第三百三十四話 死守 でござる その一
次回の投稿は、5月1日を予定しています。
「耐えろッ! 耐えるんだッ! ここを抜かれたら一気に崩れるぞ!」
太助が吼える。
木の枝を組んだ馬防柵を有効に使いながら、兵たちは長槍でよく応戦している。
しかし、敵大将・松倉秀典が送ってきた騎馬隊の波状攻撃には、大いに苦しめられていた。
無論、太助だけじゃない。
吉次や八雲も自身が任された兵たちを鼓舞し、なんとか耐えてくれている。
だが、いつ突破されてもおかしくない。
前線は三人を交代交代で回しているから、後ろに下がっている二人も含めて、全員疲弊しきっていた。
もう本当にギリギリだ。
どう見ても、この場は劣勢ぎみ……。
いや、それは贅沢だ。『まだ』均衡は保てている。
「三森の方はッ?」
兵を率いて前に出ながら、腹の底から声を絞り出す。
そうでもしないと、戦の喧騒にかき消される。
総大将の俺が前に出るなど、本来はあってはならないこと。
だが、すでにそうしないと回らない状態。
太助らも頑張ってくれている。だが、頻繁に抜かれそうになる。
出て塞がないと、そのままやられてしまう。
隊があればこの程度はできる。なら、やるしかない。
俺自身の武が心許なさすぎるのが問題だが、そんなことが言える段階はとっくに終わっている。
『こうあるべき』などという判断ができたのは、すでに過去の話だ。
そもそも、四つある侵入ルートすべてに兵を出してきた松倉秀典が悪い。
数の有利にまかせて分隊……それは、俺がやりたかったんじゃ。チクショウめ。
おかげでこちらも分散せざるを得ず、俺自身も四つのうちのひとつを担当せざるを得なくなっている。
まして、いま率いている部隊は精兵ではなく足軽・雑兵の混成部隊。小隊長として使える人材も太助らしかいない。
どうにか数だけは揃えたが、埋められない実力差がある。
本当に厳しい……。
認めざるを得ない。
ならばと、こちらが馬防柵をいくつも作って、局所局所でぶつかる兵数を調整しようとしても、きっちり対応してくる。
そうなると、どうしても劣勢が続いてしまう……。兵たちの尽力は大いに買えるが、経験不足はどうしようもない。
これを見た名将様は、老練な手管などあっさり投げ捨てた。超力技で、ゴリゴリに突っ込んでくる。
はっきり言って最悪だ。
これのせいで、こちらの小細工の効果は最低になってしまっている……。
ホント勘弁してくれと。
だが、希望の光もなくはない。
「三森様奮闘! 最西はこちらが押しているとのことです! 我が神楽の戦場は五分! しかし、松倉秀典がいる東が押され気味になっているとの報告が!」
伝令役を務めてくれている神楽の一人が、駆け込んできて報告してくれた。
蒼月率いる神楽隊には、すでに鬼灯らも合流している。そして、四つの敵侵入ルートのうちの一つをつぶしてもらっていた。
本職は偵察・工作・遊撃の神楽だが、今回は彼らも前線配備だ。
この状況では、それ以外の選択肢がない。
おかげで、物見伝令として使える神楽は、この彼を含めて三人しかいないという有様だ。
いや、今はそれはいい。
三森はよしとして、重秀と朱雀隊が押されている?
マジか……。
自慢の部隊なんだぞ。簡単に押し込んでくれるなよ、本当に……。ガチで涙が出てくるわ。
松倉秀典おそるべし。
爺さんと同格の名将だとは聞いている。
が、それでも……。それでも重秀と朱雀隊が押されるというのは、想定外だ。
油断なんかじゃあない。絶対的な自信があったんだ。
今でも、この判断が間違っていたとは思わない。
ただ、それでも押されてしまっている……。
うん。そうなんだ。そういうことなんだよ。
バシリ。
両手で頬を叩き、気合を入れなおす。
受け入れろ、俺っ。
だが、どうする……?。
このまま放置はできない。
もしそれで重秀を失うようなことにでもなったら、今度こそ俺の無能が原因だ。
俺が無能を晒すだけなら、笑い話として受け入れよう。
だが、そんなことで重秀を失う?
冗談じゃない。断じて受け入れられない。
なら、どうする……。
悠長に考えている時間もない。
いま決断しないと、すべてが手遅れになる。
考えろ。考えるんだ。
準備していたものは、宇和一成との一戦で使い切ってしまっている。
いくらか残っていた馬防柵が使えただけで、他に残っているものはない。
なら、地形を利用するか?
いや、難しいな。
宇和一成と違って、松倉秀典に誘引はほぼ通用しない。冷静沈着すぎる。
進路選定や、これまでの操兵を見ただけで確信できる。しかも、老練だ。
無駄がない。
派手なことはせず、功名にも逸らず……最強の戦術である『数の有利』を失策なく履行してくる。
強い。
一番やりたくない相手だ。
大きな戦果を求めず、自軍の被害も一定量は許容する。
これにまともに付き合えば、数の差で最後に耐えられなくなるのは、必ずこちらになってしまう。
なんとかしないと……。
くっ……もう一回。もう一回整理しよう。
敵の進路は四つ。
一つは俺が担当しているここ。
宇和の奴が攻めてきた進路で、氷の壁やら石兵八陣もどき、烈天の術など盛り沢山な仕掛けを用意してあった。
だが、宇和を破るのに使い切ってしまっている。
道が狭く左右に崖があるが、右側は傾斜が緩やかだ。高所からの射撃もできる。東から二つ目の戦場。
次は一番東。重秀と朱雀隊が守っている。
松倉秀典が直接出向いている戦場。
獣道というほどではないが、馬二頭が並んで走るのが精一杯という道が森の中を走っており、森を抜けると野原を挟んで二水の村に一直線。
俺の西側の戦場が、蒼月に率いられた神楽。
鬼灯たちも合流していて、こちらは本物の獣道。
遊撃部隊をゆっくり通すくらいしかできないが、少数ながらこの道にも兵を送られた。神楽を配していなかったらアウトだった。
そして、一番多くの兵を運べる一番西。ここは敦信と三森衆が担ってくれている。
比較的広く、整備された道が草原の中を通っており、その特性からガチンコのぶつかり合いになる戦場。
この戦場で数の多い相手に押し負けないどころか押し勝っているのは、だいぶ人間をやめている。
負けないとは思っていたが、押し勝っている状況は想定外を通り越して異常だ。
今、一つの優勢、二つのイーブン。一つの劣勢……。
今のままはマズイ。
だが、どう弄ればいい……?
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