■■■ Step033 選んだ道の先にあるマッドな前兆
まさかの解決方法で解決して、まさかの結果が出てきます。
「結局、これが一番だったって事か。困った事だが、いい経験と思った方が良いかもな」
電龍の座席の後ろからタニアが声を掛けてきた。
結局夜霧には乗ってくれなかったんだよな。
今も腰に手を回して引っ付いている。
「ま~ね」
タニアの件は慣れつつあるので問題はない。
別の意味では問題ありなんだが...。背中に柔らかいものが...ゲフンゲフン。
それはともかく、この渡河についての解決方法は個人的には納得がいかないんだよな。
出来ればちゃんと解決して、船で渡りたかったのだが...。
「ねぇねぇ、これで本当に良かったの?」
と、こちらも変わらず側車に乗っているリアが私の気持ちを察してか、そんな事を言う。
「これでいいのだ」
問題は何もない。
単に気に入るか、気に入らないかだけの話なのだ。
「そうなの?お姉様も一緒の考えなの?」
「あぁ、これで良いのだ。あのまま無理に川を渡ろうとしたら、時間がかかるだけで渡れていない可能性もあるからな」
結局、ハブでは無理に川を渡らず、川沿いに遡上する形で電龍を走らせている。
夜霧があるので、野営も問題ない。
なので、出来るだけ先に進み、明日の朝に首都に入る予定だ。
タニアと色々検討したのだが、ともかく、出来るだけ早く首都に到着する事が一番安全という認識で一致したのだ。
個人的な裏技で、光のゲートでのショートカットもあるが、今回は領主に動きを見せつつ安全に首都に行く事が目標だからな。
そういう訳なので、問題がありそうな船での渡河は避けたのだ。
「そうなの?」
「まぁそうだな。実際方法は無くはないのだが、それをすると目立ちすぎるからな」
川を渡る方法については、魔法で夜霧を軽量化する事も考えたが、派手な事は避けたい。
あと、安定させないとダメだからな。そうすると、ある程度の重量が必要だったり、筏に固定しなきゃだったりで、かなり面倒なんだよな。
「で、結局トモニア村付近の橋を渡る為に川沿いを走っているって事なのね」
あと、追手にはまだ一度も夜霧を見られていない。電龍は見られた可能性は高いけどな。
夜霧は目立つからな。出来るだけ見られないようにしたいのだ。
見られたらすぐに私たちだと分かってしまうだろうが...。
なんにしても、追手には出来るだけハブで一泊して欲しい。
ハブで一泊して、翌朝から移動を開始しても、首都に到着するのは夕方から夜になるはず。
こちらは出来れば追手が首都に到着する前に国王に会えれば良いとは思うが、国王の予定もあるだろうから、早くて到着の翌日だろうな。
「ところで、追手は今どこら辺りかしら?」
リアがふと思い出したかのように聞いてきた。
チラリとディスプレイを確認する。
「千里眼で確認すると、そろそろハブに到着する所だね」
「今の時間からだと、川を渡るのは難しいかもな」
と、タニア先生が分析する。
追手は道中で昼食を食べて、少し休んでから移動を開始したのだろう。
現在位置だと、本人たちにはハブは見えているが、もうすこし時間はかかりそうだ。
なんとなくだけど、あと1時間ぐらいはかかるんじゃないかな?
ハブに到着して、そこから船に乗るにしても、手続きや準備で時間がかかる。
ただ、あっちはお馬さんだけだから、こっちよりも格段に船には乗りやすいとは思うが、もう13:57だからな。
「川を渡るまでに時間がかかるし、そこからワツナに行くにしても、今からなら到着は夜中になってしまうからな。危険は犯せないから確実にハブで一泊だろう」
お店で渡し舟を手配して、人間だけなら早く用意出来るだろうが、お馬さん3頭居るからな。準備に時間がかかるだろう。
実際、私たちも船で移動出来たとしても、明日になるそうだしな。
「じゃあ、場合によっては国王陛下の使者と追手は同じ日程になるな」
国王の使者さんは、用事が終わったからのんびり帰るかもだしな。
「あ~、確かにその可能性はあるか。だが、今朝エルセリアを出たから、既に川を渡ってワツナに向かっている可能性の方が高いがな」
おっと、その可能性もあるんだな。
もっとも、そこら辺は本人の気質にもよるんだろうけど。
ん?まてよ?国王の使者の首都到着が明後日?
「あれ?使者と追手が同じ行程なら、私たちは使者よりも早く首都に到着してしまう事になるな...」
「む...確かにそうだな。そこは思いつかなかった」
「アタシはぜんぜん気が付かなかったわね。でも大丈夫よ」
「なんで?」
どこが大丈夫か全くわからないのだが?それとも、王族あるあるなんだろうか?
「予想よりも1日早く到着するだけでしょ?」
「確かにそれだけだが...」
「普段でも無理すれば2日で移動出来るから、問題ないでしょ」
「あ~...まぁ、そうなるかな」
じゃあ、気にしないでおこう。何かあればタニアに説明してもらうでも良いし、電龍についても説明しても良いだろう。
どうせこの世界では、今後も電龍で移動するつもりだから、これぐらいの説明は問題ない。
「ところで、私も呼ばれているのはどういう意味なんだろうな?」
実は、今回の国王の招聘に私が名指しで入っている事が一番の驚きなんだが。
「あぁ、それはだな」
と、タニア先生がなんでも無いかのような口調で説明を始めた。
「ボスコボルドはともかく、サイクロプス2匹を同時に相手をする場合、魔法使いは最低4人、剣士が10人ぐらい必要で、それでも犠牲を考えなければならない程の事態だというのはリョウでも分かるだろう?」
「あ...そうですね」
PRGのゲームでなければ、サイクロプスのような巨大な人型魔物2匹を、たったの4人で倒せるはずもない。
私も一度の対戦で学習したので、今回は不要とは思ったが大量の手榴弾も持ち込んできたのだ。
いや、もう、マジで、あんなのと接近戦はしたくない。
「私は魔法使いとしてもそれなりの実力者ではあるが、1人で4人分の魔法使いの働きは出来ないし、リアやミームも同じだ。だが、そこにリョウが加わっただけで、それだけの戦力になったのだ。これは話を聞こうと思うだろ?」
確かに分かる。言っていることは理解できる。が、勘弁して欲しいと思うのは止められない。
まぁ、タニアとリアも一緒っていうのが安心材料だな。
間違いなく王家の一員だから、最悪守ってもらおう。
ただ、それでも気になる事はある。
「それ、国王陛下様が聞く話なのか?別の人...例えば将軍とかが聞く話じゃないのか?」
「そういえばこれも言ってなかったな。伯父様は国王陛下で長男で、父上は次男。そして三男の叔父様が居て、イブウェル・ノブル・バルバクスというのだが、彼はジョーチェ法皇国の大将軍だ」
「え...えぇええぇぇぇえええぇぇ!!!」
ナンテコッタイ...。
「てことは何?今回は最悪、国王陛下、法皇、大将軍を前にして、色々と話をしなきゃならないって事?」
「そうだな。おそらく...いや、確実にその3人を前にする事になると思う」
「え~...やだぁ~...」
このままお家に帰っていいですか...。
そんな雑談をしつつ、トモニア村...正確には川沿いに遡上する。
このまま進むと、石造りの丈夫な橋があるので、そこを渡る予定だ。
あと30分ぐらいで到着予定だ。
今はのんびり会話を楽しもう。
で、件の橋だが、例のコボルドの洞窟の手前にあった。
川幅約30mの所に、石造りの橋が架かっている。
橋の幅はギリギリだな。他の通行が途切れたら通ろう。
この橋は良く使われる橋のようで、ひっきりなし、という訳ではないが、人通りはそこそこある。
タニアと地図を作った際に聞いたのだが、ハブと同じような街がチェーベン川沿いにいくつかある。
コヨンとブネランだが、あっちは川向うにある街だ。
ハブはエルセリア側から首都に向かう際に利用する街で、川向うのコヨンとブネランは、首都側からエルセリアに向かう際の街なんだそう。
なぜエルセリアから首都向けの街が1つなのか?は、物流を1つにして、入ってくるものを制限する為なんだそうだ。
大きな商人たちが大量の物資を移動させるのには、船で一気に渡すのが結局は都合が良いのと、各街は国王直轄地なので治安が安定しているとの事。
それに比べて、この橋は小さすぎるという事と、辺境であるが故に治安も良くはないという事だ。
わざわざ危険な事をする必要もないので、ほとんどの者は渡し舟を利用するとの事。
で、こっちの橋は犯罪者が利用するという事ではなく...いや、利用するそうなんだが、ちょっとした物や、大量にはならないものとか、船賃を払う程のものでもないものがここを通るらしい。
ともかく、通るタイミングを計っている間に簡単に調査してみた。
石材は花崗岩で石橋の材料としては最適なものだ。
橋脚は4連アーチになっているので、夜霧の重さにも耐えれるだろう。
実際重そうな荷馬車も問題なく通っている。夜霧はもっと重いんだが。
軽く3Dスキャンをして、簡単にシミュレーションもしてみたが、15tではなく30tぐらいでも大丈夫との事。
なんでこんな頑丈な橋を作ったんだ?
とはいえ、幅がギリギリだな。
念のため、タニアとリアには先に渡ってもらい、向こうで待ってもらう。
2人が向こうに渡ったのを確認して、私は電龍に乗ってゆっくりと橋に向かう。
一応夜霧に搭載したコンピュータ制御しながらの通過なので全く問題ないはずだが、この狭さは緊張するな。
橋の真ん中あたりに来た際には、「ガゴン!」と大きな音が足元で鳴った。
『おいおい...勘弁してくれよ~...』
と、思わず日本語で言ってしまったが、誰も聞いていない。
わずかに体が沈んだ感覚があったので、計器を確認する。
どうやら、ほんのわずかだが本当に沈んだようだ。
え~...マジかよ...。
速度を上げるか、より慎重にして速度を落とすか、一瞬悩んだが下手に行動しても良い結果にはならないと思い直し、速度を変えずに電龍を進める。
前を見ると、先ほどの音に反応してタニアとリアが心配そうに見ている。
そりゃ心配だよね~...橋が壊れたら大変だもん。
ゆっくりと、速度を変えずに電龍を進め、橋を渡り切り十分離れてから道から外して停車。
電龍から降りて、一度橋の様子を見る。
大きな音がした付近は特に何もなっていない。
恐らくだが、15tの加重で、今まで隙間があった場所が埋まっただけだろう。
帰りもここを通る予定なので、「通してくれてありがとう。次もよろしく」という思いを込めて橋を拝んでおいた。
何にでも感謝は大切だからな。
さて、無事に橋を渡り、まっすぐ首都に向かう。
街道はコヨンに向かっているが、そっちに向かう必要もない。
そもそも、道なき道という訳ではなく、ちゃんと轍の付いた道なので直接首都に向かう馬車もそこそこに存在するんだろう。
もっとも、今は我々だけのようで、前も後ろも誰もいない。
ベールナル山脈の麓を横切る街道を、私たちは軽快に進む。
「そうそう。結局追手はハブで一泊するらしいぞ」
何度か確認したが、例の3騎はハブからは動いていない。
「そうなの?そういうのも分かるの?」
「千里眼からの映像で、3人と3頭の特徴は確認しているからな。移動したらすぐに分かる」
同じような衣装を着ていても、人としての癖などは変えられないからな。
あとは大きさも変える事が出来ないので、人物特定はそれほど難しい作業ではないのだ。
「ちなみに使者の方は?」
「それは分からんよ。そもそも特徴が分からん」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないぞ?」
「真っ白い装束の人」
今言うんかい?
「そんな人はいっぱい居るだろ?」
私も白い装束の人だしな。
いや、マントは黒か。
「可愛い、13歳ぐらいの男の子で、騎士見習いみたいで剣を佩いてたわね」
「ん?結構小さい人?」
「うん。アタシの目線ぐらいの身長だったわね」
おっと。だったら150cm無いぐらいだな。
結構小さい。
そこまでの情報があるなら調べられるかもと思い、電龍に調べさせてみたら該当者が1名。
すでにワツナに到着しているようだ。
「それらしい人物がワツナに着いているそうだよ」
「あ、そうなんだ。結構行動力があるのね」
「それもあるだろうが、小さいと馬にも負担がかからないからな。それで早くワツナに着いたのかも知れないぞ」
騎手とボート乗りは小さい方が良いって話は我々の世界でも聞くしな。
「機会があれば会うかもな」
と、その後も雑談しながら進んで行った。
ベールナル山脈の麓の開けた草原に電龍と夜霧を止める。
まだ夕方前だが、今日はここで一泊だな。
「タニア、リア、今日はここで一泊するぞ」
「やた!のんびり出来る!」
「そうだな。そろそろお腹が空いてきたしな」
「うん!アタシもお腹空いた!」
と、話をしながら夜霧に入る。
入ってすぐの所が玄関だ。
リアもさっき説明した通り、靴を脱いでいる。
タニアは数日だが大阪で生活したので大丈夫だな。
「リョウは向こうでも料理をしていたから、リョウが作ってくれるんだよな?」
と、少し心配そうにタニアが聞いてきた。
「まぁ、ここの台所は今は私しか使えないから私が料理するけど、使い方を覚えたらタニアでも料理は出来るぞ?」
「いや、私はその...料理は出来ないんだ」
ま、そうでしょうね。お姫様だもん。
さて、この3人の内、誰かが作らなければならないのだが、ここのキッチンを使えるのは私しかいないので私が頑張るしかない。
とりあえず、簡単にシチューとパンにしよう。
まず蛇口から水を出して圧力鍋に入れる。
材料を冷蔵庫からいくつか出してざっくりと切り、全て圧力鍋に放り込む。
圧力がかかるのにおよそ10分。弱火にして2分。圧力を抜くのに約5分。
蓋を開けてシチューの素を放り込んで味付けし、弱火で煮込みながらシチューの素を溶かし込む。
その間に軽く温めたバターロールを皿に乗せる。
シチューの味を確認して、ちょっと塩コショウをして完成させる。
本気でシチューを作ると時間がかかるが、圧力鍋だと早くて楽だな。
3人分皿にシチューを盛りつけ、パンと一緒にテーブルに置く。
「リョウ...かなり手慣れているのね...」
背後で見ていたリアが、すこしかすれた声で聞いてきた。
見るとかなり驚いているようだ。
「これぐらいは簡単だからな。時間もないから本格的なものではないが、味は悪くないはずだ」
「そうかもだけど、そもそも普通はもっと煮込みに時間がかかるんじゃないの?」
「あぁそうだぞ。だが、この圧力鍋と言うもので煮込めば煮込み時間を短縮出来るんだ」
「そうなのね...ともかく、お腹が空いたから食べましょう!」
さぁ、食べよう。
夜霧には壁側に長いテーブルがあり、4人まで座れるようになっている。
リアがスプーンでシチューを口に運ぶ。
ちなみに具材は人参、ジャガイモ、ブロッコリー、玉ねぎ、鶏もも肉だ。
「...ちょっと!なにこれ!?美味しいじゃない!!」
「確かにこれは美味いな」
「だろう?結構手を抜いて作ったんだが、あっちの世界ではこういうのが簡単に作れるんだよ」
まぁこれはあっちの世界のドライフーズ技術の賜物だから、こっちの世界では難しいけどな。
「そういや、リアは料理は出来るのか?」
「そりゃ冒険中は野外で食べる事があるからね。簡単なものなら作れるわよ?」
まぁそうじゃないと冒険者出来ないよな。
「私も簡単なものならな」
「さっき料理できないって言ってたけど?」
「ちゃんとした料理は作れないって事だ」
あ~なるほど。そういう意味ならわかるが、今回のシチューも簡単なんだけどな。
「そういう意味では、これもそんなにちゃんとした料理ではないぞ?材料を切って煮込んだだけだ」
「十分に美味いぞ?」
美味いのはシチューの素があるからなんだが、そうか...この世界にはそういうものは無かったんだよな。
「まぁ、そうだよな...そういえば野外の料理の味付けはどんなものだ?」
「塩と胡椒だけだぞ?」
「あ...そうなんですね。失礼しました」
と、そんな感じの会話をしつつ、夕食がおわり、食後のお茶を飲んでいたのだが、突然夜霧の中に警告音が鳴り響く。
一体なんなんだ?と思いつつ、慌てて情報をディスプレイに表示させたのだ。
そして、ディスプレイに表示された情報と映像を見て驚いた。
「なんで狼がこんなに集まってきているんだ?」
夜霧の周りを狼がウロウロしてるぞ?
それも10頭以上!!なんでこんなに集まってるんだ!!
これ、どう考えても異常事態だよな?




