■■■ Step028 マッドな魔法使いを連れて日本の文化を体験してみましょう
大阪観光です。
読んでいただければ面白いと思いますので、是非どうぞ!!
翌朝。
朝食を済ませた私は、智代おばさんから押しつけられた、いや、ありがたく頂いたチケットを手に、タニアを連れて大阪に出る事にした。
せっかくなので、自動車で移動せずバスと電車で移動する事にしたのだ。
グランド花月に行くには大阪メトロの御堂筋線、なんば駅で降りる必要がある。
ともかく、JR新大阪駅まで行き、そこから地下鉄に乗り換えるのだ。
今日のタニアの衣装は、私が選んだ藍色のセーラー服のような衿が付いた、裾の長いワンピースだ。
靴はまだヒールが履けないって事で黒のパンプスを履いている。
もっとも、今日はそこそこ歩くので、パンプスの方が良いだろう。
まず、タニアはバスに乗って目をキラキラさせてた。
『リョウ!これ!ボッタンっていうものだよな!?』
『ボッタンじゃなくてボタンな』
タニアは「次降ります」のボタンを指さし、なぜか興奮している。
『押して良いの?』
『ダメ。押したら次で降りなくちゃならなくなるぞ』
『いつなら押せる?』
『最後まで押せない。終点まで行くからな』
『そんな~...』
そんなこんなで、電車に乗る際の切符はタニアに購入してもらった。
あ、終点の手前でタニアにはボタンを押してもらった。
めっちゃ喜んでた。
ホントに保育園児になったのね。
家に帰ったら廃棄予定のキーボードでも渡しておこう。
ボタンいっぱい付いてるからな。
さて、なんば駅に到着し、高島屋前の所で地上に出る。
そこから『なんばグランド花月』までは歩いてすぐだ。
なお、電車の中でもタニアは興奮していた。
『この乗り物はボッタンは無いんだな?』
『これは電車で、必ず駅ごとに停車するからボタンはない』
『そうなのか?で、なぜドアがあっちとこっちにあるんだ?』
『駅によって降りる場所が違うから、両方にドアが付いているんだ』
『そうなのか?このぶら下がっている輪っかは何なんだ?』
『それはつり革と言って、立っている人がそれに掴まって電車に振られないようにする為のものだ』
『そうなのか?じゃ...』
と、ずっと質問攻めにされた。
しまった...電車やバスについても事前予習させておくべきだった...。
と、ちょっと遠い目をしていたら、グランド花月前に到着していた。
『さあ、ここが『なんばグランド花月』だよ』
『人が多いな』
『ここは有名な観光地だから、他の国の人も来る。もちろん、この国の人たちも来る場所だな』
なんせ日本を代表する「笑いの殿堂」だからな。
『なるほど。私の国にも演劇を観せる場所はあるが、ここまでの賑わいはない』
『それは多分だけど、そっちの世界の演劇を観る人たちは貴族とかになるからだろうな』
『確かにそうだが、ここはそうではないのか?』
あ、やっぱり貴族が演劇を観るのね。
大衆はおそらく、大道芸人とか、旅の楽団とか、そういうものが娯楽になるんだろう。
そういや吟遊詩人とかも居るのかな?
『この国に貴族は居ない。居るのはお金持ちと平民って所だな。で、ここは平民が普通に観に来ている』
『なるほど...平民が観に来るのだな』
『お金持ちも来るけどな』
『ふむ...それほど人気があるって事だな』
新喜劇はかなりの人気がある。
もちろん漫才も大御所から新人まで揃っているし、落語も聞けるからな。
そういう意味では、ここは大阪の文化発信の拠点である。
『そういう事。でだ、ここからはそのスマートフォンで翻訳を観ていると面白さが分からないだろうから、瞬間翻訳のこれを耳に付けて』
と、昨日開発したばかりの瞬間自動翻訳機『刹那』を手渡す。
『これは...いつぞやの通信装置と似たようなものだな。色が違うし繋がっているし、大きいな』
『同時翻訳なので、色々と機能を付けたんで大きくなったんだよ。ちょっと不便だろうが...』
『不便?そんな事あるはずないだろ?とても助かっているよ』
『そう言っていただけると私も嬉しいな』
正直、異世界で渡したトランシーバー用のヘッドフォンよりも一回り大きい。
左右の耳に当てるスピーカー部分を首の後ろで繋げるタイプの奴だ。
同時翻訳用の部品を首の後ろのブロックに置いているんだ。
『演劇を見るので、翻訳だけに集中する機能しかない。今は私しか居ないから、会話はタニアの国の言葉だけで十分だろ?』
『それはかなり嬉しいが、そもそもここでは何が観れるのだ?』
『ここ大阪はお笑い文化が発達していてな...ここでは大声で笑って楽しむ場所だ』
としか言えない。
あと、翻訳では関西弁のニュアンスは伝えられないからな。
なので、私があちらの言葉でしゃべる時は内容は標準語になるのだ。
『笑う?大声で?観劇なのにか?』
普通は劇場では静かに鑑賞するものだ。なのでタニアの意見は普通に正しい。
しかし、ここは大阪、それも吉本のなんばグランド花月である。
『タニアの感覚は分かる。が、ここは...いや、観れば分かる。とにかく観て見てくれ』
『わ...分かった。観れば良いんだな』
『前も言ったが、百聞は一見に如かずだ』
『リアの言う所の『見れば分る』だな』
『そういう事』
2人で入場ゲートを通り、指定された座席に座る。
今日の午前中の演目は漫才と新喜劇だ。
ちなみに、タニアに渡した翻訳機は周りの声を全部翻訳して、同じ声色で再生するという優れもの。
さて、漫才を見てタニアは半分は笑っている。
流石にこっちの文化に沿った内容が多いので、なかなか難しいんだろうな。
だが、有名な兄弟漫才で弟が鉄板の電車ネタを始めたらタニアが大きく反応した。
「ふぉおお!!しゃしょうしゃん!!」
噛んでる。
外国人だから噛んでも問題ないけど、思い切り日本語で噛んだな。
いや、確かに説明したよ。電車の中で。
車内アナウンスになぜかビクビクしてたから、常識範囲で説明したよ。
そしたら、良く分からないけど食いついてましたよ。
どうやら、ここに初めての異世界鉄っちゃんが誕生したかも...。
あと、新喜劇は終始普通に大笑いをしていた。
ここまで笑うタニアは初めて見たぞ?一番のお気に入りは全員がズッコケる所だ。
頼むから椅子からずり落ちるなよ?
ともかく、普通に涙をためて笑うタニアの姿を見て、正直「大阪人で良かった」と思ったものだ。
テレビで観ていた時は、翻訳付きスマートフォンに流れる文字を読む形だった。
だからタイムラグもあるし、誰の発言なのかも分かりづらく、面白さが半減していたんだろう。
翻訳機能では、ユリと輝と葵と私の言葉は、翻訳された際に「誰がしゃべった事か」が分かるように色分けしてあるのだ。
だから、会話は問題は無かった。
が、テレビは一気に色んな人がしゃべったりするからな。文字では追えないのだろう。
だが、今回の翻訳機はしゃべった本人の声色で翻訳するものなので、内容はかなり分かりやすいものになっている。
あと、漫才にしろ、新喜劇にしろ、ちゃんとしたエンターテインメントだ。
劇場の雰囲気もあって、笑いが感じやすいんだろう。
『すごいな!!大阪はこんな文化があるんだな!我が国にもこういうものが広まれば、とても素晴らしいと思うのだが...』
『それは難しいんじゃないかな?このお笑い文化はそれこそ大阪で数十年の試行錯誤を経て、文化として定着したものだからな』
正直、お笑いの文化はある程度の土壌が無いと難しいと思うんだよな。
まだ落語とかの方が良いかも知れないが、さて、あの世界に適合するのかは非常に謎だな。
次は文楽だ。
日本の伝統芸能の一つで、智代おばさんいわく「これも絶対観とけ」だそうだ。
中に入ってチケットを提示して席に座る。
今回のは私もタニアも初心者なので、初心者向けの演目をおばちゃんは取ってくれたらしい。
ホント...基本は本当に良い人なんだよ。だから憎めないし、嫌いになれないんだが...以下省略。
座席に座り、タニアと一緒に演目を観る。
いや、生で見るとすげーわ。いやびっくり。
何がびっくりって、ちゃんと人形が生きているように見える。
今の時代、リアルな人間をCGで描き、動かす事も可能。
だが、どうみても人形なのに、操られているのに、動いているように見える。
いや、動いているんだよ?でも動かされている感がない。
いやいや、言い過ぎだな。動かされている感はある。人形の感じもある。でも、生き生きとして見える。
正直良く分からない。が、すごいという事だけは分かる。
隣のタニアも口を開けて魅入っている。
おそらく私と同じ感想を持ったのだろう。
あっという間に演目が終わり、劇場を出る。
『これは...かなり変わった演劇だな』
『ちょっと調べたんだが、この演劇の形態を人形浄瑠璃と言い、この文楽劇場で演じる事が有名なので文楽とも言うらしい』
『名前が二つもあるのか?』
『正確には人形浄瑠璃だが、文楽と言っても通じる。ぐらいの事らしい』
あくまでも検索して確認した程度なので、若干間違いはあるかもだが...。
『ふむ...では、人形浄瑠璃で覚えれば問題ないな』
『だな』
そこは間違いないはずだ。
『しかし、人形を3人で操作するというのも、セリフ?というのか?ともかく、1人が物語を語り、役者の言葉もしゃべるというのは新鮮だったな』
『他の国々でも人形劇はあるが、ここまで特殊なのは他にないんじゃないかな』
インドの方では確か影絵の人形劇があったりしたようだが、あっちも確か1人で1体を操作するはずだ。
『私の世界でも、こういうものは無いな。そもそも人形劇と言えば子供向けのものだからな』
『この世界でも、基本は子供向けだ。だが、これは伝統芸能だからな。大人が観るのが多くて、子どもは逆に観ないな』
『リョウの家でテレビを観たが、子どもはああいうのが喜ぶのだろうな』
『そうだな。実際私も子供の頃はテレビの方が好きだったからな』
『今もだろう?』
『違いない』
さて、吉本と文楽を続けざまに観たので、13時を回ってしまった。まだお昼も食べていないぞ。
どこかで食べようかと悩み、まずタニアに何が食べたいか聞いてみた。
そうしたら「カレーが食べたい」となったので、近くのカレーショップに入ってみる。
大丈夫。私は空気が読める男だ。
ちゃんと甘口のあるカレーショップを選んだ。
タニアはちゃんと甘口を選び、私はちゃんと辛いものを選んだ。
トッピングは私はチキンカツでタニアはハンバーグだ。
テーブル席で向かい合って食べ始める。
うむ。この辛さが良い。やはりカレーはこれぐらいでないと...。
と思っていたら、タニアがちょいちょい水を飲みながら食べている。
甘口だが少々辛かったようだ。
そして、私のカレーを見る。
...食べてみたいのか?
いや、私は良いがお勧めしないぞ?
そもそも私の辛さに耐えられるのは智代おばちゃんのみで、ウチの両親でさえ無理なのだ。
『いや、辛いのは分かっている。だが、試してみたいではないか』
そうですか...では、お好きなだけ自分で食べてみて下さいな。
という訳で、タニアに自分で取らせて食べて貰った。
一口すくい、口に入れた。
考え込みながら口をもごもごと動かしていたが、急に眼を見開く。
その後に水をがぶ飲みしていた...。
やから言ったやん...。
お昼を食べた後、せっかくなので大阪城公園に足を延ばす。
ここも観光名所と言えば観光名所だからな。
大阪城公園前の駅から歩いて天守閣の下までやってきた。
昔、小学生の時に見た時は、とてつもなく大きな城だと思ったのだが、今ではこじんまりとした可愛い建物に見える。
『これがリョウの国の城なのか?』
天守閣の見上げる位置に立ち、タニアが髪を抑えながらポツリと聞いてきた。
タニアとしても、思った以上に小さく見えたんだろうな。
『そうだ。ただ、この城は何度か燃えたりしたので近代の建築技術で建てられている。本当の城の作り方ではないけど、見た目はこういう感じなのは間違いない』
『非常に変わった形をしているな』
タニアの世界の城は見た事がないが、少なくともこういう建物ではないだろう。
日本の城は独特だ。
『建物はそうだな』
『建物は?』
日本の城は建物だけを指して「城」とは言わない。
そもそも、目の前の建物は「天守閣」と呼ばれるものなのだ。
『タニアの世界の城も一緒だと思うが建物だけじゃなく、その敷地を含めて城というか砦の役目をしているので、あれだけで城という訳ではない』
『なるほど。確かに私の世界の城や砦もそうだ』
広義の意味では城下町を含めて城になるだろうしな。
『この国は、昔は木造建築物だらけだったからな。この城も木造建築物だったんだ』
『え?じゃあ、戦争の度に燃えるんじゃ?』
『だから何回か燃えてるよ』
『そういえば、そんな事を言ってたな』
『ともかく、ここは日本文化を伝える建造物であり、観光名所っていう事で、沢山の人が毎日やってくる場所って事だ』
もう桜の季節は過ぎているので桜の花はないが、地面にはピンクの花びらがまだ舞っている。
今度は桜の季節にタニアを連れてこようと思った。
あ、その時はリアもミームも一緒が良いだろうな。
ユリも輝も葵も、おばちゃん...は、できれば勘弁してもらって、皆で花見が出来たら良いな。
まだ明るいので、OBP...大阪ビジネスパークを通って、JR京橋まで歩く事にした。
そこから環状線に乗って大阪に行き、JR京都線に乗り換える予定だ。
にわか鉄っちゃんが喜ぶだろうしな。
OBPのツインタワーを見上げ、はしゃいでいたタニアだが、プロムナードを歩き始めると静かになった。
何か考えているようだが、どうしたんだろう?
『リョウは戦う力と能力を持っているが、この国では戦わないのか?』
と、急に質問をしてきた。
ここ数日で、この国が平和な国であると実感したんだろうな。
そして、笑いの殿堂で大笑いをして、自分の国と比較したのかもな。
ただ、タニアの聞きたい事の本質が分からない。
なので、ちょっとぼかして返答する。
『戦う力がある事と、戦う事は別だ。特にこの世界では明確に違うものだ』
『それは戦争がないからなのか?』
『この国は昔から戦争ばかりしてきた。ただ、今は戦争をしていないだけ。でも世界では今もあちこちで戦争は行われている』
『そうなのか?』
戦争はこの国を一歩出るとすぐそばにあるんだ。
ある意味では、この国でも戦争はある。
『この国は80年以上前に最後の戦争をして、負けて、そこからは一度も戦争をしていない国なんだ』
『80年以上戦争をしていないのか?』
『していない。もう戦争はしないって宣言して、それ以降は一度も』
『そうなんだな』
同じように戦争を放棄している国も当然ある。
が、ほとんどの国は戦争を放棄していない。
私が「悪の科学者」を自称しているのは、何の為か...。
いずれ、タニアにはあの事を言う日が来るんだろうな。
『だから、本当なら、私の電龍やあの武器は公には出来ない...秘密にしておいてくれよ?
ちょっと茶化したような言い方をしてみた。
『なるほど。確かに秘密にしておかなければな』
すると、タニア少し意地悪っぽい笑顔で私を見上げてきた。
会ってからまだ8日目か。
色んな意味で、ここまで親しくなれるとは思わなかったな。
私は、この友人を護っていけるのだろうか...。




