■■■ Step026 まさかのマッドな異世界トラブル発生
領主の話を確認しましょうっていう回です
いつまでもリアを待たせる訳にはいかないな。
タニアにさっきと違う意味で頷く。
今度はタニアも頷いて、あらためてスマートフォンに語り掛ける。
『分かった。今から戻ろう。ちょっとリョウに相談するから、いつもの部屋で待っていてくれ』
『分かりました』
電話を切り、私の顔を見る。
その顔はちょっと心配そうだ。
『リョウ。すまないがリアが困っているそうだから、一旦あちらに行きたいのだが...』
「そうみたいだな。私も一緒に行こう」
なんとなくだが、それが一番解決には早い気がする。
なんせリアだからな。
『すまんがよろしく頼む。リョウが居てくれると色々と対処もしやすいしな』
「お兄様、またあちらに行かれるのですね...」
葵が心配そうに声を掛けてきた。
昨日帰ってきての今日だからな。また数日居なくなると思うと寂しいのだろうか。
「そうやな。やけど今回は話だけになるやろうからすぐに戻ってこれるはずや。そもそもこんな時間から行動するのは難しいからな」
「そうね~。でも遅くなるようなら連絡は欲しいわね~」
「確かに。21時を回るようやったら電話するわ」
「お願いね~」
「じゃあ、僕たちは遅くならないうちに帰ろうかな」
と、輝は身の回りのものを片付け始める。
とは言え、自分の荷物をまとめているだけだが。
「そうですね。連日泊まるのはさすがに怒られそうですし...」
「そうなん?って、葵ちゃんはまだ中学生やもんね」
「輝お姉様は?」
「僕は大丈夫...って言いたいけど、連日はダメだろうからね。ともかく帰るよ」
年頃の女の子が男の居る家に連日泊まるのは確かによろしくはないよな。
「じゃあ、一応車で2人を送っていくわね」
「やった~!ユリさん、ありがと~」
「いつもありがとうございます」
「じゃあ、2人よろしく」
「は~い」
さて、今日はこれでお開きだな。
あとはリアの話を聞きに行くだけだ。
さて、実験室に行こうと思い腰を上げた。
タニアは私が立ち上がる前に立ち上がり、輝に向かって行った。
どうしたんだ?
『今日も色々と助けてくれてありがとう』
昨日と今日で結構おしゃべりしてたもんな。
かなり仲良くなったように見える。
「いえいえ。明日も来るんで、またいっぱいしゃべろうね」
輝も急にしゃべりかけられてビックリしたみたいだけど、とても嬉しそうに笑顔で返答していた。
ふと見ると葵も挨拶の為に静かに近づいてきたようだ。
「よく分かりませんが、今からあちらに行かれるのですよね?お気をつけてくださいね」
『2人ともありがとう』
本当に仲良くなったようだな。私としてもとても嬉しい。
さて、あまりリアを待たせられないので、タニアを伴ってリビングから出た。
急いで実験室に向かい、タニアと一緒にゲートを潜る。
そこには既にリアが待っていた。
「お姉様...どうされたのですか?その服は?それにリョウも今日は真っ黒...」
今のタニアは白のロングのニットシャツにジーンズ、黒のスニーカーという普段着ルックだ。
ちなみに、私も普段着なので、黒のロングTシャツにストレッチの黒のズボンに黒のスニーカー。黒ずくめだ。
「あ~...あっちではこういう服が普通なのでな。リョウに買ってもらったんだ」
「え~!ずる~い!!リョウ!アタシにも買ってよ!!」
「あ...あぁ、構わないぞ?だが、身体に会わせないとだから、リアがあっちの世界に来た時な」
リアの服装もあっちではかなり浮くからな。買ってやらないと絶対にまずい。
しかし、リアは普通に美少女だからな。ゴシックロリータファッションとかさせたら、別の意味でマズイ事になりそうだ。
一度着せてみたいと思いつつ、言動が合わなさそうだと判断したので瞬間却下した。
「本当よ?約束よ?じゃないとお姉様をあげないんだから!」
「なんで私が出てくるんだ?それに私は物じゃないんだ」
「そうだ。それよりも、まずは話をしよう」
「そうでした。じゃあ、行きましょうか」
と、納屋を戸締りをして応接間に向かったのだった。
「で、困った事ってなんだ?」
いつもの応接間に入り、メイドが出してくれた紅茶をすすりながらリアに聞く。
やはり、ここの紅茶は格別だよな~。
もう少し早い時間だったら、葵を連れてきてやりたいな。
「実は、領主からお姉様を出せって何度も言われてて、困っているのよ」
と、テーブルに一枚の羊皮紙を置く。
読んでみると、領主であるエバン・バースウィックがタニアに砦まで来るように書かれてある。
あと、魔石も持ってくるようにとも書いてある。
昨日の今日で何度も?どういう事だ?
「私に?特に領主に出向く用事は無かったはずだが?」
「なんか、こないだのコボルド討伐での報告の再確認と、魔石をよこせって言われてて」
「魔石?なぜだ?」
「わかんない」
「ふ~む...リョウ、どう思う?」
はっきり言って怪しさ満載だな。疑ってくれと言っているようなものだ。
きっと、リアでも感づいたぐらいだからな。
...感づいているよな?
ともかく、まずは確認からだな。
「その前に、『領主の所に来い』というのと『魔石をよこせ』は絶対なのか?」
「う~ん...どうなんだろ?」
「まず、今回は討伐依頼の件になる。そして報告書も領主の手元にあるって事は、最低限の事は完了しているので、わざわざ行く必要はない」
さすがタニア先生だ。
打てば響くような理路整然とした説明は助かる。
「私の考えでは、依頼を領主から直接受けていないので、わざわざ領主の所に行く必要はない。と思っているが、タニアの意見と合うな」
「なるほどな。観点は違うが同じ結論に至ったという事だな」
そして理解が早くて助かる。
「あと、魔石の件だが、これも提出する必要性はないだろう。高価なものだとは思うが、世界に魔石がこれ一つって事ではないだろう?」
「そうだな。このエルセリアには無いかも知れないが、首都に行けば恐らくいくつかあるだろう。珍しいものではあるが、希少という程でもない代物だ」
だろうな。
そもそも、そこまでの貴重品であれば、捜索願いがあると思うのだ。
「と、いう事は、魔石を回収というのは領主側の暴挙だな。ちなみに、ボスコボルドが持ってたものを私たちが持っているというのは問題ないのだろう?」
「冒険者が依頼を受け、依頼を実行していた際に手に入れたものについては、基本冒険者のものになる」
でしょうね。
「それを欲しがるっていうのは、暴挙以前に裏がありそうだな」
「裏?」
「魔石をわざとおとして、魔物を呼び寄せようとした可能性。という裏だ」
洞窟にコボルドが集まって来たという事実があるからな。
どこでそういう情報を手に入れたか分からないが、おそらく領主は分かっているはずだ。
「え?そんな事して、どういう得があるのよ?」
「それは分からん。が、得があるんだろうな、きっと」
「領主は治安を維持しないとダメなんだが、それでも得があるのか?」
「だから、それは分からない。だが、領主が治安を維持したくないという考えなら、得になるな」
そうだ。素直に考えれば領主は乱を起こそうとしているはずだ。
「なにそれ?全然分かんない」
「安心しろ。私も全然分からん」
「私も分からん」
領主が何を考えているかなんて、リアが分かる訳ないし、私も、タニアも分からない。
どうにかして分からないかな...。
「分からん事を話しても意味がないな。とりあえず、領主の話は聞いたが意味不明なので対応しないようにしよう」
「それは良いけど、どうするのよ?」
「リア、領主にはタニアの事を何て言ってるんだ?」
「お姉様はお屋敷に居ない。今はちょっとした旅に出ている」
素直なリアで良かった。
「なるほど。じゃあ、そのまま言い続けていてくれ。事実、旅に出ているからな」
「すぐに戻って来れるけどね」
「それ、領主に言ったらダメだからな」
言わないと思うけど、一応釘を刺さなきゃな。
「もちろん。それぐらいは分かってるわよ」
「じゃあ、いったんそれでお願い。タニアはあと数日はあっちの世界に居ると思う」
帰りは何も決まってないけどな。
「昨日の今日だから仕方ないわね。で、お姉様!リョウの世界はどんな感じなの?」
リアの興味は領主の件よりもタニアだもんな。
「はっきり言ってこことは比べ物にならないぐらい生活がしやすいぞ」
「生活がしやすい?」
「リョウの道具は便利だったが、それを上回る便利な物に溢れている。正直私も情報が多すぎて大変だ」
「お姉様が大変なの?じゃあ、アタシが行ったら...」
「確実に混乱して大変な状態になるだろうな」
タニアの感想は私の感想と全く一緒だな。
まぁ混乱というよりも、何をどうして良いか分からなくなるだけとは思うけどな。
「え...本当?」
「本当だ」
私に確認しなくても、私の同じ意見だって。
「アタシ...行けないかも?」
「いや、そんな事にならないように、こっちの世界であっちの道具を使ったりして、ある程度の予備知識を覚えてもらおうと思ってる」
前々から考えていたんだけどな。
「そうだな。まずは電気という存在からだろうな」
「あと、お手洗いとお風呂だな」
「確かにな」
さすがタニア。
自分が体験したからこその判断だな。
「あ、そう言えば、言葉も全然違うんでしょ?」
「それは大丈夫だ。リョウが翻訳するものを用意してくれる」
「え?電龍ちゃんを貸してくれるの?」
タニアと同じ事言ってるな。そこは姉妹だな。
「あんなでかいものを連れて歩けないだろ?今リアが持っているスマートフォンに翻訳の機能をつけてあげるから」
「あ、そうなんだ」
ともかく、リアの受け入れの為にも色々と用意をしておこう。
「ともかく、領主からはタニアの事は知らないって言っといてくれれば良いよ」
「でも、困った事があったらすぐに連絡をしてくれ。すぐに対処するようにしよう」
「ありがとうございますお姉様。出来るだけこちらで対応するようにしますね」
「いや、対応は知らないって言ってくれるだけで良いからな」
「は~い。大丈夫で~す!」
リアが元気に返事をするが、個人的にはちょっと不安だ...。
ホント、分かってんのかな~。
異世界から戻って来た時はまだ21時前だった。
実験室に戻った私たちは、リビングに戻りながら会話を続ける。
『どうする?了...』
タニアが聞いてきたが、声色からは本人もノーアイディアみたいだな。
『どうするって...今は様子見するしかないしな』
そして私もノーアイディアだ。
『そうだな...しかし、領主の件はいつまでの放置はできないぞ?』
『そうなんだよな~...どこかで決着を付けなきゃだけど...さて、どうしたものかな』
『私は放置で良いんだけどな』
『それは私も同じ意見だが、領主だからそうも行かないだろう?』
正直、領主の思惑が分からない。
だからこそ放置でも良いかな?と思うが、逆に分からない事が問題だな。
ここは探りを...って、リアじゃ難しいよな...。
『ここは、やっぱり待つしかないだろうな』
『そうだな』
そこまで話してリビングに着いた。
ドアを開けて中に入ると、ユリがソファーに座ってテレビを観ていた。
輝と葵はもう帰ったようだな。
「あら~おかえり~」
「ただいま、ユリ」
「た...ただ~いま~」
タニアが日本語で「ただいま」って言った!?
「おぉ!?挨拶出来るようになったのか?」
『簡単な挨拶ぐらいはな...』
「確実に覚えていっているわね~」
「そうだな。まぁ、言語を習得するには会話をするのが一番の早道だっていうからな」
どこかのYouTuberが言ってたな。
「そういえば、了くんはどうやってタニアちゃんの世界の言葉を覚えたんよ?」
「あ~...それはまた今度説明するよ。ちょっと色々と面倒でな...」
魔術大全を解析する中で、呪文を唱えて、耳で聞いて覚えていただけなんだよな。
異世界の魔法使いであるタニアが居るので、そろそろ私が魔法を使える事を伝えなきゃだとは思うが、タイミングがな~...。
「ふ~ん...まぁえぇけどね。私はもうお風呂に入っちゃたから、タニアちゃん、先に入ったらどう?」
『わかった。じゃあ、お風呂に入らせてもらう』
タニアは2日目にしてお風呂の入り方を覚えたようだ。
さっさとリビングを出ていった。
「それにしてもタニアちゃん、ホントに覚えんの早いんよね~」
タニアの後ろ姿を見送り、ユリが独り言ちる。
「そうやな~...俺もびっくりやわ」
「で、あっちはどうやったん?」
ユリの言う「あっち」は当然リアの話の事だ。
う~ん...まぁ、こっちの世界ではあっちの世界の話をしても問題ないものな。
「...いや実はやな」
と、ユリに状況説明をしてみたのだ。
「それ、絶対領主が犯人やん」
「だよな~...俺もそう思うし」
一通り話を聞いて、ユリは即断した。
まぁ、そうだよな。
「あと、その領主、かなりヤバイって思うで?」
「いや、それも思ってるって...」
「了くん、たぶん分かってないよね?領主が呼び出しているの、タニアちゃんだけやろ?」
ん?どういう事?
「あ~...いや。リアが言ったのはタニアだけだったかな...いや、書類もタニアだけやったな」
「事情聴取やったら、メンバー全員やないとダメなんとちゃうん?」
「あ~...」
しまった。まるっきり考えられていなかった。
目的はタニアなのか?
確かにタニアは美人だからな。
男の俺が言うのもなんだが、俺みたいなコブは要らんだろう。
「了くんも領主が怪しすぎるって事で、そこに気が回らなかったようやね」
「面目ない...」
ホントそうだよな...。反省。
「まぁ、そう落ち込まんと。そもそも領主の動きが気になるのは間違いないもんね」
「正直、動きと言うか思惑が分かんね~からな...」
「ま、いざとなったら、メンバー全員で行けば良いでしょうし」
「タニアだけで十分ってなったら、タニアを連れて帰れば良いか」
一応対策は考えとかなきゃだな。
まさかテレビ電話って訳には行かないからな。
「あと、リアちゃんにも1人で行かないように言っとかないとダメやね」
「そうだな。それは明日タニアにしてもらおう」
「この時間やからね。それが良いかも」
「それにしてもユリに相談して良かったよ。逆に助かった」
今回はマジで助かった。
おそらく、これは私とタニアだけの間だと、思いつかなかった可能性が高いよな。
「たぶん、タニアちゃんやから、そこが思いつかなかったんやない?これが輝ちゃんや葵ちゃんやったら、絶対に気が付いたと思うで?」
「そうかもな。あっちではタニアは色んな意味で強いからな。女性だって言うのを忘れてまうわ」
「...それ、タニアちゃんの前で言ったらアカンやつやかね?」
「はい。注意します」
「よろしい」
ユリが笑顔で許してくれた。
こういう所はユリには敵わないよな。
その後、タニアと入れ替わりにお風呂に入り、3人で雑談して就寝した。
さて...明日からまた頑張ろう!!




