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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第5章 エルセリアの新たな始まりはマッド風味
55/55

■■■ Step043 マッドな暴動の後始末はゆっくり出来ない

暴動を止めた後の色々なお片付けの回です

領主による暴動騒ぎは太陽が沈む前にすべて未遂で終わった。


事件は表面上、兵士が集められ、領主が失脚し、新しい領主が就任した。

それだけが事実だ。



前領主エバン・バースウィックは砦の一室に隔離した。

牢屋に入れようかという話もあったが、どうせ逃げる事が出来ないのだ。

身体調査を入念にして、小さな部屋に入ってもらった。


捕まって以降、一言も口を開こうとはしなかった。


戸口に兵士を立たせ、放置した。



領主の息子テキナは見つからなかった。

砦から外に出て、そのままエルセリアから出たらしい。


エルセリアの門に律儀にも記録を残してくれていた。

ミフルという女性も一緒のようだ。


他にも数名門から出たようだな。


向かっているのはコープル村だ。

今日中に到着し、明日にはクラスタンプ軍に合流するだろう。


こちらは放置するしかないな。

今から対応するにしても、人手が足りない。


それにしても、かなり面倒な奴等を放置する事になるのは痛いな。

特にミフルは放置したくないのだが、仕方ない。



砦にはエバンの息のかかった者は残っていなかった。

数名は捕まえる事が出来たが、他はどさくさに紛れて逃げたようだ。


別に構わないだろう。

もう、表舞台に戻る事はないだろうから。



なお、金庫番だった者は捕まえた。

大量の金貨を持ちだそうとして、重くて動けなくなっていた所を私が確保したのだ。


実は真っ先に確認に向かったのが、領主の執務室と金庫だ。


執務室にはタニアとリア、ミームとカラーの4人。

金庫には私が向かったのだ。


執務室はもぬけの殻で、特に荒らされた形跡はない。


だが、金庫の部屋では金庫番...というか会計担当と言うのかな?が一生懸命に金貨の入った袋を持ち上げようとしていた所だった。

線の細い力仕事には無縁そうな男性だったので、簡単に取り押さえる事が出来た。


まぁ、どこにでもこういう人物はいるものだ。

粛々と処罰をして...と思っていたら、死刑なんだそう。


貴族や軍の金庫番は信用で成り立っており、対価は命なんだそう。

こういう世界だから仕方ないとは言え、ちょっと辛いな。



他は食料とか、武器の在庫とか、書類とかだが、それは一旦良い。


食料や武器は最悪買えばいいからな。

書類は...まぁ持ち出す者はいないか。



そして、集まった800名の兵士はそのまま砦に逗留してもらった。

個人的には解散させたいのだが、クラスタンプ軍が北上してきている。おそらく明日の夕方には国境を超えるだろうからな。



なお、私たちがゲートで突然砦に姿を現した件については、兵士の間では話題になってない。らしい。


話題になっていない原因は、国王陛下の姿を霧に映し出した事なんだそう。

あちらの印象が強すぎて、私たちが出てきた事は完全に埋もれてしまったようだ。


ただし、タニアと領主の対決はしっかりと印象付ける事が出来たようだ。

兵士の間でも、国王陛下を見れた事と、タニアが領主を圧倒した事が語られている。


それは目的の一つでもあったので非常に安心した。

このままゲートの事は忘れ去って欲しい所だ。



ともかく、暴動は押さえた事、エバンの事、テキナの事、被害状況、そしてクラスタンプ軍の事を国王陛下に報告する早馬を出しておいた。


タニアの初仕事は報告書作成になった。



日は落ちたが、ある程度の事は終わらせなければならない。


という事で、今も領主の執務室で打合せをしていたが、それももう終わりだ。


「タニア様。この後如何いたしましょうか」


領主の執務室で、新たな領主となったタニアに向かってお伺いをたてているのは、エルセリア軍をまとめるパストング大隊長だ。

パストング大隊長は混乱する兵士を取りまとめてくれたのだ。

まだ、衝撃が強くて、一部統制が取れていない部隊があるようだが、それも時間の問題だろう。


「そうだな。直近の問題としてクラスタンプ軍が迫ってきているという件がある。まずは軍を取りまとめる事を優先してほしい」

「承知しました」


パストングさんは部屋から出て行った。



ふぅ~...。


タニアが席に深く沈み込み、深いため息をついた。


「流石に疲れたみたいだな」


と、横から声を掛ける。

ちらりと私を見ただけで、タニアは沈み込んだままだ。

明らかに疲れている。


ちなみに、着替える時間もなかったので、テラスの時の衣装のままだ。

流石にティアラなどの装飾品は外してはいるが。


「まぁそうだな。あの騒動の直後だから、問題だらけで何をして良いのか分からないというのはしんどいな」


私は執務室に座るタニアの横に立っており、助言をしようとしていたのだが、今のところ助言をする事もなくタニアは無難に対応していた。


先日、タニアの領主としての能力については分からないと言ったが、なかなかどうしてかなり有能なんじゃないかと思う。

問題解決能力という事では、かなり高度な領域に達しているんじゃないかな。


ただ、もう今日の所はする事はないはずだ。

少なくとも、今のタニアにそれをこなす余力は無い。


早くタニアを休ませてやらないとな。


「とりあえず、今日の所はこれ以上する事はないだろう。一度屋敷に戻って遅い夕食にしよう」

「そうだな。そう言えばお腹が空いたな」


座ったまま背伸びをするタニアを見ながら、一応報告しといた良さそうな事を伝える。


「そうそう。領主の息子だがコープルに到達したぞ」

「そうか...この時間じゃコープルに使者を向かわせるのも無理だな。明日は早々にクラスタンプ軍に合流するだろうしな」


テキナはクラスタンプ軍に合流するつもりだろう、と思っていたが、タニアも同じ判断のようだ。


クラスタンプ軍はテキナから情報を得たら、そのまま引き返してくれるかも知れないから、一旦こっちは放置でいいだろう。

千里眼での監視は続けるけどな。


だけど、引き返しはしないだろうな。

そんな事したら面子丸つぶれだからな。


「色々あったけど、一番大変なのは終わったんだよね?」


と、リアが聞いてきた。


執務室には護衛と言う事でリアとミーム、そしてカラーが居た。

私はタニアの下僕...もとい、副官としてタニアの横に居るのである。


「確かに一番の問題は解決したかもな。だが、クラスタンプ軍がこっちに向かってきているから、まだまだ大変だと思うぞ?」

「え~...やだぁ~...」


その気持ちは分かる。

私も嫌だ。


「リョウはクラスタンプ軍への対応は何か考えているのか?」


ミームが心配そうに聞いてくる。

戦争の経験がないし、そもそも冒険者だからな。人間同士の戦いなんてあまり経験がないだろう。


「考えているけど、まとまらないんだよ。とりあえず明日考えようと思ってるんだよな」

「明日?なんで?」


明日には国境を超えてくるハズなのに?とリアが不思議そうに聞いてくる。


「領主の息子が、おそらく明日クラスタンプ軍と接触するから、引き返してくれないかな~って思ってるんだよね」

「あ~確かに。引き返してくれれば問題ないって事だもんね」


あくまでも希望的観測なんだけどね。


「だけど、おそらくエルセリアにやってくると思う」

「どうしてよ?作戦は失敗したんでしょ?」


リアが食い下がってくる。


「作戦は失敗したけどね。だけど、国が軍隊を動かしてきて、何もせずに帰るっていうのはあまりしないハズなんだ。メンツが潰れるからね」


軍隊というのは国のメンツも一緒に運んでやってくるからな。

簡単には引き下がってくれないのだ。


「ま、そうだよな」


と、ミームがうんうんと頷いている。


そこで問題なのが国境とエルセリアの間にあるコープル村だ。

このままだと、クラスタンプ軍に蹂躙されてしまう。


村そのものは守れないが、住民は助けたいんだよな。

ていうか、助けないと領主の仕事をしていない事になっちゃうからな。


「で、問題はコープル村なんだけど、何人ぐらい居るんだろう?」

「大きな村ではないからな。ざっと350人ぐらいじゃなかったかな?」


タニアが答えてくれた。さすが、タニア先生だ。

350人というのは普通の村の人数の範囲では多めだが、国境付近だがエルセリアに近い村と言う事なので若干多いのだろう。


「エルセリアから荷馬車を100台ぐらい派遣して、ここに連れて来たいんだけど?」

「明日国境を超えるんだろ?ここからだと馬ですぐだが、荷馬車だと速度は出せないぞ?ちょっと難しいんじゃないかな?」


と、これはミームだ。

冒険者としてコープル村にも言った事があるのだろう。的確な判断だな。


だが、クラスタンプ軍の動きが想定よりも少し遅いんだよね。

明日は国境を越えてすぐぐらいで野営になると思う。


「いや、明日国境を超えるけど、コープルまでは到達できないぞ?」

「そうなのか?じゃあ、大丈夫じゃないかな」


ミームは軍隊の経験はないが、ざくっとした状況整理は出来るみたいだな。


「よし。じゃあ、明日は部隊を編成して、コープルに行ってもらおう」


タニアが私の案に決定を出したので、明日の行動が決まった。


「あ、それから籠城する事になると思うので、食料も確保したいんな。トモニアにも連絡して、ついでに穀物も持ってきて欲しいな」

「確かに食料は必要だな。分かった。それも明日指示をしよう」

「それと弓矢の確認と確保。まぁこれは急がないけど、やっといた方がいいだろうな」

「よくそんなにポンポンと思いつくな。しかし、確かに必要だな」


半分驚き、半分呆れた顔でタニアが私の顔を見てくる。

仕方ないだろう。連鎖的に思いついてしまうんだから。


ふむ、と顎に指を当てて少し考えてから、タニアが再度聞いてくる。


「副官殿、他には何かあるのか?」


わざわざ副官と言って来る辺り、余裕が出てきたのかもな。


「いや、流石にもう思いつかないよ。あとはクラスタンプ軍の動きが分かってからだね」


とにかく、さっきまではエバンの暴動しか頭になかったので、こっちの問題に意識が向いたのはついさっきなんだ。

一人で抱え込んでいるつもりはないけど、考えがまとまらない内に話をする気がしないだけなんだよね。


「そうなのか?まぁ、本来は私が考えなければだと思うが、こういう事は本当に分からなくてな。申し訳ない」

「いやいや、大丈夫だよ。偶然だけど、私はこういう作戦を考える事もしてた事があるからな。今は任せてくれ」

「よろしく頼む」


戦略や戦術に関しては、あっちの世界では色々と考察されているし、今からでも考える時間はあるだろう。

少々行き当たりばったり感はあるけど、許して欲しいな。


「話はまとまった?」

「一応はな」


と、リアが少し膨れている。どうしたんだ?


「じゃあ、一度屋敷に戻ろうよ。本当にお腹空いたし!」

「そうだった。じゃあ、一旦戻ろうか」


私たちは一度屋敷に戻り、遅い夕食を済ませ、夜霧で風呂に入り、そのまま夜霧で休んだ。

流石に全員が疲れていたので、屋敷が目と鼻の先なんだけど、戻るのも億劫だったのだ。



翌朝、屋敷で朝食を食べた後、電龍と夜霧で砦に向かう。


本日から砦で寝泊まりをする為だ。

エルセリアの領主になったんだから当然だな。


兵士に注目される中、砦の前に駐車し、そのまま執務室に入る。

電龍は電子ロックがかかっているので問題ないし、夜霧も入口は指紋認証だから、登録された者以外は中に入れない

登録者は私と大阪の3人娘、タニア、リア、ミーム。そしてカラーだ。


そうそう、カラーは指紋があった。試しに登録してみたら登録出来たのだ。カラー本人も驚いていたが。


イスフォーンの創造の力は凄いね。流石神々の一柱だわ。



「後でシャインが屋敷の人間を連れて砦に来る事になってる。彼らの部屋も確保しないとな」


タニアが執務室に入って、席に着いたところで話を切り出す。


すでにタニア以下、リア、ミーム、私の部屋は決まっていた。


タニアは前領主の部屋だ。

いくつもの部屋がセットになっている、大部屋だ。

武骨なエバンらしく、必要最低限のものしか無かったようで、ベッドなどの入れ替えぐらいで済んだそうだ。


タニアは「こんな広い部屋は不要なんだがな...」と言ったそうだが、問題ではないのだから我慢してもらおう。



そして私はタニアと同様に、いくつかの部屋が配置された大部屋となった。

特に使われていなかったようで、荷物はほとんど入っていない。

こっちは寝具を入れ替えたぐらいだ。


タニアの屋敷はコープルの民に解放するので、納屋に設置していたゲートを移設する必要があった。

確認すると、一部屋何もない部屋があったので、そこに納屋のゲートを移設した。


後で施錠とかも考えなきゃだな。


リアとミームの複数の部屋があるそうだが、ミニマリストの2人は相談の上、一緒の部屋にしたそうだ。


そして、カラーは私の侍女なので、私と同室だ。

カラーがどうしても譲らなかったのだ。


しかも、キャリーが部屋付きのメイドになった。


私に2人も付くのか?

まぁ、カラーは侍女と言ってもほぼ護衛に近いからな。問題ないか。



ともかく、砦の中は整理しなければならない事だらけだ。

前任の者はほぼ全て逃げ出したからな。


これは早急に人員確保をしなければマズイな。



「タニアの屋敷は数人を残してほぼ空っぽになるな」


管理しなければならない物が残っているので、2人程が数日残る。

最終的には全員が砦に集結する事になるのだ。


「仕方ない。今後は砦が拠点になるんだ。私の荷物もこちらに持ってこなければならないが、それは屋敷の者たちに頼んでおいた」

「アタシの荷物はあまりないから、夜霧に乗せたけどね」

「私はあとで宿屋に行かなきゃだな」


と、今後の生活について色々やらなきゃならないが、今日の業務を進めなければだな。


早速、パストング大隊長を呼んで、今後の指示を行った。

指示を出すのは当然タニアだ。


「クラスタンプ軍がこちらに向かって来ている件は承知しているな」

「はい。前領主のエバン様が昨日おっしゃっていましたので」


昨日のテラスでの領主の言葉は、全員ではないが、テラス近くの者には聞こえていたらしい。

そして、昨日のうちに兵士全体に伝わったそうだ。


私たちと領主のやり取りは、スピーカーを通して全員が知っているので、すんなりと納得したそうだ。


「こちらの調査で、今日にもクラスタンプ軍が国境を超えそうなのだ。明日にはコープルに届くだろう」

「本当にそこまで来ているのですね...完全に出遅れてしまっていますね」


コープルに常駐する騎士たちも居るのだが、全てエバンの息がかかっており、北上するクラスタンプ軍に対しての報告はエバンだけにしていたようだ。

エバンは悪い意味できちんと情報操作を行っていたらしいな。


「エバンが変な事を考えず、普通に対応してくれていれば良かったんだが、そんな事を言っても仕方がない。ともかくコープルの民が危険なので、全員を今からエルセリアに移動させようと思っている」

「それは良いのですが、どのように致しましょうか」

「荷馬車を街中からかき集めてくれ。とりあえず100台ほどあれば良いだろう。そこに住民を乗せてエルセリアに入ってもらう」

「入ってもらうのは良いですが、コープルの住民は400名には足りないぐらいですが住居がありませんよ?」


流石に現状把握は出来ているようだな。


「それこそエバンの策ではないが、貴族の邸宅の庭を貸してもらおう。緊急事態だからな」

「貴族の邸宅をですか?」


と、パストング大隊長が驚く。

まぁ、その発想は普通は無いもんね。


「そうだ。まずは私の屋敷を解放する。庭は広いので100名ぐらいは大丈夫だろう」


一番広い訳ではないが、それでもかなりの土地がある。


「分かりました。では荷馬車を用意する部隊と、貴族の邸宅に向かう部隊が必要ですね」

「あと、トモニアに早馬を出してくれ。恐らく籠城戦になるので、食料を用意して欲しいと伝えて欲しい」

「今からだとギリギリですね。そちらも急ぎましょう」

「それから、籠城戦になるので弓矢も確保しなければならない。今の在庫を確認しておいて欲しい」

「やる事が多いですね。分かりました。手分けして行いましょう」

「すまないな。今回は流石に時間が無さすぎるので、苦労を掛けてしまうがよろしく頼む」


いや本当に時間がない。

そんな中でも、きっちりと仕事をこなしてくれるパストング大隊長は優秀だな。


「いいえ。貴女のおっしゃった『民が国を支え、国が民を守る』という言葉に感銘を受けました。私は軍人ですので、民を守る事に専念しましょう」


なるほど。タニアの名演説が早速功を奏した感じだな。

詳しい台本などは考えていなかったし、正直これはタニアが成すべき事だったので、私は何も言わなかったのだが、タニアなりに「領主とは」と考えていたようだ。


「ありがとう」


タニアは自分の言った事が受け入れられた事が嬉しいようだ。

満面の笑みでパストング大隊長を見送ったのだった。


さて、これで今日からやる事は決まったな。



兵士が800人も居ると結構物事が早く動くな。この人数は足枷になるかと思ったが、そうではなかったのはちょっとした誤算だ。

と言うのも、午前中に荷馬車が131台集まったのだ。


聞けば、コープル村の住民を助けるという事で、率先して荷馬車を貸してくれたとの事。


予定よりも多く集まったので、午後からは兵士を150名と荷馬車を110台コープルに向けて移動させ、トモニアに向けては兵士30名、荷馬車20台を移動させた。

ちょっと申し訳ないと思いつつ1台は領主権限で借りて、屋敷から荷物を移動させるのに使わせてもらう事にした。


キナーフ老人がイスリーとマールスを連れて午前中に砦に入ったので、2頭に荷馬車を牽かせて屋敷に残っている荷物を取りに行ってもらった。

当然、1人じゃ無理なので、5人程一緒に行ってもらっている。

全部荷物を持ってくる事もないので、3往復もすれば良いだろう。


「老人をこんなに働かせおって!」


と怒っていたが、機嫌よく屋敷に向かって行った。



貴族の邸宅はタニアの屋敷を含め6邸宅確保した。

スバン君の邸宅も確保対象だ。


それぞれの庭にテントを張り、そこにコープル村の住民に入ってもらう事になる。

少々...ではないな。かなり不自由な思いをするだろうが、命あっての物種だからな。我慢してもらうしかない。


タニアの屋敷にはコープル村の村長と駐留していた騎士に使ってもらう事にした。

あそこは建物ごと空いているんだから、有効活用しなきゃな。



日が落ちる前にコープル村の住民がエルセリアに到着した。

家財道具は流石に持って来れないが、必要最低限のものを持っての避難だ。

食事もしていないハズなので、兵士に命じて各邸宅で食事を出すようにしておいた。


明日からは材料を渡して、各自で作ってもらおう。


ともかく、懸案だったコープル村の住民の件が一段落ついた。


現状ではコープル村の住人は命が助かったという認識なので大人しく指示に従ってくれている。

不自由を感じ始めるのは早ければ明後日ぐらいからかな...。



コープル村に派遣した兵士の報告によると、村を守るべき騎士は居なかったそうだ。

村人に聞いたところ、今朝早く騎士が全員国境に向けて出かけたと言う。

なんでも「クラスタンプ軍が近づいているので、村の為に少しでも兵力を削ぐ」と出かけ、帰って来なかったとの事。


おそらくテキナと一緒にクラスタンプ軍に下ったんだろうな。

余所者が順応するのは難しいだろうに...。ま、自ら望んだのだ。苦労してもらおう。


だが、これでこちらの情報が駄々洩れになった。


まず、領主がタニアに変わった事。

テキナが出ていくまでの砦の状況。

兵力、食糧事情、砦の弱点...いや、弱点は元々クラスタンプの砦だから、それは知っているか。

例えば抜け道...とか...。


あ...これって、めっちゃヤバくない?


ともかく、気を付けなければならないな。


向こうが知らないのは...千里眼ぐらいか?


いや、逆に千里眼はかなり有利な道具だ。

なんせ、相手の配置が丸わかりだからな。かなりのチートじゃないか。


でも、問題は抜け道だな。これは砦内の警備を強化しなきゃならないが...さて、どうしようかな。


とりあえず、まだクラスタンプ軍が動いていないから後で良いか。



日が落ちた事もあり、夜霧で色々調べものをした後、タニアの執務室に赴く。


入口の兵士が私を見てすぐに扉を開けてくれる。

すでに顔パス状態だ。


部屋にはタニア、リア、ミーム、カラー、パストングが居た。


さて、今日は色々と動いたけど、無事に終わりそうだな。

ただ明日の事もあるので、報告と確認の会議を行う事にした。


パストングが居る前でタブレットは出せないので、羊皮紙に簡単に地図を書いて、そこに駒を置いての会議だ。


パストング大隊長からの報告では、軍の混乱は収まり、今は問題はないとの事。

コープル村の方は全員エルセリアに入ったとの事で、こちらも問題はない。

トモニア村からの糧食の補給については、荷馬車に満載して明日の朝村を出て、夕方にはエルセリアに到着するとの事だ。


また、弓矢に関しては元々戦いをする予定だったので、普段よりも多く蓄えていたそうだ。

水は隣接する湖から確保できているので、糧食が入ればしばらくは籠城出来るだろう。


それから、首都セルドイから先遣隊と思われる500騎が出動し、川沿いの都市コヨンに到着した事を確認できている。

パストングには、事前に国王から聞いていたという事にしておいた。


「速いですね。この分だと明日にはエルセリアに到着するかも知れませんね」

「確かにそうだが、副官殿の意見は違うようだぞ?」

「そうなのですか?」


そうそう。私の立ち位置は「タニアの副官」という事になった。

副官なので、いつも近くに居ても問題は無い。


「詳しい話を陛下から聞いたわけではないので、これは私の想像になるのですが、おそらく明日はトモニア経由でオクルに到着して一泊する事になるかと」

「それはどういう理由で?」

「暴動が成功していれば500騎ではエルセリアを落とせません。ですから、本隊が来るまでに状況確認に徹する事になります。また、暴動が止められた場合ですが、エルセリアは城塞都市ですので、簡単に落とせません。であれば、挟み撃ちにする事を狙うでしょう」

「なるほど。確かにそうですね」


と、ここまで話をして今日は打合せを終了した。



パストングが退出したら、空気が軽くなる。

別にパストングが悪いわけではなく、暴動を阻止して2日目だからな。

このメンバーになると、緊張感が良い意味で抜けるのだ。


それぞれがソファーに座り、少し会話を楽しむ事になった。


「タニア。コープル村の件は予定していた通り完了したな」

「あぁ、パストングが色々と調整してくれた結果だな」

「いや、本当に得難い人物だ。本当に助かるよな」

「今はすぐは無理だが、いずれキチンと褒章を与えよう」


そういや、タニアは領主になったから、そういうのが出来るって事だな。


「それが良いだろうな。で、今後の事なんだけどな」

「もう次の問題か?やれやれ、領主は本当に大変だな」


暴動が落ち着き、コープル村の問題も一応片付いたからな。

だが、このコープル村の住人が問題になってくる可能性があるんだよな。


「全くだな。ともかく、エルセリアに連れてきたコープル村の住人が、生活で困って文句を言いださないかが心配なんだ」

「あ~...それはありえるな」

「え?そうなの?」


と、これはリア。


「命が助かったんだし、ここなら安全なんだから、文句なんて言わないでしょ?」

「確かに、数日は大人しくしているだろうけど、時間が経つと不便なものは不便だからな。文句と言うよりも色々お願いを言って来るだろうな」

「お願い?」


不思議な顔をするリア。

ミームも首を傾げている。


まぁ、こういうのは分かりにくいだろうな。いや、分かりにくいというより思いつくかどうかだな。


「例えば、もっと美味しい食べ物が欲しいだとか、服が欲しいとか、生活に関わる事で言ってきそうなんだよな」

「あ~...美味しいものはダメだけど、服は欲しいかもね。着の身着のままに来たんでしょ?」

「そうなんだよな。だから、出来るだけ早くクラスタンプを追い出したいんだよ」


今はそれが一番の問題なんだよな。


「確かに、それが一番の解決方法だろうが、如何せん戦力差があるよな」

「そうなんだよ。それが一番の悩みなんだが、ま、もうしばらくは住民も大人しくしてくれているハズだから、その間に問題が解決できれば良いな」

「リョウは結構楽観的だな」

「そうか?これでもかなり考えているんだぞ?」

「いや、それは分かっている。色々考えているが、それを良い方向に考えているんだなと思ってな」

「あ~...どうなんだろうな。こんな面倒な事は楽に終われば良いなって思っているだけだと思うぞ?」


発生しそうな問題を事前に考えておけば、実際に問題が発生した時も慌てないし、場合によっては解決方法も思いつく事もあるからな。


「そうなのか?私としたら、リョウが考えている良い方向にすべてが進んでいるようで、非常に驚いているんだが...」

「いや、それははっきり言って偶然だ。私も普通の人間だからな。失敗や読み間違えは普通にある。だから、タニア達の意見はとてもありがたいんだぞ?」

「そうなのか?じゃあ、今後もいっぱい色々と意見を言わせてもらうぞ?」

「あぁ、お願い致します。領主様」

「おい!!」


タニアに怒られてしまったが、タニアも笑顔だ。

やっとタニアも気持ちが落ち着いてきたんだな。


とにかく、暴動は阻止出来たのだ。

援軍もやってくる。

今日はゆっくりと眠れそうだ。



と思っていたが、そこにパストング大隊長が入室してきた。

その顔は...暗い。


「タニア様。ご報告がございます」


その顔は辛そうだ。

何かあったのだろう。


タニアも先ほどの笑顔が消え、真剣な顔でパストングに向かう。


「どうした?何か大きな問題でも発生したのか?」


そのタニアの声から数秒後、パストングが重い口を開く。


「エバン様...いえ、前領主が食事を一切されません」

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