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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第5章 エルセリアの新たな始まりはマッド風味
57/58

■■■ Step045 「悪」の価値と覚悟

何度も作り直しをして、やっと出来上がったお気に入りのナイフ。今なら労せずに同じ物が作れるだろうが、あの苦労の積み重ねの末の作品が...。


と、脳内で落ち込んでいる所にリアが話しかけてきた。


「お姉様はパストング大隊長に護衛をしてもらってます」

「タニアも駆けつけようとしたけど、私たちが止めた。領主は動かないものだって言ったら悔しそうにしてたよ」


ミームも有難い状況を教えてくれた。

タニアは領主となったからな。守られるべき存在という事は下手に動けないのだ。それを理解してくれてて助かる。


「ありがとう。それで良いよ。しかし、私が狙われるとは思ってもいなかったな」


そもそも私は目立ってないはずだ。

テラスの出来事も、背後に国王のイメージを映し出していたので、完全にみんなの認識から消えていたはずなんだが...。


「そう?アタシは狙われるかもな~って思ってたわよ?」


と、リアが言う。

え?どういう事?


「そうなのか?」

「だって、コボルド討伐の報告書ってエバンも読んだんだよね?そこにリョウの名前があったはずだよ?」

「それは分かってるけど?」

「伯父様...国王陛下も気になって呼ぶぐらいなんだから、要注意人物だよね?」

「でも、エバンの所の報告書は詳しくは書いてないだろう?」


エバの所のはギルドの報告書のはず。そもそもギルトに報告したのは私だし。


「あのねぇ...トモニアからエルセリアまでは早馬なら1日かからずに移動できるんだよ?トモニアの噂は聞こえてたんじゃないの?」

「噂?...あ、村長の家での宴会の!!」


そういや、リアが村長の家での祝勝会で、私たちの討伐を事細かに、大げさに村人に語っていた。

で、それが国王に報告されたんだが、同じ内容がエバンの元に行くのも当たり前か。

そして、その報告書をミフルも目を通す...。


「リョウって、そういう所が時々抜けるよな」


と、ミームが腕を組みながら困った顔をする。


いや、面目ない...。


「ご主人様、ここはまだ安心できませんので、一度砦に入られた方が良いかと」


カラーが進言してくれたので、タニアに報告する事も考え、執務室に入る。



「リョウ!無事だったのか!?」


部屋に入った瞬間、タニアが声を掛けてきてくれた。

タニアの近くにはパストングが控えていていた。


部屋にはキャリーも居た。

こっちはかなり怒っている。


キャリーには目で謝り、ソファーに座る。

いや、本当に疲れているんだ。心配させたんだろうが、ちょっと座らせてくれ。


「あぁ、心配させたな。だが、大丈夫だ。ミフルは逃げた。どこに行ったかは分からないがな」


深くソファーに座った。

すると対面にリアとミームが座り、私の背後にカラーが立つ。


逆にキャリーは部屋を出た。

どうやらお茶を用意してくれるようだ。


「どうして1人で行動なさったんですか?キャリーと一緒だったのでは?」


と、少し怒った感じでパストングに言われてしまった。

単独行動禁止と言いだしたのは私だったからな。


「いや、本当に面目ない。本当に私が狙われる事になるとは思っていなかったんだよ」


さっきリアに言われた事もあるから私の認識不足というのは分かっているが、一応言い訳はしておきたい。


だって、実際はそんなに活躍した訳ではない。

皆に言われて若干考えが浅かったと思ってはいるが、本気で自分は大したことはしていないと思っていたのだ。


コボルド討伐だって基本的には道具に頼っていたし、先日の暴動阻止の時もスピーカーと液晶プロジェクターを使っただけだからな。


と、言うような内容でパストングに言い訳をしてみた。

もちろん、異世界の人間が分かるような言い方で。


すると、パストングは深いため息をついて、私に言い聞かせるように言ってきた。


「困りますね、そのような認識では。そもそも副官殿はタニア様の右腕にして、すでに不動の存在なのですよ?私たちには思いつかない策を実現し、敵の動きまで把握している。敵からしたらこれほど恐ろしい存在はありません。私でも真っ先に副官殿を狙いますよ。進入してきた敵も砦で噂になっている副官を狙わない訳が無いでしょう」


あ~...そうか...。そういう見方もあるか。


特にミフルには暴動阻止の時に思い切り顔を見られているしな。


「それに、侵入者は他に4人も入ってきていたはずです。砦内ではタニア様と副官殿の話で持ち切りですからね。それらも鑑みての副官襲撃だったのではないですかね」


それを言われるととても辛い...。


「もっとも、襲撃がミフル殿1人だったのは、確実に副官殿を倒せるというのもあるでしょうが、砦の出入口は副官殿のおかげで非常に明るいですからね。隠れる場所が無いという事もあったのでしょう」


やはり明るいって事だけでも防犯効果はあるって事だな。

どうにかして明るい砦にしたいな。

文字通り。


タニアが領主を辞しても、それは置いておけば安全な砦になるだろうしな。


「それにしても、今も砦内を巡回して不審者を探していますが、連絡がありませんね」

「リョウが以前言っていた抜け道で進入して、そこから逃げたんだろうさ」


と、ミームが返答した。

見つからないという事はそういう事なのだろう。


「多分な。だが、ミフルはエバンの救出は諦めたと言っていたが、可能性が完全に消えたわけではない。砦内の警戒を強めた方がいいだろう」


これはタニアだ。

確かに侵入者が退去した可能性は高いが、絶対ではないからな。


「そうですね。この時間ですが、手配してきましょう」


と言いながら、パストング大隊長が部屋から出て行った。

パストングと入れ替わりにキャリーが部屋に入ってくる。


良かった。

これ以上攻められるのは正直辛いからな。


が、これまで事態が急速に動いたんだ。ちょっと休みたいんだよな。


キャリーが私たちの前に紅茶を並べてくれる。

この香り。いや、疲れを癒してくれるな。


全員に紅茶を配り終えたキャリーは部屋を出る。

その際、私を少し睨み、ちょろっと舌を出した。


あ~...かなり怒ってるな...後で謝っておこう。


「さて、砦内の事はパストングに任せるとして、明日以降はどうするんだ?」


キャリーを見送ってから、タニアが私に聞いてきた。


「どうもしないさ。現状は動きようがない。ただ、警戒は続ける。クラスタンプ軍が引き返してくれるまではな」

「そうだな。今一番の問題はクラスタンプ軍だしな...こちらの戦力だと攻めるのは難しいよな?」

「いや?方法はあると思うけど...そうだな。ちょっと考えてみるか...」


少数で多勢を打ち負かした戦は多々ある。おそらくこの世界でも。

もちろん、絶対ではないが、こちらには千里眼があるからな。敵の動きは丸見えだ。特に野戦であれば将棋よりも簡単。だと思う。


「考えてどうにかなるの?」


と、リアが不思議そうに聞いてくる。

そりゃまあ、考えて出来るようなら誰でも考えるだろうな。


だが、わが国の戦国時代の戦史や、世界の戦史からでも色々と先例はあるのだ。


「まぁ考えて出来る事ではないのは間違いないけど、要は敵に『これでは勝てない』と思わせれば良いんだ。きっとやりようはあるはずだ」


実は既にいくつか思いついてはいるんだが、それには首都からの先遣隊にも協力してもらわなきゃなんだよな。


「すまんな。こういう軍関係の事は全く分からない」


タニアが執務机で頭を垂れてくる。

あれは私にお願いをしているのと同時に、自分を不甲斐ないとでも思っているのだろう。


「それを言うなら、私も詳しいわけではないからな。気にするな」


ともかく、今日はもう疲れてしまったので戻って寝ようと思うのだが、一つだけやっておこうと思ったので一応タニアに言っておこう。


「あ、それから警護の話なんだけど、私の方でちょっと裏で動いておくから、覚えておいてくれ」

「それは良いが、具体的にはどうするんだ?千里眼では砦の中は見れないだろう?」


タニアの言う通りだな。こっちのやる事を伝えておかなければ騒動になるだろう。


「確かにそうだ。なので...ほら、コボルド討伐の時、洞窟で使った星蛍があっただろう?」

「あぁ!あの便利な灯りの奴だな。それが?」


とミームが思い出してくれた。

そういや、あの時は星蛍の明かりを上手く使ってコボルドを倒していたよな。


「あれと同じようなものを複数、砦内に飛ばす事にする。砦の人間から何か言われると思うが、その時は私の使い魔だと言っておいてくれ」

「使い魔か...なるほど、その言い方は良いな。パストングが戻って来た時に伝えておこう」

「すまないな。よろしく頼む」


さて、必要な事は伝えた。

今日は申し訳ないが休ませてもらおう。


と立ち上がろうとした所でタニアに声を掛けられた。


「あぁ...あの、リョウ...」

「ん?」


急にタニアが言いよどむ。

ちょっともじもじしている様子は久しぶりに可愛いと思わせる。

いや、とても可愛いな。


上げかけた腰をもう一度ソファーに落ち着けた。


「この騒動が終わったら、お前の世界に行きたいのだが...」


まだあれから5日しか経ってないが、もう大阪に行きたいんだな。

智代おばちゃんもある程度攻略出来たからな。


「そうだな。私も今回はかなり色々あったからな。あっちで色々と疲れを癒そうか」

「助かる。今度こそ葵に天然と養殖の話を聞きたいしな」


それかい!!


「ま、それは一日かければ理解できるだろう。次回はリアもミームもカラーも連れて行きたいしな」

「お、私たちも連れて行ってくれるのかい?」

「とっても楽しみ!」

「私もお供させて頂けるのですか?」


三者三様の反応をしてくる。

リアは興味津々だったもんな。

ミームも夜霧で一泊した際、かなり感心していた。

カラーはイスフォーンから色々と聞いているのだろう。そわそわしている。


「あぁ。夜霧での生活...と言ってもちょっとしか無かったけど、慣れたと言えば慣れただろうからな。大丈夫なんじゃないかな」

「やった!!」


リア、本当に嬉しそうだな。


「ただし、タニアも恐れた人物が居るから、それだけは覚悟してくれよ?」

「えぇ!?お姉様が恐れた人物ですってぇ!!」

「なに!?それは本当か!?」


智代おばちゃんの事だが、この2人はどういう反応になるだろうな。

ただ、リアは要注意だな。

以前も話をしたが、「混ぜるな危険」かもしれないからな。


「あ~...まぁ、確かに恐れていた...だが、決して悪い人ではないし、むしろ良い人だからな」


最後には堅いハグをしていたからな。

というか、単純に勢いに負けていただけだから、恐れていた訳ではないはずだが、タニア的にも「恐れていたかもしれない」と思っていたのかもな。


「それなのに恐れていたのかい?」

「まぁ...恐れていたというより苦手だったんだと思う」

「ふ~ん...興味あるねぇ」

「アタシも!」


リアの同類だからね。

2人とも相性はバッチリ...か、どうかは微妙だな。


「ま、会ってからのお楽しみという事で...」

「そうだな。彼女たちの驚きの顔も見れる。それが一番の楽しみだな」


その「彼女たち」の中には恐らく大阪の3人娘も含まれているんだろう。


「タニアには、彼女たちの面倒を頼むよ?」


ドアに向かいながらタニアに声を掛ける。


「それは任せろ。私はそろそろ『日本語』?も習得できそうだしな」

「期待してるぞ?親友」

「...あぁ、そうだな...親友」


ちょっと反応が微妙な感じがしたが、今日はちょっと疲労が溜まっている。



部屋に戻るとキャリーが部屋で待っていた。


その姿は、どう見ても寝間着...だよな...。

え?どういう事?


「リョウ様。今日は絶対に離れませんので...」

「え?」

「本日...いえ、クラスタンプ軍が引くまではずっとご一緒させていただきます」

「いやいやいやいや!!それはマズいだろう!?」


女の子と2人きりで、同じ部屋で寝る。近親者であれば可能性はあるかもだが...。


「タニア様からご了承を得ております」


おおぉぉぉおおぉいぃっ!タニアさんんん!!


「だからと言って!」

「何も同じベッドで休むとは言っておりません。ですが、リョウ様の盾となるべく、同じ部屋で休ませていただきます」


え~...マジか...。


そんな事で、キャリーが部屋のソファーで眠り、私がベッドで寝る事になった。

キャリにベッドで寝るように言ったのだが、絶対にダメだと拒否されてしまったのだ。


しかも、ベッドに寝るなら一緒に寝ないとダメだという...。


さすがに一緒のベッドはダメだけど、明日はここに簡易ベッドを入れるようにお願いしよう。

私の精神衛生上良くないからな。


ともかく、端末からアリスに指示を出して早々に寝てしまった。



翌日、早々にタニアの執務室に赴いた。


実は目覚めた時、部屋の中に気配を感じ、思わずベッド脇に置いていた拳銃を構えたのだが、そこの銃口の先には絶賛着替え中のキャリーがいたのだ。


「リョウ様...それ、なんですか?というか、私の着替え、凝視されてますが興味があるのですか?」


と、かなり強引に絡まれてしまい、しばらくまともに思考できなかった。


待って...これはクラスタンプ軍を追い出すまで毎朝発生するイベントなのか...。

絶対今日中になんとかしよう!!



と言う精神的葛藤をしながらタニアの執務室に入る。

当然、キャリーも一緒だ。


この娘...私から離れる気はないのでは?


ともかく、部屋にはタニア、リア、ミーム、カラーが居た。


まだパストング大隊長は来ておらず、リア、ミーム、カラーとキャリーだけだったのでタブレットを出して千里眼でクラスタンプ軍の動きを確認する。

あと、ミフルの動きだな。


ミフルはコープル村に戻ったようだ。今朝、4人がクラスタンプ軍に合流するのを確認した。

おそらく、それぞれが様々な情報を持って帰った事だろう。


最悪、先遣隊が近くまで来ている事を知られたかも知れないな。


ともかく、偵察隊が今朝帰って来たのでまだ情報を検討しているのかも知れないな。

コープル村からはまだ動いていない。


そして、我らの援軍である先遣隊だが、まだオクルを出ていない。

昼から出ても十分間に合うので、入念な準備をしている。と思いたい。


と、ここまで話をした所でパストングが入室してきた。


「おはようございます、皆様。現在のところは侵入者が見つかっておりません」

「パストング、おはよう。その侵入者はクラスタンプ軍に戻ったようだ。5名確認したので、砦内にはもういないようだぞ」

「そうなのですか?では、警備を解除するように伝言をしておきましょう」


そういうと、そばにいた副官に指示を出したようだ。

副官はすぐに部屋から出て行った。


どうやら、ここで色々と決まるので、指示伝達の為に副官を連れてきていたようだ。


「ところで、他に新しい情報はあるのでしょうか?」


もはや私たちの情報には驚く事がなくなったな。

早くも慣れてきたんだな。


「あるよ。今朝方偵察隊が戻ったからか分からないけど、クラスタンプ軍はコープルからまだ出ていないよ」


と、リアが簡単にパストングに返答する。


「なるほど。で、先遣隊は?」

「そっちもまだオクルから動いていないようだね」


こちらはミームが返答する。


「そうですか...副官殿、先遣隊はどのように動くか分かりますか?」

「あ~、どのようにかは分からないけど、オクルから2騎ほど偵察が出ているね。エルセリアの状況と、クラスタンプの位置を確認してから動くんじゃないかな。なので、後でこの後オクルに直接行って、状況説明をしたいと思っているよ」

「何か考えでも?」

「単純にエルセリアの城壁と挟み撃ちにしたいなって思っててね。もっと楽な方法もあるけど、先遣隊がどれぐらい動けるか分からないからね。最低限の連絡方法の確立だけはしておきたいんだよ」

「連絡方法?」

「例えば狼煙とか、離れていても問題ないようにしたい。そもそも先遣隊も砦に入りきらないんだよ。なので、城外に布陣してもらう事になる。それも伝えなきゃと思ってね」


まさかスマートフォンを渡す訳にはいかないからな。


「確かにそれは必要でしが、この後すぐに向かわれますか?」

「エバンと面会をしてからかな?」

「エバンと面会?」

「今回の暴動...未遂で終わったけど、首謀者だからな。このまま餓死するだろうけど、今のうちに話をしておきたいんだよ」

「では、私も一緒に」


と、タニアが行ってきたが、それは断った。


「いや、ちょっと男同士の話をしたいんで、私一人で話をしようと思う。悪いがタニアは遠慮してくれ」

「男の...話」

「すまないな。ちょっと色々思う所があって。パストングも分かるだろ?」


と、ちょっと適当にパストングに振ってみる。


「まぁ分からない事もありませんが...」


ちょっと無茶振りをしてしまったかな?思いのほかパストングの反応も悪い。


「そうなのか?」

「男の...くだらない矜持について...って事さ。ともかく、ここは任せてくれ」


適当な事を...でもないか。確かに「くだらない矜持」について話をするつもりだからな。


「う~む...分かった」

「ただ、先遣隊に行く時は悪いが一緒に来てもらいたいんだが」

「もちろん!行く時は声をかけてくれ!!」


タニアが急に元気になった。

まぁ、そうなるだろうと思って声を掛けたのだが、効果てきめんだな。


「いや、それはマズいのではないですか?」


早速パストングが渋い顔をする。

うん。普通はマズいよね。私も一応自覚はしている。


ただ、タニアがかなりストレスが溜まっているようなので、電龍に乗せてちょっとお散歩...と言ったら絶対に却下だもんな。


さて、どうやって丸め込もうかな...。


「なぜだ?私たちの援軍なのだぞ?話をつけるのに領主である私が行くのは問題はあるまい?」

「いえ、普通は私よりも下の者が行くのですが?」

「それは分かるが、私が行くのが一番早いだろう」

「それはそうですが...」

「リョウも行くという事は電龍で行くという事だ。馬に負けないから問題はない」

「そうですか...言っても聞いてくれませんよね?」

「こればかりは聞けぬな」

「はぁ...」


タニアが押し切っちゃった。

しかも「聞かない」って...。


「パストング、大丈夫だ。護衛にカラーも連れて行くつもりだし」

「アタシたちは?」


リアが聞いてくる。


「悪いが夜霧は持って行かない。電龍だけで行くから無理だな」

「あ~...馬でついて行こうと思ったけど、そもそも追いつけないか...」


ミームがちょっと考えて諦めてくれた。

察しの良いミームだ。ひょっとしたら、パストングの護衛の口実を塞いでくれたのかもな。


「はぁ~...わかりました。それならば緊急時の場合はどうするのかだけ決めていただけますか?」


さすがパストング。


ともかく、簡単にだが緊急時対応をいくつか取り決めた。



朝の会議が終わり、エバン面会をした。


「その...2人きりで大丈夫なのでしょうか?」


ここまで付いて来てくれた兵士が心配そうに聞いてくれた。

が、餓死しそうな人物に後れを取る事はないはずだ。


「大丈夫だ。あちらは丸腰だからな」

「副官殿も丸腰じゃないですか」

「私が武器を持っていて、それを盗られでもしたらもっとマズイだろ?だから大丈夫だ」

「...分かりました。何かあれば大声で呼んでください」

「わかった」


兵士が部屋から出て行った。


改めて部屋の中を見ると、前領主はベッドの端に座っていた。

かなり衰弱しているので、寝ていると思ったのだが、身体はまだ大丈夫なようだ。


そういう意味では鍛え方が違うのだろう。

正直、恐れ入る。


兵士には「丸腰」と言ったが、一応は拳銃を腰の後ろに装備している。他は持ってきていない。


刀はナイフでは取られてしまう可能性が本当にあるからな。

死にかけの男だが、用心するに越したことはない。



エバンの正面に立ち、見下ろす。

エバンも私を見上げてくる。


誰だ?とは聞いてこない。

先日会ったばかりだからな。


「エバン・バースウィック。なぜ食べない」

「生きていても意味がないからだ」


絶食して、明日にも死にそうなのに、声は以外としっかりしているな。

もっとも、水分も摂っていないので文字通り乾いた声だがな。


「意味が無いとはどういう事だ」

「戦えないのであれば生きる意味はない」


なるほど。

本当に戦いたいだけなのか。


こんな奴、領主なんでダメなんじゃないか?

しかし、砦の兵士に聞くところ、普段はちゃんと領主をしていたそうで、領地運営の能力はかなり高いようだ。


「お前は最後に戦ったではないか」

「最後に戦った?この騒ぎそのものを言っているのか?」

「タニアと、論争という戦いだったが、真正面から戦って見事に散ったじゃないか」


聞きようによっては皮肉を言っている様に聞こえるだろうな。一応本心で言っているんだが。

身体を使う戦いではないが、あれも戦いだよな。


「あれを?あれが...あれが儂の最後の戦いだと言うのか?」

「お互いの意見の戦いだと思うが?」


エバンは怪訝な顔をしていた。

まぁ、そうだろう。

身体を使った戦いしか知らないんだろうからな。


「あんな情けないものが最後の戦いになるのか?」

「そうだな。お前が認めなくとも、世間ではそういう事になるだろう」

「そうか...儂の最後の戦いはあんな情けないものになるのか...」


情けない戦い。

ちゃんと評価はしているようだな。


「そして、餓死して死ぬんだ。お前は情けない領主として名を残すだろうな」

「ふ...そうか...本当に情けない...」


いよいよ死にたくなったかもな。

だが、どうせ死刑は免れないのだ。


だが、「死に方」というものはあるだろう。

この世界に「腹切り」があるとは思えないが、エバンはそういう気概は持っていると感じたのだ。


「嫌ならば陛下の前まで行け。そして、自分の思いを陛下にぶつけてこいよ」

「陛下に?儂は陛下の顔に泥を塗ったのだ。意見をぶつけるどころか、会ってさえくれぬだろうよ」

「そうかもな。だが、お前は戦って死にたいんだろう?最後まで戦えよ。死刑は確定だろうが、それまで最後まで戦えよ」

「最後まで...か...」


闘いたい男は自嘲気味に笑った。

そこにどういう変化があったのか、なかったのか、私には分からない。


「その気になったなら、そこに置いたものを喰え。しばらく何も喰ってないから胃腸が弱っているぞ。ゆっくり時間をかけて喰えばいい」


手に持っていたスープ皿をテーブルに置く。


ここに来る前に夜霧に戻ってお粥を作って来た。

塩味を利かせた、かなり柔らかいお粥だ。


「お前は...なぜ儂を生かそうとする」


さぁ...なんでだろうな。

実はちゃんとした理由は分からない。

タニアに頼まれた訳でもないし、タニアの雑念を取り除きたい訳でもない。


正直いつ死んでくれても構わないと思っているんだけどな。


だが、考えとは裏腹にスラスラと言葉が出てくる。


「別に生かしたい訳ではない。お前、自分が正義と思っているのか?」

「なに?」

「国王を裏切り、国を裏切ったお前に正義があるのか?」

「儂は戦いたかっただけだ」

「自分の我を通す事がどれほど迷惑か考えなかったのか?」

「それのどこが悪い。儂はこの国の重鎮である。多少の事は問題あるまい」

「なるほど。その考えは私には理解できない。が、お前にとってはそれが正義なんだろう?」

「そうだ。儂は悪くない」

「であれば、それをもって国王と闘うべきだろう。自分の意を示さずにこのまま落ちぶれたまま死ぬのか?」


あぁ、なるほど。

私は結局「最後まで戦え」と言いたかったのか。


「どうせ死ぬのだ」

「そうだ。どうせ死ぬ。だからこそ、自分の意を示すべきだろう?」

「お前は...何が言いたいのだ」

「はっきり言おう。お前は悪だ。その考えは世の中には受け入れられない」

「そんな事は承知しておる」


自分は悪くない。と言いながら、世間に受け入れられないと言う事は分かっているのね。


「悪がお前にとっての正義だったのだろう?では、悪である事を、自分が悪であると自信を持って示せ。そして死ね」

「そんな事をすれば...儂の家は悪の家系だと知らしめることになる」


言っている事がかなり無茶苦茶だという自覚がある。

が、ここまで言い切ったのだ。最後まで言わせてもらおう。


「何を言っている?もうお前の家系は悪であると知られている。今更だな」

「ふ...確かに...今更だな」

「筋の通った悪となるか、何もない、空虚な悪となるか、お前の取るべき道は、この2つしか無い」

「空虚な悪か...確かに、このまま餓死すれば空虚よな」

「後は自分で考えろ。私が言いたい事はこれで終わりだ」

「ふん...言いたいだけ言いおって...不遜な者よ」

「暴動を起こそうとしたお前に言われる筋合いは無いな」

「言いよるわ...」


言いたい事は言った。

あとはエバンがどうするか考えるだろう。


部屋を後にして、電龍の所に移動する。

さて、今からタニアと小旅行だな。

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