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魔法を信じるかい? ― マッドサイエンティストの異世界旅行  作者: 黒々猫
■■■■■■ 第8章 マッドは厄介事の代名詞
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■■■ Step078 お姫様と黒猫

さて、5人の面談が終わった翌日、パストングが選出した200名の騎士がカタランスに出発した。

その翌日に士官兵舎のお風呂...男性用お風呂が完成した。


パストングが大喜びしていたよ。これでお風呂に入れるとな。

気持ちは分かる。広いお風呂に入れるのは気分が良いからな。


ちなみに、完成したその日の昼からパストングは風呂を堪能した。ついでに一緒に5人の教育担当者と風呂に入ったそうで、そこで「教育論」に花を咲かせ、パストングはのぼせかけたらしい。5人は元気だったそうだが...。



「パストング殿は16人の『再教育』は嫌だと言っていたそうですな」


その日の夕食前に5人が私の部屋にやって来た。

良く分からないが、どうやら私は5人に気に入られたらしい。

それはそれで嬉しいのだが、なぜそうなったのかは一切不明だ。なんでだろう?


「ちょっと違うな。パストングは『再教育と言われても、騎士団としては騎士見習いからさせる事になる。が、それだと根性を直せない』と言ったんだ」

「ほう...で、副官殿が『根性を叩き直してやる』という事になったと?」


リッターが私を睨みながら詰問してくる。

いや、たぶん普通に聞いてきているんだと思うが、恐いよぉ~...エルゼは絶対に泣くぞ?


「そこまでは思ってない。『修行』をさせようと思っただけだ。ただ、16人も相手に時間を割けないからな。誰か用意してくれって言ったらガーペン達を紹介してくれたって話だ」

「それはまた...ややこしい話ですな」

「確かにややこしいとは思うけど、パストングがガーペン達を紹介してくれたのは良かったと思っているんだけど?」

「それはなぜ?」


セレッドがすかさず聞き返して来た。なんにでも興味があるのかな。


「え?お前たち、やる気になってくれたじゃないか?」

「それはそうですが...それだけで良かったと思っているのですか?」


ガーペンが不思議そうな声で聞き返してくる。


「やる気のない奴に再教育...いや、『再教育』はパストングの方でするから、私はこれを『修行』と思っているんだけど、その『修行』をやらせる側までやる気がなかったら、『意味』以前の問題だろう?」

「はぁ...やる気ですか...しかし、副官殿のアレはやる気を植え付ける行為だったんじゃないですか?」


ガーペンのアレとは、おそらく「騎士とは」を実際に話し合ってみた事を言っているのだろうな。


「何を言っているのかな?やる気のない奴には、何を言っても無理だろう?それこそ、お前たちは分かるだろう?」

「はぁ...まぁ、分かりますが...」


私の話がかなりふわっとしている自覚はあるから、分かりづらいとは思うが...。それ以前に、私もどう説明したらいいか分からないんだけどな。


「これは私が思っているだけかもしれないが、お前たちは昨日の件が無くても、16人の前に立った時にはやる気になってくれると思っていたんだよ」

「それはどうしてですかな?」

「私が騎士を愚弄するような事を言った時、すごい殺気を飛ばして来ただろ?」

「あれは...申し訳ない」


ラテントがすかさず謝る。いや、全然問題なかったんだけどな。


「いや、良い。で、16人を目の前にしたらきっと『不甲斐ない奴らめ!』とか思って、『根性を叩き直してやる!』という方向になるんじゃないかとね」

「それは...ありえそうっすね...」


コトラスが頬をポリポリと掻きながらぽつりと言う。

うんうん。非常にありえそうなんだよね。


「しかし...我々だと普通に騎士としての鍛錬しか出来ませんからな。その場合、騎士に戻れるのは数人になるでしょうな」


と、ガーペンが素直に言ってきた。まぁ、最初はそうだろうけどね。


「ん~...そんな事はないんじゃないかな?私と同じ発想はしないだろうけど、きっと5人で色々と考えて、色んな事を試していくんじゃないか?」

「そうでしょうか?」

「たぶんね」


と、そんな話をしていたら、ドアを叩く音が聞こえる。


「どうぞ~」

「失礼します。お兄様」

「失礼します。お兄様」

「セミアとレミか、どうしたんだ?」


私の侍女という事になっているが、今は絶賛エルゼのお世話をしている。

少し寂しい気もするが、ぶっちゃけ私にはキャリーというちゃんとした(?)専属侍女もいる。専属という事で言えば、カラーも私の専属侍女なのだが、もっぱら最強の盾としての存在だ。


加えて、私自身は自分の身の周りは全てこなせるので、侍女が居なくても大丈夫なのだが...女性全員から「ダメ」だと言われている。

何故だ?


「そろそろ夕食ですので、お誘いに...あと、出来ればエルゼも一緒に食事できないかと思いまして...」

「エルゼも一緒に食堂で食べたいって言ってて...」


なるほど。エルゼも自力で立ち上がれるぐらいに筋力が戻って来たそうだからな。

いつもはセミアとレミと一緒に部屋で食事をしているが、たまには皆で食べたいのだろう。


「ほう。別に構わないぞ」


そう言うと、2人は「嬉しい!」と言ってぴょんぴょん跳ねる。

侍女服のスカートの裾は短いんだから止めなさいね。あとでコッソリ注意しておこう。


「こちらは...副官殿の妹御ですかな?」

「可愛らしいではないですか」

「しかし、侍女をしておるのですか?」

「副官殿とは全然似ていないが...」

「どういう事ですかな?」


ガーペン達はセミアとレミの事を知らないらしい。

そう言えば、5人は兵舎住まいだったな。そりゃ知らないか。


ちょくちょく本邸に来る事になるので、ちゃんと説明をしておきたいのだが、セミアとレミはまだトラウマを抱えているので、あの日の話を目の前でするのは忍びないな。


カラーに目をやると、軽く頷いた。任せて良いようだ。


「どういう事って...まぁ、ちょっと色々とね...カラー、ガーペン達にセミアとレミとエルゼの説明をして、それから食堂に連れてきてくれ。私はエルゼを連れて食堂に行くから」

「分かりました、お任せください。細大漏らさず説明します」


ちが~う!そうじゃない!


「いや、そこまでしなくて良いよ。ざっくりの説明で良いから。じゃあ、セミア、レミ。エルゼの部屋に行こうか」

「はい!お兄様!」

「お兄様、一緒に行きます!」


背後に5人の奇妙な視線を感じつつ、2人を伴ってエルゼの部屋に向かう。


ドアが閉まる瞬間、「あの日はご主人様の視線が私の胸を...」というのが聞こえて、もう一度部屋に戻りそうになったが、既に両腕をセミアとレミに固定されてしまっていたので敢え無く断念した。


あとで修正しなきゃダメだ...。



「お...お兄様...来ていただいて嬉しいです」


エルゼはベッドに上半身だけを起こして、私を迎えてくれた。


「やぁ、エルゼ。だいぶ身体を動かせるようになったんだな」

「はい...あの...なので、食堂で食べてみたいなって...」

「うん、良いんじゃないか?ユリも許可したんだろう?」


と、ベッドの傍らの椅子に座っていたユリに声をかける。

ちなみに、向こう側のソファーには、学生服のままの輝と葵が座り、おしゃべりをしていた。

二人だけの会話なので、大阪弁で応酬をしている。


「もちろんよ~。私はエルゼちゃんの主治医やからね~」

「なら大丈夫だな。じゃあ食堂に行こうか」


とベッドの脇に立ち、エルゼをお姫様抱っこしようとした。


「あ、了!待って!」


と、輝に止められてしまった。

なんでだ?連れて行くという事で私が呼ばれたはずだし、エルゼは14歳とは思えないほど軽い。食堂まで連れて行くのに何も問題はないのだが?


「エルゼちゃん、まだ寝間着やから、着替えさせるわ。食堂には他の男の人もいるんやろ?」

「おっと、そうだった。って、私はいいのか?」

「お兄様は寝間着以上に見てるでしょう?」


と葵がジト目で私を見ながら恐ろしい事を言う。


「いやいやいや!さすがに見てないぞ?てか、女の子にそんな失礼な事は絶対しないし」

「見たくなったら同い年の私に言って下さいね」


と、顔を赤くして私に迫る葵。なんでそうなるんだよ!?


「葵ちゃん?抜け駆けは許しまへんでぇ~!」

「いやん、ユリお姉様...冗談ですわ」

「僕には全然冗談には聞こえなかったけど?」

「輝お姉様ぁ~...」


と、ここまでがいつもの1Setだ。毎回やってて楽しいか?


「はいはい。じゃあ着替えよろしく。私は部屋を出ておくから、着替え終わったら呼びに来て」

「はい!お兄様!」

「はい!お兄様!」

「はい!お兄様!」

「はい...お兄様...」


今日は3連単じゃなく4連単か。いや、連単の使い方合ってるのか?


部屋を出ようとした時、目の端にキャリーが映った。きっとエルゼの着替えを取りに動いたんだろう。

...うん?キャリーに服を選ばせて大丈夫か?私をからかう為に際どい衣装を...ってエルゼにそれをするのは無いか。キャリーもエルゼを可愛がっているもんな。きっと可愛い服を用意する事だろう。



しばらくして呼ばれたので部屋に入る。

ベッドの上には可愛らしい赤いドレスを着たエルゼがちょこんと座っていた。


色白のエルゼには赤色が映えるんだな。肌の露出は少なく、首元までしっかりと生地が覆っている。ただ、食事の邪魔にならないように袖は上腕部までしかない。そしてスカートは赤地に白いレースをあしらった、ふわふわのフリル付きだ。

可愛らしい衣装を着たエルゼが、上目遣いで私の顔を見上げている。


「お~...エルゼ、すごいな。とても可愛いぞ?」

「え!かわ!...あ...あの...ありがとう...ございますぅ~...」


吸血鬼に攫われ、日の差さない部屋に40日以上囚われていたエルゼは、当時は本当に死人のような真っ白な肌色だったのだが、砦に来てからはちゃんと食事をして、かなり血色も良くなった。ただ、生来のものなのか、後遺症によるものなのか、セミアやレミ、タニアと比べても肌はまだまだ白い。

しかし、年相応に頬を赤らめる姿は愛らしい。思わず抱きしめたくなるぐらいだが、輝と葵もいる状況で、本当にそれをするとカオスになるのは目に見えている。


「じゃあ、食堂に行こうか」

「はい...お願いします...」


さっきまであたふたと手を動かしたり、頭を振ったりしていたエルゼだったが、今度は俯いて両手を胸に当てて硬直した。そんなに緊張しなくても良いのだがなあ~。


「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」


セミア、レミ、葵、輝、ユリ、そしてキャリーが大きな声でつぶやく。

思わず「をい!」と反応しそうになったが、それこそ藪蛇だと気づいたので、無視してエルゼを優しくお姫様抱っこする。


「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「分かったよ!食後に一人ずつ抱っこしてやるから、今はドアを開けてくれ!!」


...負けた...。



エルゼをお姫様抱っこした私を先頭に、ぞろぞろと女性たちが付いて来る。

すれ違う兵士はもう驚かない。自分で言うのもなんだが、いつもの光景だ。違うのはエルゼの存在だけ。


もっとも、エルゼが歩けない少女である事は砦の兵士達には認知されているので、私がお姫様抱っこしていても疑問に思わないようだ。


「うん?今日はエルゼも食堂で食事なのか?」


食堂の入り口でタニアとリアとミームと遭遇。


「あぁ。エルゼが食堂で食べたいと言うんでな。あれ?マリアは?」

「マリアはアラノスが帰って来たから、今は部屋に戻っているぞ。後から来るんじゃないか?」

「そうか。アラノスが戻って来たか...あとで報告を聞かないとだな」

「そうだな。だが、その前に食事だな。いいなぁ~エルゼちゃん...」


お前もか!カルタス!!あ、いやブルータスだったか...不覚...。


内心では打ちひしがれていたのだが、それを表に出す事はなく、エルゼを席に座らせる。


「あ...ありがとうございます...お兄様...」


白い頬と耳をほんのりとピンクに染めながら、エルゼが御礼を言ってきた。


「どういたしまして。ではお嬢様、食事をお持ちしますので少々お待ちください」

「お!おじょ!あ...あの...えっと...はい...」

「お兄様...私には言って下さらないのに...」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」

「いいなぁ~エルゼちゃん」


葵の一言で「いいなぁ~エルゼちゃん」がまた始まった。

って、なぜタニアが混ざってるんだよ!!


「お嬢様方、食堂では上品にお願いいたしますね」


と返したのだが、不評だったらしくブーイングが飛んできた。


そこ!リアとミーム!!腹を抱えて笑うんじゃありません!!


「なんですかな?この騒ぎは...」


タイミングよく...いや悪くか?カラーに連れられてガーペン達が食堂に入って来たのだった。



結局、夕食でもカオス一歩手前まで行ってしまったが、どうにか終了し、今は疲れて自分の部屋のベッドで転がっていた。


あれからマリアを除く女性陣全員を引き連れてエルゼを部屋まで運び、セミア、レミ、葵、輝、ユリ、キャリー、タニアの順番にお姫様抱っこをする事になった。

リアとミームとカラーは観客だ。特にリアとミームはずっと笑ってやがった...。今に見ておれよ...。


一番大変だったのはユリとタニアだったな。

いや、全然軽いから、そういう問題はないのだが、首に腕を回し、首筋に鼻を押し当てて体臭を嗅ぐのだ...。それを見た葵と輝が「しまった!」って言うし、セミアとレミがタニアを抱っこしている時に二人してそっと私の背後に回り、私の体臭を嗅いでいたし、それを見ていたエルゼが涙目で無言のハグを要求してきたので、抗えずにハグをすると、胸に顔を押し付けて...いや、思い出すのは止めよう。これ以上は色々マズイ...ともかく、あれはカオスだったな...。


意外と言えば失礼かもしれないが、キャリーがものすごく大人しかった。

それこそエルゼのように、ものすごく恥ずかしがっていたが...あれは本当にキャリーだったのだろうか?その後のカオスにも一切参加せず、部屋の端に立っていただけだった。

ま、助かったと言えば助かったのだが...。


「ご主人様...お疲れですね」


私の護衛として定着したカラーが、ベッドの反対側から私を見下ろしつつ話しかけてきた。

その声は少しだけ優しさを纏っているように聞こえる。


「そうだな...さすがに疲れたかな」

「そうですか...疲れが取れたら教えてください」


何か報告でもあるのだろうか?疲れが取れてからで良いという事は急ぎではないのだろうが、少々気になる。


「...何か...あったのか?」

「はい。私をお姫様抱っこするのが残っております」

「お前もか!!ブルータス!!」

「は?ブルータス?私はカラーですが?」


しまった...思わず口にしてしまった...。


「いや、すまん...あっちの世界の常套句なんだよ。って、確かにカラーをお姫様抱っこしてなかったな。今からしようか?」

「大丈夫なのですか?」

「カラーのおかげで元気になったよ。大丈夫だ」


まさかツッコミをすると精神的に復活するとはな...新しい発見だ。もっとも、きっと劇薬みたいなもので、すぐに元気が切れるような気がするけどな。



さて、カラーを軽く処理してからタニアの執務室に行く。アラノスがタニアに報告をする為にタニアの執務室に来たそうだ。


部屋に入ると、中にはタニア、リア、ミーム、パストング、カリナとミルダン、そしてアラノスが待っていた。


「すまない。遅くなった」

「いや、大丈夫だ。ではアラノス、報告を頼む。エリー、報告を記録しておいてくれ」

「承知しました。録画しておきます」

「では報告を始めます。私は昨日カタランスを出たので、その時までの内容になりますが」


と、前置きしつつアラノスは手に持った羊皮紙を広げつつ、調査内容を説明し始めた。


内容はこうだ。


まずは治安についてだ。

町全体の治安は、騎士団で抑えているとの事だ。そして貧民街は重点的に巡回中だそうだが、例の白い粉の販売人は見つかってない。

また、港に大きな混乱はない。これも騎士団で押さえているからだ。

ただし、騎士団の主流派と町長派は事実上対立状態にあり、街全体はピリついているそうだ。


ま、それは仕方ないだろうな。街の人々にとってはいい面の皮だけどな。


そして問題の町長だが、町長の影響力を完全には封じられていない。

町長はまだ実権を握ったままだ。が、ニアラブ様を経由して国への報告は済んでいる。国からの返事は「町長の排除」だ。

その為の200名派遣でもある。


ともかく、政治・騎士団内部はまだ片付いていないので、当然町長派の騎士も残っている。出来れば抵抗せずに投降して欲しい所だ。

もっとも、表立っての行動はないそうなので、睨み合いが続いているとの事。


そりゃ、街もピリつくだろうさ。


そして、ミフルもアラノスがカタランスを出るまでは、今のところ動きなし。監視も引き継いでいるそうなので、何かあれば早馬が飛んでくるように手配してくれているそうだ。なんて手際の良い...。ミフルには、このまま3日後の船で逃亡する時まで、大人しくしていて欲しいものだ...。


しかし、個人的に一番の問題はこれだろう。

騎士団の備品の数なんだが、調べれば調べるほど数字がおかしいらしい。ともかく倉庫の在庫が帳簿と合わない。備品も合わない。さらには金銭も合わないときたもんだ。

町長派の騎士が抜いていた可能性は高いと思うのだが、しかし「誰が、いつ、どれだけ盗んだ」という証拠がない。


「備品と金については、正直何が正しいのか、調べようがありませんので、私が確認した時点での数字を正式に採用して、そこから管理するように伝えています」

「分かった。それで良い。ありがとう」


タニアがアラノスの報告を聞いて了承した。確かに、もうそれしかないよな...。


「ともかく、増援の200名は昨日の朝に出発したから、今日の昼にはカタランスに到着した事だろう」

「はい。千里眼から200名がカタランスに到着した事を確認しております」


と、カリナが報告してくれた。最近は監視業務をカリナに任せているのでかなり楽になった。


「それと、私からも報告があるのですが...」

「なんだ?言ってみてくれ」


すかさずタニアが許可を出す。


「本日の昼過ぎ、コープルに潜入していたクラスタンプの諜報員が動きました。2組はエルセリアに向かっており、1組はクラスタンプに戻る道を移動しています。おそらく、国境までのクラスタンプ軍の惨状を報告するものかと...」

「なるほど。ある程度は予想通りだね」


3人一組、三組で合計9人での諜報活動は、正直多いと思ったんだよね。

ただ、クラスタンプ軍の痕跡を調査するのは9人ぐらいでも良いかもだがな。

国境からコープルの間の約13km。そこに点在する屍を確認するのは骨が折れるだろうしな。


で、コープル到着後は、エルセリアを含め別々の街に調査に行くものと思っていたが、まさか2組がエルセリアを目指すとは...。まぁ、エルセリアから別の街に行く可能性もあるか。


「リョウは予想してたの?」


黙って聞いていたリアが驚いた声で私に聞いてきた。

ちゃんと話を聞いてたのね。黙っていたから聞いてないのかと思ったよ。


「まぁ、国境からコープルの間のクラスタンプ軍の屍を調査するには9名ぐらい必要だろうけど、そこから先は9名は多いなって思っていたからな」

「確かにそうですよね。私は一旦エルセリアに入ってから、2組がオクルとハブに分かれて移動するものだと思ってました」


とはカリナだ。さすが、黒梟の一員だな。

となりで黙って聞いているミルダンが何も言わないという事は、同じ想定をしているという事だろう。


「その可能性はあるね。だけど、今回の動きで判断が少し変わったな。ひょっとしたら継続的に報告が欲しいという事なのかも知れないな」

「継続的ですか?」

「つまり、今回の諜報員たちは、クラスタンプ軍が全滅した経緯だけに特化した調査をして、それも出来るだけ早く情報が欲しいという国の意向という事ですかな?」


カリナが頭上にハテナマークを出していたところ、ミルダンが回答してくれた。さすが、カリナの上司。


「そうだね。ミルダンの予測と私の予測は同じものだね」

「なるほど。で、どういう意図があってのものだと思っておられますかな?」


諜報の専門家に聞かれても困るんだけどな...。しかし、答えない訳にはいかないか。


「私は諜報の専門家ではないんだけどな...まぁ、予想としては、クラスタンプ軍が全滅した経緯を明らかにして、早急に対策を立てるという所なんじゃないか?」

「そうですな。私も同じ意見ですよ」

「よかった。及第点だね」


私も少しは諜報員としての能力があるって事だな。

ん?そこは嬉しいで良いのか?


「何をおっしゃってるんですか?間違っていなかったと安心をしたのは私の方なのですが?」

「そうなの?もう一回言うけど、私は諜報は専門外だぞ?」

「これは政治的な内容です。それも裏側の。ですので、副官殿の仕事の範囲だと思うのですが?」

「あ~...政治の裏側ね...そうだね...アタシだねぇ~...」


まさかの切り返し...そうか...ぶっちゃけ策謀関係なのか...「悪の科学者」だったらそうだよな...。


「リョウが言い負かされるの、初めて見たな」

「アタシも...」


ミームが面白そうな顔でツッコんできた。うるさいよ!!

リアはリアでかなり目も口も大きく開けて、かなり驚いている様子だ。そんなに驚く事かよ?


「言い負かされたんじゃない。カリナやミルダンが来てくれたから、お任せしてしまってただけだ」

「で、言い負かされたと...」


ミームもしつこい!しかし、言い負かされたのは事実か...そこはちゃんと認めないとな...負けは負けだ。


「...悪かったな...言い負かされて...」

「そうやって、最初から素直に認めりゃいいんだよ」


ミームはとても嬉しそうな顔で言う。まぁ、本人はじゃれているつもりなんだろうが、地味に腹が立つな。ミルダンに対してでなく、ミームに対してなんだがな。


「いや、お任せ頂いて良いのですが、すり合わせはしませんと...」

「そうですな。今後は色々と報告も相談もさせて頂く事になるでしょうな。カリナ隊長」

「ふぇ!?隊長!?だから、止めてくださいって!!」


カリナが少し自信無げに言うと、ミルダンがカリナを茶化して来た。

しかし、そうだな。派遣されてきたミルダンたち4人は、いずれ首都に戻ってもらわなきゃならないが、せっかくなので諜報部隊も人員を揃えていこう。


「ミルダン、カリナが困っているじゃないか。私はカリナを隊長にした訳ではないからな」

「ほらほらほら!ミルダン小隊長、私はまだ隊長じゃないんですよ!!」


カリナが嬉しそうに乗っかる。だが、今思いついた事を実行する。


「なので、今、この時をもってエルセリア諜報団『黒猫』を発足し、正式にカリナをエルセリア諜報団『黒猫』の隊長に任命する」

「はぁああぁぁぁぁあああ!!」


カリナが今までにない声で驚いた。

隣に立っていたミルダンが、思わず耳を塞いだぐらいだ。


カリナの叫び声が途絶えた所で、ミルダンがカリナを横目で見つつ、淡々と感想を言う。


「よろしいのではないですかな。では、改めてカリナ隊長、よろしくお願いします」

「ちょ!ちょっとおおぉぉぉ!!リョウ様!!どういう事ですかぁああぁ!!」

「そういう訳で、後で私の部屋に全員来てくれ。今後の方針を決める」

「分かりました」

「わ...分かりましたけどぉ!タニア様!笑ってないで、リョウ様の案を却下してくださいよぉ~!」


タニアだけではない。リアもミームもパストングも笑っている。笑っていないのは、カリナとアラノスとカラーだけだ。

ちなみに、私とミルダンはニヤリと笑っているだけだ。


「なぜだ?いいじゃないか。人員も増えた。カリナはエルセリアの諜報員だ。他所の者が下に付くのは当然だろう?黒猫隊長」

「ええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!!黒猫隊長って!!てか、助けてくれないんですかぁ!?」

「逆だ。私が黒猫隊長に助けてもらわなければならない立場だ。よろしく頼むぞ」

「ふええぇぇぇええん...分かりましたぁ~...」


タニアのダメ押しでカリナは諦めた。エルセリアではタニアが頂点だからな。諦めるしかないだろう。


「ちなみに、黒猫が解体されて黒梟に戻ったら、一番下っ端に逆戻りだぞ?」

「ミルダン小隊長...それも嫌ぁ~...」


涙目になっているカリナをみんなが笑って見守る。


そういやカリナもかなり私たちに順応してきたな。きっと黒梟の中だとこんな笑いながらの会議はないと思うしな。

てか、ミルダンの順応も早いな...。本当はこっちが素なのか?


ま、気にしても仕方がない。

ほぼ...というか、完全に私の思いつきで、カリナ本人の希望を完全に無視したまま、タニアの了承も得て、エルセリア初の諜報団「黒猫」が誕生したのだった。

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