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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第4章 異世界のやはりマッドな世界
49/55

■■■ Step040 エルセリアがマッドに内外から攻め込まれている

第4章最終話になります。

この後、サブストーリー2話分公開になりますが、誰のサブストーリーになるでしょう?

事の重大さに気が付き、通話をスピーカーモードにする。

同じ話を2回するのは面倒だからな。


問題があるとすれば、この会話が「どういうものなのか?」という事だが、そこは「通信魔法」で押し通そう。


「エルセリア領主による暴動の可能性という事だが!?なぜだ?」


あまりにも荒唐無稽の内容なので、思わず大きな声になってしまった。


「なぜは分かりません。が、砦に兵士が集まっており、その数800名を超えているようです」

「あの小さな砦に800名?多すぎだろ?」


人数だけなら詰めれば900名は入るだろうが、兵站が持たないぞ?


「それよりも、もっと良くない情報があります」

「もっと良くない情報?」

「本日昼前にクラスタンプ軍が首都から出てきておりましたが、エルセリアに向けて北上してきています。その数約2,000」

「約2,000!?」


クラスタンプの首都タカラスから、まとまった兵士が出てきたのは知ってはいたが、演習か何かだと思っていたが、エルセリアに向かって来ている?


それにしても、クラスタンプ軍はエルセリアの兵士800よりも多いが、攻城戦にしては少ないぞ?

あの城塞都市を2,000という人数で攻略できるのか?無理だろ?

普通に考えて桁が一つ足らない。最低でも20,000は兵が必要だ。


「正直、2,000ではエルセリアを落とす事は不可能です。ですが、内側からも暴動が起きれば簡単にエルセリアは落ちます」


おそらくアリスの考察内容だろう。カラーが考えられるケースを教えてくれた。

確かに「トロイの木馬」などでも伝えられるように、内部からの攻撃は致命傷だからな。


「内部で領主が暴動を起こすというかもしれない。という根拠はそれか?」

「はい」


エルセリアの情報とクラスタンプ軍の情報を得てから、カラーちアリスと色々協議したのだろう。

アリスはAIなので、自発的な発言は出来ない。聞かれないと説明出来ないから、そこをカラーとアリスで役割分担した結果を伝えてきてくれたようだ。


「アリス、聞いているな?確認して欲しい事がある」

「はい」

「クラスタンプ軍が動くタイミングと領主の動きが合っている。何かしらの人の動きがあるはずだ。遡って人の動きを確認してくれ」

「承知しました」

「あと、エルセリアの街中の動きを監視してくれ。クラスタンプ軍の動きはまだ誰も知らないはずだから、変な動きがあればそこから特定できるかも知れない」

「承知しました」

「ちなみに、クラスタンプ軍の目的がエルセリアだとして、何日後に到着するんだ?」

「3日後に国境を越え、4日後にコープルに到着。5日後にエルセリアに到達します」


これはカラーが答えてくれた。

なるほど、状況的に分かりやすいな。


「少なくとも国境を超える3日後にはエルセリアでも大騒ぎになるな。となると、その前に暴動が起きそうだな」

「ですので、明日か明後日には暴動が起きるかも知れません」


その考察は正しいだろう。

37年間平和だった街だから、大軍を目の前にしたら大騒ぎになる。

その前に暴動を起こし、一気に軍事的に街を占拠してしまうのだ。


特に現領主なので、失敗はしないだろう。


それに「クラスタンプとは話がついている。街中は安全だ」とでも言えば、住民は素直に従うだろう。


「分かった。ありがとう。後で夜霧に行くから、それまでは情報収集をしておいてくれ」

「分かりました」

「一旦通話を切るが、暴動が始まったら遠慮なく連絡してくれ」

「分かりました」


さて、通話を切って周りを見渡す。

先程までの和気あいあいとした雰囲気は微塵もなく、全員が緊張した面持ちで私を見ている。


私を見ていても仕方ないでしょうに。


だが、こんな急な話や今の通話内容、そもそも『通話』というものに驚いているんだろうな。



場が動かないのであれば、こっちで動かすしかない。


「国王陛下。聞いての通りです」

「聞いた。が、全く信じられない。そもそも先ほどの会話は何なのだ?」


やはりそこが気になりますよね。


「これは私が開発した通話を行う魔法です。私の乗って来た乗り物のように離れた場所でも会話が出来るようになっています」

「腹話術ではあるまいな?」

「私はそこまで器用ではありませんよ」

「確かに...あのゴーレムの声真似は難しいであろうな」


と言いながらも国王は難しい顔で考え込んでいる。


カラーは声だけで美人だと思わせる綺麗なソプラノだからな。

男の私には絶対真似できない。


「もう一つ。なぜエルセリアとクラスタンプの事が分ったのだ」


当然、それも気になるだろう。

ていうか、それが一番問題になる所だろうな。


「そちらに関しても私の魔法だとしか言えません」

「荒唐無稽で信じられぬ。説明は出来ぬのか?」


本当はタブレットで現物を見せれば良いだろうが、国王に見せるのはダメだろう。

この情報はあくまでも我々が活用するだけで、国家レベルで使わせるつもりはない。


「この魔法は私の秘密の根幹です。容易く見せる訳にはいきません」

「国王である余にもか?」


静かな声だがかなりの圧力だ。

ここは食堂で、国王一家以外では、周りは侍女やメイドしかいない。


彼女たちは圧力を感じて一気に壁際の花となった。


これは、ちょっと困ったな。

こんな事なら会話をオープンにしなければ良かったよ。


「私はタニアの友人ですが、この国の人間ではありませんので、陛下でもダメなものはダメです」


その瞬間、法皇と大将軍も圧をかけてきた。


壁際の花はあっという間に散ってしまった。

残っているのは国王一家だけだ。


「余は神の代理人であるぞ!」


威厳のある声が食堂中に響き渡る。


国王はその存在だけで正義だ。

いや、ホントにマズイな。このままだと投獄される可能性がある。


だが、残念ながら私にはそういう権威は通じない。

その国の国王に歯向かうという、ヤバイ状況である事は認識しているが、こういう風に上から押し付けてくる事に対しては屈服する気はさらさらない。


それに「神」を盾にするならこちらにも手はある。


「敢えて申し上げますが、こちらは神に直接仕えていたゴーレムが私に仕えております。格で言えば私の方が上ですよ」


正直、カラーがイスフォーンによって創造されたゴーレムという証拠はない。

が、そもそもイスフォーンは神話によると反逆を起こした神だ。

わざわざ「イスフォーンのゴーレム」を名乗る理由はない。


私としては、出会いの件があるので若干疑いはしてはいるが、「神が創造したゴーレム」というのは信用している。


だが、国王はカラーが神創造のゴーレムと信じているのか、知っているのか、一掃私を睨んでくる。


「忌々しい奴め!」

「でしょうね。そのお気持ちは良く分かります」


私の国王に対する言葉遣いが怪しくなってきているが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

国王もすでに気にしてはいないしな。


「タニアよ。この者の話は本当であるのか?エルセリアの事、クラスタンプ軍の事、信用出来るのか?」


国王は私と話す事を諦め、矛先をタニアに変えてきた。

まぁ、タニアの方が信用できるだろうから、タニアに聞くのは正解だろう。


「信用できます。私はその魔法を直接見せてもらっております。従いまして、先ほどの話は真実でございます」

「余を惑わせている可能性も考えられるが?」

「陛下を惑わせてどうするのですか?そもそも連絡をしてきたのはカラーです。リョウはその話を聞いただけです」


この辺りは話を聞いていれば分かる事だ。

そう考えると、会話をオープンにしてて良かったのか?


「ではカラーなるゴーレムが嘘を言う可能性はないのか?」

「カラーはリョウに仕えると言いました。主人を騙す侍女はおりません」

「あのような者を信じると申すのか?」


膝を折らなかったのが気に入らなかったのかな?

いや、この国王はそのような器の小さい人物ではないな。


これって単純に私たちを試しているだけなのか?

でもまぁ、事実確認は必要だものな。


「カラーは本日目覚めたゴーレムです。そのようなものがエルセリアやクラスタンプの事を話して騙すのは無理がございます」


それにしてもタニアはこのような事をスラスラと言えるのは流石と言えるな。


国王はそこまでタニアの話を聞いて、腕を組んで考え始めた。

法皇や大将軍はその様子を黙って見ている。


ちなみに、圧力はかなり下がっているので、壁際の花は戻ってきていた。


「う~む...ここまでの話だと、本当の事だと判断せざるを得ないか」


タニアの説明もあってなんとか納得してもらったようだ。


「陛下におきましては慎重に物事を確認する必要があるのは承知しております。が、この件に関しましては全て真実であります」

「分かった。今の話、信じよう」

「ありがとうございます」


信じて貰えてよかった。


同時に法皇と大将軍の圧も綺麗に消えた。

この兄弟、結構仲良しなんじゃないのか?


「しかし、予想よりも事態が早く動いているようだな」

「ひょっとして、領主の暴動は把握されていたと?」

「この際はっきり言っておこう。領主の動きは黒梟より連絡があり、暴動は時間の問題だと思っておったが、予想以上に動きが早かった」


おいおい。後手に回っているじゃんか...。


「兄上!だから早く手を打ってくれと言ったではないか!」

「まさかこんなに早く動くとは思っておらんかったのだ!黒梟からも、動きは30日以上先だと報告があったぞ」


兄弟喧嘩が始まった。

うん。普段はこんな感じなんだろうな。


だが、今はそんな場合ではない。


「今、そんな事を言っても仕方ありません。まずは確認が先です」


言い合いを始めた国王と大将軍にぴしゃりと言い、思考を開始する。


領主は確実に暴動を起こすつもりだったらしい。

だとしたら、私たちを追っていたのはなんだった?


ひょっとしたら、タニアを抑えて国に対しての切り札にするつもりだったとか?

こうなると、その可能性が高いな。


ワツナで我々を探していたようだしな。



次に魔石だが、おそらく集まった魔物への対抗手段として砦に兵を集める、という口実に使うつもりだった可能性がある。

だから、タニアに魔石を持って来させて、そこで両方確保する。という事だったのだろう。



一旦それは良いだろう。想像しても真実は分からないからな。

問題は、このクラスタンプ軍の進軍をどう対処するかなんだが...。


そもそも、クラスタンプ軍が進軍という情報は、いずれエルセリアに到達する事になるはずだ。


こういうのは一人で考えると偏るんだよな。



いや、相棒がいるじゃないか!


「タニア。国境付近の監視はコープルに居る騎士が実施しているんだよな」

「そうだな。あとは西のマートーン、港町のカタランスだな」


脳内の地図でそれぞれの位置を確認する。

うん。確かにそれらの街は監視機能があるだろうな。


「コープルはどこの指揮下にある?」

「マートーンはトモニアと同じ国王直轄だが、コープルとカタランスは領主の支配地域だ」


という事は、東よりの国境付近は穴って事じゃないか。


「コープルはエルセリアのすぐ南の村だから、クラスタンプと情報交換するには最適だな。後でここも確認するようにアリスに言っておこう」

「それが良いだろうな」

「あとはエルセリアの今の状況を確認したいが...そうだ!ミームが居た!」

「連絡を取ってみるのか?」

「もちろん」


もっとも、あのヘッドセットをミームが付けてくれてなければ無理だが、ミームの事だから大丈夫な気がする。


「ミーム、オン!」


そういや、ミームに直接かけるのは初めてだな。


「ミーム、聞こえるか?」

「おぉ!?その声はリョウ!?どこからって、あ、これ付けてたからか。びっくりしたよ。なんだい?」


久しぶりに声を聴いたが、今はそれどころではない。


「驚かせてすまない。が、今からもっと驚く事を言うんだが、大丈夫か?」

「なんだ?タニアと結婚する事になったのか?」

「だったら平和で良いが、悪い話だ」

「結婚が悪い話か?」


しつこいぞ。

あと、この会話もオープンにしているんだから勘弁してくれ。


王家が全員目を丸くしているぞ。


「そこから離れろ。領主が暴動を起こすかも知れない。という情報が入って来たんだ」

「はぁ!?なんだそれは?」

「今は、『かも知れない』という話だ。が、明日には起きそうなんだ」

「なんだよそれ...まぁ、リョウの事だから、適当な事を言ってる訳ではないんだろうけどさ」


ミームは察しが良いからな。

こういう感覚的な話をしても分かってくれるのが有難い。


「すまないな。変な事に巻き込んじまって」

「まぁ、それは良いから。で、私に連絡したのは何の用なんだい」


話が早くて助かる。


「兵士の動きを確認してくれ。あと、街の人間から話を集めて欲しい」

「領主についての話を集めりゃいいのかい?」

「そうだ。頼めるか?」

「いいよ。丁度今から晩飯を食べに行こうかと思ってた所さ。飯でも喰いながら聞いてみるさ」


自分の事を優先しているようで、ちゃんと目的に沿った行動を考えてくれている。

相変わらず出来る女だな。


「すまん。助かる」

「で、何か分かったら連絡するで良いのかい?」

「それで構わない。いつでも良いからな」

「分かったよ。だけど、あんまり期待しないでおくれよ?私はこういうのは苦手だからな」


何をおっしゃる。


「大丈夫さ。私はミームが頼りになる事を知っているからな」

「言ってろ。じゃあね」

「じゃあ。ミーム、オフ」


さて、エルセリア側の情報収集もこれでOKだろう。



次は、こっちがどう動くか、だが...。



色々考えたが、これが良さそうだ。


「タニア。リア。今からエルセリアに戻ろう」

「分かった。リアも良いな?」

「うん!アタシもそれで良いよ!ミームが心配だしね!」


メンバーの了承も得た。

今からエルセリアに戻るとするか。


「では国王陛下。慌ただしくて申し訳ございませんが、これにて失礼させていただきます」

「待て!今から戻っても明後日に到着だ。すでに事が起こっている可能性があるのだぞ?例え間に合ったとしてどうするつもりだ?」


と、流石に色々と聞いてくる。

そもそも、たった3人が戻った所でどうにもならない。


普通はそうだろうが、頭を潰すだけならなんとか出来る気がするんだよな。

ノーアイディアだけどな。


「それは今から考えます」

「考えてどうにかなるのか?」

「私たちだけで出来る事は非常に少ないですが、出来る事はあるはずです。それよりも国王の方が動いてくれなければこちらが困ります」


普通にこういう問題の解決は、国王の仕事だからな。

私たちはあくまでも自分勝手に動く、言わば遊撃隊だ。


「それは分かっておる。直ちに近衛兵団と騎馬兵団を派遣するように手続きをしよう」

「それは俺が引き受けた」

「待て、魔法兵団からの派遣させよう。何かの役には立とう」


ま、それが基本ですよね。


だが、ここ首都セルドイから出た軍がエルセリアに届くには、目算だが準備も含めて9日はかかるんじゃないかな。

エルセリアだけではなく、トモニア村やハブも防衛しなければならない。


早馬を各所に飛ばすにしても、戦略をどうするのか、を決めなければ全てが後手に回る。


だが、それは国王の仕事だ。


「さっきの話じゃと、早ければ5日でエルセリアに到着すると言っとったぞ?準備を早くせんと間に合わんぞ?」


流石お爺様。俯瞰したモノの見方をご存じだ。

だが、国王の軍隊は絶対暴動には間に合わない。


問題は暴動を阻止出来るかどうかなんだが...。


...あ...かなり無理矢理な作戦だけど、領主の問題も解決できる方法を思いついてしまった...。


チラリとタニアを見たが、おそらくタニアも最終的には了承してくれそうだ。

今から説得してから作戦に移るより、この場で話を進めながら説得しよう。


「今思いついたのですが、国王陛下にお願いがございまして」

「なんじゃ、申してみよ」

「1枚命令書を書いていただきたく...」


心の中でタニアに謝りながら、国王にお願いを言った。



「タニアを新たなエルセリアの領主とする。という命令書を書いていただきたい」



全員が驚きのあまり停止する。

「場が凍る」というのは本当にあるんだな。


その凍りついた空気を最初に破ったのは、やはりタニアだった。


「な!!なぜだ!なぜ私を領主にするなどと!」


私に掴みかからんばかりに詰め寄って来た。

いつもなら恥ずかしくなって離れてくれるが、今は激昂していて離れてくれない。


私もとんでもない事を言ったと思ったが、言ってしまった以上責任を取らないとな。

まずはタニアの説得だな。


「落ち着け。それが一番説得力があるからだ」


タニアの両肩に手を置いて、タニアの顔を見て話を続ける。


「ともかく、暴動そのものを止める事が優先されるべきなんだ。だから、一時的に領主になって欲しいんだ」

「一時的!?」


タニアが驚いている。

まぁそうだろう。一時的に領主になるっていうのは普通ありえないだろうからな。


「そうだ。これは陛下にもお願いしなきゃならないんだけど、タニアが暴動を押さえたら、次の領主を手配していただきたいのです」

「タニアはあくまでも暴動阻止の為の一時的な領主という事だな。まぁ確かに今から急に領主を派遣出来ないからな。そういう意味では一時的にタニアに領主になってもらうのは良い話だ。その後、改めて領主を派遣すれば良いという事だな」


国王はうんうんと頷いている。


「この話の良い点は、先手必勝の一手で暴動を抑えられる事と、タニアが領主としてエルセリアを管理している間に、次なる領主を選出する時間が取れる事です」

「それだけ聞けば良い事尽くめに聞こえるが、タニアは領主としての能力はあるのか?」


大将軍がなかなか鋭い所を突いてくる。


「そこは分かりません。ですが、私もタニアを補佐します。そもそもの話、タニアも全く能力がない事はないはずです。が、今回の目的は暴動を潰す事だけなので、早急に次の領主を決めて欲しいのです」


あくまでも暴動を止めるというだけの領主だと説明した。


「ともかく暴動阻止が優先という事か」

「そうです」

「領主交代の理由は?」

「それこそ暴動の現場で発表すれば誰も異議を唱えませんよ。逆にそこで異議を唱えるのであれば同様に逆賊です」

「...なるほど。暴動直前に砦に赴き、領主に正式な命令書を提示して、暴動を起こされる前に鎮圧するという事じゃな」

「その通りです」


お爺様は今でも現役で出来るのでは?

まぁ、戦争も体験しておられるので、その分経験値が違うのでしょうが。


「良い案じゃ。しかし、大きな欠点がある」

「お聞きしましょう」


この人と会話をすると、途端に話が進みだすな。


「まず、間に合うのか?」

「それは分かりません。間に合わなかったら使えない案なので」


そもそも、出来れば使いたくない案だ。

タニアを犠牲にしてしまうからな。


「ふむ。では、間に合ったとして、その命令書をどうやって領主に見せるのだ?」

「砦で領主が声高らかに暴動を命令する、その現場で命令書を提示します」

「それを領主は信じると?」

「領主は関係ありません。命令書を提示して、納得して欲しいのは兵士の方です」

「兵士じゃと?」


そう。この作戦の肝は兵士なのだ。正直領主はどうでも良い。


「暴動は兵士によって行われます。であれば、兵士が暴動を起こさなければ良いのです」

「領主は?」

「新しい領主はタニアです。問題はありません」

「リョウ!それは無茶な話だぞ!そもそも、私は領主になんぞになりたくはないのだ!」


それは分かっている。

タニアとそのような話をした訳ではないが、タニアの性格として、領主には全く興味がないだろう。


だが、あそこにはミームもいるし、なによりもゲートが存在する。


もちろん、一時的にゲートを閉じる事も可能だが、そうなると色々と面倒な事になるのだ。


「もちろん知っているよ。だけど、一撃で兵士を納得させられる人物は?お兄様のどなたかでも良いですが、長年エルセリアに住んでいるタニアの方が信用がある」


お兄様たちの誰かを領主にする方法も考えたが、彼らはすでに第一線で動いている。

そこから引きはがして領主にするのは難しい。


それは、クウィルお兄様も同じだ。


「だが、私は領主にはなりたくないのだ!リョウと一緒にあちこちを旅したいのだ!」


タニアが私にしがみつく様に腕をつかんできた。

その手は細かく震えている。


ごめんな。タニアを怖がらせるつもりはないんだよ。

だけど、どうしても暴動は止めなきゃならないんだ。


「ありがとう。俺もそう思ってる。だが、暴動を止めるのは今しかない。暴動を止めさえすれば領主は後で辞めれるだろうから、今だけ頑張ってくれよ」


タニアを宥めにかかる。

領主になっても絶対にちゃんと助けてあげるからさぁ~...。


「おぬし...いや、リョウよ。なぜエルセリアを救おうとしておるのだ?」


ここまでほぼ黙って話を聞いていた法皇様が根本的な質問をしてきた。


「簡単な話です。あそこには私が守らなきゃならないものがある。タニアとの出会いに関する大切なものが」


帰るべき場所はその先にあるのだ。

であれば、それを死守するように動かなければならない。


それに、あそこを突破された先には、ユリ、輝、葵がいるのだ。


私のこの言葉を聞いたタニアは目を見開き、何かに気が付いたかのように硬直している。


「そもそも、領主の前に命令書を持っていくのは自殺行為じゃぞ?そこにタニアを連れて行くのか?」

「まさか!?兵士を納得させる所は私が対応しますよ。出来るだけタニアを危険な目に合わせたくないですからね」


タニアを領主を押し付けてしまうのに、さらに危険な場所に出すなんて個人的に嫌だからな。

そもそも兵士をこちら側に付けるだけだ。タニア本人がそこに居なくても大丈夫だろう。


「ふん。しかし、それにはタニアが同意が必要じゃが、無理そうじゃぞ?」


と、これはお爺様。

そうなんですよね。そこがこの作戦の一番の問題なんですよ。


「いいえ。確かにリョウの言う通り、アレは守らなければならないものだ。分かった。一時的に領主となろう」

「タニア!?良いのか?」


急にやる気になったタニア。

どういう心変わりだ?と思ったが、とにかく、今はありがたい。


「あぁ。確かにあそこは私にとっても大事なモノがあるんだった。絶対に守らなければならない」


なるほど。

タニアも私と同じ事を思ったって事だ。


「伯父様、私はエルセリアの領主になります。ただし、出来るだけ早く新しい領主を決めてください。私は領主の器ではありませんし、きっとリョウと旅に出てしまいますので」


ちょっと危険な台詞だが、タニアは領主になる事を了承してくれ、国王にその旨を宣言してくれた。


「本当に良いのか?その者に騙されている可能性もあるのだぞ?」

「私はここ数日ですが、リョウと行動を共にしております。コボルド討伐の際も私たちを助けてくれました。彼は信用に値する人物です!」


ちょっと怒り気味に国王に答えるタニア。

どうやら「騙されている可能性」という所で怒っているようだ。ありがたい。


「分かった。リョウの案を受け入れよう。本日付けでタニアをエルセリア領主とする」


そんなタニアの怒りに驚いたのか、国王が即決してくれた。


「ありがとうございます」


こんな無茶な作戦に乗ってくれる国王はいないだろうな。

本当にありがたい。


もっとも、タニアの怒りに触れて思わず了承してしまった可能性もあるけどね。


「お前の為ではない。ここは余の国だ。余が国を治める為の手段として、お前の策に乗るだけだ」

「承知しております。では私たちは夜霧...あの大きな馬車に戻り、色々と準備いたします。命令書が出来ましたら、そこまで持ってきてください」

「国王に指示を出すとは恐れ知らずよのう。だが、分かった。すぐに持って行かせる故」


今は時間が惜しい。

準備や確認を優先しなければならないからな。


「お待ちしております」


この作戦について少し調整をした後、国王、法皇、大将軍が食堂から出て行った。


それぞれの役割を果たしに行ったのだろう。



私たちも準備をする為に矢切に移動しようとした所、お爺様から声をかけられた。


「さて、儂も一度その夜霧とやらに行かせてもらおうかのう」

「え?なぜですか?」


あからさまに嫌な顔をしておいた。

が、この人は全く意に介せずにドアに向かう。


「情報はそこに集まるのじゃろう?であれば、後で国王にその情報を説明出来るものが必要じゃろうて」

「確かにそうですね。では、行きましょう」


この人には敵わないな。



さて、今から夜霧に戻って改めて状況確認だ。

場合によっては作戦を大幅に変更しなきゃならない可能性があるが、その時はその時だ。

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