■■■ Step017 サイクロプスはやっぱりマッドな存在
やっとサイクロプスの討伐です。
ぶっちゃけここはかなり苦労しました。
さて、サイクロプスも討伐しなければならないのだが...そもそもどこにいるのか分からないのだ。
できれば、今日中にすべてを解決したいのだが、そんなに上手く行くとは思えないな。どちらにしても、情報が欲しい所だ。
そんな事を思いつつ、洞窟を出ようとした所、突然アラームが鳴る。
「何?何?」
「ちょっとリョウ!驚かせないでよ!!」
地球では聞き慣れたアラームだけど、ここでは異質な音だよな。
「あぁすまない。どうやら外で留守番している電龍からの連絡だ」
と、胸ポケットに入れておいたスマートフォンを取り出し、内容を確認する。
あ、この洞窟に入ってから道々に中継用の機器を設置しておいたので、ここまで電波が通っているのだ。
改めて、スマートフォンを確認すると、『サイクロプスと思われる個体を発見』というメッセージと一緒に、いくつかの画像が添付されていた。
「どうやら、サイクロプスを発見したみたいだな...あ、これは...」
「なんだ、何かあったのか?」
タニアが横に並んで一緒にスマートフォンを覗き込む。
「サイクロプスがこの洞窟の前をそろそろ通るみたいだな...」
「えぇ~...連戦になるのぉ~...」
「まぁ、そう言うな。今回はコボルドの数が多かったがかなり楽に討伐出来たではないか」
「そうなんだけど、これは気持ちの問題なんです!!」
「そうは言っても、これを逃すといつサイクロプスに遭遇するか分からないからな。ちょうど良かったと思うしかないだろ」
「...そうですね、お姉様。分かりました」
「と、話がまとまった所、ちょっと言いにくいんだけど...」
「なに?ひょっとしてもうサイクロプスが居なくなっちゃったとか?」
「いや、大丈夫。入り口のコボルドを喰ってるからまだ大丈夫なんだが...」
「うげぇ...」
「...喰っているのが言いにくい事ではないのだろ?他に何があるんだ?」
「サイクロプスが...2匹居る...らしい」
「は?」
洞窟の入り口まで戻ると、向こう側から巨大な人型が2体、こちらに向かってくるのが見える。これがサイクロプスだな。
巨体の前には小さな薄緑色をした人型...これは、どうやらコボルドだな。それが2体、こちらに向かっている。
どうやら、サイクロプスから逃げているようだ。
えっと...サイクロプスはともかく、コボルドも倒さないとダメだよね...正直、もうお腹いっぱいなんですけど。
いや、喰ってないからな。
うん。ここは鬼畜の所業だが、コボルドにはとっととリタイヤしてもらおう。
持っていた飛燕を構え、コボルドに照準を向ける。
狙いを定めて引き金を引く。まずは1匹。
つづいて、2匹目を撃つ。
2匹とも走っており、狙いづらいので、胴体を狙ったので即死はしなかったようだ。
その場でしゃがみこんでしまった。
仕方がないな。サイクロプス戦の後でトドメを...と思っていたら、追いついたサイクロプスがコボルドを鷲掴みにする。
そして、見ている前でコボルドを生きたまま咀嚼し始めた。
おいおい...。
さすがの私もこれには引くな。
肉食動物が草食動物を食べる所などは見たりするが、あれはまだ良い。
目の前では人型が人型を喰っているので、かなりの嫌悪感がある。
見ると、タニアも、リアも、ミームでさえも、真っ青な顔をして、目の前の光景を見ている。
私もきっと青い顔をしているんだろうな。
しかし、これは討伐対象であり、狩るのは我々なのだ。臆する訳にはいかない。
「みんな。想定とは違ったけど、討伐対象が目の前に居る。帰ったら祝勝会だな」
気分を替えようと明るい声で話しかけてみた。
あ~...自分のキャラじゃないな。棒読みだ。
「確かに思ってたのとは違うが、討伐対象である事には変わりはないな」
「お姉様が居て下さって、とても心強いです!」
「それとリョウな。何かあるんじゃないのか?」
しかし、先輩方は素直に乗ってくれた。
良い仲間だよな。
「あ~すまない。そういう意味では、さっきのボスコボルドに使った武器が、元々サイクロプス用の武器だったんだ」
「え?もうないのか?」
「今回持ってきた分は、さっきのでお終いだな」
「そんなぁ~...」
「だが、安心しろ。そもそもタニア先生がいらっしゃるんだから、我々に負けはない!!」
「お~!そうだったわ」
「確かに、タニアは凄腕の魔術師だからな」
「そんなに持ち上げてくれてもな。だが、全力は尽くすぞ」
「頼もしいな。当然、私も全力で向かおう」
まだ、バリバリと咀嚼をしている。
コボルドが終わったらこっちに来るか、それとも満腹して森に帰るか...だが、ここでサイクロプスを逃がすわけにはいかないので、作戦を考える。
「あの巨体だから、まずは足止めをしないとな。タニアは電撃の魔法が使えるんだよな?」
「あぁ、問題なく使えるが、あれだけ大きいと威力が落ちそうだな。あと、距離があると、それも威力が落ちる原因になる」
電撃の魔法は威力はあるが、空気中ではすぐに放電して威力が落ちるのだ。
ゲームだと、そんな事はないんだけどな。
「とは言え、近づく事がそもそも困難だよね。どうする?」
リアが心配そうに聞いてくる。
リアは肉弾戦だから、サイクロプスとは一番相性が悪いもんな。そりゃ心配だ。
なので、思いつきだが、おそらくこれが一番確実だと思える作戦を伝える。
「私も一応電撃の魔法は使えるが、タニアの魔法とは違うからな。だが、そんな事は言ってられないので、タニアと同時に電撃魔法をぶつけてみよう」
「そうだな。それが良さそうだ」
「電撃でしびれている間に、ミームが1匹の足を切りつけて、動けないようにしてくれ」
「良いけど、私のバスタードソードじゃどこまで傷つけられるかわからないよ?」
「じゃあ、先に剣に魔力を付与しておこう」
「そんな事が出来るのか!?」
と、これはタニア。
その目が「あとで教えろ」と言ってるのが分かる。
会って3日なんだが、タニアは分かりやすい。
「あぁ、一時的なものになるが、それでも切れ味は数倍になるはずだ」
「よし!じゃあ頼んだ!」
「アタシはどうしたら良い?」
「リアはミームと一緒にサイクロプスに突撃して、ミームが切りつけた方に攻撃を加えてくれ」
「反対の方じゃなくて?」
「確実に1匹を倒したいので、まずは1匹を狙おう」
「わかった」
「その後は?」
「私の飛燕ではサイクロプスにはあまり効果がないだろうからな。星砕丸で攻撃するよ。おっと、こっちにも魔力を付与しておこう」
「じゃあ、私は魔法弾で攻撃だな」
「私は引き続きバスタードソードで切りつける」
「ミームの攻撃の後に攻撃するようにするわ」
「リアはかなり接近する事になるから注意しろよ」
「もちろん」
さて、サイクロプスは食事が終わったようで、血だらけの口を拭っている。
辺りを見渡し、我々を見つけたようだ。
「ぐぅおおおおおおおおぉぉおおぉぉぉぉおおぉおおおお!!」
突然、野太い咆哮を上げ、こちらに向かってきた。
確かに大きい。
人型でこれだけ大きいと何mあるのか見当もつかない。
2階建ての家ほどの巨体が2つ、怒涛の勢いで走ってくる。
一歩踏み出すたびに地面が震え、空気が押し出される。
細面の顔。名前の由来である巨大な一つ目が、こちらを「餌」と認識しているようで、血走っている。
棍棒は持っていない。ありがたい事に素手だ。
だが...あの手に掴まれたら、それだけで骨は砕けるだろう。
巨体そのものが凶器だ。
とにかく、捕まらないこと。それだけが生存条件だ。
「ミーム。バスタードソードを構えてくれ」
私が言うと、ミームがバスタードを中段に構える。
傍により、ミームの手の上に手を重ねる。
一瞬、ミームと目が合ったが何も言わない。ただ、お互いがニヤリと笑い合っただけだ。
「エンチャントマジック...エネルギーソード」
これぐらいだと無詠唱でも大丈夫なのだが、タニアからは色々怒られそうなので適当な呪文を唱える。
この魔法は、魔力を剣に与えて切れ味を倍にする魔法だ。
だが、タニアの家で炎の魔法を使ったら、冗談ではなく1000倍ぐらいになったのだ。
今回はある程度制限して使用したが...
ミームのバスタードソードは、青く輝き、軽く振るだけで「ブオン」という音がするようになった。
う~ん...数十倍に威力にはなったかもな。
続けて自分の刀『星砕丸』にも魔力を纏わせる。
こちらも、青く輝く状態になる。これは、かなりの切れ味になったのでは?
そこまで準備したらサイクロプスがかなり近くになっていた。
頃合いだな。
「タニア。君が呪文を先導して撃ってくれ。私はそれに合わせて呪文を撃つ」
「わかった。ぶっつけ本番だが、魔法を合わせるんだな?」
「威力が多少でも上がれば儲けものだからな」
「違いない」
タニアの左側に立ち、杖の代わりに星砕丸を掲げる。
それを確認したタニアが呪文を唱え始める
「空を覆う常闇の暗雲、ワルターの息吹によりここに集え。その黒き綿毛に魔力を絡め、中心に向かいて雷光を蓄えよ!」
タニアの魔力が膨れ上がり、左手でかざした杖の先端に黄色に輝く光が灯る。
徐々に光が大きくなり、バチバチと音がし始めた。その直径は1m以上!
このサイズはかなり魔力を消費しているはず。
横目でタニアを確認すると、うっすらと汗が噴き出しているようだ。
ならば私も応えようではないか!
「その威力を持って、目の前の敵を打倒さん!雷光弾!!」
タニアのその呪文の完成と共に、杖の先端にあった光の玉が撃ちだされる。
その瞬間を見計らい、私は自分が練り上げた、敵を屠るための魔力を解放する。
「サンダーボルト!!」
タニアの魔力に合わせるように練り上げた魔力の玉は、タニアの雷光弾に纏わりついたかと思うと、一瞬で融合する。
とたんに雷光弾は数倍に膨れ上がり、2匹のサイクロプスを包み込んでしまった。
「「ぎゃあわあぁあああぁぁぁぁああああああぁぁぁあああ!!」」
しばらく、雷光が消えずにサイクロプスたちを覆う。
あれは、『轟雷』以上の威力だな。
ミームも、リアも、さすがに今は近づくのはまずいと思っているのか、となりで様子を見ている。
数秒の間、サイクロプスの周囲に雷光が見えていたが、電撃の魔法は基本的に長続きしない。
バチバチという音も小さくなり、やがて静寂に戻る。
サイクロプスたちも、かなりのダメージを負ったようで、その場に片膝をついてしまった。
その機を逃さず、ミームと私が走り出す。遅れてリアが走る。
ミームと軽く視線を交わし、それぞれの獲物を攻撃する。
すなわち、私が右でミームが左だ。
私の目標は立膝になっている方の足の脛だ。すぐ骨なので切れないにしても、強烈なダメージを与える事が出来るはずだし、すぐに動けなくする事が可能だ。
切れ味がどれほどになるか分からないが、すり抜けざまに逆胴で一撃を加えた。
コン...
肉体を切ったにしてはありえない音が響き、そのまま走り抜ける。
手ごたえは...ない。どうやら両断してしまったようだ。
「ぐぅぅわあああぁぁぁあああ!!」
遅れてサイクロプスが絶叫を上げる。
「ごおおぉぉあああぁぁぁあぁぁ!!」
もう1匹も絶叫を上げた。ミームが一撃を加えたようだ。
残心しつつサイクロプスから一旦離れる。
振り返りつつ、サイクロプスを見ると、私の切った方はバランスを崩して倒れこんでいる。
ミームが切った方もバランスを崩しているが倒れてはいない。
「倒れろ!!!」
そこにリアの気合の籠った声が聞こえると、「ドゴン!!」という、鈍い音が響く。
ミームが切った方のサイクロプスが大きくのけぞる
どうやら、リアの渾身の一撃がサイクロプスの顔面を捕らえたようだ。
「ぐぅううう!」
殴られたサイクロプスが横倒しに倒れようとする。
その時、サイクロプスが振り回した腕が、まだ空中にいたリアを掴もうとする。
危ない!
と思った瞬間にタニアが呪文を素早く唱える。
「追風弾!」
おそらく突風を起こす魔法なのだろう。
リアの身体が不自然に横滑りして、サイクロプスの巨大な手から離れる。
ズン...
地響きを起こして、サイクロプスが倒れる。
これで、2匹とも地面に横倒し状態になった。
これは好機だ。
私は警戒しながらも、再度サイクロプスに近づく。
同じ事を考えたんだろう。ミームも素早くサイクロプスに走り寄っていた。
生物の急所は頭部である。それが目の前に転がっているのだから、これを攻撃しない手はない。
切っても良いが、日本刀は突く事も長けた武器だ。
サイクロプスの頭部に突き入れる。
「ぐおう!」
一言叫び、サイクロプスは動かなくなった。
素早く抜き取り様子をうかがう。
すると、もう一匹のサイクロプスからも、
「ごがあああぁぁあ!!!」
という叫びが上がった。
注意しつつそちらを見ると、ミームがサイクロプスの額にバスタードソードを突き刺していた。
あ~、あれは即死だね。
もっとも、こっちも即死だろうけど。
少しサイクロプスから離れ、様子を見るが動き出す気配はない。
どうやら、討伐依頼は完了したようだ。
いやぁ~ホントに疲れたよ。
次は手榴弾を1ダースぐらい用意してから、サイクロプス討伐に行くようにするか...。
さて、これで討伐は完了で良いだろう。
まさかサイクロプスが2匹も出てくるとは思わなかったが。
戻る前にやらなきゃならない事がいくつかある。
まず、討伐した証拠を用意する事。
今回はデジカメで証拠を撮る事にした。
聞けば、写景魔工は1つ撮るのに1分ぐらいかかるそう。
しかも、5回分しか情報を保持できないようだ。
いつもは、コボルドだけだし、洞窟の中は暗すぎて撮れないので、右耳を持ち帰ったりしていたそうだ。
今回の倒した分はかなり多いので、今回はデジカメにしようという事になったのだ。
使い方の練習という事で、野外の分は3人に任せて洞窟内は私が対応した。
デジカメは予備でもう1つ持ってきていたのだ。
そして、討伐したコボルドとサイクロプスの焼却作業。
さすがにこれを放置すると、山から何が下りてくるか分からない。
狼ぐらいなら良いかも知れないが、それでもトモニアにとっては脅威になる可能性がある。
てか、このままではどんな病原菌が発生するか分からない。
自然死や弱肉強食の関係での話であれば問題はないが、ここら一帯が死体だらけだからな。
喰ってくれるにしても、これだけの量が一瞬で消える訳ではない。
薬草取得の依頼もあるので、これは絶対に必要な措置なのだ。
なので、ここはタニアにもう少し頑張ってもらおう。
聞くと、火炎の魔法で燃やすだけであればそれほど魔力は消費しないようだ。
リアとミームにも手伝ってもらって、燃えそうな薪などを拾ってもらったりしよう。
薪を集める作業には電龍にも手伝ってもらった。
一応作業用アームを取り付けているからな。
で、洞窟内の焼却は私がやった。
一酸化中毒になる可能性もあるので、こういう知識のある者が対応するのが良かろう。
私の場合、簡易型酸素ボンベもある。問題ない。
火炎放射器みたいなものがあると便利かもな。
危険だから、私が使う事になるだろう。
あと、絶対にリアには触らせないようにしないとな。
とはいえ、魔法で十分換気しながら実施したので、酸素ボンベは使う必要はなかったのだが。
最後に、魔石の扱いについて。
どうやら魔石の存在がコボルドを洞窟に招き入れていたようだが、これをそのまま報告するのは良いのだろうか。
リアが持ち込んだと言っているが、う~ん...。
説明の方向としては、「今まで居なかったボスコボルドを倒すと魔石が出てきた」としよう。
そして、「魔石がコボルドを集めたかも?」と言うぐらいだな。
うん。説明はこれだけ。
ぶっちゃけ、リアが「私が落としたかも」と言っているが、それさえ確実な話ではない。
確実なのは「魔石があった」事だけだ。
魔石は一旦タニアに持ってもらう事にし、トモニアに戻る事にした。
討伐がお昼過ぎに終わってしまったぞ?
サイクロプス2匹も居て、このスピードはちょっとなぁ~...。
後で何か言われそうだな。
「それにしても、今回はかなり沢山のコボルドが居たけど、かなり早く片付いたわね」
「おまけにサイクロプスが2匹で、それも瞬殺って言っても良いぐらいの速さだったよね」
「私としても、サイクロプスはかなり慎重に対応しなければと思っていたんだがな...」
帰り道に、3人が道すがら会話をしている。
ファンタジー小説だと、倒した魔物は解体して素材として材料に使ったりするのだが、この世界では魔物はあくまでも「魔物」。
ドラゴンぐらいだと鱗などは装飾品等に使えるようだが、コボルドやサイクロプス程度では単なる死体でしかないようだ。
「リョウの武器や道具も凄いけど、魔法はまた別のものだな」
「そうか?」
「お姉様の魔法と一緒になって、さらに威力を大きくしちゃうなんて、初めて見たわよ!」
「私も初めて見たな」
「そもそも、私もそういう魔法があるとは全く知らなかった。『東の国』ではそういう魔法は普通なのか?」
タニアが気を使って、私の設定に沿って質問してくる。
「いや。あれは私のオリジナル...自分で考えた魔法だな。言ってたように、魔法をちょっとだけ覚えた後は自分で色々と実験して覚えたからな」
本当は、魔術大全に「そういう事が可能」レベルで書いてあるだけだから、私のオリジナルと言っても良いのだろうが...。
「じゃあ、ここまでに来る途中で色々と実験したんだね」
「まぁ、そうだな」
この世界に来るまでに色々実験したのは本当の話だ。
「じゃあ、あちこちで不思議な現象があったら、それは全部リョウの仕業って事よね?」
「そんなわけないでしょ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
「私の実験は、ちゃんと誰にも迷惑がかからないようにしていたぞ」
「本当に?」
「ていうか、この辺りで不思議な現象があったりしたのか?」
「えっと、コボルド大量発生とか?」
「それはリアが持ち込んだかもしれない魔石が原因だっただろ!!」
「...あれ?」
今日もリアはリアだった。




