■■■ Step015 出発前にマッドな状況になって、到着してからもマッドになる
やっと戦闘シーンです。
朝、朝日を感じる前に目が覚めた。
いつも通りではあるのだが、今日はいつもよりもかなりスムーズに目が覚めたのだ。
昨日は色々沢山の出来事があったので、かなり疲れを感じていたのだが、今は疲れは全く感じられない。
食べ物とかがすべて天然ものだからなのかもな。とちょっと思ったが、検証する気はない。
そっと他のベッドを見ると、静かな寝息が聞こえてくる。
まだ時間は早いと思うので、静かにベスト、スーツ、マントを羽織り、荷物を持って部屋をでた。
電龍の所に行って、あそこで身なりを整えよう。
宿を出て、裏に回って厩に行く。
そこでは電龍がのんびりと鎮座していた。
「電龍、簡易更衣室を出してくれ」
『承知しました』
側車の後ろのトランクが開き、そこから自動で簡易更衣室が出てきた。
「アニメの『こんな事があろうかと』と言う時があるかも、と思って冗談で作った機能だけど、ホントになるとはな...」
事前に用意していた着替えを持って、簡易更衣室に入る。
下着から全部替えよう。あと、軽く身体も拭いておくか。2日前からお風呂に入ってないからな...。
着替えが終わり、こっそり魔法で水を出して、顔を洗い、髭も剃る。
悪の科学者と言えど、身だしなみは大事だからな。
何気に東の方向を見たら、朝日が差し始めていた。
久しぶりのご来光だな。
思わず合掌してしまった。
そんな事をしていたら、通信が入ってきた。
『リョウ。どこにいるんだ?』
タニアか。
「今、厩の所にいるぞ」
『そうか。じゃあ私もそっちに行く』
「わかった」
タニアは本当に物覚えが良いな。
もう、ヘッドフォンの使い方を覚えてしまったな。
これだと、本当に電龍も乗りこなせてしまいそうだ。
と、思っていたらタニアがやってきた。
思った以上に早いな。
「何をしていたんだ?」
厚手の布地で作られた、ドレスのようなワンピース姿に、魔術師の杖を持ってタニアが現れた。
「あ~、ちょっと身だしなみを整えていたんだ」
どうしても、という時以外はタニアにはちゃんと伝えようと思っているので、嘘偽りなく答える。
ただ、下着を替えたとは言わないだけ。
「身だしなみ?」
「顔を洗ったり、髭を剃ったり、着替えたりだな」
「外で着替えるのか?」
「確かに外だが、そこは、ほら」
と、まだ展開したままだった簡易更衣室を示す。
タニアはそこに近づき、中をのぞいたりしていた。
「これはなんだ?」
「『簡易更衣室』だ」
「更衣室?」
「この中に入れば外から見られる事はないからな。この中で着替えるんだ」
「ほ~...そういうものがあるんだな」
「まさか、本当に使う時が来るとは思ってもいなかったけどな」
「中は結構広いな」
「着替えるのにある程度のスペースは必要だからな」
「私も使ってみたいが、着替えるものがないからな...リョウは着替えを持ってきていたのか?」
「『備えあれば患いなし』って言うからな。一応一通りは持ってきている」
「よし。次は着替えを持ってこよう」
「ま、覚えていたらな」
思わず「次があれば」と言いそうになったが、さすがにそれはダメだろう。
タニアは間違いなく私の友人なのだから、友人の願いぐらいは叶えてやりたい。
と、そろそろリアたちも起きたんじゃないかな?
と思ったら、通信が入ってきた。
「ちょっとリョウ!お姉様に変な事してないでしょうね!!」
言いたい事は良く分かるが、私たちはそんな仲じゃない。
宿を出る前にひと悶着があったものの、無事に村を出て洞窟に向かう。
今日もタニアが側車に乗り込み、リアとミームがお馬さんに揺られている。
「それにしても、お姉様とリョウって本当に仲良しなのね」
良く分からないがリアが怒っている。
シスコンなのだろうか?
「友なのだから仲がいいのは当たり前じゃないか」
「一昨日初めて会ったんですよね?」
「そうだぞ?」
「今日で3日目なんですよね?」
「そうなるな」
「どうしてそこまで仲が良いんですか?」
「おかしいか?」
「スバンとはそうではないですよね?」
「スバンは隣人であって友人ではないぞ?」
「あ~...そうですね。そうでした」
なんか拗ねちゃった感じだな。
こういう時はどうすれば良いんだ?
経験則としては下手な事を言うとダメというのは分かっているが、解決策はない。
「私はタニアとリアの方が仲良く見えるがな」
悩んでいたらミームがなかなか上手い事を言う。
なるほど、こういう言い方もあるんだな。と感心しつつ、ここは乗っからせてもらおう。
「そうだな。私から見てもそう思うな」
「そうか?しかし、姉妹だからな」
あ~...そう言えば、一番の敵はこの人でした。
「もう良いです。早く行きましょう」
と、リアがスピードを上げて先行した。
それを追ってミームがスピードを上げる。
その時、ミームがちょっと後ろを振り返り、軽くウィンクする。
どういう意味かは分からないが、きっと「大丈夫」という意味なんだろう。
私とタニアは顔を見合わせ、軽く笑い合ってから2人の後を追うべく、スピードを上げたのだった。
結局このまま、誰も口を開かずに目的地に着いてしまったのだが、リアの機嫌が治っているのだけは分かっていた。
リアがこっそりと後ろのタニアを見た時の顔が、笑顔だったからだ。
昨日と同じ場所にイスリーとマールスをつなぎ、電龍を置いた。
すぐに影百舌鳥を飛ばし、洞窟の様子と周辺を探る。
洞窟の入り口は、なぜかまたコボルドが増えており、合計25匹。
こりゃ、総数50を超えるかも知れないな...。
サイクロプスは姿が見えず、どこにいるのかさっぱり分からない。
山に帰ったとはちょっと思えず、きっと近くに居るんだろうけど、どこに居るんだろうな?
討伐開始の前に、簡単に作戦を...という事で集まったのだが、ちょっと考えがあったので提案...というかお願いしてみた。
「さて、今日はまずコボルドの討伐なんだが、洞窟入口のコボルドは私に任せてくれないか?」
「どういう事だ?」
タニアがビックリしたかのように、私を見る。
そりゃビックリするだろうけどな。
リアもミームもビックリしたようだ。
「1人で20匹ぐらいを相手にするって事?」
「魔法使いとは言え、それは無謀だぞ?」
ま、確かに魔法使いでも爆炎の魔法以外だと難しいかもな。
電撃の魔法は即効性があるが、威力が足りない場合もあるし。
だが、私は悪の科学者である。
平和な日本では実験しきれない危険な代物が、かなりの数ストックされているのだ。
そして、ここは合法的に、それらが使用できる。
先日の千里眼なんかは、今の地球では簡単に打ち上げられないからな。
そもそも、電龍を走らせることが出来ない。
困ったもんだ。
ともかく、私のとって楽しい実験場になるのだ。この機会を逃すわけにはいかない。
「心配してくれてありがとう。だが、大丈夫だ。ただちょっと広範囲に影響があるので、1人でやりたいだけだ」
「一帯が火の海になるような、派手な魔法をつかうのかい?」
それも良い方法だと思うんだよな。
そもそも、洞窟の周りが不衛生すぎる。一度マジで焼却して消毒した方がいいと思う。
が、今回は違う。
「いや、火の海にはならないけど、当たると怪我どころではないからな。お前たちを傷つける訳にはいかないから、頼むよ」
「...それは、洞窟の中では使えないんだな?」
「さすがタニア。その通りだ」
やっぱりタニアは色々と鋭いな。
「仕方ない。分かった」
「え?いいの?お姉様」
リアがホントにビックリしたようにタニアを見る。
その顔は「マジありえない!!」と言っているが、そこまでの事だろうか?
「リョウが何をするのかは全く分からないが、出まかせでない事は分かっている。任せても大丈夫だろう」
「お姉様がそうおっしゃるなら...」
リアが渋々という感じで了承する。
ミームは肩をすくめるだけだったが、こちらも了承してくれたようだ。
では、許可も出たので早速実験をしてみよう。
電龍のトランクを開け、中から刀を取り出す。
いわゆる「打ち刀」という日本刀だ。
当然と言っては何だが、これは正直違法品だ。
本来、日本刀は国家資格を持った刀鍛冶しか作れない。
つまり――これは完全にアウトだ。
私がこの日本刀を作ったのだが、当然鍛冶屋の免許は持っていない。
なので、届け出も出来ないまま作刀し、出来上がっても登録にも行けない状態なのだ。
もっとも、個人的な趣味で作った刀であり、日本鍛冶屋の伝統的手法は用いていない。
厳密には、日本刀と呼ぶ資格すらない代物だ。
ともかく、中二病的な勢いで作ってしまった、長さ2尺4寸(約72.7cm)、重さ820g、反り2.1cmの中反り。刃文は湾れを基調に互の目が交じり、切先は大切先。
その名も『星砕丸』をベルトに差し込む。
そして、銃も取り出す。
種類はアサルトライフル。セミオートもフルオートも可能な軍用小銃『飛燕』。
弾倉には30発の中間弾薬が入っており、予備で弾倉を4つ持つ。合計150発。50匹程度のコボルドには十分すぎる。
最後にもう一つの銃。『轟雷』
これはサイクロプス用に用意した切り札。
1発限りの使い捨て武器だが、威力は強力だ。
こちらは仙骨の上にホルスターが来るベルトを腰に巻き、そこに納める。
これで準備は整った。
「じゃあ、行ってくる。とりあえず、ここで待っていてくれ」
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。逆に近くに来られたらお前たちが危ないからな。必ずここで待っておくんだぞ」
「...分かった」
かなり心配そうにしているタニアに、懐から出したオペラグラスを投げて渡した。
「こっちが終わったら通信で呼ぶから、それまではそれで眺めていてくれ」
振り返らずにそう告げて、私は洞窟に向かって斜面をゆっくりと歩いて向かったのだ。
「さて、まずはセミオートで順番に倒していくか」
コボルドが『飛燕』の射程距離に入ったので、ゆっくり歩きながら『飛燕』を構える。いわゆる「肩付け」だ。
狙いを定めて一番手前にいるコボルドに照準を合わせ、引き金を引く。
ダァーン!
乾いた衝撃音が岩壁に反響し、次の瞬間、コボルドの頭部が爆ぜた。
「ギャウン!!」
それを見て、慌て始める周囲のコボルド。
しかし、まだ私には気が付いていないようだ。
ホントに頭悪いな。
続けて2発、3発と撃っていき、確実にコボルドを仕留めていく。
『戦場では常にクールであれ』
師匠の言葉が頭によぎる。
ここは戦場ではないが、生きるか死ぬかの瀬戸際である事は変わりがない。
最弱の妖魔であっても気を抜く事は、自らの死を招く事になるのだ。
10匹ほど倒した頃に、やっと私を確認したようだ。
手に木の棒や、どこで拾ったのか赤錆だらけの剣やナイフ、大半は素手だが、私に向かって突撃してきた。
その数、10匹ほど。
肩付けのままでは間に合わない距離だ。
狙い撃ちを諦め、フルオートに切り替えて腰だめに構え、反動を押さえつけるように引き金を引く。
ダダダダダダダダダダ!!
「「「「ギャワワワ!!」」」」
向かってくるコボルドが前から順番に倒れていく。
数匹がまだ生き残っているが、弾には当たっているのでその場から動けずにいた。
ちょうど弾倉が空になった。
反射的に新しい弾倉を叩き込み、ボルトを送る。
改めてセミオートに切り替え、1匹ずつとどめを刺す。
洞窟の前を見ると、4匹のコボルドがこっちを見ている。
おそらく、どうしようかと悩んでいるんだろうな。
悪いが、お前たちは全滅してもらわなきゃならないんだ。
私は...俺は、間違う事は許されないんだ。
洞窟の外にはもうコボルドはいないようだ。
それにしても、戦闘が始まって3分もしない内に終わったな。
普通に現代の武器は、この世界では強力すぎるな。
しかし、実験を止めるつもりは無い。私は『悪の科学者』なのだ。
「フリー、オン。みんな、洞窟前のコボルドは全部倒したようだから、来てくれるか?」
『終わったのか?』
「見てたんだろ?終わったよ。後から洞窟から出てくる奴もいるかも知れないが、見える限りにはコボルドは居ない」
『分かった。今からそっちに向かう』
すぐにタニアたちがやってきた。
「リョウ。それはなんなんだ?」
タニアの第一声がこれでだ。
後ろの2人もちょっと怖い...じゃないな。私を恐れている気配がする。
「これか?これはアサルトライフルというもので、見てたと思うが、銃口...この筒の先から弾丸...鉄の塊だな。それを撃ちだして敵を倒す武器だ」
軽く鼻から息を吐き、いつもの調子で武器の説明をする。
が、自分の声がかなり余所余所しいと感じられる。
「弓矢とかではないのね」
これはリア。
見たこともない武器だからな。比較するものはここでは弓矢しかないだろう。
「全く違うものだな」
「それがリョウの魔法なのか?」
これはミーム。
魔工のようなものだと思ったのだろうか。
そういえば、魔工の武器ってあるのかな?
「違う。これは『科学』によるものだ」
「『科学』?」
この世界では発展してこなかった『技術』。
いや、どこかで細々と進化している可能性はあるが、この文化レベルだと、まだ蒸気機関もないハズだな。
「誰がやっても同じになるやり方を探すことだ」
「という事は、アタシがその...アサルトライフル?というものを使っても、さっきのリョウみたいに出来るって事?」
いよいよ核心に触れてきたな。
もちろん、『悪の科学者』としてはキチンと説明はするさ。
それが私の矜持だ。
しかし、これは説明が難しいな。
「う~ん...『私と同じようにコボルドを倒すのは難しい』けど、『誰でもアサルトライフルの、この引き金を引けば、弾丸が出る』という事だ」
「戦い方はマネできないけど、それを使う分には誰でも簡単に出来るって事?」
その通り!
「そうだな」
「...物騒だな...」
タニアの一言が真髄を貫く。
そうだ。この世界にとって、『科学』は脅威となる。
理由は簡単。誰も『理解できない』ものだからだ。
「タニアの意見は正しい。だから、これは私しか使えない事にしておくよ」
「そうだな。その方が良い」
ちょっと派手にやりすぎた気がしない事もないが、いずれ通る道なはずだ。
逆に速めに理解してもらって良かったと思おう。
これで、タニアとの友誼が終わったとしても、タニアには良い経験をさせてもらったのだ。
この依頼は最後まで全うしようと心に誓った。




