#07 情報屋
シキ組長と別れてから、俺達はすぐに家を出た。
表のアーミーギアは綺麗に片付けられていて、あらためてイロハ組の仕事の早さに感心した。
「これからどこに向かうんですか?」
半歩後ろを歩くユウナが、きょろきょろと辺りを見回しながら聞いてきた。
「この街一番の情報屋に会いに行く」
「情報屋……ですか?」
「ああ。ユウナは、継承戦で争うことになっている王子達について、どこまで知ってる?」
「……まったく知らないです」
ばつが悪そうにユウナは答えた。
「気にすんな。普通は知らないもんだろうから」
「……はい」
「だからこその情報屋だよ」
「なるほど」
帝都通りから、壁に向かって歩く。
見慣れない景色なのだろう。ユウナは歩きながら、あちこちに目を向けていた。
「その情報屋さんは、どんな方なんですか?」
「んー。まあ、会えば分かるよ」
ユウナが首をかしげる。
壁にほど近い商業区の一角で、俺は花屋に入った。
「え? ここですか?」
「違う。買い物だよ」
店の人に適当に花を見繕ってもらい、花束を買う。
「もしかして、お土産ですか?」
「まあな」
「わあ! 素敵ですね!」
ユウナは目を輝かせた。
「思ってるのとは違うかもな」
「?」
花屋を出てすぐの裏路地に入り、少し進んだところで足を止める。傍らに置かれたバールを使って、マンホールの蓋を開けた。
「えっ? えっ?」
ユウナは明らかに動揺している。
「安心しろ。下水道に繋がってる訳じゃないから」
「いや、あの……」
「先に降りてるぞ。俺が声をかけてから降りてきな。ゆっくりでいいから」
そう伝え、梯子を使って降りていく。
足元を確かめてから、頭上を見上げた。
「おーい! 良いぞ!」
俺の声を合図に、ユウナがゆっくりと降りてくる。
「よい……しょ」
ユウナは地面に足をつけると、不安そうに辺りを見回した。
「ここ……ですか?」
「こっちだよ」
俺はユウナの手を引き、仄暗い通路を進んでいく。
少し進むと、見慣れた扉が目の前に現れた。
俺はその扉を三回ノックする。
ほんの数秒後、中から声がした。
「はい?」
「ナツカゲだ。メレー男爵に聞きたいことがある」
「もう一人は?」
「えっ! あっ……あの! 初めまして! ユウナ=ロードレイジと申します! ご挨拶が遅れて申し訳ありません!」
ユウナは扉に向かって深々と頭を下げた。
「……」
しばらくして、ガチャンと鍵の開く音がした。
「どーぞー」
俺は鉄の扉を引く。
「わあ……」
ユウナが感嘆の声を漏らした。
部屋には大きな本棚がいくつも並んでいる。暖色の明かりに照らされた大きな机と、その奥に椅子が一脚。手前には向かい合うソファがあり、その間にテーブルが置かれていた。
俺も最初は驚いたな。
「レディを連れてくるなんて珍しいな? いや、初めてか」
この部屋の主の声だ。
「えっ? えっ?」
ユウナは辺りを見回し、声の主を探す。
「誰も……いない……?」
「ここだよ、レディ」
机の奥の椅子に、徐々に色と輪郭が浮かび上がる。
そこには、フォーマルなスーツに身を包み、シルクハットを被った人型のカメレオンが座っていた。
「あっ……えっ……?」
ユウナの膝が崩れ、俺は咄嗟にその手を取った。
「おや? レディ? 獣人は初めてかな? 壁の向こうの子かな?」
メレーは目をぎょろぎょろと動かす。
「メレー、あんまり驚かすなよ」
「ナツカゲ。君も説明してあげたら良かっただろうに」
「見たことないやつが信じると思うか?」
「はっはっはっ、確かに」
ユウナは俺の腕にしがみついたまま、妙な体勢で床に座り込んでいる。
「レディ。素敵なハイカラが汚れてしまうよ。どうかソファに掛けておくれ」
「ご……ごめんなさい。気分を害してしまって」
ユウナは俺の腕を掴んだまま、ゆっくりと立ち上がった。
「おや? 優しいレディだね。気にしなくていいよ。我々は慣れっこだから」
メレーの両目が、それぞれ別の方向を向く。
「ほら、ユウナ」
ソファへ誘導するつもりで、少し強く腕を引いた。
「きゃっ!」
勢い余って、ユウナはソファに倒れ込んでしまった。まあ、ちょうど良い。
「メレー。お土産」
買ってきた花束を、メレーに向かって放り投げる。
メレーは舌を伸ばしてそれをキャッチすると、胸元で受け止めた。
「ありがとう。みんなで頂くとするよ」
「……食べるんだ」
ソファにうつ伏せになったまま、ユウナがぼそりとつぶやいた。




