お嬢様と庶民の恋 4
学校ではあたしと山田くんが疎遠になったことに興味を示す生徒がたくさんいた。あたしは高嶺の花で近寄りづらい雰囲気があったために、何があったんだと山田くんに人が群がってしまった。山田くんは別れたことを素直に報告すると、いつの間に付き合って別れたんだと生徒たちはざわめいた。
その噂が広まると、あたしはとてつもなく気まずかった。可愛いあたしがフラれるなんてなんとなく矜持が傷ついた。でも学校中はそりゃそうだと納得しているのだから腑に落ちない。
昼休み、教室に居づらくて図書室に行こうとしたあたしは、たまたま山田くんとその友達が話しているところに遭遇し階段下に隠れた。
そしてはっとする。なんで隠れたんだ。でも直感がそうさせる。なにかがあたしに会話を聞けと命令する。……何を話してるんだろう。山田くんへの気持ちが冷めたわけじゃないので、やっぱり気になる。話している友達は、山田くんとよく一緒にいる男子生徒でヤンキーっぽい感じの男だ。真面目な山田くんと仲がいいのは意外だ。
あたしは聞き耳を立てた。
「やっぱり山田にあんなお嬢様無理だったんだよ。高嶺の花っての?まあ美男美女で外から見たらお似合いだったけど、所詮庶民とお嬢様だからな。山田にはそのへんの、普通の女がいいんじゃん?」
「羨ましがってたじゃないか。お嬢様と付き合えていいなって」
「あんなお嬢様、高嶺の花で真面目に付き合おうなんて思わねーよ。よく告白OKしたよな。あ、断れないか。プレッシャーあった?」
揶揄する声が聞こえて愕然とした。真面目に付き合おうと思えないなんて何たる侮辱。物申そうと飛び出そうとしたが、その前に山田くんが思いもしなかったことを口にしたので立ち止まる。
「あんな可愛い子が、必死になって僕にアプローチしてくれて好きにならないわけない」
毅然とした物言いに、友達も隠れて聞いていたあたしも息を飲む。あたしはじんと熱くなる胸を手で押さえる。山田くん、あたしのことちゃんと好きだったんだ。デート二回でフラれたから、きっとそんなに好きじゃなかったんだと思っていたからとても嬉しい。でもそんな気持ちを覆すほど、山田くんはあたしに価値観の違いとやらを感じたのだ。あたしは話の続きを聞きたくて耳を澄ます。
「あ、そう。マジで好きだったんだ……誂って悪かったよ」
後ろ頭を掻いて謝る友達に、山田くんは苦笑いする。
「でも、駄目だった。やっぱりお嬢様だよ。デートに誘ってくれたのは嬉しかったけど、高級レストランにじいやさんの車で連れてかれて、作法もわからないし恥ずかしかった。しかも彼女の奢り。次のデートも同じようなレストランでさ……あ、だめだなって思った」
「山田から誘えばよかったじゃん」
「そう思ったけど……ファーストフードとか、チェーン店とか誘ったら引かれるかもって思ったら無理だった。やっぱりプライド、傷つくよ」
あたしはしゅん、と俯いた。そっか。あたしは山田くんのプライドを傷つけてしまったのか。男としてのプライドを傷つけるなんて、彼女としてすべきことじゃなかった。ああ、やってしまった。山田くんは、あたしを女扱いしたかったんだ。あたしはそれを無意識で跳ね除けてしまったのだ。自分のほうが上だと思ってしまっていた。同等で、対等であるべきだった。だって彼氏彼女なんだから。
「別れないでちゃんと話せばよかったじゃん」
友達の言葉に同意する。
あたし、今度はちゃんとするから。あたしの価値観だけじゃなくて、ちゃんと山田君目線でも考える。でも山田くんは首を振った。
「この先も価値観の違いって出てくると思う。それを楽しめればいいけど、僕には重荷にしかならないなって感じたんだ。だから無理だった。やっぱり僕には普通の女の子のほうがいい」
チャイムが鳴る。
昼休みが終わってしまった。
山田くんと友達が教室に戻り、あたしは階段下でしゃがみ込んだ。
完全にフラれた。無理だってはっきり言われた。
あたしの目から、涙が溢れ出した。切なくて悲しくて、胸が雑巾絞りされたみたいに苦しくて、呼吸ができない。
これが失恋。寂しい。身を切られるような感覚に、あたしは体を小さくして自分自身を抱きしめた。
どのくらい泣いたかわからない。やっと落ち着いてハンカチで涙と鼻水を拭き、よろよろと立ち上がる。こんな顔で教室なんて戻れない。あたしはじいやを呼び、迎えをお願いした。学校生活で初めて早退した理由が失恋なんて情けない。でも、心がぽっきり折れてしまった。
帰りの車の中で、あたしは普通の女の子になりたいと思った。
普通の女の子が、ひどく羨ましかった。




