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顔替えの杜  作者: 真水
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バットエンド

「帰ろうぜ」

「うん」


境内からそのまま鳥居をくぐる。ひとつめ。

真冬が境内から三人を眺めている。

お見送りにきてくれたのかと思った。

「千歳は帰れないよ」

「だってもう、真蛇の手前までいったんだもん」

「は?」

「ここの山は汚れを閉じ込めているんだよ、千歳はもう、穢れが強くて、この神社からでられないよ」

時が止まる。

「そんなわけない!」あきが慌てたように、言う。

真冬はなにも言わない。

ふたつ、みっつ、よっつ、二人はそのまま鳥居をくぐる。

後ろから付いていく千歳が四つ目の前の鳥居の前にきたときだった。

千歳が口を開く。


「そう、そういうことね」

「お前らだけ帰りなよ、おれはここに残るしかないみたい」

「なんでそんなこというの!」あきが怒ったような声を出す。

その声が震えている。

「どういうことだよ」

冗談はやめろ、というような声で夏が言う。

千歳はなにも答えない。

あきが、我慢できずに叫んだ。

「そんなのやだ!千歳がいないと!」


「・・・じゃあどうやって出るの?出られないよ、俺」

二人の先には道が続いているように見えている。

でも千歳の見える世界には道なんて無かった。

演技しているわけじゃない。千歳の前には見えない壁があった。

姿は見えるのに明確に、その先に行けない。


「夏」

「返すよ、鈴。ありがとうね、・・・俺のこと忘れないでね」

「バカ言うな!」

夏からは思えない声量の声がでる。

ぐしゃぐしゃに泣くあきに心が痛む。

二人の反応がうれしい。でも、どうしようもない。

「最後だから言っとかないと」

縁起でもない!あきが叫ぶ。

「あき、意地悪してごめんね」

「夏、好きだよ。本当は俺のこと好きになって欲しかった」


鈴を投げた。ちり、と鈴が鳴る。地面に転がって一層、鈴は綺麗な音がした。

踵を返す。これ以上二人を見ていたらまたおかしくなりそうだったから。

声が聞こえるのに、あきも、夏ももう側にはこれない。

早く声を聞きたくなくて、境内へ戻った。


「よかった、千歳が残ってくれて」

「あっそ」

「僕が嫌い?」

「べつに~?」

「これから僕ひとりじゃないんだ、うれしいな」

「僕には千歳だけだよ、仲良くしよう」

「はいはいありがと~ あ、じゃあもうこれも要らないね」


顔に手を当てる。硬い、木の感触が顔を包んでいる。左手で覆って外す。

悲しそうな面。右の人差し指を改めて歯で千切ると滲んだ血で面の裏に書いた。

―古賀夏彦 -九条あき

喉が熱くなる。なにか飲み込んだものが這い上がってくるような。

唇を噛む。目からなにかが流れるのを止めたかった。

滝に向かって投げ込む。


「無理に捨てなくていいのに」

「はは、軽くなった方がいいでしょ、・・・抱えて生きてくより」

滝に投げ入れた面の文字はじんわりと滝壺でほどけていった。




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