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顔替えの杜  作者: 真水
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あきまふ2 続き 

翌日目を覚ますと真冬が横に座って、俺の寝顔を眺めていたようだった。

「起きてたの、真冬」

「うん」

昨日捨てると決めたものを思い出して苦しくなる。

よれている袴の裾のプリーツを整えたりして、真冬に触れる。

それを見透かしたように真冬が俺に声をかけた。

「何も捨てないあきでいてよ」

「なんでそんなこというの・・・」

「俺が欲しかったもの、あきが捨てないで」

ああ、なんで、そんなこというんだろう。

真冬が生まれたとき、両親が真冬を滝に捨てたこと。

その事実が、いつかに真冬がそれを教えてくれたときの言葉と重なって、苦しくなる。

真冬はどんなに親に愛されたかったろうと。

愛されてきた俺をみて、どう思っていたのだろうと。

俺はいまその愛してくれたはずの親を捨てようとしている。その事実は、真冬の境遇を考えたときに酷く残酷で、その事実は俺が真冬に対しても酷い事をしている様な気にさせた。

「捨てるのは、いつも俺じゃないとだめだよ」

真冬の言葉には捨てるのは真冬自身のことであるべきという意味、

真冬自身が捨てる側であるべき、俺に捨てさせないために、その両方の意味があった。

その先は聞きたくない。それなのに真冬はそれを分かっているくせに淡々と言葉を紡ぐ。


「1人は慣れてるよ、ただそのときに戻るだけ」

「だって、いつかはあきも死んじゃうでしょ、俺にはひとりになるのが早いか遅いかだけのことだよ」

「なんでそんな酷いこというの!?」

だって、俺は真冬を選んだのに。真冬が俺を否定する。

事実だけが、正論がこんなに残酷な言葉を秘めているなんて知らなかった。

「だって本当のことでしょう?」

「俺はもうあきがおれを覚えててくれて、ずっと会いに来てくれたって事実だけで十分だよ」

「俺がいなくても平気って事?」

「・・・うん」


俺だけがこんなに好きなんだ。

俺の独りよがりだと、そう言われたようで俺は真冬から離れて身体を起こす。

顔、洗ってくる。そうして、真冬から離れた。

面が口々に声をかけてくる。

あき、どうしたの、あき、あき、あき、励ますように声をかけてくる。

お前達も、人に捨てられた、でも、ちゃんと人間の気持ちを持っている。

愛しい存在だった。愚かで不要で、嫌われる一面の面達。

でも元は人間から生まれた、愛しさを見いだせる存在だった。

俺はお前達も好きだよ。そう言うと面達は一層俺を好きだと教えてくれた。

なあ、なんで、みんな、こんな愛しいのに、愛しい自分の一部を捨てられるんだよ。

そうして、思う。俺は。俺は滝には流さない。忘れるつもりはない。親を。

捨てると決めたものを。でも、捨てるなら一緒なのかもしれない。

捨てられた側からしてみれば。


閨に戻るといつの間にか真冬は布団にはいなかった。

そうして、真冬を探す。きっといつもの滝の側にいるはずなんだ。

ほら、いた。


滝にいる寂しそうな真冬は今日も美しかった。

「真冬」

「あき、決まった?」

「決まってるよ、真冬と生きるんだもん」

「あのね、あき、滝の底にある者たちを供養してあげてほしいんだ」

「俺もきっとあの滝が綺麗になったら、ここから解放されるし、生まれ変われると思うんだ」

「だから来世は一緒になろうね」

「だから、なんでそんなこというの!」

「あきが大事だからだよ」

「やめてよ、一緒にいようよ」


真冬は呆れたように笑った。

「じゃあ、俺は滝に潜るから」

「約束だよ」

「自分勝手すぎるでしょ!おれ納得してない!」

「あきは納得なんてしないでしょ、だから、もうおしまい」

真冬がおれの身長に寄せて背伸びをする。冷たくて少し乾燥した唇だった。

そのまますぐ、階段を降りるように滝壺に落ちていく。

バシャバシャと追いかけようとして掴んだけど、濡れた手は滑っていとも簡単にすり抜けてしまった。

真冬は潜る。俺は息が続かなくて必死に頑張ったけど顔を上げてしまった。

ちちちと鳥の鳴き声が聞こえた。

あっちには聞こえなかった、のどかな音。

ああ、こっちに戻っちゃったんだ。と思う。

ボロボロと涙が溢れる。

「なんで、そんな勝手なの・・・一緒にいたのはなんだったの、俺だけがすきになっちゃったみたいじゃん」あきがどんなに滝でバシャバシャとしてももうそちらには行けなかった。

そうだ、いつもあきの手を真冬が引っ張って連れてきてくれていたから。

きっと、神社の方から行けば行けるかもしれない。でもきっと真冬はこの滝壺から顔をださないだろう。

「なんでぇ・・・」もう鼻水なのか涙なのか分からなかった。どっちでもいい。



急にこの山からは聞こえない音が鳴る。夏からだった。

怒鳴るような声。でも驚いたりする元気もない。

「おまえ!どこにいるんだよ!親父さんから連絡が・・・っ」

「・・・ごめん、」

「なに、泣いてんの?」

「・・・おれ、もう、よくわかんない・・・」

「迎えにいくから、どこにいんの」

「面川」

「わかった」

後ろで千歳の声がする。

「あき電話でたの!?あいつ~おれの電話でてねえ~のに~」

一度耳から離すと携帯には不在着信がたくさん入っていて、千歳がかけてきた数の方が圧倒的に多くて、ストーカーに会ってる人のような着信履歴だ。

電話変わって、と小さく声がしてから千歳が電話にでる。

「お前急に行方不明とかしゃれになんないからね!とりあえずさ~うちの車でいくから、動くなよ!駅にいなかったらマジで怒るからね!あと電話繋がるようにしといてよ!」

「・・・うん」

千歳もあきの声色に状況を察したようだった。

「・・・そのぶっさいくそうな顔拝みに行くからまだ泣いとけよ30分で付くから」

「・・・うん」

ほら、かえせよと声がして夏がまた電話にでる。

「あとでな」

そうして電話が切れた。あんなに支配されていた悲しい感情が、一瞬だけ和らいだ気がした。

もし、全部を捨てて真冬のところに来たら、夏や、千歳ともお別れだったのかな。

そう思って、ゆっくりとあきは山道をゆらゆらと降りていった。




もう薄暗く周りには何も聞こえない。

そうして真冬が滝から上がってくる。

体温は冷え切っていたが、誰ももうそれを感じてくれる人はいない。

滴った水が道を作って、重たくなった袴が一層足取りを重くさせた。

ヒタヒタとこちらに歩いてくる真冬をみて、べしみが小さく「大人になったな」と声をかけた。

その言葉に我に返ったように真冬はべしみの面の前で足を止めた。

「だって・・・あきから何も奪えない」

「あきが、家族が滅びるならそれまでのこと、どうでもいい、なんていうのは俺の穢れがあきに移っちゃったからなんだよ、あきはそんな人じゃなかったのに」

「だから俺といたらだめなんだ、あきが俺の事ばかり優先して大事なもの全部なくしちゃうから」

「もう、ずっと待てるよ、来世まででも」

べしみの目線からどんどん真冬の声が小さくなっていく。

「おれ、女の子ならよかったな」

「おれ、人間であきに出会えたらよかったな」

「俺が穢れの塊みたいなものだから、幸せになれないのかなあ」

ずっと一緒にいたかったなあ。

べしみがたまらず声をかけた。

ただの、砦、門番のような存在のべしみと、その区画を守る管理人であるはずの真冬に対して主従関係以外の感情が湧いてくるなんてべしみにとっても予想外のことであった。

「さっき穢れと綺麗なところどっちが勝ったかって話してただろ」

「お前が、好きな人間の幸せを願えるようになったのは“穢れ”からはほど遠いんじゃないのか」

べしみたちも本当はこの子供のままの彼に触れて慰めてやりたい気持ちがあった。

でも、手も足もない。いつも見守っていることしかできない。

長い間ずっと、それは変わらなかった。

やっと出会った人間の一人が自分のしてやりたかったことを真冬にしてあげていたことは、べしみたちにとってもあきが特別な人間になり得た理由でもあった。

本当なら真冬と幸せになってくれれば一番よいと思っていたが、それを願うことがはたして正しいとは思えなかった。だから真冬の選択を肯定する以外はもう、べしみは喋らなかった。

「・・・そっか、じゃあ、あきの勝ちでもあるね、よかった」

「あきにたくさん教えてもらったな、人との向き合い方とか・・・、悲しいとか・・・」

「ここがなくなればべしみも解放されるね、最後の砦役も終わるし」

「ちゃんと、あき供養してくれるかなあ・・・、まあしてくれなくてもしょうがないね」

真冬が諦めたような、納得したような酷く落ち着いた面持ちで、べしみの双塔を抜け、向こうの社へに歩いて行った。




もうちょっと、書くよ~

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