第三百三十五話 死守 でござる その二
次回の投稿は、5月8日を予定しています。
全体的な形勢は、それほど悪くない。
ただ、重秀のところを抜かれたら終わりだ。かと言って、頑張れと言ってどうにかなるようなものでもない。
そもそも重秀には何の落ち度もない。
敵の指揮官が松倉秀典で、敵の数がとても多いという単純な二重苦だ。
あっちに自ら出向いた辺り流石と感心したいところだが、それ以上に勘弁してくれと言いたい。
なんとか対応できているのは、地形を利用して互いの数を絞っているから。
きちんと考えておいて、本当によかった。
やっていなかったら、これ一つで詰んでいたところだ。
とはいえ、こちらの体力が尽きた瞬間に決壊する未来は変わっていない。
耐えられている今のうちに、なんとか手を打たないと……。
だが……、どう手を打つ?
形勢五分の俺のところと神楽のところだって、重秀程ではないにせよ余裕があるわけじゃあない。
やはり、優勢の三森をどう使うかか。
「武様! どうする? なんとか勢いは殺せているようだが、このまま耐え続けるのはちと厳しいぞ! はやく助けに行かないと!」
吉次の部隊と入れ替わりで戻ってきた太助が、早口でまくし立ててくる。
肩を大きく上下させて息もあがっていた。全身土埃と返り血でぐちゃぐちゃだった。
だが、そんな自分たちよりも重秀らのことを気にしている。
「わかっている」
もう、誰の目にも明らかなのだ。
太助でさえ、感覚的にそのマズさを感じ取っている。
そもそもこの戦、数のバランスが悪すぎる。おまけに野戦。
こちらは、すでに千四百から千二百くらいにはなっている。
宇和の兵二千五百は烈天の術がトドメになって全壊させられたが、同数の二千五百で松倉秀典のおかわりが来た。
累計では五千vs千四百。しかも野戦の戦とくる。
笑えん戦力差だ。
なんでこう、地獄みたいなのばかりなんだ?
嘆きたい。だが、嘆いていてもしかたない。
勝たないといけない。
なら、なんとかするしかない。
二千五百の半分……千二百くらいが松倉秀典直率で、これが重秀とぶつかっている。
重秀は朱雀隊を率いているとはいえ、朱雀隊の数は百ちょっと。
そこに、朽木から連れてきた二百ほどを足した三百で相手をしている。
文句なんか言えるわけがない……。
耐えられているだけで、ひときわ光る功績だ。
やはり、敦信のところの三森二百と朽木から連れてきた兵の残り二百……これを動かすしかない。
数としてはここが七百と一番多いが、いかんせん兵の質は哀しいくらいに低い。これは誤魔化せない。
足軽と雑兵が混ざって六百と村人が百……数はいる。
だが、こんな厳しい戦で敵の本隊にぶつけられる質からは程遠い。
錬度が足りなさ過ぎる。融通が利かない。
否! 違う。
そもそも、そんなものを望んではいけない。望もうとする方が間違っている。
足軽と雑兵だぞ?
彼らを精兵と同じ土俵で評価しようとする方がどうかしている。
しかし……一番多い兵を動かせないのは痛い。それも事実。
頭が割れそうだ。
槍働きしたわけでもないのに、気づけば息が上がっている。
だが、逃げられない。
俺がやらずに誰がやる。────よしっ、決めた!
「太助!」
「おうっ!」
「敦信に連絡を入れろ! 持ち場を速やかに支配し、転進! 神楽と合流して、神楽の戦場も制圧せよ!」
「はっ! ……は? ちょ、武様。正気か?」
指示に威勢よく返事をしようとした太助だったが、思わず聞き返してきた。
思考が引っ張られる。息が詰まる。
……だが!
「正気だ! 今言った通りの内容で伝令を出せ! 早く!」
強弁する。
吉次の隊と入れ替わるべく、待機していた八雲も振り向いてこちらを見ているが、それも無視した。
ただ、太助らも以前のような空気の読めない子供ではない。
もう、だいぶ修羅場を越えてきている。
急げと言った瞬間、太助は喉から出かかる言葉を飲み込んだ。そして、すぐに伝令を走らせる作業に向かう。
この戦に、絶対的な攻略法などない……。
どんな選択をしようと、すでに正解ではない。
戦の常識から言えば、俺たちはもうすでに『負け』ているのだ。
そもそも、こんな戦をしてはいけない。
『やらねばならなくなった』だけで、『やっていい戦』では断じてなかった。
だからこの戦……、完全に相手のミス待ちだ。
だが、その相手は松倉秀典。経験豊富で老練な名将。
最悪すぎて涙が出る。
そんなミス、簡単にしてくれるわけがない……。
とっくに詰んでいる。
こんなもの、正攻法じゃあどうにもならない。
なら、博打だ。
一か八かでも勝機を見出す。それしかない。
重秀……すまない。
あと少し……あと少しだけ耐えてくれ。
その時間で、神楽の戦場をこちらのものにできるかどうか。
ここが勝ち負けの分水嶺。
吉と出るか凶と出るか……やってみないと分からない。
最前線が、神楽の戦場へと移る。
俺がいる場所でも、松倉秀典と重秀がぶつかっている戦場でもない。神楽の戦場こそが最前線になる。
そこは、小さな戦場──獣道。
神楽と、わずかな敵兵がぶつかっているだけ。だが、この小さな戦場の勝敗がすべてを決める。
敦信なら気づいていると思うが……。
祈らずにはいられない。
あの指示を出した今、あとは目の前の兵たちと共に役目をこなす。俺には……兵たちの信頼に応える義務がある。
だから、耐えてみせる! 耐えさせてみせる! 絶対に!
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