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異能力者の用心棒 少女を王にする  作者: 酒吞ピース


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#05 アーミーギア

 意識が現実へと戻ってくる。


 俺はゆっくりと頭を上げた。


「ナツカゲさん、大丈夫ですか?」


 彼女が心配そうに俺を見ていた。


「ああ。それより、悪かったな。長いこと」


「いえ、ほんの数秒でしたよ?」


「……そうか」


 あのうるさい梟とのやり取りも、現実では数秒の出来事らしい。


 なかなかにハードだな。


「それで、どうでした?」


 彼女が何を聞きたいのかは分かる。


「王位継承戦については理解した。だから言うよ。とっとと放棄しろ」


「……」


 彼女はうつむいた。


「誰かに継承権が移っても、そいつが嫌なら同じように放棄するさ」


「……」


「お前は、自分の心配だけしてろ」


 俺は立ち上がって窓際へ行き、煙草に火をつけた。


 ふーっ、と煙を吐く。


「私は、王になりたいんです……」


「なに?」


 彼女に視線を戻した。


「もちろん、他の人が巻き込まれるのも嫌です。でも、私自身が王になりたいんです」


「お前がそこまで権力に固執してるとは思わなかったよ」


「違います!」


 彼女は立ち上がった。


「私は王になって、この継承戦が二度と起こらないようにしたいんです! それに……」


 一度言葉を切り、俺を見つめる。


「ザ・ワン・フー・ノウズ・ジ・アンサーで、世界を平和にしたいんです」


「……世界平和?」


「はい。継承戦が始まってからの一年間で、たくさん裏切られてきました……」


 彼女は視線を落とした。


「ロードレイジ家にいてくれた人たちも、勝ち目のない私から離れていきました。お金も、家も取られちゃって……」


「……」


 俺はゆっくりと煙を吐いた。


「持ち出せたのは、少しだけです。ナツカゲさんが母に宛てた手紙や、家宝のナイフ。本当に、この鞄に入るだけ……」


 彼女は鞄に手を添えた。


「それでも、ここまで来られたのは、オルゲルディア王国の人たちが助けてくれたからです」


「だから……私は……」


 言葉が途切れ、彼女の頬を涙が伝った。


「……」


 ふと、懐かしいやり取りがよみがえった。


『なんでユーリア様は、俺なんか拾ったんだ?』


『んー? ほっとけないでしょ?』


『そんなもんか?』


『そんなもんよ! だって、私の夢は世界平和だからね!』


『なんだそりゃ』


『ふふっ。だからね、まずは私の手が届く世界から始めるのよ』


『へー』


『だから、あなたは私の世界平和くん!』


『違う! 俺はナツカゲだ! ユーリア様からもらった、ナツカゲ!』


『そうだね。ナツカゲ』


 ユーリア……様。



「ご……ごめんなさい……でも、私は……」


 俺は煙草を灰皿に押しつけた。


「ここを出る準備をしろ」


 彼女が不安げにこちらを見る。


「わ……私は……」


「安心しろ。俺も行く」


「えっ?」


「知り合いの情報屋のところへ行く。他の七人について、まずは情報を集めるぞ」


「そ……それじゃあ」


「勘違いするな。継承権を放棄するのが最善だって考えは変わってない」


 俺は彼女を見据えた。


「危ないと判断したら止める。それでも聞かないなら、見捨てるからな」


「はい! ナツカゲさん! ありがとうございます!」


 彼女は深く頭を下げた。


「本当に分かったのか? まあいい。出かける前に、シャワーでも浴びてこい。着替えは用意してやるよ」


「えっ! よ……用意って……」


「アホ。俺が買いに行くわけじゃねーよ」


「あっ! いえ! そんなつもりじゃ!」


 まったく……


「とにかく、奥に行きゃ分かるから。行ってきな」


「はい! ありがとうございます!」


 彼女は荷物を持って、風呂場へ向かった。


 俺はイロハ組に電話をかける。


「お疲れさまです、ナツカゲさん」


「おう。すまんが、買い出しを頼まれてくれ」


「はい。何でしょう?」


「できれば、女の組員に頼みたいんだが」


「えっ? は……はい」


「女物の下着と着物を頼む」


「ええっ!」


「とにかく頼んだぞ。中肉中背の十代の子だ」


「……ナツカゲさん」


「変な想像するなよ」


「……はい」


 電話を切り、和室へ向かう。


 部屋に飾ってあった刀を手に取った。


 まさか、ロードレイジ家の人間のために、またこれを握ることになるとはな。


 その時、外から悲鳴が聞こえた。


 窓から外を覗き込む。


 アーミーギアがこちらを……正確には、浴室のある方を向いていた。


 索敵されたか。


 数は八体。


 悲鳴の主は、定食屋のおばちゃんだろう。


 試し斬りには、ちょうどいい。


 俺は和室に向かいそこに飾ってある白鞘の刀を手に取り窓から外へ、そしてアーミーギアの前に着地した。


 そのまま刀を抜き、一体を斬り捨てる。


 ブシューッと、蒸気とオイルが噴き出した。


 残った七体が、いっせいにこちらを向く。


「悪いが、俺はお姫様の用心棒になったんだ」


 刀を構える。


「お前ら全員、斬り捨てる」


 左前方のアーミーギアが動いた。


 俺は左手の鞘を持ち直し、相手の顔面へ突き出す。


 顔の中央に埋め込まれた単眼センサーを、戦闘用に強化された白鞘の先で叩き潰した。


 左手を離し、右前方の一体へ踏み込む。


 首を斬り飛ばす。


 残ったアーミーギアが、いっせいに蒸気を噴き出した。


「遅えよ、ポンコツども」


 右側に残る二体へ駆け寄り、片脚ずつ斬りつける。


 体勢を崩した二体の背後へ回り、首を飛ばした。


 ブシューッ、ブシューッ。


 残り三体。


 ガジャガジャと音を立てながら、こちらへ走り寄ってくる。


 一体の胸を貫き、そのまま蹴り飛ばす。


 もう一体を、下から上へ斬り上げた。


 ブシューッ。


 残った一体の四肢だけを斬り落とす。


 動く方が、高く売れそうだからな。


 ふう、と息を吐き、単眼センサーに突き立てたままの鞘を引き抜く。


 刀を鞘に収めると、周囲から拍手と歓声が沸き起こった。


「きゃー! ナツカゲさーん!」


「なんか分かんねーけど、すげえ!」


「かっこいいー!」




「おばちゃん、怪我はなかったか?」


 腰を抜かして座り込んでいるおばちゃんに手を伸ばす。


「ああ、ありがとよ。いやあ、寿命が縮んだよ」


「はっはっはっ」


 おばちゃんの手を取り、立ち上がらせる。


「よっ! 色男!」


 聞き慣れた声に振り向く。


「シキ組長?」


 「異能も使わずにここまでやるなんて流石だねえ」


 チャイナドレス姿で煙草をくわえたイロハ組の組長シキが立っていた。


「なんでこんなところに?」


「あんたのお買い物さ」


「……あんたが買ってきたのか」


「女の組員だもん」


 シキ組長は俺に向かって、片目をつぶった。


「で? 十代の子をたらし込んだのかい?」


「アホか」


 その時、俺の家の窓が大きな音を立てて開いた。


「ナツカゲさん! 大丈夫ですか!? 大きな音がして、慌てて出たけど、ナツカゲさんは部屋にいないし、それで……」


「ユウナ。風呂に戻ってろ。風邪ひくぞ」


「えっ?」


 バスタオル一枚の彼女は、通りの人々が自分に注目していることに気づいた。


 慌てて窓を閉める。


「あの子かい? やるねえ」


 シキ組長が煙を吐いた。


「……とりあえず、こいつらの回収を組に頼んでいいですか?」


「もちろん。きれいに残してくれたから、高く売れそうだねえ」


「……それじゃあ」


 俺は荷物だけ受け取り背中を向ける。


「まあまあ。お茶くらい出したって、ばちは当たらないよ」


 シキ組長に肩を組まれる。


 面倒なことになりそうだ。

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