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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第5章 エルセリアの新たな始まりはマッド風味
54/55

■■■ Step042 領主の策を上回るマッドな謀略発動

領主による暴動を抑える事が出来るのか?

リョウの作戦は?

タニアのトドメは?


今回は見どころ(読みどころ?)が色々あります!

翌朝、いつも通りの時間に目が覚めた。


大阪だと6:00は早い時間帯だが、この世界の6:00はかなりの人数が起きている。

屋敷では、すでに人数分の朝食の準備が始まっているだろうな。


身支度を終えると、女性陣がリビングにやってきた。


「おはよう、リョウ。よく眠れたか?」

「それはこっちのセリフだ。そっちはパジャマパーティーだったんだろ?遅くまで起きてたんじゃないか?」

「それなんだが、私たちは早く寝る習慣があるからな。ベッドに入ったらすぐに寝てしまったんだ」

「そうなの?」

「はい。なので、私は皆様の寝言を聞いておりました」


お、それはとても興味があるな。

しかし、それをカラーに教えてって言ったら普通に教えてくれそうだけど、色々気まずいので止めておこう。


実際、タニアが睨んでいるしな。


「じゃあ、揃ったのでお屋敷の食堂に行って朝食を食べに行こう。それから作戦を考えようか」


昨日のうちにタニアが朝食のお願いをしていてくれたんだそう。


「賛成!」


と、リア。


「まずは食べないとな」


タニアも同意してくれた。


「タニアのところの朝食は美味いからな。楽しみだ」


ミームは相変わらずだな。


「私はいかがいたしましょうか?」


と、カラーが聞いてくる。


「食べれないのは知ってるけど、朝食後に話を色々とするから、とりあえず付いて来て」

「承知しました」


裏口からぞろぞろと屋敷に入るのだった。



朝食も食べ終わり、いつもの応接室で紅茶を飲みながら今後の動きについて話し合いをした。

この部屋でのお茶も、ずいぶん慣れてきたな。


「で、どうするんだ?リョウの中では色々と考えているみたいだが...」


対面に座るタニアが声を掛けてきた。

今回は私が言い出しっぺだからな。当然色々と考えてはいる。


「あぁ、色々あるんだけど、成功率を上げるのにみんなの意見を聞きたいんだよ」

「ご主人様のお考えでは、暴動が起こる直前に砦に乗り込み、タニアが領主になったと伝え、暴動そのものを潰すという事ですよね」


カラーが短く纏めてくれた。

分かりやすくて助かるな。


「そうだ。暴動の瞬間は千里眼とか別の手段があるから大丈夫。乗り込むのもゲートを使う。兵士への説得についても陛下の命令書があるし、裏技も用意した」

「ほぼ完璧じゃないか。どこにも問題はなさそうなんだけど?」


タニアが肩をすくめる。

いやいや、問題はそれだけじゃないんですよ。


「暴動そのものは潰せると思うが、もう一押ししてトドメを刺したい」

「うわぁ~...なんとなく相手が可哀そうな気がする...」


リアが眉をひそめているが、顔は笑っている。

全く可哀そうとは思っていないな。


「まぁ、そうかもだけど、今回は全て領主の責任だからね。思い知ってもらおうかと」

「暴動を起こそうとしたんだし、領主という地位でもあるから、普通に死刑だぞ?」


この世界だとそうなるだろうな。

特に領主と言う恵まれた地位にいるのだ。


死刑以外はないだろう。


「それはそうだろうね。だけど、これは他の貴族に対しても見せしめになるから、派手にやらないと意味が無い」

「なるほど。ご主人様はもし他の貴族が、エルセリア領主と同じ事をしたら悲惨は結果になるぞ。と、広く知らしめる訳ですね」

「そういう事。ちなみに、私の世界ではこれを『一罰百戒』っていうんだ」

「『一罰百戒』ですか...勉強になります」


一罰百戒は軍隊でも良く用いられるからな。

特に今回は効果的にやりたいのだ。


「で、トドメの話なんだけど、タニアにお願いしたいんだよ」

「私にか?」


のんびりとお茶をしていたタニアが驚く。

まさか、自分にそんな役割が来るとは思っていなかったんだろうな。


「仮とは言え領主になるんだ。今まで領主は特に大きな問題を起こさず、無難に領地を治めていたんだろう?」

「そうだな。不平不満はどこにでもあるからな。小さな問題に目を瞑れば、優秀な領主であると言えるだろう」

「と、いう事は、兵士たちにとっても得難い人物だったはずだ。それが変わるのは不満になるだろう」

「確かにな。しかし王族に連なる者とは言え、私は女だからな。軽く見られる可能性がある」


と言って、苦い顔をする。

色々と嫌な経験をしているのだろう。


「そこで領主と直接対決して、打ち負かして欲しいんだ」

「魔法で吹き飛ばせと?」


違う!

いや、やっても良いけどさ...。


「それでも良いけど、言葉で打ち負かして欲しいんだ。武力に頼らず、知力で領地を治めるという事を印象付けたい」

「まぁ、私としても武力よりも知力でというのが合っていると思うが...」

「もちろん、何かあると困るので、カラーに警護してもらうし、リアとミームにも付いてもらう」

「ん?リョウはどうするんだ?」

「私は問題ない。それこそ色々用意していくつもりだし。あ、弓矢に対しても対処しておくから、それも安心してくれ」


遠くから射られて『チーン』なんてのは勘弁だからな。


「助かる。しかし、やはりほぼリョウ任せになったな」

「いやいや、そもそも自分が言った事だからさ。自分の問題でもあるし、首都に行ってこの国に愛着が湧いたからな。出来る事はしようと思ったんだが...」

「だが?」

「今回はタニアには悪い事をしたなと思ってな。思いつきで領主にと推薦してしまった。申し訳ない...」


と、座ったままだが膝に手を突いて首を垂れる。


あの場で思いついて、良い案だと思って国王陛下に言っちゃったんだよな。

ちゃんと相手の事を考えて行動しなければならないのに。


今になって後悔が襲ってくる。

昔から思いつきで動いてしまうのは治っていないな。毎回反省だ。


「何を言うかと思えば、そんな事を気にしていたのか?」


だが、タニアは驚きつつもあっさりとしていた。


「当たり前だろう?タニアには嫌な思いをさせてしまったと思ってたからな」

「確かに、領主にはなりたくないな。しかし、ここにはゲートがある。ユリ達を危険な目に合わせる訳にはいかないさ。それに、私はエルセリアの住民でもあるし、王族に連なる者でもある。屋敷の者たちの事もある」

「ミームやスバンも居るしね」

「スバン?あぁ居たな」

「なんかひどい扱いだな...お隣さん」


スバン君が聞いたら泣くぞ?


「元々どうにかしたいとは思ってたんだ。ただ方法を思いつけなかった。だから、方法が分かって良かったと今は思っているよ」


タニアはうんうんと頷きながら納得していると伝えてくれた。


「そう言ってくれると助かる。当然、私が言いだしたんだ。タニアが領主を務める間は全面的に協力するから」

「リョウが助けてくれるのは非常に助かるな。だが、実際に治め始めたら人材が足りないだろうな」


タニアはもう次の事を考えているらしい。

この世界の事はタニアに任せよう。

そもそも私の知り合いって言われても、このメンバー以外だとスバン君だけだからな。


「それはすぐには無理だから、おいおい考えよう。まずは暴動を潰す所からだな」

「分かった。そうと決まれば私も準備をしよう」

「準備?」

「あぁ。しばらく忘れていたが、私も女だからな。女には女の戦い方があるんだ。領主との対決は任せろ」


タニアがやる気になっているのは良い事だと思おう。



さて、いよいよ後戻りのできない本番だ!!




午前中に準備を整え、屋敷で昼食を食べた後、大阪の研究所に戻り、千里眼で砦とクラスタンプ軍の動きを確認する。


ここから砦にゲートを開き、直接乱入するのだ。


事前にどういう流れで暴動を止めるのかについては計画を立ててある。

あとは実行あるのみだ。


「クラスタンプ軍は順調に北上してるな。明日の夕方には国境を越えるだろう」


クラスタンプ軍への対策はまだ考えていないが、まだ国境にも達してない。後手に回るが領主の件が最優先だ。

そんなにあちこち対応できないしな。


「砦もまだ大きな動きはないな。ただ、砦前の広場が整理されつつあるな」


テントなどがあったのだが、今日暴動を起こす前に全体に訓辞を垂れるつもりなんだろう。

国内の兵士に向かって、国内の、それも自分たちが守って来た街を攻撃するように言うんだから、厚顔無恥も良い所だ。


しかし、兵士は基本的に命令に従わなければならない。

場合によっては、自分の親族に手をかけるかも知れない。流石にそれは可哀そうだ。


「暴動が起きるのは今日で間違いなさそうだけど、問題は何時なのか...だな」

「恐らくですが、人が家に帰ってくる夕方になるのではないですか?」


カラーが意見を言ってきた。

どういう根拠になるんだ?


「外に出ている人間だけを制圧すれば良いから、楽だという事か」

「そういう事です」


なるほどね。

そういう観点は私には無いからな。非常に助かる。


ただ、私の考えだと一般家庭には手を出さないと思っている。

一般人の方が、兵士よりも圧倒的に多いからだ。

武器は持っていなくても、数の暴力には勇者でも勝てないからな。


しかしながら、ほとんどが屋内にいる可能性が高いのであれば、やはり決行は夕方になるだろう。


「じゃあ、夕方っていうのを想定するとしても、砦の監視はしておかなきゃだな」


時間を想定するのは良いが、絶対ではないからな。

準備はしつつ、監視は怠らないようにしよう。


「そういえば、どうして領主は暴動を起こすんだろ?」


突然、リアが疑問を投げかける。


「クラスタンプとは話が付いているのよね?だったら、クラスタンプ軍が来てから暴動を起こしても良いんじゃない?」


その考えは正しい。

しかしリアも色々と考えるようになってきて嬉しい。


ただ、私の考えは違う。そして、これは正直ゲスの考える話だ。

リアが思いつく事はありえない。


「あ~...今から話すのは想像の話になるんだが、今の砦に800人ぐらいの兵士が居て、砦にはこれ以上兵士が入れない状態でな...」


この砦は元々クラスタンプの砦で、最前線でもあったらしい。

本来であれば、もっと多くの兵士を受け入れられる規模なんだが、一般人を沢山受け入れてしまい、軍用地が少なくなっているのだ。


今では、砦そのものしか残っていない。


「うん、そんな話だったわよね」

「クラスタンプ軍は約2,000人らしいんだよ。でも、これが入る余地は砦には、もうない。さて、どうする?」


普通はこの時点で答えが出るんだけど?


「え?砦に無理矢理入れるんじゃ?」


そっちかい!!


「そんな事したら、クラスタンプ軍が暴動起こすよ?」

「え?それじゃだめじゃない!」


人数は倍以上だからな。そもそも入らない。


「だろう?じゃあどうするか?答えは簡単。空きの出た屋敷に入ってもらう。だ」


これを聞いたタニアは顔を青くする。

流石に察しが良いな。


「空きの出た屋敷?」

「例えば、タニアの屋敷は広いだろ?ここなら庭もあるから100人ぐらい余裕で入れそうだよな」


建物も大きいので、部隊長とかの仮住まいにしてしまうのもいいだろう。

厩もあるしな。


なにより砦に近い。


かなり良い物件じゃないか。


「え?じゃあ、お姉様とか、シャインとかは?」

「タニアとリアはお姫様だから砦に連行。屋敷の人はそのままクラスタンプで自由に使う事になるね」

「隣のスバンは?」


そういやいたな。

午前中に話に上がったが、私ももう忘れてたよ。


「領主に迎合すれば殺されないけど、歯向かえば殺される。そうすると屋敷が空く」

「それ、むちゃくちゃじゃない!!」


戦争はね、基本むちゃくちゃなんだよ。


「あと、大きな商家で屋敷を持っている所とかを抑えてしまえば、2,000人ぐらいは入るんじゃないかな」

「その為に暴動を起こして、各所を抑えて、クラスタンプ軍を迎えると...」


タニアは冷静だな。

と思ったが、目が冷たい。


紫色のオーラ―は出てないのが、怒っている事には変わりがないようだ。


「そうなると、エルセリアを取り戻すのは一気に難しくなる。37年前の戦争に逆戻りだ」

「なるほど。これは確かに私が領主にならなければならない理由になるな」


タニアの覚悟が決まったようだな。


「あくまでも想像の話だ。だが、説得力はあるだろう?」

「十分にある。いや、それしか無いだろう」


領主が「なぜ暴動を起こすのか」はまだ不明だが、「どう暴動を起こすのか」については、ほぼほぼ正解にたどり着いたと思っている。


「タニアもリアもミームもカラーも大切だし守りたいと思っているんだが、この屋敷の人間も守りたいんだ。だから、大変だけど力を貸してくれ」


本当は当事者である国王にすべて委ねれば良いのだろうが、目の前で俺以上の悪事があるのだ。これは俺のケジメだ。


「もちろん。ここは私の屋敷だからな。危害が加わる可能性があるなら対処する義務がある」

「アタシも!」

「私はこの街に住み着いて2年だからな。リョウ以上に愛着がある」

「私はご主人様に従います」

「ありがとう」


私は良い仲間に恵まれた。



太陽が傾き、そろそろ夕刻に入ろうかという時間。

街中はまだ騒がしくしている。

これは、ご婦人たちが駆け込みで夕飯の材料を買っているのだろうか。

もしくは、今から一杯引っかけに行くのだろうか。


同時刻、砦前の広場に600名程度の兵士が並んでいる。

残りの者は通常警護や門の警備、街中の詰め所などにいるのだろう。


広場に面した砦の広いテラスに数人、立っていた。

領主以下、上層部の者たちだろう。


午前中にドローンを飛ばし、砦のテラスの所に数機着陸させておいた。

ドローンには当然カメラとマイクが仕込まれている。


テラスの手すりに乗り出し、領主らしき壮年の男性が野太い大きな声で、テラス前に並んだ兵士に向かって叫ぶ。


「我が栄光あるエルセリアの兵士たちよ!時は来た!我々は無用な闘いを避けるため、立ち上がらなければならない!」


無用な闘いを行う者が何を言う。


「我が国はクラスタンプに対して冒涜を犯した。その為、クラスタンプ軍がこちらに攻め上がってきている!」


言っている意味が全く分からない。


「そこで私がクラスタンプに交渉を行い、エルセリアを差し出す事で争いを避ける事が出来たのだ!!」


はい?意味が分らん。


当然、これを現場の兵士たちも聞いているが、返答がない。

どちらかと言うとザワザワとした雰囲気だ。


うん。兵士たちも訳が分からんっていう事らしいな。

そりゃそうだろう。


「今、クラスタンプ軍2,000がこちらに向かって来ており、3日後にはエルセリアに到着すると思われる!!」


ここで兵士たちに大きな動揺が広がった。

自軍は800で敵軍は2,000だ。そりゃ心配になるだろうな。


もっとも、こっちは城壁があるから問題はないのだがな。


「だから我々は彼らを迎え入れる為に、エルセリアの貴族の屋敷を襲撃し、クラスタンプ軍2,000の受け入れ態勢を取るのだ!!」


おいおい...マジで想像通りかよ。


どうやら、時が来たようだ。



早速、砦の広いテラスの端っこにゲートを開く。

安全第一だからな。


ゲートが繋がった事を確認し、いつもの死神博士衣装で、旅行に使うスーツケースのような物を転がしながらゲートに向かう。

ちょっと様にならないが、今回はこれが必要だからな。


ゲート横にはカラーが立っていた。


「ご武運を」


綺麗なお辞儀をして、私を送り出してくれた。


「タニアを頼む」

「お任せください」


さて、しばらくは私1人で作戦を進める事になる。

いっちょ頑張りますか。



ゲートを通ると、兵士たちがかなりざわついているのが聞こえてきた。

そりゃそうだろう。

まさか、クラスタンプ軍を迎え入れるとは思っても見なかっただろう。さらに、貴族の屋敷に攻め込むなんて...。

エルセリアの貴族出身の兵士もいるだろうに、何を考えているんだろうな。


ゆっくりと領主に向かって歩く。

あまり近づくのも問題だから、早く気が付いて欲しいんだがな。


と思っていたら、割と早くこちらを見つけてくれた。

ゴロゴロとかなり大きな音を立てる荷物を持っているからな。気づいて当然か。


「な!お前はなんだ!!」


突然現れた私を見て、領主が驚く。

取り巻きの連中も驚いているが、こちらに来る気配はない。


どうやら、軍関係者ではないようだな。

領主以外では一人だけ剣を佩いているのがいるが、こいつも動く気配がない。


腰抜けか?


だが、そんな事に構ってはいられない。


手に持っていた旅行鞄のようなものを床に固定し、電源スイッチを入れる。

同時に弓矢に対抗する為の風の防壁魔法を無詠唱で展開。


襟元に仕込んだマイクを確認して、大きく息を吸う。


「私は国王ルイクス・ソラ・バルバクス陛下の使いのものである。領主、および兵士の諸君は伏して聞け!!」


大音量で砦と言わず、砦周辺の家々にまで私の声が轟いた。


旅行鞄のようなものは、特大スピーカーで、私の声を増幅しているのだ。私の話を絶対に聞かせる為の小道具の1つだ。


「ここに国王、ルイクス・ソラ・バルバクス陛下の署名と国璽の入った命令書がある!!現領主は排斥された!!」


ひときわ大きな声で言い放った。

それに応え、スピーカーからもエルセリア中に聞こえるかのような音量で吐き出される。


一瞬、街中の音が消えた。


次に起きたのは歓声だ。

もちろん、領主の歓声ではない。兵士たちの歓声だ。


ともかく、街を襲うと言う命令を聞く必要はなくなったのだ。


「嘘だ!それは、そんなはずはない!」


兵士の歓声にかき消されそうだが、目の前にいる私にはかろうじて聞こえた。

今、暴動を起こそうとしていたのに、どうして「そんなはずはない」と言えるんだ?


この領主の戯言も拾っておこうか。領主近くのドローンの指向性マイクをオンにする。


「国王陛下はお前の裏切りを知っていた。だから、この命令書があるのだ」

「どうしてだ!そもそも国王はそのような素振りを...」

「あんたも陛下にばれないようにしてたんだろ?一緒じゃないか」

「貴様!無礼な!!」

「反乱を起こそうとしている奴に言われたくないな」


こんな奴の相手は面倒だ。

さっさと引導を渡してやろう。


「では、今から新たな魔法を発動させる」

「新たな魔法だと?」

「今ここに、国王陛下の声と姿を届ける」

「なにぃ!」


領主が慌てふためいている。

ここまで驚くんだったら、初めからこんな事をしなけりゃ良いんだ。


「グラフティー!!」


適当な呪文を唱え、兵士たちに良く見えるように、背後にかなり濃い霧を広範囲に発生させる。それこそ30cm先も見えないような奴だ。

そこに、スピーカーの裏に設置した液晶プロジェクターで、国王を映し出したのだ。


濃霧に映し出される謁見の間の玉座に座る国王。その傍らには大将軍が控え、法皇の姿も見える。


これが今回の裏技の全容だ。

魔法と科学を使い、領主を含む全ての兵士に現実を知らしめる。と、同時に最高権力者であり、神の代理人たる国王の姿を見せつける事で、問答無用で終わらせるのだ。


「こ...国王陛下...まさか...すべて...」


領主は呆然自失の体で立ち尽くしている。



国王陛下のご尊顔を賜る事は、兵士にとっては最高の栄誉だと聞く。

なので、見た事がある者は多くはないが、皆無という事はないだろう。

見る者が見れば国王陛下である事は疑わないだろう。


手前の方から順に静かになっていく。


見ると、次々と跪いていた。

誰の指示でもなく、600の兵士が跪く光景は圧巻だ。国王が慕われている事が良く分かる。


逆に、領主...そういや「エバン・バースウィック」って聞いたな...は何度かあった事があるはずだな。逆にもう逃げられないだろう。


「どうして...このような...なぜ...」


領主は陛下の幻影に向かってつぶやいているが、国王陛下は答えない。


理由は簡単だ。

これは、私が国王陛下と謁見した時の映像を切り抜いたものだからだ。

だから動かないし、返事もしない。


だが、濃霧を背景にしたプロジェクターの映像は、神々しいものがある。

今、国王陛下が現れたと錯覚するには十分だろう。


「では、国王陛下。お願い致します」


そういうと、こっそり再生ボタンを押す。


『エバン・バースウィックをエルセリア、カタランス、コープルの領主から排し、新たにタニア・ソフリートを領主とする!』

「おぉ~!!」


兵士が歓声を上げる。

タニアが領主となるのを喜んでいるのではないな。これは国王の声を聞けて喜んでいるのだろう。


それでも良い。

この歓声は、そのまま領主への絶望に繋がるのだ。


『すべてタニアに任せておる。これは正式な王命である!!』

「「「「「おぉぉぉぉぉおおぉぉおおおぉぉおお!!!!」」」」」


先ほどの領主の演説の時とは違い、兵士たちは大歓声で答える。


実は、命令書を書いてもらうお願いをした後、先ほどの音声も録らせてもらったのだ。

その時は「役に立つかも」程度だったのだが、「こんな事もあろうかと」のように有効活用できた。


よし。これで根本的な対処は終わった。

あとは、トドメ...だな。


ゲートを見ると、丁度タニアが現れた所だった。



現れたタニアは...いつもの冒険者の姿ではなかった。


自分の忌まわしい二つ名である『紫紺の魔女』を彷彿させるような『紫紺』を基調に金と銀の刺繍を施し、意匠を凝らしたドレスを身に着けていたのだ。

頭にはティアラを乗せ、薄く化粧もしている。


王族としての圧倒的なオーラと、生まれ持った美しさだ。


二つ名の『紫紺』はタニアにとっては忌まわしいのかも知れないが、今は逆にこれほどタニアを引き立たせる色もない。


おかげでタニアの後ろから付いてくる、冒険者スタイルのリアとミーム、金色のフルプレートメイルのカラーに気が付くのが遅かった。



兵士たちはタニアを見て静かになっていく。

どうやら見惚れているらしい。


タニアは私から少し離れた場所で立ち止まり、私を見ることなく領主に向かって言い放つ。


「エバン。お前の負けだ」

「お前は...紫紺の魔女!!」


タニアにもピンマイクを付けておいたので問題ない。


この対決は兵士に聞かせなければならないのだ。

そして、この対決はぶっつけ本番だ。

タニアが負ける事は考えにくいが、不安はある。


思わずつばを飲み込んだ。


「そうだ。お前の代わりに領主となる、『紫紺の魔女』タニア・ソフリートである」

「貴様!貴様がなぜ領主に!!王家の横暴ではないか!!」

「横暴はお前だろう?残念だったな。領主という地位はお前の玩具ではない。お前のやった事は国へに裏切りだ」


国への裏切りという言葉を突き付けられ、領主は怒りで顔を真っ赤にして怒り狂った。


「うるさい!儂は今まで国に対して全てを捧げてきたのじゃ!次は儂の番じゃ!儂は戦いたいのじゃ!もう50も過ぎたのだ!もう、今しか...今しか儂は!!」


それが本音か。

愚かだな。


「世の中平和が一番なのだ。そもそも貴族は、領主は、民を守る為に務めなければならないはず。平穏に乱をわざわざ起こすようなものに領主は勤まらぬ。諦めろ」

「うるさい!!」


腰の剣を抜き放ち、タニアに切りかかろうとする。

そこに、タニアの傍に控えていた金色のフルプレートメイルを着こんだカラーがすばやく前に出て、領主の一撃を受け止める。


キィイイイィィン!


甲高い音が辺りに響き、領主が崩れ落ち、手から剣が落ちる。


あ、衝撃で手が痺れちゃったのね。


カラーは平然と立っている。

流石、堅牢不滅型ゴーレム。堅いですね。


リアとミームも動いていたのだが、カラーの動きが速すぎただけだ。


領主は痺れる手を抑えて、タニアを睨む。

対するタニアは、冷ややかな目で領主を見下ろしていた。



「父上!」


ん?父上と呼ぶって事は領主の息子だろうか?


私と年齢が変わらなさそうな男性が、剣を抜いてこちらに走ってくる。さっきの腰抜け君か。

タニアの邪魔をさせる訳にはいかないよな。


「おっと。動くなよ。今、良い所なんだからな」


タニアと男性の間に入り、腰に下げた星砕丸を抜き放ち、まっすぐ喉元を狙って左手で構える。

念のため、右手には拳銃を持っておく。


この世界では拳銃は威嚇にならないもんな。

そもそも、どういう武器かは認識がないからな。


「貴様は...タニアの下僕!」

「そうだよ。だから、タニアには近づけさせない」


ん?なんだろうな。さっきの言い様だと私の事を知ってそうな感じだな。

まぁ別にどうでも良いがな。


「下僕のくせに!下僕のくせに!下僕のくせに!」

「はいはい。うるさいよ」


拳銃持ってるけど、威嚇なら魔法の方が効果的だろうな。


「ファイア」


小さく呪文を唱え、喚き散らす領主の息子の足元に少し大きめの火柱を立ててやる。


「ひぃいいぃぃ!!」


と悲鳴を上げて静かになった。


うんうん。最初からそうしていようね。


見ると、タニアと領主の睨み合いはまだ続いていた。


「儂の偉業でエルセリアを得たのだ。儂がクラスタンプに返してやっても問題はあるまい!!」

「それは国家間での決め事である。個人で決める事ではない」

「だが、個人の行動によって得られた物である事には変わりはなかろう!!」

「その個人も国家に所属する。そもそもお前ひとりで得た訳ではあるまい。故に国家間の取り決めでエルセリアは我が国の所属となった」


タニアが淀みなくエバンの戯言に、丁寧に答えていく。

私は目の前の領主の倅を睨んでいるので、タニアを見る事が出来ないが、さぞかし見ごたえのある光景だろうな。


あとで動画で見てみよう。


見ごたえがある証拠に、誰も会話せずにタニアとエバンの会話を見守っているしな。


「そもそも、お前も国家の決定によってエルセリアの領主となったのであろう。であれば、お前も国に従うべきだ」

「うるさい!!この数十年間、戦いがなかったのだ。少しは大きな争いがなくては、兵士も武力も腐ろうというものだ!!」

「だからと言って、心が腐っては意味が無い。国の武は戦う事が目的ではない。民を守る事が目的である」

「そのような戯言を!」

「お前の戯言に比べれば、美しい戯言ではないか。民が国を支え、国が民を守る。どこに矛盾がある」

「おのれ!おのれ!おのれ!おのれ!」


まさか計画していた暴動が、こんな所で、しかも今からというタイミングで潰されるとは思っていなかったんだろう。


領主の座を解かれた自分に、もう兵士は命令を聞く事はない。

それは分かっているのだろう。


痺れの取れたのか、近くに落ちていた剣を握り、ゆっくりと立ち上がった。


なお、このテラスにいるのはほぼ文官のみのようで、剣を佩いているのはエバンと領主の息子のみ。


カラーは攻撃が出来ないので、ミームが前に出る。

昨日渡しておいた防具を着こみ、十文字槍を構えていた。


せっかくミームが出てきてくれたけど、エバンがどれぐらいの技量があるか分からない。

なので、一瞬で拳銃をホルスターに収め、腰の後ろに下げていたバッグからボーラを取り出し、エバンの足元に投げつける。


狙いたがわず、領主の両足にボーラが絡みついた。

領主はバランスを崩し、その場に倒れこむ。


「うぉおお!!なんだ!?これは!?」


慌ててももう遅い。

両足に絡みついたボーラは簡単には解けない。

紐もワイヤー製なので、簡単には切れない。


なお、ボーラというのは紐の両端に重りをつけた捕縛用の道具で、投げつけると獲物の脚に絡みつき、相手を傷つけずに転倒させることができる武器だ。


倒れこんだエバンをミームが確保した。


よし。領主は大丈夫だな。



「貴様!卑怯な!!」


と、領主の息子がいつの間にか手にしていた剣でかかって来た。


私から見ても全く持ち方がなっていない。

そこそこには強いんだろうが、少なくとも私には勝てないぞ。


左手に持った星砕丸で、振り下ろされてきた剣を払うように弾く。


「うぉ!」


と言いながら、剣に流されていった。


おいおい...ちゃんと剣ぐらいは振っておけよ?その様子じゃ、普段から練習もしてないだろ?


たたらを踏んで、改めて向き直る。

うん。やっぱり構えがなってない。


こいつもボーラの餌食にしてやろう。


と思って、再度腰のバッグに手をかけた瞬間。


「テキナ様!こちらへ!!」


気配を消していたのか、既に近くまで走り寄っていた女性が、素早い動きで腰だめにした剣を横なぎに振りぬいてきた。


明らかに強い!!


とっさの事だが刀を両手持ちにして、受けることが出来た。


厳しい顔で睨みつけてくる。

左目の下に涙ボクロのある女性。おそらく、リアの言っていた隠密の女性だろう。


「ミフル!遅ぇ!!」


領主の息子はテキナって名前なのか。

テキナは女性に対して...女性はミフルというのか...罵倒を浴びせ、テラスから砦の中に向かって走り去る。


追いかけたいが、動けないな。


技量も力量もミフルが上だ。このままだとマズい。

そう思った瞬間、ミフルがふっと力を抜いた。


これはヤバイ!


とっさに体勢が崩れないように踏ん張り、刀もしっかり持って剣が動かないようにした。が、それが誘いだったようだ。

剣で攻撃せず、正面からの体当たりを仕掛けられ、私は無様にそれを受けてしまい後方に吹き飛ぶ。


くそう!最近怠けていたから身体が思うように動かない!

テキナを笑えないな。


ミフルには刀では負ける。だったら銃だ!


転がりながら星砕丸を投げ捨て、起き上がりながら拳銃を抜く。



ミフルは...いない!



視界の外から襲撃される可能性を思い、誰もいない方に飛び込み前転をして、背後を確認する。



こっちにもいない!?



...ひょっとして!


慌ててテラスの手すりから、階下を覗き込む。

そこには兵士に紛れて逃げるミフルの後ろ姿が見えた。


あ~...これは無理だわ...。この距離で拳銃で撃とうとすると、兵士を撃ってしまうだろう。


一応、あとで千里眼で探そうと思うけど、この人数の間を抜ける小柄な女性は追えないだろうな。



ミフルの行動の目的はテキナを逃がす事だったのだろう。

出来ればエバンを解放する事だったんだろうが、そこにはタニア、リア、ミーム、カラーが居た。


瞬時にテキナを逃がした事で目的を達成したとして、自分も逃げに出た。


判断が早い。判断が的確。そして、強い。


もう、出会いたくないな。

それが見た目が魅力的な女性だとしても...。



振り返ると、エバンが縛られていた。


先ほどまでの愚かしい姿はなく、今は堂々と立っている。



正しく領主の姿だ。

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