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顔替えの杜  作者: 真水
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まふ×なつ ハピエン後

「ああ、やっぱり来てくれた」

そうだ、あの日は山を下りた。大変な目に遭ったのに。

なのに、また俺はこの面川に来ている。

まだ感情を捨てるかなんて決めかねているのは事実だった。

でも、真冬の言った言葉、「もう俺をわすれられなくなる」は当たってしまったようだ。

散々悩んだ、季節が変わるくらいに。

まだ決めかねている感情をおいて、季節だけが変わっても目の前の存在は変わっていなかった。悩んでいた時間さえも許されるような時が止まっているみたいで安心した。


「捨てにきたんじゃねえよ」

「じゃあ俺のこと思い出したんだ」

相変わらず噛み合わない会話だ。ふと口角が上がってしまう。


「お前、相当変だよな」

「そうかな、でも来てくれて嬉しい。ずっとひとりだから」

「でも面たちもいるからひとりじゃないか、ふふ、おいで」


いつものようにお茶を出してくれる所作は美しかった。

誰かがいれたお茶なんて飲んだのはいつぶりだったろう。

温かい湯気、舞う香りが鼻腔をくすぐる。

そして目の前の真冬が心底うれしそうに、おかえり、という。


千歳はあれから家族が心配して、散々泣かれたらしい。

両親も相変わらず忙しいなりに少し調整したりしてもいるそうだった。

あきはいつも通り。週末には母が来て、ご飯を作ったり、家族で旅行に行ったりする。

俺は、数日空けて帰って何か変わっただろうか。

親は俺に興味がない。いなくなっても気にされないんじゃないんだろうか。


でてきた実家を思い出す。一人暮らしになって変わらないことに随分と忘れていた。

でも、千歳の家族をみて思い出した。

久しぶりに帰るときめてきた実家。

でも一人暮らしの部屋と変わらない。

なにもない閑散とした最低限しかない部屋。

仕事が忙しくていつも誰もいない部屋は空気が冷たかった。

不思議だった。人間がいるのといないので温かみが変わる部屋。家という無機質なものでさえそうなのだから、人間だってそうだろう。誰かといる方がきっと温かい人間になる。

そうおもうだけ。

でももうなんとも思わない。別に温かみのある人間になることなんて諦めた。

冷蔵庫から勝手に何かを出す。勝手に食べる。

電子レンジはある。ここを温めるものは無数にある。

勝手にテレビを見て、勝手に寝る。別に帰省したからと言って休みを両親がとることもない家では一人暮らしと何ら変わりなかった。

風呂終わり、ようやく帰宅する両親。

単純な会話は思春期の高校生のときと何ら変わりなかった。

俺の私生活には踏み込まない。おれも両親に興味がない。

単調な「うん」「ああ」「わかった」「そう」「単位落とさないようにね」


真冬は違う。

「おかえり、あいたかった」

「あきと千歳の話きかせて」

「ごはんはどっちがいい?」

「おふろ沸いてるよ」

「今日ね、面がこんなはなしをしてくれて」

「おやすみ、きてくれてありがとう」

真冬はなにも言わない。なにも否定しない。

ただそこにいるだけ。

でも身体が覚えてしまう、これが帰るとわかる誰かといる安心感なんだと。

俺に無かった、もの。


翌日はいつだって晴天だ。

バイクをふかして声をかける。

「また、くる」

「うん、いってらっしゃい。疲れたら帰っておいで」

いつか真冬を後ろに乗せてやりたいとも思う。

ここも居心地が良い。でも、もっと新しいものに目を輝かせる真冬が見たいと思う気もする。


そういう日々を何度か繰り返した。

一度だけいう。

「・・・今日、帰る?」

「なんだよ、」

「本当は」

「夜がこわいんだ、さみしくないのに、寒いから」

「部屋が、寒いんだ。夏がいると寒くないのに」

覚えがある。

人がいない部屋がどれだけ冷たいかを。知っているから言葉が出てこない。

だから罪悪感が俺の胸を絵の具の黒い色みたいにじわじわと広がる。


「夏は優しいから」

「俺を置いていけないよね」

「・・・」

諦めたようにエンジンを止める。

静かなこの山の、のどかな音は鳥も、風も、舞う花びらだって優しいのに、ただ、ここに残される身を感じると胸を掴まれる思いがする。

「お前いまどんな顔してそれ言ってるんだよ」

「みてもいいよ?夏が触れてくれるなら」


そんなことをいう真冬は珍しかった。

いつだっておれを尊重して、触れたりはしなかった。

真冬が選ばせる。いつもの晩ご飯みたいに。


「夏」

真冬が声をかける。

はっとして、真冬の顔を見る。

「おれに踏み込まれるのまだ、いや?」

「・・・わかんねえよ」

「夏の欲しいもの、これからもずっとあげるからここに帰っておいでね」

「・・・」


帰る家がある。のと、帰りたい家がある、はきっと同義語じゃない。

「大学がある」

「知ってるよ」

「気をつけていってらっしゃい」

「・・・また、戻る」

そんなこというつもりはなかった。

でも気が付いたら勝手に口がそう答えた。

思い出すあの時の予言。

どこで間違えたんだ。自分の意思で全て決めてきたのに。



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