第13話:学歴より経歴重視の社会って最高だよな
【ストーリー概要】
最近の大企業病というのは中々の重症だ。
悪行を行わなければクビになることはないので、ダラダラと仕事しながらお金がもらえる。
むしろ、個人や少数精鋭で動いている人間のほうが、世界的に見ると向上心が高く、技術も高い。
つまり、オレはそういう天才と評価されているんだよね?
え、なんで違うの?
「私は氷理君の苦労や経験、スキルを総合的に評価した上で、その能力を、ぜひうちの町で活かしてほしいと思っているんだ」
「な、なるほど……」
町長には、愚痴を聞いてもらっていただけのような気もするが……一応、苦労が評価されているんだな。
「それで町長、氷理は町長の雑用係にでも採用するっていうことですか?」
二熊が町長に問いかける。
「いや、そういうのではなくてね――」
町長が手を振りながら否定して、
「氷理君には、ふるさと帰還支援制度のプロジェクトメンバーとして、我が町の活性化のに貢献してもらいたいと思っている」
と淡々と答えた。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
そして、町長以外のオレ達三人は、想定外の宣告に、思わず声を上げて驚いてしまう。
「うぉっ……なんだね、そんなに声を張り上げて……」
「ちょ、町長……それは一体……」
オレは、思わず動揺して町長に問いかける。
「いやいや、言葉の限りだよ。ふるさと帰還支援制度のメンバーになってもらうっていうだけ……」
「町長、それ普通に氷理を特別ポジションに置こうっていう話ですかっ!?」
二熊も驚いて町長に問いかける。
「まあ……私の直属管理下になるのかな」
「いやいやいやいや……『言葉の限り』とか、すげーライトに言ってますけど、散々クズと称されている氷理を、東京で社畜していたというだけで偉くさせようとしている意味を分かっていますかっ!?」
……ムカッとする言い回しだが、言っていることは残念ながら間違っていない。
「それはもちろん分かっている。私だってこの町で一番偉い立場という責任を担っているから、一つ一つの決定については慎重に考えているよ」
「そ、そうなんですか……」
「ふるさと帰還支援制度は、若者たちが自由の働けることを目的とした制度だ。その制度を有効活用する権利を持つのは、君たち若者にある」
いつになく町長が真面目な顔をしている。
しかし――
「町長……いくら若者が自由にして良いと言われても、正直何をすれば良いかなんて、素人のオレには全く分からないですよ」
「それはそうだよ。縁がない限り、町の運営なんてしないだろうし」
二熊もオレの横で肩を竦める。
「大丈夫。氷理君が運営の仕事に対してドが付くド素人なのは重々承知だ。きっとそのままメンバーとして放り出しても、ろくな成果は出せないだろう」
「……なら、どうしてオレなんですか? オレよりも頭の良いやつなんて、いくらでも――」
「人柄かな……」
「ひ、人柄……?」
町長がオレの質問を遮って、そう一言呟く。
「いやいや、散々町長はオレのことをクズであると認めているのに、それで人柄を評価するって、何か矛盾していないですか?」
「まあ、言葉としては十分矛盾しているが……そこをちょっと論理的に説明するのは難しいかもしれない」
町長は顎に手を添えながら言う。
「ただ、言えることとして……氷理君は、自分の利益のために、町を利用してしまうような、悪しき独裁者には絶対にならないだろうという期待を抱いているというくらいか……」
「はぁ……氷理が独裁者にならない、ねぇ……氷理、お前のことだけど、意味分かるか?」
「いいや、言われているオレも意味がよく分からない」
町長には、一体オレの何が見えているのだろうか……淡々と話を進められてしまっているせいか、俺自身が状況について行けていない気がする。
「ふふ……偉くなって長く仕事をするとな、良い人間と悪い人間というのを見極めることが出来てくるんだよ」
一体、何というエスパーなのだろうか。
「それで、氷理は町長の長年培ってきた勘よる評価として、表面はクズだけど、実は誠実で良い人間であると判断したわけですか」
「そういうことだ。直感的評価なので、論理的に説明しろとなると、ちょっと難しい事項だがな……」
「……ま、町長がそれで良いって言うなら、俺は何も言うことは出来ないけど……肝心の氷理、お前はどうなんだ?」
「えっ……オレか?」
二熊が急にオレに話を振ってくる。
「この町で一番偉い人が、直感的にお前に割と重要な権限を与えようとしている。それに対して、お前はどういう返答をする?」
「どうって……」
流れが急すぎて、決断以前に自身の心の整理なんて出来ていないというのに。
「……まあ、返事はすぐにとは言わない。重要な決断だからね」
「は、はぁ……そうですか」
そう言って、オレは更に頭の上に『?』を浮かべる。
「ただ、積極的に検討はしてもらいたいと思っている。君のために、それなりの報酬も提供しよ――」
「えっっっっっっっ!!!」
思わず大きな声で、驚いてしまったオレ。
「うぉっ……! ど、どうした氷理君っ!」
そして、急に大声を上げてしまったかと思えば、そのままオレの体が、石化したように、カチンコチンに硬直してしまったのだ。
まるで、何か金縛りに遭ったかのように、全く体を動かせないというレベル。
「お、おい……氷理、どうした? デパートの屋上にある、百円入れたら動いてくれる動物の乗り物の利用時間が終わったかの様に、完全に硬直しているぞっ!」
なぜ、やたらに説明口調なのか――というか、その例えは、現代っ子の聖ちゃんには分からないんじゃないか。
この症状……オレには分かるっ!
オレの欲求を著しく満たしてくれるかもしれないという可能性に直面したときに訪れる、ミラクルラッキーチャンスのタイミングだっ!
――報酬
オレは、きっとこの言葉に反応したのだ。
『報酬』という言葉を訊いた瞬間、オレの体の中の血液が沸騰し、心が高鳴る反応があった。 体の体温が上昇し、感じたこともないようなスピリッツがオレの魂を躍動させた。
そして――
パパパパパパパパパパパァァァァァァン!
「うぉっ……! な、何だっ!」
「眩しくてっ……前が見えないっ……!」
突然、オレの頭に百個は超えていたであろう『?』マークが、全て粉々に砕け散るエフェクトと音が部屋中に響き渡り、見たこともないような輝きを放つと、そのまま静かに輝きを失わせ、枯れるように破片は散っていった。
その高鳴る鼓動は、先ほどまでの戸惑いと不安を一気にぶち壊わしてくれたのだろうとオレは確信した。
「うわぁ~なんだか花火みたい~♪」
「花火って聖ちゃん……あんな汚いものを見ちゃダメだよ――アレは俗に言う『汚い花火』っていうやつなんだから」
「……汚いの?」
「……うーむ、汚いというか、なんというか……ここまで正直な性格だと、逆にピュアで綺麗な花火の可能性がある」
各々が、オレから放たれた解放の花火について感想を述べている。
正直、ここまでオレの心が解放されたというのは予想外ではあった。
「……それで、散々やる気を見せなかった氷理君が、報酬という言葉を聞いた途端に、欲望のままに喜びを表したと言うことで良いんだよな?」
二熊が呆れた様子でオレに言う。
「いやいや、オレがそんなに心がくすんでいる人間に見えるか?」
「えっ……氷ちゃん、自分で心が綺麗だって、ちょっとでも自覚しているの!?」
「せ、聖ちゃん……どうして驚いた風にリアクションするの!?」
おかしい……聖ちゃんにはオレの綺麗な部分しか意図的に見せていなかったはずなのに……二熊の野郎がこっそりとたれ込んだのか……?
「……てめえ、なんか理不尽ないちゃもんを心の中でふっかけなかったか?」
「ううん、人生で一度も憎悪を抱いたことが無いオレが、そんなことをするわけないじゃん」
「嘘をつくならもう少しギリギリのラインでちょっと迷いそうな内容ぶっこんでこい!」
「え、でも二熊はそれで信じようとするか?」
「いや、しねえ」
二熊が真顔で言う。
「……本当に、君たちはテンポ感が良すぎるせいで、私が口を挟むタイミングが中々見つからないよ」
町長がため息をつきながら、オレ達に言う。




