ハピエン後 あき×夏彦
大変な1日だった。
朝日が目にしみるように眩しくて、眠たいのも重なり、何度か目をこする。
後ろを振り返ると、先ほど開き直った千歳はずっと夏にべったりだった。
歩みを緩めず置いていっているのは自分の方だったが、なにせ二人で時々足を止めたり、くっついたりして、なかなかこちらにこない。
「ねー、はやくおいでよー」
大きな声で呼ぶ。夏は千歳に向かって首をクッと動かして、俺の方へ向かう意思を千歳に伝えたようだったが、千歳は、ニコニコしたままなかなか歩みの速度を変えなかった。
千歳が夏のことをすきだと言ったとき。
急に、誰かを好きな気持ち、というものを意識した。
今回の千歳をみていたら、そういう感情はただ綺麗なだけではいられなくて、ちょっとしたことで人間を狂わせて危ういものなんだと知った。
そうして、思う。ここへ来る前に、想った、あの子への気持ち。どうだったんだろう。
あの子の俺へ向けた好意も、俺自身より、噂に負けた時点で、そう大したものでもなかったのかな。
俺は確かにすきだと思ったけれど。
誰かをすきな気持ちってなんなんだろう。
俺にとって、本当に好きなひとって誰なんだろう。
このまま考えていてもよくない感情のような気がした。
答えがでないものだと分かっていた。その思いを振り払うように首を振った。
そして今見ている、あの二人のことも。
千歳が走ってくる。
夏に「はやくおいでー」と声をかける。
俺も一緒になって、夏を呼ぶ。夏が、こちらに走ってくる。
そうしてまた、千歳は夏しか見えていないように、夏に触れた。
まあ別にいいけど。
千歳が夏の腕にすり寄っていくのを見ている。
夏も煩わしいとも違う、拒否してはいるが、それは拒絶ではなく照れゆえの反応に見える。
・・・いいけど。
千歳は夏の事すきなんだもん。
でもなんか気持ちがチクチクする気がして不快だった。
もうすぐ駅だ。
「・・・夏、はやく、帰ろ」
あきが夏彦の服の袖を引っ張る。
「何、めずらし。」
「・・・」
その様子を千歳が目を細めて笑った。
あきの前の耳元で小さい声で囁く。
「焦った?盗られるとおもって?」
図星を付かれたようであきは顔をしかめた。
それをみて声は聞こえなかったであろう夏が察した様子で千歳を咎める。
「千歳、からかうなよ」
はは、千歳が意地悪な顔で笑った。
でも、止めない。
「あきは人のものは盗らない主義でしょ?」
「・・・まだ誰の物でもないじゃん」
ムッとして思わず言い返した。
あきが口答えしてくると思っていなかった千歳はそれも察したように目を一瞬見開いてから思わず笑った。
「あはは、ずるい子」
「・・・」
「やめろって。ほら、帰れ、帰れ。」
「はあい、じゃーねー」
駅について千歳はあっさりと駅舎に入っていった。
余裕の違いなのだろうか。
「・・・」
はあ、とため息をつく。
じぶんでもよく分からない。なにがそんなに嫌なのかを。
千歳が夏をすき。邪魔をする気なんてない。でも。
バイクのエンジンをかけると夏があきにヘルメットを投げた。
「ほら、帰るぞ」
エンジンの音がする。
当たり前に夏の背中にくっつく。
「・・・おれってずるいのかなあ」
夏がバカにしたように笑った。
「お前はそういうやつじゃねえだろ」
・・・今まではそう思っていた。
でもこんなことがあって、いつの間にか夏が、千歳の隣にいるのが当たり前になったら。
優しい夏のことだ、今回の千歳のことを知ってほっとけない様になるのは明らかだった。
千歳ももう隠さず、夏の反応を楽しみながら、距離を詰めている。
「んー・・・やだ、かも」
「なにが」
「夏の横にいるのが、俺じゃないの」
「お前はいるだろ」
「そういうんじゃなくてさ~・・・」
おかしな話だ。
考えたことがなかった。言う言葉。言えない言葉。
いまは千歳の言えなかった気持ちも分かる気がした。
でも、そういうのを言わないのは性にあわない。
「夏」
「なんだよ」
「おれ、夏のこと好きかもしんない」
「知ってるよ、急に何」
「違うよ、そういうのじゃなくて・・・独り占めしたいっていうか」
「は?」
自分でも意味わかんないこと言ってると思った。
何年も一緒にいたのにそんなふうに考えたことなかったのに。
・・・やっぱり俺、ずるいやつなのかもしれない。
盗られそうになったのを自覚して慌てている。
生まれて初めて自分を嫌いになりそうな気がした。




