■■■ Step016 やっぱり洞窟の奥はマッドでした
洞窟の最奥まで行きます。
そこに居るのは?
重い空気だが、私から切り裂くのは簡単だ。
だが、3人の反応を確認したい。
「まだ洞窟の中が残っているし、サイクロプスはまだ姿を見せない。出来れば今日中にすべてを終わらせたいからな。まずは洞窟の中を攻略しよう」
タニアが口火を切ってくれた。
本当に優秀だな。リーダーの資質も持ち合わせていて、頭も良く、気遣いもでき、指摘も的確だ。
「そうね。まだ依頼が終わった訳じゃないからね」
と、ミームが洞窟に向かって歩き出す。
それを追って、リア、タニアが続き、私もそれに続いて歩き始めた。
「それにしても、リョウの武器は凄まじいな。さすがの私も恐ろしく感じたよ」
前を向いて歩きつつ、タニアが私に声を掛ける。
その言葉には単に「驚いた」程度の感情が乗っているだけで、私としては安心する。
「よく考えたら、リョウの武器に驚いて怖くなっちゃったけど、お姉様の魔法はもっと無慈悲よね」
それを聞いたリアも、いつもの調子で話しかける。
彼女たちは冒険者として、妖魔や魔獣などと命の駆け引きをしており、その手で命を刈り取って来た者たちだ。
私の攻撃手段については驚いただろうが、行為そのものについては特に問題視はしなかったんだろう。
ここは異世界なんだ。と、改めて思い直した。
「それは褒めているのか?」
「もちろん!褒めていますわよ!お姉様!!」
「ふっ。まぁ冗談だ。そんなに固くなるなよ」
「...お姉様も冗談を言うのですね...」
リアが驚いた顔でタニアの顔を見つめる。
「ん?そう言えば、言った事がなかったような?」
「それはアレじゃない?リョウに感化されてきたのよ」
と、ミームが振り返り、私を顎で示しながら笑う。
いや、この場合は「嗤う」だな。
「なんで私なのだ?正直3日しか付き合いがないぞ?」
「十分なんじゃない?そもそも、今までタニアと対等な男は見た事がないからね?」
「え?そうなのか?」
「まぁ、そうだな。しかし、私と対等な立場は男女共に居なかったが正解だ」
「確かにね。でも、対等じゃないけど、女は私やミームが居たけど、男は皆無だったわ」
「スバンは?」
「あれは隣人というだけね」
「男でも女でもないって事?」
「そういや、性別は男だったな...」
なんか可哀そうになってきた。
今度スバンに会ったら優しくしてやろう。
さて、みんながいつもの調子を取り戻した時には洞窟の前に到着した。
「じゃあ、洞窟での戦闘に向けて用意しなきゃだね」
ミームがそういうと、背中からリュックを下し、ゴソゴソと漁りだす。
「何かあるのか?」
「当然用意してある。これだ!」
と、ミームが効果音が出そうな勢いで松明を取り出す。
その隣ではタニアがランプを取り出していた。
「ちょっと待ってくれ。良いものがあるんだ」
洞窟は暗いし、敵が物陰から攻撃してきたら大変だ。
ここは出し惜しみせずに道具を投入しよう。
「なんだリョウ、何か良い道具でもあるのか?」
「ある。ちょっと待ってろ」
そう言って電龍に通信で指令を出す。
「電龍、『星蛍』起動」
『『星蛍』起動しました。そちらに向かって移動させます。しばらくお待ちください』
「これで良し。もうすぐしたら、小さい箱がここに来るよ」
「箱?」
「そう。銀色の箱だ。あ、それから、これも渡しておくよ」
「今度は何?」
「これだ。この四角い部分をおでこに来るようにして、頭に巻いてくれ」
超薄型のヘッドライトで、かなり広角的に光を発するタイプだ。
バッテリーと発光体が一体型になっていて、1回の充電で8時間は持つ。
「これ?カチューシャじゃないよね?」
「すまんが、これはそんなおしゃれな物じゃない。これを付けて洞窟に入れば分かるよ」
「ふ~ん...ま、リョウの魔工は便利なものばかりだから、ちょっと期待しちゃうわね」
「そう言ってもらえると助かるな」
それぞれにヘッドライトを渡し、装着してもらう。
「あれ?リョウは付けないのか?」
「私はもう既にあるから大丈夫だ」
「ひょっとして、その帽子か?」
「そうだ。良く分かったな」
「いや、さすがに分かるだろ?」
としゃべっている間に星蛍が到着した。
それは、20cm四方の正方形に大きなタイヤが6輪付いた物体だ。
「これはなんだ?」
「これは『星蛍』という、明かりを灯す道具だ」
「ここまで勝手に来たって事は、この後も勝手に動くの?」
「そうだ。だから、松明を手に持って移動する必要はないよ」
「へ~便利」
「よし、準備が出来たようだから、中に入ろう」
「分かった。『星蛍』、先に入って内部を照らせ」
星蛍は命令に従い、洞窟への移動を始める。
「じゃあ、我々もついて行くぞ」
驚いている3人に声を掛け、洞窟の中に向かう。
洞窟に入る直前、星蛍の頭部が上にスライドしてせり上がり、せり上がった部分全体が光り始める。
さらに、左右が開いて小さなドローンが2機飛び、かなり強力なライトを発光させながら前方に飛ぶ。
ちなみに、ドローンの方が星蛍で、四角い移動モジュールは星蛍ベースである。
「いや、これはすごいな...」
割と物静かなミームが思わず感嘆の声をあげる。
「今回の討伐はリョウの道具でずいぶんと楽が出来るな」
「まぁ、今回はね。それと、扱いが簡単な道具はいくつか貸してやろう。電龍とか星蛍とかはさすがに貸せないがな」
「星蛍はダメなのか?」
「電龍と一緒で、簡単に使えないものなんだよ。このデジカメや...ほら、こういう懐中電灯ならば大丈夫だ」
と、懐から取り出した手回し充電式LED懐中電灯をミームに投げ渡してやる。
「なんだこれは?」
「筒の横に丸いものがあるだろう?」
「丸いもの...これか?」
「そう。で、それを親指でちょっと押し込んでみてくれ」
「親指で押し込む...という事はこう握るんだな。で、押し込んでみる...あ、凹んだ...って、わわ!!!」
「なんか...松明よりも明るいんじゃないか?」
「それは『懐中電灯』というものだ。あとでちゃんと使い方を説明してやるが、それはもうあげるよ」
「え!?貰っていいのか?」
「あぁ。それはあげる。大事に使ってくれればかなり長い間使えるはずだ」
「ねぇねぇ!!アタシには!?」
「大丈夫。リアの分もタニアの分も当然あるよ」
「ありがとう!!」
「わ...私も貰えるのか!?」
「もちろん。とりあえず渡しておくけど、今回は使わなくても星蛍があるからな」
「わかった」
と、返事をしたタイミングで、それぞれに渡したヘッドライトが前方を照らしだす。
「わわわ!」
「これは?」
「暗い所に入ったら、自動的に光るようになっているんだ。自分の見る方向が明るいから、使いやすいだろ?」
「これもちょうだい!」
「あぁもちろん」
「やったぁ~!!」
星蛍で内部を照らし、物陰のコボルドを見つけ出して、そこを倒すという感じで洞窟内は進んでいった。
ちなみに、主に倒しているのはミームである。
私も星砕丸で1匹切り捨てたが、それだけだ。
ミームは歴戦の戦士のようで、コボルドを見つけては無駄な動きをせず、最短距離で切り伏せていた。
見事なものだ。
「それにしても...臭いな...」
「ここ最近、コボルドを殺しまくっているからな...」
「嫌な言い方だな...まぁ、確かにそうだな...」
そう。
一番の問題はこの臭いだ。
余りにも気持ち悪くなったので、簡易マスクを装着した。
一応、「こんな事も有ろうかと」思って、人数分持ってきてはいたんだが、簡易な分臭いが漏れ入ってきているのだ。
本当に想定外だよ。
ともかく、臭いに悩まされながら20匹以上のコボルドを倒した。
予想通りだが、ホントに多いな。なぜなんだ?
そして、とうとう最奥にまで到達した。
星蛍に照らされて、奥から思った以上に大きい人影が何かを引き釣りながら現れる。
成人男性ぐらいの身長の...コボルド?
「ぐがあああぁぁ!!」
コボルドが一声吠え、手に持ったグレートソードを横に振る。
ブォォン!
重たい風切り音がして、遅れて風圧が到達した。
まさか170cmぐらいのコボルドに遭遇するとは思わなかった。
「ちょっと!なんでこんな大きなコボルドがいるのよ!」
リアが構えながら叫ぶ。
「さすがの私も知らないな」
と、ミームがバスタードソードを構える。
「なぜ、グレートソードなんか持ってる?」
タニアは下がりながら杖を構える。
ここまで、氷弾をメインに魔法を連発しており、ちょっと疲れている。
サイクロプス戦も見据えて、ちょっと休んでいてもらおう。
「タニアは下がってて。この後サイクロプスも戦わなきゃならないかもだし」
「わかった」
それにしても、目の前のコボルドはでかい。
普通のコボルドは背が低いし、それほど筋力はないようなので、持ってもナイフぐらいじゃないかと思われる。
が、目の前のコボルドは大きく、筋肉がしっかり付いている。
ただ、この筋肉量でグレートソードはまだまだ重いはずだ。
振り回すのは大変なはずなのだが、技量を持たないコボルドには戦略的に合っている。
「ちょっと、これは本当に手ごわいぞ!みんな気を付けろよ!」
「気を付けなきゃの一番はリョウでしょ!」
そういうとミームはバスタードソードを一閃し、大きめのコボルドが両手に持っていたグレートソードを下から上に弾いた。
弾かれた大きめのコボルド...言いにくな。ボスコボルドは、弾かれたグレートソードをもう一度上段に構え、そのままミームに叩きつけるように振り下ろしてきた。
ミームはそれを器用に受け流し、数歩下がって間合いを取る。
ボスコボルドも数歩後ろに下がり、またグレートソードの先を地面に置き構える。
どうやら、グレートソードが重くてずっと持ってはいられないようだが、その攻撃は理にかなっているように見える。
今までの敵もこれで打倒してきたのだろう。なかなかに器用なものだ。
ただ、やはりグレートソードは重いようで、攻撃した後は少し休んでいるようだ。
と、感心していられないな。
「なんか...こいつ、手強くないか?」
ミームがコボルドから目を離さずに独り言ちる。
「どうやら、ここのボスらしいわね」
「ゴブリンとかの上位はホブゴブリンとかいるけど...ホブコボルドとかっていたっけ?」
「さぁ?それはともかく、これはちょっと面倒な敵だな」
本当はサイクロプス用に用意したんだが、仕方ないか。
「どちらにしても、これを倒せば良いんだろう?」
と言いながら、腰の後ろに装備していた『轟雷』を抜き、ボスコボルドに向ける。
「何かあるのか?ここで大きな魔法を出すと私たちも危ないぞ?」
「魔法は使わない。要は身動きを取れなくすれば良いのだろ?こんな風に」
と、手に持った大き目の銃のトリガーを引く。
ドン!という大きめの音がして、筒の先端から何かが広がりながらボスコボルドに向かっていった。
「ギャウワァァアアァァア!!!」
次の瞬間、投網に絡まれて身動きの取れないボスコボルドがのた打ち回っていた。
今はまだ投網に絡まっているだけだから、何もダメージを与えてないんだけどな。
「こ...これは?」
「粘着性のある網だ。そして、こういう事が出来る」
カチッっという音がなった瞬間、ボスコボルドを包んでいた投網が帯電する。
手元の銃のスイッチを押すと、網に高圧電流が流れる仕組みなのだ。
この武器は高圧の電流が3秒間流れる。実質使い捨ての武器なのだが、結構使えるな。
「ガアッァァアアァァァアアアァァアア!!!!」
ボスコボルドが絶叫を放ったが、3秒を待たずに黒焦げになって息絶えて、痙攣するだけの肉の塊となり果てた。
なお、投網は電流を流した後、燃えてしまう仕組みだ。
「...終わった...の?」
網が燃え尽き、ボスコボルドがブスブスと音を立てて煙を吹いている。
過剰な電圧で皮膚が焼けこげ、内臓も脳もかなりのダメージを受けたはず。当然、心臓も止まっているはずだ。
「あれでまだ生きているようなら、とんでもない化け物という事になるよ」
一応、反応を見るために、星砕丸で胸のあたりを突いてみる。
すると、奴の胸元から何かが輝きながら飛び出してきた。
ビックリして飛びのいたが、それ以上の反応はない。どうやらただの屍のようだ。
それはともかく...
「これ...なんだ?」
ボスコボルドの胸から飛び出したものをつまみ上げる。
「これは...魔石...膨大な魔力を含んだ石だな」
横から見ていたタニアが教えてくれた。
「これをこのコボルドが持っていた理由のは?」
「分からん」
でしょうね。
しかし、タニアは深く考え込み、一つの仮説を立てた。
「いや、コボルドにしろゴブリンにしろ、妖魔の一種だからな。強い魔力に惹かれる性質があるんじゃないのか?」
「確かに、その可能性は高いと思われるな」
魔族、魔物、妖魔...これらの生物は「魔力」が欠かせない。
そして、魔力を多く内在させている者ほど強力で上位の存在となる。
で、あれば魔石を取り込んでいたコボルドもボスコボルドになる...と推測できるし、魔力に惹かれる可能性は多いにある。
「と、いう事は...」
「この魔石の魔力に惹かれて、コボルドが集まってきて、増えたコボルドに引き寄せられたサイクロプスが山から下りてきた...って事のようだな」
辻褄は合う。事実かどうかは不明だが、確率は高いんじゃないかな。
「そもそも、この魔石はなんだ?」
「それは分からん。普通に考えて、この魔石はかなりの価値があるものだ。こんな所に放置するようなものではないハズだが...」
「...あ...」
「なんだ?何か思い出したのか?」
「アタシ...かなり前に、それを街からトモニアに来る途中で拾って、後で換金しようかと思ってたんだけど、忘れてて...たぶんだけど、その時のコボルド討伐でここで落としたかも...」
「と、いう事は...犯人はお前か!?」
「だって!これが魔石とか知らないもん!!」
う~ん...コボルド大量発生の理由はこれで説明は出来るけど、どうなんだろうな。
そもそも、リアが道中でこれを拾ったっていうのも気になる。
これ、絶対単なる落とし物じゃないよね。




