■■■ Step014 宿屋の一夜はマッドに染まる
討伐前日の夜の話です
明日はいよいよ討伐です!
洞窟の下見が終わり、行きと同様に馬2頭と電龍でゆっくりと村に戻る。
村へ引き返す道すがら、急に気になった事があったのでリアに聞いてみた。
「そういえば、討伐した証拠はどうやって証明するんだ?」
「例えば、依頼主の所から誰かがついてきて、証明してくれる場合があります。他には討伐した魔物の部位、例えば右耳とかを持ち帰って証明とする事もあります」
リアは真面目な会話が出来ない事もないようだ。こういう時はキチンと説明が出来るのだが、時々...というか結構精神年齢が極端に落ちるようだな。
「じゃあ、今回だとコボルドの右耳を集めて持ち帰るって事になるのか?」
「私たちの場合はお姉様が作られた魔工を使って証明します」
「魔工?」
「『写景魔工』というものを使うの」
と、リアがバッグをごそごそと漁り、スノードームのようなものを取り出した。
どうやらスノードームに見える部分はいわゆる水晶玉のように見えるが、なにやら濁っているように見えるので、正確には分からない。
目測だが、スノードームの部分は直系約10cm。台座の部分はスノードームよりもちょっと広いようで、縦横12cm×12cmで高さは4cmぐらいだろうか?結構大きいな。
「『写景魔工』...目の前の光景を記録する魔工...って事か?」
「!!...良く分かったわね...」
「まぁ...私も同じようなものを持っているからな」
と、懐からデジタルカメラを取り出した。
別にスマートフォンでも良かったのだが、ちょっと前に電話がかかってきていたのだ。
きっとあの娘だろう...この時間は学校が終わってすぐなので、とりあえず電話をかけてきたって所か?
この状況で電話に出る事が出来なかったので、出なかったんだが...。
しかし、期せず千里眼経由で私の世界から問題なく通信出来る事が確認できたな。
「それは?」
デジタルカメラを見て、リアが不思議そうな顔をする。
明らかに『写景魔工』とは違う、そしてかなり小さいものなので、イメージが追い付かないのだろう。
逆に、私にも『写景魔工』がどんな感じで動作するのかが全くイメージ出来ない。
「これは『デジタルカメラ』という風景を記録できる道具だ」
とりあえず、荷物を少なくしたかったので、手のひらサイズのを持ってきておいたのだ。
「でじたるかめら...?」
「そうだ」
「それで風景を記録出来る...のか?そんなに小さいのに?」
「これはデジタルカメラの中でも小さい方だから性能はそれほどでもないが...こんな風に写るんだ」
と言って、側車の座るタニアを写し、ディスプレイ部分を見せてやる。
「おぉ!!これは...」
「なになに!!お姉様、どうされたんですか?」
「リア、これを見てみよ!」
「え?これ...はぅあ!!」
「ちょっと...私を仲間外れにしないでよ...」
「ごめんごめん!そんなつもりは無いから...ほら、見てみて!!」
「ちょっと!そんなに目の前に出されたら逆に見えないって...って、これね...ひゃあ!!」
この後、デジタルカメラの使い方の講習会になり、帰りの道中はかなり騒がしい状態だった。
そろそろ村に入るという所で、リアが思い出したかのように声を掛けてきた。
「そういえば、村ではすごい音が昼時にしたって話になってるよ」
あ~...実験優先してたので、その事については全く頭になかったな。
「それは千里眼のだな」
さすがタニア先生。すぐに分かって貰えた...っていうか、アレを見てればすぐに思いつくか。
「へ~、ここまで聞こえてたんだな」
「そりゃ聞こえるだろ」
ミームから鋭いツッコミが入ってしまった。
「あそこからここまでは何もないものね」
多少の木々や丘などはある。
が、ほぼほぼ平野なので、音を遮るものは何もない。
そもそも、空に向かって飛ばしたので、なおさら遮蔽物はないのだ。
これはエルセリアまで聞こえている可能性が高いな...。
「白い煙が2本上がったから、悪魔が来たっていう話になってたぞ」
「悪魔!?」
確かにこういう世界の人からすれば大事件なんだろうけど、悪魔ってすごい事になってしまっているな。
「アタシたちはそこに居たから分かってるけど、この村から見えたのは音と煙だけだったからね~...」
そんな事は分かっている。
しばらく考えていたらしいタニアが私の顔を見て一言、
「これ、どうするんだ?」
と聞いてきたが、私に聞かれても困る。
「どうって...どうにもならないだろ?そもそも説明出来ないぞ?」
この世界の人々にどうやって説明したら納得してくれるんだよ...。マジ頭痛い。
「あ、それリョウがやったよって言っちゃった」
をい!
「え?なんで?」
「え?だって、『悪魔じゃない』って事は言わなきゃじゃない」
「それはそうだな」
タニアもウンウンと頷いている。
確かに悪魔ではない事は言わなきゃだろうけど、なんて説明したんだよ!?
「待って!どういう風に言ったの?」
「え?リョウがバヒュ~ンって2回やっただけって言っただけ」
それだけ!?
「え?そんなんで良いの?」
「え?ダメなの?」
「え?ダメじゃないけど、それで分かってもらえたの?」
「うん。悪魔じゃなきゃいいやって」
「あ~...そうなんだ...」
異世界、恐るべし...。
まだ明るい時間に今日の宿に到着した。
村にある一つだけの宿らしい。
ファンタジーでよくある宿屋らしく、居酒屋を兼ねた宿屋で『山の恵亭』という名前だ。
裏には厩もあり、そこにお馬さんを預け、ついでに電龍も配置した。
電龍のバッテリーはそれほど減っている訳ではないので、今からの時間と明日の出発までの時間で充電でフル充電にはなるだろう。
この世界の人間は、意味不明な物に近づこうとはしないと思うので、電龍を持って行こうとする事はないと思うが、念のためOSは起動状態にしておく。
そうすれば自衛は出来るし、そもそもコボルドやサイクロプスの動向チェックもあるので、完全にOFFには出来ない。
一番気を付けないといけないのは、子ども達だろうな...というのは地球での経験則からだが、正直子どもは何をするか分からないからな...。
こっちの方でも気を付けておかなきゃだし、別の方法も考えないとダメかもな。
そんな事を考えていると、衝撃な事実が判明した。
「え...4人で1部屋なのか?」
私はこの国の通貨を所持していない。それはタニアが良くわかっており、今回の討伐に関しての私の費用はすべてタニアが出してくれている。
ちなみに、今回の討伐の報奨金を配分した後に私の費用を返そうと言ったのだが「これは事前投資だから問題ない」と言われてしまった。
どうやら本気で日本に来るつもりのようだ。
それはともかく、部屋の問題だ。
「そうだ。節約できるものは節約するのが冒険者だぞ」
「私は...男...なのだが...?」
「なんだ?恥ずかしいのか?」
「いやいや!!それは私ではなく、君たちの方だと思ったのだが?」
「私は気にしないぞ?」
と、ちょっといたずらっぽく笑う。ちょっと顔が赤いようでかなり色っぽい...のだが、私はそれを堪能できる心境ではない。
「基本パーティは同じ部屋に寝泊まりするのが普通なのよ?知らないの?」
と、身に着けていた防具を脱ぎ始めたミーム。
防具の下はいわゆるタンクトップのようで、胸は晒を巻いているようだ。というのも、着ているタンクトップの脇がかなり大きく開いており、晒が良く見えているからなのだが...非常に目の毒である。
その横ではリアも防具を外している。
もっとも、ミームほど防具を身に着けている訳ではなく、服はそれほど薄いわけではない。
タニアもローブを脱ぐぐらいだ。
「まぁ、リョウは今まで1人だったんだから、そういうのは知らないのだろう」
「まぁ着替えの際には一応声を掛けてくれ...って事でお願いするぞ」
既にミームは遅いんだが、言っておかないとな。
「それは全く問題ないぞ」
と、どんどん防具を脱いでいく。
まぁ、防具だし、ちゃんと服は着ているから問題は無いのだが、来ている服が薄いんだよ!
「なんだ?盛大ないびきでもかくのかい?」
「そんな事はないぞ?まぁ、君たちが問題ないと言うなら私も問題ない」
早く自分も報酬を稼いで、一人部屋ぐらい自分で払えるようにならなければ...!!
それと、マジでキャンプ用のアイテムの揃えていかなきゃならない気がしてきた。
いっそ、自動車を導入しようか?
そうすると、この3人...最低でもタニアの場所は確保してやらなきゃだな。
あと、やっぱりお風呂だな。
3日もお風呂無しは精神的にしんどい。
トイレの問題もあるしな。
うん。結局キャンピングカーが必要だな。
ただ、すぐには用意出来ないから、電龍で牽引するものを用意するのが早いだろう。
簡単な実験道具などを設置すれば、なかなか良い感じで実験をする事が出来そうだ。
個人的には寝る場所は多少狭くても良いのだが、ちゃんと横になれる場所が良いな。
寝袋は出来ればしたくない。
「実験は良いんだ。だが、所帯じみてきたのはなぜなんだ?」
とりあえず、私もシャツとスラックスだけの楽な恰好になった。
帽子は取らない。これも護身用のなのでな。
ベッドに腰かけ、そのまま横になる。
ちょっと疲れているようで、緩い眠気を感じる。
その瞬間、スマートフォンが鳴った。
マナーモードにしているので、着信音が鳴ったわけではないが、気を抜いている所に突然机の上で「ブ~ッブ~ッ」となれば、ビックリする。
ましてや、何も知らない人であれば...
「何?何?何?何?何?何?」
「何事だ?」
「こんな人里で魔物?」
3人が一気に戦闘態勢...いや、リアはビックリして床に座り込んでいるな。
タニアは杖を左手に構え、辺りを見回しているし、ミームは狭い部屋の中だからか、グラディウスを逆手に持って、警戒している。
あ~...しまったな。
とりあえず、スマートフォンを素早く手に取り、まずは確認。
「江上輝」とディスプレイに表示されていた。素早く通話ボタンを押す。
『了!やっと出...』
「あ~、輝?すまないがちょっとタイミングが悪い。すぐにかけ直すから、ちょっと待っててくれ」
素早く説明して、すぐに通話を切る。
改めて3人を見ると、こっちを見ている。
そりゃそうだろうな~...
「それは一体なんなのだ?」
「あ~これは、離れていても話ができる魔工でな...」
「このヘッドフォン?とは違うの?」
「ヘッドフォンは話が出来る距離が短くて、これはとても遠い距離でも話が出来るんだよ」
「あの声は女...少女の声に聞こえたが?」
「実家...いや、国の知り合いの少女からの連絡で、ちょっと困った事があったらすぐに連絡してくるんだよ」
嘘ではない。かなり端折ってはいるがな。
「ふ~ん...で、ちゃんと話をしてないように感じたけど、今からちゃんと話をするのかい?」
ミームはいつもと違ってかなり鋭いな。
と思って見てみると目が笑っている。この状況を楽しんでいるな?
「あ~輝。すまなかっ...」
『なんで切っちゃうんよ!リョウのバカ!!』
ものすごい勢いで怒鳴られた。
『...ツー...ツー...ツー』
あ、切られちゃってるし...
「どうした?」
「通話が切られちゃった...」
「良く分からないが、相手の少女がとても怒っていたようだが?」
「あぁ、理由は全く分からないんだが...」
「一応、同じ女性という事での話なんだけど、理由は分からなくても謝った方が良いんじゃない?」
「そういうものなのか?」
「国はここからはとても遠いんでしょ?」
「そうだな」
普通にはたどり着けないぐらい遠いはず。
「しばらく会ってないんでしょ?」
「そうだな」
色々あったので、5日ぐらい会ってないはず。
「だったら...ねぇ?」
と、ミームをちらりと見る。
ミームもその通りだと言わんばかりに頷いている。
なるほど。
少女については男には分からない。だったら女性の意見に従うのが正しいだろう。
もっとも、何を謝ればよいか全くわからないが、ここまでの流れを考えると、電話を切ってしまった事が原因だろう。
説明をしたんだがなぁ~...ちゃんと聞こえていなかったのかも知れない。
と、ちょっと考えてから改めて電話をかける。
『...』
「あ、輝か?あのな...」
『ごめん了。切っちゃって、ごめんね...』
あらま。しおらしいぞ?
「あ~...いや、怒ってへんから、大丈夫や」
『ホント?』
「逆に、お前が怒ってたんとちゃうんか?」
『うん...怒ってたけど、もう怒ってない...』
う~ん...やっぱりわからん。
しかし、ここで怒っていた理由を聞くのも野暮だろう。
さっさと話を替える事にした。
「昨日、電話をした時にも言ったが、ちょっとコボルド退治に行く事になったんや」
『ん~...あ~、そう言えばそんな事言っとったな』
昨日はタニアの屋敷で電話をしたからな。
どうせ信じちゃ貰えないと思って、普通に本当の事を話したんだけど、輝なら問題はないだろう。
「で、明日コボルド退治をするんで、みんなと」
『...待って...それ、マジの話しとるん?』
「マジやで?」
『了...あんた、どこに居るん?』
ま、普通はそう聞くだろうな。
「異世界」
ちなみに、輝は私の小説も読んでいるので、異世界関係や普通のファンタジーも造形が深い。
『はぁ!?なんで電話が通じるんよ!!』
「私は『悪の科学者』やぞ?」
『そういや、そうやったわ...』
電話の向こうで頭を抱え込む輝の姿が目に映る。
いつも通りの輝になってきた気がするな。
『え?待って?ひょっとして実験室がロックされているのは、そういう事?』
さすが我が弟子。
良く分かっているな。と思っていたら、3人がこっちを見ている。
そういや、目の前で電話をしているんだった。
ちょっと恥ずかしいから、早めに電話を切り上げよう。
「とにかく、明日はマジでコボルド討伐やから、お土産待っとけ」
『コボルド討伐のお土産?そんなんいらんわ!!』
「なんで?」
『討伐記録とか言って、討伐後の写真とか見せられたらたまらんわ!』
「討伐前の生き生きとしたコボルドも記録取ってるけど?」
『キモイわ!!』
「しゃ~ないな。じゃあ、別のものを用意しといたるから、安心しとけ」
『マジで普通のものにしといてや』
「わかったわかった。じゃあ、こっちもまだ用事が残ってるから、また明日な」
『...わかった...ちゃんとお土産持って帰ってや』
「りょ~かい」
そう言って電話を切る。
「どうだった?」
リアがにっこり笑って聞いてきた。
話しの内容は分からないだろうが、雰囲気から和解したのは分かったのだろう。
「あぁ、大丈夫だったよ。ありがとう」
さて、ホントに無事で帰らなきゃな。
そういや、お土産どうしようかな...。
と、悩みながら部屋で軽くくつろいだ後、夕食を食べる事になった。
ちなみにこの村はこの国、ジョーチェ法皇国の端の方にあるのだが、村の外から訪れる者も多いそうで、そこそこの規模の宿屋なのだそうな。
と言うのも、小さな村では宿屋もなく、誰かの家に泊めてもらわなければならない事もあるそうだ。その場合は村長の家になるようだが...。
そして、最悪の場合は馬小屋とか、野宿とかになるだとか...冒険者も楽ではないのだな。
で、宿泊する宿屋の1階で4人で食事をしているのだが...なぜか、結構注目を浴びているようだ。
まぁ、分からなくはない。
美女と言って全く問題ないタニア。美少女と言って問題ないリア。美女と美少女の中間の顔立ちをしているミーム。この3人だけでも十分人目を引くだろう。
私か?まぁ、日本でも目立つ服を着ているのは自覚している。
当然、異世界でも周りの人々から見たら変わった服を着ているので、それで人目を引くこともあろう。
が、我々の周りは基本的に男...どちらかと言えば「おっさん」という部類が大半だ。
なので、この場合は彼女たちが注目されていると判断する。私はあくまでも引き立て役に過ぎない。
「しかし、狩人の話で森の中でサイクロプスがコボルドを追いかけまわしていたとなると...コボルドが増えたのでサイクロプスが山から降りてきた...と、いう事なんだろうな」
今日の洞窟のコボルドの数を見る限り、サイクロプスがエサを求めて山から降りてきたっていうのが正解な気がしてきた。
「そうだろうな。しかし...そうなると、そもそもコボルドが増えた理由が全く分からないな」
「例の隣国で軍隊の練習があったっていうのも...影響があるのかな?」
そう言えば、そういう話もあったな。
覚えているが、なんかあんまりしっくりこないんだよな、その理由は。
「可能性はあるが、あの数だとちょっと...」
だよな。
「そうなると、改めてコボルドの大量発生の原因はなんだろうな。ところで...コボルドってこんなに多いものなか?」
「いや、そんな事はない...と言いたいが、そもそも妖魔と言われる奴らだからな。人間が戸籍調査をしている訳ではないから個体数とかは全く分かっていないぞ」
「そりゃまぁそうだろうな」
そんな話をしていたら、そばに座っていたおっちゃんが話しかけてきた。
「アンタたち、洞窟のコボルド退治に行くのかい?」
「あぁ、そうだ」
「知ってるとは思うが、サイクロプスも出てきてるんだが、サイクロプスの討伐もするのかい?」
「あぁ、さすがに大変だと思うけど、サイクロプスを野放しには出来ないからな」
「明日の朝、洞窟に行って討伐しようとしてるんだ」
「あんたたちも大変だねぇ~」
「すまんがよろしく頼むよ」
「そうだ、一杯奢ってやるよ」
なんか、こんな感じで夕食が進んでいった。
明日の相談とかしたかったんだけどな。
討伐は明日なのに、まぁまぁ飲んでベッドに入った。
おかげで女性が一緒の部屋だという事を忘れられて助かったのは秘密だ。




