっちまえ!二度と攻めて来れないようにな!!」


あぁ、そのつもりだ。



仲間に見送られ、決意も新たに出発した。


エルセリアに戻った時は、かなりマイナス方面に意識を持っていかれていたのだが、今はかなり前向きだ。


目的の復讐は変わってないんだけどな...。


ともかく、私の運転でエルセリアを移動し、エルセリアを出てからはカラーに運転を変わってもらった。


コープルに向かってしばらく走ってもらったのだが、かなり慣れてきたようで走りながらタブレットを操作し、千里眼の情報を見れる所までになった。


「カラーって学習能力が高いんだな」

「そうですか?ですが、これぐらいでなければイスフォーン様に使える事は出来ませんので」


時々イスフォーンの話をカラーから聞くが、確かにそうかも知れないな。


イスフォーンは色んなものを創り出すのが趣味だったようで、カラーに搭載している魔力収集装置や魔力蓄積器を始め、空飛ぶ馬車などを創り出していたようだ。

そして、それらをカラーに試してもらっていたようだ。


理由は簡単。

カラーは何があっても壊れないから。


例えば、魔力収集装置を併用した魔弓を作ったそうで、能力としては集めた魔力で矢を創り出し、無限に攻撃出来るようにしたらしい。

だが、実際には魔力が矢にならず、ただただ魔力が集められて暴発。辺りが吹き飛んだそうだ。当然、カラーは無事だったのだが。


迷惑な話だと思うが、カラーは楽しかったらしい。


とにかく、色んな事を体験した結果、色々対応する能力がついたようだ。


「なるほどな。だが、おかげで助かったよ。今回は任せるからよろしく頼む」

「承知しております。私も誓いがありますので」


振り返る事もなく、前を見据えるカラーを頼もしく思った。


途中、コープルに立ち寄り、祭壇跡に花束を供えてから改めて出発。

帰りにも寄る事を約束し、先を急ぐ。


千里眼で確認すると、先頭のテキナ達は国境を超える寸前だ。

その後ろはまだ国境からは離れている。


テキナは無理だが、その後続は国境を超える前に捕らえる事が出来るだろう。

今回の目標はテキナ達以外であるので、問題はない。


カラーにちょっとした進路変更を伝え、作戦に入る。



今回国境を越えて遠征してきたクラスタンプの兵士は、再度国境を超える事が出来ないだろう。


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