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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第5章 エルセリアの新たな始まりはマッド風味
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■■■ Step046 楽して勝つのは楽じゃない

電龍の所に行くと、いつもの冒険者姿のタニアが居た。

カラーもいつも通りの甲冑姿だ。


「思ったよりも早かったな」

「あぁ、会話はちゃんと出来ていたからな。問題ない」


かなり危険な状態だと思っていたからな。

会話出来ただけでも御の字だ。


「それで、絶食の理由を聞いてきたのか?」

「まぁ、そんな所だ」

「そうか...で、食事はしてくれそうだったか?」

「それは分からない。結局、どうするかは本人の意志だ。私たちではどうにもならない」

「これだけ確認させてくれ。リョウは食事をするようには言ってくれたんだよな」

「う~ん...遠回しには言ったが、私が本当に伝えたかった事は別の話だ」

「別の話?」

「だから、『男の話』だと言っただろう?だが、私の言いたい事に理解をしてくれれば食事はしてくれるさ」

「そうなのか...いや、すまないな...」

「タニアが気にする事じゃないさ。男は変な所で意地になってしまうんだ。誰が悪いわけじゃない」

「男の意地か...それは女の私には分からないんだろう。ともかく分ったよ」


タニアとしてもまだ納得出来ていないんだろうな。

正直、今回の会話でどうなるかは全く分からん。


下手な期待はさせない方が良いだろう。

ダメだった時のショックが大きくなるだろうしな。


「そもそもの話、国王が命令しても無理だろう。そもそも国王を、国を裏切っているんだからな」

「そうだな...」

「諦めろ。とは言わないし、気にするな。とも言わない。とにかく、どうにもならない事がある。って事だ」

「どうにもならない事か...確かにそうだな」


やっと落ち着いた感じだな。

こういうのは慣れ。ではないが、切り替えが出来なきゃ辛いだけだ。


「さて、まだ先遣隊は動いてないし、クラスタンプ軍も動いていない。今のうちに移動を開始したいんだが?」

「あぁ、すまない。では行くとしよう」


久しぶりに電龍に乗る気がするな。

少しだけだが、私も嬉しい。


こうやって、みんなで旅が出来るように、目の前の問題を解決していこう。



エルセリアを出て、オクルに向かって走る。


タニアはいつものように、私の後ろに乗り、カラーは側車に座ってもらった。

意外と甲冑が邪魔なので、シートベルトはしていないがカラーなら大丈夫だろう。


今回はかなり急いでいるので、荒れた道をかなりの速度で移動する。


急いだ理由は簡単。

移動を開始してすぐに、先遣隊もクラスタンプ軍も動き出したからだ。



クラスタンプ軍は先行して20騎ほどがエルセリアに向けて移動している。

戦闘に有利な場所を探し、そこに陣を張る為だろう。


先遣隊はゆっくりと移動している。騎馬だから歩くよりも早いけどな。


ともかく、まずは先遣隊に合流だな。



オクルに向かって走る事、約40分。先遣隊に合流した。


ちなみに先遣隊に近づいた際、突然行軍が止まり、明らかに攻撃体勢になったのだ。


慌てて軍旗をかざす。

すると、すぐに体制が解かれた。


パストングに「必ず軍旗を掲げてくださいね!」と強く言われて軍旗を持ってきて良かった。

ただ、近づいてからで良いかと思っていたのだが浅はかだったようだ。

軍旗を持って行かなかった場合を考えると恐ろしい...。


パストングに感謝だな。



ゆっくり先遣隊に近づくと、30代ぐらいの男性が馬に乗ったまま近寄って来た。


「近づいて来る際に軍旗を掲げていないとは...困った方たちですね」


しっかりと怒られた。

申し訳ない。以後気を付けます。


「さて、新領主のタニア様のご一行ですか。私は先遣隊の隊長を任されております、ファイと申します。以後、お見知りおきを」


身に着けているものを見る限り、パストングと大差がない。おそらく大隊長なんだろう。


「軍旗の件はすまなかった。今後注意すると約束しよう。今回の援軍、大変ありがたい。私は先日エルセリア領主に着任したタニアだ。こちらは副官のリョウ。よろしく頼む」

「お二方の事は陛下より聞いております。こちらこそよろしくお願い致します。して、エルセリアはまだ無事だと思いますが、状況をお伺いさせていただいても?」

「もちろん。簡単にだが説明させていただこう」


暴動を止めた事、領主は監禁しているが絶食をしている事、領主の息子が逃げた事、一度抜け道から侵入された事、クラスタンプ軍が迫っている事を伝える。


「思っていたよりも状況的には良いですね。承知しました。あとはクラスタンプ軍を追い返すだけですね」


これで状況が良いとはどういう事だ?

あ~あれか。暴動が成功して、エルセリア軍と戦わなければならない事を想定していたのかもな。


「その通りです。が、どう対処されますか?何かお考えがあれば教えていただければと」


ファイという隊長さんに聞いてみた。


「砦と我々で挟み撃ちにするのが一番だと思いますが?」

「やはりそうですよね」


よし、ファイも提案してきているので、挟み撃ちにしよう。


「分かりました。では、このままゆっくり進んでいただければ、移動しているクラスタンプ軍の側面を突く事が出来ると思います。我々はエルセリアに戻り、城壁は閉じておきますので、側面か後背から敵を突いてください。こちらはそれに合わせて砦から出ようと思います」


少なくともタニアを砦に戻さないといけないからな。

私とカラーだけであれば問題はないんだが...。


その後、もう少しだけ作戦を考え、引き返した。



先遣隊と別れ、来た道を急いで戻る。


タブレットで確認すると、クラスタンプ軍の本隊はまだまだエルセリアから遠い。あと5kmぐらいか。

エルセリアに到着するのは3時間後ぐらいだろう。


味方の先遣隊には、遅れて到着して欲しいので、ゆっくりと移動するようにお願いした。

本気で動けば1時間後に到着しちゃうからな。騎馬しかいないし。


「良いのか?あんな簡単な作戦で」


私とファイとの会話を黙って聞いていたタニアが質問してきた。

今日の戦いについての作戦を決めたのと、エルセリアには軍隊に入ってもらう場所がないという事、あとは狼煙の決め事ぐらいだ。


狼煙については、軍である程度決まっているが、領主の息子が敵に寝返っているので使えない為、急遽簡単に取り決めた。


それ以外は、今日の戦いが終わった後に、再度連絡を取る話になっている。


「今回はそれで良いと思うよ。とにかく目の前のクラスタンプ軍を早く追い返さないと、次の奴等が来るからね」

「そうなのか?」

「クラスタンプとしては、一気に攻めこむのが都合が良いからな。きっと今頃はクラスタンプの首都で次の団体さんの準備に入っているだろう」

「そういうものなのか?」

「私でも普通に思いつくんだ。あちらでもそう思っているはずさ。戻ったらパストングに聞いてみたら良い」

「そうだな。そうしよう」


エルセリア近くになってきたので、一旦停止してからタブレットで状況を確認する。


クラスタンプの20騎の偵察隊は、エルセリアが良く見える、丘の上に陣取ったようだ。

攻めるも守るも良い場所だな。

だが、そこはまだエルセリアからは遠い。


おそらく、エルセリア軍が野戦に出る事を想定しているのかも知れないな。

だが、800対2,000の軍力差で、少ない方が野戦に出ると思っているんだろう?


あぁ、先遣隊の事があるからか。


という事は、先遣隊500騎の存在も把握していると判断した方が良さそうだな。


「リョウ。これってどういう事だ?」


タブレットを覗き込んだタニアが聞いてくる。

同じように覗き込んでいたカラーも私の顔を見てくる。


とりあえず、素人判断だけど、簡単に説明してみようかな。


「おそらくだけど、クラスタンプ軍は先遣隊の事を知っているので、挟み撃ちになっても良いように、陣を張るつもりと思うよ」

「そうなのか?そういう事って分かるものなのか?」

「私は専門家ではないから、ほぼほぼ想像での話になるんだけど」


と、前置きをしておいた。

私も万能ではないからな。


「この20騎はエルセリアから遠い場所に陣を張るつもりに見える。そして、その場所は小高い丘の上だ。見晴らしも良くて、作戦を考えたり、実行したりするのにとても便利な場所なんだ。当然、前も良く見えるし、後ろも良く見える」

「なるほど。挟み撃ちに対応出来るって事だな」

「そういう事。だから、敵は先遣隊の事は知っている。問題は『いつ』先遣隊が来るかは分かっていないって事だな」

「それは偵察隊とかで分かるんじゃないのか?」


それはあり得るな。

ちょっと調べてみよう。


と思ったが、見る限りは出てなさそうだ。


「その意見は正しい。が、そもそも、ここら辺は広い平原だから、軍隊が移動すればすぐに分かる。だから偵察隊を出してないんじゃないかな」

「そんなものなのか?」

「さぁ?現状を見て、想像してみただけだからね。本当かどうかは分からない」

「千里眼で見えていても、『どうして』は分からないって事か」

「そういう事」

「でも、状況から判断は出来るって事ですよね?ご主人様」

「そうだ。この千里眼ってのはかなり有利な道具だから、公には出来ないんだよ」

「あ、それでパストング様には秘密にしているんですね」


そういう事だ。


でも、そのうちパストングにも仲間になってもらってって考えてはいるんだけどな。

後はタイミングだな。


クラスタンプ軍の20騎に見つからないようにしながら、エルセリアに入った。



門番にはすぐに門を閉めるように伝え、街内にクラスタンプ軍が攻めてきた事を告げるように命令しておいた。


これは予め決められていたタスクで、住人に対して下手な情報隔離をして混乱させるよりも、きちんと情報発信する事で安心してもらう狙いだ。


突然敵軍が現れて混乱させるよりも、事前に話をしている方が混乱は少ないだろう。

なので、騎馬以外の歩兵には、街の巡回を主な仕事とし、住民を落ち着かせるように指示をしておいた。


また、騎馬については門近くの広場に集まってもらっている。その数315騎。

結構集まったな。



門前の広場には大きな天幕が複数張ってあり、一番大きな天幕にパストングを始め、リアとミームも集まっていた。


「おかえりなさいませ、タニア様。ご無事で何よりです」


パストングはホッとした顔でタニアを迎える。


「いや、済まなかったな。話し合いは問題なく済んでいる。今日の戦いについては作戦が決まっているので、あとは実行するだけだ」

「なんと...もう作戦が出来ているのですか?お聞かせいただいても?」

「もちろん。先遣隊の隊長殿と話をして決めた内容だが、パストングにも聞いて欲しいからな」


と言って、地図を開きパストングに説明する。


「はぁ~...確かに効果的ですね。しかも、なかなか強引な...」


深いため息をしているな。

確かに私も強引だとは思っているがな。


「そうだろうな。私もそう思ったし、先遣隊の隊長のファイもかなり驚いていたぞ」

「ファイ?先遣隊の隊長はファイなのですか?」


パストングが非常に驚いた顔をする。


「そうだが...知り合いか?」

「知り合いも何も、同期です。年齢も同じ29歳ですよ」

「あ、そうなの。世の中狭いのね」


ミームがしみじみと言っている。


「おそらく、私の事をご存じの方がいて、ファイを寄こしたんじゃないかと思います」

「なるほど。そういう事もあるか」


今回はかなり急な作戦行動だからな。

そういう意味では知り合いであった方が、意思疎通をやりやすいだろう。


「なんにしても、もうすぐクラスタンプ軍が現れる。それまでは砦の戸締り確認をしておこう」

「戸締り確認ですか...一気に家庭的になりましたね」

「いいんじゃない?私たちはエルセリアという家に住んでいる家族みたいなもんでしょ?」


と、ミームが良い事を言う。


「そうだな。今は一致団結しなければならないからな。家族を守る。という意識を持ってくれれば良い仕事が出来るんじゃないか?」

「確かにそういう事もありますか。では、頑張って家族を守るように、兵士たちに発破をかけてきましょう」


うんうんと頷きながらパストングが天幕から出て行った。


パストングが出て行ったので、改めてタブレットを取り出し、気になる事を確認する。


そう、ミフルがどこにいるのか。を確認するのだ。

はっきり言って二度も痛い目を見ているのだ。気持ちとしてはどうしても確認するだろう。


千里眼で検索をかけるとコープル村に居る事が判明した。

どうやらテキナもコープル村に残っているようだ。


理由は分からないが、おそらくクラスタンプ軍がテキナを嫌ったんだろう。

もしくは、テキナが従軍を嫌がったか...。


ともかく、最大の障害が取り除かれたので、安心して戦いに専念出来るってものだ。



さて、時間はもう少しあるからな。今の内に夜霧を持ってきておこう。

最悪の場合、タニアたちを夜霧に詰め込んで、エルセリアから逃げ出さなければならないからな。


表向きには「あれば便利だから」という事で、リアとミームに声をかけて、一旦砦の戻った。



天幕の横に夜霧を置き、電龍から側車を外した。


突撃の際に側車があると邪魔だからな。


パストングには砦に残ってもらい、全体の指揮を執ってもらう。

リアとミームも砦組だ。


騎馬隊の指揮は彼の副官のエリーズに執ってもらう。

で、私は遊撃だ。


なぜそんな事になったのかと言うと、そもそも私は軍を率いた経験がないからだ。なので、軍の統率は士官にお任せだ。

私はただ作戦を考えるだけ。というか、千里眼の情報を見れるのは私しかいないのだからな。事実上副官と軍師を兼任している状況だ。


で、なぜ遊撃として参加するのかと言うと、現場にいる方が臨機応変に対応できるからだ。


そんな事で1人部隊...いや、カラーもついて来ているので2人部隊だな。


当然、タニアが猛抗議してきたが、「ここが正念場で、頑張らないとダメな局面」という事で押し通した。

パストングも渋い顔をしていたが、私の主張はもっともなので、引いてくれた。


リアとミームも文句を言っていたが、タニアを丸め込んだので今は黙っている。


もっとも、私にカラーを付ける事は絶対条件だったが。



「丘の上に敵軍が陣取っていますが、どうしましょうか。このまま睨み合いを続けますか?」


パストングが聞いてくる。

この戦いは副官である私が作戦を考えているので、どう動くかは私が決めなければならないのだ。


こっそり千里眼で確認すると、予想通り偵察の20騎がいた場所に敵軍が陣取っている。


狼煙を上げて「待機」と指示を出しておいたので、先遣隊は敵の後方、森の端に待機している。

そこは森の影に入っており、クラスタンプ軍からは見えない場所だ。


「そうだな。敵軍をこっちに引き付けたいので、一度砦から出て反応を見てみようか」

「そうですね。どうせ一戦するんです。外で陣形を整えた方が良いでしょう」


パストングの意見もあり、まず私が電龍に乗って門から出る。

私の後、騎馬が出てきて整列する。


それを見ていたクラスタンプ軍が急に動き出す。


歩兵が約500、前進を始めた。

見ると弓も準備している。


弓はまずいな...。

風魔法を展開しても良いが、広範囲に展開するのも面倒だし、そもそも撃たれる事に問題がある。当たる可能性が出てしまうからな。


これは、撃てない状況にするのが一番だな。


「エリーズ!敵が弓を用意しているようだ。先に行って攪乱してくる。タイミングを見てそっちも突っ込んできてくれ!」

「承知しましたが、副官殿は大丈夫なのですか?」

「大丈夫だ。私は攪乱させるだけだから問題ない」

「いや、それが一番危ないんですが...」


と言っているが気にしない。


分厚く大き目のエアクッションを魔法で作り、電龍の前方に固定する。


「カラー、かなりスピードを出すけど落とされないようにしてくれよ?」

「承知しました」


そういうと私の背中にぴったりとくっつき、腕を前に回して来た。

う~ん...背中がゴツゴツ...。


ともかく、準備が出来たようなので、一気に加速して敵軍に突っ込んでいく。


馬ではない、奇妙な乗り物がかなりの速度で突っ込んできたので、敵も慌てているようだ。

ばらばらと矢が飛んでくるが、全く当たらない。

真っ直ぐ突っ込んでいるんだから、正面からは当たりそうなんだが、エアクッションにも当たらない。


こちらが速すぎて合わせられないのだろう。

という事は、相当慌てているようだな。


と思ったら一本の矢が顔の横を通り抜けていった。

まずいな。弓矢の名人が数名居るようだ。


気を付けなければ狙い撃ちされる。


そう言っている間にも、身体に近い所を矢が数本通り過ぎる。


バックミラーで後ろを確認すると、騎馬隊は鋒矢の陣形を組んで付いて来ている。

とはいえ、距離にして200mは離れている。ちょっと離れているな...。


逆にちょうど良いかも知れない。


敵歩兵の頭上に、電気で編まれた大きな風呂敷をイメージし、左手を頭上に掲げる。

同時に体内の魔力を発動し、イメージを乗せる。


すると敵兵士の頭上に巨大な電気の幕がバチバチという音を伴い現れる。


その音に気付き、数名の兵士が頭上を見上げる。が、その行動は無駄だ。


「エレキクロス!!」


掲げた左手を振り下ろし、目の前の敵歩兵集団に向ける。

動作に合わせて電気の布が敵歩兵に覆いかぶさった。


「ぎゃあああぁぁぁぁああぁぁ!!!」


感電した兵士達が絶叫を上げる。

とたんに矢の雨が止んだ。


これで後続の部隊も安全だ。


予定通り、敵歩兵集団の向かって左側に電龍で突っ込んだ。


「ぐわぁ~!!」


前方に展開したエアクッションに当たった兵士が次々と四方八方に飛んでいく。

エアクッションなので、ぶつかった際には致命傷にはならないだろうが、飛ばされた先で骨折ぐらいはするだろう。


戦場で骨折ぐらいだったら儲けものだと思ってもらおう。


よし、このまま突っ切ってしまおう。



一気に歩兵部隊を抜けると、目の前には敵の本隊が佇んでいた。

どうやら、こちらの突撃を見て、驚いたんだろう。


タブレットでチラっと先遣隊の情報を確認すると、森影から飛び出し、こちらに突っ込んできている。


エルセリアを見ると、「突撃」の狼煙が上がっている。

さすがパストングだ。


後方の騎馬隊は私の通った後に続けて歩兵集団に突入した所だ。

ここまで近づいていれば弓矢では狙えまい。


では、こちらはこのまま本隊に突っ込むとしよう。



ちなみに電龍には武器を装備していない。

元々単なる移動手段だったからな。


だが、電龍はバイクなのでホーンは付いている。

しかも個人的に色々遊んでしまっているので、音の種類を選ぶことが出来るようにしていたのだ。


そこで「怪獣の雄たけび」を選択し、音量も最大にした。


戦場でこういう音を聞いた時、敵がどういう反応をするか実験だ。


『ぐぅぅうううぅぅうおおおぉぉぉおぉぉ!!!!』


電龍からエコーがかかりまくった巨大ドラゴンかと思われるような雄たけびが、ありえないほど大きな音で発せられた。


敵本隊は目に見えて狼狽えた。

さらに数名...十数名が本陣から逃げ出している。


これはかなり効果があったようだ。


と、喜んだ矢先に後ろに座っていたカラーがかなり強く私にしがみつく。



あ...しまった...普通に味方も驚かせてしまったな...。



タブレットを見ると、先遣隊はスピードが落ちたものの、すぐに勢いを取り戻し、突撃してきていた。

背後のエルセリア軍は、逆に勢いを増して突っ込んできている。


そっちの方が意味不明だが、良しとしよう。



さて、私も敵本陣が浮足立っている隙に、一気に突き抜けてしまおう。



突撃する場所を定め、一気にスピードを上げる。

目の前の兵士が避けようとしたが、密集隊形なので身動きが取れず、あえなく弾き飛ばされていった。


先程のホーンのおかげで本隊の兵士達もかなり混乱しているな。

さらに見慣れない物体が突っ込んでくるんだから、そりゃ慌てるだろう。


真っ直ぐに突き進み、本隊も無事に通り抜ける事が出来た。


通り抜けた所で右手を見ると丁度、先遣隊が突撃をする所だった。


凄まじい雄たけびを上げ、敵にぶつかっていく。


先程のホーンと突撃で浮足立っている所に、後方から別動隊が突っ込んでくるのだ。

これはかなり効いたと見ていい。


先遣隊の突撃で敵本隊は完全に混乱状態に入った。


さらに、自分の背後を見ると、私が通った後を約300騎の騎兵が本隊に突っ込んで来ていた。

こちらも特に問題ない。



さて、本来の作戦だと突っ切った後は前後を入れ替えて攻撃に入る事になっている。

エルセリア軍は後方から、先遣隊は前方から攻撃を始めるのだ。


そして私は、先行して突破する事を見越していたので、敵軍を抜けた後、今度こそ背後から本当の中央突破を行うのだ。


「カラー!しっかり掴まっておけよ!」

「はい!!」


カラーに注意を促した後、ドリフトを効かせて電龍を横滑りしながら減速。姿勢を安定させ、今度は敵本隊の中央部に向け急発進を開始する。

今度は先ほどよりも速度を上げて突き進み、敵本隊と激突させた。


エアクッションに触れた兵士が遠くに飛ばされていくのを横目に、しっかりとハンドルを握り前だけを見ていた。


進み始めてすぐに小さな空白地帯に入った。

その空白の中央部に十数人が固まっている。


そこに一気に近づく。


「この!!」


こちらに気が付いた豪奢なマントをした馬上の兵士が振り返りざまに剣を抜き、振りかざす。



身近に死の匂い感じた。



生きるか死ぬかのコンマ何秒かの刹那の時間をかけて、接触する。

騎馬が迫る。そして、振りかざした剣が迫る...。


一瞬にして騎馬が見えなくなり、空白地帯が終わって再度兵士の集団に突っ込む事が出来た。


先程の兵士はおそらく、クラスタンプ軍の指揮官なのだろう。

こっちは無事だったが、あの兵士がどうなったのかは不明だ。


だが、おそらく個人的な目的を達成したと判断して、ここはそのまま突っ切る事にした。



そのまま本隊と500の歩兵集団を突っ切った。

その結果、歩兵集団は完全に崩壊。

戦力としては機能していない状態だった。


おそらく、そこら辺からかき集めた集団なんだろうな。

一目散にコープル目掛けて逃走し始めていた。


残りは1,500の本隊のみ。


見ると、先遣隊は歩兵集団を無視して、本隊を正面から攻め始めていた。

正しい判断だな。


クラスタンプ軍の本隊は、3回の突破作戦の結果、指揮命令も混乱しているように見える。

先遣隊の攻撃にも成す術もなく蹂躙されている。


タブレットを確認すると背後からのエルセリア軍の攻撃も有利に進んでいる。


一先ず、自分の仕事は終わったようなので、少し離れた場所で様子を見る事にした。

必要があれば、手助けをするつもりだったのだが、結局動く事はなかった。



この戦い、結論から言うと圧勝だった。


クラスタンプ軍は合計3回の突撃と、前後からの攻撃を喰らって崩壊したのだ。


指揮官はやはり私が撥ねたらしく、指揮系統が一気に瓦解。

統制が取れないまま、コープルに引き返して行ったのだ。



逃げる敵を追いかけず、逃走させた。

下手に捕虜を取っても面倒なだけだ。


戦場に残されたのは100名を超える敵軍の死体と、300名以上の怪我人。


現代だと怪我人は収容して捕虜にしたりするんだろうが、この世界の戦争では敵の怪我人は放置だ。

そもそも、私たちの砦に300以上を収容する場所はない。


怪我をして動けなくなっている士官らしき兵士を数名、情報収集の為連れてきたが特に治療する事もない。

現代人からしたら残酷だと思うが、これがこの世界の常識だ。


そして、こちらの被害だが怪我人が84名。内訳は先遣隊が51名、エルセリア軍が33名だ。幸運にも死者は0。


重傷者が数名いるのだが、それでも全体で見ると組織としては「軽傷」だ。



砦に凱旋し勝鬨を上げる。

こういう事はきちんとやっておかないと、戦意に関わってくるからな。


それと並行して、先遣隊の負傷者とエルセリア軍の負傷者を天幕に収容し治療にかかる。


神官戦士も50名ほどいるので、軽傷の兵士はすぐに傷が塞がった。

ただ重傷者はそうはいかない。


魔法で傷はほとんど塞がったが、ダメージは確実に残っている。

ゆっくり療養してもらうべく、砦に移ってもらう事にした。



夕方、勝ち戦に酔う兵士達は、砦の外で天幕を広げ、大いに喰い、大いに飲んでいた。


重傷者はなんとか持ちこたえ、今は安らかにベッドで寝ている。

ただ、もう二度と戦場には立てないだろう。


千里眼で確認すると、クラスタンプ軍はまだコープルに到着していない。


負傷者も多く抱えているので移動に時間がかかっている。

というか、負傷していないものは多くない。


さて、どれだけの人数が無事にコープルにたどり着けるのやら...。



こうして、エルセリア攻防戦は終わりを迎えた。

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