あきまふ バットエンド
書きたいとこだけ書き出しました。
なんか幸せは課程はこの後書くので脳内補完していただければ幸いです。
そしてなんかバットエンドみしかなくて、書くのもかなしいです。でもたのしい。
「そんなことが許すわけないだろう!」
空気がビリビリと揺れてまるで台風でも来る前の気圧の変化を感じたように鼓膜が痛かった。
今までに聞いたことのないくらいの父の声の声量に、覚悟はしていたが怯む自分がいた。
でも家中に響いたその声よりも、それ以上に声量は小さいのに、母の泣いている姿が目に焼き付いていた。
母を泣かせたかったわけじゃない。
分かっていたつもりだった。自分の家のことを。
でも両親ならそれ以上に自分の選択を認めてくれると自惚れていた。
だから、自分が思った以上に自身の家柄の価値、守るべき血統、そういうものが大きかっただけ。
父や母が単純な嫌悪感で否定しているわけじゃないことも重々に感じていた。
両親が俺を愛していること。我が子の身を案じているのは確かな事実だというのは幼少期から培った愛情への自分自身の自信からも分かっていた。
次ぐ理由に、家を継いで、男を産み育て、自分がしてもらったように、例えるならウロボロスの輪のように、子孫が続いていく。それが長男、ましてこの一族に生まれたひとりっこの自分には当たり前に果たすべき責務であったことはわかっている。
分かっていてもなお、引けない。
「俺はこの先、2人が選んだ女性と未来を築くより、俺は俺が選んだ好きな人と一緒にいたいの!」
「最近よく出かけているところが面川なのは知っていた、でもまさか面川の化け物のところに!」
当たり前の様に面川の土地の名前が挙がったことに驚いた。
そういえば、聞いたことがあった。今でも権力者の中には、そういう、敵対するものを陥れるために、呪いや自身の行く末の占い、そういった、非科学的なものを信仰したり、指示したりすることを。
姥捨てのような、埋めてしまう、ように、不要なものを秘密裏に処理する、そういう意味でも面川という土地がそもそも、使われていたと。なんだ、ずっと昔から、俺の一族にも縁がある土地だったんだ。と。
だからこそ尚更、両親はその負の土地への関与を否定した。
それが、真冬が昔から言う、穢れ、存在が触れたくないもの、なのだろう。
ただ、両親は、面川に行くこと事態は黙認していたのだ。きっと。
そういう意味でも両親の自分を尊重してくれる意思の様なものは十分に伝わった。
でも、父が真冬を化け物呼ばわりするのには絶対に許せるわけがなかった。
あの子は化け物じゃない。寂しがりやの、人間になれなかっただけの・・・そうよぎって、気づく。
そうだった。
確かに真冬は未来が止まってしまった存在だったこと。当たり前に側にいたから忘れてしまっていた。
じゃあ尚更、俺が真冬の未来に一緒にいてみせてあげないといけないじゃないか。
あの子が得られなかったものすべて与えてあげたいって思うじゃないか。
両親の言葉に言いたいことはたくさんあった。でもどれも、そんなことが言いたいんじゃなかった。
そうして唇を噛んで飲み込んだ代わりに選び抜いて、一つだけ言葉にした。
「真冬は化け物じゃない」
「化け物だろう!人間じゃないんだぞ!」
ああ、話が通じない、と悲しくなる。いや、話は通じていることが、より一層あきを苦しくさせた。
「じゃあ、いい。こんな家、でてく。」
自分の名前を怒鳴る声が届く。
悲しいのと苦しいのと、怒りと、まぜこぜになった気持ちが溢れて胃液みたいに上がってくる。
そのまま両親に背を向けて静かに歩き出す。すこしずつ、速度が勝手に早まっていく。
足の裏に床のタイルの艶やかな質感を感じた。
子供の頃にこのタイルの窪みで迷路遊びをしたこと、通り過ぎる右の縁側で、花火をしたこと、ドアをあけて出て目の前に広がる庭園。
その角の桜の木にすら思い出がある。
ミツバチの巣があった。知らずに登って刺されて、父が怒って不自然に切られた桜の木。
思い出がたくさん溢れる家。
でもそれ以上に、いまは居心地の良い場所に移るだけだ。
母だけが走って、俺の腕に縋る。
弱々しい力だった。
いつの間にこんなに母は年を取っていたのだろう。大きくなってからこんなに近くにくることなんてなかったから気が付かなかった。
記憶にある母はいつも美しかった。今だって年齢よりは美しいはずだった。
でも、こんな、いつの間に・・・、時の流れを感じた。大学のために少し離れていただけなのに。
きっと、これからもっとずっと離れたら目に見えて母や父の時の流れに気づくようになるのだろう。
でも、もう、会わないのなら、これが母の最後の姿になるのだと思った。
泣き崩れる母のファンデーションが袖に付く。
胸が痛んだ、でも譲れなかった。
母はそれ以上は縋らなかった。地面に膝をついたきり動かなくなった。最後の肯定だったのかもしれない。
すぐそばの駅から電車に乗り込む。
見慣れた景色から少しずつ閑散として景色が山に変わり始める。電車のドアの前でゆっくりとしゃがんで項垂れる。
・・・疲れたな。早く真冬に会いたい。
もう山道は真っ暗だった。でも不思議と怖い気持ちはない。携帯のライトだけを頼りに進んでいく。
滝に着く前に今日は神社の鳥居が俺を迎えた。
ああ、捨てたいものがあるからかな、なんて自嘲する気持ちが湧いてくる。
真冬が驚いて駆け寄ってくる。
「あき、どうして?」
何も答えられない俺に真冬が当たり前のように胸の中にすりすりと寄ってくる。
冷たい身体。ああ、やっぱりこの子は生きてないんだと思う。
きっとこれから母の様に年を重ねることもないし、姿が変わっていくこともないんだろう。
ぎゅうっと腕に力を込めると真冬は嬉しそうに笑った。
「あき、また来てくれてありがとう。」
「ううん、おれ真冬とずっといたいから。」
「捨てるものができちゃった。なにも捨てないって真冬に約束したのに。ごめん。」
「疲れたね、あき」
「うん・・・」
閨に行こう、と真冬があきを誘う。
腕を引かれて、真冬に導かれるまま、いつも寝ている部屋に向かう。
面達が口々に声をかける。
おかえり、あき。あきがきてくれてうれしい。あき、あき、あき。
人間は自分の名前を呼ばれるほど、そのひとを好きになるという。
俺の家はもう、ここでいいんじゃないかな。
真冬は男の子だし、二人の子は望めないけど、面達が、俺らのこどものように、喜んだり、わかり合ったり、話したり、
真冬と面たちがいれば、おれの新しい家は成り立つんだと思った。
そうだよ、好きな人がいて、その人も俺が好きで、それで、もう、いいだろう。
するべきだと思っていた責務なんて、本質的にはどうでもいいことで、滅びるならそれまでのことで、俺は関係ない。
そうだ、そうだよ。
布団は冷たかった。珍しく真冬が俺の頭を抱えるように腕枕をする。
それが愛しくて、甘えたい気持ちになる。
「真冬」
「なに、あき」
「やっぱりおれ、真冬といれば幸せだと思う」
「・・・やっぱり、俺の穢れとあきの綺麗なところ、混ざったら穢れが勝っちゃったね、ごめんね」
「どういう意味?」
「そのまんまだよ」
時々真冬の言うことがわからない。でも俺の頭が悪いだけなんだと思う。
真冬は続ける。俺の顔をみて、とても優しい声なのに、責めるような口調だった。
「俺といれば幸せなのに、なんでそんな苦しそうな顔するの」
「え、そうかなあ、なんでもないよ」
「あきは嘘つきじゃなかったのに」
「嘘なんかついてないよ」
今度は俺が真冬の胸にスリスリと頬を寄せる。
真冬は小さい子をあやすようにずっと俺の事を眠りにつくまで撫でていた。
まぶたが重くなる。まるで目が乾いているかのように、目を開けているのも目を閉じているのも目に違和感があるようになって、俺は少しでもこの違和感から逃げたくて目を閉じた。




