まふなつ
支配しちゃう 夏みたいな自信ないやつ
「・・・どうしたの夏」
「もう、ぜんぶいやだ」
「そうなんだね、かわいそうに」
世界は真っ暗だった。
ざわざわいう木すらも俺らに寄りそう気はない。だって何も見えない。
よくこんな暗闇の神社に来たと思う。
でも見えないながらに彼は来た。
夏には見えていた。自分が行く道だけは。
そういう所が愛しいと思う。夏は、どんなことがあっても、自分の信じた道しか見えない。
他者から見れば愚かだ。でも、そういう生き物だからしょうがない。
「触れてもいい?」
「どうでもいい」
そうして俺が勝手に触れる。抱きしめると冷たかった。
人間なのに、芯まで冷えた身体。
誰にも触れてもらえなかった身体。
俺とおんなじ。
「夏、疲れたね」
「・・・」
なにもいわない、でも言わなくても分かる。
「夏、嫌なら、拒否していいよ」
そう言って最低限の砦を作る。でも知っている。そんなもの役に立たないのを。
唇に触れる。夏は何の反応も示さない。でもいい。
俺の事を。拒否する訳もなかった。
彼が欲しかったのは、触れてくれる人間。
俺は人間じゃないけど、人間のかたちをしている。
かたちなんてどうでもいい。でもひとの形さえしていれば夏は安心できるのを知っている。
「もういいの?」
「もういい」
「おれはあきじゃないよ」
「バカにすんなよ」
あきじゃない、それは再確認だった。
おれが「あき」じゃなくていいのか、と。
馬鹿にすんなといったのなら、おれは「あき」の代わりじゃなくていいのだろう。
冷たい頬に触れる。
さっきから気付いていた。
今日は何も嫌がらない。
夏が一番、ガードが堅い、いや、人が嫌いだと思っていたから。
だから「あきじゃないと」だめかと思ったから、聞いたまでだ。
じゃあ、俺は、好きなように触れることができる。
これは、人間の形のふりをした、最後の遠慮であり、配慮だった。でもそれを夏が否定した。
化け物の思考回路で、触れることを許されたのと同義語だった。
でも、もう遠慮はいらない。
だって夏がそう教えたのだ。
じゃあ、おれが、夏の一番になれる可能性があるんだ。
「ふふ、うれしい、おかえり」
「・・・」
「絶対最後は俺のところに帰ってくれると思ったんだ。」
「・・・そうかもな」
いつものようにご飯を食べさせる。
いつものように、風呂へ向かわせる。
絶対に側から離れない。
もう、誰かの入る隙なんて与えない。
疲れた彼の目元に触れるのは自分だけだ。
きっとあきは疲れた目元には触れられない。
存在が救ってきただけだ。
俺は違う、浸食するように、彼の側に淀んだ水のように、まとわりついて一緒に沈む。
憧れは、眩しくて痛い。
俺はそんな綺麗なものじゃなくていい。ドブみたいに、沈む泥みたいに側にいるんだ。
彼が憧れを恐れたなら、近づけないと怯んだなら、俺が彼を心地よく溺れさせる。
これが邪悪なら、それが俺の本質であるとわかっている。
「つかれた」
「どうして俺を拒否しないの?」
「おんなじだから、俺もお前と」
「おなじように沈む方が、夏も安心するんだね」
「お前は泥沼かよ」
「ふふ、俺は夏の淀みと一緒なんじゃないかな」
「じゃあ、しょうがねえな、変われねえし」
「太陽には憧れるけど、沼に溺れる方が気持ちいいよ劣等感も全部見えなくしてくれる」
「ちがいねえなあ」
真冬が嬉しそうな顔をする。
俺にも誰かをこんな顔にできるのか。
嬉しいとともに目が熱くなる。
そんな感情が俺にもあるのかと。
俺がいることで誰かが喜ぶなんて、こんなことを与える事ができる訳がない。
・・・そうだ。そうだろう。弱みにつけ込んでいるだけだ。
真冬が、孤独で、何も知らない。
何もかもが足りないから、俺みたいな存在にも喜ぶ。
真冬がいろんなものを得たら俺なんか要らなくなるかもしれない。
そう考えたら怖い。このまま、手込めにして、俺だけだけにした方がいい。
今のうちに。何も知らないうちに。
正しくない。これがコミュニケーションならば。
正しさなんかに意味があるのだろうか。
ひな鳥が親鳥について回る。そういう感情が価値のない繋がりでも誰が否定できるだろうか。
真冬に触れる。
「お前だけがいればいいから、もう他のもの見ないでくれ」
真冬の空気が変わる。
心底驚いたような、顔をする。
「俺、人間じゃないよ」
「関係ない、おれだって人間じゃないみたいなもんだから、俺をひとりにしないでくれ」
真冬が笑う。きっとよくない微笑みだった。
わかっている。
「じゃあもう夏には俺以外いらないね」
「・・・」
「幸せ、何処にも出さないからね、あきも千歳も、忘れてね」
「・・・」
あきも、ちとせも。
ああ、そうだ、ふたりのこと。
・・・忘れられるかな。




