あきまふ3 終わり
「あき」
聞き慣れた声がした。最近は二人にもなんとなく後ろめたくて、休みの日は面川に出かけてばかりでずっと会っていなかった気がする。
「うわ、ほんとに泣いてるじゃん~」
千歳がわざと意地悪な言い方をするのを夏が小突いた。
助手席から降りてきた千歳が助手席のドアをあけ席を譲った。
千歳はそのまま後部座席、夏側の方の運転席のシートにくっつくようにして、こちらをみた。
夏は正面から目を離さず、車を発進させた。行く場所が決まっているのかは分からなかった。
「なにがあったんだよ」
夏が言う。
俺はなるべく気を遣わせたくなくて明るく声をだした。
「えへへ、振られちゃった・・・。」
「へ~、で、その彼女との思い出捨てに来たの?面川に?」
なんで、面川にいたのか、は二人にとってはもっともな疑問であった。
随分と何も言わずに面川に通っていたのだから、彼らからしてみれば感情を捨てにきた、以外の理由なんて思い浮かばなかっただろう。
この土地では以前に、千歳が夏を好きだと言っていたことを思いだして、ふたりならば事実を言ったところで別段構わない気がした。
「真冬に会いにきてた」
「真冬に?」
「三人で山を下りてから、ひとりぼっちでいるだろう真冬が心配になったんだ、それで・・・、」
そこまで言って涙が溢れてきた。事実を述べているだけなのに、頭の中は二つに分けられたように、話す言葉と一緒に、過去の思い出が溢れてきて、止まらなかった。
目の前の二人はなにも言わずに、聞いている。
「いっぱい、話をして・・・」
「いつの間にか真冬が・・・真冬にも幸せになってほしいなって」
「できたら、俺と一緒にって、勝手に思っちゃって・・・」
「でも真冬は、俺がいなくても平気だって、いうから、俺なんか、ひとりでばかみたいだった」
「勝手に真冬もおれのことすきでいてくれるって思ってて・・・」
「ほんと、おれバカだから、勝手に、ほんとバカみたいだよね、親と喧嘩して、全部いらないから真冬と一緒にいたいとか突っ走って、真冬はそう思ってなくて、結局もう会わないっていうようなこと言われて」
夏が何も言わずに聞いている。
黙っていた千歳が口を開く。
「それさあ、額面通りに受け取ったの?ほんとバカじゃん」
夏が反論する。
「その通りに受け取る以外あんのかよ」
「夏はそうだよね~そういうとこもすきだよお」
あきが鼻声で言う。
車の中に流れる音楽はアプリが勝手に選んだと言うはずなのに、このタイミングに驚くほど共鳴していたのが一層、涙を誘った。
「俺も、好きな人に・・・好きって言いたいよお、ずるいよ」
そうしてまた、涙がぼたぼたと零れてくる。こんなの八つ当たりみたいだ。
千歳は気まずそうな顔してから言葉を付け足した。
「真冬だって、好きな人には幸せになってほしかったんじゃないの」
「真冬と一緒になるのはさ、あのときの俺みたいに化け物になるとか、たとえば俺らとかもさ、基本的に会えない場所に行く訳じゃん。あきの全部奪ってあの山に閉じ込めるって事でしょ」
「真冬にとって、あきのなかに自分の存在だけがあれば、今まで誰にも認識されずにいた真冬的にはもう十分幸せだったんじゃないの」
「好きな人のさ幸せを願えるのって愛だと思うけどな~俺はまだそう思わないけど」
夏が冗談交じりに言う。
「じゃあ俺の幸せ願えよ」
「大丈夫!夏のことは俺が幸せにする予定だから~あ、夏も失恋したね」
「うるせえな」
「なつも失恋したの!?」
思わず自分のことより驚いて夏の腕に触れる。
「あー・・・そうだな、でも俺は真冬の気持ちは分かんねえよ」
「でも、まあそれを聞いたらあきはちゃんと愛されてたんじゃねえの」
「そーそー、あ、あとね、あきのおじさんから10万もらってんの!失恋パーティしよ!」
「それ、今嬉しいの千歳だけじゃん・・・」
ああ、三人寄れば文殊の知恵って本当なんだ。ひとりだったら、自分だけの想像で、俺は勝手に真冬との時間を疑って、真冬にとって愛されてなかったんだって決めつけて、思い通りにならなかったって駄々をこねているだけになるところだったと苦笑して、改めてこの三人でいれる時間の幸せに気づく。
そうか、この二人のことも捨てて、真冬のところにいくつもりだったんだ。おれは。
真冬が止めてくれてよかったんだ、と、納得する理由を見つけてスマホの音楽を変える。
そうして流した曲にふたりもほっとしたように笑った。
数年経って、タキシード姿で滝の前に立つあきがいた。
あのとき言われたように、思い付く供養をしたくて、慰霊碑を建てて、毎月お坊さんを呼んでいる。
今回も線香を持って、ここにきた。
「真冬、俺ね、今日結婚するんだ」
滝から返事はない。
「全部大事にするよ」
「何が言いたかったのかな・・・真冬のことは忘れないし、本当は今日の式にも・・・いや、違うか、なんだろうな、夏と千歳とも一緒にいるから、なんだろう、なにが言いたいのか、わかんないや」
「本当は真冬にもいてほしかったな、絶対に約束は守るし、どんなに時間がかかっても滝のみんなを俺が、ちゃんと、成仏でいいのかな、させるから、安心してね」
「真冬に会えなくなって、ほんと、寂しいよ、忘れてないからね」
線香を慰霊碑の前に置く。詳しいことはなにもわからないが煙が天国へ案内してくれると聞いている。ちゃんと行けると良いな。と思ったときに鈴の音が聞こえて滝に目を向ける。
お面と鈴が、滝に、浮いている。先ほどはなかったのに。
思わず、タキシードを着ていることを忘れて、滝に入る。
記憶にある、真冬の面と鈴だ。赤い紐。たくさん重なる鈴。
こどものままの自分を思い出すといった、童子の面。
童子の面を慰霊碑の前に置く。
鈴だけはポケットにいれ、あきは式場に向かうため、山を下りていった。
もう終着点がわからなくなったので、これでおしまいです!
個人的にあきはちゃんと結婚したら、相手を幸せにするし、こどもも大事にするし、定期的に面川にも線香上げにいくし、ちゃんと全てを大切にできると思うんですが、
同じような状況に夏や、千歳がなっていたら、
夏は「お前が俺をこうしたんだろうが」って他責して、どんなことをしても一緒にいるように黙らせて全部捨てるし、
千歳なら、結婚式までちゃんとするくせに、結婚式の当日に「この血統の思い通りになるくらいなら死んだ方がマシ」ってタキシードきたまま滝で死ぬと思います。
あとあえて面川は神社だけど、お坊さんに来てもらってるのは、真冬が神主さんとうまくいかなかった経緯があるので、あえて神主さんじゃなくあきはお坊さんを呼んだことにしました
あと個人的にお坊さんが唱える般若心経とか真冬が成仏するまでに覚えて口ずさんだりしてたらかわいいなという気持ちです
ぶっせつまかはんにゃーはらみたしーんぎょーって




