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異能力者の用心棒 少女を王にする  作者: 酒吞ピース


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2/11

#02 彼女の名前と記憶

 ユウナ=ロードレイジ。


 彼女はそう名乗った。


 ロードレイジ……忘れるはずもない名だ。




 そうか。あの時の子供か。




 しかし……




「……本当にそうか?」


「え?」


「その格好からして、壁を越えて来たんだろうが……ロードレイジが王族の名だとは知っているだろう。名乗るだけなら誰でもできる」


「……これを」


 彼女は胸元のボタンを外し、身につけていたペンダントを見せた。


「そのペンダントは……」


「はい」


「偽物だな」


「……えっ!」


「そいつはユーリアが持ってるはずだ。お前が持ってるわけがない」


 俺はもう一度、彼女に背を向けた。


「……母は、ユーリア=ロードレイジは死にました」


 俺は足を止めた。


 ……彼女が死んだ?


 ゆっくりと振り返る。


「二年前に、病気で……」


 彼女はうつむいたまま言った。


 煙草を持つ手が止まっていた。何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。


「だから、このペンダントは私が受け継いだんです。そして今、王位継承戦が始まりました」


 彼女は胸元のペンダントを握りしめ、顔を上げた。


「母が亡くなる前に、『何か困ったことがあれば、ナツカゲを訪ねなさい』と言っていました。それで、あなたが母に送った手紙を頼りに、ここまで来たんです」


 彼女はまっすぐに俺を見つめた。


「お願いです! 私を助けてください!」


 ユーリアが死んだ。


 その言葉が頭から離れない。


 王位継承戦が始まった? それで、この子が俺を頼ってきたのか。


 最後に会った時は、まだ幼い子供だった。


 ……全部、信じていいのか?


 俺は立ち尽くしたまま、彼女の瞳を見つめることしかできなかった。


 その時、通りの向こうから男たちの声が聞こえた。


「おい! 壁の向こうからアーミーギアが来たってよ! 見に行こうぜ!」


 俺は声のした方へ目を向けた。


「追いつかれた……」


 彼女が青ざめた顔で呟いた。


「アーミーギアが街に?」


 特別珍しいことではない。


 壁を違法に越えた者を連行するため、壁のこちら側にも入ってくることがある。


 今回の狙いは、目の前で青ざめている彼女だろう。


「か……匿ってください!」


「恐らく、あんたの顔や特徴はもうアーミーギアに共有されてる。この街から急いで出て、索敵範囲から逃げるんだな」


「お願いします!」


 彼女が俺にすがりつく。


「いきなり来て、全部信じろってか? あいにく、そこまでお人好しじゃないんだよ」


 俺はすがりつく手を振り払った。


「お願いします! ナツカゲさん!」


「しつこいな……」


 彼女と目が合う。




『ナツカゲ』




 頭の中に、懐かしく優しいユーリアの声が響いた。




「……ユーリア」




「ユウナ=ロードレイジを発見しました」




 蒸気の噴き出す音と、関節の軋む音。そして、無機質な機械音声。


 アーミーギアに見つかった。


「あっ……ああ……」


 彼女は力なく地面にへたり込んだ。


「そんな……せっかく会えたのに……」


 ユーリア……いや、ユーリア様。俺は……


 重い足音が、蒸気の噴き出す音とともに近づいてくる。


 俺は腰を抜かした彼女の手を取った。


「とりあえず逃げるぞ」


「えっ……む、無理です。走って逃げたって、どうせすぐに追いつかれます」


「まあ、任せな」


 彼女の背中と膝の裏に腕を回し、抱き上げる。


「きゃっ!」


「俺の首に腕を回せ。それから、なるべく口を閉じてろ。舌を噛むぞ」


「それってどういう……」


 返事を待たず、俺は屋根まで跳び上がった。


「きゃあー!!」


 腕の中で彼女が悲鳴を上げる。


「うるさい」


 屋根に着地すると、そのまま走り出した。隣の屋根へと飛び移り、アーミーギアから離れていく。


「いったいどんだけ跳んだんですか!? 屋根なんか走って大丈夫なんですか!? てか、なんで走れるんですか!?」


 全然口を閉じないな、こいつ。


 とりあえず、街を回って追っ手を撒いてから家に戻ろう。


 万が一やり合うことになったら、さすがにアーミーギア相手に丸腰は面倒だ。


 腕の中で騒ぐ彼女の声を聞きながら、俺はそんなことを考えていた。


     


 しばらく街を走り回ってアーミーギアを撒き、俺の家にたどり着いた。


「大丈夫か?」


 部屋の隅で青ざめてへたり込んでいる彼女に声をかけた。


「は……はい。あの、ありがとう……ございます」


「なんか飲むか?」


 俺は煙草に火をつけ、煙を吐いた。


「いえ……あっ、やっぱりお水を……」


 彼女はよろめきながら立ち上がり、椅子に座った。


「あいよ」


 水を入れたコップを差し出すと、彼女はそれを一気に飲み干した。


「ふー」


「ただの水を、よくそんな美味そうに飲めるな」


 俺は少し呆れながら言った。


「へへっ。喉、カラカラで」


 笑った顔がユーリアにそっくりだった。


 どうやら、娘だというのは嘘ではないらしい。


 つまり、本当に彼女は……


 俺は煙草を灰皿に押しつけて消した。


「それで、何があった? 危険を冒してまで俺に会いに来た理由を聞かせてくれ」


 彼女の表情が曇った。


「……信じてくれますか?」


「ああ……信じるよ。ユウナ=ロードレイジ」


「……ありがとうございます」


 彼女がまっすぐに俺を見た。


「今のロードレイジ家のことと、王位継承戦、それから……ほかの七人の王子について、聞いてください」

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